中国知財関連司法動向調査 - 日本貿易振興機構北京事務所知的財産権部

経済産業省
受託調査
中国知財関連司法動向調査 2014 年 12 月
日本貿易振興機構(JETRO) 北京事務所 知識産権部
1
はじめに
中国の知的財産権の保護は、
「両条腿走路(二本路線)」
(行政救済と司法救済の二本路線)
という特徴があるものの、近年は司法による保護がますます重要な役割を担うようになり、
知的財産権紛争を解決する重要なルートになっています。
2010 年 4 月、最高人民法院は、初めて「中国法院知識産権司法保護状況(2009)」(白
書)を発布し、前年度の司法保護状況を紹介しました。その後、
「白書」は、毎年定期的に
発布されてきました。
また、最高人民法院は、2007 年から毎年「知識財産権司法保護十大案件」を選定・発布
しました。
「十大案件」は、各級法院が逐一に選別・推薦した事案です。各地方法院におい
ても、
「知識財産権司法保護十大案件」のような形式で、重要且つ典型的な事案を発布して
います。
2013 年に、最高人民法院は、引き続き「2012 年中国法院知識産権司法保護十大案件」
を発布すると同時に、「2012 年中国法院知識産権司法保護十大創新性案件」、「司法による
知的財産権保護 8 典型事例」を発布し、北京と上海の高級法院においても、2012 年度の
十大案件を発布しました。
暦年にわたって、発布された数々の典型的事案は、知的財産権に関する判例のうち重大
な事案、複雑な事案、難易度の高い事案、新型の事案に関して、人民法院の裁判基準が示
されるとともに、司法政策、裁判方法が反映されたものです。このような典型的事案の発
表は、全国の法院における正確且つ統一的な法律適用を図るための模範的資料として指導
的役割を担っています。また、当事者にとっても、大変有効な参考指標となります。
本書においては、「中国法院知識産権司法保護状況(2012)」を紹介したうえ、2012 年
度、最高人民法院、北京及び上海市高級人民法院より発布された典型的な事案についてま
とめ分析を試みたものです。皆様の知財保護に、少しでも参考となれば幸いです。
2
目 次
Ⅰ 司 法 保 護 状 況 ................................................................................................................. 6
1. 最 高 人 民 法 院 「 2012 年 中 国 法 院 知 識 産 権 司 法 保 護 状 況 」 ............................. 6
2. 2010 年 以 降 3 年 分 の 同 司 法 保 護 状 況 の 各 種 統 計 ........................................... 24
3. 2010 年 以 降 3 年 分 の 同 司 法 保 護 状 況 の 推 移 分 析 ........................................... 29
Ⅱ 判 例 研 究 ..................................................................................................................... 30
1. 最 高 人 民 法 院 「 2012 年 中 国 法 院 知 識 産 権 司 法 保 護 十 大 案 件 」 .................... 30
( 1) 「 IPAD」 商 標 権 の 帰 属 を 巡 る 紛 争 事 件 ...................................................... 30
( 2) 「 三 一 」 馳 名 商 標 保 護 事 件 ............................................................................ 33
( 3) コ ン ピ ュ ー タ の 中 国 語 文 字 デ ー タ ベ ー ス の 著 作 権 を 巡 る 紛 争 事 件 .......... 34
( 4)「 葫 芦 娃 」( ヒ ョ ウ タ ン ち ゃ ん )キ ャ ラ ク タ ー の 著 作 権 帰 属 を 巡る 紛 争 事
件 ......................................................................................................................................... 37
( 5) 百 度 文 庫 の 著 作 権 を 巡 る 紛 争 事 件 ............................................................... 40
( 6) CDM A/GSM ダ ブ ル モ デ ル 移 動 通 信 方 法 に 係 る 特 許 権 侵 害 紛 争 事 件 ...... 43
( 7) 「 泥 人 張 」 に 係 る 不 正 競 争 事 件 ..................................................................... 46
( 8) 姚 明 の 人 格 権 侵 害 お よ び 不 正 競 争 紛 争 事 件 ................................................. 51
( 9) 「 楽 活 」 商 標 権 侵 害 に 係 る 行 政 処 罰 事 件 ..................................................... 52
( 10) ネ ッ ト ゲ ー ム 自 宅 サ ー バ ー に 係 る 著 作 権 侵 害 事 件 ................................... 55
2. 最 高 人 民 法 院 「 2012 年 中 国 法 院 知 識 産 権 司 法 保 護 十 大 創 新 性 案 件 」 ........ 57
( 1)柏 万 清 と 成 都 難 尋 物 品 営 業 サ ー ビ ス セ ン タ ー 、上 海 添 香 実 業 有 限 公 司 と の
実用新案特許権侵害をめぐる紛争に関する再審申立事件(最高人民法院
[2012]民 申 字 第 1544 号 民 事 裁 定 書 ) ............................................................ 57
( 2)無 錫 市 隆 盛 ケ ー ブ ル 材 料 廠 、上 海 錫 盛 ケ ー ブ ル 材 料 有 限 公 司 と 西 安 秦 邦 電
信材料有限責任公司、古河電工(西安)光通信有限公司との発明特許権侵
害 を め ぐ る 紛 争 に 関 す る 再 審 申 立 事 件 ( 最 高 人 民 法 院 [2012]民 提 字 第 3 号
民 事 判 決 書 ) ....................................................................................................... 60
( 3)騰 訊 科 技( 深 セ ン )有 限 公 司 と 上 海 虹 連 ネ ッ ト ワ ー ク 科 技 有 限 公 司 、上 海
我要ネットワーク発展有限公司とのコンピュータソフトウェア著作権侵害
及び不正競争をめぐる紛争に関する上訴事件(湖北省武漢市中級人民法院
[2011]武 知 終 字 第 6 号 民 事 判 決 書 ) ............................................................... 63
( 4)中 国 体 育 報 業 総 社 と 北 京 図 書 ビ ル 有 限 責 任 公 司 、広 東 音 像 出 版 社 有 限 公 司 、
広東豪盛文化伝播有限公司、北京図書ビル有限責任公司との著作権の権利
帰 属 ・ 侵 害 を め ぐ る 紛 争 事 件 ( 北 京 市 西 城 区 人 民 法 院 [2012] 西 民 初 字 第
14070 号 民 事 判 決 書 ) ...................................................................................... 65
( 5)中 国 科 学 院 海 洋 研 究 所 、鄭 守 儀 と 劉 俊 謙 、萊 州 市 万 利 達 石業 有 限 公 司 、煙
台環境芸術管理弁公室との著作権侵害をめぐる紛争に関する上訴事件(山
3
東 省 高 級 人 民 法 院 [2012]魯 民 三 終 字 第 33 号 民 事 判 決 書 ) .......................... 66
( 6)徐 斌 と 南 京 名 爵実 業 有 限 公 司 、南 京 汽 車 集 団 有 限 公 司 、北 京 公 交 海 依 捷 汽
車サービス有限責任公司らとの商標専用権侵害をめぐる紛争に関する上訴
事 件 ( 江 蘇 省 高 級 人 民 法 院 [2012]蘇 知 民 終 字 第 183 号 民 事 判 決 書 ) ........ 68
( 7)聯 想( 北 京 )有 限 公 司 と 国 家 工 商 行 政 管 理総 局 商 標 評 審 委 員 会 、参 加 人 で
ある福建省長汀県汀州醸造廠との商標異議申立再審をめぐる行政紛争に関
す る 上 訴 事 件( 北 京 市 高 級 人 民 法 院 [2011]高 行 終 字 第 1739 号 行 政 判 決 書 )
.............................................................................................................................. 69
( 8)利 萊 森 碼 公 司 、利 萊 森 碼 電 機 科 技( 福 州 )有 限 公 司 と 利 萊 森 碼( 福 建 )電
機有限公司との商標権侵害、他者企業名の無断使用をめぐる紛争に関する
上 訴 事 件 ( 福 建 省 高 級 人 民 法 院 [2012]閔 民 終 字 第 819 号 民 事 判 決 書 ) .... 72
( 9)衢 州 万 聯 ネ ッ ト ワ ー ク 技 術 有 限 公 司 と 周 慧 民 ら と の 営 業 秘 密 侵 害 を め ぐ る
紛 争 に 関 す る 上 訴 事 件 ( 上 海 市 高 級 人 民 法 院 [2011]滬 高 民 三 ( 知 ) 終 字 第
100 号 民 事 判 決 書 ) ........................................................................................... 75
( 10)劉 大 華 と 湖 南 華 源 実 業 有 限 公 司 、東 風 汽 車 有 限 公 司 東 風 日 産 乗 用 車 公 司
と の 独 占 を め ぐ る 紛 争 に 関 す る 上 訴 事 件 ( 湖 南 省 高 級 人 民 法 院 [2012]湘 高
法 民 三 終 字 第 22 号 民 事 判 決 書 ) ..................................................................... 78
3. 最 高 人 民 法 院 「 司 法 に よ る 知 的 財 産 権 保 護 8 典 型 事 例 」 ............................. 81
( 1)申 立 人 の 米 イ ー ラ イ リ リ ー 社・イ ー ラ イ リ リ ー( 中 国 )研 究 開 発 有 限 公 司
と 被 申 立 人 の 黄 孟 煒 と の 行 為 保 全 申 立 事 件 .................................................... 81
( 2)佛 山 市 海 天 調 味 食 品 股 份 有 限 公 司 が 商 標 権 侵 害 及 び 不 正 競 争 で 佛 山 市 高 明
威 極 調 味 食 品 有 限 公 司 を 訴 え た 紛 争 事 件 ........................................................ 83
( 3)BM W 株 式 会 社 が 商 標 権 侵 害 及 び 不 正 競 争 で 広 州 世 紀 宝 馳 服 飾 実 業 有 限 公
司 を 訴 え た 紛 争 事 件 ........................................................................................... 86
( 4)珠 海 格 力 電 器 股 份 有 限 公 司 が 発 明 特 許 権 侵 害 で 広 東 美 的 制 冷 設 備 有 限 公 司
ら を 訴 え た 紛 争 事 件 ........................................................................................... 87
( 5 ) ア シ ュ ラ ン ド ラ イ セ ン ス & イ ン テ レ ク チ ュ ア ル プ ロ パ テ ィ ー LLC 、 北 京
天使専用化学技術有限公司が発明特許権侵害で北京瑞仕邦精細化工技術有
限 公 司 、 蘇 州 瑞 普 工 業 助 剤 有 限 公 司 、 魏 星 光 等 を 訴 え た 紛 争 事 件 ............. 90
(6)北京鋭邦涌和科貿有限公司が垂直的独占協定でジョンソン&ジョンソン
(上海)医療器材有限公司、ジョンソン&ジョンソン(中国)医療器材有
限 公 司 を 訴 え た 紛 争 事 件 ................................................................................... 93
( 7)江 西 億 鉑 電 子 科 技 有 限 公 司 、余 志 宏 ら に よ る 営 業 秘 密 侵 害 罪 を め ぐ る 刑 事
事 件 ..................................................................................................................................... 96
( 8) 宗 連 貴 等 28 人 に よ る 登 録 商 標 詐 称 罪 刑 事 事 件 ........................................... 97
4. 北 京 高 級 法 院 「 北 京 市 法 院 2012 年 知 識 産 権 訴 訟 十 大 案 件 」 .................... 100
( 1)BM W の 商 標 権 侵 害 及 び 不 正 競 争 事 件( 最 高 人 民 法 院「 司 法 に よ る 知 的 財
4
産 権 保 護 8 典 型 事 例 」 の 3) .......................................................................... 100
( 2)韓 寒 が 百 度 文 庫 を 訴 え た 著 作 権 侵 害 事 件( 最 高 人 民 法 院「 2012 年 中 国 法
院 知 識 産 権 司 法 保 護 十 大 案 件 」 の 5) ........................................................... 100
( 3)「 次 仁 卓 瑪 」 撮 影 作 品 の 著 作 権 事 件 ............................................................. 100
( 4)「 舟 山 帯 魚 」 証 明 商 標 紛 争 事 件 ..................................................................... 105
( 5) 二 つ の 「 途 牛 」 に 関 す る 商 標 権 侵 害 及 び 不 正 競 争 紛 争 事 件 .................... 112
( 6) 保 鮮 収 納 箱 「 容 器 蓋 」 に 関 す る 発 明 特 許 権 侵 害 紛 争 事 件 ........................ 118
( 7) マ イ ク ロ ソ フ ト 社 の ソ フ ト ウ ェ ア 著 作 権 侵 害 事 件 .................................... 122
( 8)「 狼 蛛 ( Tarantula)」 マ ジ ッ ク 作 品 著 作 権 紛 争 事 件 ............................... 126
( 9)『 第 9 代 ラ ジ オ 体 操 』の 著 作 権 事 件( 最 高 人 民 法 院「 2012 年 中 国 法 院 知
識 産 権 司 法 保 護 十 大 創 新 性 案 件 」 の 4) ....................................................... 132
( 10)「 フ ラ ン ス 雄 鶏 」 に 関 す る 商 標 権 侵 害 紛 争 事 件 ....................................... 132
5. 中 国 知 識 産 権 網 「 2012 年 度 上 海 知 識 産 権 保 護 十 大 案 件 」 ......................... 143
( 1)「 葫 芦 娃 」( ヒ ョ ウ タ ン ち ゃ ん )キ ャ ラ ク タ ー の 著 作 権 帰 属 を 巡 る 紛 争 事
件 ( 最 高 人 民 法 院 「 2012 年 中 国 法 院 知 識 産 権 司 法 保 護 十 大 案 件 」 の 4) 143
( 2) 上 海 玄 霆 公 司 委 託 創 作 著 作 権 契 約 紛 争 事 件 ............................................... 143
( 3) イ ン テ ル 社 商 標 権 侵 害 紛 争 事 件 ................................................................... 149
( 4) 日 本 ペ イ ン ト 商 標 権 侵 害 紛 争 事 件 ............................................................... 152
( 5) ア メ リ カ 3M 公 司 に 関 す る 発 明 特 許 権 侵 害 紛 争 事 件 ............................... 158
( 6)ド メ イ ン ネ ー ム「 周 立 波 姓 名 ピ ン イ ン 」の 先 取 り 登 録 に 関 す る 不 正 競 争 紛
争 事 件 ................................................................................................................ 164
( 7)ウ ェ ブ サ イ ト ユ ー ザ ー の 登 録 情 報 デ ー タ ー ベ ー スを め ぐ る 営 業 秘 密 侵 害 紛
争 事 件( 最 高 人 民 法 院「 2012 年 中 国 法 院 知 識 産 権 司 法 保 護 十 大 創 新 性 案 件 」
の 9) ................................................................................................................. 171
( 8) ド ラ マ 「 夏 家 三 千 金 」 挿 入 広 告 虚 偽 宣 伝 不 正 競 争 紛 争 事 件 .................... 171
( 9) オ ン ラ イ ン ゲ ー ム 「 ド ラ ゴ ン ネ ス ト 」 の プ ラ グ に 関 す る 著 作 権 侵 害 事 件 176
( 10) 「 茅 台 」 「 芙 蓉 王 」 登 録 商 標 標 章 の 不 法 印 刷 事 件 ................................. 176
Ⅲ 司 法 解 釈 ................................................................................................................... 177
1. 信 用 失 墜 被 執 行 者 の 名 簿 情 報 の 公 布 に 関 す る 最 高 人 民 法 院 の 若 干 規 定 .... 177
2. 人 民 法 院 の 裁 判 文 書 の ウ ェ ブ サ イ ト で の 公 開 に 関 す る 規 定 ........................ 187
3. 最 高 人 民 法 院 「 被 執 行 者 貯 金 の イ ン タ ー ネ ッ ト 調 査 、 凍 結 に 関 す る 規 定 」 196
4.最 高 人 民 法 院 、最 高 人 民 検 察 院「 食 品 安 全 危 害 刑 事 案 件 の 処 理 に お け る 法 律
適 用 の 若 干 問 題 に 関 す る 司 法 解 釈 」 ................................................................. 202
5.最 高 人 民 法 院「 最 高 人 民 に よ る 専 利 権 侵 害 を め ぐ る 紛 争 案 件 の 審 理 に お け る
法 律 適 用 の 若 干 規 定 」 の 改 正 に 関 す る 決 定 ...................................................... 213
Ⅳ そ の 他 ....................................................................................................................... 215
( 附 録 ) 知 財 紛 争 に 係 る 現 行 の 法 律 、 行 政 法 規 、 部 門 規 則 及 び 司 法 解 釈 ....... 215
5
Ⅰ 司法保護状況
1.最高人民法院「2012 年中国法院知識産権司法保護状況」
(2013 年 4 月 22 日)
中国語原文:2013 年 4 月 22 日付け中国法院網 http://www.chinacourt.org/article/detail/2013/04/id/949841.shtml 2012 年 の 中 国 の 法 院 に お け る 知 的 財 産 権 保 護 の 状 況
目次
はじめに
一 .裁 判 職 能 の 法 に 基 づ く 履 行 と 、法 に 基 づ く 事 件 処 理 に お け る 最 優 先 事 項 の 着 実
な実施
二.経済・社会発展への奉仕と国家知的財産権戦略の実施
三.裁判の監督指導強化と司法裁判基準の統一性確保
四.裁判現場の基礎固めと知的財産権担当裁判官チームの構築強化
おわりに
はじめに
2012 年、人民法院は知的財産権司法保護をめぐる諸活動を推進し、知的財産権裁判体制
のレベルを引き上げた。
同年、人民法院の知的財産権司法保護に関する大きな出来事として、以下の出来事が挙
げられる。
◆最高人民法院の王勝俊院長が、第 11 期全国人民代表大会常務委員会第 30 回会議に
おいて、
「関於加強知識産権審判工作促進創新型国家建設情況的報告(知的財産権裁判
活動強化による革新型国家づくり促進の状況に関する報告書)」と題し、2008 年以降
の人民法院の知的財産権裁判の状況について特別報告を行った。
◆最高人民法院が、司法解釈「関於審理因壟断行為引発的民事糾紛案件応用法律若干
問題的規定(独占行為に起因する民事紛争事件の審理における法律応用の若干問題に
関する規定)」、「関於審理侵害信息網絡伝播権民事糾紛案件適用法律若干問題的規定
(情報ネットワーク配信権をめぐる民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題
に関する規定)」のほか、司法政策の文書「関於充分発揮審判職能作用 為深化科技体
制改革和加快国家創新体系建設提供司法保障的意見(裁判の役割を駆使した科学技術
体制改革の掘り下げと国家イノベーションモデル構築促進のための司法制度整備に関
する意見)」を公布した。
6
◆第 1 次全国法院知的財産権裁判廷廷長討論会が広州で開催され、最高人民法院の奚
暁明副院長が初めて「保護を強化し、カテゴリー別に分類し、寛厳よろしきを得る」
との知的財産権司法保護政策について全面的な説明を行った。
◆米中知的財産権司法裁判シンポジウムが北京で開催された。
一 .裁 判 職 能 の 法 に 基 づ く 履 行 と 、法 に 基 づ く 事 件 処 理 に お け る 最 優 先 事 項 の 着 実
な実施
2012 年、人民法院は、知的財産権裁判の職能を履行し、法に基づく事件処理を最優先事
項とする方針を堅持し、公正性と効率性をもって各種の知的財産権関係事件を審理し、審
理の質と効率を向上させ、知的財産権に関する司法の公信力を高め、知的財産権司法保護
の主導的役割をいっそう引き出した。
同年、人民法院が審理した事件は知的財産権に関するすべての法律分野を網羅し、民事
裁判、行政裁判、刑事裁判の職能を全面的に引き出した。前年に比べて、知的財産権に関
する各種事件受理件数の伸び幅はいずれも大きく、とりわけ知的財産権に関する刑事事件
は倍増した。2012 年、全国の地方人民法院が新規に受理した民事一審事件は 8 万 7,419
件で、前年比 45.99%増だった。知的財産権に関する行政一審事件は 2,928 件で、前年比
20.35%増だった。知的財産権に関する刑事一審事件は 1 万 3,104 件で、前年比 129.61%
増だった。
知的財産権民事裁判の知的財産権司法保護の主要な手段としての役割がいっそ
う際立った。
人民法院は、知的財産権民事裁判の審理を一貫して重視し、民事裁判の知的財産権司法
保護の主要な手段としての役割を着実に果たした。2012 年、人民法院は知的財産権民事裁
判において、以下の成果を挙げた。
◆イノベーション駆動型発展の原動力強化をめぐり、専利権の保護を強化した。
◆ブランドの競争優位の構築をめぐり、商標権の保護を強化した。
◆文化の総体的な実力と競争力の強化をめぐり、著作権の保護を強化した。
◆各種市場主体の発展の活性化をめぐり、競争の保護を強化した。
全国の地方人民法院が受理した知的財産権民事一審事件の新受件数は 8 万 7,419 件、既
済件数は 8 万 3,850 件で、前年比はそれぞれ 45.99%増、44.07%増だった。新受件数の内
訳は、以下のとおり。
■著作権事件は 5 万 3,848 件で、前年比 53.04%増
■商標事件は 1 万 9,815 件で、前年比 52.53%増
■専利事件は 9,680 件で、前年比 23.80%増
■技術契約紛争事件は 746 件で、前年比 33.93%増
■不正競争事件は 1,123 件(うち独占に関する民事一審事件は 55 件)で、前年比 1.23%
減
7
■その他の知的財産権関係事件は 2,207 件で、前年比 0.64%増
■渉外知的財産権民事一審事件(既済ベース)は 1,429 件で、前年比 8.18%増
■香港・澳門・台湾に関わる知的財産権民事一審事件(既済ベース)は 613 件で、前
年比 3.46%減
知的財産権民事二審事件の新受件数は 9,581 件、既済件数は 9,292 件(前年からの繰越
分を含む)で、前年比はそれぞれ 25.37%増、21.32%増だった。知的財産権民事再審事件
の新受件数は 172 件、既済件数は 223 件(前年からの繰越分を含む)で、前年比はそれぞ
れ 41.5%減、0.45%減だった。
最高人民法院知的財産権裁判廷の知的財産権民事事件の新受件数は 237 件、既済件数は
246 件(前年からの繰越分を含む)で、うち再審請求の新受件数は 181 件、既済件数は 186
件(前年からの繰越分を含む)だった。
知的財産権民事事件の裁判の質と効率がさらに向上した。全国の地方人民法院における
2012 年の知的財産権関係一審事件について、
■既済率は 87.61%で、2011 年とほぼ横ばいだった。
■上訴率は 2011 年の 47.02%から、2012 年は 39.53%に減少した。
■再審率は 2011 年の 0.51%から、2012 年は 0.20%に減少した。
■上訴事件の原判決の変更または原審差し戻し率は 2011 年の 3.66%から、2012 年は
5.46%に上昇した。
■審理期間内の既済率は 2011 年の 98.57%から、2012 年は 99.24%に上昇した。
また、全国の各級人民法院は、
■知的財産権に関する訴訟前の仮差止命令申立事件を 27 件受理し、裁定支持率は
83.33%だった。
■当事者の挙証の負担を軽減する提訴前の証拠保全請求について、その受理件数は 320
件で、裁定支持率は 96.73%だった。
■提訴前の財産保全請求事件の受理件数は 74 件で、裁定支持率は 94.67%だった。
人民法院が審理した、社会的影響が大きな知的財産権関係事件としては、以下の事件が
挙げられる。
■アップル社、IP アプリケーションデベロップメント社と唯冠科技(深圳)有限公司
の「IPAD」商標権帰属紛争事件
■三一重工股分有限公司と鞍山市永合重工科技有限公司の商標権侵害および不正競争
紛争事件
■北京北大方正電子有限公司と米ブリザード・エンターテイメントなどのコンピュー
ター中国語文字データベース著作権侵害紛争事件
■胡進慶氏、呉雲初氏と上海美術映画製作工場のアニメイメージキャラクター「葫芦
娃」の著作権帰属紛争事件
■韓寒氏と北京百度網訊科技有限公司の著作権侵害紛争事件
■浙江華立通信集団と深圳三星科健移動通信技術有限公司の発明専利侵害紛争事件
8
■張錩氏、張宏岳氏、北京泥人張芸術開発有限責任公司と張鉄成氏、北京泥人張博古
陶芸工場、北京泥人張芸術品有限公司の不正競争紛争事件
■姚明氏と武漢雲鶴大鯊魚体育用品有限公司の人格権侵害および不正競争紛争事件
知的財産権行政裁判に対する支持と法に基づく行政の監督の役割がさらに強化
された。
2012 年、人民法院は知的財産権の授権、権利確認、行政法執行に対する司法審査を通じ
て、知的財産権の授権、権利確認に関する審査基準を具体化、十全化し、知的財産権に関
する行政法執行を規範化した。
全国の地方人民法院の知的財産権行政一審事件の新受件数は 2,928 件、既済件数は 2,899
件で、前年比はそれぞれ 20.35%増、17.37%増だった。新受件数の内訳は、以下のとおり。
■専利事件は 760 件で、前年比 16.21%増
■商標事件は 2,150 件で、前年比 21.68%増
■著作権事件は 3 件で、前年比 50%増
■その他事件は 15 件で、前年比 50%増
知的財産権行政一審事件において、渉外関係、香港・澳門・台湾関係の事件のウエイ
トは依然として高く、通年で 1,349 件、知的財産権行政一審事件の既済件数の 46.53%
を占めた。内訳は、渉外関係事件 1,127 件、香港関係事件 109 件、澳門関係事件 0 件、
台湾関係事件 113 件。
全国の地方人民法院の知的財産権行政二審事件の新受件数は 1,424 件、既済件数は 1,388
件だった。既済件数のうち、原判決維持は 1,225 件、原判決変更は 118 件、原審差し戻し
は 3 件、訴訟撤回は 22 件、却下は 15 件、原裁定撤回指令による立件・審理は 1 件、その
他の終了方法は 4 件だった。
最高人民法院知的財産権裁判廷の知的財産権に関する行政不服申立事件の新受件数は
98 件、既済件数は 98 件だった。既済件数のうち、却下は 70 件で、全体の 72.16%を占め
た。上位審への移送は 20 件で、20.41%を占めた。再審命令は 2 で、2.04%を占めた。訴
訟撤回は 5 件で、5.10%を占めた。その他の終了方法は 1 件で、1.02%を占めた。
最高人民法院知的財産権裁判廷へ移送された知的財産権行政事件の新受件数は 24 件、
既済件数は 22 件だった。既済事件のうち、原判決維持は 5 件で、全体の 22.73%を占めた。
原判決変更は 16 件で、72.73%を占めた。訴訟撤回は 1 件で、4.55%を占めた。
人民法院が審理した社会的影響が大きな知的財産権行政事件としては、以下の事件が挙
げられる。
■韋廷建氏と天絲医薬保健有限公司、国家工商行政管理総局商標審査委員会の商標抹
消の再審をめぐる行政紛争事件
■蘇州鼎盛食品有限公司と江蘇省蘇州工商行政管理局の商標「楽活」の商標権侵害を
めぐる行政処罰事件
知的財産権刑事裁判の知的財産権侵害犯罪に対する制裁と予防の役割が強化さ
れた。
9
2012 年、人民法院は知的財産権の刑事司法保護を強化し、刑事裁判の知的財産権侵害犯
罪に対する制裁と予防の役割をいっそう引き出した。
全国の地方人民法院の知的財産権刑事一審事件の新受件数は 1 万 3,104 件で、前年比
129.61%増だった。うち
■知的財産権侵害罪事件は 7,840 件(偽商標登録罪などの登録商標侵害事件は 4,664
件)で、前年比 150.16%増だった。
■知的財産権侵害に関わる偽粗悪品生産販売罪事件は 2,607 件で、前年比 236.82%増
だった。
■知的財産権侵害に関わる不法経営罪事件は 2,587 件で、前年比 48.08%増だった。
■知的財産権侵害に関わるその他の事件は 70 件で、前年比 34.62%増だった。
全国の地方人民法院の知的財産権刑事一審事件の既済事件は 1 万 2,794 件で、前年比
132.45%増だった。判決発効対象者数は 1 万 5,518 件で、前年比 54.33%増だった。刑事
処罰対象者数は 1 万 5,338 件で、前年比 94.35%増だった。既済事件のうち、
■知的財産権侵害罪と判決された事件は 7,684 件だった。
■偽粗悪品生産販売罪(知的財産権侵害関係)と判決された事件は 2,504 件だった。
■不法経営罪(知的財産権侵害関係)と判決された事件は 2,535 件だった。
■その他の犯罪(知的財産権侵害関係)と判決された事件は 71 件だった。
知的財産権侵害罪と判決された事件のうち、偽商標登録罪と判決された事件は 2,012 件、
偽商標登録商品販売罪と判決された事件は 1,906 件、違法製造された登録商標標章の違法
な生産販売罪と判決された事件は 615 件、専利偽称罪と判決された事件は 63 件、著作権
侵害罪と判決された事件は 3,018 件、権利を侵害する複製品販売罪と判決された事件は 27
件、営業秘密侵害罪と判決された事件は 43 件だった。
人民法院が審理した社会的影響が大きな知的財産権刑事事件としては、趙学元氏、趙学
保氏のオンラインゲームのエミュレータサーバーによる著作権侵害罪事件などがある。
調 停 と 裁 判 の 組 み 合 わ せ に よ り 、軋 轢 と 紛 争 を 解 消 し 、調 和 の と れ た 社 会 づ く り
に積極的に応えた。
2012 年、人民法院は知的財産権紛争の調停の強化を継続し、軋轢や紛争の解消、社会の
調和と安定の維持に努めた。
1)訴訟と非訟の連携体制を強化し、知的財産権裁判と人民調停、行政調停との協調、
連携を強化し、知的財産権紛争を共同で解決した。
■内モンゴル自治区高級人民法院は、自治区の知的財産権局、工商局、ニュース出版
局、文化庁などの官庁と協力し、知的財産権の訴訟前調停と訴訟手続との連携および
訴訟プロセスにおける招待調停、委託調停などの制度の内容を明確にした。
■湖南省高級人民法院は、調査研究の成果物「専利糾紛行政調解協議的司法確認研究
(専利紛争行政調停調書の司法確認に関する研究)」を基礎とし、長沙市岳麓区人民法
院において専利紛争の行政調停調書の司法確認に関するモデル活動を実施した。
10
■福州市中級人民法院は福州市税関、工商局などの行政法執行官庁と「知識産権糾紛
訴調対接協議(知的財産権紛争の訴訟・非訟連携契約)」を締結した。
■チベット、河北、河南、江蘇、江西、四川、広東、海南などの法院も多元的な軋轢
紛争解消メカニズムの構築と改善を非常に重視し、司法調停、人民調停、行政調停の
「三位一体」の調停の構図の形成と好ましい発展を積極的に推し進めた。
2)調停方法の革新を模索し、業界団体と科学技術の専門家の専門における優位性を
充分に発揮させ、委託調停、業界調停、専門家調停などの多元的な調停方法を積極的
に模索した。
■北京市の法院は委託調停、共同協力などの方法を通じて、中国インターネット協会
調停センター、中国作家協会、北京市知的財産権局などの機関と設立した紛争解消メ
カニズムの実現に積極的に取り組んだ。
■浙江省高級人民法院は、専利民事紛争をめぐる委託調停メカニズムの構築を積極的
に模索した。
■新疆ウイグル族自治区高級人民法院は、知的財産権関係事件の調停への参加に技術
専門家を招いた。
3)関連事件の調停を重視し、権利侵害の法律関係を市場協力の関係に転化するよう
当事者を先導した。
■江蘇省高級人民法院は、カラオケ業界において著作権侵害事件が多い現状に対応す
べく、著作権者、著作権集団管理組織、カラオケ業の代表者を幾度か集め、根本から
のカラオケ業界における著作権紛争の一括的な解決を狙い、規制官庁と集中的な座談
を行った。
■広西チワン族自治区高級人民法院は、社会的影響が大きな知的財産権関係事件をめ
ぐり、主体的に当地で双方の当事者、弁護士、規制官庁を集めての集中的な座談を行
った。
2012 年、人民法院の知的財産権紛争調停活動は顕著な成果を挙げ、全国の知的財産権民
事一審事件の調解成立率は 70.26%に達した。唯冠科技(深圳)有限公司とアップル社の
商標「IPAD」の商標権帰属紛争などの重大事件の調停の成功は、国内外から広く好評を
博した。
司法の情報公開を強化し、司法の公信力を高め、人民の注目に積極的に応えた。
2012 年、人民法院は知的財産権裁判において、さまざまな方式を講じ、多くの手段を通
じて、司法の公開性を強化し、公開裁判の原則を実行に移した。
1)巡回裁判、法廷におけるインターネット放送、人民代表大会の代表、中国人民政
治協商会議の成員および一般市民による審理の傍聴などの方法によって、知的財産権
関係事件の審理のプロセスを公開した。広東省高級人民法院は、奇虎が独占禁止をめ
ぐり騰訊を訴えた事件の審理プロセスにおいて、メディア記者と一般市民を法廷での
審理の傍聴に招く一方、「微博」(マイクロブログ)を通じて社会全体に法廷での審理
を公開した。内モンゴル、河南、江蘇、安徽、湖南、四川、福建、江西、寧夏、新疆
11
などの法院は、人民代表大会の代表、中国人民政治協商会議の成員による法廷での審
理、法廷での審理のインターネット放送の長期的な体制を構築した。
2)知的財産権裁判文書のインターネット上へのアップロードを通じて、知的財産権
関係事件の審理結果を公開した。最高人民法院は、「中国知的財産権裁判文書網」と、
最高人民法院の公式サイト上のサブサイト「知的財産権司法保護」を開設した。各高
級法院は、裁判文書のアップロード率を高めるため、裁判文書のインターネット上へ
のアップロードとネットワークセキュリティを担当する専任者を決めて、アップロー
ド状況を定期的に通報する制度を実施した。2012 年末までに「中国知的財産権裁判文
書網」で公開された発効済知的財産権裁判文書の数は 4 万 7,422 件に上った。
3)知的財産権司法保護の状況に関する白書、年鑑などの資料の公表を通じて、人民
法院の知的財産権裁判を全面的に発表、公開した。2012 年 4 月、最高人民法院は「中
国法院知的財産権司法保護状況(2011 年)」
(中国語・英語)を公布した。2012 年 11
月、最高人民法院、最高人民検察院、公安部が協力し、初の『中国知的財産権司法保
護年鑑(2011 年)』を編集・出版した。同年鑑は、2011 年の中国の知的財産権司法保
護分野における重要な規範性文書、活動概要、統計データ、調査研究の成果、代表的
事件などの資料を収録した。北京、重慶、山東、河北、河南、甘粛、新疆、江蘇、湖
南、四川、広東、広西、海南などの高級人民法院はいずれも、当地の 2011 年度知的
財産権司法保護の状況に関する白書または青書を公布した。
二.経済・社会発展への奉仕と国家知的財産権戦略の実施
2012 年、人民法院は知的財産権裁判の実情を踏まえ、経済と社会の発展に奉仕するとい
う大局的な切り口を見出し、国家知的財産権戦略の実施を徹底的に掘り下げ、経済・社会
の迅速かつ好ましい発展を保障し、後押しした。
(一)知的財産権裁判の役割を絶えず強化し、経済と社会の発展の需要に積極的に応
えた。
(二)改革の革新を堅持し、知的財産権裁判体制と活動体制を改善し、国家知的財産
権戦略の要請に積極的に応えた。
(三)知的財産権司法保護の宣伝を強化し、知的財産権司法保護の社会への影響力の
拡大に努めた。
(四)行政法執行官庁との協力を強化し、知的財産権司法保護の社会への影響力の拡
大に努めた。
(五)国際間・地域間交流を強化し、知的財産権司法保護の国際的影響力の拡大に努
めた。
知 的 財 産 権 裁 判 の 役 割 を 絶 え ず 強 化 し 、経 済 と 社 会 の 発 展 の 需 要 に 積 極 的 に 応 え
た。
12
7 月、人民法院の科学技術体制改革の掘り下げと国家イノベーションモデル構築促進に
おける裁判の役割を十分に発揮させるため、最高人民法院は「関於充分発揮審判職能作用 為深化科技体制改革和加快国家創新体系建設提供司法保障的意見(裁判の役割の十分な発
揮、科学技術体制改革の深化と国家イノベーションモデル構築の加速のための司法制度整
備に関する意見)」を公布した。同意見によれば、人民法院は、
➢より意識を高め、科学技術体制改革の掘り下げと国家イノベーションモデル構築促
進のための司法制度整備の責任感と使命感を着実に強化しなければならない。
➢知的成果物の保護を強化し、自主革新と技術的飛躍を効果的に奨励しなければなら
ない。
➢革新を促進する要素を適切に配置し、科学技術と経済・社会の発展の密接な結びつ
きを積極的に推進しなければならない。
➢統一的な計画と協調を強化し、取り組みを改善し、司法制度整備の能力をいっそう
高めなければならない。
同意見の精神に則り、各地の人民法院はさまざまな成果を挙げた。
■天津、内モンゴル、湖北、広東、広西、四川などの高級人民法院は、文化分野に関
わる知的財産権保護を強化し、伝統文化産業の発展と強大化を推進し、新興文化産業
の迅速な発展を促進するため、当地の文化的特色と文化産業の発展状況を踏まえて、
社会主義的文化の大いなる発展と繁栄のために知的財産権に関する司法制度を整備し、
それに奉仕するための具体的な実施弁法を公布した。
■湖南、山西などの高級人民法院は、科学技術イノベーションの発展、経済構造の戦
略的調整を推進するため、当地の経済と社会の発展状況を踏まえ、革新型経済の実現
に向けて司法制度を整備し、それに奉仕するための具体的な実施弁法を公布した。
■江蘇省高級人民法院は、映画製作、出版・発行、カラオケ、ゲーム・アニメ・マン
ガ、無形文化遺産などの文化産業の分野を取材し、知的財産権司法保護に対する文化
産業のニーズに関する調査研究により、「江蘇省文化産業知識産権保護状況分析報告
(江蘇省文化産業における知的財産権保護の状況分析報告書)」を作成し、司法建議書
14 本を提出した。
■湖南省高級人民法院は、知的財産権訴訟において存在する公証によって得られた証
拠が規範的でないなどの問題について、湖南省司法庁に「関於規範電子消息証据公証
保全的司法建議(電子情報証拠の公証保全の規範化に関する司法建議書)」を提出した。
■湖北省の法院は、KTV、インターネットカフェの経営において頻発する著作権侵害
事件の状況について、当地の工商局、著作権局、文化局などの機関に司法建議書を提
出した。
■上海市黄浦区法院は、映画・テレビ作品の署名が規範的でない問題について、旧国
家ラジオ映画テレビ総局に司法建議書を提出した。
■北京、上海、黒竜江、内モンゴル、山東、河南、江蘇、浙江、四川、貴州などの法
院は、企業への取材、知的財産権保護活動座談会の開催などを通じて、革新主体との
13
長期的な連絡体制を構築し、革新主体の知的財産権保護に関するトラブルやニーズを
理解することにより、地方の革新型経済の発展を司法面から保障し、後押しした。
■北京市西城区法院は老舗企業に焦点を当て、関係官庁とともに、老舗企業および無
形文化遺産を対象として「老舗知的財産権保護キャンペーン」を展開した。
■石景山区法院は、「知的成果物保護 CRD」や「石景山サービス」ブランドの構築を
打ち出し、管轄区における商品の流通、文化・クリエイティブ産業の発展を司法面か
ら保障し、後押した。
■江蘇省常州市中級人民法院はクリエイティブ産業の重点対象企業に「知的財産権司
法保護活動連絡所」を設立した。
■徐州市中級人民法院は文化産業パーク「クリエイティブ 68」において知的財産権保
護基地を設立した。
■浙江省紹興市中級人民法院は、紹興酒の知的財産権保護をめぐり、特色のある調査
研究を展開した。
■安徽省合肥市高新区人民法院は「合肥市著作権典型的判例ルール解析と文化産業発
展対策に関する研究」を遂行した。
■江西省景徳鎮市中級人民法院は、陶磁器技術の知的財産権保護についての調査研究
を展開し、「景徳鎮陶磁器技術標準」の起草について提言、献策を行った。
■海南省高級人民法院は、国際観光島を背景とする知的財産権裁判の研究を展開した。
■ウルムチ市中級人民法院と水磨溝区人民法院、カシュガル地区中級人民法院とカシ
ュガル市人民法院は、第 2 回中国・アジア欧州博覧会、第 8 回中国カシュガル商品交
易会の期間において、知的財産権担当裁判官を派遣し、国内外の参加者に向けて、展
覧会の知的財産権保護に関する事項についてのコンサルティングサービスを提供した。
■吉林省高級人民法院は、第 8 回北東アジア投資貿易博覧会「知的財産権苦情申立セ
ンター」に知的財産権担当裁判官を派遣し、関係業務に参加した。
改 革 、革 新 を 堅 持 し 、知 的 財 産 権 裁 判 の 体 制 と 活 動 メ カ ニ ズ ム を 改 善 し 、国 家 知
的財産権戦略の要請に積極的に応えた。
2012 年、人民法院は「国家知的財産権戦略綱要」の要請に応え、知的財産権裁判の体制
と活動メカニズムを絶えず改善し、国家知的財産権戦略の実施をより徹底した。
1)知的財産権裁判廷の知的財産権に関する民事事件、行政事件、刑事事件の集中的
な審理のモデル活動(知的財産権裁判の「三合一」方式と略称)を掘り下げて推進し、
知的財産権に関する民事、行政、刑事裁判の協調体制を強化し、知的財産権司法保護
の総合的な効果を発揮させた。2012 年末までに、全国の 5 の高級法院、59 の中級法
院、69 の基層法院でこのモデル活動を展開した。
■広東省の法院は 2012 年、知的財産権裁判の「三合一」モデル活動を本格的に推進し、
省の法院、19 の中級法院、30 の基層法院が知的財産権裁判の「三合一」を実行し、
90%近くの知的財産権刑事事件がモデル活動の対象となった。うち深圳市中級人民法
14
院の知的財産権裁判の「三合一」モデル活動はその顕著な特色により、一般メディア
から「深圳モデル」と評された。
■江蘇省高級人民法院は知的財産権裁判の「三合一」モデル活動において、知的財産
権刑事事件に対する法律適用の問題に対する調査研究を強化し、率先して「知的財産
権刑事事件に対する法律適用の問題に対する要約(パブリックコメント広報原稿)」の
作成を遂行した。
■内モンゴル、山東、湖南、四川、福建、貴州などの法院もさまざまな方法を講じて、
行政法執行機関の協力を強化し、知的財産権裁判の「三合一」モデル活動を積極的に
展開した。
2)知的財産権関係事件の管轄配置を絶えず最適化した。専利事件、馳名商標事件、
独占禁止事件の審理管轄権の適度な集中を基礎とし、一般的な知的財産権関係事件を
受理する基層法院を適度に増やし、基層法院による地域を越えた管轄の実行を鼓舞し、
管轄法院の配置がより合理的になった。2012 年末時点で、最高人民法院の指定を経て、
専利、植物新品種、集積回路配置図設計、馳名商標認定に関わる事件の管轄権を有す
る中級人民法院の数は、それぞれ 83、45、46、44、一般的な知的財産権関係事件の
管轄権を有する基層法院の数は 141 となった。
3)専門技術による事実究明メカニズムを絶えず健全化した。各級法院は知的財産権
裁判における専門技術による事実究明の有効な方法を積極的に模索し、司法鑑定、専
門家アシスタント、専門家陪審員による事実究明制度を構築し、充実化した。
■黒竜江省高級人民法院は「黒竜江省知識産権審判科学技術諮詢実施細則(黒竜江省
知的財産権裁判科学技術コンサルティング実施細則)」を起草した。
■内モンゴル自治区の高級人民法院と科学技術協会は、知的財産権司法保護提携備忘
録を締結し、訴訟補助者を担当する 25 名の技術専門家を招聘した。
■江蘇省高級人民法院は、専門家証人の知的財産権訴訟における活用方法を総括し、
経験総括書「専家証人在知識産権案件審判中的運用実践(専門家証人の知的財産権関
係事件裁判における活用と実践)」をまとめた。
■ウルムチ市中級人民法院の知的財産権裁判における陪審率は 100%に達した。
■北京市第二中級人民法院は「3 人構成の技術グループ、5 人制の合議体」モデルを、
複雑な技術による事実究明に関わる専利事件の審理に活用した。
■天津、新疆、湖北、湖南、四川などの法院は、技術専門家陪審制度の構築を積極的
に模索し、人民陪審員となる専門家を選択し、知的財産権関係の裁判官の専門技術・
知識の面での不足を補った。
知 的 財 産 権 司 法 保 護 の 宣 伝 を 強 化 し 、知 的 財 産 権 司 法 保 護 の 社 会 へ の 影 響 力 の 拡
大に努めた。
2012 年、人民法院は「4・26」世界知的所有権の日を機に、
「4・26」世界知的所有権の
日宣伝ウィークの活動を充実化し、知的財産権司法保護をあらゆる面から多角的に幅広い
15
宣伝を行い、知的財産権に関する法治文化の構築を急ぎ、知的財産権司法保護の社会への
影響力の拡大に努めた。
「4・26」世界知的所有権の日宣伝ウィークの期間中、最高人民法院は記者会見を開催
し、白書「中国法院知的財産権保護の状況(2011 年)」
(中国語・英語)、2011 年中国法院
知的財産権司法保護 10 大判例と 50 の典型的判例および「最高人民法院知識産権案件年度
報告(2011 年)(最高人民法院知的財産権関係事件年次報告書(2011 年))」を公布した。
11 月、最高人民法院、最高人民検察院、公安部は『中国知識産権司法保護年鑑(中国知的
財産権司法保護年鑑(2011 年))』を初めて共同で編集・出版した。全国の地方法院は、新
聞紙、書籍、パンフレット、ラジオ局、テレビ局、アナウンス、インターネットなどの各
種メディアを利用し、知的財産権司法保護の重大な意義、司法政策および業績を大いに宣
伝し、公衆の知的財産権意識と法治の理念を育てた。
■北京、重慶、甘粛、新疆、山東、河北、河南、江蘇、湖南、広東、広西、四川、海
南などの高級人民法院は、当地の 2011 年度知的財産権司法保護状況の白書または青
書を公布した。
■遼寧省高級人民法院は宣伝ウィークの期間中、権利を侵害する海賊版出版物を処分
した。
■遼寧テレビ局は「知的財産権裁判の輝かしい歴史」と題する特集番組を放送した。
■青海省西寧市中級人民法院と青海放送局は長期的なパートナーシップを構築し、青
海放送局の番組「生活と法」を通じて、西寧市中級人民法院の知的財産権司法活動に
ついての定期的な報道、宣伝を行った。
■法制日報、大衆日報、山東衛星テレビ、山東法制報などの複数のメディアは、山東
省の法院の知的財産権裁判活動についての報道を行った。また、人民法院報は、
「知的
財産権を支えるための法治の青空」と題して、山東省の法院の知的財産権裁判活動に
関する現地レポートを掲載した。
■新疆生産建設兵団分院は宣伝ウィークの期間中、知的財産権に関するアンケートの
配布、法律書籍の発行、法律コンサルティング提供などのさまざまな方法を通じて、
知的財産権司法保護活動を宣伝した。
行 政 法 執 行 官 庁 と の 協 力 を 強 化 し 、知 的 財 産 権 司 法 保 護 の 社 会 へ の 影 響 力 の 拡 大
に努めた。
2012 年、人民法院は知的財産権司法保護と行政保護の関係の適切な形での協調を図り、
行政法執行官庁との協力を強化し、知的財産権保護体制を改善し、知的財産権保護の協力
体制を効果的に形成し、知的財産権司法保護の社会への影響力の拡大に努めた。
最高人民法院は、公安部、最高人民検察院、国家工商総局などと官庁間会議を開き、知
的財産権に関する刑法立法建議稿をめぐる討論により、摸倣・粗悪品に関わる刑事事件の
証明基準を検討し、知的財産権刑事保護判例指導体制の構築を推進し、知的財産権に関す
る法執行の規範化を図った。人民法院は、権利侵害摸倣犯罪に対する公安部の「事件解決
に向けた闘い」の発動に向けて積極的に協力し、暴露摘発した知的財産権侵害事件、偽商
16
品製販販売事件は計 4 万 3,000 件、逮捕した犯罪容疑者は 6 万人余り、係争金額は総額 113
億元に上った。
■黒竜江、陝西などの高級人民法院は、省の知的財産権局、著作権局、工商局などの
行政法執行官庁と「知的財産権保護強化覚書」を締結し、知的財産権の保護と管理に
共同で取り組んだ。
■貴州省高級人民法院は、司法と行政の連携による貴州省の少数民族文化遺産、地理
マーク、伝統中医薬などに関する知的財産権の保護に向けた長期的な体制を積極的に
模索し、省の知的財産権局、工商局、食品薬品監督管理局、文化管理監督官庁、公安
庁などの官庁との協調、協力を強化した。
■寧夏、安徽、河北、河南、広西などの高級人民法院も、さまざまな方法を積極的に
講じて、知的財産権局、著作権局、工商局などの行政法執行官庁との意思疎通、協調、
協力を強化し、知的財産権司法保護と行政法執行の好ましい相互作用の実現に努め、
知的財産権保護をめぐる協力体制を効果的に構築した。
国 際 間・地 域 間 交 流 を 強 化 し 、知 的 財 産 権 司 法 保 護 の 国 際 的 影 響 力 の 拡 大 に 努 め
た。
2012 年、人民法院は国際的な視野を堅持し、手段の開拓、形式の豊富化に努め、知的財
産権分野の国際間・地域間交流を強化し、誤解の解消、相互信頼の増進、協力促進により、
中国の知的財産権司法保護の国際的影響力の拡大に努めた。
5 月、米中知的財産権司法裁判シンポジウムが北京で開かれた。米中両国の知的財産担
当裁判官の代表、政府の公務員、学者、弁護士、知的財産権の所有者の代表計 1,200 人余
りが会議に参加した。中国の各級法院からは知的財産担当裁判官の代表約 240 人余が会議
に参加した。米国は、連邦巡回区控訴裁判所の裁判官 7 人、米国特許商標庁局長、連邦巡
回区控訴裁判所弁護士協会の会長を含めた 200 人余りで構成される会議参加代表団を派遣
した。会議に参加した代表者たちは「知的財産権裁判をめぐる巨視的な問題」、「裁判所の
知的財産権制度に対する貢献」など 26 のテーマについて深く、幅広い交流を行い、代表
者 143 名が会議でスピーチを行った。米中知的財産権司法裁判シンポジウムはグローバル
化する環境の下での米中双方の交流、協力と共同で未来に向き合う誠意、善意を反映する
ものとして、米中の知的財産権関係にとってマイルストーンの意義を有するものとなった。
最高人民法院は、米中知的財産権活動グループ会議、中欧知的財産権活動グループ会議、
海峡両岸知的財産権協会活動グループ会議、訪米知的財産権講演活動などへの参加者を積
極的に派遣し、対応策および活動意見 30 件余りを入念に準備し、中国が知的財産権保護
活動によって得られた成果を全面的に示した。最高人民法院の知的財産担当裁判官は米国、
EU、日本、韓国などからの上層部代表団 100 名近くの来訪を接待し、外国側の注目に積
極的に応え、誤解を解消し、中国の知的財産権保護のノウハウと成功を宣伝し、中国の知
的財産権保護について少数の国が抱いている誤った認識を修正した。最高人民法院はまた、
米国、アイルランド、韓国などに赴いて知的財産権国際会議に参加する知的財産担当裁判
官を選択した。
17
三.裁判の監督指導強化と司法裁判基準の統一性確保
2012 年、人民法院は知的財産権関係事件の裁判に対する監督と指導を強化し、司法基準
を統一化し、裁判の質を高めた。
(一)司法解釈を強化し、司法政策を改善し、裁判裁量権の行使を規範化した。
(二)監督指導のための手段を開拓し、事件審理の質を高めた。
(三)調査研究を強化し、新たな法律適用問題や難解な法律適用問題を速やかに解決
した。
司法解釈を強化し、司法政策を改善し、裁判裁量権の行使を規範化した。
5 月、最高人民法院は、
「関於審理因壟断行為引発的民事糾紛案件応用法律若干問題的規
定(独占行為に起因する民事紛争事件の審理に適用する法律の若干問題に関する規定)」を
公布した。当該司法解釈は、最高人民法院が独占禁止裁判分野において公布した初の司法
解釈で、起訴、事件受理、管轄、挙証責任の分担、訴訟の証拠、民事責任、訴訟時効など
の問題について規定したもので、人民法院の正確な独占禁止法の適用、独占行為の制止、
公平な市場競争の保護と促進にとって重要な意義がある。
12 月、最高人民法院は、「関於審理侵害消息網絡伝播権民事糾紛案件適用法律若干問題
的規定(情報ネットワーク配信権の侵害をめぐる民事紛争事件における法律適用の若干問
題に関する規定)」を公布した。当該司法解釈は、情報ネットワーク配信権侵害事件におけ
る裁量権行使の原則、情報ネットワーク配信権侵害行為の認定、ネットワークサービスプ
ロバイダーによる共同権利侵害の構成、権利侵害の教唆と権利侵害の幇助の認定、ネット
ワークサービスプロバイダーの主観的な過失の認定および管轄などの問題について規定し
た。人民法院のインターネット環境が従来の著作権保護制度にもたらした衝撃と挑戦への
積極的な対応、著作権法の正しい適用にとって重要な意義を有する。
2 月、最高人民法院の奚暁明副院長は、第 1 回全国法院知的財産権裁判廷廷長シンポジ
ウムにおいて、
「現在の知罪権司法保護政策に則った知的財産権司法保護の強化の正確な把
握」と題する基調講演を行った。スピーチの中で、奚暁明副院長は、最高人民法院知的財
産権裁判廷が積極的に模索する「保護を強化し、カテゴリー別に分類し、寛厳よろしきを
得る」という方針の司法政策を初めて全面的に説明した。中国の知的財産権司法保護の基
本政策として、
「保護を強化する」は、現在の中国の経済・社会の発展状況と直面する国内
外の環境に基づく必然的な選択である。
「カテゴリー別に分類する」は、知的財産権自体の
属性と特徴に基づく必然的な要求に適用することであり、
「寛厳よろしきを得る」は、知的
財産権保護と経済成長の内在的な規則の要求である。
監督指導のための手段を開拓し、事件審理の質を高めた。
2012 年、人民法院は、指導的意見の公布、指導性判例の公開、裁判業務会議の開催、重
大で関連のある知的財産権情報の通報といったさまざまな形式を通じて、監督指導の手段
を広げ、審理の質を高めた。
18
12 月、最高人民法院は、「民事訴訟法改正の決定」の知的財産権裁判の重要な意義の具
体化の徹底、専利代理人の公民の身分による訴訟代理人の規範化、訴訟前の財産保全制度
の正しい適用などの問題について規定を定め、全国の法院に知的財産権裁判における「民
事訴訟法改正の決定」の正しい適用を指導するため、知的財産権裁判における「全国人民
代表大会務委員会の『中華人民共和国民事訴訟法』の改正に関する決定」に関わる問題の
通知を印刷・発行した。
人民法院は、知的財産権裁判における典型的判例のパイロット・指導的役割、代表的な
判例の評価・選出と公開活動の規範化、制度化、長期化を一貫して重視した。
■最高人民法院は 4 月、2011 年に審理を終了した知的財産権関係事件の中から代表的
な事件を 34 件選出し、普遍的な指導的意義を持つ 44 の法律適用問題に帰納し、「最
高人民法院知識産権案件年度報告(最高人民法院知的財産権関係事件年次報告書
(2011))」をまとめ、公開した。最高人民法院はまた、2011 年の中国の法院の知的
財産権司法保護 10 大事件と 50 の典型的判例を公布した。
■北京、天津、重慶、黒竜江、遼寧、内モンゴル、甘粛、河南、湖北、湖南、四川、
江蘇、安徽、福建、広西、雲南、新疆などの高級人民法院は、当地の知的財産権関係
の典型的判例または年次報告書を公開した。
■浙江省高級人民法院は、難解事件の審理の筋道を整理し、裁判基準を統一化するた
め、全省の知的財産権裁判活動会議、全省の中級人民法院知的財産権裁判廷廷長シン
ポジウムを開催した。
■江蘇省の法院は、関連事件の裁判方法を革新し、典型的な意義またはパイロット効
果のある関連事件を選択し、巡回裁判を自発的に展開した。
■上海市高級人民法院は、「著作権事件裁判手引き」、「2012 年上半期の知的財産権裁
判活動において存在する若干問題」を作成・発表した。
■湖南省高級人民法院は、事件の最新情報報告制度、発展改革事件処理質効率分析制
度、事件発展改革意思疎通制度の構築を堅持・改善し、知的財産権関係事件において
存在する際立った問題について、速やかに検討し、全省の法院に通報した。
■黒竜江省高級人民法院は、黒竜江裁判網を利用し、インターネットのインスタント
メッセンジャー、電子メールを媒体とし、全省の法院を網羅する知的財産権の総合調
査研究指導ネットワークの構築を開始した。
■河南、山西、江西などの高級人民法院は、知的財産権関連事件報告制度を構築し、
関連事件を同一事件として同一に判定できるよう確保した。
新 た な 法 律 適 用 問 題 や 難 解 な 法 律 適 用 問 題 を 速 や か に 解 決 す べ く 、調 査 研 究 を 強
化した。
2012 年、人民法院は知的財産権裁判を出発点、足がかりとして、調査研究の強化を継続
し、知的財産権裁判において出現した新しい状況、問題に積極的に対応し、新たな法律適
