震災の記憶を後世に伝える震災伝承及び 震災遺構の保存

山元町長
齋 藤
俊 夫
殿
震災の記憶を後世に伝える震災伝承及び
震災遺構の保存・活用に関する提言書
平成27年1月15日
山元町震災伝承検討委員会
委員長
木
村
0
拓
郎
山 元 町 震 災 伝 承 検 討 委 員 会
委員長
木村
拓郎
一般社団法人
減災・復興支援機構
理事長
副委員長
委員
菊地
文武
本江
正茂
東北大学 災害科学国際研究所
情報管理・社会連携部門
災害復興実践学 准教授
宮原
育子
宮城大学 事業構想学部
事業計画学科 教授
井上
剛※1
坂元小学校 主幹教諭
元中浜小学校 校長
岩崎
信※2
坂元小学校 主幹教諭
元中浜小学校 教務主任
門間
浩泰
坂元小学校 PTA副会長
元中浜小学校 PTA会長
樋口
太一
山元町区長会
庄司
アイ
やまもと民話の会
千石
信夫
NPO法人
亘理山元まちおこし振興会
文化財保護委員
委員長
山寺区長
理事長
岩見
圭記
小平親睦会
永谷
里美
山元町婦人防火クラブ連合会
会長
役員
任期:平成 26 年 3 月 11 日~平成 27 年 3 月 31 日
※1 平成 26 年 3 月 11 日~平成 26 年 4 月 17 日
※2 平成 26 年 4 月 18 日~平成 27 年 3 月 11 日
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1.はじめに
東日本大震災において甚大な被害を被った山元町では、
「山元町震災復興計画基
本構想」において、
「震災の記憶や教訓を風化させず、後世に伝承するため、災害
の記録を作成するとともに、メモリアル公園等の整備を図る」と位置づけており、
また、グランドデザインの土地利用計画において、
「 被災した山元町立中浜小学校」
(以下「中浜小学校」という)周辺に「震災の記憶を後世に伝えるモニュメント
等」を整備することを計画しています。
「山元町震災伝承検討委員会(以下、「検討委員会」という)」は、このような計
画を具体的に検討するため、平成 26 年 3 月 11 日に発足しました。以来、計 5 回
にわたり、東日本大震災の脅威・教訓を風化させることなく伝承し、永く後世の
人々に防災・減災の意識・知識を向上させるための震災伝承のあり方等として、
震災の記憶を伝承するための手法や中浜小学校を震災遺構として保存・活用する
方向性について検討してきました。
東日本大震災の発災よりすでに4年近くの年月が経過した今、震災の記憶も薄
れ、震災の脅威を後世に伝承していくという課題の重要性が改めて認識されるな
か、検討を通じて、被災の現場を町内外の人々に見せることは、震災の記憶を人々
の心に鮮明に刻み付けるとともに、災害対応の心構えをつくるうえで非常に大き
な意味を持つとの方針に到りました。
ここに、これまでの検討結果を、検討委員会の提言として示します。
2
2.提
言
本検討委員会は、「山元町の震災伝承」について以下のように提言いたします。
(1)震災遺構について
山元町を襲い、甚大な被害をもたらした東日本大震災の記憶を後世に伝承す
るために、震災遺構として、「中浜小学校」を保存・活用していくことを望
みます。
≪理由≫
・未来の震災から命を守るためには、東日本大震災の記憶をしっかりと伝承してい
くことが不可欠であり、写真や映像だけでは伝えきれない震災の脅威を伝承でき
る建造物として、中浜小学校は非常に高い価値を有していると考えます。
・中浜小学校において 90 名もの命が守られた事実を広く伝えるためにも中浜小学校
を保存すべきだと考えます。
・町民アンケートでは、震災伝承を必要と答えた方が 9 割を超え、震災伝承に中浜
小学校が役に立つと答えた方が約7割という結果であり、このような町民の意向
を尊重します。
(2)中浜小学校の保存・活用の方向性について
中浜小学校の保存・活用にあたっては以下を前提とした計画推進を望みます。
①
基本的な考え方
〔コンセプト〕
震災の記憶を風化させずに継承し、未来の震災から命を守る施設
〔役
割〕
1)震災の事実・脅威を伝える
山元町を襲った大津波の事実と脅威、尊い命を奪い甚大な被害をもたらしたことを記憶し伝承し
続ける。
2)震災から学んだ教訓を伝える
地震・津波の再来を警告するとともに、日ごろの心構えやその時の行動など、
震災から学んだ教訓を伝える
3)命を守る教育や倫理観の大切さを伝える
命と向き合った、3.11 の中浜小学校の事実を通じて、命を守る教育や倫理観の大切さを伝える。
3
②
保存の方向性
1)校舎の現状を可能な限り保全する方向で整備
ありのままの被災状況を見てもらうことによって、想像を絶する津波の破壊力
や被害の実情をリアルに伝えることが可能となります。また、中浜小学校は町民
にとって思い出の場所でもあります。改修は最低限にとどめ、校舎の現状を可能
な限り保全する方向で整備することを望みます。
2)被災した校舎の内部も見せる方向で整備
震災の脅威を認識してもらうためには、外観だけでなく被災した校舎の内部も
見せることが必要と考えます。床・壁・天井を破壊した津波のすさまじさや、震
災当夜、児童・教師たちが一晩を明かした屋上倉庫など、校舎の内部も見てもら
えるよう整備することを望みます。
3)ボランティア等の活動拠点、震災遺構見学の補完学習の場を整備
