独自の価値を 一番乗りで

社長メッセージ
独自の価値を
一 番 乗 りで
変 革 を 果 たし、
新 た な 成 長 ステ ージへと
進 ん で い きます
代表取締役社長
三津家 正之
20
田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015
2014 年度の概況
国内医薬品市場の事業環境が厳しい中、新製品をはじめとした
重点製品の伸長や海外でのロイヤリティ収入の拡大により、
売上高および営業利益については、増収増益を確保しました。
2014 年度の売上高は前年度比 0.6% 増の 4,151 億円、営業
「ジレニア」
(当社販売名「イムセラ」)のロイヤリティ収入は
利益は同 13.6% 増の 671 億円となりました。国内では 2014
前年度比 36.7% 増の 439 億円となりました。ヤンセンファー
年 4 月に実施された薬価改定の影響がありましたが、新製品
マシューティカルズに導出した「インヴォカナ」
(当社販売名
をはじめとした重点製品の伸長および海外でのロイヤリティ
「カナグル」)、および同剤とメトホルミンの合剤である「イン
収入の拡大により、売上高および営業利益については、増収
ヴォカメット/ヴォカナメット」の売上も急速に拡大していま
増益を確保することができました。
す。発売 3 年目で年間売上高 10 億ドルを超える勢いを示して
売上高の増減要因をもう少し詳しくご説明します。まず、
おり、2014 年度の当社のロイヤリティ収入は 98 億円となり
国内医療用医薬品では、前述の薬価改定の影響が約 290 億
ました。
円 の 減 収 要 因となりました。さらに、重 点 製 品を除く長 期
また、当期純利益については、旧日本橋ビル跡地の売却益
収載品等については、ジェネリック医薬品の影響が拡大した
を計上しましたが、構造改革費用の計上などにより、前年度
こともあり、前年度に引き続き売上を大きく落としました。
比 13.0% 減の 395 億円となりました。構造改革費用は「中
一方、重点製品では、
「レミケード」や「テネリア」が売上数量
(以下、
「本中計」)の戦略課題である「事
期経営計画 11-15 」
を伸ばし、重点製品全体の売上高は前年度比 249 億円の増加
業・構造改革の加速化」の取り組みに伴い発生した費用で、
(薬価改定の影響を除く)となりました。重点製品を除く長期
「 拠 点 再 編 」や「 事 業 再 構 築 」に係る費 用となっています。
収載品等の減収を、重点製品の増収が大幅に上回る結果と
2014 年度の構造改革費用は 123 億円となり、計画を上回る
なっています。以上により、国内医療用医薬品の売上高は同
水準となりました。これは、研究所再編を前倒しで実施した
5.2% 減の 3,239 億円となりました。
ことにより、計画外の特別損失 45 億円が発生したことによる
国内の事業環境が厳しい中、当社の成長をけん引したの
ものです。
がロイヤリティ収入です。ノバルティス(スイス)に導出した
売上高の増減(前年度比較)
2014 年度重点品
億円
シンポニー、レクサプロ、テネリア、カナグル、
レミケード、タリオン、メインテート、
クレメジン、テトラビック、水痘ワクチン
–36
その他
–290
–132
–5
2013 年度
4,127 億円
長期収載品等
田辺製薬
販売
+10
+228
海外医療用 ロイヤリティ
収入等
医薬品
2014 年度
4,151 億円
+249
薬価改定
重点品
国内医療用医薬品 –178
田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015
21
社長メッセージ
「中期経営計画 11-15 」の成果と課題
本中計の成果と課題は比較的明確な形で表れており、
成果としては大きく分けて 2 つ、課題としては 3 つ挙げられます。
2015 年度は、本中計の最終年度となりますが、これまでの
おり、当社の優れた研究開発力を再認識し、あらためて評価
成果と課題については、比較的明確な形で表れています。
しています。
まず、成果としては大きく分けて 2 つあります。1 つが、本
一方で、課題は大きく分けて 3 つあります。まず、国内で新
中計期間中に国内での発売を見込んでいた新製品を計画通
製品を計画通りに発売することができたものの、立ち上げに
りに市場へ送り届けることができたことです。2014 年度に
時間を要し、期待していたほどには売上を伸ばすことができ
は 2 型糖尿病治療剤「カナグル」を発売し、本中計期間中の
ていないということです。次に、海外で自社での開発を進め
新製品は 7 品目となりました。
てきた薬剤について、明確な成果を得ることができませんで
