METIカナダミッションに参加して

工業会活動
METIカナダミッションに参加して
平成26年11月18日から3日間、METI主催のカナダミッションがトロント、オタワ、
モントリオールの3都市を訪問し、連邦政府、地方政府、研究機関、団体、企業と交流を
行った。METIのほか日本企業からの参加は、MHI、新明和工業、SJACの3社/団体で総
勢6名であった。以下、その概要を報告する。
METI桑原室長(右から2人目)とカナダ産業省やオンタリオ州の方々
1.はじめに
会が設定された。カナダ側はAIACのほか、
平成26年1月にカナダからカナダ政府(外
Avcorp社、Cyclon社、Asco Aerospace社、CRIAC
務貿易省、産業省)、カナダ航空宇宙工業会
社、CAE社、DCM社、CFN社、Rockwell Collins社
(AIAC)、企業から構成された訪日ミッショ
が、日本側はMETI、MHI、新明和、SJACが
ン10名が来日し、日本の主要企業7社を訪問
参加し、朝食を取りながらの交流会となった。
した。これを契機に数社の企業間で新たなビ
Avcorp社は2008年2月のMETI貿易会議でカナ
ジネス対話や取引が始まったが、今回はMETI
ダを訪問したことを契機に、日本の機体会社
主催の訪問団が、カナダ航空宇宙工業会主催
との取引が始まった。今回は更に日本とのビ
のCanadian Aerospace Summit 2014の一部に参
ジネスの拡大を考えているといった前向きな
加するとともに、カナダ連邦政府や地方政府、
話も聞くことが出来た。
団体、企業を訪問した。
(2)講演会
2.Canada Aerospace Summit 2014
(1)朝食会
朝食会の後、8:30-10:00の限られた時間では
あ っ た が、Rockwell Collins 社、Lockheed
オタワ市内で開催された同サミット2日目
Martin社、Boeing社の講演を聞くことが出来
の11/19に、日本とカナダの関係者のみの朝食
た。Rockwell Collins社の講演では、航空機の
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平成27年2月 第734号
Canada Aerospace Summit 2014講演会場
通信の将来としてスマートホンが機内で自由
野で産業協力を望む、2)核となるビジネス
に使えるようになるとともに、乗員、乗客、
を拡大し、国際化してほしい、3)競争力の
航空機の間の通信がもっと電子化されるとの
ある生産性向上を行ってほしい、4)技術や
予測が示された。また、そのネットワーク技
生産能力の現状を理解し、将来に向けた用意
術は防衛にも転用され、航空機、船舶などの
をしてほしい、と呼びかけた。
プラットフォームと陸海空の多数の基地局が
連結され運用されるという。
(3)カナダ産業大臣講演
Lockheed Martin 社 の David VanBuskirk 氏
カナダ産業省大臣James Moore氏が当該サ
(Director, Logistics and Sustainment)は市場を
ミットの昼食会場にて記念講演を行った。航
牽引するキーワードは、コスト、購入のしや
空宇宙産業はカナダの主要産業の1つであり、
すさ、アウトソース、Turn Key Service、パー
連邦政府は地方政府と連携して航空宇宙産業
トナーシップなどで、Life Cycle Costの最適化、
を支援すると述べた。
革新的技術、継続的改善などが取り込まなけ
ればならないと述べた。今後の課題として、1)
予算の削減、2)サプライチェーンの脆弱さ、3)
技術者の減少などを挙げ、進むべき道として
(4)カナダ−日本ワークショップ
サミット会場とは別室で主題のワーク
ショップが開催された。AIACのJIM Quick専
産業界とサプライチェーンの能力を活用する
務理事が冒頭の挨拶を行い、カナダ産業省 航
こと、政府間での国際共同案件を増やすこと、
空宇宙・防衛・海洋局長のMary Gregory氏が、
輸出管理の円滑化を図ることなどを示した。
日本とカナダの航空宇宙産業の連携強化の必
Boeing 社 の Dan Gillian 氏(VP, F/A18 and
要性を述べた。また、カナダ外務貿易省 貿易
EA-18 Programs)は、95年間かけてカナダ国
局長のJean-Dominique Ieraci氏は、毎年のエア
内に14の工場を取得してきた。カナダ企業の
ショウで政府間協議をしており、2014年も
人々に対して、1)長期的に高付加価値の分
ファンボローでMETI飯田課長と面会した。
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MHI カナダ楠見氏
新明和工業 須山氏
MHIカナダやSPPカナダが事業を展開してい
産業の概要説明を受けた。オンタリオ州のBen
ることを喜ばしく思っているとのご挨拶を頂
