ソフトウエア契約 はもう古い

特集
日本におけるソフトウエア開発の委託
契約には請負契約と準委任契約があ
る。いずれも一長一短があり、アジャイ
ルプロセスなどにも適用しにくい。米国
の契約形態から、あるべき姿を探る。
(英 繁雄 日立ソリューションズ)
特 集
ソフトウエア契約
はもう古い
日本のソフトウエア契約はもう古い
ソフトウエア契約でなぜ揉めるの
離が生じたりすると、ユーザー企業と
しっかり理解しておく必要がある。以
か。それは、相手が存在するからであ
SIベンダー間で争いとなる。
下で、それぞれ説明する。
る。ソフトウエア開発プロジェクトが
これは、現在の日本におけるソフト
請負契約は、請負人(受注者)があ
開始すると、そこに物理的には存在し
ウエア契約のあり方に起因する問題
る仕事の完成を約束し、注文者(発注
ない「責任」というものが生まれる。
だ。日本では現在、ソフトウエア開発
者)がその仕事の結果に対して報酬の
プロジェクトが混乱したとき、この責
時の契約として大きく
「業務委託開発」
支払いを約束する契約である(図1)
。
任は突然誰からも嫌われ、相手への押
と「派遣契約」がある。さらに業務委
民法632条に規定されている。
し付け合いが始まる。
託開発は「請負契約」と「準委任契約」
一般には、注文者の検収合格によっ
日本では、ユーザー企業がソフトウ
に分かれる。いずれの形態も一長一短
て、請負人から注文者へと成果物が引
エア開発をSIベンダーに請負契約で委
があり、現在のソフトウエア開発にそ
き渡しとなる。引き渡し後に瑕疵が発
託する場合が多い。請負人であるSIベ
ぐわない面がある。以下で、その理由
覚した場合、請負人に瑕疵担保責任が
ンダーに、完成責任が伴う契約だ。
を明らかにするとともに、米国の契約
あり、補修義務や損害賠償義務が生じ
請負契約は、ユーザー企業にとって
形態を参考にしながら、あるべき姿を
る。請負代金は、仕事の完成後に注文
は完成責任まで委託できる一方、SIベ
考えていきたい。
者が支払うのが原則だ。
ンダーは努力次第で利益を増やせる。
そのため両者にとってメリットの高い
契約といえる。
ところが順調に進んでいたプロジェ
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か し
準委任契約は、法律行為ではない事
日本における
ソフトウエア契約の問題
務の委託について、委任契約を準用す
る契約だ(図2)
。委任契約については
民法656条に規定されている。
クトで予定通りに成果物が完成しな
現在の契約形態の問題点をつかむに
準委任契約では、委任者(発注者)
かったり、希望する成果物と実態に乖
は、まずそれぞれの契約形態の特徴を
が一定の業務の処理を委託し、受任者
NIKKEI SYSTEMS 2015.2
<イラスト:小林ちか子>
(受注者)
がこれを承諾する。
受任者は、
善良な管理者の注意をもって、当該業
仕事の完成・引き渡し
検収合格
務を処理する義務(善管注意義務)を
報酬
負う。ただし受任者は、委託された作
業を処理する義務を負うだけで、基本
業務完成
義務
契約解除権
不合格
的に業務完成義務がない。このため特
に契約で定めない限り、瑕疵担保責任
を負わない。
注文者
(発注者)
修正、損害賠償請求
瑕疵発覚
修正、損害賠償
注意したいのは、委任契約は法律行
為だが、準委任契約は法律行為ではな
い点だ。あくまで発注者がソフトウエ
瑕疵担保
責任
請負人
(受注者)
1 請負契約
図
受注者には瑕疵担保責任があり、発注者は期待した成果物を得られる
特 集
ア開発を委任するために、委任契約に
準じるという意味である。
委託
報酬請求権
(正式名称は労働者派遣事業の適正な
委任
運営の確保および派遣労働者の就業条
件の整備等に関する法律)に規定され
ている。派遣会社などが雇用する労働
者(派遣社員)を、他社の指揮命令を
受けて労働に従事させる契約だ。
善管
注意義務
契約解除権
委任者
(発注者)
報告義務
報告
2 準委任契約
受注者には業務完成義務がなく、発注者は期待した成果物を得られない恐れがある
要件定義
一般にユーザー企業がソフトウエア
基本設計
(1) 準委任
ぶことが多い。すなわち要件定義、基
(2) 準委任
請負
(3) 準委任
請負
(4) 準委任
準委任
最近では、リスクを少なくするために、
(5) 準委任
準委任
要件定義など工数見積もりが難しい工
(6) 準委任
準委任
一つの契約で締結するものだ。しかし
程を準委任契約とし、その他の工程を
請負とするケースが増えてきた。いわ
ゆる段階的な分割契約である。
段階的な分割契約のパターンを図3
詳細設計
実装
結合テスト
総合テスト
総合テスト
(ベンダー確認) (ユーザー確認)
準委任
(支援)
請負
を開発する場合は、一括請負契約を結
総合テスト(ベンダー確認)の工程を
受任人
(受注者)
図
委託開発は課題が多い
本設計、詳細設計、実装、結合テスト、
日本のソフトウエア契約はもう古い
派遣契約は、いわゆる労働者派遣法
準委任
(支援)
請負
請負
請負
請負
請負
準委任
(支援)
請負
請負
請負
(7)
請負
準委任
(支援)
請負
準委任
準委任
(支援)
準委任
準委任
(支援)
準委任
3 段階的な分割契約のパターン
図
大きく分けて七つの契約パターンがある
に示した。例えば、ユーザー企業が主
体で行う要件定義と総合テスト(ユー
ダーが一つの企業で上流から下流まで
ス(4)のように、ユーザー企業は要
ザー確認)を準委任契約とし、基本設
を担当することを前提としたほうがよ
件定義と基本設計をA社に準委任契約
計から総合テスト(ベンダー確認)ま
い。工程間でSIベンダーが異なる場合、
で委託し、
詳細設計から総合テスト(ベ
でを請負契約とする形態などがある。
非常にハイリスクな契約となる。
ンダー確認)までをB社に請負契約で
ただし段階的な分割契約は、SIベン
具体例を示そう。例えば図3のケー
委託したとする。総合テスト
(ユーザー
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