利用者の安全確保と効果的な伝承を実現するためには、震災を体験したボラン
ティア等によるガイドサービスが不可欠であるとともに、東日本大震災の概要や
山元町全体の被害状況など、遺構見学を補完する学習の場が必要だと考えます。
ボランティアの活動拠点、遺構見学の補完学習の場を整備することを望みます。
③
活用の方向性
1)未来の命を守るという目的に向かって、町民が多様なかたちで参加できる
仕組みづくり
中浜小学校が震災伝承拠点として、町民に親しまれ、心の拠り所となる施設と
なるためには、町民自身が未来の命を守るという目的に向かって主体性を持ち、
震災伝承の担い手となることが重要だと考えます。中浜小学校の保存・活用にあ
たっては、町民から震災伝承に係る資料を提供してもらったり、町民ボランディ
アや NPO との協働活動を推進するなど、町民が多様なかたちで参加できる運営方
法を取り入れることを望みます。
2)全国・世界を視野に入れた活用方法の検討
リアルな題材を通じて全国・世界へ震災の脅威を広く伝えていくような活用を
望むとともに、東日本大震災により山元町へ全国・世界からの多くの支援があっ
たことへの感謝の気持ちを発信できるような活用方法を検討することを望みます。
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3.付帯意見
中浜小学校の保存・活用にあたっては、以下のような点について、さらに検討
を深めることが必要です。
1)周辺計画や町づくりとの連携について
遺構による伝承を持続的なものとするため、その運用については中浜小学校単独
ではなく町づくり全体で捉え、周辺の計画や関連施設との連携が必要です。例えば、
世界にも例をみない津波湾との連携や校庭部分にメモリアル広場を整備すること等
を含めた一体的整備、町内の交流施設との周遊ルートを設ける等を検討することを
望みます。
2)仮保全について
被災した中浜小学校の校舎は、津波により窓や扉の多くが破壊されています。そ
のため、校舎内部が風雨に晒され、急速に劣化が進んでいるとともに、鳥害、虫害
のリスクもあります。さらには、被災物等の盗難の危険性も無視することはできま
せん。震災遺構として中浜小学校を後世に継承していくためには、現状をできるだ
け保存することが必要であり、早急に仮保全の対策を講じることを望みます。
3)町財政への負担の軽減・持続可能な運営について
山元町は震災によって多くを失い、財政的にも厳しい状況にあります。アンケー
トやワークショップにおける町民の意見からも、中浜小学校を整備・運営するにあ
たっての町財政への負荷が大きな懸念となっています。本事業を実現するためには、
10 年後、20 年後を見据えた持続可能な運営の仕組みづくりが必要不可欠であり、十
分な検討を望みます。また、県内の他の震災遺構とネットワークを組み、相互に伝
承の効果が発揮できるようにすることや、ネットワークの運営を含む維持管理につ
いて宮城県等へ支援を働きかけることを望みます。
4)保存事業への町民の継続的な参加
今後、保存の方法、運営方法など、具体的に検討しなければならない課題が多々
あることから、町民と役場との連携が必要です。このため、町民に継続的に参加し
てもらう体制作りが必要で、町民と役場が一緒に事業を協議できるような 仕組みづ
くりを望みます。
以上のような考えに基づき、参考にイメージ図を添付いたします。
5
4.検討委員会の経過
活動
「第1回検討委員会」
「震災伝承等に関する
町民アンケートの実施」
「第 2 回検討委員会」
「第 3 回検討委員会」
「震災伝承ワークショップ」
「第 4 回検討委員会」
「第 5 回検討委員会」
開催日
内容
平成 26 年 3 月 11 日
・町民アンケートの内容を検討。
・震災遺構の意義等について検討。
平成 26 年 3 月 19 日~
4 月 11 日(町民全世帯)
平成 26 年 5 月 9 日~
5 月 20 日(町内中学生)
・町内を対 象に震災 伝 承等に関するア
ンケートを実施。
・結果を検討委員会へ反映。
平成 26 年 5 月 27 日
・中 浜 小 学 校 を震 災 遺 構 として保 存 す
べきか否かについて検討。
・委員会としては、震災遺構としての活
用を探るという結論。
平成 26 年 10 月 10 日
・中 浜 小 学 校の保 存・活 用の方 向 性を
検討。
・外観だけでなく、内部もみせたい、震災
の爪痕をできるだけ残しつつ、展示学習
機 能、アーカイブ機 能 などを整備 した
い、等の見解が出される。
平成 26 年 11 月 16 日
・専門家を招き「東日本大震災と巨大津
波を振り返 る」、「震災 遺構に足を運ぶ
ということ:活用事例を考えてみよう」を
テーマに講演を行う。
・これまでの検 討 委 員 会 の経 緯 や、中
浜小学校の保存・活用案を町民に説明
し、意見交換を行う。
平成 26 年 12 月 1 日
・ワークショップで出た意見等を踏まえ、
中 浜 小 学 校の保 存 ・活 用について、検
討を行う。
・町への提言書(案)について議論。
平成 27 年 1 月 5 日
・保 存・活 用 案 及 び提 言 書 (案)につい
て再度検討。
・町への提言書を固めた。
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