5-16 真空容器で磁場を遮へいし加速器ビーム軌道を安定化

量子ビーム応用研究
5 - 16 真空容器で磁場を遮へいし加速器ビーム軌道を安定化
- J-PARC における漏えい磁場遮へいのための磁性材料製真空容器の開発-
近傍の電磁石からの漏えい磁場 ∼10-3 T
ベローズ
ビームパイプ
ビームパイプ
1m
ベローズ
ビームパイプ
ターボ分子ポンプ
四重極電磁石
計算でモデル化した部位
ビームパイプ
ターボ分子ポンプ
ビームパイプ ビームパイプ
ベローズ
ベローズ
4.5e-3
磁性材料:パイプ胴部,
ベローズ,
フランジ
磁性材料:パイプ胴部,
ベローズ
磁性材料:パイプ胴部
1.5e-3
(T)
(T)
磁性材料製真空容器(ビームパイプ)
がある範囲
2e-3
外部磁場 4.0×10-3 T
1e-3
0
-600 -400
-200
(b)
2e-4
1e-4
0
3e-3
0
200
400
600
10-5
10-6
超高真空領域
(10-5 Pa以下)
(Pa) 10-7
0
1000
2000
3000
測定位置(mm)
図 5-42 真空容器各部品を磁性材料にしたときの磁気遮へ
い性能(計算値)
図 5-41 枠の部位をモデル化して計算した結果です。真空
容器のすべての部品を磁性材料にすることで、効果的な磁気
遮へいができることを示しています。
加速器において真空容器外部からの不要な磁場はビー
ム軌道のずれの原因となるので、そのような磁場をいか
にして遮へいするかは、安定なビーム軌道をつくるうえ
で大きな課題です。J-PARC の 3 台の加速器群のうち
の 3 GeV シンクロトロン加速器(以下、シンクロトロン)
では、ビーム出射部に隣接する電磁石からの 10-3 T 程
度の漏えい磁場によりビーム重心軌道がビームパイプの
中心から 10 mm 程度ずれ、ビームロスが発生するという
事象が生じました。私たちは、ビームから最も近い場所で、
周りを高い透磁率を持った磁性材料で完全に覆うこと、
すなわち真空容器を磁性材料化することが、最善の磁場
遮へいであるとの着想の下、磁気遮へい性能及び高真空
性能を兼ね備えた真空容器の開発を行いました。
図 5-41 に磁性材料製真空容器を設置するシンクロト
ロン出射部ビームラインのレイアウトを示します。ビー
ム軌道の計算から、この領域への漏えい磁場(外部から
の不要な磁場)を真空容器内部で 10 分の 1 に遮へいす
る必要があることが分かりました。図 5-42 に真空容器
の各部を磁性材料に変えたときの容器内部の磁場分布の
磁場計算コードを用いた計算結果を示します。より効果
的な磁場遮へいをするためには、ビームパイプ胴部だけ
10-8
0
10
20
30
40
排気時間(h)
図 5-43 ビームパイプの磁気遮へい性能と真空性能(実測値)
(a)磁性材料製真空容器により外部からの不要な磁場を大幅
に遮へいできました。
(b)磁性材料製真空容器においても超高真空を達成できるこ
とが分かりました。
でなく、フランジやベローズといったすべての部品を磁
性材料にする必要があることが分かりました。そこで、
薄肉のビームパイプ胴部及びベローズに透磁率の高い
パーマロイを、厚肉のフランジにフェライト系ステンレ
ス鋼を用いることとしました。
磁性材料は加工時に発生する内部応力によって透磁率
の減少が起きます。磁気性能を回復させるためには、一
般的に熱処理(磁気焼鈍)を行います。一方、超高真空
を達成するためには真空容器に用いる材料を高真空下で
熱処理し、脱ガスをします。私たちは、磁気焼鈍及び脱
ガスの両目的を同時に達成するために、製作の最終段階
で真空容器を高真空化で熱処理を行いました。図 5-43
に熱処理をした磁性材料製真空容器
(ビームパイプ)
の磁
気遮へい性能及び真空排気性能の測定結果を示します。
外部からの不要な磁場を真空容器内で 10 分の 1 以下に
遮へいするという目標を達成できました。また、これまで真
空性能が未知であった磁性材料の真空容器においても、
超高真空を達成できることが分かりました。
このように、
優れた磁気遮へい性能と超高真空性能を兼ね備えた磁性
材料製真空容器の採用によって、シンクロトロンのビー
ム軌道の安定化に見通しを得ることができました。
●参考文献
Kamiya, J. et al., Vacuum Chamber Made of Soft Magnetic Material with High Permeability, Vacuum, vol.98, 2013, p.12-17.
80
800
測定位置(mm)
圧力
真空容器内部の磁場
外部磁場 2.0×10-3 T
真空容器内部の磁場
(a)
ビーム
パイプ
図 5-41 J-PARC の 3 GeV シンクロトロン
における磁性材料製真空容器の設置想定箇所
シンクロトロン出射部では、隣接する電磁
石からの漏えい磁場がビーム軌道へ影響を
与え、外部からの不要な磁場となっていま
す。そのような磁場を遮へいするために磁性
材料製真空容器(ビームパイプ,ベローズ)
の開発を実施しました。
原子力機構の研究開発成果 2014