Willoughby氏(Senior Sector Advisor Aerospace
いた。これに対し、METI桑原室長は今回の
& Material Unit Advanced Manufacturing Unit)
アレンジを頂いたことへの感謝と昨日までの
から、同州はカナダの中で、人口およびGDP
訪問の成果について述べた。
の占める割合がそれぞれ約4割で、特に自動
このあと、SJAC板原が日本の航空宇宙産業
車や航空機など製造業が盛んな地域である。
の概要を、MHIカナダのDirector 楠見光俊氏
ビジネスコストは米国を100とすると同地域
からMHIカナダ社の活動概要とSupply Chain
は93.7と比較的安価な地域であり、連邦及び
強化の戦略を述べた。同社はボンバルディア
地方の法人税は、米国の州が32.0%から38.5%
社のビジネスジェット向け主翼などを生産し
の範囲であることに比べ当地は25.0%と低い
ているが、名古屋工場でのすべての製造をカ
ことも特徴である。地理的に米国に隣接して
ナダに移管する時期に来ているため、カナダ
いることもあり、輸出入も米国がその相手国
企業による製造の協力呼びかけた。新明和工
である。この地域の航空宇宙関連部門の売り
業カリフオルニア社のKen Suyama社長から、
上げは2012年には120億カナダドルで、内訳
Supply Chainの拡大を考えており、カナダ企
として製造が87億ドル、MROが33億ドルであ
業に協力の要請をした。また、カナダ側から
る。機体構造部品やエンジン部品、脚などが
産 業 局 の Andre Bernier 氏(Senior Director,
主要な生産品である。隣のケベック州が機体
Aerospace)からカナダ航空宇宙産業の概要を
やヘリコプターの最終組み立てをするOEM企
伺うことが出来た。
業が多数あることに比べ、そこに部品を供給
するTier1やTier2の企業が多いという。研究開
3.地方政府・団体・研究機関
発投資が積極的で、ダウンズビュー空港に隣
(1)オンタリオ州/ミシサガ市
接して教育訓練と研究センターを設置してい
11/18にトロント空港近くのホテルにて、オ
る。産学官の連携が強固で、4つの大学と7社
ンタリオ州政府とミシサガ市による航空宇宙
の企業が同じキャンパスに施設を持ち共同研
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究を行っているという。また、研究資金もた
CAMAQという団体が担っているという。
くさん出ているようで、雇用を確保する、新
②CAMAQ
技術を開発する、企業と大学の連携を促進す
Erick Edstrom 氏(Project Leader)が、
るといった観点から9件の資金援助を行って
CAMAQの概要を説明した。1983年に設立
いる。
され、航空宇宙分野における訓練プログラ
Harlold Dremin 氏(City Management dept,
ムを産業界の必要性と調和させるため、ケ
Mississaga)からミシサガ市はMHI Canada社、
ベック地域の産業界とのパートナーシップ
SPP Canada社のほか、PW Canada社、Cyclon社、
を促進し、作業者の技能向上を図ることで
Magellan社、NTN Bearing社、Honeywell社な
産業界を支援している。例えば、1994年に
どが進出してきている。その理由として機体
機体の電気配線組立を訓練する設備や機体
のBombardier社に距離的に近いことや、技能
構造の組み立て、機械加工の訓練などを備
者、管理者共に優秀な人材が雇用しやすいこ
えたTrade Schoolを開設した。MROの分野
とを挙げた。
でも新旧の航空機30機を有し、修理やオー
バーホールに必要な技術を教えている。
(2)モントリオール地区の団体
11/20 に Aero Montreal の 事 務 所 を 訪 問 し
③CRIAQ
Alain Aubertin氏
(VP Business Development)
た。元カナダ産業局勤務のSuzanne Benoit氏
から同団体の概要説明があった。CRIAQと
(President)の挨拶の後、当該地区にある航空
は、Consortium for Research and Innovation in
産業支援3団体から話を伺った。
Aerospace in Quebecの頭文字を取ったもの
①Aero Montreal
で、ケベック州政府から財政支援を受け
Aero MontrealのMartin Lafleur氏(Senior
2002年設立された。ミッションとして航空
Director, Innovation, Human Resources &
宇宙産業の競争力を強化することや学生の
Defence)から団体の概要説明があった。ケ
教育や訓練を通して知識ベースを強化する
ベック州の航空宇宙クラスターで2006年位
ことにある。研究の課題やテーマを与える
