奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序

奈良教育大学紀要 第41巻第2号(自然)平成4年
Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 41, No. 2 (Nat.) , 1992
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
西 田 史 朗
(奈良教育大学地学教室)
(平成4年4月30日受理)
Late Cenozoic Tephrostratigraphy and Chronostratigraphy
in the Nara Basin and its Surrounding Area
Shiro Nishida
(Department of Earth Sciences, Nara University of Education, Nara 630, Japan)
(Received April 30, 1992)
Abstract
Nara Basin and its surrounding hilly area are consisted of plutonic basement rocks
and overlying Miocene to Pleistocene sediments. These sediments are called as
Miocene Fujiwara, Muro, Nijo Groups, Plio-Pleistocene Osaka Group and Holocene
deposits in ascending order. In the present article the author intended to clarify a
tephrostratigraphy in the area and to correlate with neighbouring sedimentary basin,
especially concerning to Pho-Pleistocene sequences.
For the identi丘cation and correlation of tephra EDS and VAIS techniques were
adopted respectively. Volcanic glass shards were analysed with EDS and 8 mAjor
element composition based on 20 glass shards analysis was presented as their average
value with standard deviation.
Miocene and Pliocene tephra have ill preserved volcanic glass, but in Pleistocene
and Holocene volcanic glass shards were in a good state of preservation. Many layers
of tephra of the lower Pliocene were found and upper Pliocene tephra were very
restricted in the present sequence.
In the outskirts area of the Nara basin radiometnc age of representative tephra was
measured, and in the present area their time planes were extended safely by means of
present tephra correlation.
I.は じ め に
主要なテフラは放射年代が測定されていることが多く,降灰堆積時期を明確に与えてくれる.
したがって堆積層中の火山灰層を特定することができれば,地域の地史を解明する上でひじょう
に有効な時間基準面となる.すなわち特定の火山が特定の時期に放出した火山物質が,広域に散
布されていたとしたら時間的空間的な基準面としてひじょうに有効となる.
5
西 田 史 朗
火山灰を特徴づける属性にはいろいろあるが,ここでは火山放出物の主要構成物である火山ガ
ラスに注目する.さらに火山ガラスの特性のうちでも化学組成が屈折率と共に最も安定した特徴
を示すことから,火山ガラスの主要元素組成に基づいて考察する.火山ガラスの屈折率はパラ
メーターが単一で,したがって一次元的な数直線上に位置づけられる.そのため屈折率特性だけ
で区別できるテフラには限界がある.火山ガラスの標準化した組成分析では,複数元素の組成値
に基づいて比較することができるので,同定できるテラフの範囲が大きく広がる.
奈良盆地とその周辺部で火山性堆積物ないし火山灰層を挟在する新生代層の分布地域は限られ
ているが,それでも中新世中期から完新世中期に及ぶ10数枚の火山灰層を識別することができ
た.一般に中新世から鮮新世前期以前に放出されたテフラでは,火山ガラスが粘土化し残存しな
いことが多いが,室生層群と二上層群では例外的に残されている.本報告では奈良盆地とその周
辺地域を対象地域とし,吉野川(紀ノ川)以南については火山灰層の産出例も少ないので,さら
に資料を蓄積して報告する.
多くの現代人の生活基盤となっている更新銃について,奈良盆地の大阪層群はアズキ火山灰層
準まで確認できるが,それ以降はおそらく削刺の場と化し上部更新統の堆積は無かったものと考
えられる.このことは奈良盆地中央部のひかく的浅所からアズキ火山灰層が発見されることとも
符合するし,周辺丘陵部でアズキ火山灰層準以深のテフラが散見されることとも良く一致する.
中新世から鮮新世前期にかけて,この地域一帯では第一瀬戸内火山活動が活発で,その産物と
してテフラを主体とする室生層群と二上層群,三笠層群が残存する.点在的に残るこれらのテフ
ラ相互の関係は,層位的にあるいは放射年代の上から類似性が論議されてきたが,今回の火山ガ
ラス組成分析から,室生溶結凝灰岩と石仏凝灰岩の同一性を追証した.
Ⅱ.地質学的背景
日本列島の地質構造区分の上で,吉野川(紀ノ川)を南限とした奈良県域の北半は領家変成帯
に属する.ここでの地質層序の大略は表1の通りである(西田, 1982; 1983b; 1984; 1985).
完新統は最終寒冷期の侵食面を埋積し,奈良盆地の表層を被う堆積物の上部層で,松岡・西田
(1980)の斑鳩層にあたる.アカホヤ火山灰層が挟在するが,火山ガラス多産層としてみられ,
顕在層化する例は少ない.周辺部の山間小盆地では湿原性堆積物中に残存することがある(松岡
ほか, 1983).
最上部更新続は段丘性堆積物や遺構の基盤として現れる.段丘性堆積物からは火山灰層の発見
はないが,奈良盆地の中央部では阪手火山灰層が(奥田はか, 1983),また盆地低部では姶良(AT)
火山灰層が泥炭層を伴って広く分布する(松岡ほか, 1983;日本の先史・原史時代の人々の地形
認識と土地利用研究グループ, 1986).
上部更新統すなわちアズキ火山灰層を被覆する大阪層群上部層は奈良盆地と周辺地域ではほと
んど見られない.更新世後期にはこの地域一帯が陸化し,堆積物を残さなかったものと考えられ
る.高位磯層は奈良盆地東部山麓部と吉野川に沿って分布するが,疎層主体の粗粒堆積物からな
ることもあって火山灰層の保存は良くない(西田, 1984).
下部更新統ないし鮮新統は大阪層群下部層からなり,奈良盆地周辺では地域によって生駒累
層・富雄累層・精華累層・西大寺累層・佐保累層・白川池累層・馬見累層などと呼ばれている
(西田, 1983b).奈良盆地周辺の丘陵では大阪湾周辺丘陵でみられるMa i 以下の層準が,
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
表1.奈良盆地とその周辺の地質層序の概略
完新統
盆地埋積層・遺跡埋積層
最上部更新統 段丘堆積物
上部更新統
高位喋層・竜門傑層
下部更新統
大阪層群とその相当層
上部中新統
三笠層群
中部中新統
室生層群・二上層群
下部中新統
藤原層群・山辺層群・山柏層群
上部中生界
基盤岩類:領家複合岩類
奈良盆地中央部ではポーリング試料から地下20-30mでアズキ火山灰層(Ma 3層準)が発見
される.
一般に堆積層中の火山ガラスは,降灰堆積時期が古くなると著しく粘土化するが,この地域で
は上部中新統である三笠層群の三笠凝灰角磯岩層から火山ガラスを検出することができた.上位
の三笠安山岩の放射年代が分かっているので(川井・広岡, 1966;実はか, 1980),三笠凝灰角
硬岩の鍵層としての検討を可能とする.
中部中新続は大和高原から室生山地に分布する室生層群と二上山周辺に分布する二上層群であ
るが,どちらも溶結凝灰岩を主体とする.この時期のテフラでは一般的に火山ガラスが溶失ある
いは粘土化して残らないことが多いが,石仏凝灰岩,室生溶結凝灰岩と二上層群の凝灰岩層につ
いては良く保存され分析することができた.いっぽう都介野累層からは数層準にわたって火山灰
層が発見されるが,多くは火山ガラスが粘土鉱物化し分析できなかった.
石仏凝灰岩と室生溶結凝灰岩については,分布地域の異なることから別個のものとして扱われ
てきたが(志井田はか, 1960),横田ほか(1978)はその岩相と層序から同じ起源であるとした.
今回放射年代資料に加えて,火山ガラスの組成からも石仏凝灰岩と室生溶結凝灰岩の同一性を追
証することができた.
下部中新続は藤原層群・山辺層群・山粕層群からなるが,このうち山辺層群から軽石粒を含む
火山灰層を発見し火山ガラスを取り出すことができた.都介野盆地では山辺層群の最上部に位置
し,上位の都介野累層と不整合で接するひかく的厚い鍵層となる火山灰層が分布するが火山ガラ
スは溶失している.また藤原層群の最上部におかれた厚い凝灰岩層(多井, 1957)は,石仏凝灰
岩に対比されることが分かり,当該地域の地質層序と構造についての知見を新たにすることがで
きた.
西 田 史 朗
Ⅲ.火山灰試料の産地と層位
火山灰層を挟在する上部新生界を含む奈良県域の地質概略を図1に,また試料の産出地点・層
図1.奈良県の地質概略図
1 :完新統∼最上部更新銃, 2 :更新統∼鮮新統/大阪層群など, 3 :鮮新統∼中新統/室生層群・
二上層群・藤原層群・山相層群など, 4 :古第三系/稲村ケ岳磯岩層, 5 :白亜系/和泉層群, 6 :
砂岩がち白亜系/舟ノ川層群・上野地層群など, 7 :泥岩がち白亜系/平谷層群など, 8 :ジュラ
∼トリアス系/天辻層群・伯母峰層群など, 9 :中生界∼上部古生界/秩父糸, 10:流紋岩質∼安
山岩質火山岩, ll :室生溶結凝灰岩, 12 :大峯酸性岩/花樹岩・花向閃緑岩, 13 :領家変成帯複合
岩敷/花商岩・花樹閃緑岩・片麻岩など, 14 :変成岩類/黒色片岩∼緑色片岩, 15 :断層・構造線
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
表2.火山ガラスを保存する火山灰層の位置
と層位,火山灰層名
表2. (つづき)
試料ホ'}: It.ft地虫. 増も1. *蝣・-・.蝣1吋帆
試料番号:産出地点, 層位. テフラの呼称
NOOOl :天理市九灸町横広, N80-7コ7, -440-450ci.姶良(AT)
四世rasi
KOOO2:天理市九姦町横広, N80-6コ7, -335-350c..姶良(AT)
火山灰膚.