用問題や難解な法律適用問題を速やかに解決した。
19
■2012 年、専利法、商標法、著作権法、民事訴訟法、専利代理条例、職務発明条例の
6 の主要な法律が集中的に改正され、最高人民法院知的財産権裁判廷は関連会議のシ
ンポジウムに積極的に参加し、法改正の動きを密接に追跡し、新しい状況と問題を速
やかに把握し、近年の裁判実務の中で形成された司法の原則と経験を真摯に総括し、
大量の研究と論証を行い、妥当性のある法改正意見を提起した。最高人民法院知的財
産権裁判廷はまた、知的財産権裁判実務において、薬品説明書、カラオケ著作権、戯
曲著作権、違法商標の横取りなどの際立った争点や難点について特別調査研究を展開
した。
■北京市高級人民法院は、「関於審理電子商務侵害知識産権糾紛案件若干問題的解答
(電子ビジネスの知的財産権侵害をめぐる紛争事件の審理における若干問題に関する
回答)」、
「関於視頻分享著作権糾紛案件的審理指南(著作権紛争事件の動画共有に関す
る審理ガイドライン)」などの調査研究成果を遂行した。
■天津市高級人民法院は、
「天津市科技型中小企業知識産権保護問題研究(天津市科学
技術型中小企業知的財産権保護問題に関する研究)」を遂行した。
■上海市高級人民法院は、「推進文化創意産業発展的知識産権司法保護問題研究(文
化・クリエイティブ産業の発展を推進する知的財産権司法保護問題に関する研究)」を
遂行した。
■湖南省高級人民法院は、
「関於全省法院渉及卡拉 OK 経営著作権案件的調研報告(全
省の法院のカラオケ経営著作権事件に関する調査研究報告書)」を完成させた。
■江蘇省高級人民法院は、
「関於知識産権審判証据規則有関問題的調研(知的財産権裁
判の証拠ルール関連問題に関する調査研究)」、
「文化産業知識産権司法保護研究(文化
産業の知的財産権司法保護に関する研究)」をテーマとする調査研究を展開した。
■河北省高級人民法院は、
「民族優秀文化知識産権保護研究(民族優秀文化の知的財産
権保護に関する研究)」をテーマとする調査研究を展開した。
四.裁判現場の基礎固めと知的財産権担当裁判官チームの構築強化
2012 年、人民法院は、知的財産権裁判現場の基礎を固め、知的財産担当裁判官チームの
構築を強化し、知的財産権裁判の科学的発展を大いに推進し、人民の知的財産権裁判に対
する関心と期待に積極的に応えた。
(一)知的財産権裁判組織構築を強化し、裁判体制を改善した。
(二)知的財産担当裁判官の政治思想、司法の風紀とクリーンな司法の推進を強化し、
司法の公正を促進した。
(三)知的財産担当裁判官の司法官としての業務遂行能力向上を強化し、司法の権威
を高めた。
20
知的財産権裁判組織構築を強化し、裁判体制を改善した。
人民法院は、知的財産権裁判廷室の構築と職員の配備を一貫して重視した。中級以上の
人民法院は押しなべて知的財産権裁判廷を開設した。一般的な知的財産権民事事件の管轄
権を有する 141 の基層人民法院もすべて知的財産権裁判廷を開設した。各級人民法院は、
裁判の能力を高め、知的財産担当裁判官のチーム構造を最適化するため、法律に精通し、
学歴が高く、裁判経験が豊富な職員から知的財産担当裁判官を選抜するよう配慮した。
2012 年 12 月末までに、全国の法院に開設された知的財産権裁判廷の数は計 420、知的財
産権裁判に従事する裁判官の数は計 2,759、そのうち、本科卒以上の学歴を持つ者は 97.5%
を占め、修士課程卒以上の学歴を持つ者は 41.1%を占める。
人民法院は、基層法院、中級法院の知的財産権裁判における土台的役割の発揮を重視し
た。4 月、最高人民法院は、
「関於設立医薬産業知識産権司法保護調研基地及増加知識産権
審判基層示範法院和知識産権司法保護理論研究基地、調研基地的決定(医薬品産業の知的
財産権司法保護の調査研究拠点、知的財産権裁判パイロット基層法院、知的財産権司法保
護の理論研究拠点、調査研究拠点の設立に関する決定)」を公布した。知的財産権裁判パイ
ロット基層法院として、北京市海淀区人民法院、上海市黄浦区人民法院、広東省広州市天
河区人民法院、江蘇省南京市鼓楼区人民法院、浙江省杭州市西湖区人民法院を追加し、そ
の数は 10 に達した。知的財産権司法保護の調査研究拠点として、江蘇省南京市中級人民
法院、湖北省武漢市中級人民法院を追加するほか、江蘇省泰州市中級人民法院、連雲港市
中級人民法院に特別に医薬品産業知的財産権司法保護調査研究拠点を開設し、その数は 9
に達した。
知的財産担当裁判官の政治思想、司法の風紀とクリーンな司法の推進を強化し、
司法の公正を促進した。
人民法院は、知的財産担当裁判官のイデオロギーと政治思想の育成を一貫して重視した。
2012 年、人民法院は、党建設の強化、チームによる建設、効率的裁判の促進の方針を堅持
し、科学的発展観の学習と実践、社会主義的法治理念教育、「人民裁判官は人民のために」
を主題とする実践活動を強化し、知的財産担当裁判官が社会主義的法治理念を固く樹立し、
理想的な信念を築くよう促した。
人民法院は、知的財産担当裁判官の司法の風紀改善を一貫して重視した。2012 年、人民
法院は人民のための司法という価値の追求を堅持し、司法行為の規範化、司法の風紀改善
を狙い、人民の観点からの大規模な討論、司法の風紀の大規模な検査を実施した。12 月、
中国共産党中央委員会の風紀改善、人民に密接に関わる 8 項目の規定の精神を貫徹するた
め、最高人民法院は「関於進一歩改進司法作風的六項措施(司法の風紀のさらなる改善に
向けた 6 項目の措置)」の通知を印刷・発行し、全国の法院の実情を踏まえ、人民のため
の司法、人民との密接な関わりの堅持、法院の情報公開、人民による監督の受け入れ、民
意の交流強化、司法の民主化の促進、会議活動の簡潔化、会議の風紀の着実な改善、文書
や通信の簡潔化、文章の風格の着実な改善、調査研究活動の改善、調査研究の実効の強化
という 6 つの方面から、司法の風紀の改善に着手した。
21
人民法院は、知的財産担当裁判官のクリーンな司法の推進を一貫して重視した。2012
年、人民法院は、クリーンな司法に関する教育を強化し、問題の発見と防止を同時に進め、
根本的な対策を重視し、知的財産担当裁判官が自身を磨き、自覚的に腐敗を防ぐように促
した。各級法院はクリーンな司法のリスク防止メカニズム構築を強化し、
「5 つの厳禁」お
よび各種の腐敗防止・廉潔提唱制度を厳格に実行し、内部職員による事件処理妨害防止、
利益衝突防止などを目的とする制度を通じて、司法権の維持のための内部監督の強化を絶
えず強化した。
知 的 財 産 担 当 裁 判 官 の 司 法 官 と し て の 業 務 遂 行 能 力 向 上 を 強 化 し 、司 法 の 権 威 を
高めた。
人民法院は、知的財産担当裁判官の司法官としての業務遂行能力向上を一貫して重視し
た。2012 年、人民法院は、学習型裁判廷の構築を通じて、研修プログラム、シンポジウム
の開催、法廷での審理と裁判文書の「ダブルチェック」といったさまざまな手段により、
知的財産担当裁判官の教育訓練と実践訓練を強化し、有能で専門性の高い知的財産担当裁
判官チーム建設に力を入れ、知的財産担当裁判官が正しく法律を適用し、実際の問題を解
決する能力とレベルを確実に引き上げた。
■最高人民法院は 2 月、第 1 回全国法院知的財産権裁判廷廷長シンポジウムを広州で
開催した。全国の高級人民法院、一部の中級人民法院および知的財産権関係事件の管
轄権を有する基層人民法院の知的財産権裁判廷廷長の計 230 人余りがシンポジウムに
参加した。シンポジウムでは、国務院法制事務局、国家知的財産権局、中国人民大学
の国内から招いた専門家のほか、連邦巡回区控訴裁判所の裁判官などの海外から招い
た専門家が、基調講演を行った。廷長は、知的財産権法分野の基本的な制度と争点や
難点をめぐって深い討論を繰り広げた。
■最高人民法院は 9 月、国家裁判官学院において、全国法院知的財産権裁判実務研修
プログラムを開催し、全国の各級法院の知的財産担当裁判官 200 人余りが参加した。
研修プログラムには著名な学者、最高人民法院の知的財産権関係のベテラン裁判官を
招待し、専利、商標、著作権、不正競争などの分野の裁判実務に関する講義を行った。
■最高人民法院は、
「知的財産権最新問題シンポジウム」、
「ネットワーク著作権と馳名
商標保護の問題のシンポジウム」、「薬品知的財産権フォーラム」、「情報化時代の知的
財産権保護シンポジウム」、「馳名商標保護の強化および不法な商標横取り抑止シンポ
ジウム」などをテーマとするシンポジウムを 10 回余り開催した。
■北京市高級人民法院は、
「北京市法院第 4 回知的財産権逸品事件シンポジウム」を組
織・開催した。
■内モンゴル自治区高級人民法院は、全区の知的財産担当裁判官を集め、中国知的財
産権研修センター遠隔教育研修に参加させた。
■山東省の法院は、学習型党支部構築を推進し、毎週定期的に知的財産権裁判におけ
る争点や難点について定期的な討論を行った。
■浙江省高級人民法院は、知的財産権民事裁判業務の幹部研修制度を制定した。
22
■四川省の法院は、初任の知的財産担当裁判官の育成を強化し、指導教官による「マ
ンツーマン」の育成体制を実施した。
■湖南省高級人民法院は、知的財産権裁判業務研修プログラムを開催し、全省の知的
財産権裁判業務幹部 160 人余に対して体系的な研修を行った。
おわりに
2012 年、人民法院の知的財産権裁判は豊富な成果を収めた。2013 年、人民法院は新し
い動向、新しい任務を正確に把握し、奮闘を継続し、知的財産権裁判の新しい発展、新し
い進歩の実現に向けて努力する。
2013 年は党の第 18 回全国代表大会の精神を徹底するスタートの年であり、「第 12 次 5
か年計画(2011~2015 年)」のたすきを渡す重要な一年でもあり、知的財産権裁判事業は
いまだかつてない発展の契機を迎える。人民法院は今後、党の第 18 回全国代表大会の精
神の学習を深め、鄧小平理論、
「三つの代表」の重要思想、科学的発展観を指針とし、平安
な中国づくり、法治中国の目標、
「人民がすべての司法事件において公平と正義を感じられ
るようにする」との要請に密接に沿った形で、知的財産権の法に基づく事件処理、司法改
革、監督指導、チームワーク向上と現場の基礎固めなどの活動を全面的に強化し、人民の
ための司法、公正な司法を堅持し、司法の公信力を高め、ややゆとりのある社会の全面的
な建設を司法の面から力強く保障する。
編集責任者:周利航
13-12-26
23
2.2010 年以降 3 年分の同司法保護状況の各種統計
図表Ⅰ-1(件数) 各年度全国の地方人民法院が新規に受理した 知的財産権一審事件の件数 項目 2010 年 2011 年 2012 年 民事事件 42931 59612 87419 行政事件 2590 2433 2928 刑事事件 3992 5707 13104 2010 年から 3 年以来、全国の地方人民法院が新規に受理した民事一審事件数は 42,931
件から 87,419 件になり、103.63%増えた。知的財産権に関する行政一審事件数は 2,590
件から 2,928 件になり、13.05%増えた。知的財産権に関する刑事一審事件数は 3,992 件か
ら 13,104 件になり、228.26%増えた。上記データから見れば、知的財産権民事裁判は、一
番重要な司法保護手段として、役割を着実に果たしている。知的財産権侵害犯罪に対する
制裁と予防の役割が大幅に強化され、知的財産権行政裁判に対する支持と法に基づく行政
の監督の役割がだんだん強化されている。
図表Ⅰ-2(件数) 各年度知的財産権民事一審事件の新受件数 項目 2010 年 2011 年 2012 年 著作権事件 24719 35185 53848 商標事件 8460 12991 19815 専利事件 5785 7819 9680 技術契約紛争事件 670 557 746 不正競争事件 1131 1137 1123 その他 1966 2193 2207 2010 年から 3 年以来、全国の地方人民法院が受理した知的財産権民事一審事件では、
成長率トップ 3 の事件種類は、商標事件(134.22%増え)、著作権事件(117.84%増え)、
専利事件(67.33%増え)である。同時に、上記トップ 3 は知的財産権民事一審事件の新受
件数の 95.34%(2012 年)に占めている。
24
図表Ⅰ-3 渉外及び香港・澳門・台湾に関わる
知的財産権民事一審事件数(既済ベース)
1369
1429
1321
渉外知的財産権民事一
審事件
635
613
2011 年
2012 年
香港・澳門・台湾に関
わる知的財産権民事一
審事件
278
2010 年
2010 年から 3 年以来、渉外知的財産権民事一審事件数の変動率は大きくない。香港・
澳門・台湾に関わる知的財産権民事一審事件数は 600 件以上になっている。
図表 Ⅰ-4 各年度知的財産権民事二審事件、再審事件の新受・既済件数及び
最高人民法院知的財産権裁判廷の新受・既済件数
項目 2010 年 2011 年 2012 年 知的財産権民事二審事件の新受件数 6522 7642 9581 6481 7659 9292 111 294 172 109 224 223 313 305 237 317 311 246 未掲載 255 181 未掲載 262 186 上記事件の既済件数 (前年からの繰越分を含む) 知的財産権民事再審事件の新受件数 上記事件の既済件数 (前年からの繰越分を含む) 最高人民法院知的財産権裁判廷の知的財
産権民事事件の新受件数 上記事件の既済件数 (前年からの繰越分を含む) 最高人民法院知的財産権裁判廷へ再審請
求の新申立数 上記事件の既済件数 (前年からの繰越分を含む) 2010 年から 3 年以来、知的財産権民事二審事件の新受件数は 46.90%増え、既済件数は
43.37%増えた。但し、再審事件の新受件数及び既済件数は、2011 年から低下し、一方で、
二審判決が合理的になり、再審を提起する必要はないが、又は最高裁は立件審査にて慎重
になっているようである。
25
図表Ⅰ-5(比率) 知的財産権民事事件の裁判効率 項目 2010 年 2011 年 2012 年 一審事件既済率 86.39% 87.61% 87.61% 上訴率 49.65% 47.02% 39.53% 再審率 0.27% 0.51% 0.20% 原審差し戻し率 4.57% 3.66% 5.46% 審理期間内の既済率 97.93% 98.57% 99.24% 2010 年から 3 年以来、一審事件既済率は 87.61%になり、上訴率は 49.65%から 39.53%
に減少し、再審率は 0.20%に達した。上訴事件の原審差戻し率は 5.46%まで上昇し、審理
期間内の既済率は 99.24%まで上昇した。
図表Ⅰ-6(件数) 各年度知的財産権行政一審事件の新受件数 項目 2010 年 2011 年 2012 年 専利事件 551 654 760 商標事件 2026 1767 2150 著作権事件 2 2 3 その他の事件 11 10 15 2010 年から 3 年以来、全国の地方人民法院が受理した知的財産権行政一審事件におい
て、専利事件と、商標事件はそれぞれ 37.93%、6.12%増長している。渉外関連、香港・澳
門・台湾に関わる事件数は依然として高く、2010 年の 1004 件から 2012 年の 1349 件に
増長し、一審行政事件既済件数の 46.53%(2012 年)を占めた。
図表Ⅰ-7(件数) 2012 年度知的財産権行政二審事件(既済ベース) 各判決結果の割合 件数 項目 (合計 1388) 原判決維持 1225 原判決変更 118 原審差し戻し 3 訴訟撤回 22 却下 15 原裁定撤回指令による立件・審理 1 その他の終了方法 4 26
2010 年から 3 年以来、知的財産権行政二審事件の新受件数は、394 件から 1,424 件にな
り、既済件数は 240 件から 1,388 件になった。件数が増えたが、2012 年二審事件の各判
決結果の割合は 2010 年に比べると、ほぼ同じであり、特別な差異はない。
図表 Ⅰ-8 最高人民法院知的財産権裁判廷の知的財産権に関する行政不服申立事件の
新受件数、既済件数及び各判決結果の件数
項目 2010 年 2011 年 2012 年 新受件数 60 102 98 既済件数 56 101 98 却下 未掲載 73 70 上位審への移送 未掲載 20 20 再審命令 未掲載 3 2 訴訟撤回 未掲載 3 5 通知 未掲載 1 0 その他の終了方法 未掲載 1 1 図表 Ⅰ-9 最高人民法院知的財産権裁判廷へ移送された知的財産権行政事件の新受件
数、既済件数及び各判決結果の件数
項目 2010 年 2011 年 2012 年 新受件数 未掲載 13 24 既済件数 未掲載 11 22 原判決維持 未掲載 1 5 原判決変更 未掲載 10 16 訴訟撤回 未掲載 0 1 2010 年から 3 年以来、
「中国法院知識産権司法保護状況」の白書において、最高裁知的
財産権裁判廷より審理した事件件数及び判決結果の統計を公表された。
図表Ⅰ-10(件数) 知的財産権に関わる刑事一審事件の新受件数 項目 2010 年 2011 年 2012 年 知的財産権侵害罪 1294 3134 7840 偽粗悪品生産販売罪事件 609 774 2607 不法経営罪事件 2054 1747 2587 その他の事件 25 52 70 27
図表 Ⅰ-11 知的財産権刑事一審事件の各判決結果の件数
項目 2010 年 2011 年 2012 年 既済事件件数 3942 5504 12794 判決発効対象者数 6001 10055 15518 刑事処罰対象者数 6000 7892 15338 知的財産権侵害罪 1254 2967 7684 偽粗悪品生産販売罪 609 750 2504 不法経営罪 2054 1735 2535 その他の犯罪 25 52 71 図表 Ⅰ-12 知的財産権侵害罪と判決された事件のうち,各罪名の件数
項目 2010 年 2011 年 2012 年 偽商標登録罪 585 1060 2012 偽商標登録商品販売罪 345 863 1906 182 370 615 専利偽称罪 2 1 63 著作権侵害罪 85 594 3018 権利を侵害する複製品販売罪 5 30 27 営業秘密侵害罪 50 49 43 違法製造された登録商標標章の違
法な生産販売罪 2010 年から 3 年以来、知的財産権の刑事司法保護が絶えず強化され、刑事裁判の知的
財産権侵害犯罪に対する制裁と予防の役割をいっそう引き出した。
以上、上記統計結果から見れば、中国において、知的財産権の司法保護状況を継続的に
改善され、知的財産権裁判体制のレベルを引き上げされた。
28
3.2010 年以降 3 年分の同司法保護状況の推移分析
近年、最高裁は、毎年 4 月、前年の知的財産権司法保護状況(白皮書という)を発表す
る。同白皮書で、裁判職能、知的財産権戦略、裁判の監督及び業務指導、担当裁判官チー
ム強化などの内容を含め、知財訴訟に関する統計情報、および司法保護方針などを紹介し
てくれる。同白皮書は、既に、中国知財司法保護現状と発展傾向を把握するための重要な
書類となる。
2010 年以降 3 年分の同白皮書から、以下の傾向を読み取れる。
1. 知的財産権裁判業務は毎年新たな進展を示す。全国地方裁判所が新たに受理・終結し
た知的財産権民事一審事件は、每年、前年に比べ約 40%が増長している。量だけではなく、
裁判の品質と效率は絶え間なく高まり、裁判事件は、ますます複雑な具体的法律の適用問
題に及ぶだけではなく、経済、社会と文化分野における価値判断と司法方針問題にも及ん
でいる。
2. 調停の役割を重要視する。2010 年には「事件の調停制度を強化し、矛盾解消に尽力す
る」、「調停可能な分野を広げ、司法調停プロセスを規範化し、調停の質の効率を向上させ
るためにさまざまな方策を採用する」を挙げ、2011 年には「調停と判決の関係をあくまで
も正確に処理し、調停行為の規範化に尽力し、調停の質を引き続き高める」と調停の質的
向上を引き続き目指し、更に 2012 年には「より画期的な調停方式で、業界の協会や科学
技術の専門家の優勢を十分に発揮させ、委託調停、業界調停及び専門家による調停など多
種多様な調停方式の積極的に探る」と多種多様な調停の方式の達成を目指した。2010 年全
国知的財産権民事一審事件の平均調停・起訴取下率は 66.76%に達し、前年比で 5.68%上
昇し、2011 年全国知的財産権民事事件一審調停・起訴取下率は 72.72%に達し、前年比で
4.13%上昇し、2012 年全国知的財産権民事一審事件の調停・取下率は 70.26%に達した。
しかも、唯冠科技(深セン)有限公司と APPLE 社間の「IPAD」商標権利帰属紛争事件
等を含む重大事件も、調停で取り扱っていた。
3. 裁判監督指導を強化し、司法裁判基準の統一性を確保したことは、ここ 3 年以来中国
司法保護の最も重要視し、かつ、顕著な進展を実現した内容である。最高裁は、重大典型
判例などの評価・公表を通じて、関係法律適用問題を釈明し、地方裁判所だけではなく、
社会公衆にとっても、指導と参考となる。
4. 司法公開を強化し、司法公信を向上する。白皮書で関係統計情報を公開するほか、各
裁判所に、裁判文書をインターネットにて公開するよう要求してくれた。また、開廷審理
の公開、オンライン放送などもますます多くなり、規範となっている。
5. 知財裁判の専門チームの育成も重要視している。知財裁判官の構成では、徐々に高学
歴、年少化、専業化の傾向を現している。また、各裁判所で普通民事庭と分けて、専門知
財廷を設置することも多くなっている。専門知財廷の設置と専門知財裁判官の育成は、知
財事件の審理レベルのアップと司法風紀の規範にとって、重要な意義がある。
29
Ⅱ 判例研究
1.最高人民法院「2012 年中国法院知識産権司法保護十大案件」
(2013 年 4 月 22 日)
中国語原文:2013 年 4 月 22 日付け中国法院網 http://www.chinacourt.org/article/detail/2013/04/id/949760.shtml (1)「IPAD」商標権の帰属を巡る紛争事件
アップル社、IP アプリケーションデベロップメント社と唯冠科技(深セン)有限公司間の
商標権の帰属を巡る紛争上訴案(広東省高級人民法院[2012]粤高法民三終字第 8、9 号民事
調停書)
【事件概要】
2000 年、唯冠科技(深セン)有限公司(以下、「深セン唯冠公司」と略称する)が中国大
陸において登録を受けた iPad 商標を含んで、唯冠グループ傘下の子会社が複数の国、地
域において iPad 商標を取得していた。2009 年、アップル社が IP アプリケーションデベ
ロップメント社(以下、「IP 社」と略称する)を介して、唯冠グループ傘下の一つの子会社
である台湾唯冠公司と合意に達し、iPad 商標を 3.5 万ポンドで譲り受けた。2010 年 4 月
19 日、アップル社と IP 社は深セン唯冠公司を相手取って深セン市中級人民法院に提訴し
て、IP 社と台湾唯冠公司が締結した『商標譲渡協議書』及び関連証拠によって、深セン唯
冠公司が 2001 年にコンピュータなどの商品において登録を受けた「IPAD」商標と
「
」商標の専用権がアップル社に帰属すると認めるうえ、400 万元の賠償を深セン
唯冠公司に命ずるよう請求した。深セン市中級人民法院は 2011 年 11 月 17 日に一審判決
を下して、両原告の訴訟請求を却下した。アップル社と IP 社は広東省高級人民法院へ上
訴を提起した。最終的に、広東省高級人民法院の調停により双方は 6,000 万ドルで和解が
成立した。
【典型的意義】
アップル社の ipad 製品は市場において大人気の製品であり、アップル社にとって該商
標権の取得はとても重要である。一方、該紛争案が発生した時、深セン唯冠公司が破産に
瀕しており、係る債権者が数百人にものぼり、そのもっとも大きい資産推定値が iPad 商
標に集中している。双方にとって、和解が紛争を解決するための最適な方法である。法院
はこれに基づいて、最終的に双方の和解を成立させた。当案件が和解で解決したことによ
って、双方がアメリカ、香港及び中国国内における一連の紛争を徹底的に解決したため、
中国の知的財産権制度と司法保護状況が成熟化しつつあることを国際社会に示し、国内外
の多くのマスコミから好評を受けている。
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【ポイント解説】
本事件は、国際的にも大きな影響を及ぼした。一審及び二審において審理された細部及
び明らかにされた関連問題は、国内外において、広範な関心を呼び、掘り下げて検討され
た。次に、いくつの方面から本事件を簡単に分析する。
1. 商標権譲渡契約の拘束力に関する問題
商標譲渡について、中国では、明確な法律規定を有する。中国「商標法」第 39 条には、
「登録商標を譲渡するときは、譲渡人と譲受人は譲渡契約を締結し、共同して商標局に申
請しなければならない。譲受人は使用するその登録商標の商品の品質を保証しなければな
らない。登録商標の譲渡は、許可された後公告される。譲受人はその公告日より商標専用
権を享有する」と規定している。また、中国「商標法実施条例」第 25 条には、「登録商
標を譲渡する場合には、譲渡人と譲受人は商標局に登録商標譲渡申請書を提出しなければ
ならない。登録商標譲渡申請の手続きは譲受人により行う。商標局は登録商標譲渡申請を
許可した後、譲受人に相応の証明書を交付し、且つこれを公告する」と規定している。
このことから分かるように、中国商標法は、許可及び公告によって発効する主義を採用
している。即ち、商標局による許可及び公告を通じて、商標譲渡の効力が生じて初めて、
当事者は商標権を得られる。したがって、本事件において、仮に、イギリス IP 社が、中
国大陸における「IPAD」商標の正真正銘の権利者として深圳唯冠社を見つけて、商標権
譲渡契約を締結したとしても、商標局の許可を得られない状況下で、深圳唯冠社がイギリ
ス IP 社の陰に隠れて操っているのがアップル社であることが分かった場合、深圳唯冠社
は、依然として第三者と商標権譲渡契約を締結することができる。若し、当該第三者が先
に商標局から許可を得た場合、当該第三者は当該商標権を取得することができる。この場
合、アップル社は、やはり当該商標権を取得できないので、深圳唯冠社は契約違反責任を
負わなければならない。
2. 表見代理に関する問題
表見代理は、民法上の制度であり、代理権を有せず、代理権を超え、又は代理権終了
後に、無権代理者が、被代理者の名義で、行った民事行為であり、第三者に無権代理者の
代理権を信じさせて、行った代理行為である。表見代理は、中国法律によって認められて
いる。「中華人民共和国契約法」第 49 条には「行為者が代理権を有せず、代理権を超え、
又は代理権終了後に、本人の名義において契約を締結したとき、相手方が行為者の代理権
を信ずるに足る理由があった場合、当該代理行為は有効とする」と規定している。その意
義は、代理制度の信義原則を維持し、善意の第三者の合法的な権益を守るためにある。
このような法律規定からみれば、中国において、表見代理と認められるポイントは、
相手方が行為者の代理権を信ずるに足る理由である。もちろん、表見代理における「信ず
るに足る理由」は、より抽象的な概念である。実務において、裁判官がどのような理由を
「信ずるに足る」レベルであると認めるかという問題について、より大きな裁量権を有し
ている。現在裁判所は、表見代理を認定する際、「契約法」第 49 条以外に、主に司法解
釈「最高裁判所の当面の情勢下における民商事契約紛争事件の審理に係る若干問題に関す
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る指導意見」第 13、14 条によって審理する。司法解釈には「契約法第 49 条が定めている
表見代理制度は、代理者の無権代理行為が客観上に形成した代理権が存在する表象のみな
らず、相手方が主観上に善意且つ過失がない限り、代理者の代理権を信じることも要求し
ている。契約の相手方が表見代理を主張する場合、立証責任を負うべきである。その立証
責任には、代理行為における契約書、公印、印鑑等有権代理の客観的な表象に関する形式
的な要素のみならず、善意且つ過失がなくて代理者の代理権を信じることも含めている。
裁判所は、契約の相手方が主観上に善意且つ過失がない状況に該当するか否かについて判
定する場合、契約の締結及び履行のうちにおける各種の要素を合わせて総合的に判断すべ
きである。それ以外に、契約の締結時間、誰の名義で署名すること、関連印鑑を押したか
否か及び印鑑の真偽、訴訟物の渡す方式及び場所、購入した材料、賃貸した機材、借りた
お金の用途、建築単位が項目経理の行為を知るか否か、契約履行に参加するか否か等各種
類の要素をあわせて、総合的に分析・判断すべきである」と規定している。
本事件に当てはめると、イギリス IP 社が台湾唯冠社と商標権譲渡契約を締結する際、
台湾唯冠社は、深圳唯冠社の代理権を有することを信ずるに足る理由を証明しなければな
らない。しかし、本事件に関する事実及びアップル社、IP 社が提出した証拠によれば、深
圳唯冠社は、如何なる書面書類によっても、台湾唯冠社及び麦世宏に対して、交渉及び商
標譲渡のことを委託又は授権していなかった。したがって、IP 社には、台湾唯冠社が深圳
唯冠社の代理権を有することを信ずるに足る理由がないことになる。
3. 関連企業の商標権のコンフリクトに関する問題
「IPAD」商標の使用状況からみれば、アップル社が当該商標を譲受けする前、台湾唯
冠社は、中国大陸以外の多くの国や地域において商標専有権を合法的に所有し、かつ、一
部分の地域において、先に登録していた。そして、深圳唯冠社は、中国大陸における当該
商標の専用権を所有していた。そのため、同一の商標の異なった地域におけるコンフリク
トを形成した。両社は関連会社であり、利益的には一致しているので、このような商標権
のコンフリクトの存在について、当時明らかにはしなかった。では、なぜ 2 つの関連会社
間に商標権のコンフリクトが存在したかと言えば、両社が「IPAD」商標を使用していた
範囲が大体同じであったからである。すなわち、異なった地域で、それぞれがパソコン等
電子製品に使用していた。
関連会社としての深圳唯冠社と台湾唯冠社は、過去、それ以前には外部の企業から商標
使用に対する干渉がなかったので、商標権紛争が存在しなかった。しかし、商標権譲渡の
場合、アップル社と深圳唯冠社との間には共同の利益がないので、このような商標権のコ
ンフリクトは必然的に勃発した。アップル社は、当該商標権譲渡契約の真実性及び有効性
を信じていたので、その製品の中国市場進出前に、深圳唯冠社に対して、「IPAD」商標
の譲渡手続を行うよう要求したが、拒絶された。その理由は、それぞれ独立した企業の無
形資産もそれぞれ独立したものなので、如何なる者も、深圳唯冠社が所有している商標権
を無断に処理してはならないというシンプルなことであった。
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(2)「三一」馳名商標保護事件
三一重工股份有限公司と馬鞍山市永合重工科技有限公司(元社名:馬鞍山市三一重工機
械製造有限公司)との間の商標権侵害及び不正競争紛争上訴案(湖南省高級人民法院[2012]
湘高法民三終字第 61 号民事判決書)
【事件概要】
三一重工股份有限公司(以下、「三一重工公司」と略称する)は、第 1550869 号及び
第 6131503 号「三一」文字登録商標専用権の所有者である。馬鞍山市永合重佑工科技有
限公司(元社名:馬鞍山市三一重工機械製造有限公司、以下「永合公司」と略称する)は、
三一重工公司の許可なしにその企業名称の中に“三一”という文字を冠し、その旋盤類製品、
工場建物の外壁、広告宣伝及びウェブサイトのトップ・ページにおいて「三一重工」、「三
一機床」等の標識を使用したため、三一重工公司は商標権侵害及び不正当競争訴訟を起こ
した。湖南省長沙市中級人民法院による一審判決では、永合公司に対して、商標権侵害及
び不正当競争行為を差止めるとともに、40 万元の経済的損害賠償金を三一重工に支払う
よう命じたが、永合公司はこれを不服とし、上訴を提起した。湖南省高級人民法院は審理
を経て、三一重工公司が法に従って第 1550869 号及び第 6131503 号「三一」文字登録商
標の専用権を有しており、そのうち、第 1550869 号商標が三一重工公司によってその会
社名、製品、外部への宣伝、企業の施設及び株券の名称において継続的に使用されている
ことで、関連公衆によく知られているため、商標法第 14 条に規定される馳名商標にあた
ると認定した。また、「三一」文字は、三一重工公司という企業名称の中もっとも顕著的
で核心的な部分であり、その企業の商号にあたり、比較的に高い知名度を有しており、不
正競争防止法第 5 条第 1 項(三)に規定される「企業名称」として認めなければならず、
法により保護すべきである。永合公司が許可なしに、第 1550869 号「三一」係争商標の
使用を許可される商品と同一も類似もしない旋盤類製品において「三一」商標を目立って
使用するとともに、その企業名称に「三一」という文字を冠した行為は、商標権侵害及び
不正競争にあたり、法によりそれ相応の民事責任を負わなければならない。よって、上訴
を却下して、原審判決を維持した。
【典型的意義】
三一重工公司は国内の知名企業であり、その所有する第 1550869 号「三一」文字登録商
標が関連公衆に広く知られている。永合公司はその旋盤類製品において「三一」標識を目
立って使用するとともに、その企業名称に「三一」という文字を冠している。法院は商標
法第 14 条の規定に従って、法により三一重工公司が所有する第 1550869 号「三一」文字
登録商標が馳名商標にあたると認定し、永合公司の行為が商標権侵害及び不正競争にあた
ると判定した。当案件は馳名商標の司法認定によって、商標権者の合法的権益を効果的に
保護しており、正常な経済秩序の擁護、「傍名牌」、「フリーライダー」行為の抑止、知
名企業のブランド育成の促進に積極的な意義がある。
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【ポイント解説】(判決書未公開)
(3)コンピュータの中国語文字データベースの著作権を巡る紛争事件
北京北大方正電子有限公司と暴雪娯楽股份有限公司、九城互動情報技術(上海)有限公
司、上海第九城市情報技術有限公司、北京情文図書有限公司との間の著作権侵害紛争案(最
高人民法院[2010]民三終字第 6 号民事判決書)
【事件概要】
北京北大方正電子有限公司(以下、「北大方正公司」と略称する)は方正蘭亭書体フォ
ント V5.0 バージョンの中の方正北魏楷書体 GBK など 5 種類の方正書体の権利者である。
暴雪娯楽股份有限公司(以下、「暴雪公司」と略称する)はネットゲーム「魔獣世界」の
著作権の所有者であって、同社は上海第九城市情報技術有限公司(以下、「第九城市公司」
と略称する)に該ネットゲームの中国バージョンの作成および中国大陸における運営権を
与えていた。九城互動情報技術(上海)有限公司(以下、「九城互動公司」と称する)は
第九城市公司が該ネットゲームを経営して得た売上から利益分配してもらうと同時に、
2005 年度、2006 年度の該ネットゲームの会計主体としていた。北京情文図書有限公司(以
下、「情文公司」と略称する)は第九城市公司からネットゲーム「魔獣世界」のユーザ端
末ソフトウェアディスクの販売権を授権されたフランチャイザーの 1 社である。北大方正
公司は、暴雪公司などが該ネットゲームのユーザ端末において許可を得ずに、北大方正公
司が著作権を所有する上記 5 種類の書体を搭載し、該ネットゲームの実行過程においても、
各ゲームインターフェースにそれぞれ上記 5 種類の書体を使用しており、これらの行為が
北大方正公司に帰属する前記 5 種類の書体のコンピュータソフトウェアに関する著作権及
びその中の各漢字に関する美術的著作物の著作権を侵害していると主張して、北京市高級
人民法院へ提訴し、侵害行為の差止め、謝罪および 4.08 億元の損害賠償を請求した。一審
法院は、次のように判断した。書体フォントがコンピュータソフトウェア保護条例に規定
されるプログラムに属しないが、書体フォント内の各書体の作成が作者の独創性を表して
おり、当案件に係る各種の書体の形態が線によって構成され、ある程度の審美性のある書
法芸術であるとも言え、著作権法およびその実施条例によって保護される美術的著作物に
あたる。第九城市公司が「魔獣世界」のユーザ端末ソフトウェアと関連パッチにおいて当
案件に係る 5 種類の書体を使用するとともに販売を行い、およびネットワークを介してゲ
ームプレイヤーに関連のユーザ端末ソフトウェアを提供するといった行為が、それぞれ当
案件に係る方正蘭亭書体フォント内の書体の美術的著作物の著作権に対する北大方正公司
の複製権、発行権および情報ネットワーク伝達権を侵害しており、暴雪公司、九城互動公
司と連帯責任を負うべきである。よって、即時に侵害行為を差止め、経済的損害 140 万元
および訴訟に関する合理的費用 5 万元を北大方正公司に賠償するよう暴雪公司などに命ず
る判決を下した。北大方正公司、暴雪公司、第九城市公司は一審判決を不服とし、最高人
民法院に上訴を提起した。審理を経て、最高人民法院は、次のように判断した。当案件に
当たって係争する書体フォント内の書体ドキュメントの機能が関連書体の字形の表示と出
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力を支持することであって、その内容は字形輪郭の構築命令および関連データと字形輪郭
の動態的調整データの命令コードとの結合であり、特定なソフトウェアによって運行結果
を生成するため、『コンピュータソフトウェア保護条例』第 3 条第 1 項に規定されるコン
ピュータプログラムにあたる。書体フォント内の書体が線、色又はそのほかの方式によっ
て構成される審美性のある平面あるいは立体の造型芸術著作物ではないため、著作権法に
おける美術的著作物にあたらない。暴雪公司は北大方正公司が所有する係争書体フォント
に対して、その複製権、発行権および情報ネットワーク伝達権を侵害した。関連コンピュ
ータソフトウェアによって運行されて生成される漢字が著作権法における独創性を有する
場合のみ美術的著作物として認められる。当案件では、暴雪公司、第九城市公司がそのゲ
ームの実行過程において上記漢字を使用するのはその意味の表現、情報の伝達に関する機
能の使用であり、前記漢字が著作権における美術的著作物にあたるかどうかを問わず、こ
のような使用は北大方正公司の関連権利を侵害していない。よって、二審判決では、侵害
行為を差止め、経済的損害 200 万元および訴訟に関する合理的費用 5 万元を北大方正公司
に賠償するよう暴雪公司などに命ずる判決を下した。
【典型的意義】
当案件は、コンピュータ書体フォントの法的属性の認定に係る。最高人民法院は案件審
理の中において次の通り判断した。1.方正蘭亭書体フォントは美術的著作物ではなく、
コンピュータソフトウェアとして著作権法の保護を受けるべきである。2.コンピュータ
の書体フォントを実行して生成される単一の漢字は、著作権法における独創性を具備して
いる場合のみ、それを美術的著作物として認定される。3.コンピュータの書体フォント
を実行して生成される単一の漢字は美術的著作物にあたるかどうかを問わず、他者が正当
にその漢字を使って一定の思想を表現し、一定の情報を伝達する権利を規制してはならな
い。
【ポイント解説】
本事件の重要な意義は、コンピューター関連中国語フォントライブラリーの法律属性に
対する認定に及んでいることである。
本事件において、方正社の蘭亭フォントライブラリーにおける関連フォントは字形の原
稿を基にして、その制作人員がオリジナル風格を把握することを基礎として、印刷された
字の組合せ規則に基づいて、オリジナル筆画を派生してワンセットの完璧な印刷フォント
ライブラリーを生成させた後、再び人工的な調整を経てから Truetype 指令を使用して、
設計済みの字形を特定の数字関数によって、そのフォントの輪郭外形を表現し、かつ、相
応する制御指令によって字形に対して相応する細かな調整を行ってからフォントにコーデ
ィングしたものである。そのフォントの制作過程によれば、印刷フォントライブラリーに
おけるフォント字形は、字形の原稿にデジタル化の処理を施した後、人工的又はコンピュ
ーターによって、字形の原稿の風格に基づいて漢字の組合せ規則と結び付けて構成したも
のであるので、そのフォントライブラリーにおける各漢字の字形とその字形原稿は一対一
の対応関係を有するのではなく、字形原稿のデータ化でもなく、かつ、そのも数量的にも
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遥かにその字形原稿を超えている。印刷フォントライブラリーは、コーディングを経てコ
ンピューターフォントライブラリーを形成した後、その構成部分における各漢字は、二度
と漢字の字形画像の形式で存在せず、相応する座標データと相応する関数算法によって存
在し、出力時に特定の指令及びソフトウェアによる転用、解釈を経た後、相応する字形画
像として還元される。したがって、フォントライブラリーの設計と創作は、書道の創作と
異なり、フォントライブラリーの役目は文字のディスプレイと組版印刷であり、字自身の
設計即ち字の制作は書道の創作には該当せず、フォントライブラリーの設計は書道の創作
として著作権法による保護を受ける美術著作物になり、その際には、必ずフォント設計の
取捨選択から独立していなければならない。フォントライブラリーは、統一性と規範性を
追及し、単体の字の筆画、構造は必ず一致していなければならない。ただし、書道著作物
の創作は、筆や墨による実行が突出し、複製本と原本の間では質的な区別を有するものの、
フォントライブラリーにおける字形は、原本と複製本においてプリント技術を通じて完全
に複製できるものであり、質的な相異を有しない。フォントライブラリーの設計師である
朱信氏は、
「フォントライブラリーから転用した字から生成する文章において、字と字の間
の相互関係は固定されたものであり、生き生きとした漢字の書道における問題は、フォン
トライブラリーでは解決できないものである」と述べている。書道著作物の独創性が依頼
する字と字の間の全体排列と取捨選択は、フォントライブラリーの設計においては存在し
ない。フォントライブラリーの創作過程において、いずれも字の本体に対する設計であり、
担体自体から独立した創作はない。
本事件において、方正社の蘭亭フォントライブラリーは、方正蘭亭フォントライブラリ
ーV5.0 バージョンにおける方正北魏楷体 GBK、方正細黑 GBK、方正剪紙 GBK、方正蘭
亭フォントライブラリーV3.0 バージョンにおける方正隷変 GBK、方正蘭亭フォントライ
ブラリーV1.0 バージョンにおける方正隷変 GB フォントから構成されている。各種のフ
ォントライブラリーは、いずれも関連特定の数字関数を使用し、常用の 5000 余りの漢字
フォントの輪郭外形を表現し、かつ、相応する制御指令によって関連フォント字形に対し
て相応する細かい調整を行なっているので、それぞれのフォントライブリーは、いずれも
上記の指令関連データから構成され、線、色彩又はその他の方法で構成された審美的意義
を有する平面的又は立体的な書道著作物以外のその他の造型芸術著作物ではない。最高裁
判所は、上記のことを理由にしてフォントライブラリーの設計成果が中国「著作権法」に
おける保護を受ける美術著作物を構成しないと判定した。
また、本事件において、最高裁判所は、
「係争フォントライブラリーにおけるフォントフ
ァイルの機能は、関連フォント字形のディスプレイと出力を支持することであり、その内
容は字形輪郭の構築指令及び関連データと字形輪郭動態の調整データ指令コードを結び付
けることであり、その特定のソフトウェアにより転用された後で生じる実行構造は、コン
ピューターシステムソフトウェアの一種に該当し、それはコンピューター及び関連電子設
備の出力装置に示される関連フォント字形を得るために制作したコンピューターが実行す
るコード化指令の組合せであり、『コンピュータソフト保護条例』第3条第1項に規定する
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コンピュータープログラムに該当すると認定すべきである」と判定した。
「コンピュータソフト保護条例」第 3 条第 1 項によれば、コンピュータープログラムの
構成要件には、以下の 3 つがあるといえる。
①
コード化された指令の組合せ、コード化された指令の組合せに転換できる符号化さ
れた指令の組合せ、又は符号化された語句の組合せである。
②
コード化された指令の組合が実行されることである。
③
コード化された指令の組合せを実行してある結果が得られることである。
本事件において、方正フォントライブラリーにおける単字コード化の指令の組合せは、
コンピューターに特定の操作をさせることができると同時に、ある結果を得られる。した
がって、係争フォントライブラリーは、
「コンピュータソフト保護条例」に規定するコンピ
ュータープログラムに該当するので、コンピューターソフトウェアとして保護すべきであ
る。
(4)「葫芦娃」(ヒョウタンちゃん)キャラクターの著作権帰属を巡る
紛争事件
胡進慶、呉雲初と上海美術映画プロダクションとの間の著作権帰属紛争案(上海市第二
中級人民法院[2011]滬二中民五(知)終字第 62 号民事判決書)
【 事 件 概 要 】
胡進慶、呉雲初は上海美術映画プロダクションの従業員である。20 世紀 80 年代では、
上海美術映画プロダクションの任命により、胡進慶、呉雲初は国産シリーズアニメ「ヒョ
ウタン兄弟」の造型デザインを担当し、二人が共同で「ヒョウタン兄弟」キャラクターを
創作した。胡進慶、呉雲初は、「ヒョウタン兄弟」キャラクターが美術的著作物として映
画から離れて認識されることができ、その著作権が著作者に帰属し、該美術的著作物が一
般職務著作物に該当し、当事者双方の間では著作権について約定されなかったという状況
下で、「ヒョウタン兄弟」キャラクターの美術的著作物の著作権が 2 人に帰属すべきと主
張して、上海市黄浦区人民法院に提訴し、「ヒョウタン兄弟」およびその続きの「ヒョウ
タン小金剛」シリーズ紙細工アニメ映画の「ヒョウタンちゃん」(即ち、ヒョウタン兄弟
と金剛ヒョウタンちゃん)キャラクターの美術的著作物における著作権が胡進慶、呉雲初
に帰属すると確認するように請求した。一審判決では、胡進慶、呉雲初の訴訟請求を却下
した。胡進慶、呉雲初は不服とし、上訴を提起した。上海市第二中級人民法院による第二
審では、次のように判断した。双方当事者が確かに係争著作物の著作権の帰属に関する書
面による契約を締結していなかったが、これはあくまでも特定の歴史条件の下においての
行為であるため、当事者が当該行為を行った時に取った具体的な形式およびその真実の意
思表示を深く追究すべきであり、それに基づいてこそ、係争職務著作物の著作権の帰属を
正確に判明できる。アニメ映画の創作全体に対して、仕事業務を完成するために創作され
た成果が勤務先に属するということは、当時の人々の普遍的な認識に合致すると思われる。
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当事者双方とも被上訴人がアニメ映画のキャラクターの造型に対する支配権を有するこ
とを認めているため、誠実信用の角度から、上訴人が事後に相反する意思表示をして、係
争キャラクターの美術的著作物としての著作権を主張すべきではない。「ヒョウタンちゃ
ん」キャラクターは法により「特殊職務著作物」として認定されるべきであって、署名権
は胡進慶、呉雲初に帰属するが、著作権に関するその他の権利は上海美術映画プロダクシ
ョンに帰属する。よって、上訴を却下し、原審を維持した。
【典型的意義】
当案件は、アニメキャラクターの著作権の認定、法人著作物と職務著作物、一般職務著
作物と特殊職務著作物との比較及び区別などの法律問題、計画経済時代の著作権帰属の問
題に係る。当案件の判決では、著作物創作時の特定の歴史条件、規定制度及び当事者の具
体的行為及びその真実の意思表示などの各側面を総合的に考慮し、組織団体の従業員が創
作したアニメキャラクターを「特殊職務著作物」として認定し、組織団体が署名権以外の
著作権を享有すると認めている。この判決は、この種類の著作物の著作権の帰属に関する
公衆の一般的な考え方に沿ったものである一方、文化産業の健康的発展にも有利である。
【ポイント解説】
本事件は、中国の現行「著作権法」の施行前に発生したが、現行「著作権法」の施行後
も、中国では数多くの法人又は機関と職員との間の著作権帰属に係る紛争が起こっている。
その原因は、中国の著作権法律制度下において、法人著作物と職務著作物は非常に近い概
念であるため、極めて容易に混同をもたらしているからである。 本事件の場合、胡進慶と呉雲初は上海美術映画プロダクションの職員で、かつ、係争著
作物は、上海美術映画プロダクションの主宰下で、上海美術映画プロダクションの業務上
の任務を履行するために完成しもので、その責任も上海美術映画プロダクションが負って
いる。しかし、係争著作物を創り出す創造力は、胡進慶と呉雲初が提供したものであり、
上海美術映画プロダクションが提供したものではない。すなわち、係争著作物は胡進慶と
呉雲初の思想と意志を体現している。したがって、一審人民法院と二審人民法院は、いず
れも係争著作物が法人著作物に該当しないとの認定をした。 実務上、法人著作物と職務著作物は確かにその違いを明確に定義することが難しい。法
人著作物の場合、法人又は機関が著作物の創作過程を主宰することを要求するものの、多
くの職務著作物も法人又は機関が主宰している。また、責任の負担において、一般職務著
作物の責任は著作者個人が負担するが、特殊職務著作物の責任負担は法人著作物と同様に
法人又は機関が負担する。それに、通常権利帰属を明確にしてこそ、責任負担問題が初め
て生じる。したがって、法人著作物と職務著作物との間の最大の相違点は、法人又は機関
の意志を体現したか否かにあると言える。本事件における相違点も機関の意志を体現した
か否かにある。
しかし、実務において、意志要素も明確には区分できないものである。通常、法人著作
物の場合、法人又は機関は最初から著作物の主題、枠組み、方向性及び具体的な用語を設
定すべきであり、法人又は機関の意志を簡単に業務上の任務を任命・派遣したり、創作に
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対して原則的要求を提出したり、若しくは、修正・改善意見を提出したりすることなどと
同様にみなしてはいけない。したがって、法人又は機関が法人著作物を主張する場合、自
己の意志が如何に著作物の創作全般に貫徹されているかを証明する証拠を提出しなければ
ならない。本事件において、上海美術映画プロダクションは、係争著作物の創作当初上海
美術映画プロダクションがすでに胡進慶と呉雲初に対して「葫芦娃」キャラクターの具体
的枠組みとキャラクターへの要求を提出していたことを証明する証拠を提供できず、しか
も、係争著作物の創作過程において、上海美術映画プロダクションが「葫芦娃」キャラク
ターに対して実質的で决定的な修正意見を提出したことを証明する証拠も提供できなかっ
た。そのため、係争著作物は職務著作物に該当するとの認定は合理的でかつ合法的である
と言える。
また、係争著作物の権利帰属問題について、一審人民法院は、厳格に現行の「著作権法」
における職務著作物の関連規定に基づき係争著作物の権利帰属を判断せず、係争著作物を
創作した当時の時代背景、歴史的条件及び双方当事者の行為を総合的に考慮したうえ、係
争著作物の著作権が上海美術映画プロダクションに帰属することが当時の業界慣例と社会
の普遍的な認識に適合すると認定した。本事件の二審人民法院も、係争著作物の創作当時
の社会における普遍的なやり方に鑑み、係争著作物の著作権は上海美術映画プロダクショ
ンに帰属すると認定した。しかし、一審人民法院と相違することは、二審人民法院は、現
行の「著作権法」の規定に基づき、係争著作物について「法律、行政法規の規定又は契約
の約定により著作権は法人又はその他組織が享有する」特殊職務著作物であると明確に認
定した上で、その著作権は上海美術映画プロダクションに帰属すべきであると判定した。
ここで注意しなければならないことは、仮に厳密に分析する場合、係争著作物は現行「著
作権法」に規定した特殊職務著作物の要求を満たしていない。なぜならば、本事件の係争
著作物は、主に機関の物的・技術的条件を利用して創作したプロセス設計図、製品設計図、
地図、コンピューターソフトウェアなどの職務著作物に該当しないだけではなく、いかな
る法律にもかかる著作物は法人又は機関に帰属すべきであると明確に規定していないから
である。ましてや、上海美術映画プロダクション及び胡進慶と呉雲初の二人は、それまで
に確かに係争著作物の著作権帰属についていかなる契約も締結していない。しかし、上記
のとおり、本事件の係争著作物は、「著作権法」の施行前の特殊な歴史時期に創作された
ので、二審人民法院は、係争著作物に上記の問題が存在していたにもかかわらず、特定な
歴史時期における社会の普遍的なやり方などの要素を考慮した上、係争著作物は特殊職務
著作物に該当し、その著作権は上海美術映画プロダクションが享有すべきであると判定し
た。 ただし、現行の「著作権法」に基づくと、職員が完成した著作物について、当該著作物
が法人著作物に該当することを証明する明確な証拠を有せず、かつ、当該著作物が主に法
人又は機関の物的・技術的条件を利用して創作したプロセス設計図、製品設計図、地図、
コンピューターソフトウェアなどに該当しない状況下で、法人又は機関が職務著作物の著
作権を取得しようとした場合は、職員との契約を締結することに注意を払うと同時に、明
39
确に著作権帰属を約定しなければならない。さもなければ、極めて容易に権利帰属紛争を
引き起こし、著作権を享有できなくなってしまうこともある。つまり、職員の完成した職
務著作物について、不必要な利益に関するごたごたを回避するために、比較的現実的な選
択は、契約の形式を以って権利帰属内容を明確に約定することがより重要となっている。
(5) 百度文庫の著作権を巡る紛争事件
韓寒と北京百度網訊科技有限公司との間の著作権侵害紛争案(北京市海澱区人民法院
[2012]海民初字第 5558 号民事判決書)
【事件概要】
韓寒は当代有名な若手作家であって、韓寒によると、百度文庫において、多数のネット
ユーザがその代表作である『像少年啦飛馳』(以下、「『像』の本」と略称する)を百度
文庫にアップロードし、無料でのオンライン閲覧とダウンロードに提供していることを発
見したので、問題を解決するために百度文庫を経営する北京百度網訊科技有限公司(以下、
「百度公司」と略称する)に書簡を複数回出したが、未解決のままであった。韓寒は、百
度公司がその『像』の本の情報ネットワーク伝達権を侵害したとして、北京市海澱区人民
法院に提訴し、即時に権利侵害行為を差止め、権利侵害行為を制止するための有効な措置
を講じ、百度文庫を閉鎖し、謝罪し、25.4 万元の経済的損害賠償金を支払い、弁護費、公
証費などの関連費用を負担するよう命ずる判決を求めた。百度公司は、百度文庫が情報の
メモリー空間に過ぎず、その中のテキストがネットユーザからアップロードされたもので
あって、百度公司が韓寒からのクレームを受けたあと、速やかに関連リンクと関連著作物
を削除するとともに、クレームに係る著作物を文庫の海賊版防止システムの正規版データ
ベースに収録して、技術措置によって権利侵害を予防したため、過失がなく、権利侵害の
責任を負うべきではないと主張した。審理を経て、北京市海澱区人民法院は、次のように
判断した。百度文庫を経営する百度公司が通常、ネットユーザからアップロードされた著
作物に対して、事前に審査、ウォッチングする義務がないと思われるが、百度公司が百度
文庫に存在する権利侵害行為に対して如何なる関与と制限もしなくてよい事を意味しない。
当案件に係る著作物は知名作家の知名著作物であって、韓寒は 2011 年 3 月にも作家代表
の一人として百度文庫の権利侵害行為について百度公司と交渉したことがあるため、百度
公司は韓寒が百度文庫によるその著作物の伝達に同意しないこと、および百度文庫内に韓
寒の著作権を侵害するテキストがあることを知るはずであり、百度公司が韓寒の著作物に
対してより高い注意義務を負っている。より高い注意義務を有する『像』の本の権利侵害
となるテキストに対して、百度公司は消極的に権利者からの正規版著作物または知らせを
待っていただけであって、その海賊版防止システムの正常運行の機能を確保することがで
きなかったうえ、該権利侵害となるテキストの百度文庫における伝達を制止するためのそ
の他の必要な措置も取らなかったので、主観上の過失がある。よって、百度公司が経済的
損害の賠償金として 39,800 元及び合理的支出として 4,000 元を支払う旨の判決を下した。
40
該判決は一審で発効した。
【典型的意義】
この案件は、作家権利擁護連盟が、文庫モデルに関して百度公司と紛争を起こし、司法
的解決方法を求める典型的な事件であって、各界の人々に広く注目されている。この案件
の判決では、情報メモリー空間のネットワークサービスプロバイダーの過失を論証する際
に、「注意義務」を切口として、百度文庫の客観的現状、作家及びその著作物の知名度、
百度文庫に起因する紛争における作家と百度公司との交渉状況などの事情を結び付けて、
百度公司がその身分にふさわしく、その予見レベルと支配能力を満たす範囲内の措置を講
じたかどうかを審査した上、百度公司によって実施された技術的措置の適当性についても
判断を行った。判決では、百度公司が文庫という商業モデルにおいて権利侵害を防止する
ための努力を認めたものの、権利侵害を制止するにあたって、緊急措置やまだ完備されて
いない技術措置に頼ってはならず、規範化した管理を重要視しなければならない点を指摘
した。当案件の判決の趣旨は、文化産物の創作者、伝達者および公衆の利益のバランスが
とれることを図り、権利者とネットワーク企業との提携関係を促進し、ネットワーク文化
の繁栄を実現することにある。
【ポイント解説】
1. 情報ストレージスペースのプロバイダーの注意義務に対する判断基準
英米法系又は大陸法系において、注意義務は、いずれも誤りの判定の基準である。具体
的に情報ストレージスペースのプロバイダーの注意義務の場合、「中華人民共和国侵害責
任法」(以下「侵害責任法」という)第 36 条では、「ネットユーザー、インターネット
サービスプロバイダーが、ネットワークを利用して他人の民事権益を侵害した場合は、侵
害責任を負うものとする。ネットユーザーがネットワークサービスを利用して侵害行為を
実施した場合、被侵害者は、インターネットサービスプロバイダーに対して削除、遮蔽、
リンクの切断等の必要な措置を取るよう通知する権利を有する。インターネットサービス
プロバイダーは、通知を受け取った後、直ちに必要な措置を取らなかった場合は、損害が
拡大した部分について当該ネットユーザーと連帯責任を負うべきである。インターネット
サービスプロバイダーは、ネットユーザーがそのネットワークサービスを利用して他人の
民事権益を侵害していることを知っていながら、必要な措置を取らなかった場合は、当該
ネットユーザーとの連帯責任を負うものとする。」と規定している。当該規定に基づき、
仮に通知を受け取った後、インターネットサービスプロバイダーが直ちに必要な措置を取
らなかった場合、注意義務を履行していないことになると理解すべきであり、これは疑い
の余地がない。インターネットサービスプロバイダーは、ネットユーザーがそのネットワ
ークサービスを利用して他人の民事権益を侵害したことを「知っている」状況において、
必要な措置を取らなかった場合、合理的な注意義務を履行していないと理解するというこ
とについては、いろいろ論争されている。ここに言う「知っている」は、「はっきり知っ
ている」、「知っているはずである」、「推理推測によって知得している」であるか、そ
れとも「はっきり知っている」に「推理推測によって知得している」を加えたものである
41
かについて、学界にはさまざまな意見があり、まだ意見が統一されていない。現在の観点
は、最高裁判所の溪暁明氏が、全国裁判所知的財産権裁判業務座談会における「能動的な
司法で、大局に奉仕する。知的財産権裁判業務の新たな発展を実現するために努力する」
というスピーチで言及した「知っている」には「はっきりと知っている」と「知っている
はずである」という 2 つの主観的な内容を含んでいるというものである。
本事件において、裁判所は、百度文庫が合理的な注意義務を果たしたか否かを判定した
際に、「侵害行為法」第 36 条第 3 項及び「情報ネットワーク伝達権保護条例」第 22 条の
規定を引用することにより、百度公司が百度文庫における書籍「像」が権利侵害している
ことを知っているはずである合理的な理由を有するか否かは、百度公司が誤りを有するか
否かを判定し、責任を負わせるための根拠となると判定した。したがって、北京市海淀裁
判所は、注意義務を判定した際に、一般人の能力を超えた個体に対して「主観説」を採用
したことを分かる。すなわち、個体能力を注意義務の判断基準としていたのである。裁判
所は、「知っている」における「知っているはずである」の内包を採用し、「知っている
はずである」の立場から被告が合理的な注意義務を果たしていないと判定したのである。
言い換えれば、本事件において、百度公司は、その特定な技術能力、特定の時間と社会背
景及び被侵害者韓寒の知名度による前提において、侵害行為の存在を「知っているはず」
であり、かつ、その他の侵害ファイルよりも高い注意義務を果たすべきであった。百度文
庫の注意義務に対する裁判所の判断基準は、明らかに一般レベルより高かったと言える。
2. 注意義務の判定と「セーフハーバー条項」及び「紅旗原則」間の関係
セーフハーバー条項は、簡単に言えば「通知+削除」(notice-take down procedure)
