風力発電設備の火災事故と消火装置 - 損保ジャパン日本興亜リスク

2015 年 9 月 10 日
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風力発電設備の火災事故と消火装置
日本国内における風力発電設備の火災事故の概要と自動消火装置の種類について
足立 慎一
Shinichi Adachi
リスクエンジニアリング開発部
執行役員
部長
(写真はイメージであり本文に記載の事故事例とは関係ありません。)(写真:fotolia)
はじめに
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(略称:NEDO)の調査によると、2015 年 3 月末
の我が国における風力発電の導入量は、総設備容量で 293 万 6,306kW、総設置基数は 2,034 基となった。2013
年度末よりの増加は 22 万 9,465kW、102 基である(図 1)1。一方、環境影響評価法に基づく手続き(環境影
響評価)中の風力発電所は、2015 年 1 月 1 日現在で約 500 万 kW 存在しており2、近年中に現在の 2.7 倍規模
の導入量に達する見込みである。
1
2
単機出力 10kW 以上で、系統に連係しているすべての設備を対象。
経済産業省 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会 第 9 回(平成 27
年 2 月 3 日開催)配布資料 4「風力発電の導入状況等について」
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図 1 日本における風力発電の導入量(2015 年 3 月末速報)3
風力発電は、日本国内でのポテンシャル(潜在量)が大きく発電コストも低いという特長から、導入拡大
が図られている再生可能エネルギーの中でも、最もその伸展が期待されているエネルギー源である。一方で、
風力発電設備(以下「風車」)の増加に伴い、故障や事故も年々増加傾向にあり、特に 2013 年以降は、風車
の倒壊やブレード4の落下といった公衆への危害が懸念される重大事故が多発している。こうした事態に、経
済産業省電力安全課では、2013 年 12 月 3 日付で風車の雷害対策の注意喚起文書を発信したのに続き、同年
12 月 10 日付および 12 月 27 日付にも経済産業省の各産業保安監督部と一般社団法人 日本風力発電協会(以
下「JWPA」
)を通じて、全国の風車の設置者に対し、安全管理に万全を期すよう周知した。その後も、経済
産業省 産業構造審議会 保安分科会の電力安全小委員会などで公衆安全の確保について討議が続けられ、定
期的に適切な保守を実施することを目的とした風車の定期安全管理審査が改正電気事業法に盛り込まれ、
2017 年 4 月にも施行の見込みである。こうした国の動きに呼応する形で、JWPA においても、
「風車の公衆安
全確保に関わるガイドライン」を 2015 年 1 月に発行し、また独自の風車検査スキームを 2015 年度中に実施
するとしている5。
このように風力発電は、導入拡大とともにその安全性を高める動きが進展しているが、今後、風車基数の
大幅な拡大と経年設備が増加することに鑑みれば、重大事故の潜在リスクを絶無とすることは困難である。
そういった風車の重大事故のうち、本稿では風車の火災事故について取り上げる。風車の火災事故は、日本
国内で幸い人的被害がなかったことで、これまであまり大きく着目されていないが、後述のとおり世界的に
は、2015 年 3 月までに確認できているものだけでも 242 件発生しており無視できないものとなっている。
3
国立研究開発法人 新エネルギー産業技術総合開発機構,「日本における風力発電導入量の推移」速報版の公開,
http://www.nedo.go.jp/news/other/ZZFF_100010.html(アクセス日:2015_08_25)
4
風車の回転羽根部分。
5
一般社団法人 日本風力発電協会,「風車検査スキーム(定期安全管理検査制度の試行版)の公開について」,
http://log.jwpa.jp/content/0000289444.html(アクセス日:2015_08_25)
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以下に、風車の火災リスクを考察するとともに、日本国内で発生した風車火災事故について概要を報告す
る。また、火災被害の低減に有効と考えられる自動消火装置の代表的な種類について説明する。
1. 風力発電における火災リスク
風力発電の火災の原因としては、落雷による過電流・過電圧に伴い、変圧器(ナセル6内(図 2)に設置さ
れているタイプ)や制御盤から出火するケースが最も多い。また、停電後の復旧のために電源を再投入した
際に、変圧器などからアーク7が発生し周辺の可燃物に引火する事例や、強風による過回転を防止するため稼