HOOO3:天理市井声望町, N78-4コ7, -275-290ci.姶良(AT)
火山灰層.
NOOO4:奈良市池田町, N81-1コ7, -75ci.姶良<AT)火山灰屑.
NOOO5 :三重県-恵那美杉村上太郎生,池ノ平湿原N78-6コ7,
-220-230ci.アカホヤ火山灰層.
NOOOS :奈良県磯城郡三宅町三河, N76-7コT, -270-280c>.
姶良(AT)火山灰眉.
NOOO7 :天理市永原町, N81-2コ7, 497ci.姶良(AT)火山灰朋.
NOO50 :奈良市中ノ川,室生層群地獄谷累膚.石仏凝灰岩層,
NOO64:大和郡山市若槻,若槻通跡.姶良サT)火山灰層.
NO095 :姦良市醸原町,室生層群地獄谷来意.石仏凝灰岩層.
NO09B :奈良市春日野町・御蓋山東,室生層群地獄裕累層.
石仏凝灰智層.
NO097 :奈良市誓多林・地獄谷石爵仏西側,室生層群地獄谷累卵.
LIL仏N灰1','H縄it地.
NOO98 :奈良市ゼ多林・地獄谷源流,室生層群地獄谷累屑.
石仏凝灰岩層.
NOO99 :奈良市狭川両町.層位不確定,古琵琶湖層群伊貿累胴
相当層か. (仮称)狭川両火山灰層.
NO12I:香芝市桜ケ丘,桜ケ丘遺跡.姶良(AT)火山灰屑.
NO291 :奈良市鬼ケ辻.室生層群地獄谷累層.石仏凝灰岩屑.
NO292 :奈良市島地・四天王寺霊園内,大阪層群富雄累層.
(仮称)寓放火山灰層.
NO294 :生駒市鹿ノ畑.大阪層群生的累層, (仮梯)鹿ノ仰
火山灰層.
NO299 :奈良市地獄谷・新地東.室生層群地獄裕糸屑.
石仏凝灰岩膚.
NO300:生駒市宮方.大阪層群生駒累層.ピンク火山灰眉.
NO306 :生駒市西菜畑.緑ヶ丘中学校雨.大阪層群生駒累層,
緑ヶ丘火山灰層.
NO3G7 :奈良市霊山寺・ゴルフ練習腐南,大飯層群爵廉潔朋.
砂茶屋火山灰層.
NO308 :奈良市宮地・四天王寺霊園内,大阪層群宿題累周,
東畑Ⅱ火山灰層.
N0371 :天理市棚本町机 N-C/84-1Zコ7 -279-283ci.
阪手火山灰層.
NO372 :天理市北桧垣町西机田. N-C/84-28コ7 -310-3はcL
馳r・ぺiljWcM.
NO373 :天理市新泉町桧塚. N-C/84-4コ7 -174-188c
アカホヤ火山灰層.
NO389 :京都府礎専郡精華町南稲八重.大阪層群枯華累屑.
ピンク火山灰層.
NO391 :奈良市高樋町・弘仁寺門前.層位不明.
(仮称)弘仁寺火山灰層.
NO400 :北葛城耶新庄町山臥大阪層群葛城累層.アズキ火山灰層.
NO409 :山辺邸都祁村貞ケ平,室生層群群介野累周.室生溶結凝灰
岩層(無色溶岩相) .
NO410 :山辺群都祁村員ケ平,室生層群都介野累B.室生溶措凝灰
岩層(白色溶封相) .
N0411 :奈良市地獄谷新地東,室生層群地獄谷累層.石仏凝灰岩層・
NO412 :宇陀那榛原町戒鳩・山辺赤人ノ墓,室生層群都介野累層・
室生韓結確灰岩層(男色溶岩相).
KO4I3 :宇陀郡横原町成増・山辺赤人ノ碁,室生層群都介野累層・
号f.溶応ォ(*ォ蝣(白色轄fItHl .
NO415 :奈良市あやめ池南7丁目・蛙又池東,大阪層群西大寺累層・
ihinXihk甘.
NO416 :奈良市学園前.殖産住宅造成地人口,大阪層群富&累層・
(仮称)学園前火山灰居.
NO451 :宇陀耶曽爾村古光山繭斜面,クロボク土層.アカホヤ火山灰層
NDSO3 :山辺都都祁村吐山,山辺層群滑水砂岩層. (仮称)
清水バミス居.
NO505 :山辺郡静粛村雨之庄 ,室生層群者介野累層. (仮称)
繭之庄火山灰層.
NO536 :大阪府柏原市玉手山
m群胤IISSM.玉TIllii床LL闇.
NOB37 :大阪府柏原市有井田 .二上層群原川累居,高井Efl凝灰岩層.
N0541 :大阪府柏原市玉手山 ・安描寺.二上層群原川累月,玉手山
駁灰台層.
N0553 :磯城那田原本町阪手 ,阪手遺跡ト4層,阪手火山灰眉.
N0554 :磯城那EB原本町阪手 ,阪手遺跡T-3層.姶良(AT)火山灰層
NO639 :生駒市高山無線寺, 大阪層群生駒累層.無権寺火山灰層.
NO641 :磯城耶Ei)麻本町十六面,十六両遺跡.アカホヤ火山灰層.
KO643 :大和郡山市E'1土,白i:遺跡.姶良(AT)火山灰眉_
NO646:磯城那珂金町菅尾・第二浄化センター, M削現場.姶良
(AT)火山灰層.
NO666 :生駒市狭戸.大阪層群生駒累屑,狭戸火山灰層.
NO788 :生駒市大瀬.大阪層群生駒累層,繭生駒火山灰層.
NO340:御所市小林,樹状地末端.姶良(AT)火山灰Jg.
NO844 :京都府韻書郡精華町東畑.大阪層群特筆累層.パミス
火山灰眉.
NO845 :京都府鯛喜部将革町東畑.大阪層群樺華累層, (仮株)
東畑Ⅱ火山灰層.
NO848 :京都府原書郡桶撃町史仰.大阪層群拍撃累増,東郷普貿寺
火山灰居.
NO87Z :京都府機書郡柏革町東湖.大阪層群摘草累膚,北谷火山灰朋
NO883 :奈良市鬼ケ辻.県道鞠.室生層群地獄谷累層.石仏凝灰岩屑
NO884 :奈良市丸ケ辻.室生層群地獄谷累層.石仏凝灰岩層.
NO888 :京都府欄喜耶棉革町東畑・京和運送構内,大阪層群摘草累層
吉川普賢寺火山灰居.
NO895 :奈良市須山・県道轍,室生層群地獄谷累居.石仏凝灰岩周.
NO897 :魚l辻小ォIh・(ftill鵜. V生dEF地uiT翼M. <)仏uyki潤.
NO964 :京都府綴喜耶栂革町祝園.大阪層群精華累m,柘摺火LLI灰闇
N0984 :天理市庵治町・県立高等養護学校.満水風浪跡,姶良(AT)
火iliKJN.
NIOO7 :磯城郡田原本町多.多追跡.姶良(AT)火山灰層.
NIOZ2:大阪府南河内耶太子町. no.Zコ? -15.15-15.33..大阪朋Lif
泉北累層.アズキ火山灰層.
N1255 :京都府相楽邸木津町梅谷.大阪層群佐保累層.切通火山灰朋
NI256 :京都府相楽邸本陣町,大阪層群摘草累層,木挿管貿キ
火山灰眉.
N1257 :奈良市砂茶屋,大阪層群宙放累層,砂茶娃火Lh灰層.
K1549 :奈良市鹿野園町・佐保女学院短大構内.ホーJJJウ'コr -i5i.
f'l'lll火山托kL
N1725:磯城郡Ed原本町保樺.保津宮占追跡.姶良(AT)火LLJ灰層.
ql7ご6: siamホト】JfォI・ftIIMiJt. :b同Er 甘_珂OqlUL欄.
N1728:奈良市春E]野町御重山東・コウモリ由,室生層群地獄裕累朋
鬼ケ辻泥岩層.
N178Z :山辺耶都祁村員ケ平・ tlill'.)叫.'蝣. ihUHR卜部.
N1783 :山辺郎都祁村員ケ平・ 林道分岐点,寄生溶桔凝KS (蝣'部の
白色火山砂.
N1784 :山辺郡都祁村員ケ平・ LZ3細vim闇MEU WSVH慧¥S3a呂m<i鮎
無色火山砂.