である。中国の現行法において、セーフハーバー条項を現しているのは本事件で引用され
た「情報ネットワーク伝達権保護条例」(以下「条例」という)である。その内、第 14、
22、23 条は当該条項に言及している。もう 1 つは、「侵害責任法」第 36 条第 2 項である。
セーフハーバー条項を概括すれば、賠償責任から免れたい場合は、1 つの要件を満たすこ
と、すなわち、侵害通知を受け取った後、被疑侵害のリンクに対して直ちに削除し、又は
他人がアクセスすることを阻止することである。
セーフハーバー条項の適用を規制するのは、
「侵害の合図の基準(中国語訳『紅旗原則』)」
である。「情報ネットワーク伝達権保護条例」の第 23 条と「侵害責任法」第 36 条第 3 項
では同様に当該原則を現している。
インターネットサービスプロバイダーが合理的な注意義務を果たしたか否かを判断する
ことは、直接「セーフハーバー条項」と「侵害の合図の基準」の適用に係わっている。「通
知+削除」の「セーフハーバー条項」は、主観的な状態に対して比較的直感的なものであ
る。通知を受け取った後、削除しなかった場合は、明らかに主観的な誤りを有するが、こ
れは注意義務を考慮しなくても判断できるものである。しかし、「侵害の合図の基準」は、
インターネットサービスプロバイダーが取った侵害対策に対する要求が比較的高いもので
ある。仮に合理的な注意義務を履行しなかったことにより、「紅旗(=明らかな被疑侵害
事実)」を見逃した場合、インターネットサービスプロバイダーは「侵害の合図の基準」
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に規制を受け、「セーフハーバー条項」の保護を受けることができない。インターネット
サービスプロバイダーの「合理的な注意義務」は、「善良な管理者」の注意義務の基準に
よって、インターネットサービスプロバイダーに対して理性、善意のある慎重な管理者の
身分でネットユーザーの各種行為を取扱うことを求めている。
3. 個別事件における注意義務について
本事件において、百度公司の業界における地位、注意能力と予見能力に対する裁判所の
考察のとおり、それぞれの個別事件において、注意義務に対する判断は、先ず主体自体の
特性により決定される。たとえば、業界での地位、技術能力等である。本事件において、
百度公司は、ネットワーク業界のトップ企業であり、同社が提供する百度文庫はネットワ
ークの情報ストレージスペースの半分を占め、大量の資源が百度文庫で伝達されているの
で、同社は著作権等の知的財産権を保護する責任を負うべきである。本事件の発生時に、
韓寒がすでに数回にわたって百度公司との間で協議した前提において、百度公司は、通知
を受け取り削除する事ができていたものの、百度文庫に韓寒の著作権を侵害した被疑侵害
著作物が依然として存在することを予見し、かつ、合理的な予防措置をとることで防止す
る目標を達していない。注意義務の判定基準に基づき、百度公司は、明らかに自社の業界
における地位および技術力等に相応する注意義務を果たしていない。
(6)CDMA/GSM ダブルモデル移動通信方法に係る特許権侵害紛争事件
浙江華立通信グループと深セン三星科健移動通信技術有限公司、戴鋼との間の発明特許
権侵害紛争上訴案(浙江省高級人民法院[2009] 浙知終字第 64 号民事判決書)
【事件概要】
浙江華立通信グループ有限公司(以下、「華立公司」と略称する)は、特許番号が
ZL02101734.4 号、発明の名称が「GSM/CDMA ダブルモデル移動通信方法」の発明特許
の独占実施許諾の被許諾者である。華立公司は、深セン三星科健移動通信技術有限公司(以
下、「三星公司」と略称する)が製造し、戴鋼が販売する SCH-W579 携帯電話の技術方
案がその特許権に記載される技術方案と同じであるとして、三星公司が権利侵害を差止め、
華立公司に 5,000 万元の経済的損害賠償金を支払い、戴鋼が権利侵害携帯電話の販売を差
止めるよう命ずる判決を人民法院に請求した。一審法院は、華立公司の訴訟請求を全て支
持した。二審において、浙江省高級人民法院は、製品のインターフェースで表示される操
作手順が異なる技術方案によって実現できることから、特許侵害訴訟対象製品が使用した
技術方案を正確に確定し、それが特許保護の範囲に含まれるかどうかを確定するには、専
門技術機構による技術鑑定が必要であると判断した。よって、三星公司からの技術鑑定請
求を支持した。技術鑑定の結果によれば、SCH-W579 携帯電話が採用する技術方案は特許
の請求項 1 に記載された一部の必要技術的特徴と異なり、両者が採用する技術手段も実現
する機能も異なれば、得られた GSM/CDMA ダブルモデル移動通信の効果も異なることが
わかった。法院は、この両者が異なる技術方案であると認定し、 SCH-W579 携帯電話が
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係争特許の請求項 1 に記載される技術方案を採用しておらず、係争特許の権利保護の範囲
に含まれないため、特許権の侵害にあたらないと認定した。原審の判決を棄却し、華立公
司の訴訟請求を却下した。
【典型的意義】
当案件は、国際的に有名な携帯電話メーカーが中国の同業者に特許権侵害で訴えた初の
事件である。訴訟請求金額及び一審で判決された損害賠償額は何れも 5,000 万元にも達し、
国内外から広く注目された。二審法院は当事者が挙証、証拠調べを行うよう積極的に指導
し、合理的な比較方法を正確に使用し、当事者双方が専門家に依頼して技術問題の説明し
てもらうよう助言し、技術鑑定などの事実調査体制を利用して有効に技術上の難題を解決
し、関連法律を正確に適用し、原審の判決を覆し、国内携帯電話メーカーの全ての訴訟請
求を棄却し、各側の当事者の合法的権益を平等に守り、公平競争の市場環境を創った。
【ポイント解説】
SAMSUNG 社が 5 年間を経て、最終的に二審人民法院で逆勝訴したとの最適結果を得
られたキーポイントは、同社が提出した技術鑑定申請が二審人民法院に許可され、且つ同
鑑定の結果が SAMSUNG 社にとって有利であったことである。
1.特許権侵害紛争事件における技術鑑定の役割
特許権侵害訴訟は、常に比較的複雑な専門技術問題に触れるので、如何に審理の中で技
術問題を調査することにより、正確に係争事実を認定し、正確な判決を言い渡すのか、技
術系出身ではない人民法院の裁判官にとって、非常に重要な問題である。
知的財産権事件、特に特許権侵害紛争事件の審理において、複雑で先端な特定分野の専
門技術問題については、技術鑑定との事実調査機制を利用して、有效的に技術難点を解決
することは、実際には、早くから、中国各級地方人民法院から最高人民法院に至るまで公
認され、常に採用されている事件審理手段である。
しかし、本事件において、一審人民法院――浙江省杭州市中級人民法院は、
「SAMSUNG
社の SCH-W579 携帯電話が係争特許の権利範囲に含まれるか否か」を本件争点の一つと
して認定したが、被告 SAMSUNG 社が一審で提出した鑑定申請を、認めてくれなかった。
一審人民法院は、華立公司の発明特許及び SAMSUNG 社の SCH-W579 携帯電話と言う
複雑な専門の技術的特徴に対する相違点認定において、自ら「完全な顕示」がされている
と認定しており、裁判官自身は「鑑定を経る必要なしに」、
「事実を確定」できると判断し、
結局、SAMSUNG 社による鑑定申請を拒絶した状況で、自ら「認定した事実が不明で、
適用した法律が不当である」との判決を言い渡した。
よって、司法鑑定は、複雑な技術内容にかかわる特許侵害紛争事件において、極めて重
要な役割がある。
2.司法鑑定の始動
「民事訴訟法」第 76 条によれば、鑑定手続の始動について、二つルートがあり、一つ
は当事者の申請による鑑定で、もう一つは、人民法院が確実に必要だと認定する場合、自
ら鑑定を委託する場合である。
44
本件において、鑑定の始動は、当事者の SAMSUNG 社が人民法院に申請を提出し、二
審人民法院の許可を経て、裁判所より鑑定機関を選定・委託して鑑定を行わせた。
SAMSUNG 社が二審で提出した被疑侵害製品の技術的特徴と特許の構成要件に対する
鑑定の申請について、二審人民法院は、審理を経て、次にとおりに判定した。
「本事件の主
な争点は、SCH-W579 の技術的特徴が係争特許の請求項 1 の権利範囲に入るか否かである
が、係争特許の技術的特徴は簡単な操作ステップではない。したがって、対比方法につい
て、携帯電話インタフェースでの実演により SCH-W579 の技術方案と作業原理を推定す
ることは明らかに不完全であり、科学的ではない。SCH-W579 の技術的特徴を掲示し、か
つ、更に特許方法を実施したか否かを判断する際、専門技術部門による技術鑑定を参照す
べきである」。二審人民法院が SAMSUNG 社からの鑑定申請を許可したことは、最終的に
本事件の正確な事実を認定でき、正確に法律を適用できる基礎となった。
司法実務において、ほとんどの鑑定は当事者の申請により始動される。人民法院が審理
において、複雑な技術問題にかかわり、鑑定の必要があると認める場合、通常、釈明権を
行使して、挙証責任を負っている当事者に鑑定を申請できると知らせ、かつ、鑑定申請の
期限を指定する。当事者が指定期限内に、正当な理由なしに鑑定申請を提出しないか、或
いは鑑定費用を前払わないか、或いは関係資料を提出しないことにより、鑑定を通じて、
紛争事実を確認できない場合、挙証不能の法律結果を負担しなければならない。その理由
は、鑑定申請は当事者の権利であるものの、自己の主張している事実に対する挙証は当事
者の義務であるからである。鑑定が事実究明の必要手段になった場合、当事者は自分の挙
証義務を履行するために、鑑定を申請し、かつ、鑑定費用を前払わなければならず、さも
なければ、挙証怠慢と見なされ、挙証不能の不利結果を負担しなければならない。
また、鑑定について、当事者一方が単独に委託できるか否かについては、実務上、一方
の当事者が単独に委託して作成した鑑定意見も少なくない。通常、ほとんどの相手方の当
事者は、鑑定意見に異議を提出するが、一方の当事者が単独に委託した鑑定が証明力を有
しないとは言えない。
「最高裁判所による民事訴訟証拠に関する若干規定」第 28 条には、
「一方当事者が自ら
関連部門に委託して作成できた鑑定結論につき、相手方の当事者が証拠をもって十分反論
でき、かつ、再鑑定を申請した場合、裁判所は認めるべきである。」と規定している。つま
り、一方当事者自ら委託した鑑定についても、相手方の当事者が認めない場合、反論の証
拠を提出し、かつ、再鑑定を申請すべきである。したがって、これらの鑑定は、一方当事
者自ら委託であるとの理由で、鑑定意見にならないわけではない。
3. 司法鑑定意見の効力
第三回の改訂「民事訴訟法」において、証拠種類における「鑑定結論」を「鑑定意見」
に改正した。当該改正の趣旨としては、鑑定結論につき、鑑定人の認識と判断で、鑑定人
の意見と観点を表したもので、証拠の一種に過ぎないため、
「鑑定意見」との表現は、これ
らの証拠が訴訟における位置を正確に表現できることである。つまり、鑑定意見は最終的
結論ではなく、裁判官に必ずしも認めなければならないことではない。裁判所は、事件の
45
全ての証拠を総合的に考慮したうえ、事実を判断しなければならない。にも関わらず、
「最
高裁判所による民事訴訟証拠に関する若干規定」第 77 条によれば、「鑑定結論(改正前)の
証明力は、物証、保管書類、実地検証記録と同じく、通常、他の書証、視聴資料と証人証
言の証明力より高い。特に、人民法院の委託した鑑定結論について、当事者が十分な反論
証拠や理由を有していない場合、その証明力を認定することができる。
本件において、鑑定意見において、権利者の特許権と被疑侵害技術は異なる技術である
と認定した。SAMSUNG 社は証拠調べにおいて、鑑定意見の内容に異議がなかったが、
華立公司は、同鑑定意見は関連法律規定に合致せず、鑑定結果は根拠がなく、再鑑定を申
請した。
これに対し、二審人民法院は、鑑定機関「科技諮詢中心」は、人民法院司法鑑定センタ
ーより審査・批准した、最高人民法院の司法鑑定人のリスト及び最高人民法院の司法技術
専門機関リストに記載されている鑑定機関であり、当該鑑定機関と鑑定人は何れも鑑定資
格を有し、
「科技諮詢中心」の作成した「鑑定報告書」及び「補充技術鑑定報告書」は、手
続が適法で、鑑定根拠が十分なので、本件事実を認定する証拠とすることができると認定
した。
したがって、鑑定意見が必ずしも採用しなければならないが、依然として、証明力が高
い証拠であり、鑑定意見を否定しようとすれば、十分な理由と反証が必要である。
要するに、技術が複雑な特許侵害、営業秘密侵害、ソフトウェア著作権侵害等の事件に
おいて、司法鑑定は極めて重要な役割があり、権利者は訴訟において十分に利用したほう
がよい。具体的には、まず、人民法院に積極的に鑑定を申請し、次は、安全のために事前
に自ら鑑定を委託することも考えられるが、司法鑑定資格を有する鑑定機関と鑑定人に鑑
定を委託するようご留意いただきたい。しかも、自分に不利な鑑定意見について、合理的
な理由と反証を調査・収集しなければならず、再鑑定を申請することも考えられる。
(7)「泥人張」に係る不正競争事件
張錩、張宏岳、北京泥人張芸術開発有限責任公司と張鉄成、北京泥人張博古陶芸厂、北
京泥人張芸術品有限公司との間の不正競争紛争再審案(最高人民法院[2010]民提字第 113
号民事判決書)
【事件概要】
清の時代、張明山は泥塑に精通していることから、「泥人張」と呼ばれていた。その後
代は張家の泥塑芸術を受け継いで、2 代目「泥人張」の伝承者の一人である張玉亭が 1914
年と 1915 年に国際的な賞を受賞し、3 代目の「泥人張」の伝承者の一人である張景祜が
1956 年に中央工芸美術学院に張景祜工作室を設立した。張錩は張景祜の息子であって、
「泥人張」の 4 代目の伝承者の一人である。張宏岳は張錩の息子であり、「泥人張」の 5
代目の伝承者の一人である。張明山の後代が長期にわたって、経営活動に商業標識として
「泥人張」を使用してきた。2006 年 6 月、「泥塑(天津泥人張)」が国家レベル無形文
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化財リストに入選した。北京泥人張芸術開発有限責任公司は 1997 年 8 月に成立されたも
ので、法人代表者が張宏岳である。北京泥人張博古陶芸厂と北京泥人張芸術品有限公司が
それぞれ 1982 年 11 月と 1994 年 7 月に成立され、法人代表者は何れも張鉄成であり、経
営中に何れも「泥人張」を使用していた。2005 年 10 月 8 日に北京泥人張芸術品有限公司
のホームページ(www.nirenzhang.com)にアクセスしたところ、その「会社概要」には、
「『北京泥人張』が清朝道光の時代に源を発し、現在まで 160 年弱の歴史を持っている。」
及び「張鉄成は『北京泥人張』の 4 代目の伝承者である。」などの内容が掲載されていた。
1979 年 7 月 13 日の『北京日報』には「北京泥人張」に関する最初の報道が掲載されてい
た。三つの原告は北京第二中級人民法院に訴訟を提起して、三つの被告が権利侵害行為を
差止め、謝罪し、110 万元の経済的損害賠償金を支払うよう命ずる判決を請求した。一審
法院は、三つの被告の行為が「泥人張」の名称専有権の侵害及び不正競争にあたるが、三
つの原告が自分の権利行使をあまりにも怠けていたため、三つの被告が権利侵害行為を差
止め、1 万元の合理的費用を賠償するよう命ずる判決を下した。張鉄成などは不服とし上
訴を提起して、北京高級人民法院による二審では、張鉄成が「北京泥人張」を使用したの
はそれなりの合理的な根拠があるため、三つの被告が 1 万元の合理的費用を賠償し、ドメ
インネーム「nirenzhang」の前に識別的標識を加えるよう命ずる判決を下して、「泥人張」
専有名称の使用停止という一審の判決を棄却した。最高人民法院による再審では、「泥人
張」は張明山及びその後代の泥塑職人に対する特定の称呼及び彼らが伝承している特定の
技芸と創作、生産著作物に対する特定の名称として、社会的な知名度が非常に高く、大き
な商業的価値を有しており、三つの被告が「泥人張」の知名度を明らかに知っているにも
かかわらず、それを商標標識として使用しながら、その使用が合理合法であることを充分
に証明できる証拠を提供できず、客観的に公衆に誤認混同を生じさせる恐れがあり、その
行為が不正競争にあたるため、二審判決を棄却し、一審判決を維持するという判決を下し
た。
【典型的意義】
当案件は当事者双方が主張している家族的伝承が長い歴史を持っており、関連する法律
が複雑で、その判決結果が当事者双方のいずれに対しても大きな影響を与えることから、
社会から広く注目された。再審判決書では、事件の経緯、事実と双方の主張を余すところ
なく、充分且つ明瞭に開示したうえ、法律を的確に適用し、法理と情理を結びつけて、慣
用称呼の認定、「泥人張」という特定の称呼に表される権益及び保護、公開出版物に掲載
された内容の真実性に対する審査・判断、三つの被告の行為が不正競争にあたるかどうか
といった問題について深く分析して、裁判結果の説得力を保証し、優れた法的効果を取得
した。「泥人張」という特定の称呼は、160 年余りの歴史を持ち、国内外で好評を受けて
いる。それによって代表される泥塑芸術は、郷土文化の特色を現しており、最初の国家レ
ベル無形文化財リストに入選したものである。当案件では法により、「泥人張」という知
名老舗の商号を保護して、社会各界から評価され、良好な社会的効果を得られた。
【ポイント解説】
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本件は一審、二審と再審を通して 7 年間にわたって続き、その事件の経緯も複雑である。
そのため、再審判決書も 30 頁以上になっており、多くの内容が法律関係に関わっている。
そのうち、最も重要な法律問題は再審申立人がどのような権利を有し、どの法律によって
保護を受けることができるかという問題である。当該法律問題は他の案件のためにも参考
的な意義があると言える。具体的には以下のとおりである。
再審申立人である北京泥人張芸術開発有限責任公司の成立時期は被申立人の成立時期よ
り遅いので、明らかに企業名称権又は商号権を主張できない。かつ、「泥人張」商標は主
に天津泥人張彩塑工作室が享有しているので、再審申立人が本件訴訟を提出した際、主張
したのは名称専用権であった。
一審判決においては、「泥人張」は有名な彩塑芸術品の特有の名称、即ち「不正競争防
止法」第 5 条 2 号に定めている知名商品の特有名称権であることを明確にした。但し、一
審判決において記載の法的根拠は「不正競争防止法」第 5 条 2 号ではなく、「不正競争防
止法」第 2 条であった。
二審法院が一審判決を覆した際には、法的根拠として「不正競争防止法」第 5 条 2 号を
追加し、一審判決において認定した名称権侵害及び不正競争紛争という事件の事由を不正
競争紛争の事由に変更した。この点について、再審申立人は不服として、二審法院では「泥
人張」が有名な彩塑芸術品の特有名称であることのみを認定したが、「泥人張」名称権の
内包を縮小したことを提出した。自己が主張した名称権は、民法通則における姓名権又は
名称権ではないし、有名な彩塑芸術品の名称のみを指しているのでもなく、「泥人張」と
いう三つの字に関する全ての権利のことを言うとのことである。
再審申立人の上記主張には、疑わしい点がある。現在討論している権利は、何れも法律
が付与したもので、名称権利に関する法律は上述の民法通則と不正競争防止法である。再
審申立人が主張する全ての権利が民法通則と不正競争防止法を除いて、いったいどの法律
が付与した何の権利であるかは、明確になっていない。
再審判決書においては「泥人張に対する使用歴史と現状からみれば、泥人張は多くの意
味と用途を有し、多くの民事権益に関わっている」と記載し、かつ、「第一」と「第二」
のような表現で、「張明山とその後代の泥塑職人に対する特定の称呼」及び「それを商品
名称として使用した場合、不正競争防止法における意味上の知名商品の特有の名称にあた
る」を泥人張が享有している全ての民事権益であるとした。但し、最終的に判決で適用し
た法律は依然として不正競争防止法第 5 条ではなく、第 2 条であった。
周知のとおり、不正競争防止法には 11 種類の典型的な不正競争行為が列挙されている
が、実際において、その不正競争行為は多種多様で、一つ一つ列挙することはできない。
同法第 2 条の規定は同法の通常条項で、上記 11 種類に該当しない不正競争行為について
は、「誠実信用の原則の違反」及び「社会経済秩序を撹乱する行為」を理由に不正競争に
当たると認定できる。
第 2 条の第 1 項、第 2 項の規定は以下のとおりである。
「経営者は市場取引きの中で自由意思、平等、公正、信義誠実の原則を遵守し、公認の商
48
業道徳を遵守しなければならない。
本法において不正競争とは、経営者が本法に違反してその他の経営者の合法的な権益を損
ない社会経済秩序を撹乱する行為をいう。」
但し、司法実践において、司法自由裁量権の拡大を避けるために、法院は第 2 条の適用
に対して非常に慎重な態度及び原則を維持している。不正競争防止法及びその他条項又は
その他法律により調整できる行為については、通常、同法の第 2 条を適用しない。
本件において、最高院は、最終的に、第 2 条で法律を適用したが、再審申立人の部分的
な主張を認可したことが分かる。即ち、同法第 5 条第 2 号のみでは「泥人張」の合法的な
権益をよく保護できないことを認定した。
通常、第 2 条の規定を適用する際、以下の点について考慮しなければならない。
1.関連行為には合法的・合理的な根拠があるか否か。
行為者が合法・正当な民事的な権利を有し、かつ、当該民事的な権利に基づき経営活動
を行う場合、その行為に不当性があると認定してはならない。
本件において、被申立人の一つである北京泥人張博古陶芸厂は 1982 年に登録成立され
たが、中国の工商管理制度は分級管理制度を実施しているので、一つの企業名称が同一の
行政管轄区において同業界のほかの企業名称と重複しない場合、通常、その登録は認可さ
れる。したがって、一つの企業が登録を取得しても、当該企業名称の取得と使用が必然的
に合法というのではなく、当該登企業名称に対しても絶対的な権利を有するのではない。
「泥人張」は再審申立人の家族における泥塑職人及び技芸、作品等に対する特定の呼称
として長い歴史を持ち、国内外において知名度を有している。北京泥人張博古陶芸厂と北
京泥人張芸術品有限公司は合理的・合法的な根拠がない状況下で、「泥人張」を企業の屋
号として登録したが、明らかにただ乗りの故意がある。さらに、被申立人が「泥人張」又
は「北京泥人張」を使用する行為には合理的・合法的な根拠がない。
また、被申立人は「泥人張」は特定の呼称ではなく、慣用呼称であるという主張を提出
した。
慣用呼称、即ち通用名称は、一定範囲内において普遍的に使用されている名称で、特定
商品の出所を識別できる機能を有していない。通用名称を認定する際には、主に、以下の
基準を根拠とする。
① 国家基準と業界基準
② 同業界の経営者のあいだに定着され、普遍的に使用されている名称と専門家意見
③ 専門図書、辞書等の公開出版物に記載されている内容
④ 世論調査等の消費者の認知
即ち、通用名称には主に法定の通有名称と定着している通用名称の二種類が含まれてい
る。本件において、「泥人張」は明らかに法定の通用名称ではないが、定着している通用
名称であるかどうかを判断する際は、地域範囲の問題に係っている。通常、商品の通用名
称を認定した際、関連公衆が当該名称に対する理解については全国範囲内で考察すべきで
ある。但し、中国は地域範囲が広く、かつ、各地方の方言呼称が統一されていないので、
49
一つの区域では商品の通用名称であるが、他の地方においては人々に知られていない情況
であることも珍しくない。したがって、通用名称を認定した際、具体的な案件事実と背景
に基づき地域範囲の問題を考慮しなければならない。本件に係る泥塑業界と商品は全国範
囲内において分布されているので、最高院は「泥人張」が定着している通用名称であるか
どうかを判断する際、全国範囲内における関連公衆の通常の認識を基準とした。
被申立人は、「業界+姓」、即ち、「泥人張」が業界内部における通用呼称であり、再
審申立人は当該呼称を独占して使用する権利を有しないと主張したが、提出した証拠は、
「泥人張」という呼称が申立人家族が最初に使用することで、社会的な知名度を持たせた
事実を否定できないので、全国範囲内における張氏泥塑職人が普遍的に「泥人張」と呼ば
れることも証明できなかった。
2.信義誠実の原則を違反したか否かについて
信義誠実の原則は民事立法の価値追求として、直接民事主体の具体的な権利と義務に及
ばず、その性質は比較的高い抽象性を有する。信義誠実の原則は補充性、救済性、平衡性
(即ち、裁判官に自由裁量権を与えること)等の特徴がある。信義誠実の原則に違反した
かどうかを判断する際、主に行為者の主観的な側面から、即ち、行為者が主観的な悪意を
有しているか否かについて考慮すべきである。本件において、天津からの「泥人張」は長
い歴史を有し、高い知名度を有するので、同業界の経営者である被申立人は係争の経営活
動を始める時、天津からの「泥人張」の存在と知名度を知らなかったはずはない。かつ、
被申立人の「北京泥人張」に対する宣伝は、申立人の歴史伝承等の内容と極めて類似する
にもかかわらず、被申立人は自分の歴史伝承に関する主張について関連証拠を提出して証
明できなかった。かつ、関連主張にも前後矛盾している所があり、被申立人はただ乗りの
悪意を有すると言える。
3.関連公衆の混同・誤認をもたらすかどうかについて
関連公衆の混同・誤認をもたらすかどうかは不正競争行為を構成するか否かを判断する
重要な考察要素で、通常、一つの商号が有名であれば有名なほど、他人に勝手に使用され
た際、関連公衆に混同・誤認をもたらす可能性が大きくなる。本件において、「泥人張」
は、極めて高い知名度を有するので、権利者の同意無しに各種形式の商業使用を実施した
場合、通常、関連公衆の混同・誤認をもたらしやすい。本件における証拠も関連公衆が既
に混同・誤認をもたらした事実を証明できる。
まとめると、享有している権益について、ある専門法が付与した権利として該当させる
ことは難しいが、当該権益が確かに創造的な労働から作り出されたものであれば、経済的
な価値も有しており、他人の行為に不当性があって、当該権益を侵害したのであれば、不
正競争防止法第 2 条の信義誠実の原則をもって主張してみることができる。
なお、本件においては、被申立人の不当行為を認定したが、再審申立人が自分の権利行
使を怠っていた状況もあり、かつ再審申立人が経済的損失を証明する証拠を提出しなかっ
たので、法院の判決において、再審申立人の経済的損失に関する請求は支持されなかった。
50
やはり、侵害事実を見つけた場合は、積極的に対応して、自社の権益を保護しなければな
らない。
(8)姚明の人格権侵害および不正競争紛争事件
姚明と武漢雲鶴ビッグシャーク体育用品有限公司との間の人格権侵害及び不正競争上訴
案(湖北省高級人民法院[2012]鄂民三終字第 137 号民事判決書)
【事件概要】
武漢雲鶴ビッグシャーク体育用品有限公司(以下、「武漢雲鶴公司」と略称する)は、
姚明氏の許可を得ずに、その姓名と肖像を同社製造と販売の製品「姚明一代」及びその宣
伝に使用している。姚明は、該行為が姚明の人格権を侵害するとともに不正競争にもあた
るとして、武漢雲鶴公司が即時に侵害行為を差止め、1,000 万元の経済的損害賠償金を支
払い、『中国工商報』などのメディアに声明を掲載して謝罪し影響を解消するよう命ずる
判決を法院に請求した。湖北省武漢市中級人民法院による一審において、姚明がその自身
の努力で取得した男子プロバスケットボール分野における業績及びその良好な社会的イメ
ージによって、多くの消費者に影響力をもつことから生じた関連権益は、法に基づいて保
護されるべきと判断した。武漢雲鶴公司が商品を販売するための宣伝において、何度も姚
明の肖像及び姓名を使用して、同社製造・販売のスポーツ製品を姚明と関連させ、姚明の
姓名権と肖像権を侵害するとともに、不正競争にもあたるので、即時に侵害行為を差止め、
謝罪し、影響を解消するよう命じたが、姚明から提出された証拠が武漢雲鶴公司の侵害行
為によって姚明に 1,000 万元の経済的損害をもたらしたことを証明するのに充分ではない
ため、権利侵害の事実及び姚明が権利を守るための支出を総合的に考慮して、30 万元の経
済的損害賠償金を支払うよう命ずる判決を下した。一審判決後、姚明は判決された賠償金
額が少なしぎるという理由で上訴を提起した。湖北省高級人民法院による二審において、
次のように判断した。『不正競争防止法』によって保護される個人の姓名は一般的な意味
の人格権とは違って、異なる市場の主体を区別するための商業標識である。権利者による
授権または許可なしに、如何なる企業または個人も、他者の姓名、肖像、署名及びその関
連標識を商業に使用してはならない。武漢雲鶴公司の権利侵害行為は明らかな有意行為で
ある。一審で賠償金額を判定する際に、武漢雲鶴公司の権利侵害行為の性質、その後の結
果、侵害行為の続く期間などの要素、及び 2010 年 3 月に姚明本人が新浪網を介して正式
な声明を発表した後にもかかわらず、武漢雲鶴公司が権利侵害行為を継続・放任したとい
う主観的過失の程度を充分に考えていなかった。従って、以上の要素と思料から、権利者
が権利侵害によって受けた実際の損失または権利侵害者が権利侵害によって得た利益を確
定できない場合、『不正競争防止法』第 20 条、『最高人民法院による不正競争の民事案
件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』第 17 条の関連規定により、武漢雲
鶴公司が権利を守るための合理的費用を含んだ 100 万元の経済的損害を姚明に賠償するよ
う命ずる判決を下した。
51
【典型的意義】
人格権の商品化に関する問題は、従前から法学理論業界と司法実務業界において注目さ
れてきたものである。姓名、肖像などの主体の外観的な標識及び表面の特徴を内容とする
人格権が、特に有名人の姓名と肖像が、商品経済社会において、巨大な商業的価値を有す
る。当案件は、姚明の知名度及びその影響力によって、マスコミと社会の注目を集めてい
る。当案件は、『不正競争防止法』の適用によって、商業的価値を有する、商品の経営に
使用される個人の姓名、肖像に対して保護を行ったばかりではなく、賠償金額の認定にお
いても『不正競争防止法』及びその司法解釈の適用を選択して、このような人格権と不正
競争紛争案件の審理に手本を示した。
【ポイント解説】(判決書未公開)
(9)「楽活」商標権侵害に係る行政処罰事件
蘇州鼎盛食品有限公司と江蘇省蘇州工商行政管理局との間の工商行政処罰上訴事件(江
蘇省高級人民法院[2011]蘇知行終字第 4 号行政判決書)
【事件概要】
第三者東華紡績集団有限公司(以下、「東華公司」と略称する)は国家工商行政管理総
局商標局の許可を得て、「菓子、インスタントご飯、オートフレーク、アイスクリーム」
などの商品において、2009 年 7 月 14 日に登録商標「楽活 LOHAS」を取得したが、現在
まだ実際に使用していない。2009 年 6 月 23 日、蘇州鼎盛食品有限公司(以下、「鼎盛公
司」と略称する)は浙江健利包装有限公司と契約を結んで、浙江健利包装有限公司が鼎盛
公司のために係争標識「
と
の組み合わせ標識」を表示する贈物ケースを製造する
と約定した。2009 年 9 月、鼎盛公司は当年度に製造した月餅を「秋爽」、「美満」及び
当案件に係る「楽活」など計 23 種類に分けて市場に出して、主に鼎盛公司の直販店、加
盟店で販売していた。2009 年 9 月 8 日、江蘇省蘇州工商行政管理局(以下、「蘇州工商
局」と略称する)は通報を受けて、鼎盛公司に対して調査を行った。同社が当年度に製造
した 1 種類の月餅に商標「楽活 LOHAS」を使用したことが判明したため、鼎盛公司の行
為が登録商標専用権侵害行為にあたると認定して、該社に対して権利侵害行為差止め及び
罰金 50 万元の行政処罰を決定した。該具体的な行政行為がなされた後、鼎盛公司はこれ
を不服とし、蘇州市人民政府に行政復議を請求したが、蘇州市人民政府は蘇州工商局の工
商処罰決定を維持した。鼎盛公司は依然として不服とし、江蘇省蘇州市中級人民法院に訴
訟を起こした。江蘇省蘇州市中級人民法院は審理を経て、蘇州工商局の処罰決定を維持し
た。鼎盛公司は不服とし、江蘇省高級人民法院に上訴を提起して、鼎盛公司が月餅のシリ
ーズ商品において使用される「楽活 LOHAS」が商品の種類名称として使用されたもので
あって、また、登録商標「楽活 LOHAS」が社会の流行語に由来するものであって、その
顕著性が比較的に弱く、第三者に合理的に使用する権利があると主張して、法により改め
52
て判決し、行政処罰決定を棄却するように請求した。江蘇省高級人民法院は、次のように
判断した。鼎盛公司と東華公司の係争商標と類似しているので、その行為が東華公司の登
録商標の専用権を侵害したため、工商行政機関は法により鼎盛公司に対して行政処罰を実
施する権利を持っているが、過失と処罰が相当するという原則に従わなければならない。
権利侵害行為を差止めるように命令するだけで、登録商標の専用権に対する保護、消費者
及び関連公衆の利益を保障するという行政法執行の目的を充分に果たせる場合、罰金を併
科するかどうかは、処罰対象の主観的過失の程度、違法行為の状況、性質、その後の結果
及び危害の程度などの要素を総合的に考慮しながら自由裁量権を行使すべきである。当案
件において、蘇州工商局は、鼎盛公司には主観的過失がなく、権利侵害の性質、行為と情
状が明らかに軽く、実際の危害と結果をもたらしていないなどの要素を考えておらず、鼎
盛公司に対して 50 万元の罰金を併科した。その行政処罰の結果と違法行為の社会的危害
程度とは明らかに不釣合いになっており、その行政処罰には適当性と必要性が足りず、明
らかに公正に欠けた行政処罰に該当し、法により変更すべきである。よって、判決では、
蘇州工商局から出された「1.権利侵害行為の差止めを命ずる。2.50 万人民元の罰金を科す
る」という行政処罰を「権利侵害行為の差止めを命ずる」に変更した。
【典型的意義】
当案件は江蘇法院において知的財産権に係る「三審合一」のモデルの下で、初めて司法
判決の形式で明らかに公正に欠けた行政処罰に対して変更を行った知的財産権行政事件で
ある。当案件によって知的財産権行政法執行機関に対して、工商行政機関は法により行政
対象による商標権侵害行為に対して行政処罰を行う場合、過失と処罰とは相当しなければ
ならない原則に従って自由裁量権を行使すべきであり、即ち、行政管理の目的の実現を確
保しながら、行政対象の合法的権益に配慮しなければならず、行政処罰は行政法執行の目
的と目標を果たすことを限度とするように、指導を行っている。当案件の審理は、商標権
侵害案件の審理に関する考えの筋道を更に明確にするように積極的に探索し、工商行政機
関が商標行政法執行方面において、商標法の立法主旨と権利侵害の判定基準を正確に理解
して、自由裁量権を合理的で規範的に行使するように、裁判指導の役割を果たしている。
【ポイント解説】
商標専用権に対する行政保護は、中国における知的財産権制度の大きな特色で、実務上、
当事者が行政ルートを選択する際に、一方では行政保護における強い主動性、及び即効性
について便利さを感じると同時に、もう一方では、工商行政管理部門が商標専用権に対す
る保護について比較的大きな自由裁量権を有しているため、しばしば紛争が生じている。
上記の重大な意義のほかに、本事件には、2 つの注目すべき問題がある。1 つは、鼎盛
公司が「楽活 LOHAS」を使用していた行為はすでに商標意義上の使用を構成することで
あり、もう 1 つは、商標権侵害行為に対する行政処罰の原則と基準についてである。
1.商標意義上の使用
商標意義上の使用を構成するか否かを判断する際に、1 つの標章が法律意義上の商標を
構成するか否かについてまず判断しなければならない。1 つの標章が実際に商品又は役務
53
の出所を区分できる機能は、当該標章が法律意義上の商標として認定されることができる
か否かの主な考慮すべき要因であるといえる。
本事件において、鼎盛公司は、「楽活 LOHAS」に対する使用は、一種の商品名称で、
様式名称の使用に該当し、「楽活」を使用したことは言葉の本来の意味としての使用と一
貫して主張した。しかし、一審・二審裁判所とも、「楽活 LOHAS」と「I will 愛維爾」
を連続させ一体化した標章となり、商品の出所を区分する機能を有し、商標に該当すると
認定した。
商標と商品名称とは、本質的な区別を有する 2 つの概念である。商品名称とは、その意
味から見れば、一種の特定商品の名称のことであり、商品の異なった原料・用途を区分す
る役割を有する。また、商品名称は、通用名称と特定名称に分けられる。それに対して、
商標は、必ず商品又は役務と関連性を有し、商品名称と同時に使用してこそ、消費者に当
該商品の出所を区分させることができる。商品名称は、商標のように独占性、専有性と顕
著性を有せず、商標も商品名称が商品の類別を区別するような役割を有さない。
月餅製品について言えば、「楽活 LOHAS」は商品の出所を区分するための可視性な標
章に該当する。鼎盛公司は、「楽活 LOHAS」と「I Will 愛維爾」を連続標章とすること
により、際立って「楽活 LOHAS」を使用したが、当該標章は、消費者に「楽活 LOHAS」
と愛維爾を一緒に連続させることを通じて、「楽活 LOHAS」の付いた製品と愛維爾は関
連性があり、鼎盛公司の製品であることをはっきり認知させている。鼎盛公司が「楽活
LOHAS」を使用したことは、商標・標章機能を有しているので、鼎盛公司には、「楽活
LOHAS」の使用に対して権利侵害の悪意を有しないものの、当該使用は、依然として「商
標法」上の権利侵害による使用を構成していると言える。
2.商標権侵害行為に対する行政処罰
中国法律における商標権侵害に係る行政処罰の関連内容は、主に「商標法」第 53 条に
規定する工商行政管理部門の行政処罰権である。具体的に、工商行政管理部門が処理する
際に、権利侵害行為が成り立つと認定した場合は、直ちに権利侵害行為を中止するように
命令し、権利侵害商品の製造、登録商標標章の偽造のために使用した専用道具を没収・廃
棄し、かつ、罰金を科することができる。
また、具体的な罰金の金額について、「商標法実施条例」第 52 条には、「 商標権を侵
害した行為に対する罰金は、不法売上の 3 倍以下とする。不法売上が算出できない場合、
罰金は 10 万元以下とする」と規定している。
このように、罰金額は、1 つは不法経営金額、もう 1 つは民事訴訟における法定賠償に
類似し、最高金額は 10 万元という 2 つの方式で確定している。
行政機関が裁量する際に、主に次に掲げる要素を考慮することができる。
①権利侵害者の主観的な状態について。権利侵害に対して明知している、知っているべ
きである、又は知らないのいずれであるか、主管的な故意又は過失を有するか否か。
②権利侵害行為の具体的な形態について。 他人の登録商標に対する偽造に該当するか、
それとも同一商品における類似商標、類似商品における類似商標、類似商品における同一
54
商標に該当するかなどの情状、及び権利侵害標章を製品に付したか、それとも、取引文書
などの業業活動のみに使用していたか。
③権利侵害行為がもたらした社会的影響、権利者にもたらした損害及び権利侵害行為に
対する是正の態度と状況などである。
本事件において、蘇州工商局は、鼎盛公司が製造販売していた月餅に「楽活 LOHAS」
商標を使用した行為は商標権侵害を構成し、当該品種の月餅の販売高は 1,213,800 元、す
なわち不法経営金額は 121 万余元であると認定した。したがって、蘇州工商局は、罰金 50
万元を科する決定、すなわち、不法経営金額 1 倍以下である決定を下した。
表面的には、蘇州工商局が下した処罰決定は、その裁量権の範囲内にあり、法律に規定
する範囲を超えていない。しかし、鼎盛公司が商標登録権者の許可無しに他人の登録商標
を使用していた行為は、商標権侵害を構成するものの、その情状は軽微であり、主観的な
悪意を有しないだけではなく、悪影響ももたらしていない。したがって、かかる状況下で、
罰金 50 万元を科したことは明らかに高すぎると言える。
よって、二審において、江蘇省高等裁判所は、蘇州工商局の認定した鼎盛公司の行為は
登録商標専用権を侵害し、かつ、直ちに権利侵害行為を中止することを命じた行政処罰は
正確であったが、50 万元の処罰を科した行政処罰は公正さに欠けると認定した。
(10)ネットゲーム自宅サーバーに係る著作権侵害事件
趙学元、趙学保著作権侵害上訴事件(江蘇省高級人民法院[2012]蘇知刑終字第 0003 号
刑事判決書)
【事件概要】
2009 年 2 月、被告の趙学元、趙学保が営利を目的とし、「熱血伝奇」ゲームの中国経
営会社上海盛大ネットワーク発展有限公司の許可なしに、ネットワークサーバーをレンタ
ルして、ネットゲームサーバーを架設し「熱血伝奇」を無断運行して、また、ネットゲー
ムのユーザがサイバーバンクによる振替及びゲームポイントカードへの入金などの形式で
費用を支払できるように、バンクカードを決済プラットフォームにバインディングした。
事件が摘発されるまで、趙学元が自宅サーバーでネットゲームを運営して得られた違法経
営額が 629,113.70 元で、趙学保の違法経営額が 79,663.70 元である。江蘇省連雲港市中級
人民法院及び江蘇省高級人民法院とも、被告の趙学元、趙学保が営利を目的とし、著作者
の許可なしに、そのコンピュータソフトウェア著作物を複製・発行して、情状が重大で、
二人の行為とも著作権侵害罪にあたると認めた。違法経営額の認定については、送金側か
ら提供される証拠によって、漯河一五一七三ネットワーク科技有限公司、北京通融通情報
技術有限公司、スカイ決済プラットフォーム、青島雷網ネットワーク科技有限公司、盤錦
久網通信ネットワーク有限公司などを介して、趙学元及び趙学保の口座に入金された関連
金額は全て当案件に係る自宅サーバーによるネットゲームに従事して得られた収入であっ
て、被告のその他の業務からの収入が含まれないことを裏付けたため、上記金額は全て当
55
案件の違法経営額に計算すべきである。被告の趙学元は手柄を立てた行為があり、法によ
り罰を軽くすることができ、被告の趙学保は罪を認める態度が比較的によく、罪を悔やむ
気持ちを示しており、執行猶予が適用できる。よって、被告の趙学元、趙学保が著作権侵
害罪を犯して、それぞれ有期懲役 3 年&罰金 40 万人民元、有期懲役 1 年 6 ヶ月(執行猶
予 2 年)&罰金 7 万人民元を言い渡された。
【典型的意義】
ネットゲームサーバーをレンタルして、無断で架設して、「自宅サーバー」に従事する
ことは、現在ネットワークを利用して著作権を侵害するための主要な手口の一つである。
当案件は、司法裁判によってこのような犯罪の性質を正確に定義するとともに、入金側の
入金性質を裏付ける一連の証拠と結びつけて、被告の違法経営額を正確に認定することで、
ネットゲーム著作物の権利者の著作権を保護し、ネットゲームの経営行為を規範化させ、
犯罪に強力な打撃を与えている。
【ポイント解説】(判決書未公開)
56
2.最高人民法院「2012 年中国法院知識産権司法保護十大創
新性案件」(2013 年 4 月 22 日)
中国語原文:2013 年 4 月 22 日付け中国法院網 http://www.chinacourt.org/article/detail/2013/04/id/949762.shtml (1)柏万清と成都難尋物品営業サービスセンター、上海添香実業有限公
司との実用新案特許権侵害をめぐる紛争に関する再審申立事件(最高人
民法院[2012]民申字第 1544 号民事裁定書)
【事件概要】
柏万清は特許番号 200420091540.7、「電磁汚染防護服」という名称の実用新案特許(以
下、「本件関連特許」と略称する)の特許権者である。本件関連特許の請求項 1 を、下記
の技術的特徴にまとめることができる。A.トップスとボトムスを含む電磁汚染防護服であ
ること、B.服装の表面生地にはシールドの役目を果たす金属製の網又は膜が設けられるこ
と、C.シールドの役目を果たす金属製の網又は膜は、高導磁率かつ残留磁気のない金属糸
又は金属粉で構成されること。2010 年 5 月 28 日、成都難尋物品営業サービスセンターで
は、上海添香実業有限公司で生産した添香ブランド放射線防護服のトップス(以下、「権
利侵害で訴えられた製品」という)を販売した。柏万清は、権利侵害で訴えられた製品が
その実用新案特許権を侵害したとして、2010 年 7 月 19 日付けで成都市中級人民法院に本
件訴訟を提起した。第一審法院は柏万清からの訴訟請求を棄却し、四川省高級人民法院は
第二審において第一審判決維持の判決を言い渡した。柏万清がそれを不服とし、最高人民
法院に再審を申し立てた。最高人民法院は、審査した上で下記の通り判断した。特許権の
保護範囲が正確に特定されていることは、権利侵害で訴えられた技術方案が権利侵害にあ
たるかどうかを認定する前提条件である。請求項の記載に関して明らかに瑕疵があり、本
件関連特許の明細書、この分野の公知常識及び関連の先行技術等と結び付けても、請求項
における技術用語の具体的な意味が確定できず、特許権の保護を受けようとする範囲が正
確に定められない場合には、権利侵害で訴えられた技術方案と意義のある権利侵害比較を
行うことができない。したがって、明らかに保護範囲が明瞭でない特許権については、権
利侵害で訴えられた技術方案の権利侵害成立を認定すべきではない。本件関連特許の請求
項 1 における技術的特徴の「高導磁率」に関して、本件関連特許の明細書及び柏万清から
提供された関連証拠に基づいても、当業者は、請求項 1 における技術的特徴の「高導磁率」
の具体的な範囲或いはその具体的な意味が確定できず、請求項 1 の保護範囲が正確に定め
られず、権利侵害で訴えられた製品と意義のある権利侵害比較を行うことができない。よ
って、柏万清からの再審申立を棄却した。
57
【 革 新 的 意 義 】
本件において最高人民法院は、請求項の記載に明らかに瑕疵があり、特許権の保護を受
けようとする範囲が正確に定められていない場合には、権利侵害で訴えられた技術方案の
権利侵害成立を認定すべきではないと明確に指摘した。本件で、最高人民法院の紛争解決
に対する民事手続の優先かつ決定的な位置付けを適切に強化し、民事・行政の織り交ぜる
知的財産権をめぐる民事紛争の実質的な解決を促進する政策の方向性が体現され、これに
類似する事件の対処にある程度の指針の意義を持っている。
【 ポ イ ン ト 解 説 】
本件の一番重要なポイントは、最高裁が専利権侵害事件の審理において、専利権の権利
範囲の確定を前提としなければならず、権利範囲が不明であれば、権利侵害と認定できな
いとのことを明確に提示した。
1.民事紛争の実質的な解決
専利権は無形財産権として、その権利の範囲について、法律上の許可・認定を行ってこ
そ、その権利範囲内の保護を受けることができる。また、第三者にとっても、権利者の権
利範囲を確定できてこそ、侵害を回避することができる。
したがって、人民法院は、他人が専利権者の専利権を侵害したかを確認するためには、
まず、権利の範囲を確定しなければならない。この点について、司法実務において、特に
異存がないが、権利範囲を確定した際に、請求項の記載に明らかに瑕疵があり、特許権の
保護を受けようとする範囲が正確に確定できなければ、どのように処理すべきか、問題点
になる。
本件において、権利者の実用新案権の請求項 1 における「透磁率が高い」との技術特
徴について、その意味が明確でなかったが、権利者の提出したいろいろ証拠を通じても、
その定義を明確にすることができなかった。人民法院は、権利者の実用新案権の請求項が
不明なので、その「権利範囲」を明確にすることができず、権利範囲が明確でない前提で、
被疑侵害製品が請求項の範囲に含まれるかについて対比することは意味がないと判定した。
人民法院のこのような判定は、権利者と公衆間の利益のバラスを実現したばかりでなく、
専利権の権利化などに関する行政手続と侵害確定の民事手続の整合性も表したと思われる。
中国において、専利権利化・権利確定の行政手続と専利侵害民事訴訟の手続は、二元分
立しており、民事事件を審理する人民法院は、専利権の効力問題について審理しないのが、
原則である。よって、被告が専利侵害事件において、原告の専利権の効力に問題があると
提出しても、人民法院は、このような抗弁を何れも認めず、原告の専利権が有効であると
推定している。また、被告が原告の専利権に対し無効審判を提出してこそ、人民法院は、
具体的な状況に基づき、侵害事件の審理を中止する場合がある。このようなやり方は、実
は、機械的に紛争を解決するもので、専利について不当な保護を与える恐れがあり、しか
も、専利が最終的に無効された場合、当事者間に、損害賠償金の返還要否などの新しい紛
争が生じ得る。
58
中国の専利出願数と権利化数が急増している状況につれて、一部の権利化された専利の
品質があまり高くない状況が生じ、更に実用新案と意匠の権利化が実体審査を経ていない
ため、裁判実務において、権利行使を行っている原告の専利権には、効力の問題が生じた
場合も少なくない。
このような状況で、最高人民法院は目下の状況変化に基づき、実質的に紛争を解決する
考え方を提出した。つまり、民事紛争事件において、人民法院は、専利権に明らかな無効
理由が存在しているとの当事者の抗弁を認めており、民事手続が紛争解決における優先的
で決定的な位置づけを合理的に強化し、民事・行政の織り交ぜる専利民事紛争の実質的な
解決を促進していた。審査を経て、当該特許権に明らかな無効理由がある場合、たとえば、
当該特許権の授権に不備があって、その権利範囲を明確にできず、かつ、解釈を通じても
明らかにすることができない場合、個別事件において、このような問題特許について保護
しない方式で解決するものの、当該特許権の効力は根本的に否定せず、当該特許権に対す
る無効は依然として、無効審判手続きを通じて解決することになる。
このような対策は、公平と効率とも実現し、実質的に特許紛争を解決することに、大き
な促進作用がある。しかし、特許侵害民事手続と授権行政手続きにはそれぞれの機能と役
割があるため、目下、上記のような最高人民法院の考え方は新しい探索と試みに過ぎない。
したがって、本事件の革新意味で、「最高人民法院の紛争解決に対する民事手続の優先
かつ決定的な位置付けを適切に強化し、民事・行政の織り交ぜる知的財産権をめぐる民事
紛争の実質的な解決を促進する政策の方向性が体現され、これに類似する事件の対処にあ
る程度の指針の意義を持っている。」とのことを記載されていたが、今後の侵害訴訟にお
いて、裁判所が特許無効の抗弁を認めるとは言えない。被疑侵害者としては、無効理由が
ある特許権について、安全のため、無効審判を通じて解決したほうがよい。できれば、答
弁期間以内に無効審判を提出し、それを理由に裁判所へ訴訟中止を申請したほうが安全策
だと考えられる。
2.権利範囲の確定方法
上記のように、権利者の権利範囲の確定は、侵害有無を認定する際の前提なので、専利
権侵害事件において、極めて重要である。
特許権と実用新案権の権利範囲の確定について、専利法第59条には、「発明又は実用新
案権の権利範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の内容の解釈
に用いることができる。」と規定し、「最高人民法院による専利権侵害をめぐる紛争案件
の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(法釈[2009]21号)」第2には、「第2
条 人民法院は、請求項の記載に基づき、明細書および図面を読み終えた当該分野の一般
的な技術者が持っている請求項に対する理解と結び付けた上で、専利法59条1項に定めた請
求項の内容を確定するものとする。」と、第3条には、「人民法院は明細書や図面、特許請
求の範囲における該当の請求項及び専利審査書類を用いて請求項を解釈することができる。
明細書において請求項の用語について特別に定義されている場合には、その特別定義に従
う。請求項の意味は、上述した方法を用いても明確にならない場合、参考書や教科書など
59
の公知文献、および当該分野の一般的な技術者が持っている一般的な理解と結び付けて解
釈することができる。」と規定している。
上記規定からみれば、権利範囲を確定する際、請求項の内容を基準として、請求項の内
容の解釈において、①明細書及び図面、特許請求の範囲における該当の請求項及び専利審
査書類>②参考書や教科書などの公知文献、および当該分野の一般的な技術者が持ってい
る一般的な理解の優先順位で、関係証拠が採用される。
本件において、①権利者の実用新案権の明細書における記載から、「透磁率が高い」と
の定義、及び「透磁率が高い」範囲を確定することができず、②権利者の提出した証拠か
ら、「透磁率」の意味を確定することができず、「透磁率が高い」との表現があるものの、
その範囲が広すぎる問題もあるなどの問題があり、当業者が「透磁率が高い」との定義に
ついて統一な認識ができないため、人民法院はその権利範囲を確定できないと判定した。
したがって、権利者が特許や実用新案を出願する際、請求項、明細書などにおける用語
や表現に注意しなければならず、参考書や教科書などの公知文献、当該技術分野の一般理
解で解釈できない用語については、請求項、明細書などにおいて、その用語を確定できる
内容を記載しなければならないと思われる。また、異なる請求項における同一用語、異な
る請求項における類似する用語などの解釈が、如何なる状況でも矛盾しないことに留意し
たほうがよい。
(2)無錫市隆盛ケーブル材料廠、上海錫盛ケーブル材料有限公司と西
安秦邦電信材料有限責任公司、古河電工(西安)光通信有限公司との発明
特許権侵害をめぐる紛争に関する再審申立事件(最高人民法院[2012]民提
字第3号民事判決書)
【 事 件 概 要 】
西安秦邦電信材料有限責任公司(「秦邦公司」と略称する)は「平滑型金属シールド複
合ベルトの制作方法」という名称の発明特許の特許権者である。「ビニール膜の表面に厚
み 0.04~0.09mm の凹凸状態の粗い面を形成する」というのが本件特許の請求項 1 の技術
的特徴の一つとなっている。明細書には特にこの技術的特徴が特定されていないが、実施
例の中に記載の使用されるビニール膜の厚みが、それぞれ 0.04mm、0.09mm、0.07mm
となっている。無錫市隆盛ケーブル材料廠(「無錫隆盛」と略称する)が生産した権利侵
害で訴えられた製品の表面粗さが Ral.8µm-5µm(実際に測定した数値は Ra2.47µm - 3.53
µm)で、即ちビニール膜の表面の凹凸状態の粗い面の厚みが 0.00247mm-0.00353mm で、
使用されるビニール膜の厚みが 0.055mm-0.070mm となっている。秦邦公司が西安市中級
人民法院に訴訟を提起した。第一審法院は、鑑定機関に鑑定を委託した。鑑定意見によれ
ば、無錫隆盛の生産方法には、請求項 1 における手順と同一なのが 3 つあり、さらに請求
項 1 の対応の手順と等しいものが 3 つある。鑑定意見ではまた以下のように述べた。請求
項 1 に記載の「ビニール膜の表面に厚み 0.04~0.09mm の凹凸状態の粗い面を形成する」
60
ということは、ビニール膜自体の厚みとして解釈すべきである。なぜなら、特許の明細書
の実施例に記載された 0.04mm、0.09mm、0.07mm の何れもビニール膜の厚みであり、
権利侵害で訴えられた者が使用しているビニール膜の表面粗さ Ral.8µm~5µm とは比較
可能性がないからである。無錫隆盛で使用しているビニール膜の厚みは 0.055mm~
0.070mm で、二者が等しいことになる。第一審法院は、無錫隆盛、上海錫盛ケーブル材
料有限公司(「錫盛公司」と略称する)が特許権侵害にあたると認定し、3,000 万元の経
済的損害賠償金を秦邦公司に支払うよう命じた。陝西省高級人民法院は第二審において、
第一審判決維持の判決を言い渡した。無錫隆盛と錫盛公司が、最高人民法院に再審を申し
立てた。最高人民法院は、第二審法院に本件の再審を命じた。第二審法院は、再審した上
で原審判決の維持とした。最高人民法院は、自ら本件の審理を行った後、2012 年 8 月 24
日付けで、元第一審・第二審・再審判決の取消、秦邦公司からの訴訟請求の棄却という旨
の判決を言い渡した。
【 革 新 的 意 義 】
本件判決では、記載ミスのある特許権をめぐる侵害訴訟の扱い方について探求が行われ、
これを明確にした。「ビニール膜の表面に厚み 0.04~0.09mm の凹凸状態の粗い面を形成
する」という技術的特徴に関して、特許権者でも鑑定意見でも、この技術的特徴をビニー
ル膜の厚みが 0.04~0.09mm であると理解すべきであるとして、明細書によってこの技術
的特徴に含まれる明確な意味を変更、否定しようとした。これに対しては、特許権の効力
を評価しない前提で、本件判決は、明細書の記載によって、含まれる意味が明瞭でかつ明
細書には特に特定されていない請求項の用語の変更や否定を禁ずることにより、権利侵害
で訴えられた技術方案が、特許の保護範囲に含まれていないと認定した。また、本件判決
ではさらに、請求項の用語に明らかな誤りがあり、当業者が明細書及び添付図面上の対応
の記載に基づき、明確、直接かつ一義的に請求項の当該特定用語に含まれる意味を改正す
ることができる場合には、改正後のその含まれる意味に基づいて解釈することができ、権
利侵害で訴えられた技術方案が保護範囲に含まれていないと簡単に認定してはならないと
指摘している。この処理方式は、特許権者と社会公衆との利益のバランスがよく取れるよ
うにしながら、紛争の実質的な解決を促進した。
【 ポ イ ン ト 解 説 】
本件は、発明特許侵害紛争事件として、方法特許に関する挙証責任の分配、請求項の解
釈規則、技術鑑定の手続と技術鑑定の方法、内容及び行為原則等いろいろ法律問題と実務
上の難点に関わる。これらの問題は、特許侵害紛争事件において、間違く理解・適用され
る場合があるが、これは正に当該事件が西安市中級人民法院による一審、陜西省高級人民
法院による二審と再審を経ても、正確に審理、判定ができなかった原因である。
最高人民法院は自ら本件を審理して、原審判決における上記問題における誤りを是正し、
鑑定機関と原審判決の意見を否定し、更に、請求項用語と明細書の記載が一致しない場合、
どのように解釈すべきかの問題を明確にした。当該点は、本件の重要なポイントでもある。
1.明細書における記載をもって、請求項の用語を修正できるか否かについて
61
特許権の効力を評価しない前提で、最高人民法院の判决には、二つの状況に分かれて判
断した。一つは、請求項の用語が明細書の記載と一致しないが、当業者は請求項における
関連表現の意味から正確に確定でき、かつ、明細書は請求項における用語の意味について
特に説明していなかった場合である。この場合、当業者が請求項内容に対する理解を基準
とすべきで、明細書における記載をもって、請求項の記載を否定してはならない。このよ
うな判断方法は、根本的に、請求項が特許権利範囲の確定における公示と限定機能を保証
するためである。また、もう一つの状況は、請求項の用語が明細書の記載と一致しないが、
当業者が明細書及び図面と合わせて、請求項の用語に「明らかな誤りが存在していること」
を判断でき、かつ、唯一の正確な用語で当該誤りを修正することができる場合である。こ
の場合、修正後の意味について解釈すべきで、その誤りを継続してはならない。この場合、
請求項に誤りが存在しても、その権利範囲は明確である。もちろん、「明らかな誤りが存
在していること」に対する判断基準をどのように把握するかは、極めて重要であるが、通
常、当業者が比較的に容易に関連誤りを判断できること、及び比較的に容易に誤りを解決
できること、両方から判断すべきである。このような解決方法は、特許権者と社会公衆の
利益のバランスを取り、紛争の実質的解決を促進した。
本件において、特許権者は、請求項 1 における「ビニール膜の表面に厚み 0.04~0.09mm
の凹凸状態の粗い面を形成する」という構成要件について、「ビニール膜の厚みが 0.04~
0.09mm である」と理解すべきであると主張し、鑑定機関の鑑定意見も特許権者の意見を
認めた。これに対し、最高人民法院は、「上記記載と当業界用語との関係、上記記載と本
特許明細書における実施例で記載したビニール膜の厚さとの関係、特許権者が無効審判に
おける陳述、請求項解釈の限界」などに基づき、請求項 1 における上記記載の意味は、「ビ
ニール膜の表面に、0.04~0.09mm の凹凸状態の構造が形成された」ということで、「ビ
ニール膜自体の厚みとして解釈してはならない。」と認定した。鑑定機関が当該構成要件
に対する解釈は間違った前提で、被疑侵害方法の技術的特徴と同一又は均等であると判断
したが、当該結論は間違っている。一審、二審及び原再審判決がこれを認めて出した結論
にも誤りがある。 2.
「新製品」に関する方法特許侵害事件における「立証責任倒置」の適用について
本件において、最高人民法院は、
「新製品」に関する方法特許侵害事件における「立証責
任倒置」の適用条件について更に明確にした。つまり、権利者側が①方法特許により製造
された製品が新製品に該当すること、②被疑侵害方法により製造された製品と方法特許に
より製造された製品が同一製品であること、両方とも立証しなければならない。本件にお
いて、最高人民法院は、上記①を認めたが、②に対する鑑定機関の鑑定意見に間違いがあ
ると認定した。その理由は、鑑定機関は、権利者側が実際に製造した製品と被疑侵害方法
により製造された製品について対比したが、権利者側が実際に製造した製品が本方法特許
により製造された製品でないため、対比対象に間違いがあると認定した。
3.
