講演 - 公益財団法人 図書館振興財団

公益財団法人図書館振興財団
第15回 子どもの本 この1年を振り返って 2014年 講演録
■絵本の部■
講演:日本子どもの本研究会・絵本研究部
五十嵐
静江
日本子どもの本研究会 絵本研究部(以下「絵本研」)の五十嵐静江です。よろしくお願い致
します。
今回ご紹介する本は、絵本研の定例会で評価が高かった本、評判になった本、そして、図
書館振興財団 児童書選書委員会の定例会で選ばれた本などに、私自身が良いと思った本な
どを付け加えたものです。
■良い絵本に出会うことの難しさ
まず、2014年に刊行された絵本についての感想を述べさせていただきます。
毎年たくさんの絵本が出ますが、なかなかいい本に出会えないということをよく聞きます
し、私自身もそう感じます。同時に、良い本があってもなかなかその本に出会えない、
例えば書店に行っても偶然出会うということは稀ですし、リストを持って書店に行っても
目的の本が見つからないということも度々あります。いい本でも埋もれてしまうというの
はとても残念なことだと思っています。
今年は昔話の絵本が少なかったようですが、何か出来事があって物事が展開していくとい
うストーリー性のある絵本も少なかったように感じました。その分、身近なテーマが多か
ったようです。
「遊び」を取り上げた本も、掘り起こしの絵本、昔の遊び、想像を膨らませ
た遊びなど、色々と楽しいものがありました。しかし、現実の子どもたちの遊びを考える
とギャップが大きすぎて、少し複雑な気持ちになります。
絵本研の定例会では、「絵は良いのにストーリーが…」という意見が度々出ました。
一方で、絵が上手な方が増えているように感じます。イラストレーターの方が絵本を描く
ということも増えているように思います。
科学やノンフィクションの絵本はテーマが広く、驚かされることも多くていつも楽しみで
す。今年も楽しい絵本がたくさんあったように思います。科学の知識を深めてくれる絵本
は、意外性があって面白いと思いました。
■幼い子の絵本
今回は、テーマや主人公別に、絵本をご紹介していきたいと思います。
最初にご紹介するのは、幼い子に向けた絵本『いいないいな』です。赤ちゃんや幼い子ど
もたちの絵本の特徴に、オノマトペや繰り返しがあります。これもそんな絵本です。
1
「いいな
いいな
いぬさんの
ちゃんの
ほっぺ
ぴかぴか
おかお
もしゃもしゃ
おかお
いいな
いいな
ぷう
ほっぺ」
子どもたちにとって、言葉が大事なのは言うまでもないことですが、手や体が触れ合うと
いうことも、とても大切だと思います。動物に触れた時や、触れられた時の感覚というの
でしょうか、それが伝わってくる本だと思います。触れ合い遊びのようなものにつながっ
ていくのではと思いました。
続いて『いろいろバナナ』です。この本は、色々なバナナのスイーツが出てくる本です。
「かわに
てこい
かくれた
さむがりバナナ
こちょこちょこちょ
ました!
バナナの
でてこい
は……
は……
でてこい
くすぐるぞ
はっくしょーん!
でてこい
で
すぽぽぽーん!