働した制動機の摩擦熱から出火する事例も報告されている。こうしたアークや摩擦熱は各機器(コンデンサ
(蓄電器)
、変圧器、発電機、電気制御装置、伝達装置、制動装置)で発生する可能性があり、周辺に可燃物
があれば瞬く間に火災に発展する。保守状況が不十分な風車では、機器からの漏油が延焼媒体となる場合も
少なくない。
特にナセル内から出火した場合は、ナセル内は密閉されて機器類も隣接しているため、短時間で延焼して
損傷はナセル全体に広がる。さらにブレードにも延焼する可能性が高く、ブレードが落下する事故や部品が
飛散する事故も発生している。
図 2 風車のナセル内構造(主要部品)8
ひとたび風車が火災となれば、消防は為す術がない。
大型風車のナセルは地上から 60~80m の高さにあり、
消防自動車の標準的な 30m のハシゴ車はおろか、放水でも届かない。消防隊は燃焼する風車が燃え尽きて鎮
火するまで、ただ警戒するだけである。また、風車の主要部品の多くをナセル内に収容しているため、ナセ
ル内で火災が発生すれば、仮にタワーの損傷を免れたとしても、大きな損害額を伴うこととなる。
こうして風力発電事業者は、火災が発生した風車 1 基を失うことになるが、火災損失はそれにとどまるの
であろうか。
風車が火災となった場合に、火のついた破片(瓦礫片)が飛来して、発電所サイト内の他基に燃え移る可
6
7
8
水平軸風車において、タワーの上部に配置され、動力伝達装置、発電機、制御装置などを格納するもの。
2 つの電極間で放電させること(アーク放電)によって形成されたプラズマの一種。
各社風車を参考に当社作成。
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能性を考えてみる。通常、風車の離隔距離はブレード直径の 3 倍程度離れている。近年の大型風車のブレー
ド長は 30~50m であるので、隣接する風車までは最低でも 90~150m 離れていることになる。一方、日本国
内の事故においても、破片が 200~300m 飛来した事例が報告されており、理論上、瓦礫片は隣接する風車に
十分届くことになる。しかし、この場合、隣接風車に飛来・衝突による損傷を与えることはあっても、瞬間
的な接触で類焼する可能性はほとんどないであろう。
それでは、周辺に所在する民家や森林への延焼の可能性も否定されるのか。日本における民家との離隔距
離は多くの自治体でガイドラインとして定められているが、概ね 200~400m となっている。しかし、これら
は、環境影響評価の中で騒音や低周波音の影響から定められたもので、破片の飛来は想定していないように
思える。火災時にブレードが停止している場合なら問題は少ないが、燃焼したまま回転を続ければ、瓦礫片
は遠心力でかなり遠方に到達する可能性がある。風向や風速次第では、広範囲に民家火災や森林火災を招く
恐れがある。
一方で、損害について金銭的に考察した場合、万一ナセルが全焼すれば、設備の撤去・交換を含め、財物
の損害額は数億円に達する。再建をする場合には、およそ 1 年間を要し、その間の発電も停止することにな
る。また火災の原因如何では、発電所サイト内の他基についても、行政上あるいは自主的に一定期間の停止
を余儀なくされることも否定できない。
さらには、火災に伴う第三者への賠償責任負担や従業者の労災事故も、リスクとして認識しておく必要が
ある。実際、2013 年 10 月にオランダ・Oolgensplaat の風車で火災が発生し、点検作業をしていた技術者 2 名
が燃焼するナセル上に取り残され犠牲になっている。
2. 風力発電の火災事故統計
風力発電の火災事故件数について、公開されている公的な統計資料は、日本国内ばかりでなく海外におい
ても見当たらない。唯一、Caithness Windfarm Information Forum(以下「CWIF」
)が報道記事より集計した統
計記事が CWIF のウェブサイト上で定期的に更新されているに過ぎない9。
統計記事によれば、世界における風力発電の事故は、報道されたもので、2015 年 3 月末までに 1667 件が
確認されており、そのうち 242 件が火災事故である。2005 年から 2014 年までの 10 年間でみても、火災事故
は 174 件で約 13%を占めており、毎年 10~20 件前後の発生が報告されている(図 3)。
全世界の風車基数は明らかでないが、2005 年末における全世界の風力発電導入量 59,091MW が、2014 年末
に 369,597MW10と大きく伸展している。2MW/基で試算してみると、およそ 2 万 9,500~18 万 5,000 基とな
る。それだけの風車基数からすれば、上記の火災事故件数はそれほど多くないように見える。しかし、上記
の火災事故件数が報道記事からの集計であることを思い浮かべれば、最大の風車大国である中国の数字がほ
とんど含まれていないことや、また電気基盤等の焼損で終わってナセルに延焼しなかったような電気的な事