鑑定の手続上問題について
62
本件において、鑑定意見における技術確定の内容に間違いがあったが、鑑定手続きにも
違反事項があった。
本件の被疑侵害者は、一審の段階から本件鑑定に参加した鑑定人の忌避を主張しており、
鑑定人が本件権利者の法定代表者と直接な密接な関係があったことを証明できる証拠を提
出した。たとえば、権利者の法定代表者が鑑定人 A と共同に論文を発表したことがあり、
鑑定人 B の所属会社と権利者が一緒に、業界標準の制定に参加したこと、権利者の法定代
表者が鑑定人 B の所属会社の総経理である、等の証拠を提出した。これに対し、本件の一
審、二審、再審人民法院は、被疑侵害者が本件鑑定業務に鑑定人 A と B が参加することを
知った際には、忌避を提出しておらず、上記の証拠は、鑑定人と権利者が利害関係がある
と認定しにくいため、被疑侵害者の忌避を認めなかった。
中国民事訴訟法 44 条によれば、当事者と利害関係がある裁判官、書記官、鑑定人、翻
訳人等は忌避しなければならず、45 条には、忌避の申立は、事件審理が開始する前に提出
すべきで、事件審理が開始した後に、忌避事由を知った場合、法定弁論が終わる前に提出
することもできる。
本件において、被告は、鑑定人の構成を知ったとき、忌避を申請しなかったが、鑑定人
の忌避事由が後で知得した可能性がある。よって、被疑侵害者が本件法定弁論が終わる前
に、忌避を申立てたのは、民事訴訟法に違反せず、一審、二審人民法院が「被疑侵害者が
本件鑑定業務に鑑定人 A と B が参加することを知った際には、忌避を提出していない」と
の理由で、忌避申立を認めなかったことは法的根拠がない。 また、被疑侵害者の提出した上記の証拠について、最高人民法院は、上記証拠を通じて、
鑑定人 A と B と権利者間に、相対的に密接な関係があると認定できるため、本件鑑定意見
の客観性と公正性に影響を与える可能性があり、両鑑定人は忌避しなければならないと認
定した。
結局、本件鑑定意見には、実体上の問題と手続上の違反事項ともあったので、最高人民
法院は、鑑定意見を認めなかった。
(3)騰訊科技(深セン)有限公司と上海虹連ネットワーク科技有限公
司、上海我要ネットワーク発展有限公司とのコンピュータソフトウェア
著作権侵害及び不正競争をめぐる紛争に関する上訴事件(湖北省武漢市
中級人民法院[2011]武知終字第 6 号民事判決書)
【 事 件 概 要 】
QQ インスタントメッセージソフトウェアを開発した騰訊科技(深セン)有限公司(「騰
訊科技公司」と略称する)は、QQ ソフトウェア及びアップデート用の各バージョンにつ
いて、深セン市騰訊コンピュータシステム有限公司(「騰訊コンピュータ公司」と略称す
る)に騰訊網(www.qq.com)で運用する権限のライセンスを行った。2008 年の初頭、上
海虹連ネットワーク科技有限公司(「虹連公司」と略称する)は、騰訊 QQ ソフトウェア
63
に関して彩虹顕という IP ソフトウェアを開発し、自社運用のウェブサイトに、このソフ
トウェアのオフィシャルバージョンの無料ダウンロードを提供していた。上海我要ネット
ワーク発展有限公司(「我要ネットワーク」と略称する)は、彩虹顕ソフトウェアの後期
開発と運用に参加しており、かつ、このソフトウェアのオフィシャルウェブサイトに、サ
ーバー等の物的支援を提供している。彩虹顕 IP ソフトウェアが持つ主な機能として、騰
訊 QQ ソフトウェアのユーザのログイン時の身を隠す機能の改変(「身を隠す状態表示」
と略称する)及びオンライン友人の IP アドレスと地理位置の表示(「IP 表示」と略称す
る)が挙げられる。独自で実行することができない彩虹顕ソフトウェアは、騰訊 QQ ソフ
トウェアに「依存」して実行しなければならない。主に、QQ ソフトウェアにおける 19
箇所のターゲットプログラムの命令の変更により、「IP 表示」・「身を隠す状態表示」機
能が実現される。許子華は、個人開設のウェブサイト(www.itmop.com)に彩虹顕 IP ソ
フトウェアのダウンロードサービスを提供していた。騰訊科技公司、騰訊コンピュータ公
司は第一審に武漢市江岸区人民法院に提訴した。同院は第一審に、次のように判断した。
虹連公司及び我要ネットワークは、騰訊科技公司の著作権の変更権を侵害しており、経済
的損害賠償金及び合理的費用として 30 万元を支払わなければならず、また、2 騰訊公司に
対する不正競争にもあたり、経済的損害賠償金及び合理的費用として 20 万元を支払わな
ければならない。許子華は、騰訊科技公司の著作権への共同侵害にあたる。いずれも即時
に権利侵害行為を差し止め、公に謝罪しなければならない。虹連公司、我要ネットワーク
は上訴を提起したが、湖北省武漢市中級人民法院は第二審に、次のように判断した。コン
ピュータソフトウェアの機能はコンピュータプログラムを実行することによって実現され、
機能の変更がコンピュータプログラム変更の外部表現形式となる。彩虹顕 IP ソフトウェ
アは、QQ ソフトウェアのターゲットプログラムの中の必須な関係コードや、命令とその
順番を変更し、QQ ソフトウェアの一部機能の欠失又は変更をもたらした。この行為は、
騰訊科技公司の自社ソフトウェア製作物の変更権を侵害している。虹連公司、我要ネット
ワークは、彩虹顕 IP ソフトウェアを開発し、これを騰訊 QQ ソフトウェアに寄生させる
ことにより、2 騰訊公司の長期間の経営によって保有したユーザ資源を共有している。騰
訊 QQ ソフトウェアの本来の機能を変更した彩虹顕 IP ソフトウェアによって、その一部
の顧客は騰訊 QQ ソフトウェアを利用しなくなる可能性がある。双方当事者間にある同業
競合の関係に鑑み、虹連公司、我要ネットワークの行為は、信義誠実の原則に違反すると
ともに、不正競争にもあたる。よって、湖北省武漢市中級人民法院は第二審に、上訴を棄
却し、原判決を維持するとの判決を言い渡した。
【 革 新 的 意 義 】
情報技術の進展に伴い、本件における QQ ソフトウェアのような、主にネットワークに
より伝達されるソフトウェアについてソフトウェア変更権侵害の司法上の認定を行うにあ
たって、従来のコンピュータプログラム又は関連ファイルの比較のみに限定されず、ソフ
トウェアとインターネット等ネットワーク環境とのインタラクティブな関係、及び情報技
術の発展に起因してコンピュータソフトウェア権利侵害紛争に現れた新たな傾向にも配慮
64
すべきである。法の適用に関して、本件では、『コンピュータソフトウェア保護条例』第
8 条の「変更権」に関する定義を、単にソースプログラム又はターゲットプログラムへの
静的変更と理解せず、具体的な変更行為や手段と変更後の技術的効果、機能等の要素を総
合的に考慮したうえ、本件の行為をソフトウェア著作権者の変更権の調整範囲に取り入れ
た。
【ポイント解説】(判決書未公開)
(4)中国体育報業総社と北京図書ビル有限責任公司、広東音像出版社
有限公司、広東豪盛文化伝播有限公司、北京図書ビル有限責任公司との
著作権の権利帰属・侵害をめぐる紛争事件(北京市西城区人民法院[2012]
西民初字第 14070 号民事判決書)
【 事 件 概 要 】
国家体育総局群衆体育司は、中華人民共和国第 9 代ラジオ体操の具体的な創作編集作業
を担当している。2011 年 6 月 27 日、群衆体育司が国家体育総局を代表して、中国体育報
業総社(「体育報業総社」と略称する)と契約を締結し、第 9 代ラジオ体操シリーズ製品
の複製・出版・発行・ネットワーク情報伝達権を体育報業総社に独占的に付与した。国家
体育総局の審査決定と許可を受け、
『第 9 代ラジオ体操図解 マニュアル DVD CD』が 2011
年 8 月に人民体育出版社から出版された。広東音像出版社有限公司(「広東音像公司」と
略称する)から出版された『第 9 代ラジオ体操』DVD 製品は、広東豪盛文化伝播有限公
司(「豪盛公司」と略称する)が総代理となっている。そのデモンストレーションや解説
の動作が、第 9 代ラジオ体操の動作とほぼ同一であり、第 9 代ラジオ体操の伴奏音樂も使
用された。北京図書ビル有限責任公司(「図書ビル」と略称する)が上記 DVD を販売し
た。体育報業総社は、自社が第 9 代ラジオ体操の動作の考案・振り付け、伴奏音樂、号令
及び関連の録音・録画製品について有する独占的複製・発行権が、上記行為によって侵害
されたとして、北京市西城区人民法院に提訴した。同院は第一審において、次のように判
断した。第 9 代ラジオ体操の動作は文学・芸術・科学分野の知的成果でなく、本質的には
一種のフィットネスの方法、ステップ又は手順であり、著作物となる法定要件を備えてい
ないため、著作権法上の著作物に該当せず、著作権法による保護を受けない。よって、第
9 代ラジオ体操の単なる手本、解説又は動作のデモンストレーション及び関連の録画製品
の録画・発行行為が、著作権侵害にあたらない。但し、第 9 代ラジオ体操の伴奏音樂は、
国家体育総局が著作権を有する職務著作物に該当するもので、体育報業総社が関連の音樂
著作物及び録音製品の独占使用権を取得している。この伴奏音楽を利用して録画製品を制
作した広東音像公司、豪盛公司は、著作権侵害にあたる。よって、第一審で、広東音像公
司、豪盛公司が権利侵害を差止め、経済的損害賠償金及び合理的費用として計 10 万元を
体育報業総社に支払うよう、図書ビルが権利侵害製品の販売を差止めるよう命ずる判決を
下した。同事件の判決は第一審で発効した。
65
【 革 新 的 意 義 】
本件は、わが国の法院の体育動作に著作権を有するかどうかという問題の初認定であり、
理論と実務の面において高い意義を持っている。判決では、ラジオ体操が本質的に一種の
フィットネスの方法、ステップ又は手順であり、方法、ステップ又は手順がいずれも著作
権法の保護対象外である思想、観念の範疇に含まれると判断した。したがって、法院は、
第 9 代ラジオ体操の動作が著作権法上の著作物に該当しないと認定した。本件の審理で、
体操、ヨガなど機能的な身体動作が著作権法による保護を受けるべきかどうかという問題
について、有益な探求を試みた。
【ポイント解説】(判決書未公開)
(5)中国科学院海洋研究所、鄭守儀と劉俊謙、萊州市万利達石業有限
公司、煙台環境芸術管理弁公室との著作権侵害をめぐる紛争に関する上
訴事件(山東省高級人民法院[2012]魯民三終字第 33 号民事判決書)
【 事 件 概 要 】
鄭守儀は中国科学院のアカデミー会員であり、中国海域における有孔虫類及び生態学の
研究に従事し、230 点以上の有孔虫模型を制作した。鄭守儀、中国科学院海洋研究所は、
劉俊謙が考案し、萊州市万利達石業有限公司が制作し、煙台環境芸術管理弁公室が使用し
ている有孔虫彫塑 10 点が、その模型著作物について享有する著作権を侵害したとして、
法院に権利侵害の差止め、損害賠償、謝罪を命ずる判決を請求した。青島市中級人民法院
は第一審において、次のように判断した。鄭守儀が研究制作した有孔虫模型は独創性があ
り、著作権法による保護を受ける著作物にあたる。劉俊謙が考案した有孔虫彫塑 9 点は、
鄭守儀の模型著作物と比較して、実質的に近似するものとなっている。劉俊謙が以前、鄭
守儀の模型に接触したこと、独自の創作であることを裏付ける証拠がないことを踏まえて、
第一審法院は、劉俊謙が鄭守儀らの有孔虫模型に対する著作権を侵害したと認定した。第
一審法院は、彫塑の公益特性を考慮し、責任負担を「彫塑撤去」と侵害差止めから、影響
の排除と合理的使用料の支払へと変更した。第一審判決が下された後、劉俊謙が不服とし
て上訴を提起した。山東省高級人民法院は第二審において、次のように判断した。鄭守儀
が制作した有孔虫模型は、有孔虫という生命体への捉え方を体現して、客観的事象に対す
る芸術的抽象と美学的修飾を施した創作の成果で独創性を有するものであり、著作権法上
の著作物にあたる。劉俊謙は、芸術的表現の必要性から、鄭守儀の模型について局部的な
変形又は空間構造の伸びを施して、彫塑著作物を創作した。このような芸術的加工で、新
たな創作の部分が加わり、より高度なデザイン感の空間の彫塑に仕上げたが、模型著作物
の「基本的な表現」から逸脱したものでなく、二次的著作物にあたる。劉俊謙は、二次的
著作物を利用する際に、元作者である鄭守儀から許可を取得していないため、鄭守儀らの
著作権を侵害した。よって、上訴の棄却、元判決の維持との判決を言い渡した。
【 革 新 的 意 義 】
66
本件は、生物模型著作物を使用した都市彫塑の制作行為について権利侵害認定が行われ
た全国初の事件である。この事件の処理にあたって、次の点に関して有益な探求が行われ
た。1、著作物の独創性表現の正確な認定。科学者が自然の生物を元に研究制作した模型
は、個性的な選別及び表現の手法を体現したもので、独創性ある労働の成果にあたり、著
作権法による保護を受けるべきである。2、複製と二次的創作行為の正確な特定。原作に
基づいた派生著作物を創り出すことは、複製行為にあたらない。このような派生著作物が、
原作の創作思想の基本的な表現方法を変えていないため、二次的著作物となる。3、「権
利侵害の差止め」の融通を利かした処理。社会財産の浪費を避けるため、権利者の利益及
び一般公衆の利益に十分配慮した上で、「権利侵害差止め」の責任負担について、権利侵
害品彫塑の撤去を命ずる代わりに、合理的使用料の支払という代替的な経済的補償策にし
た。社会公共の利益を害することなく、創作者の合法的権益を保護し、法的効果と社会的
効果の効果的な統一が実現されている。
【 ポ イ ン ト 解 説 】
「著作権法実施条例」第 4 条第(13)号では、
「模型著作物とは、展示、実験又は観測など
の用途のために、物体の形状と構造に基づき、一定の比率によって作製された立体著作物
のことをいう。」と規定している。生物模型が「目的」要件――「展示、実験又は観測など
のための用途」、及び「製作方法」要件――「物体の形状と構造に基づいて一定の比率によ
って作製する」を満たせば、形式上、模型著作物の範疇に該当する。ただ、生物模型が最
終的に「著作権法」の保護を受けるべきか否かのポイントは、それが独創性を有するか否
かということになる。司法実務において、ある程度統一された観点は、
「著作権法で保護す
べき著作物は、独自に創作し、他人のものを剽窃したものではなく、かつ、適度の創作レ
ベルを有する表現方式である。」というものである。
本事件において、鄭守儀が有孔虫模型を製作した目的は、有孔虫の自然形状及びその芸
術的な美感を展示し、科学知識を普及させるためであり、かつ、当該模型は、実物を一定
の比率によって拡大製作した長さ、幅、高さなどの要素を有する立体模型であり、模型著
作物の目的要件と製作方法要件を満たしている。しかも、鄭守儀は、有孔虫に対する数年
間の観察、分析と研究成果に基づき、独自に有孔虫の拡大模型を製作した。これは一種の
知的活動としての創作に該当する。有孔虫模型は、有孔虫の生命体の特徴を反映し、鄭守
儀の個性的な選択と表現を体現したもので、
「著作権法」で保護すべき対象である。したが
って、鄭守儀の製作した有孔虫模型は、
「著作権法」の保護対象として、著作物の独創性及
び創作レベルに対する「著作権法」の保護要件を満たし、
「著作権法」に規定する著作物を
構成する。
鄭守儀の有孔虫模型に対する保護は、公共利益の保護に不利であるという劉俊謙が提出
した抗弁理由について、客観的事実、客観的な存在は、いずれかの者が独自に創作した結
果ではなく、公有分野に属し、
「著作権法」の保護を受けず、いかなる者でも有孔虫を題材
にして創作を行うことができる。また、「著作権法」で保護するものは思想の表現であり、
当該思想の表現の出所は、客観的に存在する物体であり、特に模型著作物にとっては、そ
67
の創作題材の大部分の出所は客観的に存在する物体である。著作物自体が著作者の個性的
な選択と判断を体現し、一定の独創性のレベルを有した場合は、
「著作権法」の保護を受け
るべきである。本事件において、有孔虫は、客観的に存在する物体として公有分野に属す
るので、「著作権法」の保護を受けない。しかし、鄭守儀の有孔虫模型が体現したものは、
鄭守儀の個性的な選択と判断であり、有孔虫という思想に対する「表現」であり、私有分
野に属し、
「著作権法」の保護を受けるべきである。したがって、劉俊謙の抗弁理由は成り
立たない。
二次的著作物とは、すでに存在する著作物を利用して創作した著作物のことを指す。二
次的著作物を構成する場合、1 つには存在する著作物を利用して表現すること、すなわち、
原作の創作思想の基本的な表現形式を変更していないこと、もう 1 つは後の創作者の創作
要素を加味することの 2 つの要件を満たす必要がある。
本事件の被疑侵害彫塑は、模型著作物の全体的な構造、基本的な形状を変更せず、実質
的に類似するものの、彫塑に新たな創作要素を加味し、形状の大きさ、材質の選択、製作
方式などにおいて、劉俊謙による個性的な選択と判断を体現している。劉俊謙は、有孔虫
の模型著作物を基にして芸術的な加工を施し、新たな創作要素を加味したものの、かかる
加工は、すでに存在している模型著作物の表現を利用したので、原作品から派生して完成
したもので、上記二次的著作物としての 2 つの要件を満たし、模型著作物に対する二次的
著作物を構成している。
第二審法院で述べたとおり、複製権とは、印刷、複写、拓本、録音、録画、ダビングな
どの方式により、原作品を 1 部又は複数部製作する権利であり、原作の再現過程において、
いかなる「創作」内容も追加せず、原作の「再現品」のみに限られている。被疑侵害彫塑
には新たな創作要素が加味されているが、複製品に該当しない。従って、第一審法院の劉
俊謙が海洋研究所が享有する有孔虫模型の複製権を侵害したとの認定は、二次的著作物、
複製権侵害に対する理解が十分でなかったためであり、結果として、法律の適用に誤りが
生じた。「著作権法」第 10 条第(14)号における翻案権の規定に基づき、原著作権者は、
他人に対してその著作物を翻案することを許諾する権利を有する。劉俊謙が海洋研究所の
許諾を得ることなしに、有孔虫模型を参考にして製作した被疑侵害彫塑は、海洋研究所が
享有する著作財産権を侵害している。
二次的著作物を使用するに当たっては、二次的著作物の著作権者の同意を得るだけでは
なく、原著作物の著作権者の同意も得る必要があることを注意してほしい。
(6)徐斌と南京名爵実業有限公司、南京汽車集団有限公司、北京公交
海依捷汽車サービス有限責任公司らとの商標専用権侵害をめぐる紛争に
関する上訴事件(江蘇省高級人民法院[2012]蘇知民終字第 183 号民事判
決書)
68
【 事 件 概 要 】
2007 年 10 月 28 日、徐斌が第 3607584 号登録商標「名爵 MINGJUE と図」を譲り受
けて取得した。同商標は 2005 年 1 月 21 日付けで登録査定を受け、使用を認定された商品
として(第 12 類)電動アシスト自転車、小型動力駆動車、オートバイ等がある。南京名
爵実業有限公司(「名爵公司」と略称する。後に登録抹消された)、南京汽車集団有限公
司(「南汽公司」と略称する)、北京公交海依捷汽車サービス有限責任公司(「海依捷公
司」と略称する)が生産販売した一般乗用車(セダン)の車体先端部には MG と図の商標、
車体尾部には「南京名爵」との文字が表示されている。関連広告には「MG 名爵自動車」
の文字及び MG と図と名爵の文字との横並びなどの使用形態が存在した。徐斌は 2008 年
1 月に南京市中級人民法院に訴訟を提起し、被告が権利侵害行為を差止め、影響を解消し、
20 万元の損害賠償金と 2 万元の合理的支出を支払うよう命ずる判決を請求した。南汽公司
は、商標権者が連続して三年間使用しなかったとして、本件関連商標の「小型自動車」商
品における登録の取り消しを申立てた。2008 年 6 月 11 日付けで商標局から、本件関連商
標の「小型自動車」商品における登録の取り消し決定が下された。商標評審委員会はこれ
を維持する旨の再審決定を行い、以降の行政訴訟も全て商標評審委員会による再審決定を
維持した。第一・二審法院はいずれも、本件関連登録商標が使用を認定された商品の小型
自動車において実際に使用されていないこと、連続して三年間使用されなかったため、こ
の種の商品における商標専用権が取り消されたことから、客観的に有効期間における市場
識別の役割を果たしておらず、消費者が権利侵害と訴えられた標章の「名爵」文字を本件
関連「名爵 MING JUE と図」と誤認するに至らないとして、徐斌からの訴訟請求を棄却
する旨の判決を言い渡した。
【 革 新 的 意 義 】
わが国の商標法では、登録商標が正当な理由なしに連続して三年間使用されなかった場
合、これを取り消すと定めている。この種の商標について、同登録商標が取り消される前
に、同一又は類似の商標を使用することは権利侵害にあたるか?本件の司法裁判では、こ
れに対し積極的な探求が行われた。その判断によれば、登録となった後に使用されなかっ
たことで取り消される登録商標はそもそも、それ自体の価値を実現することができない。
つまり、実際に保護を受ける実質的な利益が存在しない。したがって、他者が同一又は類
似の商標を使用して、同商標所有者の市場シェアを奪う可能性もなく、その商標に関する
権益の侵害にあたらない。この種の取り消された商標専用権に対し、遡及的な司法ルート
の保護を与える必要もない。本件の司法裁判は、この種の事件の裁判ルールを確立するた
めに、積極的な探求を試みた。
【ポイント解説】(判決書未公開)
(7)聯想(北京)有限公司と国家工商行政管理総局商標評審委員会、
参加人である福建省長汀県汀州醸造廠との商標異議申立再審をめぐる行
69
政紛争に関する上訴事件(北京市高級人民法院[2011]高行終字第 1739
号行政判決書)
【 事 件 概 要 】
福建省長汀県汀州醸造廠(「汀州醸造廠」と略称する)が 2001 年 8 月 31 日付けで国家
工商行政管理総局商標局(「商標局」と略称する)に、第 32 類「ノンアルコール果汁飲
料、水(飲料)、ミネラルウォーター(飲料)、炭酸水」を指定商品とする第 1988387 号
商標「聯想と図」(「被異議申立商標」と略称する)の登録出願を出した。法定の異議申
立期間において、聯想(北京)有限公司(「聯想公司」と略称する)が異議を申立てた。
商標局は、聯想公司からの異議申立の理由を支持せず、被異議申立商標の登録出願査定の
裁定を行った。聯想公司は、国家工商行政管理総局商標評審委員会(「商標評審委員会」
と略称する)に再審を申立てると同時に、商標局による商標監(1999)35 号『「聯想」
商標の馳名商標認定に関する通達』を含む複数の証拠を提出した。商標評審委員会は審査
した上で次のように判断した。引例商標がコンピュータ商品において高い知名度を持って
いるが、有名とされるコンピュータ商品と被異議申立商標の指定商品である水(飲料)等
とは、機能や用途、原材料、販売ルート等において大きな区別がある。「聯想」は良く見
かける中国語の単語であって、一般消費者は通常、被異議申立商標が使用される水(飲料)
等の商品が聯想公司によるもの、又はそれと関連性を持つものと考えることがない。した
がって、被異議申立商標は登録されると、関連公衆をミスリードしたり、聯想公司の利益
に損害を与えるには至らず、『商標法』第 13 条第 2 項に定める「他者の馳名商標を複製、
模倣したもの」と認定しがたい。よって、被異議申立商標の登録査定を裁定した。聯想公
司は北京市第一中級人民法院に提訴した。北京市第一中級人民法院は、審理した上で、商
標評審委員会による異議申立再審裁定を維持した。聯想公司は上訴を提起した。北京市高
級人民法院は第二審において、次のように判断した。本件は行政訴訟であり、本件関連商
標が馳名商標であるかどうかという当事者の意思表示は、商標評審段階での意思表示、つ
まり行政機関によって具体的な行政行為が行われる前の意思表示に準拠すべきである。調
査した上で明らかになった事実によれば、商標評審委員会及び汀州醸造廠は、商標評審の
段階には、本件引例商標が馳名商標である事実を否認しなかった。したがって、聯想公司
から、商標局による『「聯想」商標の馳名商標認定に関する通達』など、引例商標が馳名
商標であることに関する基本的な証拠が提供され、関連人民法院による判決にも、引例商
標が 2000 年、2001 年に馳名商標となったことが認定された状態においては、引例商標が
被異議申立商標の出願登録日である 2001 年 8 月 31 日以前から馳名商標であったことを認
定すべきである。引例商標が馳名商標になっている状態において、被異議申立商標を登録
すると、公衆をミスリードし、被異議申立商標を使用する商品の出所が聯想公司である、
又は商品の提供者が聯想公司とある種の関係を持っていると誤認させることで、馳名商標
登録者の合法的権益に損害を与えることとなり、『商標法』第 13 条第 2 項の規定に違反
70
しており、法によりこれの出願を拒絶するべきである。よって、第一審判決及び商標評審
委員会の裁定を取り消し、商標評審委員会が裁定し直すよう命ずる判決を言い渡した。
【 革 新 的 意 義 】
司法による馳名商標保護の規範化と制度化を強化していく中、司法実践では、馳名商標
の著名度とその挙証責任に関する要求は全般的に高い。商標法に馳名商標制度を設けた目
的は、馳名商標の保護強化であって、保護の障害を設けることではない。司法による認定
の基準を不適切に高めて、馳名商標権者の正当な権益が適時かつ有効に保護を受けられな
くなることは、好ましくない。知名度の高い馳名商標については、馳名商標権者の挙証責
任を適度に軽減することができる。馳名商標権者の合法的権益を確実に擁護するために、
みんなに知れ渡っているようになったものは、挙証が複雑にならないように、適切な司法
認知を導入することができる。
【 ポ イ ン ト 解 説 】
本件判決は、今後の司法審理に司法認証を導入すること、繁雑な立証を回避すること、
馳名商標の権利者の立証責任を軽減することなどにおいて参考となる意義があるものであ
る。
本事件の場合、引用商標の馳名程度を証明するために、レノボ公司は、裁判所の判決と
国務院工商行政管理部門の認定を含む一連の証拠を提出した。しかし、一審裁判所は、引
用商標について、すでに裁判所と国務院工商行政管理部門により馳名商標として認定され
たものの、本事件の審理において、商標審判委員会と汀州釀造廠は、いずれも引用商標の
馳名事実に対して異議を有していたので、引用商標がすでに馳名商標を構成することを証
明するために提出したレノボ公司の証拠については直接認定しないと判定した。
二審裁判所は、商標審判委員会と汀州釀造廠は、いずれも商標審判段階において、本事
件の引用商標の馳名事実に対して否認せず、一審審理に入って初めて引用商標の馳名事実
を否認したと認定した。本事件は行政訴訟事件であるので、裁判所が審査すべきことは具
体的な行政行為の合法性である。すなわち、本事件では、商標審判請求という行政段階に
おいて、商標審判委員会と汀州釀造廠は引用商標の馳名事実に対して否認したか否かにつ
いて注意しなければならない。したがって、レノボ公司は、引用商標が馳名商標として保
護を受けていたとの記録を提出し、二審裁判所は、前者が同時にその他の要素を満たすの
で、馳名商標として保護しなければならないと判定した。
上記のとおり、中国の馳名商標の認定では、個別事件による認定原則を採用し、一旦馳
名商標として認定されたとしても、その後ずっと当該商標の馳名を証明できず、さらなる
各個別事件において当該個別事件の実際状況を充分に考慮しなければならない。しかし、
かつて馳名商標として保護を受けていたという記録は、商標の馳名を証明し、少なくとも
保護を受けていた時期の商標の馳名を証明する有力な証拠であることは否定することはで
きない。
また、
「馳名商標」制度は実務において、すでに異化されており、企業は、往々として「馳
名商標」を企業ブランドの「究極の栄誉」とみなし、当該栄誉を取得さえすれば、その商
71
標の保護範囲も指定商品の規制を超えられることを意味し、すべての商品をカバーできる
ことと思い込んでいる。しかし、馳名商標制度の立法本意は決してこのようなことではな
く、また、未登録の馳名商標と登録済の馳名商標の保護範囲も同じではない。
中国でまだ登録されていない馳名商標について、
「商標法」では当該商標に対して一般の
登録商標と同一の法的地位を与えることで、当該商標に対する他人の混同による使用を禁
止していると推論することができる。なお、中国ですでに登録された馳名商標については、
「商標法」では当該商標のために「誤認」を防止するための拡大した保護を採用している。
これは、一般の登録商標が受けている「混同」防止目的の同類保護と相互区別させるため
である。しかし、馳名登録商標の保護も当然に区分全部における保護ではなく、必ず保護
の範囲を規制することにより、社会利益と個人利益のバランスを図らなくてはならない。
中国の司法実務において、馳名登録商標の拡大した保護の多くは、個別事件で認定し、
各事件における係争商標デザインの業種、製品の範囲、商標の周知性、公衆の認知度、製
品の類似性などはそれぞれ異なるので、裁判所は、具体的な状況に応じて具体的に分析し
なければならない。馳名登録商標の拡大した保護は、当然のこととして区分全般に拡大す
べきではなく、商標が関連公衆に「誤認」をもたらすか否かを判断する際には、関連公衆
が連想できる基礎を備えているか否かに基づくべきであることが明らかである。
本事件において、商標審判委員会によれば、引用商標はコンピューター商品において、
比較的高い周知性を有すると認めたものの、周知性のあるコンピューター商品と被異議申
立商標の指定使用製品である水(飲料)などの商品は、機能、用途、原料、販売ルートな
どにおいて比較的大きい差異がある。しかも、
「聯想」はよく使用される中国語語彙であり、
一般消費者は、被異議申立商標の付いた水(飲料)などの商品の出所がレノボ公司であり、
又は同社との関連性を有すると認知するおそれはない。
商標審判委員会の観点は、道理に合わないわけではないが、本事件の一審と二審裁判所
は、いずれもその判決重点を引用商標が馳名であることを認定できるか否かに置き、その
馳名程度が被異議商標の指定商品をカバーできるか否かについては、
「引用商標がすでに馳
名商標となっている状況下で、被異議申立商標の登録は、関連公衆に誤認をもたらし、関
連公衆に被異議申立商標を使用した商品の出所はレノボ公司であり、又は、当該商品の提
供者とレノボ公司は何らかの関連性を有すると誤認させることにより、馳名商標の登録者
の合法的な権益をすることになる」ことのみに限り、商標審判委員会の見方に対してはい
かなる判定もしなかった。したがって、かかる判決には若干の問題点があると言える。
(8)利萊森碼公司、利萊森碼電機科技(福州)有限公司と利萊森碼(福
建)電機有限公司との商標権侵害、他者企業名の無断使用をめぐる紛争
に関する上訴事件(福建省高級人民法院[2012]閔民終字第 819 号民事判
決書)
【 事 件 概 要 】
72
利萊森碼公司は、292016 号 及び第 G633661 号登録商標「LEROY-SOMER」の所有者
である。2000 年、麦格乃泰克(福州)発電機有限公司は、企業名を利萊森碼(福州)発電
機有限公司に変更し、2005 年にはさらに利萊森碼電機科技(福州)有限公司(「利萊森碼
福州公司」と略称する)に変更した。利萊森碼公司は、利萊森碼福州公司に上記 2 登録商
標の使用権を付与し、そして共同で商標権侵害及び不正競争をめぐる訴訟の提起の権利を
有する確認書状を発行した。2004 年に設立された福安市佳能電機有限公司は、2005 年 12
月 5 日に企業名を利萊森碼(福建)電機有限公司(「福建利萊森碼公司」と略称する)に
変更した。福建利萊森碼公司は、「
売している発電機製品に「
」、「
」商標の登録を出願し、生産・販
」標章が使用され、発電機の銘板に「LEROYSOMMER
FUJIAN ELECTRIC MACHINERY CO.,LTD.」との企業名称が表記され、中国語の企業
名の記載がない。製品パンフレット及び『使用保全説明書』の中にみな「
」標章
を使用している。利萊森碼公司、利萊森碼福州公司は、福建利萊森碼公司が製品及び広告
宣伝において上記標章を使用したことで、その登録商標専用権を侵害しており、商号「利
萊森碼」を含む企業名称及び英語の商号「LEROYSOMMER」を使用したことで不正競争
にあたるとして、宁徳市中級人民法院に訴訟を提起し、権利侵害を差止め、2,141,944 元
の経済的損害賠償金を支払うよう命ずる判決を請求した。第一審法院は、「利萊森碼」と
利萊森碼公司の登録商標と近似せず、福建利萊森碼公司が商標権侵害及び不正競争にあた
らないとして、訴訟請求棄却との判決を言い渡した。利萊森碼公司、利萊森碼福州公司は、
上訴を提起した。福建省高級人民法院は第二審に、次のように判断した。利萊森碼公司及
びその登録商標における LEROY SOMER が、電機業界で高い知名度と評判を有する。利
萊森碼公司の関連のビジネス活動において、LEROY SOMER と対応する中国語の訳名が
「利萊森碼」で、2 者間に定着した対応関係ができている。その状況において、福建利萊
森碼公司が電機製品の上及び企業名称の中に「利萊森碼」、「LI LAI SEN MA」、
「LEROYSOMMER」などを使用する行為は、利萊森碼公司の登録商標専用権を侵害する
とともに、不正競争にもあたる。よって、第一審判決を取り消し、福建利萊森碼公司が該
当権利侵害行為を差止め、企業名称を変更し、100 万元の経済的損害賠償金及び合理的支
出を支払うよう命ずる判決を言い渡した。
【 革 新 的 意 義 】
本件では、外国語商標の知名度や、原告の中国語訳名の先行使用、及び関連公衆の外国
語商標と中国語訳名との対応関係への認知度などの要素を総合的に勘案した上で、
LEROY SOMER と「利萊森碼」に定着した対応関係ができていると認定することによっ
て、中国語の「利萊森碼」と利萊森碼公司の 2 英語による登録商標との近似、福建利萊森
碼公司の企業名称の中に中国語・英語による「利萊森碼」の使用で不正競争にあたること
73
を認定した。悪意ある抜け駆け出願の抑制、誠実経営の奨励という商標法の立法目的を体
現しており、混同の排除、市場における公正な競争秩序の築き上げに有益である。
【ポイント解説】
本事件は、外国企業利莱森碼公司とその商標の被許諾者である利莱森碼福州公司と共に、
「LEROY-SOMER」商標の知名度と中国語訳名「利莱森碼」の先行使用、及び、前記商
業標章の商号としての先行使用事実等を以って、成功的に模倣業者に対抗した事件である。
本件訴訟において、原審原告の利莱森碼公司と利莱森碼福州公司は、「利莱森碼」に関
する先行登録商標を有していなかったため、大量の知名度に関する証拠を提出することに
より、「LEROY-SOMER」と「利莱森碼」との間の対応関係を証明し、それにより、原
審被告福建利莱森碼公司による「利莱森碼」等の商業標章の使用を禁止する目的を達した
が、それは決して容易なことではなかった。
本件訴訟における肝心な問題は、利莱森碼公司の「LEROY-SOMER」商標を以って、
福建利莱森碼公司による「利莱森碼」の使用を禁止させることができるか否かであるが、
そのためには、「LEROY-SOMER」と「利莱森碼」が類似商標を構成する必要がある。 両商標が類否判断について、「商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に
関する最高人民法院解釈」の第 9 条によれば、両商標の文字の字形、発音、意味または図
形の構造及び色彩、または各要素を組み合わせた後の全体構造が類似であり、またはその
立体形状、色彩組み合わせが類似で、関係公衆に商品の出所を誤認させる、またはその出
所が原告の登録商標の商品と特定の関係を持つと誤認させる場合、類似と判断されるべき
である。
本事件における「LEROY-SOMER」と「利莱森碼」について、一審人民法院は、両商
標が類似商標を構成しないと判断した。確かに、単に商標自体から見れば、両商標は、何
れも固定的意味がないので、意味が類似せず、且つ、発音と字形も明らかに区別するため、
両商標は、類似しないと考えられる。
ただし、本件において、原審原告は、大量の証拠を提出して、「LEROY-SOMER」と
「利莱森碼」が原審原告による長年間の使用と宣伝を通じて、関連公衆の中で既に唯一な
対応関係を形成したことを証明した。二審人民法院は、両商標の間の対応関係を認め、両
商標が同一または類似の商品上に使用する場合、関連公衆は、商品の出所に対して誤認を
生じ易い、或いは、原審被告が原審原告と特定の関係があると誤認し易いので、両商標が
類似商標を構成すると判断し、それにより、原審被告が商標権侵害を構成するとの判決を
言渡した。
中国において、実務上、商標権の冒認出願(先取り)が大きな問題となっているが、例
えば、外国企業の商品ブランドや、社名などが知らぬ間に中国において、第三者より出願・
登録されてしまい、その外国企業のビジネス展開に足枷となるケースが多発している。 本件の場合、利莱森碼公司は、少なくとも、自社の商業標章の「LEROY-SOMER」を
商標として登録した。ただし、対応する中国語を商標として登録しなかったため、福建利
莱森碼公司は「利莱森碼」の商標を出願し、且つ、自社商品上に使用した。結局として、
74
利莱森碼公司は、「LEROY-SOMER」に関する商標権を以って、相手側に成功的に対抗
できたが、上記のように、「利莱森碼」に対する商標権を有しなかったため、大量の周知
度と使用事実に関する証拠を提出することにより、両商標の対応関係を主張するしかなっ
たため、決して容易ではなかった。本件では、関連証拠が十分であることに鑑み、両商標
の対応関係が認められたが、実務上、多くのケースにおいては、外国企業が十分な証拠、
特に外国語と中国語が対応するとの証拠を提出できなかったため、中国模倣業者の使用を
禁止することができなくなっている。それに、本件において、幸いに、福建利莱森碼公司
が出願した「利莱森碼」関係商標が登録されていなかったが、もし、登録されている場合、
福建利莱森碼公司も商標権を有することとなるので、福建利莱森碼公司の商標を取消さな
い限り、その使用が原審原告の商標権を侵害すると判断される可能性がほとんどない。
なお、本件は、商標権侵害の以外に、不正競争の問題にも関わっているが、原審被告福
建利莱森碼公司の改名するずいぶん前から、原審原告の利莱森碼公司と利莱森碼福州公司
は、LEROY-SOMER と利莱森碼を商号として長期間使用し、関連公衆の中で既に固定的
な対応関係を形成した。福建利莱森碼公司は同業者であり、且つ、莱森碼福州公司と同じ
く福建省の企業であるので、同社が「利莱森碼」を商号として登録し、且つ、外国語企業
名称において「LEROYSOMMER」を使用したことは、主観上、ブランドただ乗りの悪意
があり、客観上、関連公衆の混同誤認を生じさせやすい。かかる状況に鑑み、人民法院は、
原審被告の行為が原審原告の商号権を侵害し、不正競争行為を構成したと判断した。
福建利莱森碼公司は、二審判決書対し、最高人民法院に再審申請を提出したが、最高裁
は、2013 年 9 月 16 日に、二審判決を支持し、福建利莱森碼公司の再審申請を棄却すると
の旨の裁定を下した。
本件は、権利者が勝訴した事件として、ブランドただ乗りの模倣行為を抑制し、混同・
誤認を排除し、公正な商標秩序の築き上げに有益である。一方、企業にとっては、鏡のよ
うな事件でもあるが、自社の商業名誉を維持・保護するために、事後の対策よりも、事前
の対策としてできるだけ早い時期に中国において使用する可能性を有する商業標識を商標
として登録することにより、模倣行為を未然に防止することを優先させるようにすること
が得策である。
(9)衢州万聯ネットワーク技術有限公司と周慧民らとの営業秘密侵害
をめぐる紛争に関する上訴事件(上海市高級人民法院[2011]滬高民三
(知)終字第 100 号民事判決書)
【 事 件 概 要 】
2002 年、衢州万聯ネットワーク技術有限公司(「万聯公司」と略称する)は boxbbs.com
というドメイン名のウェブサイトを登録出願した。同ウェブサイトは主にネットゲームに
関する BBS 掲示板サービスを行っている。周慧民、馮曄、陳雲生、陳宇鋒、陳永平はみ
な同社の社員である。2003 年末から 2004 年の初頭にかけて、boxbbs.com ウェブサイト
75
での登録ユーザ数が既に 55 万強となった。2004 年 5 月末から 6 月の初頭にかけて、周慧
民らが万聯公司を離れて、北京で box2004.com というドメイン名のウェブサイトを登録構
築した。周慧民は、把握している boxbbs.com ウェブサイトのパスワードを用いて、リモ
ート・ログインし、同ウェブサイトのユーザデータベースをダウンロードし、2004 年 6
月 9 日に box2004.com ウェブサイトを開通すると同時に、万聯公司の boxbbs.com ウェブ
サイトのプログラムドキュメントの中の文字列を変更して、同 boxbbs.com ウェブサイト
の運営ができなくなるようにした。ほかのウェブサイトでの公告発表、QQ グループにお
けるノーティス発信などの方法で、同ウェブサイトの登録ユーザを box2004.com ウェブサ
イトに誘致した。万聯公司は、周慧民ら 5 被告の行為がその営業秘密を侵害したとして、
5 被告が 4,858,000 人民元の経済的損害賠償金と 15 万人民元の合理的費用を連帯して支払
い、相互連帯して弁償責任を負うよう命ずる判決を法院に請求した。上海市第二中級人民
法院は第一審において、次のように判断した。ウェブサイトのユーザ登録情報は、本件関
連ウェブサイトが長期に亘る経営活動の中で得られた経営情報である。個別のユーザの登
録ユーザ名、登録パスワード、登録日時等の情報が容易に取得できるとしても、同ウェブ
サイトデータベースにある 50 数万の登録ユーザ名や登録パスワード、登録日時等の情報
からなる総合的で大量のユーザ情報は、当業者が普遍的に知り得て、容易に取得できるも
のではない。さらに、上記ユーザ情報は実用性があり、万聯公司は上記ユーザ情報につい
て秘密保持措置を行った。そこで、法院は、ウェブサイトのデータベースにある登録ユー
ザ情報が営業秘密にあたり、5 被告の行為が共同で原告の営業秘密を侵害しており、共同
で損害賠償の民事責任を負担しなければならないと認定した。よって、5 被告が共同で 100
万元の経済的損害賠償金を原告に支払うよう命ずる判決を言い渡した。周慧民らは不服と
し上訴を提起した。上海市高級人民法院は第二審において、上訴を棄却し、原判決を維持
するとの判決を言い渡した。
【 革 新 的 意 義 】
本件は、ウェブサイトのユーザ登録情報データベースに係わる営業秘密紛争事件である。
本件の革新的な点として主に、ウェブサイトのユーザ登録情報データベースが、不正競争
防止法上の営業秘密にあたるかをいかに認定するかということにある。これについて、法
院は、ウェブサイトのユーザ登録情報データベースが、関連ウェブサイトの中核的資産で
あり、ウェブサイトのユーザ登録情報データベースが「秘密性、実用性、秘密保持性」な
どの要件に合致しさえすれば、営業秘密として法により保護を与えることができると判断
した。本件の処理は、ウェブサイトのユーザ登録情報データベースの帰属及びその営業秘
密としての性質の確認に、ある程度の参考となるとともに、ウェブサイト事業者が企業の
競争力を維持し、リーガルリスクを避けるために、ネットワークユーザの登録情報データ
ベースに必要な秘密保持策を講じる必要性を示唆した。
【ポイント解説】
営業秘密の構成要件としては、中国「不正競争禁止法」第 10 条第 3 項および「不正競
争民事事件の審理における法律応用の若干問題に関する最高裁判所の解釈」(以下「解釈」
76
という)の規定によれば、『非公知性』―公衆に知られていない特性、『価値性及び実用
性』―権利者に経済的利益をもたらす特性、及び『秘密保持性』―権利者が秘密保持措置を
講じた特性を満たさなければならない」である。
1.非公知性
「解釈」第 9 条の規定に基づき、いわゆる非公知性とは、関連情報が所属分野の関連人
員に一般的に知られておらず、かつ、容易に入手できないものであることをいう。
実務において、裁判所は、「非公知性」の要件を満たすか否かを判定する際に、「関連
公衆が一般的に知っているか否か、また、容易に入手できるか否か」に基づいて上述の判
断を行うほかに、更に「解釈」に規定された情報に基づいて認定する。たとえば、「解釈」
第 13 条によれば、ユーザーリスト、すなわち、ユーザーの名称、住所、連絡方法及び取
引の習慣、意向、内容などで構成された関連公知情報の特殊ユーザー情報を指し、大量の
ユーザーを集約したユーザー名簿、及び長期安定取引関係を保持する特定のユーザーを含
めて、営業秘密の一種に該当する。
本事件におけるネットユーザーの登録情報データベースと上記の「ユーザーリスト類」
とは類似し、ウェブサイト経営者が一定の創造的な労働を経て、徐々に整理・維持した重
要価値を有する情報であることである。単一ユーザーの登録ユーザー名、登録パスワード
と登録日時などの情報は、比較的ありふれており、かつ、比較的容易に入手できるものの、
当該ウェブサイトのデータベースにおける 50 万個上の登録ユーザー名、登録パスワード
と登録日時などの情報から形成された総合的な大量のユーザー情報は、逆に一般的な情報
ではなく、当事者が費やした一定の労働によるものであり、一般の者が容易に入手できる
情報ではない。
2.実用性
「解釈」第 10 条には、「関連情報が現実的又は潜在的な商業価値を有し、権利者に競
争上の優位性をもたらす場合は、『不正競争禁止法』第 10 条第 3 項に規定する『権利者
のために経済的利益をもたらし、実用性を有する』と認定すべきである」と規定している。
本事件において、双方の争点は、ネットユーザーの登録情報データベースが営業秘密の
構成要件を満たすか否かであった。上訴人周慧民も、データベースが権利者にとっては価
値を有しないことを証明する相応する証拠を提出した。しかし、裁判所は、審査を経て、
周慧民の提出した証拠は、相応のデータベースが被上訴人にとっては価値がないとのこと
を直接証明できないとして、上訴人の観点を否定した。ここでは価値の客観的な存在に対
する論証には係わっていないものの、価値の客観的な存在を証明することも、「実用性」
を証明するポイントになることが分かるので、特に注意を払う必要がある。
3.秘密保持性
「解釈」第 11 条には、「『秘密保持措置』とは、権利者が情報漏洩を防止するために
講じたその商業価値などの具体的な状況と相互適応する保護措置のことをいう。『秘密保
持措置』を講じたか否かは、営業秘密が『秘密保持性』を有するか否かを判断する基準で
ある」と規定している。実務において、裁判所は、「秘密保持措置」を講じているか否か
77
を判断する際に、主に関連情報の保管媒体の特性、権利者の秘密保持の意思、秘密保持措
置の識別可能な程度、他人が正当な方法により入手できる難易度などの要素により、権利
者が秘密保持措置を講じたか否かを判定すべきである。
比較的以前の判決はより広い包容性を有し、秘密保持措置に対する要求が比較的緩く、
最近の判決では、秘密保持措置に対する要求がより厳しくなっているのが分かる。かかる
状況は、ある程度、裁判所が営業秘密に係る不正競争事件を審理する際の一定の傾向を反
映している。すなわち、秘密保持措置に対する要求はますます厳しくなり、具体化に対す
る要求もますます考慮すべき要素の 1 つになっている。本事件において、ユーザー登録期
日、ユーザー登録名及びユーザ登録パスワードなどの情報のデータベースが営業秘密を構
成した原因は、原告がデータベースに対してパスワードを設置し、かつ、原告の法定代表
者である邱奇と周慧民のみが知得していたが、これは明らかに具体的かつ合理的な秘密保
持措置であると言える。したがって、本事件のデータベースは、営業秘密における「秘密
保持性」という構成要件を満たしていた。
(10)劉大華と湖南華源実業有限公司、東風汽車有限公司東風日産乗
用車公司との独占をめぐる紛争に関する上訴事件(湖南省高級人民法院
[2012]湘高法民三終字第 22 号民事判決書)
【 事 件 概 要 】
東風日産ティアナブランド EQ7250AC 小型セダンのオーナーである劉大華は、車のド
アロックが壊れて、東風汽車有限公司東風日産乗用車公司の 4S 店(湖南華源実業有限公
司)で修理してもらう途中、双方に紛争が生じ、劉大華は、純正パーツを独占することに
より高額な修理費を得ようとする東風汽車有限公司東風日産乗用車公司とその 4S 店が、
事業者の市場支配的地位の濫用にあたるとして、独占訴訟を提起した。湖南省長沙市中級
人民法院は第一審において、訴訟請求の棄却の判決を言い渡した。劉大華が不服とし、上
訴を提起した。湖南省高級人民法院は審理した上で、次のように判断した。本件訴訟の損
害事実に係わるのは、ティアナ自動車のドアロックのパーツのみであり、そしてティアナ
自動車の純正ドアロックパーツとサブ工場のドアロックパーツと代替性があることから、
本件の「関連市場」を、「ティアナ自動車に適用できるドアロックパーツ市場」と特定す
べきである。 劉大華は、東風汽車有限公司東風日産乗用車公司とその 4S 店の関連市場に
おける支配的地位について挙証責任を負わなければならないが、証明する証拠を提出して
おらず、挙証不能の法的結果を負わなければならず、上訴の主張が成立しない。よって、
上訴を棄却し、原判決を維持するとの判決を言い渡した。
【 革 新 的 意 義 】
本件では、独占事件における「関連市場」の特定の方法と原則に重点をおいて検討し、
総括して運用した。主に次のようなものがある。1、商品の市場の適度な細分化。つまり、
当事者が主張した「関連市場」は範囲が広く、複数の異なる商品の市場がカバーされてい
78
る可能性があるとき、業種及び公衆の一般的な見方に基づいて全体の市場を適度に細分化
し、なるべく最小限の商品市場を見つけ出して、緊密な競合関係を正確に見分けること。
本件では、当事者が主張した関連市場は「純正自動車パーツ市場」だった。種類がおびた
だしい自動車部品パーツに、異なる部品パーツは特性、用途が異なるため、異なる商品の
市場となっている。全ての自動車部品パーツを同じ市場にすると、過大な市場外延となる
にちがいない。したがって、「関連市場」を自動車ドアロックのパーツ市場に特定すべき
である。2、商品市場と損害事実との関係。損害を受けたことを理由に提起された独占訴
訟において、損害事実に係わる商品が、関連商品の市場を判断する重要な根拠となる。本
件訴訟の損害事実に係わるのは、主にティアナ自動車のドアロックのパーツであったこと
から、本件と関連している商品の市場の範囲は、ティアナ自動車に適用できるドアロック
パーツ商品の市場に限定すべきである。3、商品の代替性。緊密な代替性を持つ商品は、
同じ市場に属すると認定すべきである。本件では、ティアナ自動車に適用できるドアロッ
クパーツ商品について、市場には東風日産乗用車公司から提供される「純正パーツ」を除
いて、ほかの企業で生産、販売しているパーツである「サブ工場パーツ」もある。サブ工
場パーツと純正パーツとは、機能、特性、用途において同じであるため、純正パーツの価
格が高すぎると、消費者は必然的にほかのサブ工場パーツを選択すると考える。二者には
実際に緊密な代替関係が成され、同じ市場での競合となっている。したがって、純正パー
ツとサブ工場パーツとが一緒に成したティアナ自動車に適用できるドアロックパーツ商品
の市場が、本件に係わる関連市場にあたる。
【ポイント解説】
本件の革新的意義は、独占案件における「関連市場」の特定の方法と原則について重点
的に検討し、総括して運用したことである。
一般的に、係争企業が確定された関連市場において比較的に高い市場シェアを有してこ
そ、初めて詳細な競争評価を行う必要がある。したがって、「関連市場」を特定すること
は一つの行為が独占禁止法に違反しているかどうかを判断する基礎となる。
「独占禁止法」第 12 条第 2 項には、、「関連市場とは、経営者が一定時期において、
特定商品又は役務を巡って競争を行う商品範囲と地域範囲を言う」規定されている。
「関連市場」の特定方法には、主に以下の三つの方法がある。
①
需要の代替分析法
主に消費者の角度から分析し、消費者のニーズを基に、製品が同一市場において他の競
合製品間との需要の交差弾力性を分析して、関連市場の範囲を確定する方法である。当該
方法では、競争製品間の価格、機能、用途等の要素が消費者に対する代替可能性を考慮す
る。原則的に、需要者の角度からみて、商品間の代替度が高くなるほど、競争関係が強く
なり、同一の関連市場に属する可能性も高くなる。
②
供給の代替分析法
供給の代替分析法の応用は、長期間にわったて主に需要の代替を区別根拠としたことに
対する突破口であると言える。その他経営者による、製造設備改良への投資、リスクの負
79
担、対象市場への参入時間等の要素に基づき、経営者の角度から異なる商品間の代替度を
確定するものである。原則的に、その他経営者が製造設備を改良する投資、リスクの負担
が少なくなるほど、緊密な代替商品の提供スピードが速くなるほど、供給の代替度が高く
なる。
③
仮定的独占者テスト分析法
英訳の「Small but Sig-nificant Not-transitory Increase in Price」の略語で「SSNIP」
テストとも言う。簡略に言えば、「簡単に製造及び設備を変更さえすれば相応する商品を
供給できる供給者」を関連市場に参入させ、「1 年」を期限とし、仮にこれらの供給者が
商品の価格を一定の比率(通常、5~10%)引き上げた場合、値上げした商品の代替とな
るその他の商品が存在するか否かを判断することである。仮定的独占者テスト分析法は需
要の代替性と供給の代替性とを十分に考慮している。
上記のとおり、関連市場の特定方法は唯一ではないが、独占禁止法の執行、司法実務に
おいて、実際の状況に基づき、具体的な案件に合う分析方法を採用すべきである。「国務
院独占禁止委員会によるが関連市場の特定についての指針」第 7 条には「関連市場を特定
する場合、商品の特徴、用途、価格等の要素に基づいて需要の代替性の分析を行い、必要
な場合、供給の代替性の分析を行うことができる。経営者が競争する市場の範囲について
不明確であり、又は確定し難い場合、『仮定的独占者テスト』の分析方法に従い、関連市
場を特定することができる。」という内容を定めている。したがって、需要の代替分析法
で関連市場を特定できる場合、他の方法を使用して分析する必要はなくなる。
本件において、係争商品はティアナ自動車のドアロックパーツであるので、本件に関す
る商品市場範囲もティアナ自動車のドアロックパーツ市場である。その市場範囲をもっと
明確に特定するためには、上述の需要の代替法を運用して分析することが必要である。テ
ィアナ自動車に適用できるドアロックパーツ商品について、市場には東風日産乗用車公司
から提供される「純正パーツ」以外に、他の企業で生産、販売している「サブ工場パーツ」
もある。機能、特性、用途において同じであるため、純正パーツの価格が高すぎると、消
費者は必然的にほかのサブ工場パーツを選択すると考えるが、二者には実際に緊密な代替
関係がなされ、同じ市場での競合製品となっている。したがって、純正パーツとサブ工場
パーツとからなるティアナ自動車に適用できるドアロックパーツ商品の市場が、本件に係
わる関連市場にあたる。
「関連市場」を特定した後、さらに、被上訴人が当該関連市場において、支配的地位を
有するかどうかを判断することができる。本件において、被上訴人が関連市場において支
配的地位を有するとのことを証拠を提出して証明できなかったので、上訴人の主張は支持
されなかった。
80
3、最高人民法院「司法による知的財産権保護 8 典型事例」
(2013 年 10 月 22 日)
中国語原文:2013 年 10 月 23 日付け最高人民法院ホームページ http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201310/t20131023_189076.htm (1)申立人の米イーライリリー社・イーライリリー(中国)研究開発有
限公司と被申立人の黄孟煒との行為保全申立事件
【事件の大筋】
被申立人が 2012 年 5 月にイーライリリー中国に入社し、双方は「秘密保持契約書」を
締結した。2013 年 1 月、被申立人はイーライリリー中国のサーバーから、申立人が保有
している 48 書類(その中の 21 点は中核的な機密に当たるビジネス書類であると申立人が
主張)をダウンロードし、上述の書類を被申立人が保有している装置に無断で保存した。
交渉した結果、被申立人は同意書に自署し、会社のものである 33 の秘密書類をダウンロ
ードしたことを認めた上、申立人に指定された者が上述の書類をチェックし、削除するこ
とを認容する旨の約束をした。その後、申立人からの者が被申立人に数回連絡を取ったが、
被申立人は同意書において取り決めた事項の履行を拒否した。申立人は、2013 年 2 月 27
日付けで被申立人に双方の労働関係の解除を宣告する書状を出した。2013 年 7 月、米イ
ーライリリー社、イーライリリー中国公司は、黄孟煒が技術秘密を侵害したとして上海市
第一中級人民法院に提訴するとともに行為保全を申し立て、被申立人の黄孟煒に申立人か
ら盗んだ 21 の営業秘密書類の開示、使用又は他人による使用の許可をしてならないと命
じるよう、法院に請求した。そのため、申立人が法院に対し、事件関連の 21 の営業秘密
書類の名称・内容、承諾書等の証拠資料を提示し、上述の申立に関する担保金を提供した。
【裁判の結果】
上海市第一中級人民法院は審査した上で、申立人から提出された証拠によって、被申立
人が申立人の営業秘密書類を取得し、かつ把握したことを初期的に証明することができ、
被申立人が上述の書類のチェックと削除を認容するとの承諾を履行していないため、申立
人が主張した営業秘密は開示、使用、もしくは外部に漏えいされる恐れがあり、申立人に
補てんできない損害をもたらしかねず、行為保全の条件に合致していると判断した。同院
では 2013 年 7 月 31 日付けで被申立人の黄孟煒に、申立人の米イーライリリー社、イーラ
イリリー中国公司が営業秘密として保護していると主張した 21 書類の開示、使用又は他
人による使用の許可を禁止する旨の民事裁定を下した。
【 典 型 的 意 義 】
改訂民事訴訟法では、行為保全制度の規定が追加され、すべての民事事件の領域へと適
用範囲が拡大された。行為保全措置は、緊急な事態におかれた権利者が権利を保護するた
81
めの有効な手段となっている。人民法院は当事者の申立に基づき、積極的で合理的な知的
財産権保全措置を講じることで、保全制度の時効性を活用して、知的財産権の司法救済の
適時性、利便性、有効性を高めることができる。これは、知的財産権の保護力増強にとっ
て重要な促進的意義を有する。この事件は我が国初の、改訂民事訴訟法に準拠した営業秘
密をめぐる権利侵害訴訟における行為保全措置の適用事件であり、人民法院が社会のニー
ズに順応し、法により司法ルートで知的財産権保護を強化する実務上の努力を表したもの
である。
【ポイント解説】
この事件は中国最初の、改訂民事訴訟法に準拠した営業秘密侵害訴訟における行為保全
措置の適用事件である。
改訂民事訴訟法第 100 条には「人民法院は、当事者の一方の行為又はその他の事由によ
り、判決が執行困難となる、または当事者のその他の損害を生じさせる虞のある事件につ
いては、相手方当事者の申立てに基づいて、財産に対する保全を行うこと、または一定の
行為を行うこと若しくは一定の行為を禁止することを命令する旨を裁定することができる。
当事者が申立てを提出しない場合には、人民法院は、必要な時、保全措置を取る裁定を下
すことができる。」と規定されている。
当該規定は、行為保全制度の法的根拠として、営業秘密侵害訴訟に対して特に重要な意
義があると思う。それは、秘密性が営業秘密の根本的属性として、一旦失うと、誰でも公
知領域から関係情報を取得できるようになるから、権利者は営業秘密に対する権利を失っ
てしまうこととなるからであるが、秘密性を確保するため、行為保全制度は、営業秘密侵
害訴訟において、不可欠だと思う。
ただし、民事訴訟法の改正前に、中国の専利法、商標法、著作権法には、仮処分に関す
る規定があったので、関係訴訟においては、行為保全制度がある程度確立されていたが、
営業秘密を規定した不正競争防止法及び関係法解釈には、類似規定がなかったので、営業
秘密関連訴訟においては、行為保全ができなかった。
したがって、改訂民事訴訟法で行為保全制度の規定を追加したことは、営業秘密に対す
る保護力を増強することに、重要な促進的意義がある。そして、本事件において、改訂民
事訴訟法における関係規定を根拠として、最初に行為保全の民事裁定を下したことも、営
業秘密侵害事件に対し模範を示し、非常に重要な意義がある。 ただ、行為保全は判決が言渡される前に取る臨時性の救済措置であるために、人民法院
は、慎重に審査した上、決定しなければならない。通常、人民法院は、申立人に勝訴可能
性があるか否か、即時に中止させなければ、申立人の合法的権益に補填困難な損害をもた
らす可能性があるか否か、行為保全の措置を取らない場合に申立人にもたらす損害が、行
為保全措置を取った場合に被申立人にもたらす損害より大きいか、などのいろいろな要素
を考慮する。ただし、営業秘密の侵害事件の場合、他の侵害事件に比べ、原告の勝訴率が
低い特徴がある。したがって、もし、原告の勝訴可能性を偏重して考慮すると、行為保全
措置を取るとの裁定を下し難い。
82
本件の場合も同じく、被申立人が申立人のサーバーからダウンロードした 48 書類の
中に、
「秘密性」のある営業秘密を含めていたかは、簡単に判断し難い。ただし、本件にお
いて、被申立人は、申立人の 33 の秘密書類(その中の 21 点は中核的な機密に当たるビジ
ネス書類であると申立人が主張)をダウンロードしたことを認めた上、削除することを認
容する旨の約束をした。それにより、被申立人が保有している書類に営業秘密に該当する
情報が含まれているか否かにかかわらず、申立人が営業秘密として扱っている情報を含め
ていることは明らかである。しかも、かかる情報が被申立人のコントロールの下にある状
態で、一旦漏洩すると、公知領域に入ってしまい、申立人に対して填補できない損失を与
える可能性がある。一方、被申立人に対して関連情報の使用と漏洩などを禁止することは、
被申立人に対して特に大きい損害を与えない。それに、申立人が既に保証金を提出したの
で、発生可能性のある損害に対して救済できる。したがって、人民法院は、行為保全の裁
定を下した。
なお、本事件において、人民法院が下した行為保全の裁定は、一定の行為を禁止すると
の旨の裁定であるが、それは、一定の行為を行うとの旨の裁定より、更に執行し難い。こ
のような裁定の執行は、当事者の自覚性と協力が非常に重要であるが、そのためには、被
申立人に対して、裁定を履行しない場合、罰金、拘留、刑事責任、などが追究されること
を確実に認識させることが重要である。
要するに、改訂民事訴訟法の施行と行為保全制度の本事件での適用により、今後、多く
の営業秘密侵害事件において、行為保全制度が利用されると予測できるが、知的財産権の
司法救済の適時性、利便性、有効性を高め、知的財産権に対する司法保護が一層強化され
ることを期待できると思う。
(2)佛山市海天調味食品股份有限公司が商標権侵害及び不正競争で佛山
市高明威極調味食品有限公司を訴えた紛争事件 【事件の大筋】
海天公司は、1994 年 2 月 28 日に登録を受け、醤油等が指定商品の“
”登録商標
の権利者である。威極公司は、1998 年 2 月 24 日に設立された。威極公司では、“威極”の
2 文字を企業の商号として使用し、かつ広告板や工場の看板において“威極”の 2 文字を目
立たせて使用している。法に違反して工業用塩水で醤油製品を生産したことで威極公司が
暴露された後、海天公司の市場での評判も製品の売上数量もその影響を受けた。海天公司
は、威極公司の行為がその商標権を侵害しており、かつ不正競争に当たるものとして、広
東省佛山市中級人民法院に提訴し、威極公司に対し権利侵害の差止、謝罪、そして経済的
損害及び合理的費用として合計 1,000 万人民元の賠償金の支払を命じるよう、法院に請求
した。 【裁判の結果】
83
広東省佛山市中級人民法院では第一審に、威極公司が広告板及び工場の看板において“威
極”の 2 文字を目立たせて使用し、海天公司の登録商標専用権を侵害したこと、威極公司の
