No.66 ②糖尿病網膜症の分類

福井県医師会だより 第654号 平成27年11月25日発行
ワンポイント・スキルアップ糖尿病 №66
②糖尿病網膜症の分類
福井大学医学部眼科准教授 高 村 佳 弘
糖尿病網膜症の所見をもとに、病期分類を基
準に進行度を評価します。眼科医との連携を図
る上で、糖尿病を専門とする内科医にも知って
おいていただきたい糖尿病網膜症の病期分類を
以下にまとめました。
人間ドックなどのスクリーニングとしては十分
な役割を果たすと思われます。
欧米では、血管新生を境として、非増殖期と
増殖期に分ける考え方が一般的です。増殖期に
入ると光凝固や硝子体手術などの治療を介入さ
せる必要があることを考えると、この大まかな
分類は合理的であるとも言えます。ただし日々
診察に通う糖尿病患者に病状を伝え、理解して
もらうには、より細かな分類が要求されます。
今回とり上げる分類法は以下の通りです。
・Davis 分類
・福田分類
・国際重症度分類
以下、それぞれの分類法の特徴について説明
します。
Davis 分類(図1)
Davis 分類の特徴は、網膜症の病期を網膜症
なし、
単純(SDR)、前増殖(PPDR)、増殖(PDR)
の4期に分けている点です。欧米では、血管新
生を境として前増殖期と増殖期に分けることが
多いですが、失明の危険性をはらむ増殖期への
移行前に前増殖期を設定することで患者にもわ
かりやすく、内科医にとってもなじみが深いと
思われます。糖尿病網膜症の主要な病態は、血
管透過性の亢進、血管閉塞、血管新生から成る
が、単純、前増殖、増殖網膜症にそれぞれ1対
1に対応しているのが大きな特徴です。問題
点としては、前増殖期は軟性白斑、静脈異常、
IRMA を特徴とすると定義づけられているも
のの、各所見の程度や数、範囲などは定義され
ていない点が挙げられます。病期の進行を細か
く捉えるという点では不十分とも言えますが、
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福田分類(図2)
Scot 分類をもとに1979年に提唱され、その
後何回かの改変を経て、1989年に新福田分類
が発表されました。福田分類の最大の特徴は、
同様に網膜症を良性と悪性の2群に分け、臨床
における網膜症の重症度の判定に重きを置いて
いる点です。良性と悪性を更にそれぞれ5期に
分け、細かな病期分類を可能にしているだけで
なく、黄斑病変(M)、牽引性網膜剥離(D)、
血管新生緑内障(G)、および虚血性視神経症(N)
を併記することで合併症の有無もわかるように
なっています。網膜症の進行は一方通行ではな
く、光凝固や硝子体手術によって鎮静化が得ら
れた際には、増殖停止期として良性網膜症に組
み込んでいる点も大きな特徴です。他の分類で
は、一旦増殖期に入るとそれ以降は増殖期のま
まですが、血糖コントロールや光凝固なとの治
療を頑張れば鎮静化を得ることができる、と患
者に認識させる臨床的意義も大きいと思われま
す。積極的治療が必要な状態を悪性網膜症とし
て位置付けており、治療方針の決定という点で
は大変有用であると考えられます。基本的に、
A がついていれば安定していると判断しても
らっても OK です。
国際重症度分類(図3)
糖 尿 病網膜 症の所 見を細かくスコア化した
ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy
Study)分類に基づく調査の結果、増殖性糖尿
病網膜症への進行に有意に関与した10所見の
うち、特に重要なのが IRMA、網膜出血、毛細
血管瘤、静脈の数珠状拡張でした。この知見か
ら、これらの所見の程度によって非増殖期を重
点的に分けた分類であり、国際的な基準として
福井県医師会だより 第654号 平成27年11月25日発行
学術的に重要である。“20個以上の網膜出血 ”
など、判定項目が細かすぎる面もありますが、
近年の広角眼底装置による観察により実用性も
出てきた感があります。
期分類は統一されていることが望ましいと考え
られますが、上記のように各分類にはそれぞれ
の長所と短所があり、目的に応じて使い分ける
ことが肝要であろうと思います。眼科医と内科
医の連携という点で糖尿病網膜症の病期分類は
特に重要な項目のひとつです。
まとめ
各分類の比較を図4に示します。一般的に病
図1
Davis分類
SDR
図2
福田分類
毛細血管瘤と網膜小出血
+硬性白斑や網膜浮腫
軽症
中等症
良性網膜症
透過性亢進による所見
PPDR
増殖停止網膜症
軽症 (AI)
毛細血管瘤、点状出血
小数の硬性白斑
重症 (AII)
硬性白斑、小軟性白斑
軽症 (AIII) 陳旧性(6カ月)のNV
重症 (AIV, AV) 陳旧性(6カ月)PDR
軟性白斑
網膜内細小血管異常(IRMA)
血管閉塞による所見
悪性網膜症
軽症悪性網膜症
PPDR (BI)
早期PDR (BII)
AIV : VH 残存
AV : 増殖組織のみ
NVE
中期PDR (BIII) NVD
新生血管、線維増殖膜、硝子体出血、牽引性網膜剥離、
燃えつきた網膜症(burn out retinopathy)
PDR
単純網膜症
(SDR)
重症悪性網膜症
晩期PDR (BIV, BV) BIV : VH
BV : 増殖膜
Davis 分類。単純糖尿病網膜症(SDR)
、増殖前糖尿病網
膜症(PPDR)
、
増殖糖尿病網膜症(PDR)に分類されます。
福田分類。良性と悪性に分類され、更に細かく細分化
されています。
図2
福田分類
軽症 (AI)
図3
合併症
1) 黄斑病変 (M)
2) 牽引性網膜剥離 (D またはVI)
3) 血管新生緑内障 (G)
4) 虚血性視神経症 (N)
重症 (AII)
PPDR
(BI)
軽症 (AIII)
早期PDR
(BII)
重症 (AIV)
中期PDR
(BIII)
晩期PDR
(BIV)
国際重症度分類
明らかな網膜症なし
2) Mild non-PDR
網膜細血管瘤
3) Moderate non-PDR
重症 (AV)
晩期PDR
(BV)
1) NDR
4) Severe non-PDR
a) 4象限の全てで20個以上の網膜出血
b) 2象限以上で静脈の数珠状拡張
c) 1象限以上で著名なIRMA
5) PDR
新生血管
硝子体出血、網膜前出血
D
光凝固による停止例には(P)
硝子体手術による停止例には(V)を付ける
国際重症度分類。非増殖糖尿病網膜症(non-PDR)が
3段階に分けられています。
図4
各分類の比較表
糖尿病網膜症の
主な眼底所見
新福田分類
Davis 分類
ETDRS 分類
国際重症度分類
毛細血管瘤
点状出血
AI
SDR
軽症
20
Mild non-PDR
しみ状出血
硬性白斑
AII
SDR
中等症
35
43
47
Moderate non-PDR
53
Severe non-PDR
軟性白斑
IRMA
AII~BI
BI
SDR
重症
(PPDR)
静脈異常
新生血管
AIII,BII,BIII
硝子体出血
AIV,BIV,BV
牽引性網膜剥離
D
61, 65
PDR
65, 71, 75, 85
81, 85
PDR
各分類の比較表。眼底所見に応じて
程度分類が異なります。
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