故などは報道対象外であることに誰しもが気づくはずである。そして、前述のとおり、ナセルやブレードに
延焼した場合には、消防車による消火が功を奏さないため、それらは必ず大きな損失金額と長期の復旧期間
を伴うことに留意すべきであろう。
実際、2011 年 12 月 11 日、デイリー・テレグラフ11は、イギリスだけで過去 5 年間に 1,500 件の風力タービ
9
Caithness Windfarm Information Forum(http://www.caithnesswindfarms.co.uk/index.htm)
GWEC : “GLOBAL WIND REPORT / Annual Market Update2014”
http://www.gwec.net/wp-content/uploads/2015/03/GWEC_Global_Wind_2014_Report_LR.pdf (accessed 2015-08-25)
11
The Daily Telegraph:イギリスの一般紙サイズの新聞。1855 年創刊。
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ン事故と事件があったことを RenewableUK12が確認したと報じたが、この間(2006 年~2010 年)の CWIF の
イギリスにおけるデータ 142 件と比較して、
実際の事故の 9%に過ぎないと CWIF のレポートは注記している。
さらに、一部の研究者13は、実際には毎年 120 件近くの火災が発生していると主張している。
図 3 Caithness Windfarm Information Forum の事故統計における火災事故比率14
3. 日本国内で発生した風力発電の火災事故
日本国内において風車の火災事故として報告されているものは、7 件確認されている(表 1)
(落雷により
ブレードが破裂・損傷した場合やナセル内の機器が過電流等で焦損した場合で、独立燃焼(延焼)のないも
のは含まない)。
表 1 日本国内で発生した風車火災事故15
発生年月日
発電所
場所
火災事故原因
概要
2002.1.21
A 発電所
青森県
設計欠陥
試運転中の風車から出火。ブレードが火を噴きながら回転。ナ
セルが全焼、ブレード 2 枚が落下した。
2003.9.30
B 発電所
秋田県
過電流(劣化) コンデンサのアークが可燃物に引火。ナセルが全焼したほか、
ブレードも損傷した。2004 年 8 月運転再開。
2004.8.30
C 発電所
佐賀県
機械的火花
台風停電時に強風でブレーキがスリップし火花が発生。ナセ
ル、ブレード、タワーが火災損傷した。2005 年 8 月運転再開。
2011.10.2
D 発電所
北海道
変圧器(劣化) 負荷開閉器16を投入した際に、アークが発生。ナセルが全焼し
ブレードルート部17も消失した。2012 年 12 月再開。
2012.4.19
E 発電所
長崎県
不明
回転軸付近から出火。ブレードが消失したほか、モーターカバ
ーが熱で溶解した。2013 年 3 月撤去。
2013.12.1
F 発電所
福井県
落雷
落雷によりナセル内から出火。ブレード 3 枚が焼失、落下。ハ
ブ、ナセルも焼損した。2014 年 4 月廃止。
2014.2.14
G 発電所
静岡県
不明
地域の停電が発生、復電後ナセル内から出火した。4 時間後に
鎮火したがナセルが全焼した。
12
13
14
15
16
17
イギリスの再生可能エネルギー業界団体。
“Overview of Problems and Solutions in Fire Protection, Engineering of Wind Turbines”(巻末:参考文献)
“Overview of Problems and Solutions in Fire Protection, Engineering of Wind Turbines” 掲載資料を参考に当社にて加工。
事故発生会社の公開資料および報道資料などから、当社にて作成。
負荷電流の流れる電路を開閉できる装置。一定時間の短絡電流の通電が可能だが、短絡電流の遮断はできない。
ロータのハブに固定される翼の基部。翼根。
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表 1 のうち、詳細が判明している 3 事例について、以下に述べる。
3.1. C 発電所事例
2004 年 8 月 30 日、台風の接近により停電が発生。自動シーケンス制御18が発動しディスクブレーキが作動
したが、強風によりブレーキがスリップし火花が発生、ブレーキ下部にカバーが未装着であったため、近傍
の可燃物に着火した。ナセル、ロータ軸、ブレード、タワーに火災損傷が広がり、翌 31 日にようやく自然鎮
火した。当該発電事業者により、主として次の再発防止策が策定され、2005 年 8 月に運転を再開している。