2 株主とも同社の設立の前から食料品業と醤油生産業に携わっていたことから、海天公司
及びその海天ブランドにおける製品を知っていたはずであり、にもかかわらず、海天公司
の“
”(注釈:原文では左記“ ”内が空欄のため、日本語仮訳では登録商標を挿入。)
登録商標の中の“威極”の 2 文字を企業の商号として登記したことは、海天公司の商標の商
業名声にすがりつく悪意があり、公衆の混同又は誤認を招き、海天公司の商業名声を損な
ったもので、不正競争に当たると判断した。そこで威極公司に対し、その広告板や工場の
看板において“威極”の 2 文字を目立たせて使用することを差止め、“威極”の商号が付され
る企業名の使用を差止め、かつ、判決の効力が生じた日から 10 日以内に工商部門で企業
商号変更手続を行い、海天公司には新聞に掲載して謝罪し、影響を排除し、海天公司に与
えた経済的損害及び合理的費用として合計 655 万人民元の賠償金を支払うとの判決を下し
た。審理担当法院では損害賠償金を算定する際に、海天公司が 16 日間において得るべき
とされる合理的な利益金額及び合理的な利益減少率により、商業名声が損なわれることで
受けた損害を推算しながら、威極公司における登録商標専用権侵害行為及び不正競争行為
の性質、期間、結果等の要素と結びつけた上、海天公司製品の売上数量の減少による利益
の損害額を 350 万人民元と推定した。また、海天公司が影響排除、評判回復、権利侵害の
結果の拡大制止に支出した合理的な広告費の 300 万人民元と弁護士費用の 5 万人民元をと
もに賠償の範囲に入れた。威極公司は、上訴を提起した後、第二審の段階で自ら上訴の取
り下げ申立を行った。
【 典 型 的 意 義 】
この事件は、威極公司が法に違反して工業用塩水で醤油製品を生産する“醤油ゲート”事
件に起因した訴訟で、社会的関心が高い。法院は、事件の裁判において、合法で有効な民
事責任を特定することで、確実に権利者の利益を擁護した。侵害差止の面で法院は、被告
が不正競争に当たると認定してから、被告の該当商号の使用差止、期限つき企業名称の変
更を命じる判決を下し、権利侵害の再発の危険性を根絶させた。損害賠償の面では、権利
者が受けた損害が高額であることを示す証拠があるものの、既存の証拠では実際の損害額
を直接に証明するに不足しているという状況下で、監査報告諸表等の該当証拠と結びつけ
て損害賠償金額を特定することにより、損害賠償金額を権利者が実際に受けた損害により
近いものとし、権利者が受けた損害を最大限に補償した。さらに、法院は、権利者が権利
侵害と不正競争行為による影響の排除、評判回復、権利侵害の結果の拡大制止に支出した
合理的な広告費を賠償範囲に入れることで、司法による知的財産権の保護強化の強力さと
決意を表している。
【ポイント解説】
本件は、商標と企業名称の抵触事件であるが、中国ではこのような抵触事件が数多く存
在しており、日増しに深刻化されている。商標と企業名称の抵触事件が多発している原因
は、商標及び企業名称が異なる法律と異なる手続きを通じて管理するからであるが、異な
84
る管理をしているため、同じ文字により構成された商標と企業名称は、異なる主体に帰属
する状況で、何れも合法で且つ有効に並存することができ、一方、合法的に登録された商
号としても、他人の先行商標権に対する侵害を構成する可能性があり、同様に、合法的に
登録された商標権としても、他人の先行商号権に対する侵害を構成する可能性もある。
現行の法律条項によれば、企業名称が他人の先行商標権と抵触した場合、下記の三つの
情況で、商標権侵害または不正競争になる虞がある。
①
他人の著名商標を企業名称で使用する場合。
②
他人の商標を字号として、同一または類似商品で際立てて使用し、関係公衆の誤認
を招きやすい場合
③
誠実信用原則に違反し、悪意で他人の登録商標と同一または類似の字号を使用し、
関係公衆に商品の出所に誤認を招きやすい場合
本件において、海天公司は、“威極” に対して先行の登録商標専用権を有する。海天公司
の“威極”商標は、著名商標ではないものの、威極公司が広告板及び工場の看板等において
“威極”の 2 文字を際立てって使用したが、かかる行為は、
「商標民事紛争案件の審理におけ
る法律適用の若干問題に関する最高裁の解釈」第一条の「以下の行為は商標法第 52 条第 5
項に規定された他人の登録商標専用権を侵害する行為に属する。① 他人の登録商標と同
一または類似する文字を企業名称とし、同一または類似する商品に際立って使用し、関係
公衆に誤認を生じさせる可能性があるもの 。……」との規定に違反したので、商標権侵害
を構成した。
また、威極公司の 2 株主とも同社の設立の前から食料品業と醤油生産業に従事したが、
同業者として、海天公司及びそのブランドを知っていたはずである。かかる状況で、海天
公司の「威極 」登録商標の中の「威極」の 2 文字を企業の商号として登記したことは、
主観上、ブランドただ乗りの悪意がある。そして、威極公司が違法に工業用塩水で醤油製
品を生産する“醤油ゲート”事件が露出した後、関連公衆は、普遍的に海天公司と関係があ
ると誤認したが、その主な原因は、威極公司の商号と海天公司の商標が同じであるからで
ある。それは、まさに威極公司が“威極”の 2 文字を企業の商号として登記したことが、客
観的に、関連公衆の混同・誤認を引起したことを表明できる。したがって、かかる行為は、
信義誠実の原則に違反し、関連公衆の混同・誤認を引起し、他人の合法的権利を侵害し、
市場秩序を乱したので、不正競争行為を構成すると判断された。
最終的に、一審法院は、威極公司に対し、
「威極」を含む企業名称の使用禁止、企業商号
の変更、謝罪声明の発布、及び、655 万人民元の賠償金支払との旨の判決を言渡した。威
極公司は、一審判決に対して、上訴を提起した後、第二審の段階で自ら上訴の取り下げた。
威極公司は、今後、
「威極」を際立てて使用することができないだけではなく、企業名称さ
え変更しなければならなくなったので、本件は、先行商標権者である海天公司の全面的な
勝訴として終了したと言える。
上記のように、本件において、裁判所は、権利侵害の再発の危険性を根絶し、権利者の
利益を確実に保護できたので、本件から中国の知的財産権への司法保護の強化と決意を見
85
分けれる。
ただし、実務上、商標と企業名称の抵触事件において、先行商標が著名商標でない限り、
裁判所は、
「登録商標、企業名称と先行権利との抵触に係る民事紛争事件の審理における若
干の問題に関する最高裁判所の規定」第四条における「訴えられた企業名称が登録商標の
専用権への侵害、又は不正競争になった場合、裁判所は原告の請求及び事件の具体的な事
情に基づき、被告に使用停止、使用の規範化などの民事責任を命じることが出来る。」との
規定に基づいて、ただ、企業名称における他人先行商標の突出使用を停止させ、使用の規
範化と一定の賠償金を命じるケースがが多い。勿論、本件が社会的に広範な注目を集めた
ので、今後、類似事件の裁判において、被疑侵害企業名称の変更との判決も期待できるか
と思うが、それは、あくまでも、先行商標の周知度と被疑侵害者の悪意などの要素の係わ
っていると思う。
(3)BMW 株式会社が商標権侵害及び不正競争で広州世紀宝馳服飾実業
有限公司を訴えた紛争事件
【事件の大筋】
BMW 社は中国において、第 12 類自動車等商品に登録した“BMW”、“
商標及び第 25 類衣類商品に登録した“
“FENGBAOMAFENG 及び
”、“宝馬”等
”商標を保有している。世紀宝馳公司は、“
”、“豊宝馬豊 FENGBAOMAFENG 及び
”、
”等を表示し
た衣類品を生産販売し、かつそのウェブサイトと店舗において、“FENGBAOMAFENG 及
び図”等の標章を際立って表示し、衣類の吊り札やウェブサイト、宣伝パンフレット等に“ド
イツ世紀宝馬グループ股份有限公司”の企業名称を使用している。BMW 社は、商標権侵害
及び不正競争として北京市第二中級人民法院に提訴し、世紀宝馳公司等に対して、権利侵
害の差止、経済的損害として 200 万人民元の賠償金の支払を命令するよう請求した。
【裁判の結果】
北京市高級人民法院は第二審に、世紀宝馳公司がその生産した衣類及び宣伝において
BMW 社の登録商標と類似する同権利侵害として訴えられた標章を目立たせて使用し、
BMW 社の商標専用権を侵害したこと、衣類の吊り札等に“ドイツ世紀宝馬グループ股份有
限公司”の企業名称を使用した行為は、信義誠実及び公認の商業道徳に反するもので、
BMW 社の商業名声を利用して不法利得を企み、不正競争に当たると判断している。BMW
社から提出した証拠で、世紀宝馳公司に明らかな権利侵害の主観的悪意があり、侵害の時
期が長く、範囲が広く、得た利得が 200 万人民元を遥かに超えて膨大なものになり、権利
侵害の情状が極めて重大であることが証明できたこと、その上、BMW 社の本件関連の登
録商標の高い知名度、BMW 社が権利侵害行為を制止するのに合理的な費用を支払ったこ
とから、権利者の合法的権益の十分な実現を保障し、権利侵害の代価を高め、権利維持の
コストを削減するために、BMW 社による損害賠償金に関する訴訟請求額を全額支持とす
る。これに準じて、被告に権利侵害の差止、影響の排除、経済的損害の賠償金として 200
86
万人民元支払の旨の判決を下した。さらに、世紀宝馳公司の悪質な権利侵害行為について、
10 万人民元の罰金に処する旨の民事制裁とともに、国家工商行政管理総局に司法建議書を
出し、同社の権利侵害行為を全面的に摘発するようアドバイスを行った。2013 年初頭、国
家工商総局から特別通達を出し、全国各地の工商部門に対して BMW 株式会社の該当登録
商標専用権の侵害嫌疑行為を調査・処理するよう要求した。各地の工商局は BMW 株式会
社の商標権の侵害に係わるブランドカタリ・模倣行為について全面的な調査・処理を進め
た。
【典型的意義】
この事件は、人民法院の法による悪質な権利侵害行為に対する処罰力増強の典型事例で
ある。まず、賠償金額の特定に関しては、既存の証拠により、権利侵害者の権利侵害によ
って得た利得が商標法に定めた 50 万元の法定損害賠償の最高限度額及び権利者からの賠
償請求額を遥かに超えたことが証明できた状況下で、権利侵害者は組織化した大規模な侵
害であり、明らかな主観的悪意があり、侵害の時期が長く、範囲が広く、得た利益が膨大
などの要素を勘案した上、第二審法院では法定損害賠償による損害賠償額を特定する方法
の代わりに、具体的な事件の状況に基づき、裁量権を運用して損害賠償額を斟酌し、権利
者からの訴訟請求額を全額支持した。次に、権利侵害の代価の引き上げに関しては、本件
権利侵害者の組織化・規模化した悪質な権利侵害という実態に対応し、行政機関による行
政処罰が行われていない状況において、処罰力の増強の精神を踏まえた第二審法院は、法
により権利侵害者に対し民事制裁措置を講じた。最後に、審理担当法院は、事件の審理に
おいて発見された、処理していないほかの権利侵害行為と結びつけて関係部門に司法建議
書を出し、対応の処理案を提示した。工商部門では当該司法建議書に基づいて積極的な行
動を取り、悪質な権利侵害行為を確実に摘発し、優れた社会的効果を上げた。この事件で、
中外の知的財産権利者の合法的権益を平等に保護し、公平・適正な市場経済秩序を維持し、
知的財産権保護力を強める中国法院の決意と行動が示された。
【ポイント解説】(判決書未公開)
(4)珠海格力電器股份有限公司が発明特許権侵害で広東美的制冷設備有
限公司らを訴えた紛争事件
【 事 件 の 大 筋 】
美的公司は、型番 KFR-26GW/DY-V2(E2)など 4 型番の“美的分離型空調機”製品を生
産した。格力公司は、美的公司で製造販売している上述の製品が、自社の“空調機をカスタ
ム曲線に沿って動作させる制御方法”の発明特許権を侵害したとして、広東省珠海市中級人
民法院に提訴し、被告に権利侵害行為の差止、損害と調査や権利侵害行為の制止のために
支払った合理的な費用の賠償金の支払を命令するよう請求した。
【裁判の結果】
広東省高級人民法院は第二審に、KFR-26GW/DY-V2(E2)型空調機の“スリープモード
87
3”の作動方式における技術構想が、本件関連の発明特許権を侵害したと認定した。同権利
侵害として訴えられた製品に付属している取付説明書に、“スリープモード 3”の機能が明
確に記載されており、また、同説明書がほかの 3 つの空調機製品にも適用することが明記
されたため、同 3 つの空調機も“スリープモード 3”を備えるものと思われる。本件の権利
侵害として訴えられた 4 製品は、出力だけが違い、機能が同じである同じシリーズに属す
るもので、業界の慣習に合致している。美的公司は、同 3 空調機には機能の相違があり、
特許権侵害に当たらないと主張しているものの、対応の証拠が提供できなかった。このよ
うな状況において、既存証拠によって同 3 空調機も同様に“スリープモード 3”を備えるも
のと推定でき、本件関連の特許権を侵害することになる。賠償額について、美的公司では
型番 KFR-26GW/DY-V2(E2)空調機製品の該当データのみを提供しており、同型番の空
調機製品の利益が 47.7 万人民元であることが特定できた。美的公司は、第一審法院から該
当の法的結果について説明を受けたにもかかわらず、ほかの型番の空調機の生産販売の該
当データの提供を拒否していることから、美的公司で生産されたほかの 3 空調機製品の利
益が 47.7 万人民元を下回らないと推定できる。ゆえに、本件のすべての証拠を総合して、
美的公司が経済的損害の賠償金として 200 万人民元を格力公司に支払うものと特定した。
【典型的意義】
本件の当事者双方がともに国内では有名な家電製品企業であり、状況が難しくて複雑で、
社会的影響が大きい事件である。第二審法院は、該当の法律及び司法解釈の規定を正確に
適用し、事実推定則と証明妨害の制度を合理的に適用して、事件の事実を適正に認定し、
権利侵害賠償額を的確に特定し、司法による保護力増強の精神を徹底した。権利侵害事実
の認定に関して、特定型番の権利侵害製品で権利侵害に当たると法により認定した上で、
特許の技術的特徴と関連する説明書の記載内容に基づき、当事者から異議が出たのに反証
を提供していないという具体的な状況と結びつけて、ほかの 3 製品も権利侵害に当たると
合理的な推定に至った。損害賠償額の特定に関しては、証明妨害の制度を積極的に運用し
ている。権利侵害者は、ほかの 3 製品の権利侵害による利得を得た証拠を持っているのに
これを提供しないが、第二審法院は、既存の証拠を基に、同 3 製品で得た利益は 1 つ目の
製品のそれ以下にはならないと推定し、これにより裁量権を運用して、特許権侵害に対す
る法定損害賠償の最高限度額以上で賠償額を特定し、権利侵害者の侵害代価を引き上げた。
【ポイント解説】
本事件において、広東省高級人民法院は、証拠妨害制度及び証拠規定を正確に適用して、
被疑侵害者の侵害行為及び侵害責任を正確に認定したことが重要なポイントになると思わ
れる。
1.被疑侵害者の侵害行為の認定について
本件において、権利者は、被疑侵害者の空調機製品 20 種類が侵害になると主張し、型
番 KFR-26GW/DY-V2(E2)空調機とその説明書を公証確保して証拠として提出したが、
他の機種に対して、実物を公証確保せず、カタログを証拠として提出した。
88
被疑侵害者は、実物証拠を提出していないほかの 19 種類の製品の技術特徴が証明でき
ないため、侵害にならないと主張した。
これに対し、一審人民法院は、
① 公証付購入した KFR-26GW/DY-V2(E2)型番の空調機に付した説明書には、
「本説明
書は KFR-23GW/DY-V2(E2)、KFR-26GW/DY-V2(E2)、KFR-32GW/DY-V2(E2)、
KFR-35GW/DY-V2(E2)機種に適用する」との記載があるため、KFR-26GW/DY-V2
(E2)と他の 3 機種は、何れも“スリープモード 3”の作動方式機能があると認定でき
る。被疑侵害者は、4 種類の機能が異なると主張しているが、関連証拠を通じて証明
できなかったので、その主張は認められない。
② 権利者が被疑侵害製品と主張したほかの 16 種類の製品について、権利者の提出したカ
タログから、当該製品の技術特徴を確認できず、実物や説明書などもないため、カタ
ログだけでは、その技術特徴を確認できないため、当該 16 種類製品は侵害にならない。
と認定した。
人民法院の上記のような判定は、民事証拠規定における「主張する者が立証する」原則
を正確に適用し、中国裁判実務において、証拠に対する審査が厳しくて、証拠が関連事実
を証明するにあたって、証明力が十分でなければならないことを示したと思われる。
なお、被疑侵害者の侵害行為の認定について、被疑侵害者が被疑侵害方法の実施者であ
るかも、本件の主な争点になった。本件において、権利者は、被疑侵害者の製造した
KFR-26GW/DY-V2(E2)型空調機の“スリープモード 3”の作動方式における技術構成が、
権利者の方法特許を侵害したと主張した。一方、被疑侵害者は、末端ユーザーが空調機の“ス
リープモード 3”の作動方式の使用者であるため、被疑侵害者は空調機の製造行為のみあり、
“スリープモード 3”の作動方式を実施していないと主張した。
これに対し、人民法院は、“スリープモード 3”の作動方式を含んだ空調機を製造する行
為には、被疑侵害方法の実施行為も含まれ、被疑侵害者の製造した空調機が当該機能を実
現するためには、被疑侵害方法を実施せざるをえないため、被疑侵害者も“スリープモード
3”の作動方式の使用者であると認定した。
2.侵害責任(損害賠償金)の判定について
被疑侵害者の損害賠償金の判定において、本件の人民法院は挙証妨害制度を適用した。
本件において、権利者は、損害賠償金を請求する根拠として、①被疑侵害者の侵害によ
り権利者の販売量が減少したことに関する算定根拠、②本件特許価値に関する評価報告書
を証拠として提出し、現在、中国市場で権利者と被疑侵害者のみ本件特許技術を実施して
いるので、本件特許のライセンス料は、当該評価価値の半分であると主張した。これに対
し、被疑侵害者は全部認めなかった。そこで、権利者は、一審人民法院に、被疑侵害者の
被疑侵害製品 20 種類の販売数量、販売価格、利潤等を確定できる税務証拠を提出させる
よう請求した。一審人民法院は、権利者の請求を認め、被疑侵害者に関係証拠を提出する
よう命じた。しかし、被疑侵害者は、侵害製品と確定した 4 種類の製品のうち、1 種類の
販売利益(CNY477000)に関する証拠のみを提出したので、他の 3 種類の販売利益に関
89
する証拠を提出しておらず、提出できない合理な理由も説明しなかった。被告のこのよう
な行為に対し、人民法院は、自己の有している証拠について正当な理由なしに提供しない
のは、挙証妨害になるため、挙証不能の不利結果を負担するよう要求した。その不利結果
として、立証できなかった 3 種類製品の販売利益については、上記の立証できた
CNY477000 を下回らないと推定できると判定し、結局、法定賠償最高額を超えた損害賠
償金を判定した。
挙証妨害制度について、中国の「民事訴訟証拠に関する最高裁の若干の規定」第 75 条
には、「一方の当事者が自己の有している証拠について正当な理由なしに提供しない場合、
もし、相手方当事者が当該証拠の内容が証拠の持有者に不利であることを証明できれば、
当該主張が成り立つものと推定できる。」と規定している。本条には三つの意味がある。①
一方当事者が、正当な理由なしに自分の有している証拠を提出しないとの事実が証明され
ていること。つまり、一方当事者が関係証拠を有しているのに提出しないとの事実につい
て、相手方の当事者が指摘するだけでは不十分で、関係事実を必ず証明しなければならな
い。②相手方当事者が当該証拠の内容が証拠を持っている者に不利であるこを主張してこ
そ、裁判官は、当該主張が成立すると推定することができる。(3)裁判官が推定した内容は
確定できるものである。つまり、その内容は、相手方当事者が主張している証拠に記載さ
れたのは、相手方当事者に不利な内容である。
上記のように、挙証妨害制度が司法解釈に明確な規定があるものの、司法実務における
適用はあまり多くない。特に損害賠償金の判定において、権利者が被疑侵害者の侵害利益
に関する証拠が被疑侵害者より持っていると主張しているが、多くの人民法院は、被疑侵
害者に関連証拠の提出を命じないか、或いは、被疑侵害者が裁判官から命令を受けたにも
関わらず、関係証拠の提出を拒絶した場合、権利者が主張している侵害利益を認めること
ではなく、法定賠償最高額の範囲で、あまり高くない金額を判定した。したがって、被疑
侵害者が侵害利益に関する提供しなくても、如何なる処罰もなく、かえって被疑侵害者に
有利になる。このようなやり方により、実務において、被疑侵害者が断固として侵害利益
に関する証拠を提供せず、権利者も仕方がなくなり、人民法院が判定した賠償額も権利者
の損失を補うことに遥かに不十分である状況になった。このようなやり方は、明らかに、
権利者の利益を保護できず、知的財産権制度の立法趣旨にも合致しない。したがって、本
件における挙証妨害制度の正確な適用及び損害賠償額の判定が、今後の裁判実務において、
積極な影響を与えることを期待してみる。
(5)アシュランドライセンス&インテレクチュアルプロパティーLLC、
北京天使専用化学技術有限公司が発明特許権侵害で北京瑞仕邦精細化工
技術有限公司、蘇州瑞普工業助剤有限公司、魏星光等を訴えた紛争事件
【事件の大筋】
アシュランド社は“水中水型ポリマー分散体の製造方法”発明特許の権利者であり、天使
90
公司はアシュランド社からライセンスを受けて中国本土内において上述の特許を合法的に
使用している。当該発明特許が製品の製造方法の発明特許であるが、この方法を利用して
製造される製品は新製品ではない。魏星光は 1996 年に天使公司へ入社し、天使公司総経
理及びアシュランド中国エリア業務総監を歴任した後に退職し、瑞仕邦公司の株主と取締
役となり、また、瑞普公司の設立後に同社の取締役に就任した。瑞普公司及び瑞仕邦公司
では、本件関連の方法特許で生産された製品と同一の完全水性ポリマー濃縮液が生産・製
造され、販売された。アシュランド社及び天使公司は、法院による証拠保全措置の申立、
公証保全など複数の方法により、被告の生産技術に係る証拠を調査収集していたが、被告
の完全たる生産技術に関する技術構想が証明できるすべての証拠を入手することができな
かった。アシュランド社及び天使公司は、瑞仕邦公司及び瑞普公司で生産販売された上述
の完全水性ポリマー濃縮液が特許権侵害に当たる、魏星光が侵害幇助に当たると主張して
江蘇省蘇州市中級人民法院に提訴し、被告に権利侵害の即時差止、経済的損害の賠償金及
び権利侵害行為の制止のために支払った合理的費用として合計 2,000 万人民元の連帯支払
を命令するよう求めた。そして同時に、本件被告を相手取って北京市第一中級人民法院に
関連の営業秘密侵害訴訟を提起した。
【裁判の結果】
江蘇省蘇州市中級人民法院は、本件特許方法に係る製品が特定の顧客層を有する工業用
化学製剤であり、権利者がオープン市場からは購入できず、また、瑞普公司の現場に入っ
て同製品の完全たる生産技術プロセスを知ることもできないため、アシュランド社では合
理的な努力を払い、挙証能力を尽くしたが、被告において確かにその特許方法が使用され
たとは確認することができなかった、と判断した。魏星光及び瑞普公司の基幹技術者とも
天使公司の元スタッフであり、本件関連の特許方法の完全たる生産プロセスに触れる機会
があること、そして瑞普公司では、生産プロセスにはある物質の添加方法と含有量が、本
件関連特許の技術構想と異なることを主張しているものの、法院から説明を受けたにもか
かわらず、これを裏付ける対応の証拠の提供を拒否したことを考えると、被告において特
許方法を使用して完全水性ポリマー濃縮液を生産した可能性が高いと思われ、被告から更
なる反証を提供していない前提に置かれては、本件の具体的な状況を踏まえ、権利侵害と
訴えられた技術構想が本件関連の特許権を侵害し、瑞普公司及び瑞仕邦公司が特許権侵害
に当たると認定できる。これを基に蘇州市中級人民法院の主宰の下で調停を進めた結果、
当事者双方間で合意した調停プランは、瑞仕邦公司、瑞普公司と魏星光は、本件関連の特
許方法を使用しないと承諾すること、瑞仕邦公司と魏星光は本件の特許権侵害で訴えられ
た行為についてアシュランド社に補償金 1,500 万人民元を支払い、関連の営業秘密権利侵
害で訴えられた行為についてアシュランド社に補償金 700 万人民元を支払うこと、となっ
ている。
【典型的意義】
この事件は、合理的な証拠則を運用した事実推定により製品の製造方法特許権侵害を認
定した上、調停によって高額な補償金に至った典型事例である。権利侵害の証拠取得の困
91
難性から、製品製造方法特許、特に新製品に属しない製品の製造方法特許は常に知的財産
権保護の難点となっている。本件において、審理担当法院は具体的な事件の状況に応じて、
権利者が既に合理的な努力を払い、挙証能力を尽くしており、既知事実及び日ごろの生産
経験と結びつけると、同一の製品が特許方法によって製造された可能性が高いと認定でき
る前提に置かれては、特許権者に更なる証拠提供を求めないで、挙証責任を権利侵害で訴
えられた者に適切に移転させた。また審理担当法院は、権利侵害で訴えられた者が、反証
提供ができていない状況において、特許方法を使用したと認定している。方法特許権利者
の挙証負担を合理的に軽減させるこの方法は、方法特許権利者の法による権利維持を便利
にする上で重要な意義がある。なお、審理担当法院では、社会的矛盾を適切な解決するこ
とを踏まえ、事件審理の際、事件の事実認定の質を確保するために、技術専門家を招聘し
て人民陪審員に就任させ、また、事実を究明し、是非を明確にした上で、合計 2,200 万人
民元と高額な補償金の支払を条件とする当事者間の調停合意を促すことで、権利者の利益
を確実に擁護した。
【ポイント解説】
発明特許侵害事件において、方法特許に関する侵害事件について、立証が難しいので、
特許権者の権利行使には難しさがある。本件は、外国企業が中国で特許権保護を受けた事
例として典型性を有するばかりでなく、方法特許侵害事件における立証方法などについて
も、重要な意義がある。 方法特許侵害訴訟において、当事者の立証責任は、一般の民事訴訟における立証規則に
従うべきで、
「主張する者が立証する」という規則が成り立つ。しかし、例外として、特許
法には、特許権侵害紛争が新製品に関する製造方法発明特許に及んでいる場合、同一製品
を製造する企業又は個人が、立証責任を負うべきだとの「立証責任の倒置」との規定があ
る。
本件において、被疑侵害製品が「新製品」に該当しないため、権利者側より被疑侵害者
の侵害行為を立証すべきで、その立証責任が直接に被疑侵害者に移転することができなか
った。権利者側は、侵害事実を証明するためにいろいろ工夫した。たとえば、法院による
証拠保全措置の申立、公証保全など複数の方法により、被疑侵害者の生産技術に係る証拠
を調査収集していたが、被疑侵害者の完全な生産技術に関する技術構成が証明できるすべ
ての証拠を入手することができなかった。
また、被疑侵害方法により製造される製品は、紙製造化工製品として、直接に市場から
購入できなかったので、その立証には更に難しさがあった。
上記のような立証における難点、事件の実情、権利者の努力などを総合的に考慮したう
え、人民法院は、立証責任を被疑侵害者に移転した。
近年来、実務において、「新製品」でない方法特許事件においても、人民法院が立証責任
を被疑侵害者に移転した実例がだんだん多くなり、最高人民法院の発行した知的財産権典
型判例及び指導意見においても、「方法特許により製造された製品が『新製品』に該当しな
いが、被疑侵害者が方法特許により製造された製品と同様な製品を製造したことを権利者
92
が証明でき、合理な努力を経ても被疑侵害者が方法特許を実施したことを証明できない場
合、既存事実と日常生活の経験と合わせて、上記同様製品が方法特許により製造された可
能性が高い場合、特許権者に更なる証拠の提出を要求せず、被疑侵害者に対し、その製造
方法が方法特許と異なる点について、立証するよう要求することができる」と示した。つ
まり、「新製品」でない方法特許侵害事件において、被疑侵害事実の立証責任が被告に移転
ができるためには、権利者側では、被疑侵害者が侵害になるとの「高度蓋然性」を証明で
きる証拠或いは合理的な理由、及び全てのルートを通じて立証責任を果たしたことを証明
できる証拠を提出する必要がある。
本件において、権利者側は、被疑侵害者の社員が係争特許権を「接触」した事実、人民
法院による証拠保全など侵害行為を証明するために全ての立証責任を果たしていること、
既知事実及び日ごろの生産経験に基づき、同一の製品が特許方法によって製造された可能
性が高いなどを立証したので、人民法院は、立証責任を被疑侵害者に移転させた。
よって、方法特許の権利行使において、権利者は、被疑侵害事実を証明するために、人
民法院による証拠保全や証拠収集などの対策を有効的に取ることができるばかりでなく、
被疑侵害者が侵害になるとの「高度蓋然性」を証明できる証拠、又は全ての立証責任を尽
くしていることなどを強調して、人民法院に立証責任の移転を求めることも有力な対策に
なると思われる。
(6)北京鋭邦涌和科貿有限公司が垂直的独占協定でジョンソン&ジョン
ソン(上海)医療器材有限公司、ジョンソン&ジョンソン(中国)医療
器材有限公司を訴えた紛争事件
【 事 件 の 大 筋 】
被告のジョンソン&ジョンソン社の医療用縫糸、吻合器などの医療器械製品の代理業者
である原告鋭邦公司は、ジョンソン&ジョンソン社と 15 年に亘って代理提携関係を結ん
でいる。2008 年 1 月、ジョンソン&ジョンソン社と鋭邦公司とは「代理販売契約書」及
び付属書を締結し、鋭邦公司がジョンソン&ジョンソン社の規定を下回る価格で製品を販
売してならないとの取り決めをした。2008 年 3 月、鋭邦公司は北京大学人民医院で行わ
れたジョンソン&ジョンソン医療用縫糸の販売に係る入札において、最低落札価格で落札
した。2008 年 7 月、ジョンソン&ジョンソンは、無断で価格を下げたとして鋭邦公司の
阜外医院・整形医院での代理権を取り消した。2008 年 8 月 15 日以降、ジョンソン&ジョ
ンソン社は、鋭邦公司からの医療用縫糸製品の発注を受けなくなり、2008 年 9 月には縫
糸製品、吻合器製品の供給を完全に停止した。2009 年、ジョンソン&ジョンソン社は鋭邦
公司との代理販売契約を更新しなかった。原告は上海市第一中級人民法院に提訴して、被
告の代理販売契約で取り決められた最低転売価格制限条項が、独占禁止法で禁じられる垂
直的独占協定に当たると主張し、被告に対し同独占協定を実行して原告の低価格競争入札
行為に“処罰”を与えることで原告にもたらした経済的損害の賠償金として 1,439.93 万人民
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元の支払を命じるよう、法院に請求した。
【裁判の結果】
上海市高級人民法院は第二審において、中国本土地域の医療用縫糸製品市場である本件
の該当市場では競争が不十分で、ジョンソン&ジョンソン社がこの市場で相当強い勢力を
有するものとして、本件に係った最低転売価格制限協定が本件の該当市場において競争の
排除・制限の効果を生じたと同時に、明らかで十分な競争促進の効果を上げておらず、独
占協定に当たると認定すべきと判断した。ジョンソン&ジョンソン社が鋭邦公司に講じた、
一部の病院での代理販売資格の取消や縫糸製品供給停止の行為は、独占禁止法に禁じられ
る独占行為に該当するもので、ジョンソン&ジョンソン社は上述の独占行為で鋭邦公司に
もたらした 2008 年の縫糸製品の正常な利益に対する損害を賠償しなければならない。そ
こで、ジョンソン&ジョンソン社から経済的損害の賠償金として 53 万人民元を鋭邦公司
に支払う旨の判決を下した。
【典型的意義】
この事件は中国国内初の垂直的独占協定をめぐる紛争事件であり、全国初の終審判決で
原告の勝訴となった独占をめぐる紛争事件でもあり、我が国の独占禁止裁判の発展におい
てマイルストーン的な意義を持っている。
この事件は、最低転売価格制限行為に関する独占禁止法上分析の一連の重大な課題に係
り、その第二審判決で、最低転売価格制限行為に関する法的評価の原則、挙証責任の配分、
分析評価の要素等の課題について模索と試みを行い、その分析手法と結論は、我が国の独
占禁止事件の裁判及び独占禁止法の実施の推進にとって重要な意義を有する。この事件の
判決は、人民法院の法による独占行為制止、公正な市場競争の保護、促進の機能・役割が
十分に表現され、発揮されるものとなった。
【ポイント解説】
この事件は中国国内初の垂直的独占協定をめぐる紛争事件で、以下の 2 点において積極
的な意義を有する。
1.挙証責任の配分について
「独占行為に起因して発生する民事紛争事件の審理における法律適用の諸問題に関する
最高人民法院の規定」第 7 条には「提訴される独占行為が独占禁止法第 13 条第 1 項第(1)
号から第(5)号に規定される独占協定に該当する場合、被告は当該協定が競争を排除、
制限する効果を有しないことについて挙証責任を負わなければならない。」と定めている。
但し、当該規定は水平的協定紛争にかかるもので、本件の垂直的協定には及んでいない。
現行法律には関連規定がないので、
「独占禁止法」第 14 条規定の協定に対する独占禁止民
事訴訟においては、
「主張する者が挙証する」原則に基づき、原告より係争協定が競争の排
除・制限の効果を生じたことを証明すべきである。
したがって、本件において、二審法院は、上訴人がひとまず、最低転売価格制限協定が
存在することを証明した後、本件最低転売価格制限協定が競争の排除・制限の効果を生じ
たことを証明できる関連証拠を提出すべきであると認定した。上訴人が上述の証拠を提出
94
した後、被上訴人は反論証拠を提出すべきである。
2.垂直的独占協定の認定原則について
垂直的独占協定とは経営者と取引相手間において締結した協定を言う。
「独占禁止法」に
基づき、垂直的独占協定には以下のものが含まれている。
① 第三者へ転売する商品の価格を固定する。
② 第三者へ転売する商品の最低価格を制限する。
③ 国務院の独占禁止法執行機関が認定するその他の独占協定。
転売価格を制限する全ての協定が違法であるわけではない。経済学の角度から見れば、
最低転売価格を制限する行為は、
「両刃の剣」で良い面もあるが、危害が及ぶおそれもはら
んでいる。考えられる主な危害としては、通常、市場公平競争、経済運行効率と消費者利
益等のさまざまな面においてマイナスの影響が現れることが考えられる。但し、その積極
的な意義は、代理業者間の悪性競争を避けることができ、異なるブランド間の同類製品間
の良性競争を促進することにある。転売価格を制限することは同時に、競争の制限と促進
の市場効果を有するので、転売価格を制限する協定が独占協定にあたるかどうかは一概に
論じることはできない。
合理の原則と当然違法の原則は独占審査における 2 大原則である。当然違法の原則は主
に、明らかに経済効率を損なう行為に用いられるが、企業の市場特定行為が法律に禁止さ
れる範囲に属すれば違法と見なし、当該行為の市場に対する影響を総合的に考慮する必要
はない。一方、合理の原則は米国独占禁止法において競争を制限する行為の違法性を判断
する基本原則から発展したものである。その核心は、合理分析の方法で、競争を制限する
行為の社会コストと補償性収益を対比することを通じて、その行為が合理的であるかどう
かを判断し、さらに、合法であるかどうかを認定するものである。
中国において、転売価格を制限するという認識はようやく始まった段階で、現実的な分
析と判例の蓄積を通じて中国の独占禁止法の執行実践を積むことで、中国独特の独占協定
認定理論を形成すべきである。合理の原則を採用して転売価格の制限が独占協定を構成す
るかどうかを判断することは中国の国情に合致し、現在の国際的な独占禁止法の発展趨勢
にも一致する。なお、
「独占禁止法」第 13 条に基づき、独占協定は競争の排除・制限の効
果を生じたことを構成要件とすべきである。当該概念は水平的独占協定を規範する条項に
定められているものの、転売価格を制限する協定においても同じく適用すべきである。そ
のため、法院が独占審査をする際、合理の原則にて最低転売価格制限協定が競争の排除・
制限の効果を生じたかどうかを判断し、そのプラス・マイナス効果についおて十分に考慮
して、最終的に独占協定を構成するかどうかを判断することを求めている。
本件において、二審法院もまさに合理の原則に基づき、最低転売価格を制限する行為に
対して総合的に分析した。即ち、関連市場の競争が十分であるかどうか、被告の市場地位
が強大であるかどうか、被告が最低転売価格を制限した動機、最低転売価格を制限した競
争効果等の四つの面を最も重要な考慮するべき要素と考え、最低転売価格を制限した行為
を分析・評価することを基本方法とした。
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かつ、本件の事実に基づき、本件の関連市場における競争が不十分で、ジョンソン&ジ
ョンソン社がこの市場で相当強い勢力を有し、本件において、最低転売価格を制限した動
機は価格競争を避けることにあり、本件における最低転売価格制限協定が競争の排除・制
限の効果を生じたが、明らかで十分な競争促進の効果を上げていなかったため、最終的に
独占協定に当たると認定した。
(7)江西億鉑電子科技有限公司、余志宏らによる営業秘密侵害罪をめぐ
る刑事事件
【事件の大筋】
珠海賽納公司の元従業員である被告人の余志宏、羅石和、肖文娟、李影紅は、日ごろの
作業から、珠海賽納公司のブランドエリア、南米エリア、アジア・太平洋エリアの顧客資
料及び 2010 年の売上数量、売上金額と珠海賽納公司の製品のコスト価格、警戒価格、販
売価格等営業上情報に接触し、把握することができ、かつ、珠海賽納公司の営業秘密を保
全する義務を有する。2011 年初頭、余志宏は他人とともにプリンター用トナーカートリッ
ジ等の消耗品を生産する江西億鉑公司を設立し、そして、江西億鉑公司の製品を販売する
中山沃徳公司及び香港 Aster 公司、米国 Aster 公司、欧州 Aster 公司を設立した。余志宏、
羅石和、肖文娟、李影紅らは、各自の仕事の関係で把握した珠海賽納公司の顧客の製品購
入の状況、販売価格システム、製品コスト等の情報を無断で江西億鉑公司、中山沃徳公司
に持ち出して、それを基に同 2 社の一部製品の米国価格システム、欧州価格システムを制
定した上、珠海賽納公司のそれよりも低い価格で、珠海賽納公司の一部の元顧客に同一型
番の製品を販売した。江西億鉑公司、中山沃徳公司の財務資料と輸出通関書について監査
を行った結果、2 社から珠海賽納公司元顧客の 11 社に販売した珠海賽納公司の製品と同一
型番の製品は合計 7,659,235.72 米ドルの金額となっている。珠海賽納公司の同一型番の製
品の平均売上粗利益率で計算すると、珠海賽納公司にもたらした経済的損害が合計
22,705,737.03 人民元(2011 年 5 月から 12 月までの経済的損害額は 11,319,749.58 人民
元、2012 年 1 月から 4 月までの経済的損害額は 11,385,987.45 人民元)となっている。
【裁判の結果】
広東省珠海市中級人民法院は第二審において、江西億鉑公司、中山沃徳公司、余志宏、
羅石和、肖文娟、李影紅の行為が営業秘密侵害罪に当たるものと判断し、江西億鉑公司に
は罰金 2,140 万人民元に処すること、中山沃徳公司には罰金 1,420 万人民元に処すること、
余志宏には有期懲役六年に処し、罰金 100 万人民元を併科すること、羅石和には有期懲役
三年に処し、罰金 20 万人民元を併科すること、李影紅には有期懲役二年、執行猶予三年
に処し、罰金 10 万人民元を併科すること、肖文娟には有期懲役二年、執行猶予三年に処
し、罰金 10 万人民元を併科することとの判決を下した。
【典型的意義】
この事件は全国最大の経営情報類の営業秘密侵害に当たる刑事犯罪事件で、人民法院か
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ら処された 3,700 万元に至る罰金総額が、全国の営業秘密犯罪事件における罰金額の最大
額を更新した。これは、広東省法院系統に知的財産権刑事事件の審理で知的財産権裁判の
“三合一”モードを実行して成功を収めた手本となり、司法による知的財産権保護の全容性
と有効性を目立たせ、司法による知的財産権保護の主導的な役割を十分に示した。本件裁
判は、罰金額の算定でも自然人が負担する刑事責任の面でも、知的財産権侵害の犯罪行為
に対する厳罰の方向性を示した。
【ポイント解説】(判決書未公開)
(8)宗連貴等 28 人による登録商標詐称罪刑事事件
【事件の大筋】
2007 年 11 月ごろ、被告人の宗連貴、黄立安は、共同出資して油脂会社を設立し、2008
年 8、9 月ごろから 2011 年 9 月 4 日までの間、複数名の作業者を雇い会社の中で“金龍魚”、
“魯花”の登録商標を詐称した食用油を生産し、販売していると同時に、購入してきた不法
に製造された“金龍魚”、“魯花”の登録商標標章を外部に販売していた。宗連貴、黄立安が
生産した食用油が詐称品であることを知りながら、被告人の陳金孝らは雇用を受けて生
産・販売に従事し、不法経営額が 19,249,759.5 人民元となっている。2009 年末から 2011
年にかけ、被告人の劉志勇らは、宗連貴油脂公司で生産された“金龍魚”、“魯花”食用油が
登録商標詐称品であることを知りながら、数回も購入し、これを販売しており、事件に係
わる金額が数百万人民元となっている。
【裁判の結果】
河南省高級人民法院は第二審に、被告人の宗連貴、黄立安らは、違法犯罪活動を行う目
的で会社を設立し、かつ、犯罪の実施を主な活動としているため、会社ではなく、自然人
による犯罪として扱うべきと判断した。被告人の宗連貴は登録商標詐称罪、不法に製造さ
れた登録商標標章の販売罪を犯したもので、複数の罪をまとめて処断することとして、有
期懲役十二年六ヶ月の執行に処し、罰金 1,050 万人民元を併科すること、被告人の黄立安
は登録商標詐称罪、不法に製造された登録商標標章の販売罪を犯したもので、複数の罪を
まとめて処断することとして、有期懲役十一年六ヶ月の執行に処し、罰金 1,050 万人民元
を併科すること、被告人の陳金孝は登録商標詐称罪、不法に製造された登録商標標章の販
売罪を犯したもので、まとめて有期懲役八年の執行に処し、罰金 90 万人民元を併科する
こと、被告人の劉志勇は、登録商標詐称商品販売罪を犯したもので、有期懲役四年三ヶ月
に処し、罰金 97 万人民元を併科するものとし、ほかの 24 名の被告人もそれぞれ期間が異
なる有期懲役及び金額が異なる罰金を科する判決が言い渡された。
【典型的意義】
この事件は刑事的手段を活用して知的財産権侵害犯罪を取り締まり、市場秩序を維持し、
食品安全を保護する典型事例である。犯罪金額の高さ、被害の深さ、影響の広さ、処され
た罰金額の高さは、全国の知的財産権裁判分野でも類を見ないほどの事件となっている。
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この事件は、河南法院系統に知的財産権刑事事件の審理に知的財産権裁判の“三合一”を実
行した典型判例であり、人民法院の刑事司法による知的財産権の保護力の増強、知的財産
権侵害犯罪に対する厳正な摘発の精神が示された。審理担当法院では、各種の刑罰手段を
総合して運用し、決然とした姿勢で犯罪者への有罪判決及び刑罰の判断を行い、特に財産
刑を運用して知的財産権侵害犯罪への処罰力を増強することを重視し、経済面から犯罪者
の再犯能力と条件を剥奪するよう力を入れた。本件 28 名のすべての被告人には法により
刑事責任が追及され、被告人に有期懲役を科すると同時に罰金刑を科することとし、罰金
総額が 2,704 万人民元となり、知的財産権侵害犯罪行為への強力な威嚇となり、市場環境
が浄化され、市場経済秩序が維持された。
【ポイント解説】
本件は、刑事法律に基づいて、刑事司法手続きにより、知的財産権を深刻に侵害し、知
的財産権犯罪を構成する模倣事件について、模倣者の刑事責任を追及した事件であるが、
被告人が 28 名であり、且つ、被告人が全て刑事責任を追及され、有期懲役が科されると
同時に 2,704 万人民元となる高額の罰金刑が科されたので、広範な注目と引起し、大きい
影響力を生じたが、知的財産権侵害犯罪行為への強力な威嚇となった。
本件において、関係犯罪行為は、被告人の宗連貴、黄立安が設立した油脂会社による単
位犯罪であるか、それとも、関係被告人による自然人犯罪であるかが、争点の一つとなっ
ていたが、違法犯罪活動を行う目的で会社を設立し、又は、会社が設立後に犯罪の実施を
主な活動としている場合は、単位犯罪ではなく、自然人犯罪に該当するので、本件におけ
る犯罪行為も、前記理由で、油脂会社の単位犯罪ではなく、各被告人による自然人犯罪で
あると判断された。
もし、油脂会社の単位犯罪と判断される場合は、単位犯罪の刑事責任が原則として会社
に対して罰金を科し、且つ、その直接責任者に対して刑罰を科すべきなので、被告人 28
名全員の刑事責任を追及し難くなる。被告人 28 名全員の刑事責任を追究できたのは、本
件を自然人犯罪と認定されたからである。
また、本件に係わる犯罪は、登録商標詐称罪、登録商標詐称商品販売罪及び不法製造登
録商標標章の販売罪である。
その内、登録商標詐称罪は、登録商標権者の許諾を得ずに、同一種類の商品に登録商標
と同一の商標を使用した行為を懲罰対象とするが、不法経営額が 5 万元以上又は違法所得
額が 3 万元以上の場合、或いは、二種類以上の登録商標を冒用し、不法経営額が 3 万元
以上又は違法所得額が 2 万元以上の場合、或いは、その他重大な情状がある場合は、訴追
基準に達するので、刑事責任を追究できる。ここで、留意必要のあるところは、民事責任
上、類似商品における類似商標の無断使用も商標権侵害となるが、犯罪として、刑事責任
を追究する場合は、同一種類の商品における同一商標の無断使用でなければならない。
登録商標詐称商品販売罪は、登録商標を冒用した商品であることを明らかに知りながら
販売した行為を懲罰対象とするが、販売金額が 5 万元以上である場合、或いは、まだ販売
されていないが、商品の価格額が 15 万元以上である場合、或いは、販売金額が 5 万元以
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下であるが、販売金額とまだ販売されていない商品の価格額を合わせて 15 万元以上であ
る場合は、訴追基準に達するので、刑事責任を追究できる。 登録商標標章の不法製造販売罪は、他人の登録商標の標識を偽造し、無断で製造し、又
は偽造し、無断で製造した登録商標の標識を販売した行為を懲罰対象とするが、偽造、無
断製造し、又は販売した偽造、無断製造の登録商標の標識の数量が 2 万件以上、又は不法
経営額が 5 万元以上若しくは違法所得額が 3 万元以上の場合、或いは、偽造、無断製造
し、又は販売した偽造、無断製造の二種類以上の登録商標の標識の数量が 1 万件以上、又
は不法経営額が 3 万元以上若しくは違法所得額が 2 万元以上の場合、或いは、その他重
大な情状がある場合は、訴追基準に達するので、刑事責任を追究できる。
本件の 28 名の被告者は、それぞれ、上記の状況に該当する行為を行っていた。人民法
院は、各被告人が行った行為、各自の犯罪情状、各犯罪における役割、及び、係わる非法
経営額等を考慮した上、各自の違法情状に応じて、異なる刑罰を科するとの旨の判決を言
渡した。
本件の懲罰力度から、中国の刑事司法による知的財産権の保護力の増強、及び、知的財
産権侵害犯罪に対する厳正な取締の精神を見出すことができる。
知財権侵害事件の刑事対応は、処罰と威嚇の機能を有し、且つ、侵害事件の根本的な解
決にも有利である。そして、上記のように、中国が知財権侵害に対する打撃と刑事司法に
よる知財権保護を強化し、重要視している状況で、知財権侵害事件について、各企業は、
刑事手段の応用を重視し、積極的に刑事対応を展開する価値があるが、そのためには、中
国の刑事訴追基準等を了解する必要がある。そして、刑事責任を追及するためには、被告
の侵害行為を証明する証拠だけでは不十分で、侵害の情状が重大であることを証明できる
証拠も必要であるが、専門の調査会社を利用して、できる限り、犯罪の情報を十分に把握
したうえ、公安局へ告発したほうが得策である。
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4.北京高級法院「北京市法院 2012 年知識産権訴訟十大案件」
(2013 年 3 月 27 日)
公表サイト:2013 年 3 月 27 日北京法院網 http://bjgy.chinacourt.org/article/detail/2013/03/id/931715.shtml (1)BMW の商標権侵害及び不正競争事件(最高人民法院「司法による
知的財産権保護 8 典型事例」の 3)
略
(2)韓寒が百度文庫を訴えた著作権侵害事件(最高人民法院「2012 年
中国法院知識産権司法保護十大案件」の 5)
略
(3)「次仁卓瑪」撮影作品の著作権事件
1. 事 件 の 性 質
著作権侵害紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:薛華克と燕婭婭、北京翰海拍売有限公司間の著作権侵害紛争事件(撮影作品「次
仁卓瑪」と油絵作品「阿媽与達娃」)
争点:被告が撮影作品「次仁卓瑪」と油絵作品「阿媽与達娃」に対して享有する著作権を
侵害したと言う原告の主張が成り立つか否かの問題
3. 書 誌 的 事 項
第一審:北京市朝阳区人民法院(2011)朝民初字第 20681 号
原告:薛華克
被告 1:燕婭婭
被告 2:北京翰海拍売有限公司
判決日:2012 年 5 月 16 日
第二審:二審人民法院による調停を経て、双方は和解に達した。
100
関連条文:「中華人民共和国著作権法」第 10 条第 1 項第(14)号、第 12 条、第 47 条第
(6)号、第 49 条
出典:北京知識産権律師網
http://www.cnipr.net/article_show.asp?article_id=15572
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
原告薛華克は撮影家で、被告燕婭婭は油絵の専業創作者である。薛華克は、1997 年に出
版した個人の撮影集「藏人」に撮影作品「次仁卓瑪」を収録した。2007 年 5 月、燕婭婭
の油絵作品集「婭婭山上的故事」には油絵「阿媽与達娃」(注 160×130cm)を収録した。
「次仁卓瑪」と「阿媽与達娃」を対比してみれば、両作品が表現する画面の主体は、いず
れも部屋の中で赤ん坊に哺乳する一人のチベット族女性であり、両者は、全般の構想、場
景の配置、人物の些細な姿勢、顔色、服装の特徴及び物品の置き方、光線の明暗の処理な
どがいずれも同一であり、油絵の画面が比較的模糊であることに過ぎない。薛華克は、燕
婭婭の油絵「阿媽与達娃」は無断で自己の撮影作品を演繹したものであり、かつ、燕婭婭
は上述の油絵の展覧、出版及び競売を行い、「次仁卓瑪」作品に対する自己の翻案権を侵
害し、燕婭婭に対して侵害行為を中止し、謝罪すると同時に、自己の経済損害 1.5 万元を
賠償し、かつ、すでに競売取引した作品を回収し、廃棄するよう主張した
( 2) 第 一 審 判 決
一審人民法院は、次のとおりに判定した。
①当事者の提供した著作権に係る原稿、合法的な出版物は、著作権の権属を証明する初歩
的証拠とすることができる。中国撮影出版社が出版した撮影集「藏人」及び浙江撮影出版
社が出版した図書「旅游風光撮影」、「撮影名家大講堂」のいずれにも係争撮影作品「次
仁卓瑪」を収録し、上述の出版物における署名は、いずれも薛華克であり、かつ、薛華克
は更に係争著作品のデジタルネタも提出した。したがって、反証が無い状況下で、薛華克
は係争撮影作品の撮影者として法により著作権を享有すると判定することができる。
②本事件において、薛華克の撮影作品「次仁卓瑪」と燕婭婭の油絵「阿媽与達娃」は、同
一人物を創作対象とした 2 つの類型の相異作品であるが、薛華克は、燕婭婭の油絵が自己
の撮影作品に対して翻案したものであると主張し、燕婭婭は係争油絵は自ら独立的に創作
完成したものであると主張した。前記の内容について、優先的に燕婭婭が係争油絵を創作
した際に薛華克の撮影作品を参照したか否かを判断すべきである。2 つの作品間の対比に
よれば、燕婭婭の油絵と薛華克の撮影作品は、高度に類似し、油絵の画面が相対的に模糊
するほか、両者は、全般の構想、場景の配置、人物の些細な姿勢、顔色、服装の特徴及び
101
物品の置き方、光線の明暗の処理などがいずれも同一である。燕婭婭は、係争油絵が自ら
独立的に創作したことを証明するために、略図 1 枚のみ提出したものの、当該略図と係争
油絵の間に明らかな相異が存在し、標柱した日時とその作品集「婭婭山上的故事」に標柱
した係争油絵の年度も一致しないので、人民法院は、当該証拠及び燕婭婭の上述の弁解内
容のいずれも採用しなかった。注意を払うべきところは、撮影では撮影器材を以って瞬間
的に物体の形象を固定するに反して、油絵の創作は絵画者が目で創作対象を観察した後、
更にその記憶と絵画技能に頼って平面上にて表現し、その創作過程では比較的長い時間を
有し、短時間では完成できないことである。油絵作品と撮影作品が同一対象を表現する際
に、客観上存在する作品の主題、表現の内容が類似する可能性はあるものの、各自が独立
的に創作する状況下で、創作過程、手段が完全に相異するので、両者は係争油絵と係争撮
影作品の間で構想、場景、光線ないし人物の些細な姿勢、顔色、服装の特徴などにおいて
高度に類似する結果には達しかねる。しかも、薛華克の撮影作品は、先行して発表したも
のであり、燕婭婭が係争油絵を創作した際には当該撮影作品に接触できる機会があった。
上記をまとめると、燕婭婭が係争油絵を創作していた際に薛華克の撮影作品を参照してい
たことを判定できる。
③文学、芸術分野において、いかなる著作物の創作も前人の成果又は既存素材の使用から
逸脱できない。法律では創作者が前人の著作物に対してある程度参考することを禁止して
いない。しかし、かかる参考は、合理的な範囲以内に限定されるべきであり、著作品に対
する「著作権法」の保護は、著作物の表現に対する保護であり、著作物の思想又は主題に
及んでいない。したがって、他人の著作物に対する参考は、著作物の思想、主題又は公的
分野に該当する内容に対する参考に限定すべきであり、他人の著作物における独創性の表
現に対しては無断で使用してはならない。本事件の場合、燕婭婭が薛華克の撮影作品を参
照して係争油絵を創作したと判定した前提下で、燕婭婭が侵害を構成するか否を判断する
キーポイントは、燕婭婭が係争撮影作品における独創性の表現を使用したか否かを確定す
ることにある。
著作物の表現は、著作物が感知されやすい形式であり、その独創性の外在的な表現である。
相異の類型に該当する著作物は、その創作過程、表現方法が相異するので、各著作物の表
現にも区別がある。具体的に言えば、薛華克の係争撮影作品の場合、その独創性は、撮影
時の撮影対象に対する選択、撮影時機と角度の把握、撮影技能の運用及び後期の編集処理
等であり、創作過程では薛華克個人の判断と思考を体現している。写実類の著作物として
著作物で表現される人物は、創作のための題材に過ぎず、著作物が現す画面の形象こそ当
該著作物が独創性を具有する表現であり、著作物が法律に保護される部分である。そのう
ち、著作物の画面が現す構図、光線の対比、人物の些細な姿勢、顔色、服装及び物品の置
き方等は、著作物で表現する有機組成部分に該当する。燕婭婭的係争油絵と薛華克の撮影
作品の間の対比によれば、著作物の類型が創始するほかに、両者が表現した人、物、場景
の画面の形象は、基本的に同一であり、燕婭婭が係争油絵を創作した際に、薛華克の著作
102
物の主題を参照しただけではなく、薛華克の著作物で独創性を有する表現を使用していた
ことを表明する。
④中国「著作権法」の関連規定に基づき、翻案権とは、著作物を翻案することにより、独
創性を有する新たな著作物を創作する権利のことを指す。いわゆる著作物の翻案とは、通
常、著作物の内容を変更しない前提下で、著作物をある一種の類型からもう一種の類型に
変更することを指す。翻案権は、著作権者が享有する著作財産権利であり、他人の著作物
を変更する際には著作権者の許諾を得ると同時に、変更者は、新たな著作物の著作権を行
使する際に原著作物の著作権を侵害してはならない。上述のとおり、燕婭婭は、係争油絵
を作成した際に、薛華克の撮影作品において独創性を具有する画面形象を使用し、両者の
基本内容は同一であるものの、その創作方法が相異し、係争油絵の作成に燕婭婭が表現対
象に対する観察、理解、及び絵画の顔料と画家自身の絵画技能を借用することを通じてこ
そ完成できたので、絵画の作成過程においてその個人の構想と判断を体現し、かつ、係争
油絵と薛華克の撮影作品に比べると、両者は、視覚上、依然として比較的明らかな識別可
能な相異を有する。したがって、燕婭婭の係争行為は、著作物の基本内容を変更しない前
提下で、著作物を撮影作品から油絵作品に変更した行為に該当し、薛華克の撮影作品に対
する変更を構成する。しかし、燕婭婭は、薛華克の撮影作品を変更した際に、薛華克の許
諾を得ていなく、かつ、変更後の油絵作品を展覧会にて展示・出版し、かつ、対外的に競
売したにもかかわらず、薛華克に対してはその報酬も支払っていないので、薛華克が係争
撮影作品に対して享有する翻案権を侵害し、侵害を中止、損害を賠償する法的責任を負う
べきである。
上述の理由により、次のとおり判示した。
①被告燕婭婭は、本判決の発効日から直ちに係争侵害油絵の使用行為を中止すること。
②被告燕婭婭は、本判決の発効日から十日内に原告薛華克の経済損害一万五千元を賠償
すること。
③原告薛華克のその他の訴訟請求を棄却する。
( 3) 第 二 審 判 決
被告燕婭婭は、一審判決を不服して上訴を提起した。二審人民法院による調停を経て双方
当事者は和解に達した。
しかし、双方当事者は、和解協議内容を守秘した。
5. 解 説
北京市高級人民法院の意見によれば、本事件の重要な意義は、本事件が北京人民法院が
他人の撮影作品を参照して油絵を作成した行為について侵害認定した初めての事件であり、
一定の典型的意義を有し、法学分野、美術分野、撮影分野及び新
媒体に広範に注目され
ていたことにある。当該事件の審理を経て人民法院は、許諾を得ずに、他人の撮影作品を
103
参照して油絵を作成し、油絵の中に撮影作品が具有する独創性の画面・形象を利用し、か
つ、油絵に対して商業使用をした行為は、撮影作品の翻案権に対する侵害を構成し、著作
権侵害行為に該当するとのことを明確化した。当該事件の裁判は、撮影作品の著作権者の
合法的権利を保護しただけではなく、美術分野の従事者の創作行為を規範化するのに対し
て、重要な現実的意義と方針の役目を果たしている。
芸術の表現手法として、客観上、確かに油絵作品と撮影作品の表現主題、著作物の内容等
の類似又は同一の可能性が存在する。しかし、本事件において、双方当事者の係争撮影作
品と油絵作品は、それぞれ独立的に創作した状況下で、創作手段と過程も完全に相異する
ものの、依然として構図、場景、光線ないし人物の姿勢、顔色等において高度の類似を構
成している。しかも、原告の撮影作品の発表期日は先行し、かつ、原告も自己の著作物の
権利帰属を証明できる十分な証拠を提出した。また、被告が油絵作品を創作した際に原告
の撮影作品に接触できた機会があったことを証明できる証拠がある。当該事実によれば、
被告が創作過程に原告の撮影作品を参照し、原告の撮影作品において独創性と芸術性を有
する表現を侵害したと認定することができる。
「著作権法」第 10 条第 1 項第 14 号の規定に基づき、翻案権――著作物の変更とは、著作
物を翻案することにより、独創性を有する新たな著作物を創作する権利のことを指す。い
わゆる著作物の翻案とは、著作物の内容を変更しない前提下で、著作物をある一種の類型
からもう一種の類型に変更することを指す。他人の著作物を変更する際には著作権者の許
諾を得ると同時に、変更者は、新たな著作物の著作権を行使する際に原著作物の著作権を
侵害してはならない。本事件において、被告は、事実上、原告の撮影作品を油絵作品に翻
案する際に、すでに原告の撮影作品に対する変更を構成していた。したがって、被告は、
原告の許諾を得ずに、無断でその著作物における独創性の表現を侵害し、著作権侵害を構
成した。
しかし、本事件との関連性を有するもう一件の撮影作品に基づいて創作した油絵が撮影作
品の著作者の翻案権を侵害したか否かの事件においては、両作品の類似程度が相異してい
たので、人民法院は、全く相異する判断を下した。人民法院は、審理・対比を経て、両作
品間に存在する同一のところは、主に人物自体の固有体象、姿勢と顔色であり、油絵作者
の憶測により生じた者ではないだけではなく、撮影者が撮影過程に創作し、生じたもので
もないと判定した。相違する著作物として、油絵と撮影作品の創作手法、使用した担体材
料は、いずれも相異し、かつ、油絵の寸法、色彩、及び局部の細目等の表現方式は、撮影
作品ともその相異を有する。上述の理由をまとめた上、人民法院は、油絵作者は撮影作品
の翻案権を侵害していないと判定し、撮影作品の著作者の訴求を棄却した。したがって、
「撮影作品に基づいて創作を行う」ことがどの程度の侵害を構成しているかについて、司
法実務上、依然として論議されている。
本事件の判決は、美術分野において、常に見られる現象――「撮影作品に基づいて創作を
行う」ことがどの程度の侵害を構成しているかについて、その回答を提供している。すな
わち、思想、主題は参考することはができるものの、独創性を有する表現は無断で使用す
104
ることができない。文学芸術分野において、その著作物は、創作過程において前人の成果
又は素材を参考・利用する可能性があり、法律でも前人の作品に対する創作者の参考を禁
じていないものの、合理的な範囲に限定されるべきであり、当該合理的範囲は、正に著作
物の思想、主題又はすでに公知分野に属する内容に対する参考であるが、許諾を得ずに、
他人の作品の中で独創性を有する表現を使用した場合は、侵害を構成する可能性がある。
本事件の争点は、保護されている著作権の著作物の対象、翻案権の内包、相異する累計の
著作物の侵害判定等の著作権法理論及び実務問題に及んでいるだけではなく、絵画分野と
撮影分野で共に注目している従事者の切実な利益に影響をもたらす現実問題にも及んでい
る。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
油絵分野で極一般的に存在している現象は、一部の撮影作品を臨摸して創作することで
ある。本事件は、関連業界の従事者に一つの啓示を提供している。すなわち、いかなる創
造力もない臨摸は原作者の翻案権を侵害する。
油絵分野以外の企業にとって、当該事件は同様にその参考意義を有する。すなわち、同
一の主題について、相異する芸術表現手法を採用した場合は、依然として他人の先行権利
を侵害する可能性がある。
著作権者の許諾を得ずに、翻案等の方式で著作物を使用した場合は、侵害行為に該当す
ることが明らかである。関連従事者は、独創性を有する表現こそ「著作権法」で保護する
ものである主旨を忘れてはならない。
(4)「舟山帯魚」証明商標紛争事件 1. 事 件 の 性 質
証明商標侵害紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:舟山市水産流通与加工行業協会と北京申馬人食品銷售有限公司等間の証明商標専
用権侵害事件
争点:北京申馬人食品銷售有限公司が許諾を得ずに商品に「舟山精選帯魚段」を標注した
行為は、本件商標の権利を侵害した否か
3. 書 誌 的 事 項
105
第一審:北京市第一中級人民法院(2011)一中民初字第 9242 号
原告:舟山市水産流通与加工行業協会
被告:北京申馬人食品銷售有限公司(以下「申馬人公司」という)
北京華冠商貿有限公司(以下「華冠公司」という)
判決日:2011 年 11 月 30 日
第二審:北京市高級人民法院(2012)高民終字第 58 号
上訴人:舟山市水産流通与加工行業協会
被上訴人:北京申馬人食品銷售有限公司
原審被告:北京華冠商貿有限公司
判決日:2012 年 11 月 8 日