次に、海外に導出した製品が大型化したことです。ジレニ
した。とりわけ、米国での事業基盤の構築が進まなかったこ
ア、インヴォカナともに、順調に売上を拡大しており、想定以
とは、当社の将来の成長にとって、大きな痛手であったと考
上の成果を挙げています。その要因はいくつかありますが、
えています。そして、最後が研究開発力の強化であり、いま
いずれも、患者さんのニーズに合致した製品であり、かつ、
だ不十分であるといわざるを得ません。これまでのやり方そ
同様の薬剤の中で 1 番手の製品であることが大きかったと
のものを大きく見直す必要があると認識しています。
考えています。いずれも世界に誇れる新薬であると自負して
中期経営計画 11-15 の概要
キーコンセプト: 期間:2011 年 4 月∼ 2016 年 3 月(5 年間)
中期経営計画 11-15 で実現するもの:「新たな価値を創造しつづける企業」への変革
将来の成長につながる基盤を構築する
• アンメット・メディカル・ニーズへの挑戦
• 創製した医薬品をグローバルに提供していくための基盤整備
• 将来の成長に向けた積極投資
レミケードを中心とした重点製品と新製品を着実に育成し提供する
戦略課題:
2015 年度経営数値目標:
( 2014 年 5 月 9 日に見直し)
1
新薬創製力の強化
2
新製品を軸とした国内事業の躍進
3
海外事業拡大への基盤構築
研究開発費
4
事業・構造改革の加速化
海外売上高比率 *
売上高
営業利益
4,100 億円
650 億円
800 億円
15% 以上
* 営業利益ベースでの海外比率については、2015 年度で 40% をめざす。
22
田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015
変革への取り組み
「独自の価値を一番乗りでお届けする、スピード感のある創薬企業」の実現に向け、
「 Move 」をキーワードに、4 つの変革に挑んでいます。
当社を取り巻く経営環境は急速に変化しています。直近で
先ほどご説 明した本 中 計 の 3 つ の 課 題に対 応するのが、
は、収益基盤である国内医療用医薬品事業において、長期
「研究開発の変革」
「国内営業の変革」
「米国展開の変革」で
収載品に対するジェネリック医薬品の影響が急速に拡大しま
す。
「組織・行動の変革」が、それら 3 つの変革を後押しする
した。2014 年 4 月に実施された薬価改定はジェネリック医薬
という位置付けとなります。それぞれの改革に責任者を配
品への置き換えを一段と促進する内容であり、長期収載品
し、大きく権限を委譲することで、スピード感を持って変革へ
の収益力はますます低下することが予想されます。
の取り組みを進めているところです。
このような中で、当社に求められていることは、この激し
変革においては、自社で取り組むことと、外部パートナー
い 環 境 変 化に打 ち 勝 つ 強 靭 な 企 業 体 質 へ の 変 革と、患 者
と組んで取り組むことの 2 つに分かれますが、スピードを上げ
さんや医療関係者をはじめとしたステークホルダーの皆様に
るためには自前主義にこだわることなく、パートナーとの協
「独自の価値を一番乗りでお届けする、スピード感のある創
業をこれまで以上に推進していかなければなりません。まず
は、当社の強みを維持、強化し、いかにパートナーとして選ば
薬企業」への変革であると考えています。
その実現に向けて、スピードを上げて企業体質の変革を推
れる企業になれるか、そして、そのパートナーとどのような
「研究開発の変革」
し進めており、
「 Move 」をキーワードに、
ネットワークを組んでいくのか、が変革を実現するための
「国内営業の変革」
「米国展開の変革」
「組織・行動の変革」
の 4 つ の 変 革に挑 んでいます。これらの 取り組 みは、本 中
計で設定した 4 つの戦略課題の遂行を加速するものです。
になると考えています。
4 つの変革について、
詳しくは「特集:Move Forward −変革へ」をご参照ください。 P29
さらに、2015 年 秋に発 表 予 定である次 期 中 期 経 営 計 画 の
推進基盤となる体制構築についても、前倒しで実行すること
を意味しています。
本中計の戦略課題の遂行を加速
4 つの変革
戦略課題
MOVE 1
研究開発の変革
MOVE 2
国内営業の変革
海外事業拡大の基盤構築
MOVE 3
米国展開の変革
事業構造改革の加速化
MOVE 4
組織・行動の変革
新薬創製力の強化
新製品を軸とした
国内医薬品事業の飛躍
田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015
23
社長メッセージ