①シーケンスおよび油圧システムを変更し、停電時のブレーキを開放する。
②ブレーキカバーを装着する。
③可燃物を撤去する。
3.2. D 発電所事例
2011 年 10 月 2 日出火し、約 4 時間後に自然鎮火。変圧器が劣化していたことに気づかず、負荷開閉器を
投入したことでアークが発生したと推測される。地絡19除去が遅れ、可燃性である防音材に引火した。火災は
約 4 時間続き、自然鎮火している。当該発電事業者により、主として次の再発防止策が策定され、2012 年 12
月に運転を再開している。
①変圧器室内のアークディテクタ(アーク発生検出機器)を増設する。
②吸気口を改造する。
③自動消火設備を設置する
④変圧器の定期点検時に絶縁チェックをする。
3.3. F 発電所事例
2013 年 12 月 1 日、落雷後に火災発生。ブレード 3 枚が焼損し、付近に部品が落下したほか、ハブ、ナセ
ルも焼損した。事故原因は 1 回目の落雷により、風車内の油圧装置が損傷し、油漏れが発生。その後、新た
な落雷により発生したアークが漏洩していた油に着火したことで火災が発生した。当該発電事業者により、
主として次の再発防止策が策定された(当該風車は、2014 年 4 月 1 日に廃止撤去された)。
①発雷検出装置を装着し、落雷時に損傷のないことを確認後に運転を再開する。
②風車内の油圧装置が雷電流の経路とならないよう設備を改修する。
4. 火災リスク対策
欧州での防火協会である CFPA-Europe は風車の防火ガイドライン20のなかで、火災リスク要因について保
護対策を規定している。以下にその概要について述べる。
4.1. Lightning and surge protection(避雷装置)
風力発電設備の避雷装置は、風車の個々の型にあわせて設置する必要があり、その計画、設置、運用につ
いては技術基準に沿って行うことが必要である。落雷サージ21保護のためには、リスク評価を行うか、IEC22
18
19
20
21
22
あらかじめ定められた順序、手続きに従って制御の各段階を逐次進めていく制御(JIS 旧規格 C0401 で定義)。
電路が大地と電気的に接続されることで、漏電ともいう。
European Guideline(CFPA-E No 22:2012 F),“Wind turbines fire protection guideline”, CFPA EUROPE(巻末:参考文献)
落雷により電気回路などに瞬間的に定常状態を超えて発生する大波電圧。
International Electrotechnical Commission。国際電気標準会議。電気製品の規格や測定方法を定める。
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62305 に沿って、可能な限り最高のリスクを想定して保護レベル(Lightning Protection Level Ⅰ=LPLⅠ)23を
選択することが必要である。風車の構成要素ごとに各保護レベルを規定する必要があるが、包括的な落雷保
護においては、少なくとも LPLⅡのシステムが選択されなければならない。高さがある風車の場合は、低電
圧雷であっても大きな影響を受ける。そのため、タワー、ナセル、ハブとロータおよび回転部分には、いわ
ゆる回転球体法24を用いて特定されるべきでる。
4.2. Minimizing the risk of electrical systems(電気システムリスクの最小限化)
電気システムの障害や異常な運転状態について識別するために、最先端の国家基準に適合した保護技術で
なければならない。そして、故障箇所について選択的に特定し、電気機器を即座に切断する必要がある。
隣接した機器の防火保護システムを統合し、相互に補完する段階的防火保護の概念は、最も適切である。
保護システムにより風力発電機が確実に停止し、全極(中圧側)が電源から切断されなければならない。
4.3. Minimizing combustible material(可燃材使用の最小限化)
油圧油および潤滑油は、不燃性または高引火点のものを選択しなければならない。カバー材としての GRP
(グラスファイバー強化プラスティック)、断熱材料としての PUR(ボリウレタン)や PS(ポリスチレン)
などの発砲プラスティックの使用は避けなければいけない。不燃性材料の使用が難しい場合は、少なくとも
低燃焼性のものでなければならない。また、火災リスクを高める不純物の侵入や油漏れなどを回避するため
に、表面が洗浄可能な独立気泡材25を使用しなければいけない。
ケーブルやラインは、次のものが望ましい。
①有毒または腐食分解物を生成することがほとんどない。
②多量の煙を発生することがなく、室内や設備を汚染させない。
③延焼することがない。
可燃材、予備材、使用中の材料は、発電設備内に格納することは許されない。
4.4. Avoidance of possible sources(発火源の回避)