で
きょうだいです」
この本は小学校で 2 年生の子どもたちに読みましたが、バナナが皮を脱いで寒いという場
面で、少し共感するような雰囲気があり、最後にも楽しい場面があるのですが、その時に
すごく嬉しそうな顔になりました。その日はとても寒い日だったので、私の読み方に実感
がこもっていたのかもしれません。私も、皮を脱いだバナナが子どもたちに見えてきて、
何だか楽しい気分になりました。
次は、
『おやすみおやすみ』です。これは1960年頃に出版された古い絵本です。作者は、
詩人でたくさんの絵本を書いているシャーロット・ゾロトウです。表紙は、少し暗い感じ
で、手に取りにくいような気もしますが、絵も文もやさしく、眠りに誘ってくれる本です。
「クマは
ながい
ながい
ふゆの
あいだ
くらい
すあなで
ぐっすり
ねむりま
す。」画面もちょっと暗めですが、雪や月などが明るさを添え、動物たちの閉じた目が、穏
やかで優しい雰囲気です。親子での読み聞かせに向いている本ではないかと思います。
■遊びや日常、冒険を描いたユーモラスで元気の出る絵本
続いて、
「遊びや日常、冒険を描いたユーモラスで元気の出る絵本」ということで、ちょっ
と楽しい本を選んでみました。
『だるまちゃんとやまんめちゃん』です。これは、加古里子さんの『だるまちゃん』シリ
ーズ(福音館書店)の 7 作目です。ボール遊びをしていただるまちゃんは、山で暮らすやま
んめちゃんに出会います。やまんめちゃんは風邪をひいたおばあちゃんの薬草を探しに来
ていたのです。おばあちゃんのお見舞いに山まで出掛けただるまちゃん。何日かしてまた
遊びに行くと、おばあちゃんは元気になっていて、木の葉で作った鳥をくれました。とこ
ろが、遊びに夢中になっていただるまちゃんは、がけから落ちてしまいます。繰り返しの
多かっただるまちゃんですが、これは少しハラハラするストーリーです。だるまちゃんは、
随分お兄ちゃんになったなと思いました。
2
『しきぶとんさんかけぶとんさんまくらさん』です。これは、男の子が布団たちに色々と
お願いをするユニークなお話です。
「しきぶとんさん
の
おしっこが
かせろ
もしも
てまてよ
しきぶとんさん
あさまで
ひとつおたのみします
よなかに
でたがりませんように」「まかせろ
おまえの
おしっこが
あさまで
まてよと
おれが
よなかに
どうぞ
まかせろ
さわぎそうに
わたし
おれに
なったらば
ま
まてま
なだめておいてやる」
男の子はかけぶとんには、手足を温めてください。枕には、怖い夢を見ませんようにとお
願いします。そのたびに布団たちは、
「まかせろ
まかせろ
おれに
まかせろ」と応えて
くれます。子どもの頃、心の中で、「おねしょをしないように」とか、「怖い夢を見ません
ように」とか祈った経験のある人もいるのではないでしょうか。ユーモラスな中に切実な
願いが込められているように感じ、何だか布団がとても頼もしいように感じました。
『いえでをしたくなったので』です。これは、次に紹介する『クリスティーナとおおきな
はこ』と共に40年以上も前に出された本です。絵は共にドリス・バーンです。子どもた
ちは両親に叱られたらしく、お気に入りのものを持って家出をします。最初に住んだのは
木の上でした。
「えだを
を
きの
わたってゆく
かけて
いえが
ひがな
かぜが
いちにち
すきだった
はっぱの
うたってた
やねを
ざわめかす
あきには
……ふきとばされさえ
あかと
2わのことりが
きんに
なる
す
この
しなければ」
子どもたちは、次に池に浮かべた筏の家に引っ越しますが、筏も沈んでしまいます。森の
洞窟、砂浜のお城と、次々に引っ越しますが、アクシデントが続きます。次々に現れるす
てきな子どもたちの家、そして、そこで満足そうに過ごす子どもたち。モノローグの絵も、
七五調の詩のような文も繊細で、ユーモアに富んでいます。
『クリスティーナとおおきなはこ』です。箱が大好きなクリスティーナはある日、今まで
見たこともないような大きな箱を手に入れます。お父さんが穴をあけてくれ、クリスティ
ーナがペンキで絵を描き、お城を作りました。クリスティーナは楽しく遊びますが、隣に
住むファッツという男の子に壊されてしまいます。そこで、今度は箱を横にして秘密基地
を作りますが…。壊されても壊されても次々に新しい遊びを考え出すクリスティーナと、
邪魔な箱を捨てようと待ち構えるお母さんのやり取りが愉快です。この本はアメリカの多
くの教科書に掲載されているそうです。
『いえでをしたくなったので』とは違った雰囲気で、
子どもたちのエネルギーがダイレクトに伝わってくるような気がします。
『ルイスがたべられちゃったひ』です。ある日、サラと弟のルイスが森に出掛けると、サ
ラの目の前でルイスが「べろべろかいじゅう」に飲み込まれてしまいます。サラはルイス
を助けるためのものを探すと、後を追いかけます。でも、もう少しというところで、
「ばさ
3