研究開発力の強化
重点疾患領域と定めた
「自己免疫疾患」
「糖尿病・腎疾患」
「中枢神経系疾患」
「ワクチン」を中心に、
「一番乗り」で製品をお届けするために、研究開発のスピードを加速していきます。
「独自の価値を一番乗りでお届けする」ために、最優先で取り
の開発を、欧州、米国、国内で実施中です。
「ワクチン」では、
組むべきことは、医薬品事業の核となる研究開発力の強化
2013 年に子 会 社にしたメディカゴ(カナダ)が、植 物 由 来
です。田辺三菱製薬では、
「自己免疫疾患」
「糖尿病・腎疾患」
VLP ワクチ ン の 開 発 をカ ナ ダ や 米 国 で 進 め て い るほ か、
「中枢神経系疾患」
「ワクチン」を重点疾患領域と定め、研究
24
ニューロンバイオテック(米国)から導入した MT-2301( Hib
開発資源を集中的に投下しています。
ワクチン)は、2014 年 5 月にフェーズ 2 試験を国内で開始し
「自己免疫疾患」では、イムセラ/ジレニアの後継品であ
ました。
る MT-1303(適応症:多発性硬化症など)の開発を欧州で
さらに、導出品については、当社が創製し、メルク(米国)
進めており、国内でも、2015 年 5 月にクローン病について、
に導 出した Y-803 が、が んを対 象としたフェー ズ 1 試 験 で
フェーズ 2 試 験を開 始しました。また、レミケードについて
好結果を得ており、グローバルレベルでのファースト・イン・
は、2015 年 5 月に難治性川崎病の適応追加について、2015
クラスの薬剤となることが期待されます。
年 7 月には乾癬の用法・用量の変更(増量)について国内で申
これらの開発品には、まさに「独自の価値」を有した製品と
請しました。当社がこれまでレミケードやイムセラの開発で
なる可 能 性が十 分にあると考えています。しかし、そ れを
培ったノウハウを活用し、他の自己免疫疾患での開発にも取
「一番乗り」で届けることが大切です。新薬については、1 番
り組んでいます。
手の製品だけが大きな利益を生み、2 番手、3 番手では利益
「中枢神経系疾患」では、MT-4666(適応症:アルツハイ
を確保することが困難になりつつあります。加えて、製品の
マー型認知症)の国際共同治験と MP-214(適応症:統合失
特許残存期間の長さが製品価値を大きく左右することにな
調症)のアジア共同治験を実施中です。また、2015 年 6 月に
るため、研究開発ではスピードを重視しなければなりません。
は、
「ラジカット」の筋萎縮性側索硬化症( ALS )について国内
「研究開発の変革」で成し遂げるべきことは、何よりこの部分
の 承 認を取 得しており、米 国でも申 請する予 定です。さら
であると考えています。そのためには、これまでのやり方で
に、2015 年 3 月に、ニューロクラインバイオサイエンス(米
は限界があります。今までのやり方を大幅に見直し、新しい
国)より、VMAT2 阻害剤「 MT-5199 」を導入し、同領域の開
やり方を追求しなければなりません。研究員には、1 秒を削
発パイプラインの強化を図りました。今後、ハンチントン病、
るような感覚で仕事をしてほしいと伝えています。2014 年
遅発性ジスキネジアを適応症として開発を進めていく考え
10 月には、RD 改革室を設置し、研究開発の変革を推進して
です。
きましたが、2015 年 10 月には、研究開発のスピード向上と
「 糖 尿 病・腎 疾 患 」で は、前 述 の 通り、当 社 が 創 製した
製品価値最大化の仕組みづくりを目的として、基礎研究から
SGLT2 阻害剤であるTA-7284(カナグリフロジン)について、
開発前期を担当し、POC* の取得までを最速で検証する業
2 型糖尿病を適応症とした承認を取得し、製品名「カナグル」
務を担う「創薬本部」と、POC 取得以降の開発後期・上市準
として発売しました。現在、同剤と DPP-4 阻害剤テネリアと
備や上市後の製品の価値最大化のための業務を担う「育薬
の合剤である MT-2412(適応症:2 型糖尿病)の開発を国内
本部」に再編する予定です。
で進めています。また、MT-3995(適応症:糖尿病性腎症)
* Proof of Concept:当該メカニズムのヒトでの有効性と安全性を確認すること。
田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015
収益力の強化
国内医療用医薬品市場の収益力が大幅に低下する中、
新製品をはじめとした重点製品の価値を早期に最大化するための
取り組みを進めています。
収益力を向上し、投資余力のある企業体質に変革していくこ
と共同で糖尿病領域最大の宣伝回数を投入します。高齢者