N1862 :大和郡山市額田部北町 ,農水省ポ-1)ングー26.In,アズキ
火山灰層.
NI940 :生駒郡斑鳩町中宮寺, 中Xfiifl耕.蛤1-i url 人.hi*叶1.
N1974 :大和郡山市額田部北町 ,川崎地質ポーリング-17.40-17.50m.
r Xキ/all*増.
N2398 :生駒那斑鳩町法隆寺, 法隆寺東花園追跡.蛤良(AT)火111灰朋
N2409:破城郡広陵町馬見南4,キンデンBr.l, -14.601.ピンク火LIJ灰肘
NZ410:抜城那広陵町馬見繭4,キンデンBr.3, -ll.90..ピンク火山灰層
N2441 :生駒那三郷町立野,立野遺跡.姶良(AT)火山灰周.
位と同定された火山灰層を表2に示した.一般に先第四系では火山ガラスが粘土化して残存しな
いが,この地域では室生溶結凝灰岩や石仏凝灰岩のように1.2Maにもなるテフラから火山ガラ
スが多量に検出できる.また表3に示したように火山ガラスを残さない火山灰層が数10層準に
わたって存在する.このような火山灰層も堆積盆内の対比には充分に有効であるが,堆積域を異
にすると同定に困難なことが多い.これらについても今後火山ガラスの保存の良い試料が得られ
10
西 田 史 朗
表3.火山ガラスを保存しない火山灰層の位
置と層位,火山灰層名
る可能性を残すので,産地と層位に加えて仮称
の火山灰名を示した.
試料番号:産出地点, 層位. テフラの呼称
NOO51 :山辺郡都祁村南之圧, N80-5コT, 71-72ci.
NOO56 :奈良市大和田・東急住宅地,大阪層群富&累層.
(仮称)大和田火山灰層.
noioo :嘉良市あやめ池繭7丁目,大飯層群西大寺累層.
t伽株1あやめ池・JtiliKW.
NO289 :山辺耶都祁村来迎寺・池畔,室生層群都介野累層.
(仮称)来迎寺池火山灰層.
NO290 :奈良市飯盛町・飯盛山山頂東側.三笠層群.
(仮称)飯盛山火山灰層.
N0293 :嘉良市敷島町l T目.大阪層群西大寺累層.
(仮称)敷島火LLl灰層.
NO297 :奈良市中ノ川町.三笠層群ソノバ累層.
(仮称)ソノバ火山灰Jg.
NO30】 :吉野郡大淀町比哲.吉野層群大淀累周.
(仮称)比曽11火山灰暦.
NO302 :奈良市学園大和町・殖産住宅.大阪層群富雄糸屑.
(仮称)学園前火山灰層
NO303 :吉野郡大淀町比官.苗野層群大淀累居威卜`部.
L伽Ih)比9I XIIIH.H.
NO304 :奈良市二名町・二名中学西.大阪層群高雄紫朗.
(仮称)二名火LLl灰層.
NO364: %駒市北田原・市民グラウンドIt三.大阪鯛肝J主的米桝.
(仮称)北田原火山灰層.
N0368 :奈良市富雄・四天王寺霊乱入陣J削tmm米州・
(倣軸)四天王寺火山灰周.
NO502 :山jD那都祁村吐111. Ill迎層群外婿鮎l'㌻朋.
外捕火LLj灰層.
^旧5(1': iiiifl郡甘心M*こ(I. fi桝fFSi'i-W思1、1.
(仮称)繭之庄火山灰層.
NO640 : -?陀郡榛原町荷坂,室4三層耶ォ'!三桁寿.I.凝炊1㌢.
NO6ォ:大和郡山市若槻.若槻追跡.
NOB44 :奈良市森本.森本追跡,
NO733:姦良市高夫町.左京3・e・7追跡.
∼.qミLR:怨上.a*八島1]・)}垂ゴ・し'HJ'J 1.曲Ill州rtsiiunl'1.
し蝕(*) h亀`人ihHcm.
N1405 :奈良ffi二条大略繭i nI. 、iJJ-城H跡】93次BIx舶思.
長屋王邸跡2火山灰層.
\HFO : i.'.蝣サ!)恥1.・藤村ト.r恥Ii. (Mill州MID粗.
N1766-1768 : ilj辺郡都祁村南之IE. ih過朋即,地I-.SIS凝炊与.棚.
(仮株)相珂火山灰層.
Nけ69 : ih辺郡都祁村雨之It.邦介野米桝城卜邪融J火v;-m.
(仮称)訂介野火山灰屑,
N177E-1780 : Mi退部都祁村雨之Iit.邦介即S5Mld卜3搬炊丁榊.
(仮称)茶畑火山灰部朋.
サ1786-178S :山辺郡者祁村サtlll如>i. ilia朋帥1蛸L
th軸> nhlrViliHW.
NI975 :生駒耶斑鳩Brl法権-V. I即Wiすりj I SH'.瑚允舶別堪.
Ⅳ.火山ガラス分析の方法
試料の調整と測定の方法については,すでに
報告したが(西田, 1983a;西田はか, 1986;
横山・西田, 1987),その後若干の改良を加え
たのでここにまとめておく.しかし分析操作の
基本的な流れ,定量計算・統計処理の方式には
変化がなく,これまでの測定データとの一貫性
は保たれている(西田1991a).
試料-火山ガラス抽出-飾分け-超音波洗浄
-マウンティング-カーボン蒸着-スペクトラ
ム収集一定量計算-統計計算
火山ガラスの抽出から超音波洗浄にかけての
過程で,カルゴン(ヘキサメタリン酸ナトリウ
ム5%水溶液)による分散処理と塩酸による
脱鉄処理を超音波槽中で,上澄みの濁りと着色
が無くなるまで繰り返す.
分析にはHITACHI-X 650走査電子顕微鏡
にKevex-7000Qエネルギー分散型Ⅹ線スペ
クトロメーターを組み合わせ DEC PDP-ll
ミニコンピューターにより分析操作ならびに定
量計算を行った.分析条件は加速電圧: 20 kV,
フィラメント電流:100〟A,照射電流:200
〟〃A,分析倍率: 1,000倍でスポット分析,刺
定カウント数:500,000カウント/全チャンネルである.この分析パラメーターは分析元素数,標
準試料とともに一連の火山ガラスの分析中では固定されている.定量計算はKevex Quantx 3.2
H版プログラムにより, JA-1・JB-2・JG-1を標準試料として行った.分析結果はZAF補正
のうえ, 8元素の酸化物重量パーセントで示した. Feについてはtotal FeをFeOとして示し
た.予備実験の結果, EDS分析では波長分散型Ⅹ線マイクロアナライザー(WDX)分析に比
べ照射電流がおよそ二桁小さく,電子線照射によって火山ガラス中のH20含量に検出できるほ
どの変化が見られないことが分かった.したがって一連の火山ガラス分析ではH20を考慮に入
れていない.
Ⅴ.火山ガラス分析の結果
エネルギー分散型マイクロアナライザー(EDS)による火山ガラスの主要元素組成分析結果
を表4に示す.主要8元素について酸化物の形で表現し,全体で100%になるように計算した.
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
表4.奈良盆地とその周辺の火山ガラスの化
学組成
上行:複数火山ガラス片の平均値(%)
下行:分析値の標準偏差(std.), std./
の後の数字は分析した火山ガラスの個数.