ばさかいじゅう」に飲み込まれてしまいます。サラはまた追いかけますが、また違う怪獣
に飲み込まれてしまいます。次から次へと大きなものに飲み込まれていくというストーリ
ーはよくあります。でも、これはなかなかダイナミック。次々に現れる怪獣たちもユニー
クですが、追いかけるサラの自転車も少しずつ変わっていくなど、面白いなと思いました。
『ひみつのかんかん』は、女の子とひいおばあちゃんの会話で進みます。今までおばあち
ゃん、おじいちゃんの家に行ってもひいおばあちゃんとは遊んだことがありませんでした。
でもある日、ひいおばあちゃんの部屋から転がり出てきたビー玉を届けたことから、ひい
おばあちゃんは宝物のかんかんを女の子に見せてくれました。中に入っていたのは、家族
の写真や思い出の品々でした。女の子は、だっこされている赤ちゃんがひいおばあちゃん
だと知ってびっくりします。 お父さんに駄目だと言われていたのに、内緒でラムネを飲ん
でいる場面もあります。このビンの中に、そのビー玉が入っていたのです。これは今まで
誰にも言ったことのない、ひいおばあちゃんの秘密です。昔の家の様子、街中、駄菓子屋
さん、ひいおばあちゃんの子どもの頃のことが生き生きと丁寧に描かれている、楽しい本
です。
『江戸っ子さんきちと子トキ』は、江戸時代が少し身近に感じられる本です。2人の男の
子が、巣で卵を温めているトキを見つけます。やがてヒナは無事にかえり、寺子屋の師匠
と一緒に見守っていると、ある日 1 羽のヒナが巣から落ちてきました。飛べないヒナは巣
には帰れません。巣立ちの日まで子どもたちが世話をすることになりました。
コマ割りの絵ですが、子どもたちの一生懸命さやトキが育っていく様子、昔の暮らしぶり
が伝わってきます。トキが旅立っていく絵がとてもいいなと思いました。
『ボタ山であそんだころ』です。今から50年ほど前の、炭鉱での暮らしぶりや遊び、そ
してガス爆発事故を、子どもの目から見たお話です。3年生になった私は、隣の席になっ
たケイコちゃんと仲良くなります。ケイコちゃんは、絶対にやってはいけないと言われて
いる遊びに私を誘います。ボタ山にのぼること。川のコンクリートをピョーン、ピョーン
と渡ること。足がすくんで動けない私を、ケイコちゃんの声が後押ししてくれました。あ
る日授業中に、バリバリバリという爆音が響き、数えきれないほどのヘリコプターが炭鉱
に向かっていきました。炭鉱でガス爆発が起きたのです。
作者の石川さんは、子ども時代を炭鉱の町で過ごされたそうです。様々な濃度の鉛筆を駆
使して描かれた中に、ところどころ水彩画の絵の具が添えられています。
『ゆうぐれ』です。
『よあけ』(福音館書店, 1977年刊)、
『おとうさんのちず』(あすな
ろ書房, 2009年刊)などを書いたユリ・シュルヴィッツの作品です。男の子とおじいさ
んが散歩に出掛けます。川に沈んでいく夕日、夕暮れ時の街並み、とても美しい絵です。
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思い思いに歩く人々。やがて日が沈むと、街灯がともっていきます。今日はクリスマス。
様々な光が町に満ちています。
「よるもきらきらしてるんだね!」と男の子が言います。光
に満たされた夜の町を歩くのは、子どもにとって特別な時間のような気がします。クリス
マス絵本としても使えると思います。
『ペニーさんのサーカス』です。マリー・ホール・エッツによる、
『ペニーさん』シリーズ
(徳間書店)の3冊目です。ペニーさんとたくさんの動物が暮らす農場に、ある晩、サーカ
スから逃げ出したチンパンジーのスージーとクマのオラフがやってきました。2匹は、シ
ョウで芸をするのは楽しいけど、おりの中や、冬に古い工場に閉じ込められるのが嫌だ、
サーカスには戻りたくないと言うのです。ペニーさんは、
「なんとかいっしょうけんめいが
んばって、おまえたちを買うようにするから。」と言って、みんなでサーカスの団長さんを
訪ねていきます。そしてサーカスを見物することになりました。さあ、この後どんなこと
が起きるのでしょうか。
以前に刊行された2冊の挿絵は木版画で、今回はタッチが全く違いますが、サーカスの様
子など細かく描き込まれています。楽しいお話の展開に、絵本研の定例会でも人気があっ
た本です。
■家族・友だちとの出来事、戸惑いやがんばりを描いた絵本
これからは、家族や友達との出来事、戸惑いや頑張りを描いた絵本をご紹介していきます。
先程の本より、更にもう少し子どもたちの心に触れていると思われる本です。
『あげます。
』は、妹を「へんなの」と言って、誰かにあげてしまおうと奮闘するお兄ちゃ
んのお話です。ある日ママにだっこされて、ぼくの家にへんなのがやってきます。へんな
のが来てから、パパもママも、おじいちゃんもおばあちゃんも、もうぼくには振り向かな
い。背中人間になってしまいました。「へんなのなんか
そうだ!
