<メディアウオッチ> 国民不在の政治と日米問題の核心に触れない報道

<メディアウオッチ>
国民不在の政治と日米問題の核心に触れない報道
2013 年 12 日 31 日
上出 義樹
憲法や民主主義脅かす重大ニュースが師走に相次ぐ
2013 年はあと1日で幕を閉じるが、あわただしい師走に入って、民主主義や憲法をない
がしろにしたり都民・県民を愚弄したりするような国民不在の重大ニュースが相次いだ。
①与党の強行採決による特定秘密保護法の成立(12 月 6 日)②医療法人徳洲会グループ
から現金 5 千万円を受け取った猪瀬直樹東京都知事の辞任(24 日)③中国・韓国ばかりか
同盟国の米政府からも異例の批判を受けた安倍晋三首相の靖国神社参拝(26 日)④普天間
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基地「移設」のための仲井真弘多沖縄県知事による電撃的な名護市辺野古野の埋め立て承
認(27 日)-などである。いずれも国内 10 大ニュースに入るような大きな問題である。
このうち、猪瀬前知事の 5 千万円問題は既に 12 月 23 日付の当欄で詳しく触れているが、
それ以外の 3 つのニュースについて新聞やテレビはどう報じているのだろう。各メディア
の報道から見えてきたのは、表面的には特定秘密保護法や首相の靖国参拝などを厳しく批
判する大手紙も、日本の政治の根幹に横たわる日米同盟の核心的な問題にはほとんど切り
込まず、その一方で安倍首相とは親密な関係を築こうとする、報道の舞台裏の現実である。
日米安保が絡む特定秘密保護法や普天間基地の県内移設問題
これら 3 つのニュースに対する在京紙の論調は大きく2つのグループに分かれる。賛成
派は読売と産経、批判派が朝日、毎日、東京、そして日経は中間派というところだろうか。
3つのニュースのうち、靖国参拝は他の 2 つの問題に比べ性格が異なるが、秘密保護法
と辺野古埋め立てには重要な共通点がある。問題の根源には米国が絡んでいる点である。
政府関係者や軍事専門家の情報などを総合すると、特定秘密保護法の制定は、情報通信
技術の最先端を行く機密性の高い次期主力戦闘機 F35 の導入に向け、公務員だけでなく、
部品製造などに参加する日本の民間企業も含めた秘密保全の強化が直接の目的で、米政府
の強い要求に基づく法律だと言われている。法案作成の中心になった警察官僚により軍事
や外交ばかりでなく、国民の基本的人権をも侵害しかねないさまざまな分野の「秘密」に
網がかけられてはいるが、同法の背景にはっきりと見えるのは日米安保条約である。
沖縄の地元紙に比べ仲井真知事や両国政府への厳しい批判がない全国紙
一方、沖縄に駐留する米海兵隊基地の普天間から辺野古への県内移設を意味する仲井真
知事の埋め立て承認は、日米安保に直接絡む問題である。これに対して地元紙の沖縄タイ
ムズと琉球新報はともに 28 日付社説で、「県外移設」の選挙公約違反として仲井真知事に
「辞職して県民の信を問え」と要求。琉球新報は「日米の植民地的政策のお先棒を担いで
はならない」などと、日米同盟そのものへの批判をにじませている。
ところが、朝日、毎日、東京の 3 紙はそれぞれ同日付社説で「沖縄の負担を分かち合う」、
「県民は納得していない」「沖縄の民意置き去りか」とのタイトルを付けて埋め立て申請の
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承認をそれなりに批判しているものの、知事への辞職要求や日米安保批判などがあるわけ
でなく、沖縄の地元紙に比べ何とも歯切れが悪い。埋め立て賛成派の読売に至っては同日
付社説で「日米同盟強化への重要な前進だ」と、逆に仲井真知事をほめちぎっている。
画竜点睛を欠く朝日などの秘密保護法批判報道
安保条約を軸にした日米同盟には、在京 6 紙を含め主要メディアのほとんどが賛成し、
改憲派の読売や産経新聞などは、北朝鮮の存在や中国との緊張関係の高まりなどを理由に
日米同盟のさらなる深化を主張している。世論調査などでも国民の多数が日米安保を支持
しているが、肝心な場面で米国に逆らうことができない日本政府に対しては、国内外から
「米国政府の日本支部」「まともな独立国とは思えない」などの揶揄が聞かれる。
現実にマスメディアも、沖縄の新聞などを除き、日米同盟を真っ向から批判すること
はほとんどない。朝日新聞などは特定秘密保護法の成立後も、民主主義とは相容れない
同法の問題点をさまざまな角度から批判している。同紙の意欲的な報道は評価したいが、
もともと同法は米国から押し付けられた法律である。その核心である日米同盟の問題点
にしっかりと切り込んではおらず、画竜点睛を欠く印象は否めない。
マスコミ幹部と安倍首相との会食は今月も頻繁に
こうした紙面内容などと併せて指摘したいのは、以前にも書いたことがあるが、報道
各社と安倍首相の蜜月ぶりである。安倍首相は昨年 12 月の就任以来、歴代の首相に比
べはるかに高い頻度で新聞やテレビ、通信社などの経営陣や編集幹部らと意欲的に会食
している。会食相手の中には、読売などに比べ安倍政権に批判的とされる朝日の社長も
含まれている。これまで大手紙の経営幹部らは首相との会食の際、独禁法の唯一の適用
除外品目になっている新聞の再販価格(全国統一価格)維持や、消費税の軽減税率適用
などを要望することが多い。各紙の首相動静欄などによると、この 12 月も読売グルー
プの渡辺恒雄会長や朝日の政治部長、NHK の解説委員、日本テレビの報道局長らマス
コミの幹部と頻繁に会食している。
政権への委縮ムード強まる NHK
欧米の場合、大手メディアの経営トップはその公共的使命から、政権首脳との会食な
どを自粛するのが通例だが、日本では首相のメディア対策に乗じて自ら権力にすり寄っ
ている感がある。こうした中でとくに懸念されるのが、安倍首相の意に沿った経営委員
や会長の選出が行われた NHK。ニュース番組では、民放キャスターに比べ安倍政権を
揶揄するようなコメントはほとんど聞かれず、委縮ムードがより一層強まっている。
(かみで・よしき)北海道新聞で東京支社政治経済部、シンガポール特派員、編集委員
などを担当。現在フリーランス記者。上智大大学院博士後期課程(新聞学専攻)在学中。
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