表4. (つづき1)
1=O MgO AbOa SiO, K20 CaO TIG, FeO
1.84 1.00 ll.41 79.33 2.86 1.42 0.17 0.98
NazO KsO Also, SiO= K.O CaO TiO, FeO
NOOO1 2.13 0.84 10.86 80.G4 2.42 1.29 0.09 1.84
std./100 0.33 0.22 0.12 0.40 0.09 0.10 0.03 0.20
2.14 0.87 10.88 80.42 2.40 1.35 0.09 1.85
std./100 0.33 0.24 0.15 0.46 0.09 0.08 0.02 0.18
std./20 0.41.0.31 0.41 0.89 0.25 0.23 0.03 0.40
1.59 0.67 ll.44 78.8
std./20 0.57 0.32 0.26 0.75 0.38 0.09 0.03 0.51
Z.18 0.84 ll.34 78.13 3.89 .1.36 0.09 2.3
std./20 0.56 0.42 0.44 1.07 0.37 0.15 0.02 0.65
2.33 0.93 10.86 80.32 2.39 1.33 0.09 1.76
3.48 1.37 ll.90 77.72 1.76 2.16 0.ll 1.50
std./loo 0.31 0.19 0.16 0.46 0.09 0.10 0.02 0.17
std./10 0.62 0.38 0.2Z 0.44 0.06 0.19 0.07 0.49
NOOO4 2.37 0.8 80.23 2.37 1.36 0.10 1.84
4.01 1.61 ll.73 77.40 1.90 2.05 0.09 1,29
std./ 00 0.36 0.21 0.13 0.46 0.09 0.08 0.02 0.ZO
std./10 0.46 0.15 0.14 0.47 0.08 0.19 0.03 0.09
2.61 1.36 ll.44 76.13 1.96 2.39 0.39 3.73
4.ll 1.63 ll.45 74.68 2.05 2.42 0.38 3.29
std./20 0.46 0.29 0.M 0.40 0.20 0.28 0.04 0.26
std./loo 0.49 0.30 0.21 0.63 0.10 0.23 0.04 0.35
2.18 0.76 11.16 80.20 2.36 1.40 0.09
std./loo 0.34 0.24 0.50 0.57 0.08 0.08 0.03 0.1
2.30 0.96 10.87 80.21 2.44 1.29 0.09 1.8
std./loo 0.43 0.26 0.14 0.55 0.08 0.09 0.03 0.2Z
II.52 78.74 4.OB 0.53 0.07 1.75
itd./50 0.35 0.32 0.17 0.50 0.24 0.09 0.04 0.23
2.30 0.68 10.72 80.03 2.62 1.47 0.11 2.07
2.02 0.94 10.63 80.14 3.37 1.32 0.14 1.42
ltd./20 0.27 0.12 0.18 0.32 0.ll 0.07 0.04 0.10
1.87 2.02 13.23 76.56 2.54 I.13 0.32 2.33
0.35 0.42 0.74 0.94 0.58 0.21 0.06 0.42
2.07 1.06 12.11 75.30 3.29 2.30 0.39 3.4
std./20 0.53 0.33 0.57 0.84 0.27 0.20 0.04 0.49
1.62 0.83 10.92 78.57 4.96 0.97 0.12 2.02
std./50 0.73 0.37 0.1 0.75 0.13 0.】2 0.04 0.37
std./lO 0.62 0.43 0.41- 1.04 0.55 0.38 0.13 0.8
nooss i.42 0.97 11.18 80.56 S.8 〔J.56 0.05 1.33
NOL‖ 80.02 4.28 0、fii) 0.07 1.12
ltd./20 0.59 0.4 0.44 0.86 0.35 0.12 0.05 0.51
std./lO 0.27 0.32 0.2 0.77 0.19 0.17 0.03 0.39
NOO96 I.25 0.92 11.11 80.10 4.72 0.56 0.05 1.30
NO4】 0.78 11.20 80.20 4.48 0.70 0.08 1.44
std./20 0.34 0.26 0.38 0.78 0.37 0.10 0.03 0.50
0.37 0.33 0.6 0.99 0.22 0、13 0.02 0.22
NOO97 1.57 1.04 】1.29 79.37 4.45 0.64 0.0
NO412 1.96 0.56 10.47 80.33 4.63 0.84 0.07 1.34
std./ZO 0.32 0.32 .31 0.76 0.27 0.12 0.04 0.45
std./ 0.30 0.27 0.34 0.61 0.20 0.21 0.02 0.22
NOO98 1.67 1.34 】1.60 78.90 3.93 0.73 0.07 1.78
NO413 】.93 0.73 10.65 79.07 3.ll 2.14 0.16 2.22
std./20 0.38 0.27 0.46 0.82 0.38 0.19 0.05 0.61
std./ 3.12 1.71 1.67 0.17 2.16
NOO99 2.08 】.18 11.30 78.77 2.80 1.61 0.23 2.Ol
NO4I5 1.5 .01 】 76.53 0.52 4.10 0.24 3.45
std./20 0.60 0.29 0.26 0.72 0.18 0.】1 0.04 0.2!
std./20 0.54 0.33 1.37 0.99 0.05 0.65 0.09 0.53
NO121 2.93 1.08 11.13 79.35 2.30 1.29 0.09 1.84
std./10 0.77 0.34 0.34 0.93 0.27 0.18 0.02 0.38
.16 0.80 11.17 79.34 4.35 0.70 0.07 】
std./20 0.71 0.3 0.27 0.75 0.48 0.14 0.04 0.31
1.75 0.71 10.95 79.31 2.94 2.12 0.14 2.0
std./20 0.83 0.40 0:49 】.05 0.30 0.30 0.03 0.47
2.33 0.34 10.65 76.74 2.27 2.79 0.41 3.8
std./ 0.58 0.24 0.21 0.54 0.09 0、28 0.OB 0.44
NO292 2.46 0.65 1 .09 79.30 3.69 1.21 0.09 1.51
1.52 1.25 .78 2.65 0.34 4.28
std./ZO 0.94 0.60 0.54 1.51 0.40 0.10 0.03 0.57
std./20 0.27 0.22 0.】4 0.50 0,15 0.20 0.03 0.26
.73 I.14 11.07 76.76 1.74 3.31 0.39 3.89
std./20 0.59 0.53 0.58 0.65 0.18 0.56 0.05 0.56
1.59 0.70 11.00 79.66 3.95 1.05 0.0
std./20 0.32 0.26 0.24 0.57 0.18 0.05 0.03 0.16
1.43 79.36 4. 2 0.76 0.10 1.77
1.45 1.12 12.10 77.55 3.85 0.84 0.10 3.01
std./20 0.53 0.35 0.53 0.86 0.29 0.20 0.05 0.40
std./20 0.54 0.64 1.00 2.20 0.74 0.22 0.03 1.17
10.45 79.92 3.32 1.45 0.17 1.48
1.29 0.58 10.78 80.28 4.83 0.57 0.07 1.60
itd./20 0.51 0.30 0.15 0.81 0.18 0.ll 0.0 0.13
std./ 0.31 0.25 0.】 0.43 0.20 0.ll 0.03 0.24
ll
西 EE]史 朗
12
衰4. (つづき2)
表4. (つづき3)
lazO NiD AIJO. SiO;. K2O CaO TiO2 FeO
NO54】 2.】5 1. 11.36 79.32 4.44 0.57 0.07 0.81
std./20 0.38 0.34 0.3 0.56 0.36 0.ll 0.04 0.33
Na,0 ftgO IUO3 SiOe K2O CaO TiD2 FeO
2.55 0.81 10.43 79.87 2.78 1.53 0.10 1.9
std./20 0.31 0.21 0.14 0.44 0.10 0.08 0.02 0.09
2.44 0.90 ll.97 78.22 1.93 2.78 0.12 1.65
NIO22 1.72 0.96 12.17 74.90 3.79 2.15 0.40 3.91
std./20 0.88 0.49 0.90 1.87 0.22 0.52 0.03 0.28
std./20 0.46 0.28 0.20 0.12 0.16 0.19 0.08 0.37
NO554 2.33 0.89 10.41 80.15'2.81 1.53 0.12 1.77
NI2EE 1.51 0.88 11.19 79.10 2.91 1.77 0.24 2.41
itd./ZO 0.58 0.38 0.40 0.66 0.29 0.21 0.01 0.38
stff./20 0.42 0.27 0.60 1.01 0.23 0.ll 0.09 0.52
NO639 1.98 1.08 11.06 75.36 0.74 3.90 0.36 4.9
N1256 1.84 0.68 10.51 79.27 3.53 1.39 0.09 2.69
std./20 0.68 0.il 0.33 0.86 0.05 0.12 0.08 0.78
std./20 0.52 0,J9 0.21 0.78 0.19 0.09 0.03 0.58
1.84 0.72 10.56 76.98 2.29 2.98 0.44 4.19
N1257 1.70 0.64 10.29 79.93 3.56 1.39 0.08 2.4)
std./20 0.55 0.38 0.14 0.58 0.ll 0.29 0.09 0.55
std./18 0.47 0.3 0.10 0.66 0.15 0.09 0.03 0.18
2.05 0.64 10.25 80.64 2.83 1.50 0.10 1.9
N1549 1.68 0.71 10.47 80.95 3.17 1.48 0.13 1.42
std./20 0.50 0.27 0.23 0.73 0.15 0.10 0.02 0.20
stcl./20 0.29 0.25 0.29 0.50 0.13 0.24 0.03 0.12
NO646 2.04 0.76 ll.40 79.56 2.26 2.29 0.10 1.61
N1725 3.14 0.44 10.28 79.55 2.77 1.54 0.10 2.21
std./20 0.50 0.30 0.27 0.74 0.10 0.15 0.03 0.26
std./20 0.42 0.28 0.23 0.84 0.ll 0.08 0.03 0.74