へんなのを
だれかに
あげちゃえば
こなけりゃ
よかったんだ。
いいんだ」とポスターを書きます。
でも、へんなのなんて誰ももらってくれません。そこで書いたのが「かわいいあかちゃん」。
思いつきも奮闘ぶりも面白いけど、突然やってきた妹や弟を受け入れることの難しさを感
じさせてくれます。
『あげます。』の僕が積極的にぶつかっていくタイプに対し、『そうちゃんはおこってるん
だもん』の「そうちゃん」は、自分を出すのが苦手なようです。お父さんは妹のなっちゃ
んとばかり遊んでいて、そうちゃんのことはかまってくれません。そうちゃんは怒って、
テーブルの下にもぐってしまいました。本当はお父さんやなっちゃんのことが気になって
仕方がないのに、なかなか自分からは出ていけません。お母さんが帰ってきたのでテーブ
ルから出ようとすると、頭をゴツン。痛くて涙が出てきたのに、みんなの笑い声が聞こえ
てきました…。悲しい気持ちを怒っているという気持ちに置き換えて、我慢しているお兄
5
ちゃん。気付かぬうちに下の子にばかり目が行ってしまうお父さん。実際にありがちなだ
けに、身につまされました。
『あかいえのぐ』は、
『チムとゆうかんなせんちょうさん』(福音館書店ほか)などで有名な、
エドワード・アーディゾーニの作品です。50年ほど前に出版された、お父さんのために
奮闘する子どもたちの物語。サラとサイモンのお父さんは画家です。とても美しい絵を描
きますが、なかなか売れず、貧しい暮らしをしています。家族とみんなでひと部屋だけの
アパートに住んでいましたが、みんな仲良く幸せでした。でも、ある日とうとう、お金が
なくなってしまい、傑作を仕上げるための赤い絵の具を買うことができなくなってしまい
ました。サラとサイモンはどうにかしてお父さんを助けようとします。どちらかといえば
地味で静かな絵ですが、場面ごとの雰囲気や心の動きが伝わってくる、物語にぴったりの
絵だと思います。
『パパのところへ』は、ニューヨーク生まれでマドリード在住、スペイン語で執筆すると
いう作家と、ロシア生まれでキューバ育ち、バルセロナでイラストを習ったという画家に
よる絵本です。主人公の「私」は、ママとおばあちゃんと犬のキケと暮らしています。パ
パは外国に働きに行っています。学校のない日曜日でも、私は早起きします。パパから電
話がかかってくるからです。ある日パパから、こっちに来て一緒に暮らさないかと電話が
ありました。やっとパパに会えると思うと嬉しいけれど、よその国に行くのはちょっと怖
いし、おばあちゃんともキケとも、友達のロシオとも会えなくなる。外国に居るパパのと
ころに行くという特別な出来事なのに、日常はさりげなく過ぎていきます。その中で様々
に揺れ動く少女の気持ちが伝わってくる味わい深い作品です。
『やめろ、スカタン!』。あとがきに「「スカタン」は、見当ちがいやまちがい、場にそぐ
わないこと。また、そうしたことをやってしまった人のことをさして使われます。」とあり
ました。そう叫んだのはシンゴです。シンゴは夏休みのある日、サトシとマサルの3人で
学校のプールにやってきました。顔を水につけられないシンゴは1人で練習しようとしま
すが、サトルとマサルが「手伝ってやる」と、シンゴの顔に水をかけ始めました。初めは
ちょっとふざけていただけなのに、調子に乗って、本気でシンゴを怒らせてしまいました。
「やめろ、スカタン!」と叫んで、シンゴはプールを飛び出しました。怒りが収まらない
シンゴに2人は…。いかにもありそうな出来事、そして、本気でのぶつかり合いがリアル
に描かれています。
『ふしぎなともだち』です。小学校2年生のとき、島に引っ越してきた「ぼく」
。