とも重要であり、国内営業力の強化がその要となります。ロ
にとって使いやすい DPP-4 阻害剤としてのポジショニングを
イヤリティ収入が当社の収益の柱になった一方で、国内医療
獲得することで、新規採用軒数の拡大につなげていきます。
用医薬品市場では、長期収載品の収益力が大幅に低下しま
一方、2014 年 9 月に発売したカナグルについては、立ち上
した。このような事業環境下において、当社では重点製品の
げに時間を要していますが、他の SGLT2 阻害剤も同じ状況に
価値を早期に最大化するための取り組みを進めています。
あります。これは、処方のスタンダードが確立されていない
まず、レミケードおよび「シンポニー」については、2013 年
ことが原因です。このような中で、いかに MR(医薬情報担当
度に両剤合わせて売上高 1,000 億円(薬価ベース)を達成し
者)が製品力を訴求し、処方につなげていくのかが、より重要
ました。2014 年度には薬価改定の影響を受け、その水準を
になっています。
「国内営業の変革」の一環として、個々の
割り込みましたが、2015 年度には2 度目の売上高 1,000 億円
MR の実力を高める取り組みも進めており、医療現場のニー
(薬価ベース)の達成に挑戦していきます。関節リウマチ領域
ズを把 握し、治 療 提 案ができる MR の 育 成に注 力していま
では、レミケードは生物学的製剤の中での第一選択薬として
す。具体的には、MR 活動における行動を定量化し、個々の
の地位をめざすとともに、シンポニーは皮下注製剤としての
強みや弱みを分析することで、一人ひとりの営業力強化につ
使いやすさを訴求していきます。さらに、レミケードの炎症
なげています。さらに、2014 年 10 月には営業改革室を設置
性腸疾患において、新規処方の獲得に努めます。
「新製品の価値
し、
「事業提携品の拡大」
「 MR 営業力の強化」
2012 年 9 月に発売したテネリアは、立ち上げに時間を要し
を最大化する仕組みの確立」を 3 本柱に、変革を推進してき
ました。しかし、投薬期間制限が解除され、2013 年 12 月に
ました。2015 年 10 月に新設される予定の「育薬本部」は、医
はすべての経口血糖降下薬およびインスリン製剤との併用
薬品について医学的・科学的見地から収集した情報をもと
が可 能となったことを契 機に、急 速に売 上が拡 大していま
に、製品の最も有効で安全な使い方を見出し、患者さんと医
す。当社と販売提携している第一三共を合計した売上高は、
療関係者の双方にとって価値の高い製品に育てていく役割
2014 年度で174 億円となりました。2015 年度には第一三共
を担います。
2015 年度重点製品の育成
予想
億円
単位:億円
1,400
2014 年度
2015 年度
1,200
レミケード
706
707
1,000
シンポニー
105
133
800
テネリア
62
96
600
カナグル
12
26
400
レクサプロ
80
105
200
タリオン
160
171
0
イムセラ
32
38
’14
’15
(予想)
(年度)
田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015
25
社長メッセージ
米国展開
米国事業を国内事業に次ぐ柱に育成することが不可欠であり、
自社の強みと他社の強みをいかに組み合わせるかが、
米国展開の成否を決めると考えています。
当社がもう一段上の成長を実現するためには、米国事業を
組み合わせて、いかにスピードを上げていけるかが米国展開
国内事業に次ぐ柱に育成することが不可欠であると考えて
の成否を決めると考えています。
います。米国は世界最大の医薬品市場であり、中長期的に
「米国展開の変革」を推進するために、2014 年 10 月に米
も成長し続けることが見込まれています。また、国内と異な
国事業を統括する担当役員を新たに任命し、12 月には米国
り、米国では特許保護期間中は薬価が下がることはありま
関係会社の組織再編を行いました。ミツビシ タナベ ファー
せん。さらに米国は、新薬創製の集積地としても重要な地域
マ ホールディングス アメリカを米国事業統括会社とし、米
であり、近年上市された新規薬剤のおよそ半数が米国起源
国関係各社の連携を促進させることで、米国の大学・ベン
であるといわれています。
チャー等からの創薬シーズ・技術・開発品の評価・獲得を加速
米国展開で注力すべきこととしては、2 つあります。1 つは
するとともに、トランスレーショナルリサーチの強化を図りま
開発パイプラインを強化すること、もう 1 つが事業基盤を強
す。さらに、2015 年 7 月には、グロー バ ルビジネスディベ