NO666 1.53 0.65 10.69 79.97 3.42 1.38 0.10 2.27
std./ZO 0.57 0.30 0.Z 0.71 0.柑 0.10 0.03 0.1S
N1726 1.56 0.49 ll.35 78.82 1.89 0.06 2.05
2.48 1.00 10.33 80.44 3.18 1.14 0.12 1.31
std./20 0.38 0.18 0.15 0.49 0.14 0.07 0.03 0.OS
2.42 1.03 11.73 78.71 2.46 1.49 0.11 2.05
std./20 0.40 0.24 0.81
1.06 0.12 0.10 0.02 0.18
std./20 0.34 0.31 0.39 0.65 0.31 0.13 0.02 0.39
1.73 0.60 10.92 79.67 4.55 0.67 0.0
stcl./ 0.45 0.35 0.66 0.66 0.22 0.18 C】.03 0.27
1.52 0.49 ll.18 76.65 3.02 Z.70 0.20 4.23
std./】 0.40 0.27 0.20 0.46 0.25 0.28 0.04 0.51
2.34 0.9Z ll.08 78.31 3.24 1.20 0.03 2.24
NI783 [.53 0.51 10.4 0.58 0.11 2.28
std./20 0.64 0.25 0.19 0.72 0.29 0.08 0.03 0.50
std./10 0.35 0.31 0.18 1.33 0.31 〔1.ll 0.ll 1.07
HO84b 2.】7 0.81 ll.30 78.54 3.6 】.27 0.09 2.】7
NI784 】.27 0.47 9. ,2] 1.28 0.12 2.10
std./20 0.49 0.29 0.35 0.80 0.29 0.08 0.02 0.21
std./ 0.24 0.22 0.31
1.86 0.35 0.19 0.04 2.ll
2.01 0.77 1】.05 79.45 3.26 1.21 0.08 2.18
2.34 1.01 12.09 74.44 4.12 2.14 0.42 3.44
std./20 0.4 ,17 0.12 0.65 0.20 0.05 0.02 0.17
std./40 0.68 0.32 0.32 1.02 0.48 0.30 【I.04 1.03
10.43 80.83 1.39 E.I6 0.16 Z.I3
std./20 0.32 0.24 0.1 0.57 0.10 0.28 0.03 0.17
NO883 0.81 0.78 1】.32 80.43 4.00 0.61 0.09 1.9
std./20 0.18 0.20 0.は 0.36 0.21 0.09 0.03 0.17
2.67 1.05 12.ll 74.60 4.E6 2.0
0.67 0.26 0.24 1.24 0.81 0.23 0.05 0.89
2.12 0.97 12.07 74.38 4.00 2.24 0.43 3.79
std./20 0.60 0.38 0.3 0.73 0.23 0.33 0.03 0.94
N0884 0.87 0.74 】1.17 80,43 4.10 0.60 0.08 2.01
1.87 0.40 10.03 80.97 3.03 1.52 0.08 2.10
std/20 0.26 0.21 0.36 0.63 0.】8 0.】3 0.03 0.24
std./20 0.50 0.】9 0.41 0.46 0.17 0.15 0.02 0.54
2.09 0.67 11.18 79.21 3.44 1.28 0.09 2.05
0.91 12.08 74.65 3.76 2.24 0.41 4.12
std./20 0.49 0.23 0.18 0.67 0.19 0.08 0.03 0.2
std./20 0.32 0.17 0.13 0.51 0.16 0.30 0.04 0.31
NO895 0.99 0.64 10.79 80.54 4.36 0.6 .06 1.97
N2398 1.91 0.49 10.00 80.80 2.85 1.71 0.ll 2.ll
0.28 0.27 0.20 0.52 0.22 0.23 0.03 0.35
std./ 0.41 0.24 0.17 0.54 0.ll 0.14 0.01 0.13
0.89 0.63 11.07 80.60 4.3
N2409 1.32 0.58 9.9 3.54 1.55 0.18 1.74
std./20 0.24 0.26 0.25 0.52 0.17 0.06 0.01 0.17
1.28 0.56 10.25 81.26 3.43 1.44 0.17
std./20 0.31 0.24 0.17 0.45 0.ll 0.12 0.02 0.ll
N2410 . 0.47 9.90 81.13 3.72 1.60 0.18 1.77
std./20 0.31 0.24 0.14 0.43 0.IE 0.08 0.03 0.15
std./20 0.31 0.20 0.2】 0.52 0.15 0.09 0.03 0.17
NO984 2.37 0.65 10.46 80.22 2.74 1.54 0.ll 1.92
N2441 1.78 0.44 9.92 81.04 2.90 1.65 【J.ll 2.17
std./20 0.43 0.20 0.18 0.67 0.15 0.09 0.03 0.16
std./ 0.31 0.15 0.16 0.40 0.ll 0.ll 0.02 0.08
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
13
表5,アカホヤ火山灰ガラスの化学組成
試料番号と層位は表2参照.平均値(%).
N0657 :アカホヤ火山灰層,鹿児島県肝属郡大根占町鳥浜東
Na20 MgO AI203 SiOa K2O CaO TiO2 FeO
NOOO5
2.61 1.36 11.44 76.13 1.96 2.39 0.39 3.73
NO373
4.ll 1.63 11.45 74.68 2.05 2.42 0.38 3.29
N0451
2.33 0.94 10.65 76.74 2.27 2.79 0.41 3.88
N0641
1.84 0.72 10.56 76.98 2.29 2.98 0.44 4.19
NO657 1.96 0.95 10.68 76.80 2.22 2.90 0.41 4.08
表6.阪手火山灰ガラスの化学組成
試料番号と層位は表2参照.平均値(%).
Na20 MgO AI203 SI02 K2O CaO TiO2 FeO
NO371 3.48 1.37 11.90 77.72 1.76 2.16 0.ll 1.50
NO372 4.01 1.51 ll.73 77.40 1.90 2.05 0.09 1.29
NO553 2.44 0.90 11.97 78.22 1.99 2.76 0.12 1.65
各試料とも火山ガラス片9- 100個の平均値で代表させた.また構成元素の偏析を知るために標
準偏差を併せて示した.試料番号は図表を含めて本文中ではすべて整合している.
Ⅵ.考 察
1.火山灰層の同定と対比
主題の地域でひかく的広く分布するテフラ層相互について,あるいは地域外のテフラ層との対
比を検討する.今のところ同定のできないテフラ層については,産地と層位についての資料と分
析結果を表2と表4に提示するに留める.
火山ガラスの化学組成に基づく火山灰層の同定には,西田(1991a)のVAISを適用した.
VAIS (火山ガラスの主要元素組成に基づく火山灰同定システム)は,層位の確認された火山ガ
ラスの既知分析データ集積群と未知火山ガラスの分析データについて,各元素毎に組成値の差を
求め,その8元素についての和をID値とし, ID値の小さい順に配列すると類似する火山灰が候
補として上がってくる方法である.今回はおよそ2,000に及ぶ既分析試料を母集団にVAISを適
用した.
近畿で発見されている完新統の火山灰層として,カワゴ平火山灰層・アカホヤ火山灰層とオキ
火山灰層がある 3000y.B.P.の降灰とみられるカワゴ平火山灰層(西田はか, 1992)と9000y.
B. P.の降灰とされるオキ火山灰は未発見である.完新世の火山灰層は室生山地池ノ平湿原では泥
炭層に挟まれて(松岡はか, 1983),また表層ではクロボク土壌に混在して兄いだされるが,秦
西 田 史 朗
lLl
表7.姶良(AT)火山灰ガラスの化学組成
試料番号と属位は表2参照.平均値(%).
N0114 :入戸火砕流,鹿児島県姶良郡加治木町雛場.
Na2O MgO AU03 Si02 K」O CaO TiO2 FeO
NOOOI
2.13 0.84 10.86 80.54 2.42
1.29 0.09 1.84
NOOO2
2.14 0.87 10. 80.42 2.40
1.35 0.09 1.85
NOOO3
2.33 0.93 10.86 80.32 2.39
1.33 0.09 1.75
NOOO4
2.37 0. 10.86 80.23 2.37
1.36 0.10 1.84
NOOO6
2.18 0.76 11.16 80.20 2.36
1.40 0.09 1.86
NOOO7
2.30 0.96 10.87 80.21 2.44
1.29 0.09 1.84
N0064
2.30 0.68 10.72 80.03 2.62
1.47 0.11 2.07
NO121
2.93 1.08 11.13 79.35 2.30
1.29 0.09 1.84
NO554
2.33 0.89 10.41 80.15 2.81
1.53 0.12 1.77
NO643
2.05 0.64 10.25 80.64 2.83
1.50 0.10 1.99
N0646
2.04 0.76 11.40 79.56 2.26
2.29 0.10 1.61
NO840
2.42 1.03 11.73 78.71 2.46
1.49 0.11 2.05
NO984
2.37 0.65 10.46 80.22 2.74
1.54 0.ll 1.92
NIOO7
2.55 0.81 10.43 79.87 2.78
1.53 0.10 1.93
N1725
3.14 0.44 10.26 79.55 2.77
1.54 0.10 2.21
N1940
1.87 0.40 10.03 80.97 3.03
1.52 0.09 2.10
N2398
1.91 0.49 10.00 80.80 2.85
1.71 0.11 2.ll
N2441
1.78 0.44 9.92 81.04 2.90
1.65 0.11 2.17
NO114
3.01 1.02 10.81 79.88 2.63
1.37 0.10 1.17
良盆地では十六面遺跡で発見されているにすぎない(西田はか, 1986).アカホヤ火山灰層は室
生山地と盆地内の浅所から発見されている.アカホヤ火山灰の給源に近い鹿児島県肝属郡大根占
町鳥浜のアカホヤ火山灰ガラス(N0657)と比較して,化学組成の良い一致を見る.
最上部更新続の火山灰層として,奈良盆地内では阪手火山灰層と姶良(AT)火山灰が発見さ
れている.阪手火山灰層は田原本町阪手遺跡の発掘に際して,姶良(AT)火山灰を被うものと
して発見されたが,他地域との対比は充分でない.克琶湖200mと1400mボーリングでは,こ
の前後に数枚の火山灰層が挟在するが,これらについても未発見である.阪手火山灰層は上記の
ように,阪手遺跡の遺構断面が模式地(N0553)である(奥田はか, 1983;西田はか, 1986).