ぼくのクラスには「やっくん」という不思議な子がいました。授業中でも独り言を言いな
がらどこかへ行ってしまいます。そんなとき、隣の子がついて行って一緒に遊び、いつの
6
間にか戻ってきます。3年生になると先生が、
「やっくんは自閉症というしょうがいがあっ
て、おはなしするのがにがてなの」と教えてくれました。僕はちょっと離れていたけど、
みんなは遊ぶときも勉強するときもやっくんと一緒。そして、僕もだんだんやっくんのこ
とが分かってきます。僕がつらい目に会ったとき、やっくんが励ましてくれました。
「ことばで
しぎな
はなしが
できないのに、心が
わかりあえる。
やっくんは
ぼくの
ふ
ともだちだ」と結んでいます。
■動物が主人公
ここからは、動物が主人公のお話です。
『どうぶつしんちょうそくてい』です。今日は動物
園の身長測定の日。測るのはゴリラ先生です。ウサギは耳をピーンと伸ばし、身長を高く
見せようとしていますが、測るのは頭まで。カンガルーはご自慢のジャンプばかりしてい
て測れません。キリンは大きすぎて、測定器を継ぎ足しします。動物園では基本的には身
長を測らないそうですが、この絵本のために、作者の 聞かせ屋。けいたろう さんは、東
京の上野動物園に取材に行き、実際に動物の身長を測ったそうです。それぞれの動物の特
徴が出ていてとても楽しい本です。
『ちいさなきしゃとおおきなおきゃくさん』です。あるところに、小さな機関士さんがい
て、毎日小さな汽車を町から家まで走らせていました。ある日、大きなお客さんが次々に
乗り込んできます。ジャングルの駅では、大きなゾウのおばさんが無理やり乗り込みまし
た。3人は町に買い物に行くのです。機関士さんが、「かいすぎに
おかえりのにもつは、すくなめに
ごちゅういください。
ねがいますよ」と言ったのに、山のように買い物をし
て乗り込んできたのです。そして、ハチがゾウのおばさんの鼻にもぐりこんで、
「ハックシ
ョーイ!」。動物たちのゆったりとして動じない様子が、ユーモラスなお話です。
『よかったね、カモのおちびちゃん』です。緑に包まれた公園の美しい池に、お母さんガ
モと5羽の子ガモが暮らしていました。お散歩日和のある日、お母さんガモが、子ガモた
ちにちゃんとついてくるように言うと散歩に出掛けました。子ガモたちはそろって歩きま
すが、排水溝を通りかかった時、みんな隙間から落ちてしまいました。その子ガモたちを
助け出したのは誰でしょうか。子ガモの行列といえば、ロバート・マックロスキーの『か
もさんおとおり』(福音館書店ほか)を思い出しますが、この絵本でも優しい人たちの助け
を借りて無事に公園に帰ることができました。ニューヨークで起きた実話をもとにした、
子ガモたちのとてもかわいらしいお話です。
『ヨハンナの電車のたび』は少し変わった絵本です。最初に出てくるのは絵描きさんの手。
そして電車に動物。主人公は子ブタです。でも、まだ名前がありません。子ブタが絵描き
7
さんに声を掛け、服も描いてもらい、名前も「ヨハンナ」と付けてもらって、2人で絵や
お話を作っていくという展開です。
続いて『ほしをさがしに』
。これは図鑑の挿絵などを手掛け、イラストレーターとして活躍
中のしもかわらゆみさんの、初めての絵本です。冬の夜、流れ星を見たネズミが、落ちた
星を探して願いをかなえてもらおうと翌朝外に出ると、雪の上に見たことのない足跡があ
りました。流れ星がはねていったのだと思ったネズミは、足跡を追いかけていきます。
途中、リスやウサギ、キツネやタヌキ、オオカミたちと出会い、みんなで足跡を追いかけ
ます。ところがこの足跡をつけたのは…。森の風景も雪も動物たちも、とても美しい絵で
