10.日本の国債は安全? 日本の国債は、リスクの割に金利が低い商品

10.日本の国債は安全?
日本の国債は、リスクの割に金利が低い商品です
発行体の企業を選別すれば、社債の方が魅力的
個人が購入できる国債は、このところラインナップが充実しています。金利は低いので、
あまり有利な商品とも思えませんが、安全志向の人が預金より少し高い利回りを期待して
購入する商品という位置づけになっています。これまで個人が購入できる国債としては、
固定金利 3 年、5 年、変動金利 10 年の 3 種類の個人向け国債が主でしたが、新窓販国債(固
定金利 2 年、5 年、10 年)が加わりました。平成 24 年 1 月以降に発行される個人向け国債
は、東日本大震災復興事業の資金に充てられる個人向け復興国債としての発行となり、財
務大臣名の感謝状が発行されます。また 4 月から、個人向け復興応援国債が発行され、基
本的な商品性は変動 10 年の個人向け国債と同じですが、
中途換金せずに 3 年間保有すると、
保有残高に応じて金貨や銀貨がもらえるといことで話題になりました。4 月から据置期間や
中途金調整額の計算が変るので、このあたりもチェックしておく必要があります
図表 10-1 個人が購入できる国債の種類
商品名
新窓販国債
個人向け復興応援国債
個人向け国債(個人向け復興国債)
10 年変動
5 年固定
3 年固定
購入対象者
制限なし
個人のみ
金利タイプ
固定金利
変動金利
変動
固定
固定
満期
2 年、5 年、10 年
10 年
10 年
5年
3年
金利
市場実勢に基づ
当初 3 年間は 0.05%
基準金利
基準金利
基準金利
き財務省が決定
以後、
基準金利×0.66%
×0.66%※1
-0.05%
-0.03%
金利の下限
なし
0.05%
利子払い
年 2 回(半年ごと)
購入単位
最低 5 万円
最低 1 万円から 1 万円単位
据置期間
なし
1 年 ※2
中途換金
なし
直前 2 回分に税引き前の利息相当額×0.8
利子課税
20%源泉分離課税
備考
復興応援国債は記念通貨が、復興国債は感謝状が発行される
※1
H23 年 7 月以前の発行分は、「基準金利-0.8」
※2 5 年固定の個人向け国債は、H24 年 3 月以前の発行分は、据置期間 2 年
銀行が扱う 5 年物の大口定期預金は年 0.07%、5 年物の個人向け国債は 0.19%と、いず
れもほとんど 0 金利に近い状態です。同じ 5 年物の預金でも、豪ドル預金は 2.22%、ブラ
ジルレアル預金は 4.95%ですが、為替リスクを考えると二の足を踏んでしまいます。株式
の配当利回りは株価の下落で現在平均 2.5%を超える水準ですし、REIT の分配金の平均は
5.57%とかなり高いのですが、変動商品を購入したことがない人にとっては、価格変動が怖
くて手が出しにくいというところでしょう。どうせ金利が低いのなら、東日本大震災復興
事業の資金に充てられる個人向け国債でも購入しようかという気にもなるのも頷けます。
個人向け復興国債も、財務省がなんとか国債を買ってもらおうと知恵を絞ったのでしょう
が、取ってつけたような感謝状を喜ぶ人は少ないのではないでしょうか。また、個人向け
復興応援国債にしても、金貨や銀貨につられる人がどれだけいるでしょう。かなりの金額
を購入しないと受け取れないものですし、金利が通常の個人向け国債よりも低く抑えられ
ています。「復興支援」という言葉が入ると、なんとなく買いやすいという心理が働くの
かもしれません。東日本大震災復興支援グリーンジャンボ宝くじも売れ行きがよかったよ
うですから。
いずれにせよ、日本の国債は安全資産だと考えているから、多くの人が購入しているわ
けです。日本の国債は、本当に安全資産だといえるのでしょうか。実は、日本の財政赤字
は深刻ですから、リスク要因もないわけではありません。財政収支は、国の歳入と歳出の
バランスを示す経済指標で、歳入が歳出を上回る場合を「財政黒字」、歳出が歳入を上回
る場合を「財政赤字」といいます。財政赤字の日本は、不足分を大量の国債を発行するな
どして、なんとか借金でしのいでいます。平成 23 年度の一般会計では、歳入が 50.4 兆円、
歳出が 94,7 兆円なので、44.3 兆円の赤字。赤字を埋めるためにこれまで発行した国債等の
残高が積み上がり、現在 667 兆円にも膨れ上がっています。日本を月収 40 万円の家計にた
とえると、1 ヵ月あたり 35 万円の借金をして、毎月 75 万円で家計を成り立たせ、6 千万円
強のローンを抱えているという状態です。現在、日本の財政状況は非常に厳しく、GDP に
対する債務残高比率は先進国で最悪であり、財政破綻で危機を招いたギリシャの 2 倍にも
なります。
では、ここまで財政赤字が深刻なのに、なぜ日本の国債は暴落しないのでしょうか。ギ
リシャ国債が暴落したのは、財政収支の赤字に加え、経常収支が赤字だったからです。日
本は、これまで経常収支が黒字でした。経常収支が黒字とは、国から出て行くお金よりも
入ってくるお金の方が多い状態をいい、国の稼ぐ力であるともいえます。経常収支には、
輸出入の集計である「貿易収支」、日本企業が外国で得た収益から外国企業が日本国内で
得た収益を引いた額である「所得収支」、旅行など物ではないサービスによって生じたお
金の収支である「サービス収支」、対価がない現物援助の収支である「移転収支」4 つの部
門があります。サービス収支と経常移転収支はもともと赤字で、貿易収支と所得収支で黒
字を稼いできたのですが、日本はついに貿易赤字国になってしまいました。2012 年 1 月に
