受動形個人線量計にかかる JIS規格改正の動向 なかむら よしひで( )

●トップコラム/公益社団法人日本アイソトープ協会 中村 吉秀
●平成 26 年度/眼の水晶体の等価線量の集計/
頭頸部用クイクセルバッジ着用者数推移
●お願い/登録内容の変更について
●お知らせ/平成 27年度 医療放射線防護連絡協議会年次大会
第26 回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」
No.455
平成 27年 11月発行
●お知らせ/日本放射線安全管理学会 第 14 回学術大会
JIS規格改正に向けての状況
受動形個人線量計に先行して、電子式個人線量計のJIS
Z 4312 が 2013 年に改正された。JIS Z 4312 はIEC 62387
と並行して改正作業が進められた電子式個人線量計にかか
るIEC 61526 : 2010 を対応国際規格として最大限の整合性
が図られたものである。
電子式個人線量計のJIS Z 4312 の改正を受けて、受動
形個人線量計のJIS規格改正が具体化した。2013 年に個人
167
線量測定機関協議会が IEC 62387 取入れに当たっての技
術的問題点を整理し、その結果を基に、2014 年に日本電気
計測器工業会が改正原案作成委員会を組織した。通常は 1
年で改正原案をまとめるが、今回は課題が大きく、2 年をか
中村 吉秀
けての原案作成が計画された。2014 年には、蛍光ガラス線
量計に限定して原案を試作し、2015 年に受動形個人線量計
受動形個人線量計にかかる
JIS規格改正の動向
全般に共通の最終原案を作成することにしている。
複数の規格を一つにまとめることに加えて、適用範囲に
関しても大きな課 題 がある。一つはHp(3)の 扱いである。
はじめに
現 在、その評 価が法的に義 務 化されていないため、現行
原子力施設や放射線利用施設において作業者の放射線
JISではHp(3)を適用外としているが、IEC 62387 では適
被ばく管理のために広く利用されている個人 線 量計には、
用範囲に含めている。Hp(3)基準線量を決めるための換算
電子式個人線量計と受動形個人線量計とがある。受動形
定数が現時点で定まっていないことに問題はあるが、眼の
個人線量計として、最近は、熱ルミネセンス線量計、蛍光
水晶体の線量限度等の議論が進む中にあって、慎重な議
ガラス線量計、光 刺激ルミネセンス線量計が広く使われて
論が必要であり、国際整合性の観点からも取入れの方向で
いるが、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって比
進められている。
較的高い線量の場所に暮らす住民の被ばく線量評価のた
もう一つは現行JISに適用されている環境モニタリング用
めにも個人線量計の需要は高まっている。こうした中、I EC
の空気吸収 線量である。IEC 62387 では空気吸収 線量は
が個人線量計に関する規定内容を大幅に改正したこともあ
適用範囲ではなく、今回の改正では適用から外す方向で検
って、個人線量計に関するJIS規格の整備が急務の課題と
討が進められている。勿論、外した場合には、関連するマニ
なっている。
ュアル等 への影 響を考慮して、速やかに空 気吸収 線 量の
受動形個人線量計に関するJIS規格とIEC規格の現状
JISを制定するなどの措置が必要となる。
受動形個人線量計に関するJISは、上記 3 種類の線量計
順調に進めば、2016 年夏には改正原案が作成され、それ
について、それぞれ個別に次の規格が定められている。
から1 ∼ 2 年後には改正の見通しとなる。新しい規格番号の
①JIS Z 4320:2004 熱ルミネセンス線量計測装置
新規制定となるか、いずれかの番号の継続となるかは未だ
②JIS Z 4314:2002 蛍光ガラス線量計測装置
決まっていない。いずれにしてもこれまでのものとは大幅な
③JIS Z 4339:2004 光刺激ルミネセンス線量計測装置
変更となるが、国際整合性の図られた新規格にスムーズに
これら個別の規格の他に、個人線量計に共通の要求事
移行できることを願っている。
項をまとめた規格として、通称、個人線量計通則がある。
④JIS Z 4332:2002 X線およびγ線用個人線量計通則
公益社団法人日本アイソトープ協会
( )
医薬品・アイソトープ部
なかむら よしひで
関連JISの内、①JIS Z 4320:2004 だけが IEC 61066:
プロフィール●1973 年立教大学理学部卒業後に社団法人日本アイソト
1991を対応国際規格としているが、他のJISには対応国際
規格はない。IEC 61066 の他は、受動形個人線量計に関
するIEC規格はなかったが、IECは線量計の種類によらな
い 受 動 形 個 人 線 量 計 全 般 に わたる 共 通 の 規 格として、