す。特に動物たちの目や、毛の質感がとてもいいと思いました。
次に『かまきりとしましまあおむし』です。ここにあるのはニンジンの花。ニンジンの花
は虫たちのレストランです。虫たちは大きなカマキリがいるので、見つからないように静
かにしていました。ところが、10匹ものしましま模様のアオムシが木を揺らしながらズ
ンズン上ってきて、すごい勢いで葉っぱも花も食べつくしてしまいました。この本は、カ
マキリとアオムシの楽しいお話ですが、カマキリが動かない虫は食べないこと、キアゲハ
の幼虫がニンジンに付き、丸坊主にすることもあることなど、科学の知識が織り込まれて
います。作家の澤口たまみさんの専攻は、応用昆虫学だったそうです。
『うなぎのうーちゃんだいぼうけん』。これはウナギの一生を、お話という形で忠実に描い
たものです。ウナギのうーちゃんは、遠い南の海で生まれました。そして、海の流れに沿
って日本の近くまでやってきたのです。色々と危険な目に会いながらも、うーちゃんはど
んどん大きくなっていきました。何年も過ぎ、成長したうーちゃんに、もう怖いものはあ
りません。なのに、川にいるのがどうしても我慢ができなくなりました。海に戻りたくて
仕方がないのです。河口に戻ったうーちゃんがその変貌ぶりに驚くなど、この本では、環
境問題にも触れています。
■その他の主人公
『とけいのあおくん』です。目覚まし時計のあおくんは、時計屋さんの棚の上で誰かが買
いに来てくれるのを待っていました。そこへ、男の子がお母さんと一緒に、お父さんの誕
生日プレゼントを探しにやってきます。男の子はあおくんが気に入ったよう。ママも満足、
パパも大喜びです。7時にベルをセットすると、テーブルの上に置きました。でも、あお
くんは心配でした。音が出なかったらどうしよう。緊張して胸がドキドキします。そして
7時。小さいけれど元気いっぱいで一生懸命なのは、子どもたちにそっくりです。デジタ
ル流行りの昨今ですが、こんな時計なら子どもと仲良しになれるかもしれません。目だけ
8
で口はなかったのに、最後に口が大きく描かれているのは、あおくんのうれしい気持ちを
表しているのだと思います。
『じっちょりんのふゆのみち』。
『じっちょりん』シリーズ(文溪堂)の4冊目です。寒い冬、
道に植える種もすっかりなくなり、じっちょりん一家は冬を過ごすため、おじっちょりん
とおばっちょりんの家に向かいます。霜柱や春を待つロゼット状の葉、雪の結晶。小さな
じっちょりんから見る冬の風景は、細かいところまで描かれ、それぞれの美しさが際立ち、
見逃しがちなものを私たちに見せてくれます。裏山にある入り口の階段を下りていくとみ
んなが集まっていました。じっちょりんにはたくさんの仲間がいたのですね。ちょっとう
れしくなりました。表紙の折り返しのところには、それぞれの家族が紹介されています。
■スウェーデンの絵本
スウェーデンの絵本です。今年は偶然なのか、スウェーデンの素敵な絵本の出版が重なり
ました。
『トーラとパパの夏休み』です。今日からパパとの夏休み。トーラはパパと森に出掛けま
した。森に着いてもすぐには動物は見つかりません。
「あっ、キツツキだ!」パパが叫びま
した。でもトーラには見えません。次にトーラはキリンを見つけます。でもパパには見え
ません。パパには見えるリスがトーラには見えないし、トーラには見えるライオンやカバ
がパパには見えません。かみ合わない2人。突然パパが立ち止まり、大きなため息をつき
ました。パパが子どもの頃、この辺りにはトロルが居そうなくらい木がうっそうと生えて
いたのに、今は切り株しかありません。でも、トーラは言います。
「パパには、きりかぶし
か見えないの?