同じ火山灰層が天理市南部の2地点のコア試料(N0371, N0372)で確認されている(日本の
先史・原史時代の人々の地形認識と土地利用研究グループ, 1986)が,広域的には今のところ対
比されていない.
姶良(AT)火山灰が奈良盆地の浅所に広く分布する様子は,遺跡発掘に際して遺構の基盤を
確認する深部掘り下げピットの断面でしばしば見られることからも分かる.表7の試料の多くは
遺跡から得たもので,姶良(AT)火山灰の給源に近い鹿児島県姶良郡加治木町雛場の大戸火砕
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
15
表8.アズキ火山灰ガラスの化学組成
試料番号と属位は表2参照.平均値(%).
N0902 :アズキ火山灰層最下部,京都市西京区樫原秤谷町.
Na20 MgO AI203 Si02 K2O CaO TIO2 FeO
NO400 2.07 1.06 12.11 75.30 3.29
2.30 0.39 3.48
NIO22 1.72 0.96 12.17 74.90 3.79
2.15 0.40 3.91
N1862T 2.34 1.01 12.09 74.44 4.12
2.14 0.42 3.44
N1862C 2.57 1.05 12.11 74.50 4.25
2.03 0.40 3.09
N1862N 2.12 0.97 12.07 74.38 4.00
2.24 0.43 3.79
N1974 1.80 0.91 12.08 74.65 3.76
2.24 0.41 4.12
N0902T 2.43 1.43 12.47 74.01 3.69
2.14 0.41 3.41
N0902C 2.47 1.34 12.39 74.10 3.89
2.13 0.41 3.27
N0902N 2.38 1.52 12.55 73.92 3.50
2.15 0.11 3.55
表9.山田火山灰ガラスの化学組成
試料番号と層位は表2参照,平均値(%).
M0799:模式地・山田火山灰層,吹田市山田東2丁目
Na20 MgO AI203 Si02 K2O CaO TIO2 FeO
NO415 1.51 1.01 12.66 76.53 0.52 4.10 0.24 3.45
NO799 2.84 1.81 12.43 74.82 0.54 4.29 0.19 3.10
流火山ガラス(N0114)の化学組成と比較し良い一致を示す.
上部更新続の高位喋層としては奈良市高樋町の虚空蔵山疎層と吉野川流域の竜門疎層がある.
虚空蔵山磯層は分布も限られ,火山灰層の挟在も認められていない.竜門磯層には数枚の火山灰
層が認められるが(西田, 1984),火山ガラスを保存していない.奈良盆地とその周辺部では中
部更新続は認められず,その時期には削刺の場にあったと考えられる.奈良盆地とその周辺の下
部更新統に相当する大阪層群中の火山灰層では,上位よりアズキ火山灰層,山田火山灰層,ピン
ク火山灰層,狭戸火山灰層,緑ヶ丘火山灰層が対比可能な火山灰層である.
アズキ火山灰層は大阪平野の周辺部ではMa3海成粘土層中に挟在し,大阪層群を上下に二分
する重要な鍵層火山灰層である.アズキ火山灰ガラスは無色ガラスと着色ガラスからなり,層位
によりその化学組成を系統的に変える(西田, 1991b;西田・和田, 1991). N1862試料は実体
顧微鏡下で両ガラスを区別して分析した例で, Tは無色ガラスと着色ガラスの混合組成を, Cは
着色ガラスの化学組成を, Nは無色ガラスの化学組成を表す N0902は京都市西京区樫原秤谷
町のアズキ火山灰層基底部の火山ガラス化学組成であるが, N 1862試料の測定値と良い一致を
示しアズキ火山灰層最下部ないし下部を示している.当地域では地表では新庄町山田(N0400),
ボーリング試料として大和郡山市朝田部北町の2本のコア(N1862, N1974)で確認されてい
西 田 史 朗
16
アズキ火山灰層:N0902
無縁寺火山灰層:N0639
∴.__
J一こ
UJ ir,
LL
Eつ
rォォi
LJ
ロOT
t⊃
L3m
l一
S
3011 0ti3
AC-.、
0 2 4 6 a
」 0
0 2 4 6 8 ユO
K28
K2日
: ∴_-.
0
001 S O i1 01 m 0
DU∑ BZdN
0
1
5
︻
D
r
ODW+D3J
I L、IL
的
5王82
ED 65 フ0 75 80 85
SI02
5
65 フ0 フS 80 85
乃Z
D
SIO2
o m
50 65 7D フ'5 3D SS
図2.無線寺火山灰層とアズキ火山灰層火山ガラスの化学組成散布図
縦軸・横軸の数値は%.
N0639 :模式地・無線寺火山灰層,生駒市高山.
N0902 :アズキ火山灰層最下部(NKOl),京都市西京区樫原秤谷町.
る.山田のアズキ火山灰層(N0400)は,西田(1991b)の再堆積型で火山ガラス化学層序が系
統的に見られない.大和郡山のコア試料のアズキ火山ガラスは西田(1991b)の直接降下型で,
火山ガラス化学層序では下部ないし最下部の様相を示す.
生駒市域水理地質図作成委員会(1989)は生駒市高山の無縁寺火山灰層(N0639)について,
アズキ火山灰層に対比される可能性を検討した.露頭での無縁寺火山灰層はアズキ火山灰層と似
た層相を示し,また南方500mにピンク火山灰層(N0300)が露頭することから,層位的にも
アズキ火山灰層に対比されるものと考えた.含まれる火山ガラスの屈折率測定では1.512
1.519 (平均1.513-1.516)を示し,近畿農政局による奈良盆地中央部のボーリングコアの深度
26.16-26.25mのアズキ火山灰ガラスの屈折率1.512- 1.516 (平均1.513- 1.515)と一致する.
前者の試料は本報告のN0639に,後者の試料はN1862に相当する.しかし両者の火山ガラス
の主要元素組成は大きく隔絶し,結論を保留したままになっている.今回再度,両者の火山ガラ
スの化学組成を検討したが,図2に見るようにNa20とCaO含量に大きな差異がみられ,無縁
寺火山灰層はアズキ火山灰層に対比できないと結論する.
山田火山灰層は大阪層群下部のMa2海成粘土層中に見られ,火山ガラスの化学組成の上で特
徴のある火山灰層である N0799は模式地の山田火山灰ガラスの化学組成である.本地域の山
田火山灰層は,奈良市あやめ池南・蛙又池(N0415)の海生魚類化石・甲殻類化石を産した海
成粘土層に伴って発見されている.山田火山灰層は化学組成に特徴を持っ火山ガラスを産するが,
一般的にその風化が著しく確認できないものも多いと考えられる.
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
17
表10.ピンク火山灰ガラスの化学組成
試料番号と層位は表2参照.平均値(%).
NO392:ピンク火山灰層,吹田市藤白台.
Na2O MgO AI203 Si02 K2O CaO TIO2 FeO
N0300
2.31 0.89 10.45 79.92 3.32
1.45 0.17 1.48
NO389
2.02 0.94 10.63 80.14 3.37
1.32 0.14 1.42
N2409
1.32 0.58 9.99 81.11 3.54
1.55 0.18 1.74
N2410
1.26 0.47 9.90 81.13 3.72
1.60 0.18 1.77
NO392
2.67 1.02 10.52 79.41 3.25 1.51 0.16 1.47
表11.狭戸火山灰ガラスの化学組成
試料番号と層位は表2参照.平均値(%).
N1219 :模式地・普賢寺火山灰層,京都府綴喜郡田辺町普賢寺.
N1221 :模式地・北脇火山灰層,滋賀県蒲生郡日野町北脇.
N1259:模式地・福田火山灰層,岸和田市福田町福田,
N2564 :模式地・五軒茶屋火山灰層,滋賀県甲賀郡石部町五軒茶屋,
Na20 MgO AI203 SiOs K2O CaO TiO2 FeO
NO307
1.59 0.67 11.44 78.83 3.60
1.39 0.09 2.43
N0308
2.16 0.84 11.34 78.13 3.69
1.36 0.09 2.39
NO666
1.53 0.65 10.69 79.97 3.42
1.38 0.10 2.27
NO848
2.01 0.77 11.05 79.45 3.25
1.21 0.08 2.18
N0888
2.09 0.67 11.18 79.21 3.44
1.28 0.09 2.05
N1219
1.93 0.96 10.78 79.11 3.64
1.33 0.09 2.17
N1221
1.90 0.87 10.68 79.23 3.64
1.34 0.11 2.23
N1256
1. 0.69 10.51 79.27 3.53 1.39 0.09 2.69
N1259
1.37 0.64 10.35 79.80 3.81
1.38 0.10 2.55
N2564
1.68 0.58 10.45 79.54 3.57
1.37 0.08 2.63
ピンク火山灰層は大阪層群下部Ma l海成粘土層直上に見られ,大阪層群の分布域に広く認め
られるとされている.模式地に近い吹田市藤自台のピンク火山灰ガラス(N0392)の化学組成
を示す.奈良盆地周辺でも地表では生駒市宮方(NO300),精華町南稲八妻(N0389),コア試
料では馬見丘陵(N2409, N2410)で発見されているが,山田火山灰層の火山ガラスと同じく
風化が進行している.これらのピンク火山灰層は火山ガラスの粘土鉱物化が進行し,千里丘陵や
泉北丘陵で見られるピンク火山灰と層相を異にする.市原(1991)は生駒盆地を取りまいて広く
ピンク火山灰層の分布を示しているが,地表で確認できるものはそれほど多くない.