関連条文:
①「中華人民共和国商標法」(以下「商標法」という)第 3 条第 1 項
②「団体商標、証明商標登録と管理弁法」第 20 条
③「商標法」第 16 条第 2 項
④「中華人民共和国商標法実施条例」(以下「商標法実施条例」という)第 6 条第 1 項、
第 49 条
出典:北大法宝
http://www.pkulaw.cn/fulltext_form.aspx?Db=pfnl&Gid=118332200&keyword= 舟 山 帯
魚&EncodingName=&Search_Mode=accurate
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
原告舟山市水産流通与加工協会は、第 5020381 号証明商標「舟山帯魚 ZHOUSHAN
DAIYU 及図」
(本件商標)の専用権者であり、その商標有效期間は、2009 年 2 月 21 日~
2019 年 2 月 20 日である。2008 年 11 月 20 日、当該商標は、初歩審定公告されたと同時
に、
「『舟山帯魚』証明商標使用管理規則」
(以下「管理規則」という)が公告された。当該
「管理規則」の規定に基づき、「舟山帯魚」は、登録された証明商標となり、「舟山帯魚」
の品質証明に用いられる。
「舟山帯魚」証明商標を使用した製品は、加工製造等の過程にお
いて、舟山市地方標准 DB3309/T22-2005「舟山帯魚」の要求を満たさなければならない。
2009 年 8 月 13 日、当該商標登録人の名義は、舟山市水産流通与加工行業協会(以下「舟
山水産協会」という)に変更された。
2011 年 1 月 28 日、原告代理人は、華冠購物中心で公証付で申馬人公司が製造した「舟
山精選帯魚段」
(以下「係争商品」という)を購入した。当該商品の外包装には「舟山帯魚」
106
字形を際立てて使用していた。2011 年 3 月 2 日、原告は、両被告に対して警告書を発送
した。華冠公司は、舟山水産協会代理人から発送された弁護士書簡を受け取った後、申馬
人公司の舟山タチウオ商品を撤去した。申馬人公司は、当該状況について意見を発表し、
舟山水産協会の商標権を侵害していないと主張し、華冠公司に対して法により双方当事者
が締結した購売契約を履行することを要求した。
その後、原告は、法院に訴訟を提起し、申馬人公司、華冠公司は許諾を得ずに係争商品
を製造・販売し、原告の商標権を侵害したので、相応の民事責任を負うべきと主張した。
同社は、法院に①申馬人公司に対して直ちに係争商品の製造・販売行為を中止することを
命じ、華冠公司に対して直ちに係争商品の販売を中止することを命じること、②申馬人公
司、華冠公司に対して共同で経済損害 20 万元を賠償することを命じるよう請求した。
( 2) 第 一 審 判 決
一審法院は、関連法律に基づき、申馬人公司が商品に「舟山精選帯魚段」を
標注したことは、本件の商標権に対する侵害にならないと判定した。
「商標法」第 3 条第 1 項の規定に基づき、商標局の許可を経て、登録された商標は登録
商標であり、それには商品商標、役務商標と団体商標、証明商標を含んでいる。当該条第
3 項では、証明商標とは、ある商品又は役務に対して監督能力を有する組織が制御し、当
該組織以外の企業・団体又は個人がその商品又は役務に使用し、当該商品又は役務の原産
地、原料、製造方法、品質又はその他の特定品質を証明することに用いる標章のことを指
すと規定している。国家工商行政管理総局が発布し、かつ、2003 年 6 月 1 日に実行され
た「団体商標、証明商標登録と管理弁法」第 20 条では、証明商標の登録者は、自己が提
供する商品に当該証明商標を使用してはならないと規定している。「商標法」第 16 条第 2
項では、地理標章とは、ある商品の出所がある地区であること、当該商品の特定品質、信
用・名誉又はその他の特徴を表示し、主に当該地区の自然要素又は人文因素により決定さ
れた標章であることを指すと規定している。
「商標法実施条例」第 6 条第 1 項では、
「商標
法」第 16 条に規定した地理標章は、
「商標法」と本条例の規定に基づき、証明商標又は団
体商標として出願・登録することができると規定している。
「商標法実施条例」第 49 条で
は、登録商標に含まれた本商品の通用名称、図形、型番、又は直接商品を表示する品質、
主な原料、機能、用途、重量、数量及びその他の特徴、若しくは含まれている地名につい
て、登録商標専用権者は、他人が正当に使用することを禁ずることができないと規定して
いる。
上述の規定に基づき、証明商標は、商品商標と相異し、商品の出所を表示する標章では
なく、商品の原産地等の特定品質を表示する標章である。言い換えれば、証明商標は、商
品の出所が証明証標の登録者であることを表明するのではなく、証明商標の登録者が商品
の原産地等の特定品質を証明することである。いわゆる証明商標の専用権は、商品の商標
専用権とも異なり、証明商標の登録者は、自己の提供する商品に当該証明商標を使用して
はならず、その他の人が当該証明商標を使用することを許諾するしかない。証明商標権を
107
侵害したか否かについては、被疑侵害行為が関連公衆に商品の出所に対する混同をもたら
すおそれがあるか否かをその判断基準とするのではなく、被疑侵害行為が関連公衆に商品
の原産地等の特定品質に対する誤認をもたらすか否かを判断基準とすべきである。
舟山水産協会は、申馬人公司が商品の外包装に「舟山帯魚」字形を際立てて使用したこ
とは、公衆に混同をもたらすおそれがあるので、侵害に該当すると主張したが、当該主張
は、法律に対しての誤った理解であり、実質上、証明商標と商品商標を混同している。際
立てた使用をしたか否か、商品の出所に対する混同をもたらすか否かは、証明商標権を侵
害したか否かとは無関係である。舟山水産協会は、申馬人公司の製造したタチウオの原産
地が舟山海域であるか否かにかかわらず、同社が許諾を得ずに商品に「舟山精選帯魚段」
を標柱したことは、いずれも本件の商標権を侵害していると主張した。法院は、商品名称
に地名を標注したことは、商品産地を表明する常用の方式であり、地名に対する正当な使
用に該当し、
「商標法実施条例」第 49 条の規定に基づき、舟山水産協会は、証明商標の登
録者として他人が正当に使用することを禁ずる権利を有しないと判定した。証明商標に対
する許可・登録は、証明商標の登録者が証明商標の形式により商品の特定品質を証明する
能力を有するとのことのみを表明し、証明商標の登録者に対して当該特定品質を具有する
すべての商品に係る権利を付与したことを意味せず、その他の商品経営者が商品名称にて
当該特定品質を表明する権利を奪うこともできない。本事件の場合、明らかに本件商標の
許可・登録が舟山水産協会に対して舟山タチウオを定義又は規定する権利、又は舟山海域
から獲られたすべてのタチウオを管理する権利、又はその他のタチウオ経営者が商品名称
に出所が舟山海域であることを表明することを奪う権利を付与したとは認められない。こ
れは、法律にて証明商標制度を設立した本義に該当しない。
本事件において、本件商標「舟山帯魚 ZHOUSHAN DAIYU 及図」は、証明商標として
登録した地理標章――商品の原産が舟山海域であることを証明する標章である。中国の現有
法律では、直接証明商標における地理標章に対する正当な使用を規定していないものの、
「商標法」第 16 条の規定に基づき、商標に商品の地理標章を有し、当該商品の出所が当
該標章に表記された地区ではなく、公衆に誤認をもたらした場合は、その登録を拒絶し、
かつその使用も禁ずる。すなわち、商標に商品の地理標章を有し、商品の出所が当該標章
に表記された地区であり、かつ、公衆に誤認をもたらさない場合は、法律よりその登録・
使用が許可される範疇に該当する。「商標法実施条例」第 6 条第 2 項では、地理標章を証
明商標として登録した場合、その商品が当該地理標章を使用する要件を満たす自然人、法
人又はその他の組織は、当該証明商標に対する使用を求めることが可能であり、当該証明
商標を支配する組織は、許可しなければならないと規定している。地理標章を団体商標と
して登録した場合、その商品が当該地理標章を使用する要件を満たす自然人、法人又はそ
の他の組織は、当該地理商標を団体商標として登録した団体、協会又はその他の組織に加
入することを求めることが可能であり、団体、協会又はその他の組織は、その定款に基づ
いて前者を会員として受け入れなければならず、当該地理商標を団体商標として登録した
団体、協会又はその他の組織への加入を求めない場合も当該地理標章を正当に使用するこ
108
とができ、団体、協会又はその他の組織は禁ずる権利を有しないと規定している。法律に
団体商標における地理標章を正当に使用できることを規定した以上、同様の法理に基づき、
証明商標における地理標章も正当に使用することができる。したがって、原産地の舟山海
域から獲られたタチウオに「舟山精選帯魚段」を標注したことは、地理標章に対する正当
な使用に該当し、舟山水産協会の商標権を侵害していない。舟山水産協会の上述の主張に
は法的根拠がないので、法院は認めない。
本件の商標権を侵害したか否かを判断する際には、被疑侵害行為が関連公衆に商品の特
定品質に対する誤認をもたらすか否かを考慮すべきである。本事件において、申馬人公司
が「舟山精選帯魚段」標章を使用したことは、関連公衆に商品の特定品質に対する誤認を
もたらすか否か、その商品の原産地は舟山海域であるか否かを考慮しなければならない。
申馬人公司が提供した三英公司と締結した入荷契約、出荷伝票、受取書、三英公司の発
行した証明及び三英公司の営業許可書副本の複写本に基づき、初歩的に申馬人公司が製
造・銷售したタチウオの原産地が舟山であることを証明できる。ましてや、仮に申馬人公
司が提出した上述の証拠を否定したとしても、
「民事訴訟証拠に関する最高人民法院の若干
の規定」第 2 条の規定に基づき、当事者は、自己の提出した訴訟請求の根拠になる事実又
は相手方の訴訟請求に対する反駁の根拠になる事実について証拠を提出して証明する責任
を負うものとする。証拠がなかったり、又は証拠では当事者の事実主張を十分に証明でき
ない場合は、挙証責任を負う当事者が不利な結果に対する責任を負う。舟山水産協会は、
申馬人公司が本件の商標権を侵害したと主張したが、侵害が成り立つ要件――申馬人公司が
「舟山精選帯魚段」標章を使用した商品の原産地が舟山海域ではないことについて挙証責
任を負うべきである。舟山水産協会は、証明商標の登録者として商品に対して監督能力を
有する組織であり、あるタチウオ製品が舟山海域に属するタチウオであるか否かを証明す
る証拠を提出できる能力を有すべきである。しかし、舟山水産協会は、公証付で購入した
商品を封印・保存しなかったので、申馬人公司が加工し、華冠公司が販売していたタチウ
オの原産地について判断することができなくなった。当該行為により生じた不利な結果に
ついては、舟山水産協会が自らその責任を負うべきである。したがって、現有の証拠に基
づき、申馬人公司が標章「舟山精選帯魚段」を使用したことは、関連公衆に商品の原産地
等の特定品質に対する誤認をもたらすおそれがあることを証明できない。
一審法院は、舟山水産協会は申馬人公司、華冠公司が本件商標権を侵害したと主張した
が、当該主張には事実的かつ法的根拠がなく、侵害の中止、損害の賠償に係る舟山水産協
会の訴訟請求を棄却すると判定した。
( 3) 第 二 審 判 決
二審法院は、次のとおりに判定した。
Ø 証明商標に表記された特定品質を満たす自然人、法人又はその他の組織
が正当に証明商標における地名を使用することは商標権侵害行為に該
当しない。
109
本件商標は、証明商標として登録された地理標章である。すなわち、商品の原産地が浙
江舟山海域であり、かつ、商品の特定品質が主に浙江舟山海域の自然要素により決定され
た標章であり、当該商標を使用したタチウオ商品が「管理規則」に規定された特定品質を
有するとのことを証明する。舟山水産協会は、当該商標の登録者として商品が特定品質を
満たす自然人、法人又はその他の組織が当該証明商標の使用を求めた際には許可すべきで
ある。しかも、同協会は、当該証明商標の使用要求は提出していないものの、その商品が
確かに浙江舟山海域から獲られたものである自然人、法人又はその他の組織が正当に当該
証明商標における地名を使用する権利を奪うことができない。しかし、それと同時に、そ
の商品が浙江舟山海域から獲られていない自然人、法人又はその他の組織が商品に当該商
標を標柱した場合、舟山水産協会は、それを禁ずる権利を有し、かつ、法により前者がそ
の証明商標権を侵害した責任を追及する権利を有する。
申馬人公司は、舟山水産協会に本件商標の使用要求を提出しなかったものの、仮に同社
が製造・販売するタチウオ商品が確かに浙江舟山海域から取られた場合、舟山水産協会は、
前者が当該タチウオ商品に本事件の方式——「舟山精選帯魚段」を以ってその商品に表記
することを含む「舟山」を以って商品産地を標注する権利を奪うことができない。それと
同時に、申馬人公司が係争商品に使用した「舟山精選帯魚段」と本件商標が完全に同一で
あることではないものの、
「舟山精選帯魚段」に本件商標の文字部分を含み、かつ、申馬人
公司が係争商品に際立てた方式で標注したことは、関連公衆に係争商品が浙江舟山海域か
ら獲られたタチウオであるとの誤認をもたらすので、仮に係争商品が浙江舟山海域から獲
られていない場合、舟山水産協会は、申馬人公司が係争方式で証明商標を使用することを
禁止し、かつ、申馬人公司の侵害責任を追及することができる。
Ø 本事件の証拠に基づき、申馬人公司が証明商標における地名を使用した
行為は商標侵害に該当する。
「中華人民共和国民事訴訟法」第 64 条の規定に基づき、当事者は、自己の提出した主
張について、証拠を提出する責任を負うべきである。
本事件において、申馬人公司は、係争商品の製造者として、係争商品が浙江舟山海域か
ら獲られているか否かについて挙証責任を負うべきである。舟山水産協会は、申馬人公司
が挙証責任を負うべきと主張したが、当該上訴理由は成り立ち、法院は認める。一審法院
は、申馬人公司が一審訴訟にて提出した三英公司と締結した入荷契約、出荷伝票、受取書、
三英公司の発行した証明及び三英公司の営業許可書副本の複写本に基づき、本件の証拠を
以って初歩的に申馬人公司の製造・販売していたタチウオの原産地が浙江舟山であると判
定したが、不当なところがない。しかし、舟山水産協会が法院に補充・提出した証拠 1 に
おいて、三英公司は、申馬人公司が一審訴訟で提出した三英公司にかかる証拠の真実性に
ついて否認の意思を表現し、かつ、申馬人公司と華冠公司が舟山水産協会の提交した証拠
1 の形式要件については異議を申し立てていないので、法院は、当該証拠は確かに三英公
司が発行したものであると判定する。申馬人公司は、当該証拠は三英公司が脅迫されて発
行したものであると提出したものの、当該主張についての挙証をしていないので、現有の
110
証拠に基づき、三英公司が後で発行した証拠が脅迫された後で発行したものであると判定
することができない。三英公司が前後して発行した証拠は、相互矛盾したので、二審法院
は、三英公司の関連証拠の有效性を確認しなかった。
しかも、申馬人公司が法院に補充提出した証拠において、銀行決算書の金額と購入契約
は、直接的な対応性を有せず、購入明細は申馬人公司が自ら作成したのであるので、当該
証拠を以って銀行決算書における相応金額が購入契約の金額を履行したと判定することが
できず、かつ、舟山市福瑞達食品有限公司の業務専用判子を捺印した証明書のみでは、李
散隊が舟山市福瑞達食品有限公司から購入した舟山産タチウオを申馬人公司に販売し、申
馬人公司より係争商品に加工されたことを証明することができない。
上記をまとめると、申馬人公司の提出した証拠は、係争商品の原産地が浙江舟山の海域
であることが証明できない。申馬人公司が自社の製造・販売した係争商品の原産地が浙江
舟山の海域であることを証明できない状況下で、同社が係争商品に「舟山精選帯魚段」を
標注した行為は、正当な使用に該当せず、本事件の商標専用権を侵害した行為を構成する
ので、侵害の中止、損害の賠償という法的責任を負うべきである。舟山水産協会は、申馬
人公司に対して侵害の中止、損害の賠償を主張したが、当該主張には法的根拠があるので、
二審法院は認めた。
したがって、二審法院は、一審法院が一審訴訟中における証拠に基づいて判定したこと
には不当なところがなかったものの、当事者が当法院における訴訟中に補充提出した証拠
は、一審法院が判定した事実を覆せるので、関連法律により次のとおりに判決を言い渡し
た。
①北京市第一中級人民法院(2011)一中民初字第 9242 号民事判決を取り消すこと。
②北京申馬人食品銷售有限公司は、本判決の発効日から係争侵害商品の製造・販売を中止
すること。
③北京申馬人食品銷售有限公司は、本判決の発効日から 10 日以内に舟山市水産流通与加
工行業協会の経済損害 3 万元及び合理的費用 5000 元を賠償すること。
④舟山市水産流通与加工行業協会のその他の訴訟請求を棄却すること。
5. 解 説
長期以来、司法研究と実務は、主に一般商標に集中し、証明商標と言う特殊商標に対す
る注目は足りなく、実務上、如何に使用されるかについて、一般経営者が授権を得られな
かった場合、如何に解決するか等の問題についての研究は不足していた。
当該事件は、主に証明商標の保護問題に及んでいる。証明商標は、商品の出所を標注す
る標章ではなく、商品の原産地等の特定品質を標注する標章である。証明商標の専用権は、
証明商標の登録者が自己の提供する商品に当該証明商標を使用することを許さず、その他
の人が当該証明商標を使用することのみ許諾している。証明商標権を侵害したか否かにつ
いては、被疑侵害行為が関連公衆に商品の出所に対する混同をもたらすか否かを判断基準
111
とするのではなく、被疑侵害行為が関連公衆に商品の原産地等の特定品質に対する誤認を
もたらすか否かを判断標准とすべきである。商品の特定品質を満たした場合、商標専用権
者は、その合理的な使用を禁じてはならない。
本事件の判決では、証明商標権者の権利境界及び使用禁止の境界を確定し、合理的に証
明商標としての地理標章の合理的な使用範囲を定義し、社会に対する影響が比較的大きい。
当該事件の発効判決に鑑み、法院は、かかる事件の挙証責任の分配原則について明确な方
針を提示し、中国証明商標の登録と保護に対して重要な影響を有する。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
証明商標侵害の論証要点は、特定の地区から出られているか否かではなく、特定の品質
を満たすか否か、及び合理的に証明商標を使用したか否かにある。
本事件からみれば、未だ商標を登録していないものの、関連証明商標の使用が緊迫なっ
ている企業にとって、証明商標に言う特定品質を満たし、かつ、合理的かつ合法的に使用
する前提下では、商標専用権者からの約定を受けてこそ関連証明商標を使用できることで
はない。関連産地情報を示す証明商標を使用したことにより、証明商標専用権侵害容疑を
生じた場合は、できる限りで関連商品の産地又は特定品質を満たす証拠――購売契約、検証
報告等を収集すべきである。
さもなければ、証明商標の所有者にとって、証明商標の使用は自産商品に使用すること
により体現するのではなく、特定品質を満たす商品に関連証明商標を使用することを許諾
するのに体現されている。それと同時に、証明商標専用権者は、関連商品が産地の特定品
質を満たさないことについての挙証責任を負うべきであることに注意を払うべきである。
(5)二つの「途牛」に関する商標権侵害及び不正競争紛争事件
1. 事 件 の 性 質
商標権侵害及び不正競争紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:南京途牛科技有限公司と北京途牛天下情報技術有限公司間の商標権侵害及び不正
競争紛争
争点:①北京途牛天下情報技術有限公司が「途牛」を使用した行為は、原告の商標専用権
に対する侵害になるか否か、②北京途牛天下情報技術有限公司は、業務活動において、南
京途牛公司との間に関連性を有するとの誤認をもたらす行為を実施したか否か、当該行為
は、原告に対する不正競争行為になるか否か、③北京途牛天下情報技術有限公司の企業名
112
称に「途牛」を使用したことは不正競争行為になるか否か。
3. 書 誌 的 事 項
第一審 北京市豊台区人民法院(2012)豊民初字第 1258 号
原告 南京途牛科技有限公司(以下「南京途牛公司」という)
被告 北京途牛天下情報技術有限公司(以下「途牛天下公司」という)
判決日 二 О 一二年六月十二日
関連条文:①「中華人民共和国民法通則」第 134 条第 1 項第(1)、
(7)号、②「中華人民
共和国商標法」第 51 条、第 52 条、第 56 条、③「中華人民共和国不正競争防止法」第 2
条、第 5 条、第 20 条、④最高人民法院による「登録商標、企業名称と先行権利間の抵触
に関する民事紛争事件の審理における若干の問題に関する規定」第 4 条
出典:知識産権審判文書サイト
http://ipr.court.gov.cn/bj/sbq/201312/t20131217_181838.html
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
原告南京途牛公司は、2006 年 12 月 18 日に設立し、かつ、途牛旅游網というウェブサ
イトを開設した。設立以来、同社は、主に旅行関連のサービスと販売に従事しいるが、現
在、すでに全国範囲で子会社 5 社と支社 23 社を設立し、それぞれ北京、上海、南京、海
南、成都、深セン、三亜、桂林、昆明、天津等の 23 箇所の都市に分布されている。2007
年 7 月、原告は、途牛旅游網北京サブステーションを開設し、北京市場に進入し、北京出
発の旅行業務の予定サービスを提供し、かつ、2008 年末から北京で温泉、スキー等の観光
地の優待入場券を販売し、旅行チケット業務に従事していた。原告は、法により第 39 類
の第 6631862 号「
」登録商標、第 8061621 号「
」登録商標、第 7399339 号「
「
号「
」登録商標、第 8061601 号
」登録商標、及び第 41 類の第 7705417
」登録商標等の数多い登録商標専用権を享有している。
被告途牛天下公司は、2009 年 9 月 29 日に設立し、設立当時の名称は「北京三和致遠文
化伝播有限公司」であり、同社の設立期日は原告より約 3 年遅れていた。2010 年 10 月 19
日、被告は会社名称を「北京途牛天下情報技術有限公司」に変更したが、その主な業務分
野は旅行関連のチケット販売であった。名称変更後、途牛天下公司は、業務コンサルティ
113
ング、募集コンサルティング及び応募者面接等の企業活動において、大量に「途牛」、「途
牛公司」又は「北京途牛」等の文字を使用していた。
原告は、途牛天下公司の上述の行為には主観的な悪意が非常に明らかであり、客観上、
関連公衆に誤認をもたらすおそれが十分にあり、自社の第 6631862 号、第 8061621 号、
第 8061601 号、第 7399339 号、第 7705417 号登録商標の専用権を侵害したと主張した。
それと同時に、途牛天下公司が企業名称を変更する際、無断で原告の企業名称を使用し、
商業活動において「分部(支部)」と偽称し、途牛旅游網と関連性を有すると称し、従業員
募集面接において不適切な言行を実施した一連の行為は、市場に混同をもたらし、原告の
社会名誉を損害し、原告の合法的権利を侵害し、不正競争行為に該当すると主張した。し
たがって、原告は、人民法院に訴訟を提起し、次のとおりに請求した。①途牛天下公司は、
企業名称に「途牛」との文字を使用する行為を差し止めること、②途牛天下公司は、商業
活動、企業宣伝に「途牛」字形を含む企業名称の使用を差し止めること、③途牛天下公司
は、商業活動において原告と関連性を有すると偽称する行為を差し止めること、④途牛天
下公司は、企業名称を変更し、企業名称に含まれた「途牛」両文字を削除すること、⑤途
牛天下公司は「法制日報」において、原告といかなる関連性を有しないと公開声明し、過
去の商標侵権侵害と不正競争行為について原告に公開的に謝罪し、影響を解消すること、
⑥途牛天下公司は、原告会社の経済損害及び合理的な支出 20 万元を賠償すること、⑦途
牛天下公司は、全部の訴訟費用を負担すること。
( 2) 第 一 審 判 決
① 途牛天下公司が「途牛」を使用した行為は、商標専用権侵害行為に該当するか否か
南京途牛公司は、第 6631862 号「
標、第 8061601 号「
」登録商標、第 8061621 号「
」登録商標、第 7399339 号「
」登録商
」登録商標の権利者で
あり、上述の登録商標の専用権を有する。登録商標の専用権は、許可・登録された商標と
指定使用商品又は役務に限られている。他人は、南京途牛公司の許諾を得ずに、第 39 類
の役務に上述の商標と同一又は類似する商標を使用してはならない。
本事件において、第 6631862 号商標は「
登録商標、第 8061601 号「
」文字商標であり、第 8061621 号「
」登録商標、第 7399339 号「
」
」登録商標は、
いずれも中国語及び字母からなっている。そのうち、文字「途牛」はいずれも比較的強い
識別力を有する。途牛天下公司は、自社の経営している旅行チケット販売サイト「票務天
下系統」において、自社の提供しているサービスについて説明する際、単独に「途牛」文
字を使用し、南京途牛公司の上述商標の登録商標専用権を侵害している。第 7705417 号
114
」登録商標の指定役務項目は第 41 類として、教育、トレーニング、教育又は娯
「
楽試合の主催、文化・娯楽活動等を含んでいる。途牛天下公司のサイト「票務天下系統」
で経営しているチケット代理サービスと文化・娯楽活動は、類似役務に該当し、かつ、途
牛天下公司が自社のチケット代理サービスは商標役務分類の第 41 類に該当すると認めて
いるため、途牛天下公司は南京途牛公司の第 7705417 号登録商標専用権に対する侵害に該
当する。
② 途牛天下公司は、南京途牛公司に対する不正競争に該当する。
第 1、南京途牛公司と途牛天下公司は、経営活動において、いずれも旅行関連のチケッ
ト販売を行っていたので、双方当事者の間には競争関係があると認定できる。
第 2、途牛天下公司は、企業名称を変更し、かつ、無断で原告の企業名称を使用し、商
業活動において「分部」と偽称し、途牛旅游網との関連性を有すると称し、従業員募集面
接において不適切な言行を実施した一連の行為は不正競争に該当する。
本事件において、途牛天下公司は、自社の使用した募集電話番号「57155636」は当該会
社が使用していたと主張しているが、当該電話が 2011 年 11 月 18 日に他人に修理されて
いたことを証明できる証拠を提出しなかった。したがって、当該電話に出た者が途牛天下
公司の従業員であることを推定することができる。途牛天下公司の従業員は、通話時に当
該公司と南京途牛公司は 1 つの本社を有し、かつ、新浪マイクロブログに示された内容も
公衆に南京途牛公司と途牛天下公司に対する混同をもたらしていることを証明している。
それゆえ、途牛天下公司の上述の行為は、故意に混同をもたらす行為であり、関連公衆に
途牛天下公司と南京途牛公司の間に関連性を有するとの誤認をもたらし、信義誠実の原則
に違反し、不正競争に該当する。北京帳篷公園の楊莉娟による証明において、途牛天下公
司が楊莉娟とチケット業務の提携に係る打ち合わせをした際に、途牛旅游網と関連性を有
すると偽称した。また、途牛天下公司も、楊莉娟と北京帳篷公園の関連事項及び北京帳篷
公園の提携協議書について連絡していたとの真実性を認めた。上述の証拠は、一連の証拠
チェーンを形成し、途牛天下公司が反証を提出していない状況では、途牛天下公司が楊莉
娟とチケット業務提携の打合せを行った際に、途牛旅游網と関連性を有すると偽称したと
認定でき、これは、不正競争行為に該当する。
③ 途牛天下公司の企業名称は、「途牛」の使用に対して不正競争に該当する。
登録商標と企業名称は、いずれも相応の法律手続に基づいて得られた標章権であり、相
異する標章の序列にそれぞれ属され、相応の法律に基づき、相応の保護を受けるべきであ
る。本事件において、南京途牛公司は、すでに許諾を得て 2010 年 8 月 14 日に第 6631862
号商標「
」を登録され、その指定役務は第 39 類として、旅行の同行、遊覧ヨット
旅行の手配、観光旅行、遊覧の手配、旅行の手配、旅行座席の予定、旅行の予定、旅行社
(宿泊の予定は除く)、ガイド等を含んでいる。しかし、途牛天下公司は、2010 年 10 月
19 日に北京市工商行政管理局豊台分局の許可を経てはじめて、その名称を三和致遠公司か
115
ら途牛天下公司に変更した。南京途牛公司及び第 6631862 号商標は、途牛天下公司の名称
が変更する前に、すでに一定の範囲内で一定の知名度を有し、かつ、
「途牛」文字と旅行サ
ービス業との一定の関連性を有していた。途牛天下公司の登録された企業名称には「途牛」
文字を含み、かつ、経営活動において「途牛」をその企業商号として使用し、かつ、対外
的に南京途牛公司と関連性を有すると称していた。途牛天下公司の企業名称許可期日は、
南京途牛公司の第 6631862 号商標の許可登録期日より遅く、途牛天下公司は、正当な理由
なしに第 6631862 号登録商標と同一の「途牛」文字を企業名称又は商号の一部分として使
用することにより、関連公衆に南京途牛公司と途牛天下公司の間に関連性を有するとの誤
認をもたらし、関連公衆に役務の出所及び異なる経営者の間に関連性を有するとの混同・
誤認をもたらしたので、途牛天下公司の上述の行為は、主観的な悪意を有し、信義誠実の
原則、公平競争の基本原則に違反し、不正競争行為に該当する。
要するに、途牛天下公司の係争侵害行為は、南京途牛公司の登録商標専用権を侵害し、
かつ、不正競争行為に該当するので、侵害の差止、損害及び合理的支出の賠償等の法的責
任を負うべきである。
以上の理由により、次のとおり判示する。
①
本判決が確定してから被告北京途牛天下情報技術有限公司は、商業活動において、原
告南京途牛科技有限公司と関連性を有すると称する行為を差し止めること。
②
本判決が確定してから被告途牛天下公司は、直ちに「途牛」文字を含む企業名称の使
用を差し止めること。
③
本判決が確定してから 10 日以内に被告北京途牛天下情報技術有限公司は、原告南京
途牛科技有限公司に経済損害 4 万元及び訴訟にて支出した合理的費用 1 万元を賠償す
ること。
④
原告南京途牛科技有限公司のその他の訴訟請求を棄却する。
5. 解 説
司法実務において、企業名称と商標権間の抵触事件について、通常、3 種類の情状があ
る。第一種の情状は、商標が極めて高い知名度を有し、事実上、著名な程度に達した場合、
人民法院は、当該商標が馳名(著名)商標であり、企業名称としの使用が商標権侵害に該
当すると判定することができる。かかる事件は、2007 年の前に多く発生していた。たとえ
ば、上海人民法院が判決を言い渡した「星巴克(スターバックス)」事件である。しかし、
馳名商標に対する司法認定基準が日増しに厳しくなるにつれて、かかる事件の発生は近年
来すでに少なくなっている。第二種の情状は、被告が企業名称を使用した際に、際立てて
他人の登録商標を使用した情状である。当該種類について、人民法院は、関連司法解釈に
基づき、かかる際立てた使用が商標侵害に該当すると判定することができ、被告に対して
企業名称の使用を規範化するよう判定することができる。かかる事例も比較的よく見られ
る。最も判定しにくいものは第三種の情状である。すなわち、先行商標が比較的高い知名
116
度を有するものの、馳名商標としての保護に証拠が欠如し、被疑侵害企業名称の使用が全
体的使用に該当し、際立てた使用の情状がない場合である。かかる場合、通常、不正競争
に関する規定に基づき判断する。また、その根拠となるものは、「不正競争防止法」第 2
条における信義誠実の原則である。しかし、当該行為が「不正競争防止法」にて明確に列
挙された 11 種類の行為に該当しない場合、実務上、確実に不正競争として判定された事
件はあまり多くない。
本事件には上述の第二種の情状を含むだけではなく、第三種の情状も含んでいる。人民
法院は、被告が際立てて「途牛」を使用した行為が商標権侵害に該当すると判定した同時
に、被告が「途牛」文字付企業名称を使用した行為は不正競争に該当すると判定した。し
たがって、本事件は、今後の類似事件の審理のために、参考の意義を有する。
法理の立場からみれば、登録商標と企業名称間の紛争について、相異する情状を区別し
た上、信義誠実の原則、公平な競争の保護原則と先行権利の保護原則等に基づいて法によ
る取り扱いをすべきである。仮に企業名称の登録使用自体が不正当性を有した場合は、不
正競争に該当すると判定することができる。当該種行為が不正競争に該当すると判定する
際には、通常、第 1、先行登録商標の顕著性と知名度、すなわち、行為者が登録商標と相
同又は類似する文字を商号としてその企業名称を登録した際に、当該登録商標は比較的高
い知名度を有し、第 2、行為者が主観的な悪意、すなわち、比較的高い知名度を有する登
録商標の商業名誉の「ただ乗り」により、それと同一又は類似する文字を商号としてその
企業名称を登録した行為が存在するか否か、第 3、市場に混同をもたらすおそれがあるか
否か等の要素を考慮すべきである。上述の 3 要素に関連するのは、上述の因素に対する考
慮は、いずれも商標専用権の地域性原則を遵守すべきことである。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
企業名称と商標は、いずれも商品又は役務の出所を区分し、かつ、地域性を有する特徴
を有する。実務において、企業名称と商標権間の抵触事例は相当多い。権利間の抵触に及
んでいるので、かかる事件の審理には、ある程度の難点を有する。特に上述の第三種の情
状はより難しい。
しかし、商標は、企業の核心知的財産権の重要な構成部分として、企業名称が商標権を
侵害した状況に遭遇された際、積極的に相応の対応措置を取るべきである。
「中華人民共和
国商標法」と「中華人民共和国不正競争防止法」の関連規定に基づき、工商局に取締を申
立たり、又は人民法院に提訴したりすることができる。
企業名称が工商機関で許可・登録されることに鑑み、工商局は、取締申立を受け取る際、
通常、直接に強制的な変更指令を下さずに、最大限に相手方を説得する。仮に、相手方の
態度が断固であった場合は、行き詰る状態に入ってしまうので、訴訟を通じて当該類の紛
争を解決するほうが常にある。
117
(6)保鮮収納箱「容器蓋」に関する発明特許権侵害紛争事件
1.
事件性質
発明特許権侵害事件
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:鮮楽仕厨房用品株式会社と上海美之扣実業有限公司等間の侵害発明特許権紛争事
件
争点:①原審判決において、恵買時空公司(被疑侵害品の販売者)に対して一部の連帯賠償
の責任を命じた判定は、法律規定に合致するか否か、②原審判決において、美之扣公司と
恵買時空公司に対して命じた損害賠償額は適切であるか否か。
3. 書 誌 の 事 項
第一審:北京市第一中級人民法院(2011)一中民初字 14930 号
原告:鮮楽仕厨房用品株式会社
被告 1:上海美之扣実業有限公司
被告 2:北京恵買時空商貿有限公司
判決日:不明
第二審:北京市高級人民法院 (2012)高民終字第 3974 号
上訴人:鮮楽仕厨房用品株式会社
上訴人:上海美之扣実業有限公司
上訴人:北京恵買時空商貿有限公司
判決日:2012 年 12 月 17 日
関連条文:
①「中華人民共和国専利法」第 11 条第 1 項、第 65 条
②最高人民法院による「専利紛争事件の審理における適用法律の問題に関する若干の規定」
第 21 条、第 22 条
③「中華人民共和国民法通則」第 118 条
出典:法制網
http://lawyer.legaldaily.com.cn/judgment/default/detail/uuid/95078078753023989
118
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
鮮楽仕株式会社は、名称「容器蓋」の発明特許権者である。同社は、
「UGO 優購網」
(ウ
ェブサイト)から 298 元の価格で「超人気美之扣保鮮収納箱 30 件組」を購入したが、優
購網には「超人気美之扣保鮮収納箱 30 件組」累計 7508 件を販売したと示されていた。原
告は、当該収納箱の蓋が係争特許の権利範囲に含まれると主張し、人民法院に訴訟を提起
し、侵害の差止、侵害製品及び金型と専用工具の廃棄、ウェブサイトにおける侵害製品の
宣伝関連内容の削除、経済損害 80 万元及び合理的費用 53998 元の連帯賠償を命じること
を請求した。
人民法院は、審理を経て、美之扣保鮮収納箱の蓋は、係争特許の請求項に記載された
全部の構成要件を有し、すなわち、美之扣保鮮収納箱の蓋の技術的特徴は、完全に係争特
許の権利範囲に含まれると判定した。販売者は、自社が販売又は販売の申出をしていた製
品が他人の特許権を侵害したことを明知している状況で、早期に有效な侵害差止のための
措置を取らずに、依然として販売・販売の申出行為を実施し、しかも、早期に原告との連
絡を取っていないので、自社が善意の販売者であることを主張しかねる。両被告が原告の
許諾を得ずに、自社の製造・経営の目的のために、係争美之扣保鮮収納箱の蓋を製造・販
売した行為は、原告の係争特許権を侵害している。したがって、被告に対して侵害を差止
め、経済損害 30 万元を賠償するよう、判決を言い渡した。
( 2) 第 一 審 判 決
鮮楽仕株式会社が享有する特許権は法律に保護されるべきである。
被疑侵害製品と係争特許の請求項を対比すれば、美之扣保鮮収納箱の蓋の技術的特徴は、
完全に係争特許の権利範囲に含まれている。美之扣公司は、当該判定について異議を提出
していなかった。美之扣公司は、鮮楽仕株式会社の許諾を得ずに、自社の製造・経営のた
めに、係争美之扣保鮮収納箱の蓋を製造・販売し、恵買時空公司は、係争美之扣保鮮収納
箱の蓋に対して、販売、販売の申出を行ったので、鮮楽仕株式会社の係争特許権を侵害し、
侵害の差止め、損害賠償等の民事責任を負うべきである。賠償損害額について、鮮楽仕株
式会社が自社の実際の損害に係る証拠を提出できず、係争特許権の類別及び性質等の要素
を考慮した上、美之扣公司と恵買時空公司がそれぞれ負うべき民事責任を参酌してその賠
償額を確定する。
以上の理由により、次のとおり判示した。
①美之扣公司は、直ちに係争美之扣保鮮収納箱の蓋に対する製造・販売を差止め、恵買時
空公司は、直ちに係争美之扣保鮮収納箱の蓋に対する販売、販売の申出を差止めること。
②美之扣公司は、鮮楽仕株式会社の経済損害 CNY30 万元を賠償し、恵買時空公司は、そ
の 30 万元の CNY10 万元について連帯賠償責任を負う。
119
③鮮楽仕株式会社のその他の訴訟請求を棄却すること。
(3) 第 二 審 判 決
本事件において、恵買時空公司は、自社は被疑侵害製品が特許侵害製品であることを知
らず、しかも、販売を差止める措置を取ったと主張している。しかし、現有の証拠からみ
れば、恵買時空公司が鮮楽仕株式会社の弁護士書簡を受け取った期日は遅くとも 2011 年 8
月 19 日であり、恵買時空公司は自社が被疑侵害製品の販売を差止めた期日は 9 月 8 日で
あると認めた。したがって、恵買時空公司は、自社の販売、販売の申出をしている製品が
他人の特許権を侵害したことを知得している状況で、早期に有效な侵害差止措置を取らず、
依然として販売と販売の申出の行為を実施し、かつ、早期に鮮楽仕株式会社と連絡を取っ
ていないので、善意の販売者と認定しにくい。
したがって、原審判決において、同社に対して 10 万元の連帯賠償の責任を負うことを
命じた判定には不当なところがない。
また、調査を経て明らかにした事実によれば、優購網は累計 7508 件の「超人気美之扣
保鮮収納箱 30 件組」を販売した。恵買時空公司は、
「累計售出」とはクリック率のことを
指し、販売量を指していないと主張したものの、当該主張を証明できる十分な証拠を提出
していないので、
「累計售出」が販売量を表示することは明らかである。鮮楽仕株式会社が
自社の実際損害を証明できる関連証拠を提出していないことに鑑み、原審人民法院は、係
争特許権の類別及び性質、美之扣公司と恵買時空公司の各自の主観的な誤り、侵害の情状
と侵害行為の性質、侵害の持続期間及び影響範囲を考慮した上、恵買時空公司が優購網で
係争美之扣保鮮収納箱を販売した販売価格及び数量、鮮楽仕株式会社が侵害行為を制止す
るために支出した合理的費用等の要素等と合わせて、かつ、美之扣公司と恵買時空公司が
それぞれ負担すべき民事責任に基づいて賠償額を 30 万元に酌量・確定したが、当該判定
には不当なところがない。原審判決で确定した賠償額が誤っているとの鮮楽仕株式会社及
び美之扣公司の上訴主張はいずれも成り立たず、人民法院は認めない。
以上の理由により、次のとおり判示した。
上訴を棄却し、原判決を維持する。
5. 解 説
中国の特許侵害事件において、被疑侵害品の製造者の所在地での訴訟管轄を避けるため
に、北京、上海などの被疑侵害品の販売者を共同被告として提訴する場合が一般である。
通常、特許侵害事件において、被疑侵害者の販売者が「善意」であり、被疑侵害品の合法
的出所、たとえば、購入契約、領収書などを提供でき、権利者側よりこれらの内容を否定
できる証拠を提出できない場合、販売商は、販売差止の侵害差止の責任のみ負担し、損害
賠償金の責任は免除することができる。
120
本件の主な争点としては、
「被疑侵害品の販売者が『善意』との理由で、その損害賠償責
任を免除できるか否か」である。専利法第 70 条には、
「特許権者の許諾を得ずに製造、販
売された特許権侵害製品であることを知らずに、それを生産経営の目的で使用、販売の申
し出又は販売した場合、その製品の合法的な出所を証明することができるときは、賠償責
任を負わない。」と規定している。
本件において、被疑侵害品の販売者は、自社が「善意」であることを主張し、かつ、被
疑侵害品の合法出所を証明できる「購入契約」などを提出したが、権利者側では、特許侵
害について販売者に発送した弁護士書簡を証拠として提出することを通じて、その「善意」
の主張を否定しようとした。人民法院は、原告の主張をみとめ、被疑侵害品の販売者が「弁
護士書簡」を受けたにもかかわらず、引き続き、被疑侵害品を販売したので、その侵害事
実は更に深刻になり、原告の損失も多くなったので、販売者が「善意」であるとは認定で
きないと判断し、被疑侵害品の製造者と連帯侵害責任を負担するよう、判定した。
また、本件の販売者はネットで被疑侵害品を販売していたが、そのネットにおけるの損
害賠償金を証明するために、権利者側がウェブサイトにおける販売状況について公証を行
い、同サイトでの被疑侵害品の販売数が 7508 件であると主張した。販売者は、
「7508 件」
はクリック数であり、実際の販売数ではないと主張したが、それを証明できる証拠を提出
できなかったので、人民法院は、それが「販売数」と認定した。
なお、本件の被疑侵害品が「容器の蓋」のみであり、上記の販売数は、容器と蓋の組み
合わせ製品 30 個を 1 セットとした販売数だったので、製品の販売総額を侵害利益として
はいけない。また、権利者側でも被告の被疑侵害行為により得た利益を立証できなかった
ので、人民法院は、上記の販売数、主観悪意、侵害性質、侵害行為継続期間などを総合的
に考えて、損害賠償金を判定した。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
特許侵害への権利行使において、警告書の発送はよく取られている対策である。実務に
おいて、法律意識があまり高くないが、会社規模が小さい模倣業者である場合、権利者か
らの警告書を無視するか、或いは対応してくれない場合が多い。その権利者側は、警告書
をもって、その模倣業者の主観悪意を証明することができる。主観悪意の証明は、主に損
害賠償金を算定する際の参考要素になるばかりでなく、その模倣業者が被疑侵害品の販売
者である場合、その販売者の損害賠償責任を追及することができる証拠にもなり得る。
また、実務において、警告書を受けた模倣業者は、その事実を否認する場合も多いが、
その否認に対抗できるために、公証人の立会いで、警告書を郵送し、かつ、インターネッ
ト上の郵便記録についても合わせて公証方法で、証拠を確保したほうがよいと思われる。
なお、企業が他社から警告書を受けた場合には、その警告書が主観悪意の証拠になり得
るため、積極的に法的対応を取ったほうがよい。たとえば、他社の権利を無効するか、和
解交渉を行うか、或いは非侵害確認訴訟を提起できるため、催告書を発送することなどが
121
考えられる。
(7)マイクロソフト社のソフトウェア著作権侵害事件
1. 事 件 の 性 質
著作権侵害紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:マイクロソフト社と北京銘万智達科技有限公司、銘万信息技術有限公司間のコン
ピューターソフトウェア著作権侵害紛争事件
争点:被告に対して原告のコンピューターソフトウェア著作物の著作権を侵害したと言う
原告の主張が成り立つか否かの問題
3. 書 誌 的 事 項
第一審:北京市第二中級人民法院(2012)二中民初字第 03038 号
原告:マイクロソフト社
被告 1:北京銘万智達科技有限公司
被告 2:銘万信息技術有限公司
判決日:2012 年 8 月 29 日
関連条文:
①「中華人民共和国著作権法」第 2 条第 2 項、第 10 条第 1 項第(5)号、第 48 条第(1)
号、第 49 条第 1 項
②「計算機軟件保護条例」第 5 条第 3 項、第 8 条第 1 項第(4)号、第 24 条第(1)号
出典:北京知識産権律師網
http://www.cnipr.net/article_show.asp?article_id=15563
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
マイクロソフト社は、各バージョン Microsoft Windows Server と SQL Server コンピ
ューターソフトウェアの著作権者である。マイクロソフト社は、銘万智達公司と銘万信息
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公司が中国最大の中小企業信息の提供者としてマイクロソフト社の授権を得ずに、無断で
銘万大厦総部及び全国各支社にある関連コンピューターに係争ソフトウェアを装着し、か
つ、商業のために使用し、マイクロソフト社が享有するコンピューターソフトウェア複製
権を侵害したので、法により侵害の中止、謝罪、損害の賠償等の民事責任を負うべきであ
ると主張した。したがって、人民法院に両被告に対して、①直ちに許諾を得ずに、
Windows Server 2003 標准版、Windows Server 2003 企業版、Windows Server 2008 企
業版と SQL Server 2000 企業版、SQL Server 2008 標准版、SQL Server 2008 企業版の
ソフトウェアを複製・装着・使用した行為を中止し、所有又は制御している侵害複製本又
はその担体を削除又は廃棄すること、②連帯して原告の経済損害 CNY7,016,885 元を賠償
すること、 ③連帯して原告が侵害行為を制止するために支出した合理的費用合計
CNY152,838 元を負担すること、④共同で「人民日報」の合目以外の版面にて原告に謝罪
すること、⑤共同で本事件の全部の訴訟費用を負担することを命じるよう請求した。
( 2) 第 一 審 判 決
一審人民法院は、次のとおりに判定した。
①中華人民共和国と米国は、いずれも「ベルヌ条約」加盟国である。原告マイクロソフ
ト社は、米国の会社として米国版権局で係争コンピューターソフトウェア
Windows Server 2003 標准版、Windows Server 2003 企業版、Windows Server 2008 企
業版と SQL Server 2000 企業版、SQL Server 2008 標准版、SQL Server 2008 企業版ソ
フトウェアの著作物登録証明書を取得している。
「著作権法」の関連規定に基づき、原告マ
イクロソフト社が係争コンピューターソフトウェアの著作権者であり、同社が係争コンピ
ューターソフトウェア Windows Server 2003 標准版、Windows Server 2003 企業版、
Windows Server 2008 企業版と SQL Server 2000 企業版、SQL Server 2008 標准版、
SQL Server 2008 企業版に対して享有する著作権は中国「著作権法」の保護を受けるべき
であることを認定できる。
②本事件において、被告銘万信息公司は、上述の係争コンピューターソフトウェアを複
製し、かつ、商業に使用していたので、同社は上述の行為が原告マイクロソフト社から授
権されたことを挙証する責任を負うべきである。当該被告は、証明できるいかなる証拠も
提出しなかった。人民法院は、被告銘万信息公司が係争コンピューターソフトウェアを複
製した行為は、原告の係争コンピューターソフトウェアが法により享有する著作権を侵害
し、侵害の中止、損害の賠償と言う民事責任を負うべきであると判定した。
③原告マイクロソフト社は、被告銘万智達公司と銘万信息公司が連帯賠償の責任を負う
べきであるとの主張を提出した。本事件で明らかにされた事実に基づき、両被告は、それ
ぞれ独立された法人であり、原告マイクロソフト社も両被告が共同で係争侵害行為を実施
していたことを挙証できず、原告マイクロソフト社の上述の主張には根拠が欠如するので
認められない。被告銘万智達公司のコンピューターに係争コンピューターソフトウェアを
123
装着していないことに鑑み、同社が原告の係争コンピューターソフトウェアの著作権を侵
害したと言う原告マイクロソフト社の主張には証拠が欠如するので、認められない。
上述の理由により、次のとおり判示した。
①銘万信息技術有限公司は、本判決の発効日から係争侵害行為を中止すること。
②銘万信息技術有限公司は、本判決の発効日から 10 日内にマイクロソフト社の経済損
害 CNY200 万元及び侵害行為を制止するために支出した合理的費用 CNY8000 千元
を賠償すること。
③マイクロソフト社のその他の訴訟請求を棄却すること。
5. 解 説
北京市高級人民法院の意見によれば、本事件は、コンピューターソフトウェアの末端ユ
ーザによる著作権侵害問題に及んでいる。また、コンピューターソフトウェア事件の主体、
客体及び侵害行為等における挙証は、伝統的な著作権事件に比べて、より大きい難度と隠
蔽性を有している。当該事件の審理において、人民法院は、早期に有効に証拠保全の措施
を実施し、正確に侵害を判定し、権利者の合法的権利を保障した。現在、コンピューター
と情報技術を全面的に応用し、浸透している過程において、コンピューターソフトウェア
は、社会の製造及び生活の中において、日増しにその役目を現している。当該種類の事件
を正確に解決することは、ソフトウェア開発者と使用者の間の利益バランスを保護し、ソ
フトウェア業界と調和な発展を促進し、秩序のよい経営に対して積極的な役目を果たさせ
る。
コンピューターソフトウェアには複雑性、隠蔽性と消失の容易性があるので、末端ユー
ザが海賊版のソフトウェアを使用することについての権利者の証拠収集は、比較的難しく、
人民法院による証拠保全の実施に対しても比較的高い要求を提出している。本事件におい
て、人民法院は、原告が提出した証拠保全申請に基づき、成功的に被告の経営場所内にあ
るコンピューターとサーバーに対する抜き取り検査を行い、被告の侵害証拠を確保するこ
とができ、保全の結果は、侵害行為の認定及び賠償額の確定に対して重要な役目を果たし
た。
コンピューターソフトウェア侵害の特殊性に鑑み、証拠保全は、当該種類の事件におい
て非常に重要である。「民事訴訟法」の規定に基づき、証拠保全の前提は、「証拠は滅失さ
れる可能性がある又は今後収集しかねる」ことである。しかし、当該前提に係る審査基準、
及びその他要件の追加の要否について、実務上、依然として議論が存在している。司法実
務上、一部の人民法院によれば、「証拠は滅失される可能性がある又は今後収集しかねる」
ことに対する審査は個別事件の具体的な状況に基づいて、具体的に分析するしかないが、
当事者が証拠保全を申請したのは、証拠収集の困難、及び知的財産権事件で証拠が滅失し、
又は今後収集しかねる可能性が非常に高いからであることを考慮した上、証拠保全申請に
対する審査について、ある程度大目に認定すべきであり、当事者が合理的な説明ができた
124
場合には、人民法院の審査も厳しすぎなくてもよい。しかし、相手の当事者の利益を保護
し、かつ、司法資源を節約する要求に基づき、法律に定められた前提要件のほかにその他
の要件を添加すべきである。例えば、証拠を完全に有しないのに当事者が人民法院に証拠
収集に依頼する情況を回避するために、申請者に初歩的侵害証拠を提出するよう要求する
こと、侵害事実の存在、侵害状態等を証明するために、証拠保全を請求した証拠と当該事
件の訴訟の取扱が関連性を有すべきであり、即ち、訴訟請求の範囲に該当するよう要求す
ること、申請者が客観的な原因で自ら収集することができないこと等。
証拠保全とは、人民法院が滅失される可能性がある又は今後収集しかねる証拠について
確定・保護する訴訟行為のことを指している。人民法院の参与は、証拠保全に対して一定
の公権の意味を持たせるので、一旦、人民法院が保全裁定書を発行した際に、保全行為は
直ちに実施されるので、被申請者は、証拠保全作業に協力する義務を有する。当事者が当
該手続を濫用することを防止するために、証拠保全の申請は、必ず一定の要件を満たさな
ければならない。
「民事訴訟法」の規定によれば、証拠保全の前提は、証拠が滅失される可
能性がある又は今後収集しかねる場合である。また、審査要件には次の内容を含んでいる。 (1)手続要件 ①法定期間(挙証期限満了 7 日前)内に提出すること。
②被申請者が侵害行為を実施した具体的な地点と設備、保全証拠を申請する具体的な内
容、主な特徴及び基本的な保全方法等を明確化すること。
③要求に応じて相応の財産担保を提供すること。
(2)実体要件 ①初歩的証拠を提出し、係争事実が存在することを証明すること。
②保全する証拠と事件が関連性を有することを証明すること。
③人民法院に証拠保全申請を提出する前に、すでに相応の証拠を取得するために、関連
措施を取って努力を果たしすることを証明すること。
④証拠が滅失される可能性がある又は今後収集しかねることを証明すること。例えば、
証拠自体の原因により滅失又は真実が喪失されるおそれがあり、証拠の所有者が毀損
又は隠匿する行為を取るおそれがあり、証拠の所有者が強勢地位にてその提供を拒絶
すること等。
そのうち、初歩的証拠の提出は、権利者が臨む大きい難題である。侵害ソフトウェアが
企業内部で使用されている際に、権利者は、企業の統制を避けて侵害ソフトウェアに接触
することができず、大多数の企業も如実にその侵害行為を認めないので、権利者は、企業
が不法にソフトウェアを複製した直接的な証拠を収集しかねる。実務上、権利者は、通常、
自ら調査し、又は版権局を介して調査する等の間接方式を以って侵害行為の存在を証明し
ている。本事件において、マイクロソフト社は、自ら監督・測定する方法と調査する方法
により、初歩的証拠を収集し、かつ、被告のウェブサイトにおける関連内容について初歩
的公証を行った。関連公証書によれば、被告ウェブサイトにおける内容は、側面から被告
125
より原告のソフトウェアの海賊版を使用したとの行為を証明することができる。即ち、関
連公証書は、正に被告の侵害行為を証明する初歩的証拠である。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
中国において、人民法院は、証拠に対する要求は非常に高く、原告の挙証責任は非常に
重い。また、知的財産権訴訟事件における専業性と複雑性により、権利者は、権利を行使
する際に往往として挙証が難しい難題に遭遇される。コンピューターソフトウェア侵害事
件だけではなく、方法特許侵害事件と営業秘密侵害事件は、いずれも原告からの挙証が非
常に困難な事件である。
現在、司法実務において、ある程度権利者の挙証責任を減少する傾向が生じており、権
利者がすでに挙証のために全力をつくし、かつ、常理に基づき、侵害の可能性が比較的大
きい事件において、人民法院は、裁量により挙証責任の転換を行うことができる。しかも、
人民法院が証拠保全の運用を行うことも日増しに増えている。
権利者は、今後、権利を行使する際に、最大限に侵害の存在を証明する初歩的証拠を収
集する一方、挙証が確実に困難である際、裁判官と充分に意見交換し、証拠保全を通じて
挙証を完成することは期待される。
(8)「狼蛛(Tarantula)」マジック作品著作権紛争事件
1. 事 件 の 性 質
著作権侵害紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:Yigal Messika と北京爵克文化発展有限公司、楊琦間の著作権侵害紛争事件
争点:①原告が狼蛛マジック作品の著作権を享有するとの主張は成り立つか否か、②被告
が原告の享有する狼蛛マジック作品の著作権を侵害したと言う原告の主張は成り立つか否
かの問題。
3. 書 誌 的 事 項
第一審:北京市第二中級人民法院(2010)一中民初字第 10067 号
原告:Yigal Messika
被告 1:北京爵克文化発展有限公司
被告 2:楊琦
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判決日:2012 年 3 月 19 日
関連条文:
①「中華人民共和国著作権法」第 2 条、第 3 条第(3)号、第 15 条第 1 項
②「中華人民共和国著作権法実施条例」第 4 条第(7)号
出典:北京知識産権律師網
http://www.cnipr.net/article_show.asp?article_id=15580&keyword=Yigal%20Messika
%D3%EB%B1%B1%BE%A9%BE%F4%BF%CB%CE%C4%BB%AF%B7%A2%D5%B9
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4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
原告は、イスラエルの公民であり、職業マジック師として米国の永久居住権を有する。
2008 年 3 月、原告は、狼蛛と言うマジック道具の設計に着手していた。狼蛛道具に対す
る操作を通じて、物体を浮遊させる芸術效果を実現できる。原告は、狼蛛道具に対する運
指法及び形体を通じて、観衆の注意力を転移する等の演出スキルを補い、マジック芸術の
效果を実現した。したがって、狼蛛道具の運用と実演自体は、マジック作品を構成する。
当該套マジックの手法と芸術效果を実現するために、原告は、他人の協力下で DVD を作
成し、狼蛛道具に対する原告の操作と実現、狼蛛マジックが達する芸術效果、狼蛛マジッ
クに対する観衆の熱烈な反応を記録した。しかも、原告は、狼蛛道具の包装箱、狼蛛 DVD
の包装カラーページも作成した。2009 年 4 月から原告は、中国の会社が不法に狼蛛 DVD
及び道具を複製し、売り出しているとのことを聞いた。2009 年 7 月 27 日、被告楊琦は、
北京世界マジック大会会場で原告に書面による承諾を表明し、かつて原告の模倣品を販売
していたものの、その後、二度といずれかの原告の模倣品を販売していないと称した。2009
年末、原告は、被告楊琦が依然としてトウボウサイトで狼蛛商品を販売し、かつ、オリジ
ナル製品であると称していることを見付けた。2010 年 1 月、原告は、原真動力知識産権
代理有限公司に委託して両被告が販売している狼蛛 DVD 及び道具を購入したが、関連対
比・鑑定に寄れば、両被告が販売している狼蛛 DVD 及び道具は、いずれも不法に複製し
た商品であった。したがって、原告は、人民法院に被告に対して、①両被告は直ちに原告
の著作権を侵害する行為を中止し、悪い影響を解除し、かつ、原告に謝罪すること、②両
被告が連帯して原告の経済損害 CNY10 万元を賠償すること、③両被告が原告が侵害行為
を制止するために支出した合理的費用合計 CNY16.6 万元を賠償することを命じるよう請
求した。
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( 2) 第 一 審 判 決
一審人民法院は、次のとおり判定した。
「著作権法」第二条の規定に基づき、外国人の著作物は、その著作者の所属国又は経常
居住地国と中国の間で締結した協議又は共同で加盟した国際条約に基づいて著作権を享有
し、「著作権法」に保護されている。原告は、イスラエル国民としてその経常居住地は米
国にある。イスラエル、米国及び中国は、いずれも「ベルヌ条約」の加盟国であり、「ベ
ルヌ条約」第 3 条 1.(a)の規定に基づき、原告の著作物は、すでに出版されたか否かにかか
わらず、いずれも中国で保護されている。それと同時に、原告が中国で著作権の保護を請
求したことに鑑み、中国の法律に基づいて著作権の権利帰属と内容を確認すべきである。
①原告の主張した狼蛛マジック作品に対する著作権が成り立つか否かについて
原告は、本事件において、証拠 5 の狼蛛 DVD において体現した狼蛛道具の運用とデモ
ンストレーションはマジック作品を構成し、原告は当該マジック作品の著作者であると主
張した。狼蛛 DVD で示されたマジック師の姓名「Yigal Mesika」と原告のイスラエルパ
スポート及び米国の永住証に示された姓名「Yigal Messika」の間に些細な相違はあるも
のの、狼蛛 DVD におけるマジック師の面容と上述のパスポート、居住証にある原告の写
真は、視覚上ではいかなる相異もなく、かつ、上述の些細な相異に対する原告の解釈が情
理に合うことに鑑み、人民法院は、狼蛛 DVD におけるマジック師「Yigal Mesika」は本
事件の原告であると判定した。
「著作権法」第 3 条第(3)号の規定に基づき、当該法規に言う著作物には雑技の芸術
作品も含んでいる。「中華人民共和国著作権法実施条例」(以下「著作権法実施条例」と
いう)第 4 条第(7)号規定では、雑技芸術の著作物とは、雑技、マジック、サーカス等
の形体の動きとスキルにより表現する著作物のことを指す。「ベルヌ条約」第 5 条の国民
待遇原則に係る規定に基づき、著作者が著作物の起源国以外の本同盟・加盟国において、
各当該国の法律により現在付与されている権利と今後付与される可能性のある国民の権利
を享有することができ、かかる権利の享有と行使はいかなる手続も必要とせず、著作物の
起源国で保護されているか否かとは無関係である。したがって、マジック作品がイスラエ
ル、米国で保護されているか否かにかかわらず、当該作品は中国でいずれも「著作権法」
に保護される対象に該当する。
「現代漢語辞典」における「マジック」という言葉の釈義、及び生活経験を結合してみ
れば、マジックは観衆が感知できる部分、すなわち、観衆に見せる動作と情景及び観衆が
感知しかねる部分、又はスキル若しくは装置に覆われた動作から構成していることが分か
る。ここで言う「動作」とは、表演者の形体の動き、姿勢を指し、いわゆる「情景」とは、
背景、道具等から構成された視覚画面のことを指す。「著作権法実施条例」第 2 条では、
「著作権法」に言う著作物とは、文学、芸術と科学分野において、独創性を有し、かつ、
ある種類の有形形式により複製できる知力成果のことを指すと規定している。したがって、
「著作権法」が保護する著作物は、有形の形式で複製できる知力成果であり、他人に客観
的に感知されることができる外在の表現である。それと同時に、「著作権法実施条例」に
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おける「マジック等の雑技の芸術著作物とは形体の動きとスキルで表現する著作物と指す」
との規定に結合して、当法院は、「著作権法」に保護されているマジック作品はマジック
で観衆にもたらす形体の動き、姿勢の表現であると判定した。また、観衆に見せる背景、