きりかぶのトロルがたくさんいるよ」
スウェーデンの人たちには、森は身近なもののようで、そんな雰囲気が伝わってくる絵本
です。
『みまわりこびと』です。この絵本に出てくる小人は、スウェーデンの妖精トムテです。
トムテは小さな子どもぐらいの大きさで、赤い帽子をかぶり、農場の守り神といわれてい
ます。冬の真夜中、静かに眠る森の農場、そこにたった1人起きているのが小人です。小
人は牛小屋、馬小屋、羊小屋を回り、優しく話しかけます。人間の耳には聞こえないその
言葉が、動物たちにはちゃんと分かるのです。それから、鳥小屋、犬小屋をめぐって、最
後に子どもたちの寝顔を見つめ、
「子どもたち、ちょっぴり目をさましてくれたらいいのに
のう。」とつぶやきます。それから小さな足跡を残し、納屋のすみかに帰ります。文は、
『長
くつ下のピッピ』
『やかまし村のこどもたち』(共に岩波書店ほか)のアストリッド・リンド
グレーンです。絵は素朴で柔らかく、ぬくもりが感じられます。
9
■昔話・わらべ歌・古典
昔話と古典です。ハンガリーの民話の『きつねどん』です。あるところに、ずるがしこい
きつねどんがいました。ある日、ブタの油肉が食べたくてたまらなくなり、空っぽの袋を
膨らませ、脇に抱えると出掛けて行きました。そして親切な赤ギツネの家に泊めてもらい
ますが、あくる朝、袋に入れてあったニワトリが盗まれたと言って泣き出しました。
気の毒に思った赤ギツネから、太ったニワトリをもらいます。
「イッヒッヒッ!うまくいっ
たぞ。もうかった!」そしてキツネは、オオヤマネコ、オオカミと次々にだまし、ごちそ
うを手に入れていきます。でも、クマの家を訪ねた日…。
キツネが真夜中に隠れて、トリやブタにかぶりつく様子はリアルで迫力があり、ちょっと
怖いくらいです。絵本研の定例会でも好き嫌いが分かれた絵本でした。
『蛙となれよ冷し瓜』です。これは小林一茶の生涯を、33の俳句と短い文章で語るアメ
リカ生まれの絵本です。俳句は、画家のストーンさんが子どもたちに読んでほしい句、絵
にしてみたい句、一茶の人柄や生涯を紹介するのにいい手がかりとなる句を選んだそうで
す。「人来たら蛙となれよ冷し瓜」と引かれた句に、クールメロン(cool melons)で始まる
英文と、「やい、冷し瓜やい もしだれか来たら 蛙に化けろよ」という翻訳が付いた句や
解説などで分かりやすくなっています。また、子どもたちの誕生した喜びや失った悲しみ
の句などもあり、一茶の人柄に触れることのできる、味わい深い内容となっています。
■震災関連・平和の絵本
次に、震災関連・平和の本です。
『はしれさんてつ、きぼうをのせて』は震災復興の願いを込めた本です。三陸鉄道北リア
ス線の震災前の平和な風景、震災時の緊迫した様子。一日も早い復旧をめざし作業に取り
組む人々。力を一つにし、復興を遂げていく様子が子どもたちにも伝わる絵本だと思いま
す。
『ほうれんそうはないています』。題名も絵も文もインパクトのある絵本です。
「あのひ、
や
ぼくらは
すくすく
おばさんが、 いっぱい
そだっていました。
こえを
ゆでて
おひたしに。 バターと
ぼくは
たべてもらえません。」
「おいしくなあれ」
かけてくれました。 ぼくは
いためて
おしょうゆ
おじさん
ほうれんそうです。
たらり。 おいしいよ。でも、
お米も牛乳も、カレイもみんな食べてもらえません。それは、放射能のせいでした。
作者の鎌田さんは医師であり、東日本の被災地支援に力を注いでいます。あとがきの中で、
絵はどうしても長谷川さんに描いてもらいたいと思ったと述べています。長谷川さんは、
何よりも子どもたちに正面から伝わるようにと、何度も描き直したそうです。2人の思い
が込められた絵本です。
10
『せんそう
昭和20年3月10日東京大空襲のこと』。私「千恵子」は、お母さんに作っ
てもらった人形を大事そうに抱えています。10人家族で、お父さんは用品店を営む幸せ
そうな一家です。でも、戦争が始まると、小さい私は家に残り、他の兄弟たちは田舎に避
難しました。お父さんも戦争に行きました。そして昭和20年3月10日の夜、アメリカ
のB29という大きな飛行機の大群がやってきて、たくさんの火のついた爆弾を落としま
した。東京の町は火の海に変わり、大きな川も炎の色で赤く染まりました。この本は、助
かった千恵子さんの体験を息子のやすしさんが絵にしたものです。感情を抑え、体験だけ
を伝えている言葉は、かえって心に強く訴えてきます。
