基礎現代化学シケプリ( 基礎現代化学シケプリ(3)光と分子編 光と分子編(第七、八回分) この辺りの内容はここまでの講義の内容の組み合わせで理解できる。 1.光の吸収と放出 電子が原子軌道の間を遷移するとそのエネルギー差の分の光が放出される。それと同じ ことが分子軌道の間でも起こる。原子の構造編でも述べたように、軌道間のエネルギー差 と同じ分だけのエネルギー(エネルギーは周波数によって決まる)を持った光が当たった ときに電子が分子軌道間を遷移する。電子軌道の遷移が起きると、分子は原子の反発など を含めた上で最も安定な形に変化する。その際軌道のエネルギーが変化し、中にはエネル ギーが変化前より高くなってしまう軌道も出てくる。 a. エチレンの場合:ごく基本的で、上の原則どおり。光異性化と関係があるという点 に注意。 b. 共役ポリエンの場合:炭素数が増えるほど電子が自由に動ける範囲が増えるので、 エネルギーは下がる。炭素が増えるほど一番外側の軌道は不安定になり、その軌道 に対応する反結合性の軌道とのエネルギー差が小さくなって遷移がおきやすくな る。 c. 遷移金属錯体の場合:金属原子に配位子がつくことによって、電場が電子軌道のう ちの d 軌道に作用する。それにより全て同じエネルギーを持っていた d 軌道が高エ ネルギーの軌道と低エネルギーの軌道に分かれる(d-d 遷移)。この軌道の間でも先 述のような遷移が起こり、光が吸収される。 補足:プリント中の色素について ・ カロテン:緑黄色野菜中に含まれる黄色色素。 ・ アスタキサンチン:甲殻類の殻、タイの体表、サケ類の筋肉などに含まれる赤色色素。 ・ リコピン:トマトや柿などに含まれる赤色色素。 ・ インジゴ:アニリンを原料とする青色の合成染料。ジーンズなどの染色に使われる。 ・ クロロフィル:葉緑素の別称。緑色。 ・ ヘム:ヘモグロビンに含まれる赤色色素。 2.分子スペクトル 分子の電子の状態遷移により現れる電磁波は可視領域に現れる。これを分光して得ら れるスペクトルは原子のように線スペクトルとならず、帯状になる。これは発する光の 周波数にブレがあるということで、つまり軌道間の遷移の際のエネルギーにブレがある ということ。これは分子の回転及び振動に起因する。 3.分子の振動運動 a.電気双極子モーメント 絶対値の等しい正負の二つの電荷が距離を持って相対する系(電気双極子)において、電 荷と距離の積を電気双極子モーメントという。これは正電荷から負電荷に向かうベクト ルで、分子全体でこれらを足したものが分子全体の双極子モーメントとなり、分子全体 の電荷の偏りを表す。 振動していない状態では電気的に偏りが無い分子でも振動しているときには電気的偏 りが生じ、電気双極子として振舞うものがある。 b.分子の振動運動 分子の振動運動は力学の法則によって式を立てれば記述できる。解いたらプリントの ような式になる。面倒な人は結果の式だけでも覚えておけば良いかと。 分子全体の振動運動で生じる電磁波の波長は赤外線領域。赤外線領域の電磁波を当て ると励起状態になる。 c.分子の振動モード 分子の振動モードは直線分子で(3N-5)、非直線分子で(3N-6)。直線分子は比直線分子と 比べて軸方向に回転しても同じ形なので自由度が 1 大きい。 d.選択則 電磁波は電荷の偏りが変化するときに作用するので、分子は全体の双極子が変化する 場合のみ電磁波と作用する。 4.分子の回転運動 回転運動でも同様に分子は双極子として働く。この場合の作用する電磁波はマイクロ 波領域の電磁波である。 以上のような運動がお互いに作用しあって分子の電磁波スペクトルは生じる。これらが 分子のスペクトルが線スペクトルにならない原因である。振動モードや回転運動のスペク トルなどは分子固有のものなので、これらの特性を分析することにより分子を同定するこ とが出来る。
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