設立された。企業、教育機関、研究機関、
など企業がリーダーシップを持ってこの活
団体や労働組合などを包括した組織であ
動を推進しており、費用の持ち分は、企業
る。サプライチェーンの開発、ブランド化の
とCRIAQは半々という。研究の対象はTRL
促進、技術革新、
人材育成、防衛および国家
レベルの1-6の実用化前の研究範囲である
安全保障、市場展開の6つの分野で活動を
が、ケベック州のみの企業で行うのでなく、
行っている。日本とも交流が頻繁で、広島市
州を越えたり、海外との共同研究なども可
などとの交流も行ってきた。
“Collaboration
能と言う。
(協 調)”が 今 後 の 航 空 宇 宙 分 野 で の Key
Wordと述べ、当地の大手企業4社(ベルヘ
(3)研究機関
リコプタ社、ボンバルディア社、PWC社、
カナダの航空宇宙分野での研究開発は産官
CAE社)との間で、複合材胴体、圧縮機、脚、
学の連携を取りながら進められているが、同
コクピットなどの具体的なプロジェクトが
分野での主要なテーマの1つが複合材関係で
中小企業や大学も巻き込んで進行している
ある。この研究をリードしている国立研究機
と 説 明 し た。ま た、人 材 育 成 は 後 述 の
関NRCについてはSummit会場内で説明のみを
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工業会活動
聞き、Polytechnique大学はモントリオール市
の複合材開発を目指しているが、製造方法
内の設備の視察を共に11/19に行った。
や大きさによる特性の違いなども研究対象
①NRC(National Research Council)
としている。ここでの研究成果としては複
DR. Jerxy Komorowski氏(General Manager
合材のファン動翼がLEAPエンジンに、複
of Aerospace)からNRCについての概要説明
合材胴体がA350に採用されている。複合材
を受けた。国立の研究機関で、1)新技術
とポリマーの間にできる空洞を除去するこ
部門、2)エンジニアリング部門、3)生命
とに力を注いでおり、型にポリマーを流し
科学の3つの組織に大別される。年間総予
込む際の注入場所、時間を制御することで
算は9億カナダドルで、従事者は3,670人、
空洞が無く、均質な複合材製品を成形して
約 600 名 の ボ ラ ン テ ィ ア が お り、全 国 に
いる。機体の胴体部に取り付けられる部品
16ヵ所の研究所を保有している。航空宇宙
の一体成型などで良好な結果が出ていると
部門は自動車、エネルギー、建築などと共
いう。複合材同士の接合の分野では、3年
に2)のエンジニアリング部門に属し、5,000
間に41億円の研究を行い、オートクレーブ
万カナダドルを使っているという。設備と
やリベットを使うことなく接合することが
しては、風洞試験機、フライト・テスト・ベッ
可能になり、FAAの承認も取得した。小型
ド、ガスタービン試験機、構造試験機、3
機の前胴の接合やヘリコプターにも使われ
機のヘリコプター、7機の固定翼機を有し
始めたという。
ている。航空関係の従事者は325人で、空
力試験や複合材の胴体製造などの共通研究
と共に、防衛関連、防氷、無人機、客室環境、
4.企業視察
航空宇宙関係の企業訪問として機体部品製
生産技術、将来システムの6つのプロジェ
造のなかでも、板金や機械加工を得意とする
クトによる研究が行われている。カナダは
企業へ訪問した。オンタリオ州ミシサガ市の
F35プログラムにも参加していることが背
企業へは11/18に、モントリオール市の企業は
景にあり、当該国立研究所では民間よりも
11/20にそれぞれ訪問した。
防衛関係に力を入れた研究を行っている。
①Cyclone社
②Polytechnique Montreal
オンタリオ州ミシサガ地区にある工場
モントリオール大学に付属したモントリ
で、副社長のRobert Sochaj氏が概要説明と
オール理工科大学
(Polytechique Montreal)の
工場見学で案内を務めてくれた。1964年の
Dr. Sylobe Beland氏から概要を伺った。
複合材
創立で今年50周年を迎えており、470名の
については、機械加工、ロボットによる自動
従業員を擁している。素材の購入から始ま
加工など7つのテーマを扱っているという。
り、エンジニアリング、機械加工、組み立て、
カナダの51大学を横断的に組織したCREPEC
非破壊検査、熱処理、表面処理(メッキ、
(Research Center for High Performance Polymer
ショットピーニング、ペイントを含む)ま
and Composite System)の中核として当大学
で一貫した製造工程が可能である。受注は、
が活躍している。航空宇宙分野だけでなく、
ボーイング社、エアバス社はもちろん、ボ
自動車、包装・パッキング、土木など広範