なお、12月に『火城』という日・中・韓平和絵本の、中国の方が書かれた本が出版され
ました。2011年以来のことです。ぜひ併せて皆さんにご覧いただきたいと思います。
■復刊・新装版・改訂版
『あひるのピンのぼうけん(新装版)』は、『アンガスとあひる』(福音館書店, 1974年
刊)や『おかあさんだいすき』(岩波書店ほか)などで有名な、マージョリー・フラックの絵
です。20年ほど前に1度出版されています。(瑞雲舎, 1994年刊) 少し地味ですが、
中はさすがフラックの作品だけに、子どもたちに素直に楽しめるお話だと思います。
■科学・生活・社会・伝記などの知識絵本
それでは、科学・生活・社会・伝記などの本です。
『おいもができた』です。これは、サツマイモができる様子を、埼玉県のサツマイモ農家
に取材して作った本です。サツマイモを土に埋め、もみ殻とビニールを掛け 1 カ月ぐらい
すると、たくさんの芽が出てきます。その芽を剃刀で切って1つずつ丁寧に土にさしてい
くと、根がどんどん育ち、土の中でも小さな根っこが育ってきます。最後に、大きくなっ
たおイモが出てきます。イモほり遠足などでサツマイモ畑に行ったことがある子どもたち
は、おそらく面白がってくれるのではないでしょうか。
『ふゆのむしとり?!』は、
『むしとりにいこうよ!』(ほるぷ出版, 2013年刊)の冬版
です。虫取りといえば夏ですが、寒い冬でも上手に探すと虫をたくさん見つけることがで
きるということを、虫取り名人のお兄ちゃんが教えてくれます。テントウムシもたくさん
います。最後に、兄弟がある昆虫の幼虫を見つけて、弟が大喜びをしています。
『あれあれ?そっくり!』は、昆虫の擬態やカムフラージュの写真絵本です。皆さんはこ
の中から見つけられますか?(ハナカマキリの幼虫のページを示し)この虫は花にしか見え
ません。そしてこちらは、木のとげではなく、バラノトゲツノゼミが集まって擬態してい
るところ。「昆虫ってすごい」と思わせてくれる本です。見つけられなかった人のために、
最後のほうに写真と解説が付いています。
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『ニワシドリのひみつ』です。これは、ニワシドリというあずまやを作る鳥たちです。
「あ
ずまや」とはプロポーズの場所で、巣ではないそうです。この巣の出来でメスはオスを選
びますが、ニワシドリの種類によって、巣の形は色々です。作者が一生懸命取材している
写真もあります。良く見てみるととても面白いです。
『はこぶ』では、人や車がものを運ぶところが紹介され、また、現代では様々な目的によ
って色々なものが運ばれているということも説明されています。最後は、宇宙ステーショ
ンに物を運ぶところが紹介されています。
伝記を2冊紹介します。
『トマス・ジェファソン
本を愛し、集めた人』です。トマス・ジェファソンは、第三代
アメリカ大統領で、独立宣言を書いた人です。絵本のどのページも本、本、本ばかり。
ジェファソンは、字が読めるようになったときから本を読み始めましたが、読むだけでは
なく、生涯で 1 万冊ほど本を集めた人でもありました。アメリカの議会図書館が戦争で焼
けた際、ジェファソンが所蔵していた6,500冊の本で復興することができたそうです。
実は、その本は寄附ではなく半額程で譲ったなど、細かい情報も沢山書かれているので、
じっくり読んでみると面白いと思います。
最後に、
『ヘレン・ケラーのかぎりない夢』をご紹介します。伝記を絵本という形で伝える
ということはとても難しく、限界があると思います。しかし、この本を読み、絵本だから
こそ伝わることがあるのだということを感じました。サリバン先生が指文字を書き、色々
なものに点字のカードを貼っています。それを読みながら、ヘレンは点字やものの読み方
を覚え、本が読めるようになったそうですが、絵から、ヘレンがどのように学んでいった
か、彼女の嬉しそうな様子などが伝わってきます。また、帆船に乗って海に乗り出す場面
もありますが、船は危うく沈没しそうになります。ヘレンはドキドキしますが、決して恐
怖のためではなく興奮と新鮮な喜びのためでした。ヘレンの気持ちが伝わってくる、とて
も良い本だと思います。
後で、皆さんにもゆっくりご覧になっていただきたいと思います。どうもありがとうござ
いました。
(於:株式会社図書館流通センター 2015年2月2日、3日)
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