発火源として、落雷の電流、ブレーキ作動時の火花、電気機器の短絡やアーク、ベアリングやディスクブ
レーキの表面温度の上昇、清掃布からの自然発火が挙げられる。可燃性物質に着火しないように装置類と前
述の発火源は整理されなければいけない。電気機器は、隔離されなければならない。また、風力発電機を離
れる際に、汚れた清掃布は処分する必要がある。
4.5. Work involving fire hazards(火災危険を伴う作業)
火災危険を伴う、修理、組立および解体作業は避けなければならない。不可能な場合でも、冷却作業(cold
procedures:切断、ネジ締め、熱処理のない接着)で対応できないかチェックする。火災の危険を伴う作業を
避けることができない場合は、火災の発生を回避、あるいは早期に発見し、効果的な消火活動を行うことが
できるように、作業中または作業後に火災予防措置を講じることは必須である。
23
IEC 62305 の中で、雷保護レベル(LPL)を高い順からⅠ~Ⅳで定めている。
雷撃距離を半径とした球体を 2 つ以上の受雷部(大地含む)に同時に接するように回転させたときに、球体表面の包
絡面から被保護物側を保護範囲とする方法で、球体の半径 R は保護レベルに応じて JIS A 4201:2003 に定められている。
25
気泡が独立しているフォーム(スポンジ)材。気体や液体を通さない。⇔ 連続気泡材。
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4.6. Maintenance(servicing, inspection and repair)of mechanical and electrical systems(機械系統、電気
系統のメンテナンス(サービス、検査、修理)
)
電気的・機械的システムの技術的欠陥に起因する火災損失リスクに対して、欠陥の適時の修理とあわせて
定期的な保守、検査、早期の欠陥修理が有効である。そのために重要なツールとして、電気的・機械的シス
テムの圧力や温度等の重要な動作監視(システム)が挙げられる。制限値を超えているか、あるいは到達し
なくても、警報が鳴動し、最終的に自動的に停止することが求められる。電気設備と監視システムは、定期
的に専門家によって点検されなければならない。特に、変圧器の絶縁材としてのガスと油は、少なくとも 5
年ごとに分析する必要がある。
電気設備の定期的な検査は、隔年ごとに行わなければならない。またサーモグラフィ検査も、特定の電気
設備に対して定期的に検討されるべきで、その際、技術的資格と必要な測定機器を配した、承認された専門
家によって行われなければならない。
雷保護システムは、一定の間隔で認定された専門家によって検査する必要があり、推奨期間は年 1 回であ
る。システムの操作性および状態の検査として、基礎の接地抵抗の計測、導線の接触抵抗の計測とあわせて
外観検査も必要である。
保守の結果は、保守仕様書や報告書といった書面などで文書化されなければならない。保守や試験中に確
認した欠陥はすぐに対処し、是正内容についても文書化して評価される必要がある。
4.7. No smoking(禁煙)
風力発電機の全域は、禁煙としなければならない。入口に、明確かつ永続的に「禁煙」表示をする。
4.8. Training(訓練)
作業員と、適用するなら外部認定会社を対象に、定期的に風力発電の火災リスクが指導されるべきである。
防火訓練、例えば、火災警報試験、緊急時計画とナセルからの避難についてのリハーサルを実施すること、
そして、それに(陸上風力発電向けの)地元消防隊を関与することが推奨される。
4.9. Prevention of forest fires(森林火災の予防)
風力発電火災に起因する森林火災は、タワーの周囲 25m のエリアにおいて、延焼媒体となる低潅木類を一
掃することが推奨される。
5. 火災検知と自動消火装置
いくつかの火災リスク対策を施した風車であっても、出火・延焼リスクを完全に排除することは難しい。
風車内での火災に対処するためには、信頼性の高い火災検知および自動消火装置が必要となる。
火災検知は、火災の発生をいち早く検知しアラームを発信するとともに、自動消火装置を発動させる必要
がある。一般的に、風車の火災感知器として、
「熱感知式」
、
「火炎検出式」、
「煙探知式」、
「マルチセンサ式(煙
+熱、煙+CO)」が用意されている。これらの感知器は風車内の装置によって適合・非適合があるため、感
知器の設置箇所との適合性に留意する必要がある。
火災検知により消火作業へ移行する場合、基本的に内部に人が常駐していない風車にあっては、自動消火
装置が必須である。自動消火装置では、消火剤により、水系(スプリンクラー、ミスト、泡)
、粉末消火剤の
ほか、不活性ガス(CO2、N など)やハロゲン化合物といったガス系などが利用されている。水系の消火設