ンバルディア社、ロッキード・マーチン社
な適用を目指し、複合材とポリマーのハイ
などのほか、台湾のAIDCも含まれている
ブリッドシステムを研究している。次世代
という。一見するとカナダの仕事を低コス
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平成27年2月 第734号
トで台湾が受注するかのように思えるが、
化ユニットが置かれており、その効率の良
逆に台湾からA320の部品の下請を受注でき
さを説明していた。地方団体(CRIAQ)の
ている理由として、表面処理は台湾では国
支援を受けて大学と共同研究を行い、自動
内の設備が不足しているため、一貫した工
計測の技術を向上させていた。従来はOEM
程を任せられる同社に仕事が来ているとい
が研究開発を牽引してきたが、最近は地方
う。垂直統合(Vertical Integration)という
政府などの指導があり、Tier2やTier3が研究
言葉を使っていたが、50年の期間をかけて
をリードすることも珍しくなくなったとい
企業買収も行いながら、必要なすべての工
う。生産の効率化として、
「見える化」
、リー
程がこなせるようになったとのことであ
ンプロダクションなどを採用しているとい
る。
う。但し、この工場では一貫生産が出来ず、
②CFN社
表面処理は別の会社に委託している。
ミシサガ地区にある住友精密社が買収し
④Avior社
た工場で、Eli Briger社長が対応した。同社
モントリオールにある同社は従業員300
は従来から脚の設計・製造を手掛けており、
名の会社で、複合材(含むハイブリッド部
顧客はボーイング社、エアバス社、ボンバ
品)、機械加工、板金加工、エンジニアリ
ルディア社、エンブレア社、ガルフストリー
ングデザイン、組み立てを得意とし、ボー
ム社、リアジェット社、ダッソー社、ATR社、
イング社の他、ボンバルディア社、ノース
スホーイ社など世界中の航空機メーカーで
ロプ・グラマン社、ハネウエル社、ベルヘ
ある。現在90人の従業員を有して、5,100㎡
リコプター社、L3コミュニケーション社な
のエリアに45台の旋盤やミリング機械など
どを顧客としている。複合材ではレーザに
を設置し、仕事内容に応じて機械の位置を
よる積層を行い、787向けの垂直尾翼のフェ
変えるフレキシブルな配置システムを採用
アリング部に金属と複合材のハイブリッド
している。2nd Tierとして顧客と一緒になっ
部品を製造している。また、生産効率改善
てソリューションを見つける努力をしてい
として、カンバン、キット化などを採用し
る。
ている。
③Abipa社
モントリオールにある工場で、社長の
Jean Blondin氏が概要説明、工場見学と対応
5.所感
カナダ国内で航空宇宙産業が特に盛んなオ
してくれた。135名の従業員を有し、旋盤、
ンタリオ州、ケベック州を視察する機会を得
ミリングなどの機械加工、組み立てなどを
た。連邦政府と地方政府の連携、大学や諸団
手掛けており、機体部品はボンバルディア
体の連携など複雑に絡み合いながら、作業者、
社、エンジン部品はプラット・カナダ社、
エンジニア、管理者などの人材育成に加え、
ロールス・ロイス社、脚部品はサフラン社、
先進的な研究も大企業のみに偏らず、中小企
マジェラン社に納入するほか、組み立てに
業も入った活動が展開され、それを広範な組
必要な部品をキット化する仕事もサフラン
織が支えていた。いわば、国を挙げたきめ細
社などから受注している。世界のTier2を目
かな航空産業支援政策で産業競争力の強化を
指しており、工場の一角には日本製で、治
行っている。あまり公表はされないが、雇用
工具や加工物を工作機械に取り付ける自動
確保といった観点から中小企業などの設備投
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工業会活動
資に地方政府の資金が使われ、最新鋭の日本
することで最終製品を安く作り出す、といっ
の工作機械が導入されている、という情報も
た政策はカナダに比べると弱いと思える。航
非公式ながら聞いた。完成機を作っている航
空宇宙分野は自動車などと違い、その製品寿
空先進国カナダだが、国を挙げて資金を航空
命は20-30年と長く、その投資は多額で回収に
宇宙に対して投資しており、産業の裾野を広
時間がかかる産業である。大企業の支援・育
げ、他国に勝る技術を開発することで全体の
成だけでなく、それを支える中小企業が実力
産業競争力を上げている。
をつけ、結果的に競争力のある最終製品を作
振り返ってみると日本は、直接的な製品開
発や付随した研究開発には政府の支援がある
り出し、市場を確保するといった連携した戦
略に目が向けられるべきであろう。
が、カナダに見られるような中小企業を支援
〔(一社)日本航空宇宙工業会 国際部長 板原 寛治〕
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