18
西 日 4; m
表12.緑ヶ丘火山灰ガラスの化学組成
試料番号と層位は表2参照.平均値(%).
N0055 :模式地・島熊山火山灰層,豊中市東豊中
Na20 MgO AI203 Si02 K2O CaO TIO2 FeO
NO306 1.84 1.00 11.41 79.33 2.86 1.42 0.17 1.98
NOO55 2.00 1.14 11.79 79.32 2.43 1.45 0.16 1.71
奈良盆地北部丘陵で模式地の普賢寺火山灰層に類似する火山灰層が2層ある.ひとつは狭戸火
山灰層で,田辺町普賢寺の模式地・普賢寺火山灰層(N1219)に対比され さらに古茸琶湖層
群の模式地・北脇火山灰層(N1221)に対比可能である.他のひとつは木津町の普賢寺火山灰
層(N1256)で,大阪層群の模式地・福田火山灰層(N1259)と古琵琶湖層群の模式地・五軒
茶屋火山灰層(N2564)に対比される.両者の火山ガラスの化学組成は類似するが, FeO含量
に若干の差異を認めることができる.したがって普賢寺火山灰層を福田火山灰層に対比する(吉
川ほか, 1988;吾川・吉田, 1989)見解を今しばらく保留したい.
緑ヶ丘火山灰層(N0306)は火山ガラスの組成から大阪層群千里山累層の模式地・島熊山火
山灰層(N0055)に対比可能である.この見解は後記の放射年代値とも矛盾しない.
多井(1957)は奈良市藤原町の藤原層群豊田累層に含まれる有孔虫化石を研究し,有孔虫化石
分帯とともに旧射撃場付近の地質柱状図を示している.その中で豊田累層最上部に化石を産しな
い厚い凝灰岩層(medium-grained tuff)を示している.ところがこの凝灰岩層は本報告のN
0095と同層準と考えられ,岩相ならびに火山ガラスの化学組成から地獄谷累層石仏凝灰岩層に
対比できる.したがってこの地域では藤原層群の上位に地獄谷累層が挟在することになり,御蓋
山周辺の層序ともよく一致する.
2.火山灰層と放射年代
アカホヤ火山灰層の降灰年代について松岡ほか(1983)は室生山地池ノ平湿原のアカホヤ火山
灰層(N0005)の上下の泥炭層の-4C年代について5630 ± 70y.B.P., 6680 ± 85y.B.P.を報告
した.また町田ほか(1984)は全国各地のアカホヤ火山灰層を挟む14C年代資料を整理し,その
降灰年代を6300 y. B. P.と推定している.
阪手火山灰層の降灰年代について,目下のところ奈良盆地以外で確認されていないが,近くに
給源火山が考えられないので当然広域に分布するはずで,今後の報告を待って降灰年代を確定し
たい.模式地の阪手遺跡では姶良(AT)火山灰層の上位に発見され,阪手火山灰層を被う直上
の泥炭層の14C年代は9,550 ± 210y.B.P.,下位約1 mのそれは16,590 ± 440y.B.P.と報告され,
直下に姶良(AT)火山灰層を伴う(奥田はか, 1983).したがって阪手火山灰層の降灰年代を
絞り込むことができれば,旧石器∼縄文時代の有効な指標テフラとなる.
姶良(AT)火山灰層の降灰年代について町田・新井(1983)はその上下の14C年代資料から,
その降灰を22,000y.B.P.と推定している.いっぽう松本ほか(1987)は奈良盆地の試料を含め
た7地点の姶良(AT)火山灰層の上下の泥炭層'4C年代から,その平均降灰年代を24,720 ±
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
19
表13.室生溶結凝灰岩と石仏凝灰岩ガラスの化学組成
試料番号と層位は表2参照.平均値(%).
Na2O MgO AI2O3 SiO2 K2O CaO TiO2 FeO
N0409
1.62 0.83 10.92 78.57 4.96 0.97 0.12 2.02
NO410
1.56 0.98 11.20 80.02 4.26 0.69 0.07 1.12
NO412
1.96 0.55 10.47 80.33 4.63 0.64 0.07 1.34
NO413
1.93 0.73 10.65 79.07 3.11 2.14 0.16 2.22
NOO50
1.34 0.99 11.52 79.74 4.06 0.53 0.07 1.75
NOO95
1.42 0.97 11.16 80.56 3. 0.56 0.05 1.39
NOO96
1.25 0.92 11.11 ).10 4.72 0.56 0.05 1.30
NOO97
1:57 1.04 11.29 79.37 4.45 0.64 0.08 1.58
NOO98
1.67 1.34 11.60 78.90 3.93 0.73 0.07 1.78
NO291
1.16 0.80 11.17 79.94 4.35 0.70 0.07 1.81
N0299
1.47 0.99 11.43 79.36 4.12 0.76 0.10 1.77
N0411
1.11 0.78 11.20 80.20 4.48 0.70 0.08 1.44
NO883
0.81 0.78 11.32 80.43 4.00 0.61 0.09 1.96
NO884
0.87 0.74 11.17 ).43 4.10 0.60 0. 2.01
N0895
0.99 0.64 10.79 80.54 4.35 0.68 0.05 1.97
NO897
0.89 0.63 11.07 80.60 4.39 0.59 0.02 1.82
290y.B.P.とした.松岡ほか(1984)は奈良盆地の姶良(AT)火山灰と関係する泥炭層と材の
14C年代を28点について報告しているが,その測定値の散らばりからは松本ほか(1987)の推定
を支持している.
奈良盆地のアズキ火山灰層は,地表では新庄町山田(N0400)で,ボーリングコアでは奈良
盆地中央部の大和郡山市の地下20-30m (N 1862, N 1974)で確認されている.大阪層群での
アズキ火山灰層の放射年代は0.87±0.07Maと報告されていて(西村・笹嶋, 1970),その年代
の妥当性は地質層序・古地磁気層序からも支持されている(石田・横山, 1969).
大阪層群のピンク火山灰層の放射年代は1.0±0.6Ma (横山ほか, 1984), 0.92±0.52Ma
(鈴木, 1988)と報告されているが,奈良盆地のピンク火山灰層にそれらの年代をあてはめても
層序的に全く矛盾しない.
生駒市域水理地質図作成委員会(1989)は狭戸火山灰層の放射年代を2.6 ± 0.3Maと報告し
ているが,松田・檀原(1978)は狭戸火山灰層に対比される模式地の普賢寺火山灰層のFT年代
を1.6±0.2Maと報告している.いっぽう鈴木(1988)は精華町東畑の普賢寺火山灰のFT年
代として1.60±0.25Maと報告している.この火山灰層は本報告のN0888と同じ露頭のものと
考えられ,火山ガラスの化学組成からNO888は狭戸火山灰層に対比できるので,両者の放射年
代について今後の検討が必要である.
生駒市域水理地質図作成委員会(1989)は鹿ノ畑火山灰: 1.9 ± 0.2Ma,鹿ノ畑Ⅱ火山灰: 2.3
l
L
l
20
西 田 史 朗
室生溶結凝灰岩:N0410
tつ
!"1E
LL
石仏凝灰岩: NO
L,:__」
rtJ
l=l
H=
」=:.
DUO
L叫
uLn
31
」。
;」。
i^^v^^Hl 二 L
0 2 4 B B
Lここ_._,_=
K2B
二 二
toED
Nlつ
_」
CIニ
DDエ
L...一㌢=
5
1
i
0
)
1
叫gl顛叫
Ou∑+D山﹂
∴
∴.
K2G
QZW+BZbN
t⊃
CNiui
ゝニ
i
的
D
6D 6S ?t】 75 80 85
SI02
RU
s
SI02
752
」5
fl'nI
I
65 フD フ5 80 B5
SI02
図3.室生溶結凝灰岩と石仏凝灰岩火山ガラスの化学組成散布図
縦軸・横軸の数値は%.
N0410 :室生溶結凝灰岩(白色岩相),山辺郡都祁村民ケ平.
N0097 :模式地・石仏凝灰岩,奈良市警多林.
±0.2Ma,緑ヶ丘火山灰:2.1±0.5MaのFT年代を報告している.このうち緑ヶ丘火山灰は大
阪層群下部の島熊山火山灰層に対比されるが,島熊山火山灰層のFT年代の2.4 ± 0.3Ma (西
村・笹嶋, 1970)と大きくかけ離れるものではない.松田・檀原(1978)は東畑火山灰層のFT
年代を2.16Maと報告している.この東畑火山灰層は本報告のN0845火山灰層に相当する.