道具等で構成された視覚的画面は、美術作品を構成するか否かを考慮することにより保護
を与えることである。スキル又は装置に覆われた動作については、これらが観衆に客観的
に感知されることができないので、「著作権法」に保護される客体に該当しない。
有形の形式で複製するほかに、著作物を構成するには「独創性」の要件を満たすべきで
ある。独創性とは、著作物が著作者が独立的に創作して生じたものであり、何も無い状態
から有形になる初の創作を含むだけではなく、他人がすでに有する著作物を基にして再創
作することも含んでいる。したがって、「著作権法」に保護されるマジック作品は、著作
者が独立的に創作して生じられたものであり、既存の著作物に対する剽窃ではない。仮に
特定のマジック作品が既存の著作物を基にして変更・創作したものである場合、合理的に
既存の動作の表現と新たに捜索した動作の表現を区別し、公知の分野にある動作の表現に
対しては保護すべきではない。
事実上、マジックの根本的な特性と生命力は、マジック作品の形式で保護する形体の動
き、姿勢の表現により体現されるものではなく、スキル又は装置に覆われ、観衆に知得さ
れていない秘密により体現されるものである。マジックの実演に対する「永遠に言い出せ
ないマジックの秘密について、同一観衆の前で同一マジックを演出せず、事前に演出の内
容を説明しない」等の規則に鑑み、マジックの秘密性の特徴は明らかである。正にかかる
秘密性の特性があってこそ、多くのマジックは、通常、マジック師(実演者)が自ら創作・
研究して完成したものであるが、当然に他人が創作した後、マジック師に実演してもらう
可能も排除できない。「著作権法」第 11 条第 4 項では、仮に反証が無い場合、著作物に
署名した公民、法人又はその他の組織がその著作者であると規定している。マジック作品
の場合、通常、その発表方式がマジック師の実演になるので、大多数状況では署名の要件
を有しない。したがって、著作者の身分が適切な方式に表明されない際に、人民法院は、
マジック作品の著作権者の合法的な権利を保護する立場から、マジックの秘密性の特徴を
考慮し、他人がマジック作品を創作・完成したことを証明できる証拠が無い状況下で、マ
ジック作品の実演者をそのマジック作品の著作者として推定することができる。
本事件において、原告が実演した狼蛛マジックは、狼蛛道具に対する操作と一定のスキ
ルを運用を通じて、観衆にリング等の物体が空気の中で浮遊する視覚的な效果をもたらす
ことができる。全体のマジックは、観衆に形体の動き、姿勢の組合せにより一定の構想を
体現したが、被告は、かかる形体の動き、姿勢の組合せがすでに著作物の中に存在するこ
とを証明又は説明できる証拠を提出しなかった。したがって、一定の独創性を有し、全般
的に「著作権法」に保護されるマジック作品に該当する。しかも、係争狼蛛マジックは、
その他の方式により著作物の創作者の身分を表明していない。原告は、マジックの実演者
であるので、その他の反証がない状況下で、人民法院は、原告が係争狼蛛マジック作品の
著作者であり、係争狼蛛マジック作品に対して著作権を享有していることを推定できる。
129
②被告が狼蛛マジック作品に対して原告の享有する著作権を侵害したと言う原告の主張
が成り立つか否かについて
原告は、本事件において、狼蛛マジックで実演した狼蛛 DVD が映画の撮影方法により
創作された著作物と類似するとの内容を記録し、被告が許諾を得ずに狼蛛 DVD を複製・
発行した行為は、原告の狼蛛マジック作品に対して原告が享有する著作権を侵害した行為
に該当すると主張した。「著作権法実施条例」第 4 条第(11)号では、映画作物と類似の
映画の撮影方法により創作された著作物とは、一定の担体に撮影され、一連の音声がある
又は音声がない画面で組成し、かつ、適切な装置を以って放映し、又はその他の方式によ
り伝達する著作物のことを指すと規定している。映画作品は、1 つの総合芸術であり、そ
の本質は、画面、音声のつながりにあり、各種の画面、音声の前後のつながりによりある
内容を表現する。映画作品の独創性は、主に又は最終的に画面の繋がりと音声のつながり
により体現される。
本事件において、原告の提出した狼蛛 DVD には原告が街で観衆との相互連動で狼蛛マ
ジックを実演する場景及び原告が室内で狼蛛マジックの秘密披露・デモンストレーション
する情景を記録し、DVD 全般に記録された内容は、画面内容の選択、角度と色度、盤面
の切り替え、画面の編集、音声のつながり等にて撮影者の構想を反映し、ある精神内容を
表現し、ある程度の独創性を有し、すでに「著作権法」に保護される映画の撮影に類似す
る方法で創作した著作物に該当する。
「著作権法」第 15 条第 1 項では、映画作品と映画撮影の類似方法により創作した著作
物の著作権は、プロデューサーが享有するものの、脚本家、監督、撮影、作詞、作曲等の
著作者は署名権を享有し、かつ、プロデューサーと締結した契約に基づいて報酬を得る権
利を有すると規定している。第 15 条第 2 項では、映画作品と映画の撮影に類似する方法
で創作した著作物に係る脚本、音楽等について、単独で使用できる著作物の著作者は、単
独でその著作権を行使する権利を有すると規定している。
上述の規定に基づき、映画作品の全体の著作権は、プロデューサーに帰属し、プロデュ
ーサーは、他人が映画作品を使用することを許諾し、又は許諾を得ずに映画作品を使用す
る行為に対してその権利を主張できる。映画作品に含まれた独立著作物の著作者は、映画
作品における署名と報酬を取得する権利を有する。映画作品に含まれた独立著作物の著作
者は、許諾を得ずにその著作物を使用する行為に対してその権利を主張する権利を含むそ
の著作権を単独で行使できるものの、当該権利は他人の使用行為が単独で当該独立著作物
を使用した行為のみに限り、映画作品の形式で当該独立著作物を使用する行為ではない。
本事件において、狼蛛 DVD を担体とする著作物は、その全般において映画の撮影の類似
方法により創作した著作物である。しかし、狼蛛マジックは、その中に含まれた独立著作
物であり、未許諾複製・発行行為が狼蛛 DVD を担体とする著作物全般の使用に該当し、
著作物全般を逸脱して単独で狼蛛マジック作品を使用した行為ではないので、仮に原告は、
狼蛛マジック作品の著作権を享有したとしても、許諾を得ずに狼蛛 DVD を複製・発行し
た被告の行為が狼蛛マジック作品に対する自己の著作権を侵害したと主張する権利はない。
130
原告は、本事件において、同時に被告が狼蛛 DVD に対する映画の撮影の類似方法によ
り創作した原告の著作物の著作権、及び狼蛛 DVD の包装カラーページ、狼蛛道具の包装
箱に対する美術作品の著作権を侵害したと主張したが、人民法院は、すでに(2010)一中
民初字第 10067 号民事裁定書にて評価し、すでに判決を言い渡したと述べた。
以上の理由により、次のとおり判示した。
原告 Yigal Messika が提出した狼蛛マジック作品の著作権に係る訴訟請求を棄却するこ
と。
5. 解 説
北京市高級人民法院の意見によれば、本事件の重要な意義は、本事件が国内で初めて判
決を以って結審したマジック作品の著作権侵害紛争事件であるとのことにある。雑技を著
作物として保護することは、中国「著作権法」の特色であり、世界でも国家が当該模式を
採用することは少ない。中国「著作権法実施条例」第 4 条第(7)号では、マジックは雑
技芸術作品の一種であると規定したものの、マジック作品がなにを保護するかについては、
未だ更なる定義がない。本判決は、マジック特徴に対する分析と「著作権法」で独創性表
現を保護する主旨を把握することを通じて、初歩的にマジック作品の保護内容を整理した。
上記の規定に基づき、マジック作品は、その他の著作物と同様に、中国「著作権法」が
保護する客体であるが、ここに言うマジック作品は、中国「著作権法」に規定する要件を
具有するこそ、法律の保護を受けることができる。「著作権法」で保護する著作物は、有
体形式により複製できる知的成果であり、客観的に感知される外在化表現であり、抽象的
な思想を保護するものである。したがって、「著作権法」の保護を受けるマジック作品は、
マジックの中で観衆に提供する形体の動作、姿勢の表現である。観衆に客観的に感知され
ないスキル又は装置に覆われた動作、たとえば、マジック師の隠蔽な動作、隠蔽されたマ
ジックツール、机構の使用等は、「著作権法」で保護する客体にならない。これは、「著作
権法」ではいかなる操作方法、技術方案又は実用性機能を保護しないからである。
また、
「著作権法」で作者の身分を确定するために実行する原則は署名推定の原則である。
マジック作品の場合、更にマジック作品の著作権者の合法的権利を保護するために、マジ
ック作品が他人により創作・完成されたことを証明する証拠がない状況下で、マジック作
品の実演者がマジック作品の著作者であると推定することができる。
本事件において、原告が演出した狼蛛マジックは、狼蛛ツールに対する操作と運用を通
じて、観衆のために演じる形体の動作、姿勢の排列は一定の構想を現し、被告は、かかる
排列がすでに著作物の中に存在していることを証明しなかった。原告は、マジックの実演
者であり、その他の相証がない状況下で、同実演者がマジック作品の著作者であり、係争
マジック作品に対して著作権を享有すると推定することができる。
狼蛛DVDについて、
「著作権法実施条例」第4条第(11)号と第5条第(3)号では、それ
ぞれ映画作品と録画製品の定義を規定したものの、本質上では映画作品と録画製品の間の
131
限界を掲示していない。北京市高級人民法院は、
「知的財産権審判参考問答(10):当前審理
与戯劇関連的著作権紛争事件応注意哪些問題?」において、上記の限界について一定の論
述を行っている。同文章では、映画作品は一種の総合芸術であり、その本質は画面、音声
の繋がりにあり、各種の画面、音声の前後のつながりによりある内容を表現している。映
画作品の独創性は、主にかつ最終的に画面の繋がりと音声の繋がりにて現される。机械方
式は、他人の現場講座、戯劇実演等を録音・録画して録音・録画製品を形成する。録音・
録画の過程において、機械置き場の設置、場景の選択、レンズの切替等について、簡単な
調整を行なったり、又は録音・録画した後、画面、音声に対して簡単なモンタージュ等を
行なったりしたに過ぎず、録音・録画製品に対する認定に影響をもたらさない。すなわち、
創作のレベルが比較的低く、常用機能の運用で簡単に完成できる成果については、映画作
品として認定するわけにはいかない。上述の規則を運用して具体的に分析すれば、本事件
において、原告が提出した狼蛛DVDは、すでに「著作権法」で保護する、映画の撮影に類
似する方法で創作した著作物を構成する。
映画の撮影方法に類似する方法で創作した著作物に含まれる独立的作品の著作者は、単
独で自己の許諾を得ずにその著作物を使用する行為に対してその権利を主張できるものの、
他人の使用行為が単独で当該独立的作品を使用した行為に該当することに限るべきである。
本事件において、被告が許諾を得ずに狼蛛DVDを複製・発行した行為は、狼蛛DVDを担体
とする著作物の全体に対する使用に該当し、著作物の全体を逸脱して単独に狼蛛マジック
作品を使用した行為に該当しないので、仮に原告が狼蛛マジック作品の著作権を享有した
としても、原告は被告が許諾を得ずに狼蛛DVDを複製・発行した行為が狼蛛マジック作品
に対する原告の著作権を侵害したと主張する権利を有しない。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
本事件は、マジック作品の保護に係る事件であるものの、非マジック作品の保護に対し
てもその参考異議を有する。それは、本事件の判決では、独立的作品が映画の撮影方法に
類似する方法で創作した著作物の中の「小作品」としての権利保護の規則を明确化し、同
事件の類似事件の審理に対して一定の方向性役目を有するからである。映画の撮影方法に
類似する方法で創作した著作物に含まれた独立的作品の場合、その著作者は、単独で自己
の許諾を得ずにその著作物を使用する行為に対してその権利を主張できるものの、他人の
使用行為が単独で当該独立的作品を使用した行為に該当することに限るべきである。
(9)『第 9 代ラジオ体操』の著作権事件(最高人民法院「2012 年中国
法院知識産権司法保護十大創新性案件」の 4)
略
(10)「フランス雄鶏」に関する商標権侵害紛争事件
132
1. 事 件 の 性 質
商標権侵害紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:株式会社デサントと深セン走秀網絡科技有限公司、北京今日都市信息技術有限公
司間の商標権侵害紛争事件
争点:①被告走秀網公司が販売していた被疑侵害商品は、原告株式会社デサントの本件登
録商標専用権を侵害した商品に該当するか否か、②被告走秀網公司が販売していた被疑侵
害商品は、合法的な出所を有するか否か、走秀網公司は相応の法的責任を負うべきか否か、
③被告今日都市公司が消費者を組織して本件侵害商品を共同購入させた行為は、販売に該
当するか否か、今日都市公司は相応の法的責任を負うべきか否か。
3. 書 誌 的 事 項
第一審:北京市第二中級人民法院(2011)二中民初字第 11699 号
原告:株式会社デサント
被告:深セン走秀網絡科技有限公司(以下「走秀網公司」という)
被告:北京今日都市信息技術有限公司(以下「今日都市公司」という)
判決日:2012 年 4 月 25 日
第二審:北京市高級人民法院(2012)高民終字第 3969 号
上訴人:北京今日都市信息技術有限公司
被上訴人:株式会社デサント
原審被告:深セン走秀網絡科技有限公司
判決日:2012 年 12 月 19 日
関連条文:①「中華人民共和国民法通則」第 134 条第(1)号、第(7)号、第(9)号、
②「中華人民共和国商標法」第 51 条、第 52 条第(2)号、第 56 条
出典 北大法宝
http://www.pkulaw.cn/fulltext_form.aspx?Db=pfnl&Gid=118872274&keyword= 株 式 会
社迪桑特&EncodingName=&Search_Mode=accurate
4. 事 件 の 概 要
133
( 1) 事 実 関 係
株式会社デサントは、世界知名服装、スポーツ・レザー製品の製造企業である。2003
年 3 月 21 日、国家商標局の許可を経て、株式会社デサントは、第 2000475 号
「LE COQ
SPORTIF 及び図」商標を登録し、指定使用商品は、第 25 類スポーツシューズ、スポーツ
スーツ等である。また、更新を経て、当該商標の登録有效期間は、2003 年 3 月 21 日~2013
年 3 月 20 日である。2004 年、株式会社デサントは、中国で寧波楽卡克服飾有限公司を設
立し、かつ、当該公司に対して中国大陸地区における商標使用を許諾した。国家商標局は、
(2009)商標異字第 20962 号商標異議裁定書において、同商標が服装、スポーツスーツ
等の商品にて比較的高い知名度を有すると認定した。浙江省高級人民法院は、(2010)浙
知終字第 15 号民事判決書において、同商標が関連公衆の中で一定の知名度を有すると認
定した。
走秀網公司は、2007 年 10 月に設立し、国内でファッション電子ビジネスに従事する企
業として、常に、世界知名ブランド商品を販売している。2010 年 4 月 1 日、走秀網公司
と亮偉鞋業有限公司は、
「プラットフォーム使用契約」を締結し、双方当事者は、契約にお
いて、次のとおりに約定した。走秀網公司は、亮偉鞋業有限公司に対して走秀網公司のネ
ットワーク取引プラットフォームを使用して亮偉鞋業有限公司の「LE COQ SPORTIF」
ブランドのスポーツシューズを販売・普及すること、亮偉鞋業有限公司が販売する商品は、
必ず走秀網公司に渡して走秀網公司が統一的に物流を手配して顧客に納品すること、販売
商品代金は、先に走秀網公司が統一的に受け取ったうえ、双方の約定期限と方法に基づい
て亮偉鞋業有限公司に振り込むこと、商品の販売において生じる品質の問題、法的責任に
ついては、いずれも亮偉鞋業有限公司が負担すること、走秀網公司は、取引金額の 10%を
プラットフォーム使用料として亮偉鞋業有限公司から受け取ること、協議有效期間は、
2010 年 4 月 1 日~2012 年 3 月 31 日であること。
上述の契約を締結した際に、亮偉鞋業有限公司は、走秀網公司に 2 部の「証明」を提出
したが、そのうち、1 部は楽卡夫国際有限公司(LCS International B.V.)南米会社が 2008
年 1 月 2 日に発行したものである。当該「証明」には、DISTRINANDO 南米会社の法定
住 所 は ア ル ゼ ン チ ン に 位 置 し 、 当 該 公 司 は ア ル ゼ ン チ ン 国 内 外 に お け る 「 LE COQ
SPORTIF」ブランドの独占的許諾所有者であると明記していた。もう 1 部の「証明」は、
楽卡夫国際有限公司が 2008 年 12 月 9 日に発行したものであり、当該「証明」において、
楽卡夫国際有限公司は「LE COQ SPORTIF」ブランドの所有者であり、DISTRINANDO
株式会社は、アルゼンチンの国家法律に基づいて設立した会社であり、本部はアルゼンチ
ンに設置されており、DISTRINANDO 株式会社は、アルゼンチン国内における楽卡夫国
際有限公司の公式被許諾者であり、楽卡夫国際有限公司は、DISTRINANDO 株式会社に
対してアルゼンチン共和国国内で「LE COQ SPORTIF」商標を使用する非独占的使用権
を許諾したが、その有效期限は 2010 年 6 月 30 日であると記載していた。走秀網公司は次
134
のとおり主張した。亮偉鞋業有限公司は、上述の「証明」に基づき、自社の普及・販売す
る「LE COQ SPORTIF」スポーツシューズは DISTRINANDO 株式会社から購入したも
のであると説明した。
今日都市公司は、2010 年 9 月 3 日に設立し、その経営範囲には技術普及サービス、デ
ザイン作成、発布広告、企業画策等を含む。2011 年 3 月 11 日、今日都市公司と走秀網公
司は、
「普及契約」を締結し、双方は、同契約において、次のとおりに約定した。今日都市
公司は、タイムリミット共同購入プラットフォームを提供し、普及製品をネットページで
発布し、消費者は、ネットサイトから購入確認を行い、普及製品は 3 種類のフランス雄鶏
(France cock travel shoes)スニーカーであり、納品能力は合計 3000 足であり、消費者
が共同購入に加入した後、オンラインで送金し、今日都市公司が消費者の支払った代金を
受取るが、つまり、消費者が支払った代金は、直接に今日都市公司の口座番号に送金され、
今日都市公司は、受け取るべき技術サービス費を控除した後、協議に基づいてその残額を
走秀網公司の口座番号までに送金する。今日都市公司が受け取った技術サービス費は、
CNY24 元である。共同購入が成り立たなかった場合は、当該活動は自動に失効し、今日
都市公司は、代金を消費者に返済する。走秀網公司は、今日都市公司の要求に基づいて、
如実に普及製品の写真、文字案内等の関連情報を提供し、アフターサービス及び取替、返
品等を負担する。今日都市公司は、上述「普及契約」を履行するために、走秀網公司の提
供した楽卡夫国際有限公司南米会社、楽卡夫国際有限公司の発行した「証明」を審査した。
原告株式会社デサントは、両被告に対して原告の係争商標の使用を許諾したことがない。
2011 年 3 月 14 日、被告今日都市公司は、自社ウェブサイトにて情報を発布し、CNY99
元の価格で被告走秀網公司の提供した「原価が 480 元である法国公鶏旅行鞋)」の共同購
入を組織したが、当該商品には株式会社デサントの係争商標と同一の標章を使用していた。
株式会社デサントの鑑定によれば、当該商品は原告が製造したか、或いは原告が他人に許
諾して製造したものではなく、品質も粗末であり、侵害商品に該当した。株式会社デサン
トは、両被告は原告の許諾を得ずに、無断で原告登録商標専用権を侵害した商品を販売し、
原告の登録商標専用権を侵害したと主張し、人民法院に訴訟を提起し、①両被告に対して
侵害商品の販売を差止め、被告のウェブサイトに掲載された侵害内容を削除すること、②
両被告に対して共同で原告の経済損害 CNY50 万元及び訴訟における合理的な支出
CNY3.5058 万元を賠償すること、③両被告に対して「中国消費者報」にて係争侵害行為
についての声明を発表し、影響を解消することを請求した。
( 2) 第 一 審 判 決
第一審人民法院は、
「民法通則」及び「中華人民共和国商標法」の関連規定に基づき、次
のとおりに判定した。
① 被告走秀網公司が販売した被疑侵害商品が原告株式会社デサントの本件登録商標専
用権を侵害した商品に該当するか否かについて
135
中国「商標法」の規定に基づき、登録商標専用権者の許諾を得ずに、同一又は類似の商
品に前者の登録商標と同一又は類似の商標を使用した場合、登録商標専用権侵害行為に該
当する。本件の被疑侵害商品――スニーカーと原告株式会社デサントの本件の登録商標の指
定使用商品は同一商品である。原告株式会社デサントが法廷で提出したスニーカーのアッ
パーには
には
標章と「le coq sportif」標章が印刷されている。スニーカーのパッケージ
標章が印刷されている。そのうち、標章
ぞれ株式会社デサントの第 2000475 号登録商標
サントの第 2000475 号登録商標
と「le coq sportif」標章は、それ
と類似し、 標章
と株式会社デ
は同一し、かつ、関連公衆に混同をもたらす可能性
がある。当該被疑侵害商品に対する株式会社デサントの鑑定によれば、同社の許諾を経て
製造された商品ではないことが確認できた。被告走秀網公司も当該商品の製造が株式会社
デサントからの許諾を得ていることを証明できず、また、当該商品の販売価格も株式会社
デサントが許諾製造した商品の価格より低い。したがって、当該商品が原告株式会社デサ
ントの登録商標専用権を侵害した商品であることが判定できる。
商標の並行輸入とは、国際貿易の取引において、1 件の商標権又は商標使用権が本国法
律の保護を受けている前提で、1 国の輸入商社が、本国商標権利者又は商標使用権者の許
諾を得ずに、国外から購入した同一商標の商品を本国に輸入する行為を指す。本事件の被
告走秀網公司は、自社が亮偉鞋業有限公司から購入した本事件の
商標付スニーカーは、
DISTRINANDO 株式会社がアルゼンチンで製造したものとして、並行輸入商品に該当す
ると主張した。本事件の関連証拠によれば、DISTRINANDO 株式会社は楽卡夫国際有限
公司の許諾を得た「le coq sportif
諾を得た本事件の登録商標
」標章の被許諾者であり、株式会社デサントの許
の被許諾者ではないので、当該スニーカーは、株式会社デ
サントの許諾を経て国外で製造された商品ではない。よって、並行輸入商品に対する被告
走秀網公司の主張には根拠が欠如し、第一審人民法院はみとめなかった。
② 被告走秀網公司が販売していた被疑侵害商品は、合法的な出所を有するか否か、走秀
網公司は相応の法的責任を負うべきか否かの問題について
中国「商標法」の規定に基づき、登録商標専用権侵害商品であることを知らずに販売し、
当該商品について自己が合法的に取得したことを証明し、かつ提供者のことを説明できる
場合は、賠償責任を負わないものとする。本事件において、被告走秀網公司は、自社の販
売している本事件の侵害商品が亮偉鞋業有限公司から提供されたと主張し、かつ、自社と
亮偉鞋業有限公司の間で締結した「提携普及契約」と亮偉鞋業有限公司が提供した 2 部の
136
「証明」を提出した。上述の 2 部の「証明」内容を持って、いずれも侵害商品の出所が
DISTRINANDO 株式会社であることを証明しようとしていた。株式会社デサントは、上
述の証拠を反駁するために、DISTRINANDO 株式会社が発行した「公告」を提出し、
DISTRINANDO 株式会社は「公告」にて DISTRINANDO 株式会社はアルゼンチン国外
における「LE COQ SPORTIF」ブランド商品の販売に関する許諾を取得していないと明
記した。したがって、DISTRINANDO 株式会社は亮偉鞋業有限公司に対して、本事件の
侵害商品を販売したことがなければ、同社に中華人民共和国国内での本事件の侵害商品の
販売を委託したこともない。
DISTRINANDO 株式会社の発行した上述の「公告」は、直接に、被告走秀網公司の提
出した 2 部の「証明」の証明力を否定した。しかも、ISTRINANDO 株式会社がかつて亮
偉鞋業有限公司に本事件の侵害商品を販売したことを否定した前提で、被告走秀網公司の
提出した 1 部の「提携普及契約」だけでは、本事件の侵害商品が合法的な出所を有するこ
とを証明することができない。
商標権が地域性を有する特徴に基づき、1 件の商標がある国家で許可・登録された後、
商標権者が享有する商標専用権は、当該国家の地域範囲内に限っており、商標権者がその
他の国家で当該商標について、登録しなかった場合、当該商標は、その他の国家で保護を
受けられない。被告走秀網公司は、本事件の侵害商品を販売する際に、対外的にそのブラ
ンドは「法国公鶏」であると称していた。しかし、当該商品に使用した標章
式会社デサントの登録商標
と原告株
は同一する。被告走秀網公司は、楽卡夫国際有限公司の発
行した「証明」2 部に基づき、自社の販売している「法国公鶏」スニーカーの権利者が楽
卡夫国際有限公司であり、当該公司の許諾さえ得られば済むと考える可能性がある。しか
し、走秀網公司は、常に世界知名ブランド商品を販売している流行電子ビジネス企業とし
て、商標権に対する保護には地域性を有するとのことを知得するはずであり、仮に中華人
民共和国域内で標章
で合法的に標章
付「法国公鶏」スニーカーを販売する場合、中華人民共和国域内
付商品を販売できるか否かについて審査することにより、権利侵害の
発生を防止すべきである。更に原告株式会社デサントが中国で商標を登録した後、合弁会
社を設立し、専売店を開設し、世界大型体育試合を協賛する等の形式により商標の宣伝に
尽力し、当該商標を一定の知名度を有するようにしたが、関連公衆が知得する商標
の
中国権利者は株式会社デサントであり、走秀網公司は、これを知得すべきである。したが
って、原告株式会社デサントの権利は軽視されるべきではない。上述の状況に基づき、本
人民法院は、被告走秀網公司は主観的に自社が販売している標章
137
付「法国公鶏」スニ
ーカーは、原告株式会社デサントの登録商標専用権を侵害した商品であり、かつ、被告走
秀網公司が販売している当該侵害商品が合法的な出所を有せず、被告走秀網公司の行為が
株式会社デサントの登録商標専用権を侵害したことを知得しているので、法により相応の
法的責任を負うべきであると判定した。
③ 被告今日都市公司が消費者を組織して本事件の侵害商品を共同購入させた行為は、販
売に該当するか否か、今日都市公司は相応の法的責任を負うべきか否かの問題について
被告今日都市公司と被告走秀網公司は「普及契約」を締結し、今日都市公司は、その「
嗒団」販売プラットフォームを利用して消費者に本事件の侵害商品の共同購入情報を掲載
した。被告今日都市公司と被告走秀網公司が締結した「普及契約」の内容によれば、走秀
網公司は、普及係争商品のために、共同購入分野における今日都市公司の優勢を借りて商
品販売を完成しようとしたが、当該行為も現在の電子商取引分野における新たな提携経営
模式の 1 つである。被告今日都市公司は、ある程度の影響を有する共同購入ウェブサイト
である。今日都市公司の販売プラットフォームにおいて、同社は、直接消費者に商品を販
売するのではなく、タイムリミット共同購入方式を以って消費者が積極的に自社の推薦す
る商品を買うことを促していた。当該過程において、今日都市公司は、消費者に人気製品
を紹介・推薦し、タイムリミット等の有力な手段を講じることにより、当該商品を理解し
てもらい、購買力の向上を図っていたが、当該行為自体も販売促進行為の 1 つに該当する。
消費者に購買力を生じさせること自体も販売目的を実現するためのキーポイントである。
したがって、数多い消費者が今回の共同購入に参与する際に、正に今日都市公司の上記の
優勢に頼るために、被告走秀網公司の係争商品を選択し、購入したわけである。上述の過
程からみれば、被告今日都市公司は、共同購入における自社の企業優勢を十分に発揮し、
被告走秀網公司との提携目的に達し、両者も共同販売行為に該当する。全般過程において、
被告今日都市公司は、サービス料を受け取り、消費者の購入商品の代金も直接に今日都市
公司に振り込まれた。関連消費者が後で今日都市公司に対して返品、代金の返済等を主張
することに鑑み、消費者が同社を商品の販売者として見なしたことは明らかである。した
がって、人民法院は、被告今日都市公司は本事件の侵害商品の販売者であると判定する。
中国「商標法」における「販売者は賠償責任を負うべきか否かについての判定規定」か
らみれば、商品販売者は自己の販売する商品について法定の審査義務を負うべきである。
被告今日都市公司は、自社と被告走秀網公司間で締結した「普及契約」に基づき、標章
付スニーカーを販売していた。原告株式会社デサントが商標
に対する広範な宣伝を経
て、同商標を一定の知名度を有し、関連公衆に知得された商標に成り立たせた前提で、被
告今日都市公司は、商標
と原告株式会社デサントの間に関連性が存在することを知得
するはずであったものの、今日都市公司は、自社のウェブサイトにて当該スニーカーは「法
138
国公鶏」ブランドであると宣伝し、当該商品にも標章
が付いていた。被告今日都市公
司は、ある程度の影響力を持っている共同購入ウェブサイトとして、商標権に地域性特徴
を有し、特に被告走秀網公司が自社に提供した 2 部「証明」において、商標権利者が原告
株式会社デサントではないことを明記したことを知得するはずである状況で、被告今日都
市公司は、尚更注意を払うべきであった。したがって、今日都市公司が当該商品を販売し
ていた際に、優先的に中国における商標の権利主体問題を確実に審査(確認)し、中国で
当該標章付商品を販売することができない関連状況等を理解することにより、侵害行為の
発生を防止すべきであった。被告今日都市公司が共同購入を組織した商品の規模、数量と
運営模式に鑑み、同社は相応の審査能力を有するものの、当該義務を果たしていないので、
人民法院は、被告今日都市公司は主観的に自社の販売する標章
付本事件の「法国公鶏」
スニーカーが原告株式会社デサントの登録商標専用権を侵害した商品であり、自社が当該
侵害商品を販売する行為が株式会社デサントの登録商標専用権を侵害したことを知得する
はずであったので、相応の法的責任を負うべきであると判定する。
以上の理由により、次のとおり判示する。
① 本判決が確定されてから深セン走秀網絡科技有限公司と北京今日都市信息技術有限公
司は、侵害を差し止めること。
② 本判決が確定されてから 30 日間以内に、深セン走秀網絡科技有限公司は、「中国消費
者報」にて株式会社デサントの係争登録商標専用権を侵害した行為について声明を発表し、
影響を解消すること。
③ 本判決が確定されてから 30 日間以内に、北京今日都市信息技術有限公司は、「中国消
費者報」にて株式会社デサントの係争登録商標専用権を侵害した行為について声明を発表
し、影響を解消すること。
④ 深セン走秀網絡科技有限公司は、本判決が確定されてから 10 日間以内に、株式会社デ
サントの経済損害 CNY8 万元及び本事件の訴訟にて支出した合理的費用 CNY8000 元を賠
償すること。
⑤ 北京今日都市信息技術有限公司は、本判決が確定されてから 10 日以内に、株式会社デ
サントの経済損害 CNY2 万元及び本事件の訴訟にて支出した合理的費用 CNY2000 元を賠
償すること。
⑥ 株式会社デサントのその他の訴訟請求を棄却する。
(3) 第 二 審 判 決
二審人民法院は、本事件の事実を明らかにし、次のとおりに判示した。
被疑侵害商品には許諾を得ずに係争商標を使用したので、係争商標専用権に対する侵害
となる。走秀公司は、自社の販売していた被疑侵害商品の合法的な出所を証明できていな
いので、侵害差し止めの責任を負い、損害を賠償する等の法的責任を負うべきである。
139
「普及契約」によれば、走秀公司と今日都市公司は、提携して被疑侵害商品を販売し、
今日都市公司は当該共同購入活動で販売していた被疑侵害商品の具体的な情報(使用した
商標状況を含む)を明知し、今日都市公司も直接被疑侵害商品の特定取引の中から経済利
益を得た。したがって、今日都市公司は、共同購入情報の発布前に被疑侵害商品の合法性
(被疑侵害商品に付された商標が合法的であるか否かに対する確認を含む)を確認する義
務を負わなければならない。
したがって、本事件の争点は、今日都市公司は負うべき商標権の合法性に対する確認義
務を果たしか否かである。
今日都市公司は、上訴において、自社はすでに走秀公司の提供した 2 部「証明」を確認
したので、相応の確認義務を果たし、誤っていないと主張した。しかし、被疑侵害商品に
係争商標を使用したにもかかわらず、2 部の「証明」から中国大陸における係争商標の権
利帰属を証明できないだけではなく、被疑侵害商品に係争商標を使用した行為が合法的に
許諾されていることも証明することができないので、2 部の「証明」は、形式上、明らか
に被疑侵害商品の商標権の合法性を証明できない状況下で、今日都市公司は合理的な確認
義務を果たしないと判定すべきである。今日都市公司は、合理的な確認義務を果たさずに、
被疑侵害商品の共同購入情報を発布したので、誤りを有し、相応の法的責任を負うべきで
ある。今日都市公司は上訴主張において自社はすでに確認義務を果たしたと述べたものの、
当該主張には事実的かつ法的根拠がなく、人民法院は認めない。
今日都市公司は、上訴において、販売者の確認義務を負うべきではないと主張したが、
当該主張について、人民法院は次のとおり判定した。共同購入ウェブサイトの経営者が知
的財産権の合法性に対しどの程度の確認義務を負うべきかは、利益平衡の原則を満たす状
況で同社が共同購入活動から得た利益に基づき、共同購入商品に対する具体的情報の確認、
共同購入商品の取引情報と交易行為が侵害に該当するか否かに対する確認を必要とするか
により決められ、同社が「販売者」に該当するか否かにより決められることではない。本
事件において、今日都市公司は、被疑侵害商品と言う特定の共同購入活動の中から直接経
済利益を取得しているので、今回の共同購入活動の中で商品の商標合法性を確認すべきで
あった。本事件の特定状況下で、同社が「販売者」に該当するか否かにかかわらず、今日
都市公司が負うべき確認義務と販売者の確認義務は同一である。人民法院は、今日都市公
司の上訴主張を認めない。
上記をまとめると、一審判決で認定した事実ははっきりし、結論も正確である。今日都
市公司の上訴理由には事実的かつ法的根拠が欠如するので、人民法院は、同社の訴訟主張
を認めない。二審人民法院は、以上の理由により、次のとおり判示した。
上訴を棄却し、原判決を維持する。
140
5. 解 説
本事件は、中国法律に明文化された規定がない商標の並行輸入問題に及んでいる。商標
の並行輸入は、「灰色市場」とも言われているが、実は登録商標の所有者がある国(輸出国)
で登録商標を付した商品を製造・販売した後、第三者(輸入商)が当該商品をもう 1 つの国(輸
入国)に輸入した際に、当該登録商標の所有者又はその他の被許諾人も当該輸入国で同一商
標専用権を取得していることを指す。現在、中国の商標の並行輸入問題について、「商標
法」及びその「実施条例」及び関連司法解釈にはいずれも明確な規定がない。実務上、商
標の並行輸入が合法的であるか否か、又は侵害に該当するか否かの問題について議論が。
注意を払うべきところは、並行輸入に 1 つの前提条件があることである。すなわち、登
録商標を使用した商品の初回の市場への投入は、必ず商標登録者が自ら行い、又はその許
諾を得た行為であり、商品を輸入するルートは合法的でなければならない。仮に、初回の
市場への投入が違法行為である場合、当該行為自体が侵害行為に該当するだけではなく、
その後の輸入行為も侵害となるので、並行輸入を議論するまでいかない。仮に輸出国が商
標登録人の商標を登録していない国の場合、並行輸入とならない。
本事件において、被告の主張した並行輸入が成り立っていないので、人民法院は、並行
輸入が商標権侵害に該当するか否かの結論を出していない。しかし、本事件において、人
民法院は、並行輸入にける上記の前提条件を明確にした。
しかも、本事件は、共同購入ウェブサイトが負うべき責任問題に及んでいる。共同購入
は、近年以来、流行り始めた新たな物事であり、共同購入ウェブサイトが販売者に該当す
るか否か、どんな責任を負うべきであるかについて、本事件の一審・二審人民法院は、い
ずれも詳細な解説をしている。また、人民法院は、次のとおり明確に指摘している。つま
り、共同購入ウェブサイトの経営者が知的財産権の合法性に対し、どの程度の審査義務を
負うべきかは、利益平衡の原則の基で同社が共同購入活動の中から利益を得るに当たって、
同社が共同購入商品の具体的な情報に対する確認、共同購入商品の取引情報と取引行為が
侵害に該当するか否に対する確認を要求しているかにより決められる。
したがって、共同購入ウェブサイトが共同購入活動の中から如何に利益を取得し、どれ
くらいの利益を取得したか、つまり、同ウェブサイトと共同購入商品の販売者の間の提携
方式は、直接に同ウェブサイトの合法性に対する審査義務の多少を決めている。本事件に
よれば、商品の共同購入活動の中から直接経済利益を得る共同購入ウェブサイトが合法性
に対する審査義務は、ネットワークプラットフォームを提供するインターネットサービス
提供者より遥かに大きい。
6.企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
専利の並行輸入行為は、すでに侵害行為に該当すると明確にされているものの、商標の
並行輸入問題は、法律上、未だ不透明な状態になっている。通常、商標の並行輸入は権利
141
侵害に該当しないと見なされているものの、次に掲げる状況は、商標の並行輸入の例外に
該当し、商標権侵害又は不正競争行為に該当すると見なされている。 ① 並行輸入する商品について、その商品の新たな包装、新たな標章、広告方式等の不適
切な変更により商品の原始状況又は商標権者の商標名誉に損害をもたらした場合
② 商標権者が他国の商標権譲受人又は被許諾使用人と関連協議を締結することにより、
商品の輸出地区を明確に限定し、又は当該商標を使用する商品についてその並行輸入
を明確に禁じた場合
③ 並行輸入する商品と輸入国の国内の同一ブランド商品が成分、品質、担保、味又はア
フターサービスにおいて実質的に相異するものの、消費者が識別できる方式で表記し
ていない場合
④ 商品の正常なアフターサービスと保証を具有しない並行輸入の場合。
共同購入ウェブサイトの責任問題については、インターネットサービスが日増しに普及
されるにつれて、共同購入のみならず、必ず種々雑多なインターネットサービス提供者が
生じてくるに間違いない。利益取得の多少に基づき、合法性審査義務を確定する方式は、
今後、インターネットサービス提供者の責任範囲を確認するのに参考的な意義を有する。
142
5.中国知識産権網「2012 年度上海知識産権保護十大案件」
(知識産権報 2013 年 5 月 8 日)
公表サイト:2013 年 5 月 8 日付け中国知識産権網 http://www.cnipr.com/news/dxal/201305/t20130508_177519.html (1)「葫芦娃」(ヒョウタンちゃん)キャラクターの著作権帰属を巡る
紛争事件(最高人民法院「2012 年中国法院知識産権司法保護十大案件」
の 4)
略
(2)上海玄霆公司委託創作著作権契約紛争事件
1. 事 件 の 性 質
著作権契約紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:上海玄霆娯楽信息科技有限公司と王鐘等間の著作権契約紛争事件
争点 :①「白金作者著作物協議」は取り消されるべきか否か
②「委託創作協議」は解除すべきか否か
③「永生」著作権の帰属問題
④違約金の取扱
3. 書 誌 的 事 項
第一審:上海市浦東新区人民法院(2010)浦民三(知)初字第 424 号
原告:上海玄霆娯楽信息科技有限公司
被告:王鐘
第三人:北京幻想縱横網絡技術有限公司
判決日:不明
第二審:上海市第一中級人民法院
上訴人:王鐘
北京幻想縱横網絡技術有限公司
143
被上訴人:上海玄霆娯楽信息科技有限公司
判決日:2012 年 5 月 4 日
関連条文:
①「中華人民共和国契約法」第 8 条、第 44 条、第 60 条、第 107 条、第 114 条
②「中華人民共和国著作権法」第 10 条、第 11 条、第 25 条第 1 項
③「民事訴訟証拠に関する最高人民法院の若干の規定」第 2 条
出典:北大法宝
http://www.pkulaw.cn/fulltext_form.aspx?Db=pfnl&Gid=118451480&keyword= 幻 想 縱
横&EncodingName=&Search_Mode=accurate
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 件 関 係
2010 年 1 月 18 日、上海玄霆娯楽信息科技有限公司(以下「玄霆公司」という)(甲方)
と王鐘(乙方)の間では「白金作者著作物協議」を締結し、協議において、王鐘が協議の
発効日から 4 年内に創作したすべての著作物が世界範囲内での情報ネットワーク伝達権及
び電子形式による編集権、翻案権、複製権、発行権等を甲に譲渡し、かつ、乙本人が本協
議の締結後に自ら上記の権利を行使し、又は第三者に対して上記の権利を譲渡し、又は授
権することを排除・約定した。仮に乙が上記の約定に違反した場合は、必ず甲に対して 10
万元を支払い、かつ、乙が甲から取得した関連費用総額の 10 倍額を違約金として加える
ものとする。同日、玄霆公司(甲)と王鐘(乙)は、更に「委託創作協議」を締結し、乙
が甲から委託を受けて創作した協議著作物、著作権及び一切の派生権利は、完全に排他的
に甲に帰属することを約定した。協議期間内において、甲の書面による許諾を得ずに、乙
は、いずれかの名義を以って乙が協議期間内に創作した協議著作物を含む各類の著作物を
第三者に渡したり、又は第三者に許諾して発布・使用又は開発したりしてはならず、若し
くは第三者のために各類の著作物を創作してはならない。2010 年 2 月 10 日、玄霆公司は、
契約に基づいて王鐘に 10 万元の創作資金を支払った。
2010 年 6 月 18 日、王鐘(乙)と北京幻想縱横網絡技術有限公司(以下「幻想縱横公司」
という)(甲方)は、「労働契約書」を締結した。契約において、乙は、会社の要求に基
づいて職務著作物の創作を開始し、著作物の著作権は甲の所有に帰するものとした。2010
年 7 月 18 日、王鐘は、「夢入神機」と言う筆名で幻想縱横公司が指定したウェブサイト
にて著作物「永生」を発表し、2012 年 2 月 5 日までに連載が終了した。
玄霆公司は、訴訟を提起し、次のとおりに請求した。①王鐘は引き続き「白金作者著作
物協議」及び「委託創作協議」を履行し、その他のウェブサイトにて自己の創作した著作
144
物を発布する行為を中止すること。②王鐘は違約金 101 万元を支払うこと。③王鐘が創作
した「永生」著作権を玄霆公司の所有に帰属することを確認すること。
王鐘は、反訴を提起し、次のとおりに請求した。①「白金作者著作物協議」を取り消す
こと。②「委託創作協議」を解除すること。
( 2) 第 一 審 判 決
一審法院の観点は次のとおりである。
①「白金作者著作物協議」は取り消されるべきか否かについて、一審法院は、次のとお
りに判定した。「白金作者著作物協議」には不公平が存在せず、取り消されるべきではな
い。その理由は次のとおりである。第 1、「中国契約法」に規定された明らかな不公平な
客観要件は、双方当事者の権利・義務が厳重に均等ではなく、経済利益が明らかにアンバ
ランスである場合をいう。かかる特定物、特殊な役務等について、その実際価値を計算し
かねるので、通常、明らかな不公平の制度を適用しない。本事件の著作物は、正に「著作
権法」に言う文学分野にて独創性を有し、かつ、ある有形の形式により複製できる知力創
作成果にも該当するので、明らかな不公平の制度を適用しない。第 2、係争協議は、玄霆
公司と王鐘と言う平等な両主体の間で自由意志で締結した契約であり、双方当事者の真実
な意思表示である。協議は、双方当事者にとって互恵互利のものであり、「契約法」にお
ける平等・自由意志・互利の原則にも合致するので、「白金作者著作物協議」には不公平
な情状が存在せず、「契約法」に規定する取消要件を満たさない。
②「委託創作協議」を解除すべきか否かについて、一審法院は、「委託創作協議」は合
法的でかつ有效なものであるので引き続き履行すべきである、と判定した。その理由は次
のとおりである。本事件は、著作権契約紛争に該当し、文学作品の委託創作協議は、「契
約法」における委託契約とは相異し、委託創作協議の文学作品は必ず著作者の創造性と知
力労働に依頼し、仮に委託人がその思想、観点に対して要求したとしても、受託人の創作
の範囲に対する限定に過ぎず、受託人の知力創造を代替することができない。したがって、
本事件には「契約法」第 410 条の規定が適用できない。また、本事件の係争委託創作協議
において、協議著作物に対してその名称を确定しなかったものの、文学作品の創作の特殊
性及びその必ず著作者の知力創作に依頼しなければならない特徴に基づき、協議の締結時
に著作物名称を确定していないことも常理に合っている。したがって、当該協議は、法定
解除要件を満たせず、かつ、玄霆公司もその解除に同意せず、協議が未だ履行期間内にあ
ることに鑑み、本事件の係争「委託創作協議」は引き続き履行すべきである。
玄霆公司、王鐘が引き続き「白金作者著作物協議」と「委託創作協議」を履行し、協
議にて王鐘が専属作者であることを明確にし、協議期間に玄霆公司のみのために著作物を
創作すべきであり、王鐘が係争協議を履行することは、必ず遵守すべき義務の 1 つであり、
玄霆公司が審理中においても玄霆公司ウェブサイトのほかに、王鐘は縱横中文網(ウェブ
サイト)のみで「永生」と言う著作物を発表し、かつ、ずっと連載中にある状況に鑑み、
王鐘に対して当該侵害行為を中止することを命じるべきである。
145
③「永生」著作権の帰属について、一審法院は、「永生」著作権は玄霆公司に該当する
と判定した。その理由は次のとおりである。「永生」が職務著作物に該当するか否かは著
作物の創作過程、体現形式等の著作物自体の特徴から判断すべきである。当該著作物の主
な創作者は王鐘であり、その他のメンバーは一般の補助者に過ぎない。王鐘は、主に自宅
で創作し、大綱も王鐘が完成し、発表も王鐘の筆名で発表した。一般読者が読めたものは
王鐘が創作したネット小説である。したがって、「永生」は王鐘の著作物に属し、その創
作期日からみれば、玄霆公司と王鐘の間で約定した創作期間内に該当するので、「永生」
の著作権は玄霆公司に帰属すべきである。
④違約金の取扱について、一審法院は、王鐘はすでに違約を構成し、違約金を支払う
責任を負うべきであると判定した。その理由は次のとおりである。「白金作者著作物協議」
3.2.1 条、「委託創作協議」3.2.2 条の規定に基づき、王鐘は、玄霆公司の許諾を得ずに、
協議期間で無断で第三者のために著作物を創作した。本事件において、王鐘は自己と玄霆
公司間で締結した 2 部の協議を無視し、幻想公司のウェブサイトにて公開的に自己の創作
した文学著作物を発表したが、当該行為は、法理又は情理上において、いずれも王鐘が違
約した故意が明らかであり、相応の違約責任を負うべきである。双方当事者が協議にて違
約金の計算根拠及び方法を約定したものの、本事件において、玄霆公司が自社の実際損害
に対して挙証できず、実情によれば、王鐘が幻想公司のウェブサイトに小説を発表して、
玄霆公司にもたらした損害はそのクリック回数であり、クリック回数が経済損害に転化さ
れることには関連基準が無い。双方当事者は、引き続き契約を履行すべきであるので、違
約金についてはある程度低減することができる。
上述の理由に基づき、一審法院は、次の判決を言い渡した。
①
玄霆公司と王鐘は、引き続き双方当事者が 2010 年 1 月 18 日に締結した「白金作者著
作物協議」を履行すること。
②
玄霆公司と王鐘は、引き続き双方当事者が 2010 年 1 月 18 日に締結した「委託創作協
議」を履行すること。
③
王鐘は、縱横中文網に引き続き「永生」を発表する行為を中止すること。
④
王鐘は、判決が発行した後 10 日以内に玄霆公司に対して違約金 CNY20 万元を支払う
こと。
⑤
王鐘の創作した「永生」著作権(法律規定上譲渡不可の権利は除く)は、玄霆公司の
所有に帰属すること。
⑥
玄霆公司のその他の訴訟請求を棄却すること。
⑦
王鐘の全部の訴訟請求を棄却すること。
( 3) 第 二 審 判 決
二審法院は次のとおりに判定した。
法により成り立つ契約は、双方当事者のいずれに対しても拘束力を有し、履行側は、違
約側に対して引き続きの履行、違約金の支払い、損害の賠償等の違約責任を負うことを請
146
求する権利を有する。しかし、債務の目的物は強制的な履行に適用できない場合、履行側
は違約側が引き続き履行することを請求する権利がない。
本事件の場合、委託創作協議において、双方当事者は、王鐘が玄霆公司の「専属作者」
として「協議著作物」のみを創作し、他人のために著作物を創作し、又は第三者を介する
著作物の発表をしてはならないことを約定し、協議期間以外に創作する著作物も玄霆公司
が優先譲受権を享有し、かつ、王鐘が原稿を渡す期日と字数等等を規定した。かかる義務
は、王鐘の創作自由に及んでおり、人身属性を有し、性質上、強制的な履行が適用できず、
かつ、仮に王鐘に対して強制的に協議著作物以外の著作物を創作してはならないとした場
合は、「著作権法」にて励ましている創作に対する立法目的を満たさない。王鐘が違約し
た際に玄霆公司は、王鐘に対して引き続きの履行を求められず、王鐘に対して違約金の支
払い又は損害の賠償のみ請求することができる。しかし、すでに創作された著作物の権利
の帰属は、強制的に履行できない義務に属さず、玄霆公司が契約に基づいて「永生」の著
作権を享有するとの主張にはその法的根拠がある。したがって、玄霆公司が契約の引き続
きの履行を請求したことは、王鐘の創作行為に対する強制に及んでいるので、法院は当該
主張を認めない。しかし、同社が「永生」の著作権を享有するとの主張・請求には法的根
拠があり、法院は当該主張を認める。もちろん、王鐘は、依然として創作した著作物「永
生」について原稿料と報酬を改めて請求することができる。同時に、前述の契約義務が性
質上強制的な履行を適用できず、契約の目的が王鐘の違約行為により実現できなかったの
で、法院は、王鐘の契約解除に対する主張を認めるものの、王鐘は違約金を支払う等の違
約責任を負うべきである。
玄霆公司は、王鐘に対して違約金 101 万元の支払いを命じることを請求したが、その
根拠は「白金作者著作物協議」第 7.2.2 条における約定である。玄霆公司が同時に引き続
きの履行を主張した状況下で、法院は当該主張を認めない。しかし、契約義務が引き続き
履行すべきではない状況下で、玄霆公司が当該条項に基づいて違約金を主張したことには
法的根拠がある。「永生」の著作権が玄霆公司の所有に帰属すべきであるため、契約の一
部の履行すべき利益がすでに実現されたと見なすことができるので、法院は、相応的に違
約金を 60 万元に低減することを認める。
上訴人王鐘は「白金作者著作物協議」の内容が明らかな不公平であるので取り消すべ
きであると主張したが、当該請求について、一審法院がすでに当該主張を認めない理由を
十分に論述したので、当法院は再び論述しない。「永生」の著作権の権属に対する判定に
ついて、一審法院が言い渡した判決には不当なところがない。一審原告と被告が締結した
協議に基づき、「永生」の創作が完成した後、その財産権は玄霆公司の所有に帰属し、「永
生」に他人がその創作に参与したことには証明できる十分な証拠がない。したがって、当
法院は、「永生」は上訴人王鐘が幻想公司での勤務期間に完成した著作物に該当するとの
上訴理由も棄却すべきであると判定する。
上述の理由に基づき、二審法院は、次の判決を言い渡した。 147
① 一審法院が判決した第 5 項を維持する。すなわち、王鐘の創作した「永生」の著作権
(法律規定により譲渡不可の権利は除く)は上海玄霆娯楽信息科技有限公司の所有に
帰属すること。
② 一審法院が判決した第 1、2、3、4、6、7 項を取り消すこと。
③ 上訴人王鐘と被上訴人上海玄霆娯楽信息科技有限公司が 2010 年 1 月 18 日に締結した
「白金作者著作物協議」、「委託創作協議」は、本判決の発効日に解除すること。
④ 上訴人王鐘は、本判決の発効日から 10 日内に被上訴人上海玄霆娯楽信息科技有限公司
に対して違約金 CNY60 万元を支払うこと。
⑤ 上訴人王鐘のその他の上訴請求を棄却すること。
⑥ 上訴人北京幻想縱横網絡技術有限公司のその他の上訴請求を棄却すること。
⑦ 被上訴人上海玄霆娯楽信息科技有限公司の一審におけるその他の訴訟請求を棄却する
こと。
5. 解 説
本事件は、委託創作著作権契約紛争事件として、未来の作品権利処分の契約效力に対す
る判断及び違約責任の負担問題に及んでいる。ウェブサイト経営者がネットワーク作家の
未来作品を「買い取る」契約は、現在、ネットワーク文学の経営中に現れている新類契約
である。契約の中に著作者の創作行為に対する拘束内容が含まれているので、その效力認
定は司法実務上の難点になっている。本事件の終審判決では、当事者が未来作品の権利譲
渡について締結した協議は法的效力を有するものの、創作義務が人身性質を具有し、当該
契約義務は強制に履行することができないので、当該委託創作契約を解除する判決を言い
渡し、被告は相応の違約金を支払うべきであると判定した。本事件の終審判決は、文学芸
術作品の創作規律を遵守し、法により著作者の創作動力と創作熱情を保護し、著作物の創
作、伝達と利用の促進、及びネットワーク文学産業の発展に対して積極的な意義を有する。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
仮に企業と他人の間で委託創作著作権契約を締結する際に、次に掲げる問題に注意を払
うべきである。著作物自体が未だ創作・完成されず、その後、相手方が著作者に対して未
完成の著作物の交付又はその権利の譲渡をを求めた場合、一部の状況において、著作者の
創作行為に対する強制又は創作自由に対する制限をもたらすことがある。たとえば、著作
者が委託人の「専属作者」として「協議約定作品」しか創作できず、他人のために著作物
を創作することができない等のことを約定する場合である。かかる義務は、著作者の創作
自由に及んでおり、人身の属性を具有し、性質上、強制に著作者に引き続き履行させるこ
とが適合しない。仮に法的紛争が生じた場合、委託人が法院に訴えて、法院に強制に著作
148
者に引き続き履行させることを請求することは、「著作権法」で創作を励ます立法目的を
満たさず、法院も委託人が強制に著作者に引き続き履行させることを認めない。
(3)インテル社商標権侵害紛争事件
1. 事 件 の 性 質
商標権侵害紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:インテル社と深セン市因特佳数碼科技有限公司、陶健等間の商標権侵害紛争事件
争点:被疑侵害行為者が権利者の製品を販売した際に権利人商標を使用した行為は商標権
侵害を構成するか否か
3. 書 誌 的 事 項
第一審:上海市第二中級人民法院(2011)滬二中民五(知)初字第 89 号
原告:インテル社(Intel Corporation)
被告:深セン市因特佳数碼科技有限公司、陶健等
判決日:不明
第二審:上海市高級人民法院(2012)滬高民三(知)終字第 60 号
上訴人:深セン市因特佳数碼科技有限公司
被上訴人:インテル社(Intel Corporation)
判決日:2012 年 8 月 7 日
関連法条:
「中華人民共和国商標法」第 13 条、第 52 条第(5)号
「中華人民共和国商標法実施条例」第 3 条
「中華人民共和国民事訴訟法」第 153 条第 1 項第(1)号
出典:中国知識産権裁判文書網
http://ipr.court.gov.cn/sh/sbq/201209/t20120905_149959.html
4. 事 件 の 概 要
149
( 1) 事 実 関 係
原告インテル社は、国際半導体チップ製造・販売商であり、同社の第 9 類におけるマイ
クロコンピューター、マイクロコントローラー、マイクロプロセッサにおける「INTEL」
商標と第 9 類に登録された集積回路、自動記録器、半導体メモリーにおける「
」商
標は、中国の関連公衆の中で極めて高い知名度を有する。被告深セン市因特佳数碼科技有
限公司(以下「因特佳公司」という)は、許諾を得ずに、自社の製造したプリンターカー
トリッジ、インクボックス等の製品及びウェブサイトにて「INTELJET」文字及び標章を
使用し、かつ、上述の文字を英文字号、ドメインネームとして使用した。陶健は、因特佳
公司の上海独家代理商である。原告は、被告の上述の行為はすでに自社の馳名商標専用権
に対する侵害を構成すると主張し、法院に訴訟を提起し、被告に対して侵害の中止、謝罪、
経済損害の賠償を命じることを請求した。
( 2) 第 一 審 判 決
一審法院は次のとおりに判定した。 被告因特佳公司の商品、ウェブサイトと英文字号、ドメインネームに使用した
「INTELJET」文字及び標章は、原告の「INTEL」商標と類似する。被告因特佳公司が
「INTELJET」文字及び標章を使用した商品と原告の上述の商標における指定使用商品は、
同一商品に該当せず、類似商品にも該当しないので、被告因特佳公司が「INTELJET」文
字及び標章を使用した行為が原告の上述の商標的専用権を侵害したか否かについては、必
ず原告の上述の商標が馳名であるか否かを前提としなければならない。原告の上述の商標
の中国国内における知名度等の事実に基づき、同商標は馳名商標に該当する。馳名商標の
権利人は、他人が許諾を得ずに同一商品又は商品に前者の登録商標と同一又は類似の商標
を使用することを禁ずる権利を有するだけではなく、同時に、他人が許諾を得ずに不同一
又は不類似の商品に前者の登録商標と同一又は類似の商標を使用することを禁ずる権利も
有する。したがって、被告因特佳公司が自社の商品、ウェブサイトと英文字号、ドメイン
ネームに「INTELJET」文字及び標章を使用した行為は、すでに商標権侵害を構成する。
被告陶健は、被告因特佳公司の代理社として、原告の上述の商標が相当高い知名度を有し、
侵害製品を販売する自己の行為も原告の商標権を侵害していることを知得していたはずで
ある。したがって、被告因特佳公司、陶健に対して侵害を中止することを命じ、被告因特
佳公司に対しては「法制日報」にて声明を掲載し、悪影響を解消し、原告の経済損害 CNY40
万元を賠償することを命じ、陶健に対してはそのうちの CNY4,000 元を賠償する連帯賠償
責任を負うことを命じた。 ( 3) 第 二 審 判 決
判決が言い渡された後、被告因特佳公司は、同判決を不服として上訴を提起したものの、
二審において原告と和解に達し、上訴を取り下げた。
150
5. 解 説
本事件は、馳名商標の多種類保護に係る商標権侵害紛争事件である。法院は、法により、
原告の中国国内で関連公衆に広範に熟知されている「INTEL」、「
」商標は馳名商標
であり、被告が原告の登録商標の指定使用商品と不同一かつ不類似の商品に上述の馳名商
標と類似する標章を使用した行為は、原告の登録商標専用権に対する侵害を構成すると判
定した。本事件の判決において、法院は、被告に対して侵害行為を制止したが、これは、
法により馳名商標権利人の合法的な権利を保護しただけではなく、商標侵害行為を抑制し、
同時に正常な市場秩序を保護するのに役立っている。
中国において、馳名商標に対する認定の根拠は、「個別事件認定」、「需要に基づく認
定」の原則を適用し、認定のルートからみれば、司法認定と行政認定の 2 種類に分けられ
る。司法認定の場合、本事件のとおり、訴訟において、法院は商標が馳名であるか否かに
ついての認定を行う。馳名商標に対する司法認定は、2005 年前後に一度人気を浴びており、
馳名商標を認定するために事件を偽造した実例すら発生したことがある。最高人民法院は、
2007 年から数回にわたって馳名商標に対する司法認定のための措置を取り、管理を強化し
た後、馳名商標に対する司法認定は非常に厳しくなり、ここ数年間ではめったにない。
馳名商標に対する司法認定において、主に 2 つ要件を考慮している。1 つは、認定の必
要性である。すなわち、事件解决は馳名商標の認定を必要条件とするか否かである。もう
1 つは、保護を求めている商標は馳名の基準に達するか否かである。
本事件において、被告が使用した商品と原告の登録商標の指定商品が不同一で、かつ不
類似であったので、被告の行為が侵害に該当するか否かを考慮した際に、必ず原告の上述
の商標が馳名であるか否かの判断をその前提とすべきである。すなわち、馳名商標を認定
する必要性がある。保護を求めた商標が馳名の基準に達したか否かについては、通常、原
告が「商標法」及び関連司法解釈の規定に基づいて大量の証拠を提出しなければならない。
本事件において、原告がどれくらいの証拠を提出したかについては明確化されていないも
のの、「INTEL」商標が確実に中国で極めて高い知名度を有することに鑑み、当該商標が
事実上、すでに馳名の程度に達しているとの認定はその説得力を有する。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
ここ数年間、「ブランドのただ乗り」により生じられる訴訟は、増長の傾向を現してい
る。「ブランドのただ乗り」の企業は、消費者に自己の製品こそ当該知名大手会社が製造
したものであるとの誤認をもたらすことにより、販売ルートを拡大し、利益を取得してい
る。そもそもブランドとは全く無関係であるにもかかわらず、その商標、企業名称に自己
の企業又は製品とブランド製品が何らかの関連性を有することを図っているが、消費者に
混同・誤認をもたらす「ブランドのただ乗り」の行為は、厳重に広範な消費者の合法的利
151
益を侵害しただけではなく、直接市場経済の良好で秩序のある発展に悪影響をもたらして
いる。「ブランドのただ乗り」現象を抑制し、知的財産権を保護し、消費者の合法的な権
利を保護するのは、すでに全社会の関係者が合意を得たことである。
商品の類別を越えて「ブランドのただ乗り」する現象も常に見れる。商品の類別を超え
て保護を受けるために馳名商標として認定されることは当然望ましいことであるが、現実
において、馳名商標として認定されることは決してそれほど容易なことではない。特に国
外ブランの場合は、必ず中国国内ですでに十分な知名度を有することを証明できてこそ、
相応の商品の類別を越える保護を得られる。したがって、馳名商標の認定を望むことより、
最大限に多種類別の出願を提出したほうが容易に保護を得るのに有効である。
(4)日本ペイント商標権侵害紛争事件
1. 事 件 の 性 質
商標侵害紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:立邦涂料(中国)有限公司と上海展進貿易有限公司、浙江淘宝網絡有限公司間の
商標権侵害紛争事件
争点:被疑侵害行為者が権利人の製品を販売した際に権利人の商標を使用した行為は商標
権侵害を構成するか否か
3. 書 誌 的 事 項
第一審:上海市徐匯区人民法院(2011)徐民三(知)初字第 138 号
原告:立邦涂料(中国)有限公司
被告:浙江淘宝網絡有限公司
判決日:2012 年 2 月 20 日
第二審:上海市第一中級人民法院(2012)滬一中民五(知)終字第 64 号
上訴人:立邦涂料(中国)有限公司
被上訴人:上海展進貿易有限公司
浙江淘宝網絡有限公司
判決日: 2012 年 5 月 24 日
関連条文: 152
「中華人民共和国商標法」第 1 条、第 52 条第(5)号
「中華人民共和国商標法実施条例」第 3 条
「中華人民共和国民事訴訟法」第一 153 条第 1 項第(1)号