2007 年にIEC 62387 を制定し、5 年後の 2 012 年に最初の
改正が行われた。
‐1 ‐
ープ協会に入社、以来 40 年余にわたりRI関連の業務に携わってきた。
2005 年頃までは、アイソトープ部に所属し、放射能標準線源の製造や
品質管理を通して放射線・放射能計測の業務に従事、2005 年からは
放射性医薬品、特にRI内用療法の放射性医薬品の普及に向けた活動
をしている。放射能・放射線関連のJIS原案作成委員会には1990 年頃
から参加。
NLだより 2015 年 11月・No.455
平成 26 年度
眼の水晶体の等価線量の集計
今回から新たに、眼の水晶体の等価線量(以下、水晶体等
価線量)の集計結果を報告いたします。平成 26 年度(平成 26
年 4 月∼平成 27 年 3 月)の当社クイクセルバッジサービスによ
る水晶体等 価線量を機関別・職種別に集計しました。また、
頭頸部用クイクセルバッジ(頭頸部バッジ)の着用者数の推移
も機関別にまとめましたので、併せて結果を報告いたします。
水晶体等価線量の算出方法につきましては、最も眼の位置に
近い部位に装着したクイクセルバッジから得た 1 ㎝線量当量と
70μm 線量当量のうち、高い方の値を水晶体等価線量として
います。なお、弊紙 No. 449 からNo. 451 に外部被ばく線量の
算出方法を特集しておりますので、よろしければこちらもご参
照ください。
[機関別年間水晶体等価線量の集計結果]
機関については、一般医療、歯科医療、獣医療、一般工業、
非破壊検査(非破壊)
、研究教育の計 6 つに分類しました。
平成 26 年度における各機関の年間水晶体等価線量の人数
分布を表 1に示します。年間平均水晶体等価線量は集計対象
者平均で 0.755mSvとなりました。医療分野について見ますと、
大多数を占める一般医療の集計対象人数は 150,868 名で年間
平均水晶体等価線量は 1.032 mSvでした。一方、歯科医療は
2,674 名で 0.037mSv、獣 医 療 は 6, 224 名で 0.047mSvとなり、
年間平均水晶体等価線量は、どちらも一般医療の 20 分の 1 以
下でした。また、水晶体等価線量の年間線量限度である150
mSvを超えた方は 7 名で、いずれも一般医療の方でした。
図1は、機関別の年間水晶体等価線量の分布を示しています。
集計対象者のうち、73%の方の年間水晶体等価線量が「検出
せず」でした。非破壊では「検出せず」が 57%、一般医療では
65%であるのに対し、一般工業で 91%、研究教育では 97%と
なっています。
図 2 は、過去 5 年における機関別の年間平均水晶体等価線
量の推移を表したものです。一般医療が最も高く、次いで非
破壊、これらの機関から大きく離れて残り4 つの機関が続いて
おり、過去 5 年間同様の傾向です。平成 26 年度は一般 工業、
獣医療、研究教育、歯科医療の順でした。
水晶体等価線量の集計
[水晶体等価線量の集計対象]
平成 26 年度中に、当社の測定サービスを1 回以上受けられ
た 210,770 名のデータを対象とし、水晶体等価線量について
集計しました。集計には平成 26 年 4 月1日から平成 27 年 3月 31
日までの着用分で、報告日が平成 27 年 6 月 30日までのバッジ
データを使用しております。
なお、最小検出限界未満の線量を表す「検出せず」は、年間
水晶体等価線量を0 mSvとして計算しています。
表1
平成26年度 機関別年間水晶体等価線量人数分布(単位:人)
機 関 名
平均線量
(mSv)
一般医療
1.032
98,236
31,052
14,780
3,322
1,284
718
408
748
272
41
歯科医療
0.037
2,528
113
32
1
0
0
0
0
0
0
0
2,674
獣 医 療
0.047
5,773
388
57
3
2
0
1
0
0
0
0
6,224
一般工業
0.066
24,593
2,001
318
49
10
1
1
2
1
0
0
26,976
非 破 壊
0.634
245
118
57
10
1
2
0
0
0
0
0
433
研究教育
0.041
22,776
634
143
25
6
7
1
2
1
0
0
23,595
全 機 関
0.755 154,151
34,306
15,387
3,410
1,303
728
411
752
274
41
図1
検出せず
0.1 mSv∼
1.0 mSv
1.1 mSv∼ 5.1 mSv∼ 10.1 mSv∼ 15.1mSv∼ 20.1 mSv∼ 25.1 mSv∼ 50.1 mSv∼ 100.1mSv∼ 150.1mSv
5.0 mSv
10.0 mSv 15.0 mSv 20.0 mSv 25.0 mSv 50.0 mSv 100.0 mSv 150 .0 mSv ∼
合計人数
7 150,868