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備のうち、スプリンクラーについては、給水の問題やシステム設置範囲の問題から現実的ではない。ミスト
や泡についても容器重量が大きいこと、腐食の問題などが懸念される。粉末剤は高い消火能力を有する一方、
焼損を免れた機器に対して清掃復旧に大きな負荷を伴うこととなる。密閉されたナセル内で電気機器類を含
む多くの機器が配されている状況で、自動消火装置は確実に初期消火を実行することができ、人体や環境影
響にも配慮される必要がある。そのため、風力発電においては、ガス系が選択されることが多い(欧州にお
いては CO2 が主力である)。装置の採用には、コストや保守の容易性も大きな要因となるであろう。
現在、日本国内では、メーカー3 社が自動消火装置の普及に注力している。主力は、いずれもガス系(ハ
ロゲン系)の自動消火装置であるが、3 社の製品には消火剤や構造に違いがある。以下に、3 社の特徴を挙げ
る。
5.1. 株式会社 初田製作所
株式会社 初田製作所は、消火器の製造・販売として 110 年以上の歴史をもち、環境面での取り組みでも知
られる企業である。同社が採用している自動消火装置(製品名:Wind Cabi)は、
「ハロン 1301」を使用した
製品であり、風力発電設備用自動消火装置として業界で初めて「一般財団法人 日本消防設備安全センター」
の性能評価を取得している。ハロン 1301 は人体に無害な気体であると同時に、少量で迅速に消火することが
できるという特長を有する。ハロン 1301 はオゾン層破壊物質として指定されているが、我が国では適切なハ
ロン管理により排出抑制を実施しており、有効な消火剤であるといえる。
Wind Cabi は容器スペースもコンパクトであり、ナセル内全域にノズルを設置することができるため、出火
箇所を限定せず、初期消火に効果を発揮する(図 4)
。また、電池駆動方式を採用しているため、落雷等の停
電時でも継続監視が可能としている。火災検知は、熱(100℃に設定)検知方式(サーミスタ26)である。
図 4 Wind Cabi 設置イメージ(左)と Wind Cabi 消火機器(右)27
5.2. 株式会社 アサヒ防災設備(ヤマトプロテック株式会社)
当該自動消火装置は、大手風力発電事業者から依頼を受けた株式会社 アサヒ防災設備が、防災機器総合メ
ーカーであるヤマトプロテック株式会社に製造委託した製品であり、HFC-227ea(FM200)を消火剤として使
用している(製品名:ABLE)。ABLE も駆動電源としてリチウム電池を使用しており、外部電源を必要とし
ない。火災感知は、サーミスタ熱(99℃)検知である。ABLE の特徴として、最も多く火災発生箇所となっ
ているナセル後部のトランス(変圧器)エリアの消火を対象としている。そのため、比較的低コストでの設
26
27
温度変化に対する電気抵抗変化を利用した熱センサ方式。
図・写真の提供:株式会社 初田製作所
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置を実現している。また、自動試験機能を有しており、機器の故障について警報・表示する。
図 5 ABLE 設置イメージ(左)とシステム概要(右)28
5.3. 株式会社 ニチボウ
株式会社 ニチボウは、防災設備の設計・施工・管理を行う会社であり、日本国内における風力発電設備の
自動消火設備にいち早く取り組んだ実績を持つ。当初は国内メーカーのアメリカ向け製品にあわせて粉末剤
消火設備の導入を進めていたが、現在はハロゲン系ガスである「FK-5-1-12」
(Novec1230)を主力としている
(製品名:ファイアイレイス)。ファイアイレイスの特徴として、熱感知器などの電気的な動作ではなく、外
径 6mm のセンサーチューブが温度感知(92℃に設定)により破裂して消火装置を起動する電源不要の消火シ
ステムである。ファイアイレイスは保護する対象により 2 種類あり、制御盤・配電盤向けの「ダイレクトシ
ステム」(破裂したチューブの穴から消火剤を放出する)と、トランス・大型電力盤など向けの「インダイレ
クトシステム」(チューブが破裂することにより空気圧制御式の容器弁が開放してノズルから消火剤を放出す
る)が用意されている。Novec1230 は常温で液体(沸点が高い)なので、ナセル内においても消火剤の充填
が可能という特長をもつ。ファイアイレイスは風力発電設備のほか、鉄道やバスなどの交通機関、自動工作
機械などでも設置実績がある。なお、センサーチューブは使用温度と経年(10 年以上)に応じた劣化が確認
されており、定期的な保守と更新が必要となる。
図 6 ファイアイレイス( Novec1230)設置イメージ(左)とシステムの概要図(右上・右下)29
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図の提供:株式会社 アサヒ防災設備、ヤマトプロテック株式会社
図の提供:株式会社 ニチボウ
