PPPニュース 2015 No.14 (2015 年 10 月 25 日) 外部委託等民間化の質的改善とデータベースの形 愛知県小牧市の住民投票をはじめとして、公立図書館の民間委託が政治的課題ともなっている。指 定管理者等民間委託は、行財政の効率化や公共サービスの質的改善を目指して取り組まれるものの、 持続的に公共サービスの質を進化させるマネジメントの仕組みが不足する場合が少なくない。今回の 図書館を巡る外部化に関するいくつかの議論も民間化の手法自体を否定するのではなく、民間化に対 する官民を通じたマネジメントのあり方を徹底して改善していくことが必要となる。この点をフラン スの事例でみることにしたい。フランスでは地方分権改革として「共和国新国土区分」の取組みが進 められている。これは、従来の地方区分を見直して行政が地域に密着することを推進し、公共サービ スの簡略化・迅速化を実現することを目指すものであり、具体的には、現在の 22 の地域圏を 13 に組 み直して、財政の効率化と経済活性化の実現を最終目的としている。新国土区分案では、各地域圏の 平均人口を 450 万人程度として 2016 年の実施を目指している。 フランスの地方分権改革の推進は、前述したように公共サービスの改革と同時並行的に進められて いる。そのため、公共サービスの内容や簡素化に関して市民から新たな視点や企画の提示を可能とす る「FAIRE SIMPLE」という仕組みがオンライン形式で導入されている。このオンラインでの仕組 みは、公共サービスの改革等に関して首相府内に設置された横断的組織である公共施策現代化総局と 双方向で検討できるポータルサイトとして機能している。FAIRE SIMPLE では、①現在進行中のト ピックスの提供、②ソリューション形成のための対話と検証、③解決策の形成が機能として組み込ま れている。 具体的にみると、①現在進行中のトピックの提供は、行政手続きを含む公共サービス全般に対して、 一般市民および行政職員双方がアイデアを出し合い、それに対して助言や意見提示したりできるオン ラインによるブレーン・ストーミング方式が採用されている。2014 年 10 月時点での具体的内容とし て「革新的な行政として何を望むか」 、 「イライラする行政手続は何か」「企業としてどのような行政 分野の簡略化を望むか」などが柱となって議論されている。 ②ソリューション形成のための対話と検証では、一般市民と行政側職員の対話により手続簡略化の ための可能性などを模索している。具体的には、オンラインによる税務申告、起業手続、憲兵隊員に よる IT 活用、社会保険料徴収など公的分野の広範多岐な領域にわたっている。 ③最後の解決策の形成は、ブレーン・ストーミングの対話により構築された解決策を模索し、その 導入に向けて関連機関で検討を行うことで進められる。それにより有効と判断された提案については 公共施策改善のための省庁委員会がさらに検討を進める。そして、公共サービスについて個人向けサ ービス、企業向けサービス、サービス提供者たる行政機関の3つのブロックに分け、各措置の達成状 況が明示されている。 ①から③をオンラインによる対話方式で展開する前提として、公共サービスの提供を担う機関・団 体を対象にデータ共有サイトである「DATA.GOUV.FR」が設けられ、民間化も含めた公共サービス の質的改善に向けた戦略的かつ質の高い情報の提供が行われている。フランス国立統計経済研究所作 成データをはじめとする情報を活用可能とし、その後、行政機関はもちろんのこと外郭団体のデータ が継続的に追加されている。国、地方自治体、公益団体や行政の外郭団体などは、公共サービスの提 供を通じて得られた個人情報を除く、税務・財政・国土整備・住居・犯罪・観光・選挙等の広範な公 的データを共有することが可能となっている。また、市民からの情報提供も直接可能であり、公益事 業に関する情報をより市民のニーズに適した内容にする努力が進められている。図書館の蔵書目録や 道路の状況等日常生活において気付いた点を市民が情報として行政機関に提供することにより、公的 サービスの質改善に行政機関が行動できる仕組みを構築している。外部化等民間委託はスタートから 完成品を創り出すことはできない。行政と民間そして市民が一体となってく、質的進化させていく情 報ネットワークの仕組みの充実が必要である。 © 2015 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE
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