7 210,770
平成26年度 機関別年間水晶体等価線量分布(単位:%)
検出せず
(機 関 名)
0
0.1mSv∼
1.0 mSv
50
1.1mSv∼
5.0 mSv
60
一 般 医 療
獣 医 療
80
25.1 mSv∼
50.0 mSv
50.1 mSv∼
100.0 mSv
100.1 mSv
∼
90
100%
9.80
92.75
平均 0.047mSv
0.85
2.20
0.48
0.27
0.50
0.18
0.03
4.23
1. 20
0.04
6.23
0.92
一 般 工 業
91.17
平均 0.066 mSv
7.42
1.18
27. 25
56.58
研 究 教 育
13.16
2.31
96.53
平均 0.041mSv
平均 0.755 mSv
70
20.1mSv∼
25.0 mSv
94.54
平均 0.037mSv
全 機 関
15.1 mSv∼
20.0 mSv
20.58
歯 科 医 療
平均 0.634 mSv
10.1 mSv∼
15.0 mSv
65.11
平均 1.032mSv
非 破 壊
5.1 mSv∼
10.0 mSv
73.14
16. 28
‐2‐
7.30
0.61
2.69
0.11
0.62
1.62
0.35
0.05
0.03
0.02
0.18
0.04
0.01
0.23
0.46
0.03
0.03
0.01
0.19
0.36
0.13
0.02
計
NLだより 2015 年 11月・No. 455
頭頸部用クイクセルバッジ着用者数推移
[職種別年間平均水晶体等価線量の集計結果]
頭頸部バッジ着用者数推移
図 3 は、職種別の年間平均水晶体等価線量です。また、そ
れぞれの職種で頭頸部バッジ非着用者と着用者に分けました。
図 4 は、過去 5 年における機関別の頭頸部バッジの着用者
平成 26 年度中に、1 度でも頭頸部バッジを着用された方は着
数の推移を表したものです。機関によって着用者数が大きく
用者として集計しています。なお、工員には頭頸部バッジ着用
異なりますので、縦軸は対数目盛で表示しました。なお、歯
者はいらっしゃいませんでした。
科医療と非破壊は過去 2 年間頭頸部バッジを着用された方が
全職種の年間平均水晶体等価線量は、頭頸部バッジ非着
いませんでしたので表示していません。
用者では集計対象人数 162 , 527 名で 0. 22 mSvでしたが、頭
一般医療が一番多く実に全体の 96 %を占めています。着
頸部バッジ着用者では 48,243 名で 2 .54 mSvとなり、その差
用者数も5 年間で増加し続け、平成 26 年度は平成 22 年度よ
は 10 倍以上になりました。工員を除き、いずれの職種におい
り1 万人以上増加しています。他の機関では、着用者数が少
ても頭頸部バッジ着用者が非着用者よりも線量が高く、中で
ないこともありますが、大きな変化は見られませんでした。
も医師ではその差が顕著でした。診療放射線技師(技師)は、
体 幹部不均等被ばく、特に頭頸部の被ばくが大きくなる
頭頸部バッジ着用、非着用のいずれにおいても水晶体等価線
可能性のある場合、水晶体等価線量をより正しく測定する
量が最大の職種となりました。ただし、頭頸部バッジ着用者
ために頭頸部バッジの着用をご検討ください。 では技師と医師の線量に大きな差はありませんでした。
(技術室)
図2
機関別年間平均水晶体等価線量推移
図4
(mSv)
(人)
1.1
1 .0
機関別頭頸部バッジ着用者数推移
1.075
1.070
1.057
100,000
1.032
1.030
全機関
一般医療
37,531
0 .9
0 .8
0 .7
35,884
45,422
48,243
38,178
40,171
43,676
46,539
一般医療
全機関
0.759
0.753
0.620
0.755
0.752
10,000
0.634
非破壊
0.610
0.567
0 .5
0 .1
0.051
0.043
0.034
0.054
0.057
0.052
0.053 0.043
0.058
0.050
904
1,000
0.066
0.047
0.041
0.037
0.048 0.044
0.039
0.029
612
123
123
850
870
810
746
760
775
116
119
研究教育
119
年度
23
年度
22
年度
年度
年度
26
25
824
605
平成
24
100
年度
年度
年度
23
一般工業
獣医療
研究教育
年度
年度
平成
22
一般工業
獣医療
歯科医療
図3
41,893
0.812
0.743
0 .6
0
39,746
24
26
25
平成26年度 職種別年間平均水晶体等価線量
(mSv)
3 .5
3.42
3.23
頭頸部非着用者
頭頸部着用者
全体
3 .0
2.54
2 .5
2.02
2 .0
1.97
1.88
1.80
1.61
1 .5