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損保ジャパン日本興亜 RM レポート | Issue 139 | 2015 年 9 月 10 日
おわりに
前述のとおり、風車の火災事故の主原因は、落雷による過電流・過電圧と、機器のアーク、摩擦熱である。
これらの防止には、保守の徹底を筆頭に、防火対策を複合的に採用することが望ましい。さらに、出火して
も風車全体へ延焼させないためには、自動消火装置の設置が重要となる。しかし、風力発電の先進国といわ
れる欧州においても、自動消火装置の設置風車は全体の 1 割に満たないとされている30。普及が進んでいない
理由として、設置コストの問題ばかりでなく、法規制が存在しない、従来の風車にはナセル内に装置の設置
スペースがほとんどない、ということなどが考えられる。
普及の遅れは、日本においても同様である。国内で稼動している大・中型風車約 2,000 基のうち、自動消
火装置が配備されているのは 300 基程度に過ぎない。しかも、そのほとんどが大手事業者により、ここ数年
に設置されたものである。
もともと風車ナセルは、消防法では一般工作物扱いとなっており、消火器や消防設備が義務づけられてい
ない。実際にはタワー下部やナセル内に消火器は設置されているが、風車の稼働中は人が立ち入らないため、
火災発生時に消火器では役に立たない。そのため風車の火災時における初期消火には、自動消火装置こそが
唯一の有効設備であると考えられている。その意味で、今後、自動消火装置の設置を、風車の損害保険料の
割引に反映することも検討されるべきであろう。
風車の火災事故の様子は、動画投稿サイトやブログなどで、映像や写真を多数確認することができる。高
さが数十メートルの巨大な風車が火災に包まれる光景は、あまりにセンセーショナルといえる。しかも、そ
の状態は長時間衆目に晒されることになる。当該風力発電事業者にとっては、企業イメージを大きく損なう
ものであり、燃焼するブレードが回転する様子は二次災害の可能性を誰しもに惹起させ、風力発電の普及・
拡大にもマイナスとなりかねない。
風力発電の設置基数の伸展以上に、風車の防火対策の徹底と自動消火装置の設置拡大が望まれる。
参考文献
・一般社団法人 日本産業機械工業会, 「Power to Gas 技術の動向/風力タービンの火災リスク」, 平成 26 年 6 月号,
http://www.jsim.or.jp/kaigai/1406/002.pdf, (accessed 2015-08-25).
・European Guideline(CFPA-E No 22:2012 F),“Wind turbines fire protection guideline”, CFPA EUROPE
http://cfpa-e.eu/cfpa-e-guidelines/guidelines-fire-protection-form/, (accessed 2015-08-25).
・Solomon uadialei, Évi Urban(University of Edinburgh, UK),David Lange(Technical Research Institute of Sweden, Sweden),
Guillermo Rein(Imperial College London, UK), “Overview of Problems and Solutions in Fire Protection, Engineering of Wind
Turbines”, http://www.iafss.org/publications/fss/11/200/view, (accessed 2015-08-25).
・Scott Starr,“Turbine Fire Protection”,(Wind Systems Magazine, August 2010)
http://www.windsystemsmag.com/article/detail/136/turbine-fire-protection, (accessed 2015-08-25).
執筆者紹介
足立 慎一
Shinichi Adachi
リスクエンジニアリング開発部
執行役員 部長
専門は、防災全般、再生可能エネルギー(特に風力発電)
30
「Power to Gas 技術の動向/風力発電タービンの火災リスク」
(巻末:参考文献)の中で、
「Minimax 社の消火設備の専
門家である Axel Wörner 氏の見込みでは、現在設置されている風力発電タービンの 3%しか、消火設備が設置されてい
ない」と紹介している。
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損保ジャパン日本興亜 RM レポート | Issue 139 | 2015 年 9 月 10 日
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