発表された貿易統計によれば、輸出は、一年前と比べて、2.7%減り、一方で輸入は、12.0%
と大幅に増えました。この結果、輸出から、輸入を差し引いた貿易収支は、およそ、2 兆
5,000 億円の赤字で、31 年ぶりに貿易赤字に転落です。
図表 10-2 債務残高の国際比較(対 GDP 比)
資料 財務省(出典)OECD "Economic Outlook 90"(2011 年 12 月)
借金を自国外の資金に依存するギリシャとは違い、日本では国債の約 95%を国内資金で
消化しています。経常黒字で蓄えた資金は、国内の金融機関や年金基金、個人を通じて、
日本国債の購入に当てられていたため、財政赤字の問題が顕在化しにくかったのです。い
まのところは潤沢な家計と企業の貯蓄で国の借金が賄われていますが、少子高齢化を背景
に、貯蓄率※1は 2014 年にはマイナスに転じるという試算もあります。経常収支が赤字に
なるようだと、日本人はもう国の借金を支えきれなくなるかもしれません。日本人が国債
を買わなくなれば、国債はいつ暴落するかわからないし、ギリシャと同じような金融不安
に発展することだってありうるのです。
もっとも、日本の国債が暴落するようなことがあれば、銀行預金だって安全とはいえな
くなるし、円という通貨の価値もどうなっているか分かりません。そこまで考えたら、全
資産を金の延べ棒にでも換えるしかなくなってしまいますね。現状では、国際的にも円や
日本国債はまだ安全資産だと思われています。円高がそれを物語っているといえるでしょ
う。ですから、ここ数年でどうなるということではないでしょうが、10 年先、20 年先は分
からないと思っています。
教科書のような説明ですが、債券は、発行体が元金と利息を保証して発行するので、金
融商品の中では安全性が高いといわれています。ただ、元金と利息を保証するといっても、
誰が保証するかが問題なわけですね。発行体が潰れてしまえば、利払いが滞るかもしれな
いし、元金が全額は戻ってこないかもしれない。そこで、債券を購入する際には、発行体
の信用力のチェックが欠かせないわけですが、その目安となるのが格付けです。
格付けは、ムーディーズ、S&P など、格付け会社によって若干表示方法が異なりますが、
基本形は、AAA→AA→A→BBB→BB→B→C→D の順で格付けが高いということになりま
す。ちなみに AAA の格付けでは、デフォルトを起こす確率は、限りなくゼロに近いという
ことになっています。BBB までが投資適格債、BB 以下は投資不適格債、ジャンク債など
とも呼ばれています。
国債も、債券の1つです。民間企業が発行するのが社債、国が発行するのが国債ですが、
これまでの常識では、その国で発行される債券で一番格付けが高いのは国債でした。逆に
いえば、その国の民間企業が発行する債券は、国債の格付けを超えることができないとさ
れていたわけです。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、日本の
長期国債の格付けを「AA」から「AA-」に1段階引き下げました。財政赤字が今後数年に
わたって高止まりすることがその理由です。これにより一部の民間企業の債券格付けが国
債を上回る官民逆転状態となりました。トヨタ自動車やキヤノン、武田薬品工業、NTT、
デンソーなどは日本国債よりも格付が高いのです。
本来であれば、リスクとリターンはトレードオフの関係にあります。つまり、安全性の
高い債券は金利が低く、安全性の低い、つまりリスクの高い債券は金利が高くなるのが普
通です。リスクが高いにもかかわらず金利が低かったら、誰もそんな債券は買わない。リ
スクが高くても、高い収益が狙えるから、格付けの低い債券を好んで買う人もいるわけで
すから。そう考えると、日本の国債ほど割に合わない商品はないのではないでしょうか。
こんなに財政赤字が膨らんでいる国の国債が、こんなに低い金利でいいはずがない。
まあ、国は没落しても、国際社会で生き残ることのできる日本企業も少なくないでしょ
う。すでに、日本では国債よりも格付けの高い企業だってあるわけです。S&P もグローバ
ルで稼ぐ企業については、今回の日本国債格下げを理由に格付けを引き下げないというこ
とです。「収益源や保有資産が国外に分散し、財務体質が強固な企業は国債の格付けを上
回ることがある」との説明です。収益源や保有資産が国外にあるだけではなく、人材だっ
て、積極的に海外に求めていますよね。そうなると、日本の企業が活躍したとしても、日
本も日本人はちっとも潤わない。グローバル化とは、日本にとって没落を意味するものな
のかもしれません。
個人向け社債の発行額は 1 月から 8 月の累計ですでに 1 兆円を超えています。企業にと
っても金融機関から資金を調達するよりも、低い金利で借り入れることができますし、低
金利で運用に悩む個人投資家にとっては国債に代わる投資先になりつつあるようです。発
行会社の見極めは必要ですが、元金と利息が発行会社により保証されているので、国債や
預貯金のような感覚で購入することができます。国債が安全とはいっても、絶対的なもの
ではないし、将来的にはかなり不安要素があります。ならば、企業を選別したうえで、利
率の高い社債を購入した方が得だといえるのかもしれません。
※1 貯蓄率 家計貯蓄額および家計貯蓄率は以下の公式で計算します。
家計貯蓄額=家計可処分所得+年金基金年金準備金の変動(受取)-家計最終消費支出
家計貯蓄率=家計貯蓄/(家計可処分所得+年金基金年金準備金の変動(受取))