1 .0
1.43
1.18
1.15
1.03
0.76
0.59
0 .5
0.34
0.25
0.12
0.32
0.22
0.22
全平均
0.03
0.12
その他
0.03
0.07
教員
‐ 3‐
0.03
工員
0.04
0.08
技術員
0.02
研究員
助手
看護師
医師
技師
0
0.13
NLだより 2015 年11月・No.455
お問い合わせ:お客様サポートセンター Tel. 029 - 839 - 3322 Fax. 029 - 836 - 8441
登録内容の変更について
お願い
バッジのご着用者に変更が生じましたら、
「登
なお、バッジの追加や取消などをお電話で依頼さ
録変更依頼書」にご記入の上、Fax(または電話)に
れる場合には、最初にお客様の事業所番号をお教え
てお早めにご連絡ください。その際、お知らせ欄の
くださいますよう併せてお願い申し上げます。
締切日時までにご連絡いただきますと次回の発送に
反映させることができます。
締切日時を過ぎて、追加・取消のご連絡をいただ
いた場合、追加のバッジは別便にて送付いたします
が、取消のバッジは発送されてしまいますので、ご注
意ください。
平成27年度
医療放射線防護連絡協議会年次大会
日本放射線安全管理学会
第14回学術大会
第26回「高橋信次記念講演・
古賀佑彦記念シンポジウム」
大会長 末木 啓介
日 時:平成 27 年12月11日(金) 10:00 ∼16:30
場 所:国際交流研究会館国際会議場
(国立がんセンター内)
◆参 加 費:5,000円(懇親会:6,000円)
プログラム:メインテーマ「放射線治療」
1. 教育講演 10:10 ∼11:00
2. 高橋信次記念講演 11:00 ∼12:00
「放射線治療における防護」
(仮)
3. 古賀佑彦記念シンポジウム 13:15 ∼14:45
4. 総合討論 15:00 ∼16:30
講演者は検討調整中です。ホームページにて
ご確認ください。
http: //www.fujita-hu.ac.jp/~ssuzuki/bougo/
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◆申込方法:Fax.またはE-mailにてお申し込みください。
◆申 込 先:〒113 - 8941 東京都文京区本駒込 2-28 - 45
医療放射線防護連絡協議会
(日本アイソトープ協会内)
Tel. 03 - 5978 - 6433(月・火・木・金の午後)
Fax. 03 - 5978 - 6434 E-mail [email protected]
会 期:平成27年12月2日(水)∼ 12月4日(金)
会 場:筑波大学 大学会館
(〒305 - 8577 つくば市天王台1-1-1)
参加費:正会員7,000 円、非会員9,000 円
学生は無料(ただし予稿集は2,000円)
懇談会:平成27年12月3日(木)18:30 ∼ 20:30
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一般 7,000 円 学生 4 ,000 円
内 容:一般講演(口頭発表、ポスター発表)ほか
シンポジウム、特別講演等のプログラムを
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連絡先:筑波大学アイソトープ環境動態研究センター内
日本放射線安全管理学会
第14回学術大会 実行委員会事務局
〒305 - 8577 つくば市天王台1-1-1
Tel. 029 - 853 - 2515 Fax. 029 - 853 - 2511
E-mail [email protected]
最新情報は大会ホームページをご覧ください。
http//www. 2015tsukuba.jrsm.jp/
長瀬ランダウア(株)ホームページ・Eメール
編集後記
気づ け ば 早 1 1 月。 名言「一生懸命だと知恵が出る。中途半
まさに「 光 陰矢 の如
端だと愚痴が出る。いい加減だと言い訳
http://www.nagase -landauer.co.jp
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ます。であればこそ、加速する時間の中
のように瞬く間に直面することでしょう。
で悔いのない毎日を懸命に送らなければ
当社の新JISへの対応検討も懸命に知恵
ならないと思いつつ、振り返れば今 年も
を出しつつ足を速め、改正の流れと同じ
またその理想とはかけ離れた現実に直面
速度で歩んでいかねばならないと感じて
し、焦燥感は高まるばかり。彼の名将の
おります。 ‐4 ‐
(T. N)
No. 455
平成 27 年〈11月号〉
毎月1日発行 発行部数:37,000部
発 行 長瀬ランダウア株式会社
〒300 - 2686
茨城県つくば市諏訪C 22 街区 1
発行人 中井 光正