化することです。それらを自社単独でやるということではな
ロップメント統 括 機 能を米 国 の 統 括 会 社に設 置するととも
く、アライアンスを活用し、外部からの製品や開発品、販売
に、日本、米国、欧州の 3 極にビジネスディベロップメント担
基盤の獲得を積極的に進めていきます。国内市場と米国市
当部門を配置しました。これにより、米国における事業開発
場での大きな違いは、スピード感にあります。すべてを自前
機能を強化し、開発パイプラインの充実化につなげます。
主義でやろうとするのではなく、自社の強みと他社の強みを
事業・構造改革
研究・生産・本社機能などの集約・再編を加速するとともに、
強靭かつ筋肉質な経営体質への変革をめざします。
26
当社では、研究・生産・本社機能などの集約・再編を加速し、
に、2015 年 2 月には吉富工場で新製剤棟建設を着工し、再編
機能および生産性の向上とコストの削減が両立した事業体制
と強化を同時に進めています。一方、アジアでは、海外子会
の構築をめざしています。国内の創薬研究拠点については、
社である天津田辺製薬およびタナベ インドネシアにおいて
2015 年度末にかずさ研究所を閉鎖し、横浜事業所と戸田事
新製剤棟が 2015 年 1 月に竣工しました。現地生産拠点とし
業所の 2 拠点に集約することを 2015 年 2 月に決定しました。
て、生産力の強化と製品の品質確保および安定供給をめざし
CMC 研究拠点については加島事業所に集約しました。生産
ます。また、本社機能の強化と効率化を図るため、モノづくり
拠点は、2017 年度末までに国内生産子会社である田辺三菱
に関する機能を中心に、加島事業所に建設したオフィス棟へ、
製薬工場の生産拠点を 2 拠点に集約する再編方針に従い、同
営業機能とスリム化したコーポレート機能は、当社発足時の
社の足利工場を 2014 年 4 月にシミックホールディングスに、
本社所在地に建設した新本社ビルへと、それぞれ機能集約し
2015 年 4 月には、鹿島工場を沢井製薬に譲渡しました。さら
ました。
田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015
事業再編については、選択と集中を進め、血漿分画製剤事
業、ファインケミカル事業、中国の輸液事業から撤退しました。
現在、強靭かつ筋肉質な経営体質への変革をめざして、全
構造改革による費用削減 *
* ベンチマークは 2012 年度経費で、拠点再編を含む
社プロジェクトとして、業務プロセスの見直し、購買改革、人
事制度の見直し、組織・要員の適正化、低収益事業のさらな
2016 年度に
100 億円規模の
る見直しなどに聖域なく取り組んでいます。2014 年度には、
拠点再編によるものも含めると、計画を上回る年間換算ベー
ス 55 億 円 のコスト削 減 効 果を発 現することができました。
2016 年度末までに 100 億円規模の効果を見込んでいます
コストを削減
2014 年度は
計画 30 億円に対して
55 億円の効果
が、できる限り上積みをしていきたいと考えています。
これら事 業 構 造 改 革 につ い て は、コスト削 減 が 前 面 に
100 億円
出ていますが、捻出した資金を新薬の研究開発費として再投
資していくことが目的であり、それに加え、従業員が仕事の
80 億円
やり方そのものを見直し、より速く、より効率的なやり方を
実績
追求することが重要であると考えています。2014 年度には
「 組 織・行 動 の 変 革 」の 取り組 み の 中で、行 動 の 変 革 提 案
「 i Move 」と題して、仕事のスピードや価値が向上する提案
を全グループ従業員から募集しました。想定以上の反響が
55 億円
計画
30 億円
+25
あり、仕事の効率化につながる提案が多数寄せられました。
募集された提案については、私自身が採否を決定し、順次実
行に移しています。引き続き、このような従業員を主体とした
’14
’15
’16
’17 以降 (年度)
ボトムアップによる変革にも積極的に取り組んでいきます。
持続的成長に向けて
これまでの延長線上で事業活動を行っていては、
その先に持続的成長への道はないと考えています。
「地図の無い場所」に道を描き、自らの手で未来を切り拓かなければなりません。
当社は 2014 年 5 月に本中計の経営数値目標の見直しを行い
次期中期経営計画では、変革への取り組みを成し遂げるこ
ました。この新たに設定した目標に対し、2015 年度の計画
とが大きなテーマとなります。ただし、2015 年度において
は営業利益については達成を見込んでいるものの、売上高
も、できることはすべて前倒しで実行する考えです。また、
は未達となる見込みです。国内医療用医薬品市場における