三笠凝灰角嘩岩層の放射年代は松岡(1974)によって13.OMaと報告されているが,層位的に
接近する三笠安山岩の年代値とも調和的である.三笠安山岩について川井・広岡(1966)はK
-Ar法で13.3±2.3Ma,実はか(1980)も同じくK-Ar法で13.1±1.2Ma,西田(1990)は
FT法で13.0± 1.3Maと報告し,測定値の良い一致をみている.玉手山凝灰岩について横山ほ
か(1984)はFT法で14.0±0.6Ma,石まくり火山岩について巽ほか(1980)はK-Ar法で
13.0±0.7Maと報告している.
室生溶結凝灰岩層について川井・広岡(1966)はK-Ar法で13.1 ±0.4 Ma,松田はか
(1983)はFT法で15± 1 Maと17.5±0.9Ma, Matsudaetal.(1986)はFT法で15.3±0.6
Ma, 15.7±0.7Ma, 17.5±0.9Maを報告し,平均すると15.7Maとなる.西田(1990)は室
生溶結凝灰岩に相当する石仏凝灰岩層のFT年代を15.2 ± 0.9Maと報告しているが,両者は年
代的には良い一致をみている.
3.室生溶結凝灰岩と石仏凝灰岩
横田ら(1978)は中部中新統室生層群室生溶結凝灰岩と石仏凝灰岩を対比し,岩相の違いにつ
奈良盆地とその周辺の火山灰層序と年代層序
21
いて,給源からの距離の差が溶棺と発泡の程度に表れたものとした.化学組成からみて両者はは
ぼ一致したものと考えられる.強く溶結した凝灰岩では,火山ガラスの分離が不十分になりがち
で,測定の一部に異常な数値が認められるが,火山ガラスの精製が充分になされた測定では良い
一致をみる.
また室生溶結凝灰岩の白色岩相と黒色岩相について,火山ガラスの組成に大きな差異がみられ
ない.既に志井田ら(1960)は白溶岩と黒溶岩は同じ化学組成を示すことを指摘しているが,色
相の違いを説明していない EDS分析に際して試料表面を走査電子顕微鏡下で観察し,室生溶
結凝灰岩のガラスについて白色岩相と黒色岩相に発泡度の差異があることが分かった.すなわち
白色岩相のガラスはど発泡がよく,黒色岩相のガラスは撤密である.この白色岩相がさらに発泡
度を高めたのが石仏凝灰岩であるとして説明することができる.
謝 辞
大阪層群とその相当層の火山ガラス化学層序の研究に当たり,次の方々に試料の提供と多くの
ご教示をいただいた.山口大学理学部・石田志朗教授,同志社大学工学部・横山卓雄教授,同・
中川要之助博士,同・林田 明博士,京都大学理学部附属地球物理学研究施設・竹村恵二博士,
大阪教育大学・菅野耕三博士,地盤地質研究室・中世古幸次郎博士, (秩)京都フィッショント
ラック・檀原 徹氏,川崎地質(秩) ・渡連正巳氏.記して感謝の意を表したい.
引 用 文 献
生駒市域水理地質図作成委員会(1989)生駒市域水理地質図・説明書.
市原 実(編集代表) (1991)大阪とその周辺地域の第四紀地質図.アーバンクボタ, no.30.株式会社ク
ボタ.
石田志朗・横山卓雄(1969)近畿・東海地方の鮮新・更新統火山灰層序,及び古地理・構造発達史を中心と
した諸問題-近畿地方の新期新生代層の研究,その10-.第四紀研究., 8, p.31-43.
川井直人・広岡公夫(1966)西南日本新生代火成岩類若干についての年代測定結果.日本地質学会他3学会
連合学術大会討論会資料・年代測定結果を中心としてみた日本の酸性岩類の形成時期 p. 5.
町田 洋・新井房夫(1983)広域テフラと考古学.第四紀研究 22-3, p.113-148.
・ ・小田静夫・遠藤邦彦・杉原重夫(1984)テフラと日本考古学-考古学研究と関係す
るテフラのカタログ-.古文化財に関する保存科学と人文・自然科学-総括報告書-, p.865
-928.
松Ef]高明・鳥居雅之・翼 好事・横山卓雄(1983)室生溶結凝灰岩のFT年代とK/Ar年代 日本地質学
会関西支部報, no.83, p.10-ll.
・檀原 徹(1978)火山灰層のフィッション・トラック年代.同志社田辺校地及びその周辺の地質
-南山城の自然史 p. 33 - 36.同志社大学校地学術調査委員会.
Matsuda,
T.,
Torii,
M.,
Tatsumi,
YリIshizaka,
K.,
Yokoyama,
T.
(1986)
Fission-Track
and
K-Ar
Ages
of the Muro Volcanic Rocks, Southwest Japan. J. Geomag. Geoelectr., 38, p. 529 - 535.
松本英二・前田保夫・竹村恵二・西田史朗(1987)姶良Tn火山灰(AT)の14C年代 第四紀研究, 26-1,
p.79-83.
松岡数充(1974)大和高原およびその西縁部の新生代層,とくに地獄谷・都介野層群について.大阪市立大
学修士論文(手記).
・西田史朗(1980)奈良盆地の最上部更新∼完新統.長崎大学教養部紀要,自然科学編, 2ト1,
西 田 史 朗
22
p.35-47.
・ ・金原正明・竹村恵二(1983)紀伊半島室生山地の完新統の花粉分析 第四紀研究, 22
-1, p.1-10.
(1984)奈良盆地の上部第四系と古環境-布留遺跡をめぐって-.埋蔵
文化財天理教調査団考古学調査研究中間報告 no. 10, p. 5-24.
日本の先史・原史時代の人々の地形認識と土地利用研究グループ(1986)先史・原史時代奈良盆地の自然環
境-その1地形と地質について-.古文化財教育研究報告 no.15, p. 1-30.奈良教育大学.
西田史朗(1982) 5万分の1表層地質図「桜井」.土地分類基本調査,表題地域,奈良県.
(1983a) EDXによる火山灰の同定-可能性の検討-.奈良教育大学紀要 32, p. 53-62.
(1983b) 5万分の1表層地質図「奈良・大阪東北部・大阪東南部」 (奈良県域).土地分類基本調
査,表題地域,奈良県.
(1984) 5万分の1表層地質図「吾野山」.同上.
(1985) 5万分の1表層地質図「上野・名張」 (奈良県域).同上.
(1990)御蓋山とその周辺の地形と地質.史跡春日大社境内地実態調査報告及び修景整備基本構想
策定報告書 p.109-127.春日顧彰会
(1991 a)火山ガラスの化学組成による火山灰の同定-分析と同定の方法-.月刊地球, 13,
p.174-185.
(1991 b)火山ガラス化学組成の層内垂直変化∼大阪層群ピンク・アズキ火山灰層を例として∼.
第四紀研究 30, p.239-250.
・横山卓雄・石田志朗(1986)近畿の遺跡と関わる火山ガラスの特性.考古学と自然科学, no.18,
p.93-110.
・和田穣隆(1991)アズキ火山灰の化学層序.中川久夫教授退官記念地質学論文集. p.215-221.
・高橋 豊・竹村恵二・石田志朗・前田保夫(1992)近畿地方へ東から飛んできた縄文時代晩期火
山灰の発見 第四紀研究(投稿中).
西村 進・笹鴫貞雄(1970) Fission-Track法による大阪層群とその相当層中の火山灰の年代測定.地球
科学, 24, p.222-224.
奥田 尚・吾川周作・原 秀禎(1983)田原本町阪手の上部更新統・完新統.東 潮(宿)磯城郡田原本町
阪手遺跡発掘調査報告 p. 175 - 182.奈良県立橿原考古学研究所.
志井田 功・荒木康雄・藤田和夫・市原 実・笠間太郎・粉川昭平・梅田甲子郎・山田 純・山本 威
(1960)室生火山区の研究丁特にその南部地域について-.地質学雑誌, 66, p.ト16, 2 pis.
鈴木正男(1988)第四紀火山灰層のフィッショントラック年代について.地質学論集, no.30, p.219-221.
多井義郎(1957)西部瀬戸内新生界の微化石層位学的研究 広島大学地学研究報告 5, p.ト58.
巽 好幸・横山卓雄・鳥居雄之・石坂恭一(1980)大阪周辺及び山口県東部に分布する瀬戸内火山岩類の
K-Ar年代-瀬戸内火山岩類の年代測定,その4-.岩鉱 75, p.102-104.
樋田修一郎・松岡数充・屋舗増弘(1978)信楽・大和高原の新生代層とそれにまつわる諸問題-信楽・大
和高原のネオテクトニクス研究 その1-.地球科学, 32-3, p.133-150.
横山卓雄・檀原 徹・中川要之助(1984)大阪府南部地域の第四系・第三系中の火山灰層のフィッション・
トラック年代 地質学雑誌, 90-ll, p.78ト798.
・西田史朗(1987)琵琶湖深層試錐中の火山ガラスのEDX分析による火山灰の同定と対比.地質
学雑誌, 93, p.275-286.
吾川周作・吉田史郎・服部俊之(1988)三重県員弁付近の東海層群火山灰層.地質調査所月報, 39, p.615
-633.
(1989)三重県亀山地域の東海層群火山灰層.同上, 40, p.285-298.