将来の成長のための投資に向けて大きく舵をきっていきま
事業環境は、私たちの想定を上回る速度で厳しさを増してい
す。製薬企業が投資を行ってから、その成果を得るまでの期
ます。これまでの延長線上で事業活動を行っていては、その
間は比較的長く、大きな投資であれば、10 年以上を要するこ
先に持続的成長への道はないと考えています。
「地図の無い
ともめずらしくありません。しかし、それを待ってはいられま
場所」に道を描き、自らの手で未来を切り拓かなければなり
せん。その期間をいかに短くするかも、今後挑戦すべき課題
ません。それはまさに、
「変革」を意味します。
であると認識しています。
田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015
27
社長メッセージ
将来成長のための投資を積極的に実行することにより企
業価値の増大を図るとともに、株主の皆様への還元を安定
2015 年度の業績予想 (2015 年 5 月 8 日発表)
予想
的、継続的に充実させていくことも重要な経営課題のひとつ
です。本中計では、利益成長に加え、配当性向を 50%(の
れん償却前の配当性向 40% )をめどに引き上げ、利益還元
売上高
2014 年度
2015 年度
4,151 億円
3,960 億円
の充実に努めてきました。2014 年度については、主に事業
営業利益
671 億円
675 億円
構造改革の推進に伴う多額の特別損失を計上したこともあ
研究開発費
696 億円
740 億円
18.8%
23.9%
り、当期純利益は前年度比で減少しましたが、収益体質の強
化が進んだことで、営業利益は大幅に増加しました。このよ
海外売上高比率
うな状況と株主還元の基本方針を踏まえて、2014 年度の 1
株当たり年間配当は 2 円増配の 42 円としました。本中計期間
中では、この 4 年間で 14 円増配となっています。なお、配当
性向については、59.6% となりました。2015 年度は、減収
私が社長に就任し、1 年が経過しました。社長という立場
となる見込みですが、営業利益および当期純利益は増益を
から当社を俯瞰すると、大型新薬を生み出せる研究開発力
見込んでおり、1 株当たり年間配当金は 2014 年度から2 円増
があり、従業員も能力、意欲などを十分に備えていると評価
配の 44 円、配当性向は 60.9% を予定しています。今後も業
していますが、これから当社がもう一段上をめざしていくた
績を勘案しながら、株主の皆様への利益還元を充実させて
めには、お客様や競争相手に目を向け、一歩先んじることが
いきます。
できる集団に変えていかなければならないと考えています。
また、患者さんや医療関係者、さらには、社会、株主の皆
それは、当然のことながら私一人で実現できることではあり
様 からの 信 頼 なくして は、持 続 的 成 長 の 実 現 は 成し得 ま
ません。社長就任以来、従業員に向けたメッセージを継続的
せん。当社は、透明性と公正さを基軸とした経営をするため
に発信するとともに、直接対話できる機会を極力設けるよう
に、コンプライアンスの一層の強化を図るとともに、コーポ
にしてきました。どうしたら伝わるのか、どうやったら行動を
レート・ガバナンスについては、東京証券取引所が策定した
変えていけるのかを常に意識しています。これにより、当社
「コーポレートガバナンス・コード」への対応も含め、その強
がめざす方向や危機感を共有し、中核となって変革をけん引
化 に 向 け て 継 続して 取り組 ん で い きま す。な お、当 社 は
する人 材を一 人 でも多く育 成 することが、
「 独 自の 価 値を
2011 年より、経営の透明性および客観性の確保と、取締役
一番乗りでお届けする、スピード感のある創薬企業」への変
会の監督機能の強化を図るために、社外取締役を導入して
革を実現する最大の原動力になると確信しています。これか
います。2 名の社外取締役からは経営に対する率直な意見を
らも動きを止めることなく、全社一丸となって、変革への道、
いただいており、実効性のある活発な議論が交わされてい
新たなステージへとつながる道を切り拓いていきます。
ます。加えて、ステークホルダーとの関係を深めるための活
動にも取り組んでいます。具体的には、疾患治療に関わる研
2015 年 8 月
究開発活動への助成や患者団体への支援、当社の事業所が
代表取締役社長
属する地域の活性化のための活動など、事業活動との関わ
りの強い分野で、企業市民活動を展開しています。
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田辺三菱製薬コーポレートレポート 2015