出典:浦東知識産権司法保護網
http://www.pdiprlaw.org.cn/pdcqw/web2011/xxnr_view.jsp?pa=aaWQ9NTc4MjYmeGg
9MQPdcssPdcssz
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
立邦涂料(中国)有限公司(以下「立邦公司」という)は、「
」図と文字組合商標、
「立邦」文字商標の登録者であり、上海展進貿易有限公司(以下「展進公司」という)は、
浙江淘宝網絡有限公司(以下「淘宝公司」という)が運営している淘宝網(トウボウ)に
て「匯通油漆商城」という店舗を開設し、多種のブランドペンキを販売していた。当該ネ
ット販売店舗のトップページの上部に写真欄があって、スクロール式で 3 枚の写真を掲載
していたが、そのうち、第 1 枚は Dulux paint(多楽士)ペンキの広告であり、第 2 枚は
立邦ペンキの広告(当該広告上部には「Nippon Paint
立邦漆」が示され、下部には立邦
涂料の案内がある)であり、写真欄の下部には店主が推薦する宝貝、立邦ペンキ、華潤ペ
ンキ、Dulux paint 等の一部の商品写真、概要情報、価格、販売量等の情報がある。トッ
プページのメニューにある「代理ブランド」リンクをクリックしたら、相応のページは上
部から下部まで数個の写真欄が並んでいたが、それぞれ立邦ペンキ、Dulux paint、Henkel
paint(漢高漆)、Levis paint(来威漆)、華潤ペンキ、Senge(森戈)ブランドの広告で
ある。そのうち、立邦漆の写真欄ではスクロール式に当該ブランドの 4 枚の広告写真を示
していた。第 1 枚の写真はあるウェブサイトのスクリーンショットであり、その上部には
「ECOLOR 首頁 美麗家居 工業与工程 我的立邦 網上商城」が示され、中部は 1 つの写
真欄となり、それには「2010 為愛上色」が示され、当該写真欄の下部の左側には立邦ペ
ンキの新聞情報があり、その右側には「立邦網絡旗艦店
馬上登陸」、「漆量計算器」、
「為愛上色電子書」等が示されていた。第 3 枚、第 4 枚の写真は、いずれも立邦漆の製品
紹介であり、そのうち、第 3 枚の写真の左上部には明らかに「装飾新家,刷新幸福」を示
していた。第 4 枚の写真の左上部には明らかに「小編 120 分推荐浄味性価王」が示されて
いた。
立邦公司は、展進公司の上述の行為は自社の商標権を侵害したと考えて、電子メールで
淘宝公司にクレームを提出した。淘宝公司は、立邦公司からの書簡に逐一に回答し、かつ、
仮に淘宝サイトの店舗の発布した商品情報が立邦公司の製品であった場合、当該店舗の発
153
布した商品の写真に示された立邦公司の製品の原有の標章及び商品に対する店舗の説明は、
いずれも法律法規に定義する商標侵害に該当しないと表明した。
立邦公司は、展進公司、淘宝公司は共同で商標侵害を構成するので、上海市徐匯区人民
法院に訴訟を提起し、両被告に対して侵害の中止、声明の掲載により悪影響を解除し、経
済損害 20 万元を賠償することを命じるよう請求した。
( 2) 第 一 審 判 決
一審法院は次のとおりに判定した。
本事件において、法院が注目することは、被告展進公司が原告の商品を販売する際に原告
の登録商標を使用したことは合理的な使用範囲を超えたか否か、商業慣例に適合するか否
かである。
第 1、展進公司は自社のオンライン店舗で多種のブランドペンキを販売した際に、一部
のブランドペンキを販売促進のための宣伝を行い、かつ、原告の登録商標を使用した目的
は、消費者に対して商品宣伝が指している具体的なブランドを告知し、消費者に購入予定
のブランドペンキの特徴を理解してもらうことにより、自社の経営しているその他のペン
キブランドと区別させるためであり、展進公司が原告の登録商標を使用したことは、消費
者に対して自社の販売している商品の出所を説明するための表述性の使用行為である。第
2、被告展進公司が原告の登録商標を使用して販売促進した際に、自社自体を宣伝したの
ではないので、一般社会公衆に対して展進公司と原告立邦公司の間に関連性が存在するこ
とを認知させることにはならない。第 3、原告は、被告淘宝公司の公布した淘宝規則変更
公告(2011.6.20)において、淘宝公司は両被告の係争行為が原告の商標権を侵害したこと
を自認した、と主張したが、法院は、淘宝公司の発布した規則は同社が一部の行為に対す
る主観的な認知であり、具体的な係争行為が侵害に該当するか否かについては、法院が法
律規定、事件の実情に基いて判断すべきであり、上述の規則に拘束されないと判定する。
なお、上述の規則が拘束する対象は淘宝公司と淘宝網に登録されて販売に従事する店舗で
あり、必然的に第三者に対して法的效力を生じるわけではなく、かつ、展進公司は規則の
相対的対象として上述の規則による拘束を受けないと明確に表明した。したがって、展進
公司が原告の商品を販売した際に、その販売促進宣伝において係争登録商標を使用した方
式は合理的であり、一般の商業慣例に適合する。仮に展進公司等の販売者が販売する商品
の登録商標を合理的に使用することを規制した場合、販売者が自己の経営・販売する商品
を宣伝する方法を不当に規制することになり、商品が市場で自由に流転されると言う市場
経済の不可欠な基本原則を損害することに該当するので、被告展進公司に対して直接原告
の商標専用権を侵害した賠償責任を負うことを命じるよう請求した原告の訴求について法
院は認めない。法院は、展進公司が侵害を構成しないと判定するので、被告淘宝公司に対
して共同侵害賠償責任を負うことを命じるよう請求した原告の訴求について、法院は認め
ない。
154
審理において、原告立邦公司は、被告展進公司が引き続き淘宝網で経営していないので、
被告展進公司、淘宝公司に対して直ちに侵害行為を中止するよう請求した訴訟請求を放棄
し、かつ、被告展進公司、淘宝公司が自社の広告著作権を侵害したとの主張を放棄するこ
とを確認した。法院は、原告が上述の訴訟請求を放棄することは自己の訴訟権利に対する
処置であり、法律に違反しないので認める。
上述の理由に基づき、一審法院は次のとおりに判決を言い渡した。
原告立邦涂料(中国)有限公司の訴訟請求を棄却すること。
( 3) 第 二 審 判 決
二審法院は次のとおりに判定した。 上訴人立邦公司は、第 3485390 号、第 1692156 号登録商標権者であり、法により登録
商標専用権を享有し、他人はその許諾を得ずに、同一商品又は類似商品に同社の登録商標
と同一又は類似の商標を使用した場合、いずれも立邦公司の商標専用権に対する侵害に該
当する。しかし、仮に被疑侵害行為者による立邦商標の使用が自社の販売している商品情
報を示すことに限られ、関連公衆に混同をもたらさず、商標利益の損害をもたらさなかっ
た場合は、商標権侵害行為と判定すべきではない。
本事件において、被上訴人展進公司は、自社の淘宝サイトの店舗にて立邦公司の製品を
販売した際に、数枚の立邦ペンキに関連する写真を掲載したが、そのうち、係争両立邦商
標に及んでおり、商標の使用方式から見れば、その商標が写真の構成部分となり、写真の
主体内容が立邦製品に対する紹介となっている。しかも、係争ウェブサイトにおいても同
時に Dulux paint、Henkel paint、華潤ペンキ等のその他ブランドペンキの宣伝写真があ
る。また、ウェブサイトの画面の設置から見れば、トップページにある主体の位置は、い
ずれも各ブランドペンキ商品の写真、名称、価格、販売量等の情報である。写真の使用方
式及びウェブページの配置から見れば、関連公衆は、通常、当該商標が伝達しようとする
ものは販売中の商品の広告である考えるはずである。すなわち、販売する商品のブランド
情報に過ぎず、経営者の商号、商標又は経営風格を宣伝するためではない。更に被疑侵害
使用行為が関連公衆に役務の出所に対する混同・誤認をもたらすか否かの立場から分析し
てみれば、商標は直接商標登録者の商品を指し、被上訴人展進公司を指していない。すな
わち、立邦商標と立邦商品間の対応性には影響を与えず、関連公衆も販売している立邦製
品の出所が被上訴人展進公司であると認知しない。かかる状況下では商品の出所に対する
消費者認知の混同をもたらさず、商標の顕著性又は知名度の低下も生じないので、その他
の商標利益に対する損害も存在しない。上記をまとめると、被上訴人展進公司が自社の販
売している商品の情報を示すために上訴人立邦公司の登録商標を使用した行為は、関連公
衆に混同をもたらさないだけではなく、その他の商標利益に対する損害ももたらさないの
で、被上訴人展進公司が商標侵害を構成したと訴えた上訴人の主張は成り立たない。被上
訴人淘宝公司もインターネットサービスプロバイダーとして、被上訴人展進公司が商標侵
害を構成しない前提下で,商標侵害を構成すると認定されるべきではない。
155
上訴人は、被上訴人展進公司が立邦公司製品の合法的な出所を証明できる証拠を提出し
なかったので、展進公司がその他の商品に無断で立邦商標を使用したことは商標権侵害を
構成すると主張した。法院は、当事者は自己の主張する事実について証拠を以って証明す
べきであるものの、本事件の上訴人が被上訴人展進公司の販売している立邦公司の製品が
偽造登録商標商品であることを証明できる証拠を提出せずに、被上訴人展進公司こそ自社
がそのネットで販売している立邦公司の製品の合法的出所を有することを証明すべきであ
るとの観点について、法院は、認めないので、上訴人に対する当該上訴理由を採用しない。
上訴人は、被上訴人展進公司が淘宝網にある自社ページにて立邦商標、
「代理ブランド」、
「立邦網絡旗艦店」等の標章を使用したことは、十分に消費者に誤認をもたらすので、商
標の合理的な使用に該当しないと主張した。法院は、「立邦網絡旗艦店」はウェブページ
のスクリーンショットにおける一部分の文字表現に該当し、単独にクリックできるブロッ
クではなく、かつ、当該スクリーンショットがその他の写真と共に「代理ブランド」イン
ターフェースにてスクロール式により示されているので、画面全体の顕著な部分を形成せ
ず、淘宝網が定義した網絡旗艦店に該当しないと認定した。被上訴人展進公司が、自社の
ウェブサイト店舗のトップページのメニュー欄にて「代理ブランド」のリンクを設置し、
かつ、「代理ブランド」インタフェースに多くのブランド広告写真を設置した行為は確か
に妥当ではないものの、かかる行為が「商標法」で調整する範疇に該当せず、上訴人が前
記を持って被上訴人が自社の商標権を侵害したとの主張には法的根拠が欠如するので、法
院は認めない。
上訴人は、被上訴人展進公司が許諾を得ずに、かつ、対価を支払っていない状態下で無
断に立邦商標を使用し、立邦が馳名商標として含んでいる質量保証と信誉価値を損害した
と主張した。法院は、商標の質量保証機能は、実質的に商業出所の意味における保証機能
であり、特定商標との関連性を有する商品が一定の質量レベルを有することを保証すると
判定する。本事件において、被上訴人展進公司が販売していたのは立邦公司の製品であり、
商品質量の低下は存在せず、かつ、商標の使用過程においても商標に対する損害がないの
で、上訴人の当該上訴理由について、法院は認めない。
上訴人は、一審判決で適用した法律が誤っていると主張したが、当法院は、一審法院が
商業慣例に適合するか否かを侵害行為の認定基準とし、「商標法」第 1 条を引用して審理
根拠としたことは確かに妥当ではないものの、本事件の実体と手続きに対する審理に影響
を与えていないと判定する。上訴人は、被上訴人の行為が「商標法」第 52 条第(5)号に
規定した商標権侵害行為に該当すると主張したものの、当該主張には根拠が欠如するので、
法院は認めない。二審法院は、上訴を棄却し、原判決を維持する判決を言い渡した。
5. 解 説
本事件は、ネットワーク取引プラットフォーム関連商標侵害事件として、その争点は、
被疑侵害行為者が権利者の製品を販売した際に権利者の商標を使用した行為は商標権侵害
156
を構成するか否かにある。インターネットの普及につれて、ネットワーク取引は日増しに
増長し、オフライン取引を超える傾向がある。伝統的な商標権侵害行為もそれに応じてそ
の形式を変えつつある。
本事件の判決では、仮に他人の商標に対する被疑侵害行為者の使用が侵害者の販売して
いる商品の情報を示すことに限られ、関連公衆に混同をもたらさず、商標権者のその他の
商標利益の損害をもたらさなかった場合は、商標権侵害行為と判定すべきではないと明確
にした。本事件の判決は、ネットワーク環境下の商標の合法的使用及び商業モデルの革新
を促進し、正常な市場秩序を維持するのに役立つ。
数多い通販サイトにとって、通販サイトを開設し、かつ、合法的な出所を有する商品を
販売する行為は、商標権者の許諾を必要とせず、商標権も侵害しない。かかる問題は、法
律及び司法事務においてすでに明确化されている。しかし、次に来るのは、新たな問題の
発生であるが、それは通販サイトの画面に当該商標を飾りとして使用することが合法的で
あるか否かの問題である。法院の判決によれば、法院が販売する製品が模倣品ではないと
判定した前提下で、商標を使用して店舗を装飾し、消費者の消費行為を導くことは商標に
対する合理的な使用に該当し、侵害とならないとのことは、相当の程度、数多い通販サイ
トの疑問を解決している。
なお、仮に商標に対する通販サイトの使用が通販サイト画面の範囲を超えた場合、たと
えば、プラットフォームのトップページに広告を掲載し、広告の中に商標が出られた場合、
これは合理的な使用范畴に該当するか否か?プラットフォームは、消費者が迅速にあるブ
ランド製品を探せるように導くために、主動的に当該ブランド商標を当該類別商品の入口
として表記した場合、直接侵害に該当するか否か?かかる状況は、いずれも現実に存在し、
かつ、今後、生じられる事例になりうる。上海第一中級人民法院の判決に現された方針に
よれば、商標を合理的に使用する基礎は、消費者に誤認をもたらさないだけではなく、商
品と商業名誉に対する損害ももたらさないことである。この立場からみれば、上記の仮説
における 2 つの情状は、いずれも合理的な使用として認定されるべきである。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
大部分の企業製品は、いずれも通販サイトと非通販サイトと言う 2 種のルートを有する。
企業は、製品販売上の質量を保証するために、往往として販売ルートに対して制限してい
るが、これは主に特定のディーラーが代理販売することを望むことにより表されており、
非指定ディーラーに対しては、企業の商標を使用することを望まない。しかし、仮にかか
る販売者が販売している商品が正規品であり、かつ、商標の使用も販売する製品を紹介す
る合理的な範囲にある場合は、商標権者も禁ずる権利を有しない。したがって、上記のよ
うな問題が発生した際に、権利人は、優先的に販売店で販売する商品が正規品であるか否
かを判断し、その次に、関連商標の使用が合理的な範囲内にあるか否か、消費者に混同・
誤認をもたらすか否かを判断すべきである。
157
(5)アメリカ 3M 公司に関する発明特許権侵害紛争事件
1.事 件 性 質
発明特許権侵害事件
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:浙江道明投資有限公司と 3M 公司間の発明特許権侵害紛争事件
争点:被告が被疑侵害品の製造、販売、販売の申出行為を実施したか。被疑侵害品の技術
特徴は原告の発明特許権の権利範囲に含まれるか、つまり、被告が原告の発明特許権を侵
害したか否か、 本件の民事責任をどのように確定するか。
3. 書 誌 の 事 項
第一審:上海市第二中級人民法院(2008)滬二中民五(知)初字第 262 号
原告:3M 社
被告:浙江道明投資有限公司(元の浙江道明反射材有限公司)
判決日:不明
第二審:上海市高級人民法院 (2011)滬高民三(知 3)終字第 73 号
上訴人:浙江道明投資有限公司(元浙江道明反射材有限公司)
被上訴人:3M 社
判決日:2012 年 5 月 2 日
関連条文:
「中華人民共と国民法通則」第 134 条第(1)号、第(7)号
「中華人民共和国専利法」第 11 条第 1 項、第 59 条第 1 項、第 61 条第 1 項、第 65 条、
「専利権侵害紛争事件の審理における応用法律の若干の問題に関する最高人民法院の解
釈」第 17 条
「民事訴訟証拠に関する最高人民法院の若干の規定」第 2 条、第 4 条第 1 項第(1)号
出典:北大法宝
http://pkulaw.com/cluster_call_form.aspx?menu_item=case&EncodingName=&key_wo
rd=
158
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
原告は、発明特許「逆反射製品及其製造方法」(特許番号 ZL95193042.7)の特許権者
である。被告は、型番 DM1991、DM1992 の被疑侵害製品(DO1T13/15/19)を大量に製
造し、かつ、全国各地に設置した出張所及び中・英文ウェブサイトを介して上述の製品に
対する販売・販売の申出をした。被告が製造した上述の製品の技術的特徴は、原告の発明
特許の権利範囲に含まれており、原告に重大な経済損害をもたらしたので、原告は、人民
法院に訴訟を提起し、被告に対して特許侵害行為を差止め、経済損害 CNY50 万元を賠償
するよう請求した。
一審人民法院は、審理を経て、被告は、被疑侵害製品に対する製造・販売・販売の申出
の行為を実施し、かつ、被疑侵害製品の技術的特徴は、原告の発明特許の権利範囲に含ま
れたと認定し、被告が原告の許諾を得ずに、原告の特許製品に対する製造・販売・販売の
申出を実施したことは、原告の発明特許権に対する侵害に該当するため、侵害の差止、損
害賠償等の民事責任を負うべきだと判定した。したがって、人民法院は、被告に対して侵
害を差止め、原告の経済損害 CNY25 万元(合理的費用を含む)を賠償するよう判決を言
い渡した。判決が言い渡された後、被告は、同判決を不服として上訴を提起した。二審人
民法院は、上訴を棄却し、原判決を維持する判決を言い渡した。
( 2) 第 一 審 判 決
被告は、被疑侵害製品に対する製造・販売・販売の申出の行為を実施したか否か
原告が提出した第 4868 号公証書によれば、原告は、「上海市西藏南路 1739 号 3 幢
1104 室」から反射材 1 巻を購入し、かつ、当時渡された送り状と名刺にはいずれも被
告の社名が記載され、被告も法廷で相応の商品代価を受取ったことがあると認めた。しか
も、原告の提出した「中国道明集団反光安全専家」パンフレットにも住所、連絡電話等の
内容が掲載されていたので、上述の地点が正に被告の上海出張所であると判定することが
できる。
原告が訴外者浙江道明光学股份有限公司から被疑侵害製品を購入できた事実によれば、
当該訴外者と被告は関連会社であり、かつ、原告が当該訴外者から入手したパンフレット
には「DM?道明集団浙江道明反光材料有限公司」が印刷されていた。また、原告の提出し
た被告のホームページに関する公証書の記載によれば、被告は、自社ウェブサイトにて被
疑侵害製品の写真を掲載しており、原告が訴外者から購入した製品の実物及び入手したパ
ンフレットに掲載された製品と被告ウェブサイトに示された製品は、その外観及び型番に
おいて対応一致する関係を有する。
被告は、ウェブサイトに掲載された写真が製品の構造と技術的特徴を反映することがで
きないと主張しているが、原告がすでに被疑侵害製品の実物を公証付購入した前提に対し
159
て、被告は、反射材 1 巻の実物のみを反証として提出したので、原審人民法院は、被告の
当該証拠の出所は不明であり、被告が使用した製品は被疑侵害製品と完全に異なる反射材
であることを証明できないと判定した。
上記をまとめ、人民法院は、原告、被告の提出した証拠の状況及び法廷における陳述と
合わせて、総合的に判断した後、被告が被疑侵害製品に対する製造・販売・販売の申出の
行為を実施したと判定した。
被疑侵害製品の技術的特徴は、原告の発明特許の権利範囲に含まれるか否か、すなわち、
被告は原告の発明特許権を侵害したか否か
本事件において、原告が保護を求めた特許の権利範囲は請求項 1、10、17、19 であり、
そのうち、請求項 1、19 と 17 はいずれも製品の特許であり、請求項 10 は方法の特許であ
る。請求項 1、19 と 17 について、原告は、自己の提出した「司法鑑定意見書」は被疑侵
害製品が原告の特許の権利範囲に含まれることを証明できると主張した。特許の請求項 10
について、原告は、被告がその他の方法を使用していたことを証明できない状況では、被
疑侵害製品が原告の特許方法を使用していたと認められるべきで、特許侵害になると主張
した。
被疑侵害製品の技術的特徴は、原告の発明特許の独立請求項 1 と独立請求項 19 の権利
範囲に含まれるか否か
原告の提出した「司法鑑定意見書」は、単独で委託した鑑定により形成された証拠であ
るものの、単独委託を理由に証拠としての鑑定の証明力を否定することができない。被告
は、当該「司法鑑定意見書」は証拠としてその真実性、合法性、関連性等のいずれにも瑕
疵が存在するので、採用すべきではなく、相応の証拠及び十分な理由を提出して証明すべ
きだとを主張した。本事件において、被告が当該「司法鑑定意見書」について反駁するた
めの証拠を提出していないので、その理由には説得力が欠如する。したがって、原告の提
出した「司法鑑定意見書」における鑑定意見を採用し、被疑侵害製品の技術的特徴は、原
告の発明特許の独立請求項 1 と独立請求項 9 の権利範囲に含まれると判定する。
被疑侵害反射材製品の技術的特徴は、原告の発明特許の独立請求項 7 の権利範囲に含ま
れるか否か
上述の「司法鑑定意見書」における鑑定意見を採用したことを基にして、被疑侵害製品
の技術的特徴と原告の発明特許の独立請求項 7 の構成要件を対比する場合、両者の技術的
特徴は同一であり、被疑侵害製品の技術的特徴は、原告発明特許の独立請求項 7 の権利範
囲に含まれる。
被疑侵害製品に原告の発明特許の独立請求項 10 に記載された特許方法を使用したか否
か
本事件において、原告は、特許審判委員会の下した第 15959 号無効審判請求審決におい
て、すでに原告特許の新規性、進歩性を確認したので、原告は特許製品が新製品であるこ
160
とを証明するための証拠を提出する必要がないと主張した。方法特許に係る侵害認定にお
いて、立証責任の倒置には適用条件がある。
本事件において、特許審判委員会の下した無効審判請求審決では、原告の立証責任を免
除できないので、原告は、依然として原告の製品又は製品を製造する技術方案が特許出願
日前に国内外の公衆に知られていないと言う事実について初歩的な証拠を通じて証明して
こそ、立証責任の転移が可能であり、更に被告は被疑侵害製品を製造した方法が特許方法
と異なることについて証明すべきである。原告が、原告の特許製品が新製品であることを
証明できる証拠を提出していない前提で、立証責任は被告に移転できず、原告は、立証が
できなかった法的結果に対する責任を負うべきである。したがって、被疑侵害製品に原告
の発明特許の独立請求項 10 に記載された特許方法を使用したとの原告の訴訟請求には証
拠が欠如し、棄却すべきである。
要するに、被疑侵害製品の技術的特徴は、原告の発明特許の独立請求項 1、17 と 19
の権利範囲に含まれ、被疑侵害製品は、原告の発明特許の独立請求項 10 における特許方
法を実施していない。よって、被告が原告の許諾を得ずに、原告の特許製品に対する製造・
販売・販売の申出を実施したことは、原告の発明特許権に対する侵害に該当し、侵害の差
止、損害賠償等の民事責任を負わなければならない。
本件の民事責任をどのように確定するか。
本事件の賠償額の确定について 原告は、侵害により受けた原告の損失及び被告が侵害
により得た利益を証明できる証拠を提出せず、また、特許許諾使用料の金額を確定できる
証拠を提出していないことに鑑み、原・被告が提出した証拠資料と本事件における原告の
特許権の価値――特許技術の進歩性、特許技術研究開発のコスト及び実施状況、特許許
諾使用の種類、期間、範囲、市場における同類製品の平均利益、合理的な譲渡価格、合理
的な許諾費用及び被上訴人の侵害行為方式、侵害製品の製造と販売規模、侵害の持続期間、
侵害による損害結果、侵害利益状況等の要素に基づき、賠償額を酌量して确定すべきであ
る。
また、原審人民法院は、原告の提出した弁護士費用、公証費用、鑑定費用、検査測定費
用領収書等の証拠、かつ、司法行政部門が規定した弁護士費用基準、実際賠償確定額と賠
償請求額、事件の複雑程度等の要素を参考した上、合理的費用額を酌量・確定した。
原告が被告に対して侵害製品及び専用金型の廃棄を求めた訴訟請求について、侵害製品
及び専用金型を廃棄することが民事責任を負担方式に該当しないので、原告の当該訴訟セ
請求について認められない。
原告が被告に対して「法制日報」、「文匯報」にて謝罪し、影響を解消するよう求めた
訴訟請求について、被告の特許侵害行為が原告の人身権と精神的自由権を損害せず、かつ、
原告も被告の侵害行為が原告の商業名誉に悪影響をもたらしたことを証明できる証拠を提
出していない状況に鑑み、原告の当該訴訟請求を認めない。
以上の理由により、次のとおり判示した。
161
被上訴人道明公司は、直ちに原告 3M 社の発明特許権(特許番号:ZL95193042.7)に対す
る侵害行為を差し止めること。
被上訴人道明公司は、判決の確定されてから 10 日以内に原告 3M 社の合理的費用を含
む経済損害 CNY25 万元を賠償すること。
原告 3M 社のその他の訴求を棄却すること。
(3) 第 二 審 判 決
特許侵害行為が成立するか否かについて、権利者の請求項に記載された技術特徴と被疑
侵害技術特徴を対比すべきである。本事件における検査・測定報告によれば、技術鑑定機
関の鑑定専門家は、被疑侵害製品に請求項における技術特徴を有すると判定したが、これ
には不当なところがない。
また、原審人民法院が特許権の類型、侵害行為の性質と情状等の要素を酌量した上、賠
償額を確定したことには不当なところがなく、原審判決で确定した賠償額が高すぎるとの
上訴人道明公司の理由は成り立たない。以上の理由により、次のとおり判示した。上訴を
棄却し、原審判決を維持する。
5. 解 説
本件について、原告が公証、鑑定などの手続を利用して、侵害事実の立証に工夫したこ
ともあるが、人民法院が証拠及び立証に関する規定を正確に適用して、当事者の合法権益
を保護したことが重要なポイントになると思われる。
本件において、原告が被告の侵害行為を証明するために、公証人の立会いで、被疑侵害
製品及びカタログを入手し、かつ、被告のウェブサイトについて、公証の方法で証拠保全
する等の証拠を提出して、被告の製造、販売、販売の申出行為を証明した。また、関係証
拠は 1 種類に限らず、数多くの証拠を通じて、各証拠における不備を補充証明し、証明力
をアップした。被告は、原告の証拠について、いろいろな異議を提出したが、人民法院は、
原告の証拠及び開廷審理の状況に基づき、原告の証拠を認め、被告が被疑侵害品の製造、
販売、販売の申出行為を行ったと判定した。
また、被疑侵害製品が原告の特許権を侵害したことを証明するために、原告は、司法鑑
定機関による鑑定意見書を提出した。被告は、司法鑑定意見書についても異議を提出した
が、その異議には説得力がなく、その主張を証明できる証拠を提出していなかったので、
人民法院は、被告の異議を認めておらず、鑑定意見書の内容に基づき、被告が製品に関す
る請求項を侵害したと判定した。
上記の判定について、人民法院は、侵害事実の認定及び立証責任の分配などにおいて、
証拠規定を正確に適用したと思われるが、方法に関する請求項の侵害判定について、疑問
点を持っている。
原告は、原告特許を維持した無効審決にて、原告特許の新規性を認めたので、その方法
162
請求項による製品が「新製品」であることを主張し、立証責任が被告に移転すべきだと主
張したが、当該主張について、人民法院は、無効審決は「新製品」の立証にならず、原告
は、方法請求項により製造された「製品」が「新製品」であることを立証しなければなら
ないと認定した。結局、原告は、「新製品」に関する立証もできず、被告の行為が方法請
求項を侵害したことも立証できなかったので、被告が方法請求項に対する侵害にならない
と判断した。
関係規定によれば、特許出願日前に国内外で公知でなければ、「新製品」に該当する。
つまり、「新製品」の基準は、特許の新規性、進歩性と合致している。権利が確定された
特許製品であれば、理論上、新製品に該当する。原告の主張は、合理な面があると考える。
しかも、原告より、新製品であることを立証すべきであるが、公知されないことは、消極
事実なので証明しにくい。司法実務上、原告は、新製品であることを主張すれば、被告は、
否定しようとする場合、公知になったことに関する反証を提出すべきである。
上記に対し、上海高級人民法院による「専利侵害紛争審理ガイドライン〔2012〕」第
10 条には新製品の立証に関して、次のとおり記載した。「新製品の製造方法の発明特許事
件において、原告より係争製品が新製品に該当するかについて十分に説明し、被告がこれ
を反論する場合、反証を提出しなければならない。新製品の製造方法の発明特許事件にお
いて、原告より係争製品が新製品であることを説明した後、人民法院は係争製品が新製品
に該当すると認定できる。原告が新製品に関する主張が成立できないと被告が主張する場
合、被告は挙証を通じて反駁すべきである。原告の主張している新製品の製造方法が「製
品及びその製造方法」における「製造方法」である場合、当該製造方法により製造された
製品が新製品であると推定することができる。被告がこの推定に同意しない場合、被告よ
り挙証することを通じて反駁すべきである。」
したがって、本件の一審判決における新製品立証に関する判定は、適切ではない部分が
あると考える。上海高級人民法院による上記のガイドラインとも合致していない。本件に
おいて、原告が上訴していないため、二審人民法院は、この点につき審理しなかった。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
本件は、国外知名企業が中国企業に対して、発明特許権の権利行使を行った成功判例で
ある。外国企業が中国での権利行使に当たって、中国人民法院の公正、公平な裁判結果も
重要な要素であるが、権利側が可能な全てな立証方法とルートを通じて、被疑侵害者の被
疑侵害事実を十分に証明する必要がある。特に、中国の裁判実務においては、証拠の三要
件――信憑性、合法性、関連性に関する審査が厳しいため、権利者側はできるかぎり、公証、
司法鑑定など第三者による証拠保全・収集方法を活用したほうがよい。
また、方法特許のように、権利者側の立証が難しい場合、人民法院による証拠保全又は
証拠収集なども有効的に利用し、関連証拠内容が証明しようとする事実を証明するに証拠
チェーンを形成することに留意する必要がある。
163
また、中国のほとんどの人民法院は立証責任や証拠規定に詳しいが、権利者側も開廷審
理や意見書などにおいて、立証責任や証拠規定の正確な適用について、強く主張して、裁
判官に留意させることも重要であると思われる。たとえば、権利者が可能な立証責任を果
たしても、被疑侵害事実を証明できないか、或いは、被告が権利者の証拠を否定するが、
自分の主張を証明できる反証などを提出できない場合、被告より関連立証責任を負担すべ
きであるとの法的根拠や関連事実を、積極的に人民法院に提示・主張したほうがよいと思
われる。 (6)ドメインネーム「周立波姓名ピンイン」の先取り登録に関する不正
競争紛争事件
1. 事 件 の 性 質
ドメインネーム権利帰属、侵害紛争
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:岳彤宇と周立波間のドメインネーム権利帰属・侵害紛争事件
争点:
原告岳彤宇は、係争ドメインネームの登録人であるか否か。係争ドメインネームは、原
告岳彤宇が登録・使用すべきか、それとも被告周立波に譲渡すべきか。
3. 書 誌 的 事 項
第一審:上海市第二中級人民法院(2011)滬二中民五(知)初字第 171 号
原告:岳彤宇
被告:周立波
判決日:2012 年 4 月 26 日
第二審:上海市高級人民法院(2011)滬高民三(知)終字第 55 号
上訴人:岳彤宇
被上訴人:周立波
判決日:2012 年 9 月 5 日
関連条文:
「中華人民共和国不正競争防止法」第 5 条
「不正競争民事事件の審理における応用法律の若干の問題に関する最高人民法院の解
釈」第 6 条
164
「最高人民法院の
算机網絡ドメインネーム民事紛争事件における法律適用の若干問題 に関する解釈」第 4 条、第 8 条
出典:北大法宝
http://www.pkulaw.cn/fulltext_form.aspx?Db=pfnl&Gid=118451052&keyword= 岳 彤
宇%20 周立波&EncodingName=&Search_Mode=accurate
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
2007 年 10 月 7 日、原告は、
「HongYiShen」の身分を以って、ドメインネーム代理登録
者 GoDaddy.com , Inc.( 以 下 「 係 争 ド メ イ ン ネ ー ム 代 理 登 録 者 」 と い う ) を 介 し て
「zhoulibo.com」(以下、「係争ドメインネーム」という)を登録した。
2011 年 5 月 10 日、係争ウェブサイトには係争ドメインネームを販売する情報を掲載し、
かつ、ウェブサイトでは、海派清口実演者周立波氏は、当該ドメインネームを購入・使用
しようとするその他の方に比べ、より高い知名度を有し得るので、被告が当該ドメインネ
ームを購入・使用することを楽しみにしており、ドメインネームの売出価格は 10 万元以
上であると表明した。
2011 年 9 月 29 日、被告は、自己がピンイン「zhoulibo」に対して合法的な民事権利を
有し、係争ドメインネームの核心部分である「zhoulibo」と被告周立波姓名のピンイン形
式と完全に同一であり、かつ、
「HongYiShen」は、係争ドメインネームに対して合法的な
権利を有せず、更に高価で係争ドメインネームを譲渡しようとしているが、相手方が係争
ドメインネームを登録・使用していることは、明らかに悪意を有するとの理由で、アジア
ドメインネームセンターにクレームを提出し、係争ドメインネームを被告周立波の所有に
譲渡するよう請求した。2011 年 11 月 14 日、
「HongYiShen」は、アジアドメインネーム
センターに答弁状を提出し、自己が係争ドメインネームを登録・使用したことは、作家周
立波の文学愛好者のウェブサイトを作成するためであり、被告周立波は、係争ドメインネ
ームに対して合法的な権利を享有しないとの理由で、アジアドメインネームセンターに被
告周立波の上述のクレームを棄却するよう請求した。答弁状における上述の
「HongYiShen」の署名は「洪義深」であった。
2011 年 11 月 14 日 、 北 京 易 介 華 通 科 技 有 限 公 司 (以 下 「 易 介 公 司 」 と い う )は 、
「zhoulibo.com ドメインネームを EJEE.com にて売り出す事項に関する説明」を発行し、
自社は近日係争ドメインネーム所有者のクレームを受け取ったが、ウェブサイトが改竄さ
れ、係争ドメインネームは他人が悪意で易介公司ウェブサイト「EJEE.com」に掲載して
売り出していたとのことであった。確認によれば、当該ドメインネームの売出口座番号の
情報、登録メール及び関連連絡情報は、係争ドメインネームの所有者の関連情報ではなか
った。易介公司は、関連情報を確認した後、すでに上述の売出リンクを削除した。
2011 年 12 月 7 日、アジアドメインネームセンターは、係争ドメインネームの主な部分
165
「zhoulibo」と被告周立波姓名のピンインが完全に一致し、関連消費者に混同をもたらし、
「 HongYiShen」 は 、 係 争 ド メ イ ン ネ ー ム に 対 し て 合 法 的 な 権 利 を 享 有 せ ず 、 か つ 、
「HongYiShen」が係争ドメインネームを登録・使用したことには明らかな悪意を有する
との理由で、行政専門家チームの裁決(事件番号 CN-1100503)を下し、係争ドメインネー
ムを被告周立波に譲渡することを命じた。
2011 年 12 月 16 日、原告岳彤宇は、法院に訴訟を提起し、原告岳彤宇が係争ドメイン
ネームを登録・使用した行為は悪意を有せず、被告周立波の合法的な権利を侵害していな
い。係争ドメインネームは、被告周立波に譲渡すべきではなく、原告岳彤宇が登録・使用
すべきであることを命じるよう請求した。
( 2) 第 一 審 判 決
原告岳彤宇は、係争ドメインネームの登録人であるか否か。
法院は、原告が係争ドメインネームの登録人であると認定した。ドメインネームの登録
は実名登録を必要としないので、確かに登録されたドメインネーム登録人の名称と実際の
ドメインネーム登録人の名称が不一致する状況が存在すると判定した。具体的に言えば、
本事件において、第 1、登録された係争ドメインネーム登録人の名称は「HongYiShen」
であるものの、係争ドメインネーム登録情報に示された携帯電話番号は原告岳彤宇の所有
である。第 2、係争ドメインネームの関連費用は、原告岳彤宇が係争ドメインネーム代理
登録者に支払っている。第 3、原告岳彤宇は、本事件において、係争ドメインネームは自
己が「HongYiShen」名称を以って登録したものであり、アジアドメインネームセンター
での係争ドメインネームに係る争議について、自己は「洪義深」名称で応訴したことを確
認し、本事件の訴訟も原告岳彤宇が提起した。
係争ドメインネームは、被告周立波に譲渡すべきである。
第 1、原告岳彤宇は、係争ドメインネーム又はその主な部分について権利を有せず、係
争ドメインネームを登録・使用する正当な理由が存在しない。先ず、原告岳彤宇が係争ド
メインネームを登録する行為自体は権利又は民事権利を生じず、原告岳彤宇は、本事件に
おいて、自己と係争ドメインネーム又はその主な部分と関連性を有し、かつ、合法的民事
権利を有することについて挙証・証明できない。次、開廷審理において、原告岳彤宇の陳
述によれば、原告が係争ドメインネームを取得した後の 4 年間以内に係争ウェブサイトに
対して書類を 2 回だけ更新し、かつ、原告岳彤宇が本事件で提出した証拠は、アジアドメ
インネームセンターでの係争ドメインネーム争議審理の前に、原告がすでに係争ウェブサ
イトにて作家周立波を宣伝・紹介していたことを証明できない。したがって、第一審法院
は、自己は作家周立波の文学愛好者であり、自己が係争ドメインネームを登録・使用した
ことは、作家周立波を宣伝・紹介するためであるとの原告岳彤宇の意見については、採用
しかねると判定した。
第 2、被告周立波は、自己の姓名「周立波」及びそのピンイン「zhoulibo」に対して他
人が無断で使用することを禁止し、又は他人が不正手段で市場取引に従事すること等の経
166
営活動を禁止する合法的な権利を享有する。
「中華人民共和国不正競争防止法」第 5 条第(3)
号の規定に基づき、無断で他人の企業名称又は姓名を使用し、他人の商品であるかのよう
な誤認をもたらした場合は、不正手段で市場取引に従事して競争相手を損害する不正競争
行為に該当する。
「不正競争民事事件の審理における応用法律の若干の問題に関する最高人
民法院の解釈」第 6 条第 2 項の規定に基づき、商品経営の中で使用した自然人の姓名は、
「不正競争防止法」第 5 条第(3)号に規定する「姓名」に該当すると認定すべきである。一
定の市場知名度を有し、関連公衆に熟知された自然人の筆名、芸名等は、
「不正競争防止法」
第 5 条第(3)号に規定する「姓名」に該当すると認定すべきである。上述の法律規定では、
商品経営の中で一定の市場知名度を有し、関連公衆に熟知されている自然人の姓名、筆名、
芸名等は、他人の無断使用を禁止し、又は他人が不正手段で市場取引に従事すること等の
経営活動を禁止する合法的な権利を有することを表明している。本事件において、2007
年 10 月 7 日原告岳彤宇が係争ドメインネームを登録する前に、被告周立波の姓名「周立
波」はすでにそのビジネス出演により、関連公衆の中で一定の知名度を有し、関連公衆に
熟知されている。2007 年 10 月以降、被告周立波は、引き続き注目されており、複数の事
実は、被告周立波が海派清口等の商業性出演の中でその姓名「周立波」を使用し、その姓
名がすでに商業性出演により比較的高い知名度を有し、
「zhoulibo」が被告周立波姓名のピ
ンインの表現形式として両者が一対一の対応関係を有することを証明できるので、被告周
立波の姓名及びそのピンイン「zhoulibo」は、すでに関連公衆に熟知されている。
第 3、係争ドメインネームの主な部分「zhoulibo」と被告周立波の姓名「周立波」は、
類似し、被告周立波姓名のピンイン「zhoulibo」と同一であり、関連公衆に係争ドメイン
ネームと被告周立波との関連性に対する誤認をもたらす。第一審法院は、 係争ドメイン
ネームの主な部分「zhoulibo」と被告周立波姓名のピンインは完全に同一である。 被告
周立波は、すでにその商業性出演を通じて、その姓名「周立波」に比較的高い知名度を持
たせており、被告周立波の姓名「周立波」及びそのピンイン「zhoulibo」も関連公衆に熟
知されている。関連公衆が置かれている言語環境と一般言語習慣に基づき、関連公衆は、
通常、中国語ピンインの方式を以って係争ドメインネームの主な部分「zhoulibo」を識別
し、これも関連公衆に係争ドメインネームと被告周立波間の関連性に対する誤認をもたら
すおそれがある。 係争公証書中の係争ウェブサイトにおける「我々は、海派清口実演者
周立波先生が当該ドメインネームを購入・使用しようとするその他の方に比べ、より高い
知名度を有し得るし、かつ、我々も彼の実演を好きであり、周先生が当該ドメインネーム
を購入・使用することを楽しみにしており」、
「周立波 zhoulibo.com 本ドメインネームにつ
いて、誠意を持った譲渡売出するが、有識者が連絡してくれることを期待する」等の表現
は、関連公衆に被告周立波と係争ドメインネーム間の関連性に対する誤認をもたらすおそ
れがある。
第 4、原告は、係争ドメインネームの登録・使用に対して悪意を有する。 係争公証書
の中の係争ウェブサイトには CNY10 万元で高価で係争ドメインネームを売り出す情報が
ある。原告岳彤宇は、上述の係争ドメインネームの売出情報は、ネットページに対する他
167
人の改竄によるものであると主張したものの、原告が提出した易介公司の証明は、上述の
係争ドメインネームの売出情報が確かにネットページに対する他人の改竄によるものであ
り、原告岳彤宇が自ら発布したものではないとのことを証明できない。したがって、第一
審法院は、原告岳彤宇が自ら上述の係争ドメインネームの売出情報を発布したと判定した。 「ドメインネーム司法解釈」第 5 条第 1 項第(3)号では、かつて当該ドメインネームを高
価で売り出し、賃貸し、又はその他の方式で譲渡することにより不当利益を得た場合、当
該ドメインネームに対する被告の登録・使用は悪意を有すると規定している。本事件にお
いて、係争公証書には、原告岳彤宇が係争ウェブサイトにて発布した係争ドメインネーム
の売出情報にて「我々は海派清口実演者周立波先生が当該ドメインネームを購入・使用し
ようとするその他の方に比べ、より高い知名度を有し得るし、かつ、我々も彼の実演を好
きであり、周先生が当該ドメインネームを購入・使用することを楽しみにしており」、「仮
に諮問者が確実にドメインネームを購入する意向があった場合は、先ず自己の予算が
CNY10 万元に達すか否かを慎重に考慮してほしい、これはあなたの貴重な時間を浪費さ
せないためである」、
「周立波 zhoulibo.com 本ドメインネームについて、誠意を持った譲渡
売出するが、有識者が連絡してくれることを期待する」等の表現がある。したがって、原
告岳彤宇は、係争ドメインネームと被告周立波を連結し、かつ、CNY10 万元高価で売り
出す方式で係争ドメインネームを譲渡することにより不当利益を取得しようとした。
上記をまとめ、第一審法院は、係争ドメインネームは被告周立波が登録・使用すべきも
のであり、原告岳彤宇の訴訟請求を棄却すると判定した。
( 3) 第 二 審 判 決
第 1、被上訴人周立波は、係争ドメインネームの主な部分「zhoulibo」に対して先行合
法的な権利を享有する。本事件において、被上訴人が自己の姓名「周立波」を使用して商
業性出演に参加した持続時間、出演範囲、媒体宣伝等の状況を総合的にみれば、2007 年
10 月、上訴人岳彤宇が係争ドメインネームを登録した際に、被上訴人の姓名「周立波」は
すでにその商業性出演を通じて一定の市場知名度を有し、関連公衆に熟知されており、か
つ、その知名度は上海地区のみに限られなかったと判定することができる。2007 年 10 月
以降、被上訴人周立波は、商業性出演を経てすでにその姓名「周立波」に比較的高い市場
知名度を持たせており、
「zhoulibo」は被上訴人の姓名「周立波」と相互対応し、かつ、唯
一のピンイン表現形式に該当するので、被上訴人の姓名「周立波」及びそのピンイン
「zhoulibo」はすでに関連公衆に熟知されている。したがって、
「中華人民共和国不正競争
防止法」第 5 条第(3)号規定及び「不正競争民事事件の審理における応用法律の若干の
問題に関する最高人民法院の解釈」第 6 条第 2 項の規定に基づき、一審法院は、被上訴人
は自己の姓名「周立波」及びそのピンイン「zhoulibo」に対して他人が無断で使用するこ
とを禁止し、又は他人が不正手段で市場取引に従事すること等の経営活動を禁止する合法
的な権利を享有すると判定したが、当該判定には不当なところがない。
第 2、原告岳彤宇は、係争ドメインネーム又はその主な部分について、合法的な権利を
168
有しないだけではなく、係争ドメインネームを登録・使用した正当な理由もない。 ドメ
インネームの登録は、登録人が登録しようとするドメインネーム本身に対して民事権利を
有したり、又は関連性が存在することを要求しないものの、登録人が登録申請したドメイ
ンネームも他人が法により享有する民事権利を侵害してはならない。 上訴人は、自己が
係争ドメインネーム又はその主な部分に対して合法的な権利を享有することについて挙
証・証明できなかった。 調査によれば、アジアドメインネームセンターが下した行政専
門家チーム裁决は、係争ドメインネームの争議が生じる前に、上訴人がすでに係争ウェブ
サイトにて作家周立波を紹介・宣伝していたことを認定していない。本事件において、上
訴人は、自己は作家周立波の文学愛好者として係争ドメインネームを登録・使用し、かつ、
作家周立波を宣伝・紹介するという正当な理由があると主張したものの、上訴人は、自己
が作家周立波の文学愛好者であることを証明できるいかなる証拠も提出していないだけで
はなく、被上訴人からアジアドメインネームセンターに係争ドメインネームについてクレ
ームを提出される前にすでに係争ウェブサイトにて作家周立波を宣伝・紹介していたこと
を証明できる十分な証拠を提出していないので、係争ドメインネームを登録・使用したこ
とには正当な理由を有するとの上訴人の主張に事実的根拠が欠如する。
第 3、一審法院が係争ドメインネームの構成要素と被上訴人周立波の姓名ピンインの形
式が同一であることのみを理由に、上訴人が係争ドメインネームを登録したことは、関連
公衆に十分に誤認をもたらすと判定したが、当該判定が客観的実情を満たすか否かについ
て、法院は、 被上訴人周立波が自己の商業性出演を通じてすでに自己の姓名「周立波」
に比較的高い知名度を持たせており、被上訴人の姓名「周立波」及びそのピンイン
「zhoulibo」は、すでに関連公衆に熟知されている。 上訴人が登録した係争ドメインネ
ームの主な部分「zhoulibo」と被上訴人の姓名「周立波」のピンインは完全に同一である。 言語環境と言語習慣を考慮した場合、関連公衆は、通常、中国語のピンインの方式を以
って係争ドメインネームの主な部分「zhoulibo」識別する。したがって、係争ドメインネ
ームは、関連公衆に係争ドメインネームと被上訴人周立波の間に関連性があるかのような
誤認をもたらすおそれがある。それと同時に、被上訴人は、ウェブサイトにて係争ドメイ
ンネームを売り出す際に、周立波の知名度を承認し、かつ、係争ドメインネームと被上訴
人周立波はその関連性を有すると承認した。したがって、一審法院が係争ドメインネーム
は関連公衆に係争ドメインネームと被上訴人周立波の間に関連性があるとの誤認をもたら
すおそれがあると判定したことには、不当なところがない。上訴人の当該上訴理由は成り
立たず、二審法院は認めない。
第 4、原告岳彤宇が係争ドメインネームを登録・使用したことには悪意を有する。 被
上訴人の姓名「周立波」は、すでにその商業演出を経て、一定の市場知名度を有し、関連
公衆に熟知されている。 係争ウェブサイトには CNY10 万元の高価で係争ドメインネー
ムを売り出すとの情報が存在する。 二審で上訴人が提出した映像「事件聚焦──周立波ド
メインネーム争議権利帰属之争」は、
「本事件において、被上訴人が主動的に上訴人に購入
要請を発した後、上訴人は、受動的にその要請を受け取り、かつ、反要請を発しした」と
169
言う上訴人の事実主張を証明することができない。係争ウェブサイトにて発布された係争
ドメインネーム売出情報における関連表現にも示されているとおり、上訴人岳彤宇は、係
争ドメインネームと被上訴人周立波をつなげると同時に、CNY10 万元の高価で係争ドメ
インネームを売り出ることにより不当な利益を得ようとしていた。
第 5、上訴人岳彤宇が係争ドメインネームを登録・使用した行為は、無断で他人の姓名
を使用したことになり、関連公衆に誤認をもたらす不正競争行為を構成し、
「中華人民共和
国不正競争防止法」第 5 条第(3)号に規定する情形に該当し、一審法院が適用した法律
は正確であった。
上記をまとめると、上訴人岳彤宇の上訴請求と理由には事実的かつ法的根拠がなく、上
訴を棄却し、原判決を維持する判決を言い渡す。
5. 解 説
ここ数年、名人の姓名が商品の販売促進、広告宣伝等の市場活動にて莫大な商業価値を
現すことが日増しに明らかになりつつあり、名人の姓名、訳名、綽名等を商標又はドメイ
ンネーム等として先取り登録する現象が常に発生している。本事件は、知名芸人周立波の
姓名ピンインを先取りしてドメインネームとして登録した事件である。
姓名は、「不正競争防止法」で保護する特殊対象の 1 つであり、無断で他人の姓名を使
用する行為は、実質上、他人の商業信誉と商品信用を盗用する行為に該当し、消費者に誤
認をもたらし、市場に混同をもたらすおそれがある。
「不正競争防止法」の立場で無断で他
人の姓名を使用した行為を研究し、競争法を通じてかかる行為を調整することは、有效に
無断で他人の姓名を使用する行為を調整することができ、姓名と言う文字符号を商業分野
にて正当に使用することに有利である。
しかし、姓名権は排他性を有する権利ではない。中国において、同名同姓は非常に一般
的であり、姓名のピンインが同一であることはより普通である。本事件において、確かに
被告周立波と同名同姓の著名作家がいる。したがって、姓名権を主張する際に、往往とし
て当該姓名が極めて高い知名度を有することを求めている。これも姓名権の主張の難度を
増やしている。特にピンイン形式で現されたドメインネーム又は商標について姓名権を主
張する際には、必ず当該ピンインが関連公衆の中で一対一の対応関係を形成することを証
明できる証拠を提出しなければならない。
企業の場合、企業名称も企業が自社の利益を保護するための重要な対象の 1 つである。
「中華人民共和国不正競争防止法」第 5 条第 3 号では、「不正競争民事事件の審理におけ
る応用法律の若干の問題に関する最高人民法院の解釈」第 6 条と第 7 条では、無断で他人
の企業名称を使用する不正競争行為を構成する際には、3 つの要件を満たさなければなら
ないと規定している。
第 1、許諾を得ていない適用 ここで言う使用には同一の使用と類似の使用を含み、類
似の使用は、関連公衆の混同をもたらすことをその判断基準とする。第 2、無断で使用し
170
た対象が企業名称である場合、すなわち、企業登録主管機関が法により登録した企業名称、
及び中国国内で商業使用をしている外国(地区)の企業名称、一定の市場知名度を有し、
関連公衆に熟知されている企業名称の中の字号である場合は、「不正競争防止法」第 5 条
第(3)号に規定する「企業名称」に該当する。第 3、客観上、人々に他人の商品であると
の誤認結果をもたらす。
本事件はドメインネーム紛争事件である。訴訟の前において、双方はすでにドメインネ
ーム争議解決センターにて仲裁を行っていた。本事件の訴訟結果と仲裁結果は一致するも
のの、実務上、依然として訴訟結果と仲裁結果が不一致する情状が生じている。特に異議
申立人の主張した先行権利が国外では比較的知名であるものの、国内では相当の知名度を
有しない場合である。
なお、原告の主体資格も本事件の争点である。匿名でドメインネームを登録した際に、
如何にドメインネームの真正の所有者であることを証明するかはそのキーポイントになっ
ている。本事件において、法院は、連絡電話及び登録費用領収書等の証拠を採用すること
により、原告がドメインネームの登録人であると判定した。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
実務上、企業のドメインネームについて、従業員がその登録を代行し、名称も規範化さ
れず、正確な連絡方式も残さず、費用納付記録とインボイス等を留保しない状況が常に発
生する。今後、万が一、当該ドメインネーム権利に紛争が生じた際には企業に不利である。
また、現有のドメインネーム又は商標が企業の名称権を侵害した事を見付けた際に、早
期にその対策を取り、関連証拠も留保すべきである。模倣されたドメインネーム又は商標
が合法的な権利を形成する前に、ドメインネーム争議解决センターによる仲裁、商標争議
乃至訴訟等の手続を以って早期に自己の利益を保護したほうがより望ましい。
(7)ウェブサイトユーザーの登録情報データーベースをめぐる営業秘密
侵害紛争事件(最高人民法院「2012 年中国法院知識産権司法保護十大創
新性案件」の 9)
略 (8)ドラマ「夏家三千金」挿入広告虚偽宣伝不正競争紛争事件
1. 事 件 の 性 質
不正競争紛争
171
2. 事 件 名 、 争 点
事件名:北京珂蘭信鑚網絡科技有限公司と上海辛迪加影視有限公司、上海卓美珠宝有限公
司間の不正競争紛争事件
争点:両被告が原告の許諾を得ずに、無断でテレビドラマの中で著作権が保護されている
原告の美術作品及び実物作品と類似する製品を使用したことは、不正競争を構成するか否
か
3. 書 誌 的 事 項
第一審:上海市浦東新区人民法院(2011)浦民三(知)初字第 694 号
原告:北京珂蘭信鑚網絡科技有限公司(以下「珂蘭公司」という)
被告:上海辛迪加影視有限公司(以下「辛迪加公司」という)
上海卓美珠宝有限公司(以下「卓美公司」という)
判決日:2012 年 5 月 22 日
関連条文:「中華人民共和国不正競争防止法」第 9 条、第 20 条
出典:北京知識産権律師網
http://cnipr.net/article_show.asp?article_id=15221
4. 事 件 の 概 要
( 1) 事 実 関 係
原告珂蘭公司は、デザイナーに委託して美術作品「天使之翼吊墜」を創作・完成し、か
つ、2008 年 3 月 8 日に北京で初めて発表したと主張した。その後、原告は、上述の美術
作品のデザインに基づき、「天使之翼吊墜」実物製品の製造・販売を開始した。2009 年 2
月 24 日、原告は、当該美術作品について著作権を登録し、かつ、「著作権登記証書」を
受領し、委託作品著作権者の身分を以って法により署名権以外の著作権を享有している。
原告は、安徽衛視(衛星テレビ)、東方衛視等の各大型テレビチャンネルで広範に放送
され、かつ、優酷網、百度奇芸、搜狐視頻、土豆網等の数多い映像サイトにて伝達されて
いるテレビドラマ「夏家三千金」第 2 回の約第 24 分から 26 分の間に上記の「天使之翼吊
墜」美術作品とほぼ完全に同一であるペンダント製品が出たことを見付けた。当該製品の
包装箱には被告卓美公司の克徠帝珠宝ブランド標章「CRD」が際立てて印刷されていた。
当該ドラマは、被告辛迪加公司が参与して共同で出品・作成し、同社が「テレビドラマ拍
撮制作届出」手続を行ったものである。それと同時に、被告公式サイトにて「克徠帝新聞」
172
における「CRD 克徠帝携手『夏家三千』」をクリックした場合、ヒットされる画面には「CRD
克徠帝携手「夏家三千金」太過愛你」と言う文章が現れてくる。
原告は、両被告が原告の許諾を得ずに、無断でテレビドラマの中で原告が著作権を享有
する「天使之翼吊墜」美術作品及び実物製品と実質的に類似するペンダント製品を使用し
たが、当該行為は、広大な観衆と消費者に誤認をもたらし、しかも、厳重に原告の合法的
な著作権を侵害し、虚偽宣伝及び信義誠実の原則に違反した不正競争行為を構成すると主
張した。したがって、法院に両被告に対して 「法制日報」、新浪網トップページ
(http://www.sina.com.cn)、CRD 克徠帝公式サイトのトップページ
(http://www.crd999.com)にてそれぞれ原告に公開謝罪すること、 原告の経済損害
CNY15 万元(以下幣種同じ)及び原告が侵害行為を制止するために支出した合理的費用
7,521 元を連帯して賠償することを命じるよう請求した。その後、原告は、著作権侵害に
対する起訴を取り下げた。
( 2) 第 一 審 判 決
第一審法院は次のとおりに判定した。
第一、テレビドラマ「夏家三千金」の関連情状の構成は、被告卓美公司のブランドに対
する広告宣伝に該当する。
商業広告は、商品経営者又はサービス提供者自体又は他人に委託することにより、一定
の担体と形式を以ってその商品又はサービスを紹介・販売する宣伝活動のことを言う。本
事件において、 両被告の間の関係によれば、被告卓美公司は、無償で被告辛迪加公司の
テレビドラマのためにロケ地を提供し、辛迪加公司は、無償で当該ドラマにて卓美公司の
ブランドを宣伝した。双方の間には書面による契約はなかったものの、事実上の広告提携
関係を形成している。そのうち、卓美公司は実際の広告主であり、辛迪加公司は実際の広
告経営者であり、対価は相互無償に提供したロケ地費用と広告費用である。 テレビドラ
マの関連内容によれば、「夏家三千金」ドラマにおいて、主人公は、先ず明らかに「CRD
克徠帝」標章が付された宝石店でアクセサリーを選択・購入する。その後、家で明らかに
「CRD」標章が付された宝石箱を開ける。更にエンディングには「CRD 克徠帝浪漫一刻
幸福一生」字幕が示されているが、当該内容は、明らかに挿入広告の特徴であり、「克徠
帝」、「CRD」ブランドの広告宣伝に該当する。そのうち、係争ネックレスのペンダント
と宝石箱は同時に現れており、すでに挿入広告の組成部分となり、客観上、広告宣伝の效
果に達し、被告卓美公司ブランドに対する広告宣伝を構成する。
第二、挿入広告は、公衆に誤認をもたらすおそれがあり、原告の合法的権利を損害して
いる。
173
広告宣伝は、必ず客観的かつ真実であり、宣伝される対象の実際状況に合わなければな
らない。宝石アクセサリーの広告宣伝において、独特なアクセサリーの様式は、迅速に消
費者の注目を浴びると同時に、ブランドの吸引力を向上させる。本事件において、被告卓
美公司は、係争様式のネックレスのペンダントを設計、製造又は販売しておらず、撮影過
程において、当該ドラマの監督は、アモイ克徠帝店内からネックレス 1 本を購入し、当該
ネックレスに用いる宝石箱のほかに、更に「克徠帝」、「CRD」標章付の宝石箱を購入し、
ツールとして使用すると告知し、ドラマの情状に応じて使用するものの、どんな情状に使
用するかについては説明しなかった。被告辛迪加公司は、テレビドラマの挿入広告におい
て、係争様式のネックレスのペンダントと卓美公司のブランド標章を同時に使用し、関連
公衆に明らかに「CRD」標章を付した宝石箱を開いて、係争ネックレスペンダントを開示
し、更に主人公がネックレスを首に掛ける情状を展示し、宝石箱と係争ネックレスの場面
はいずれもクローズアップシーンであり、ネックレスのクローズアップシーンの持続時間
は 4 秒にもなり、選定・購入する場景及びエンディング字幕に「CRD 克徠帝」標章を示
していたが、当該内容は関連公衆に当該ペンダント様式が「CRD」ブランドによりデザイ
ン・製造又は販売されているような誤認をもたらす。但し、係争ネックレスは、スタッフ
が広州市白雲区銀亮飾品商行から購入したものである。当該ペンダント様式が好きな公衆
は、本ドラマを通じて、「CRD」ブランドに対して一定の興味を持つようになり、更に当
該公衆に当該ブランドを理解し、又は当該ブランド製品を買わせることになり、結局、卓
美公司のためにより多い商業機会を提供し、不正に一定の競争優勢を得るようにさせ、更
に一定の商業利益を得るようにさせる。
原告と被告卓美公司は、いずれも宝石アクセサリー製品の経営者であり、両者は相互競
争関係に置かれている。原告は、「天使之翼吊墜」美術作品の著作権者として当該美術作
品をアクセサリー製品に複製し、かつ、利益を得る権利を有する。係争挿入広告は、原告
のアクセサリー様式を利用して被告卓美公司のブランドのために宣伝していたので、必ず
原告に対して当該特有様式により生じる競争優勢に対して影響をもたらし、又は関連公衆
に原告のアクセサリー製品は被告の様式を摸倣したものであるとの誤認をもたらし、原告
の合法的権利を損害し、原告に対する不正競争を構成する。
第三、両被告は、虚偽宣伝行為について連帯責任を負うべきである
本事件において、辛迪加公司は、テレビドラマ「夏家三千金」のプロデューサーと発行
者であると同時に、挿入広告のプロデューサーと発布者でもある。同社は、係争ネックレ
スペンダントと被告卓美公司が無関係であることを知得していたにもかかわらず、明らか
に被告ブランド標章を付されている宝石箱とを併合使用することにより、公衆に誤認をも
たらす結果を生じ、原告の合法的権利を侵害したので、原告の損害について賠償責任を負
174
うべきである。被告卓美公司は、実際の広告主として、主動的にドラマ情状の構想には参
与しなかったものの、自社のブランド標章付宝石箱を提供し、かつ、ドラマ情状に基づい
て当該宝石箱を使用し、当該ドラマにて自社のブランドを宣伝するとのことも知得してい
ながら、宣伝内容及び発生可能な宣伝結果について合理的な注意義務を果たしていないの
で、原告の損害について賠償責任を負うべきである。
上記をまとめ、「中華人民共和国不正競争防止法」第 9 条、第 20 条の規定に基づき、
次のとおりに判決を言い渡す。 ①
被告上海辛迪加影視有限公司、上海卓美珠宝有限公司は、原告北京珂蘭信鑚網絡
科技有限公司の経済損害 CNY2 万元及び原告が侵害を制止するために支出した
合理的費用 CNY7,521 元を賠償し、両被告は連帯責任を負うこと。
②
原告北京珂蘭信鑚網絡科技有限公司のその他の訴訟請求を棄却すること。
5. 解 説
本事件は、映画・ドラマ作品の挿入広告に起因された虚偽宣伝・不正競争紛争事件であ
る。現在、映画・ドラマに挿入広告を加えることは、すでに企業の重要なビジネス営業模
式の 1 つになり、映画・ドラマのプロデューサーが撮影のための資金、ロケ地、ツール等
の問題を解決するための有效なルートになっている。
挿入式の広告とは、製品又はブランドの代表性を持つ視覚符号、更にサービス内容につ
いて、策略的に映画・ドラマの中に融合させることにより、観衆にブランドに対するイメ
ージをもたらし、最終的に広告営業の目的に達することを指す。挿入式の広告行為は、他
人の権利を侵害してはならず、市場の正常な競争環境を損害してはならない。さもなけれ
ば、侵害行為又は不正競争行為を構成してしまう。
本事件において、原告は、先ず著作権侵害と不正競争為を理由に訴訟を提起し、その後、
著作権侵害に対する部分を取り下げた。その原因は、係争様式のネックレスペンダントが
被告卓美公司が製造・販売したものではなく、かつ、原告が署名権を共有するものではな
いので、著作権侵害を主張して法院に認められる可能性が比較的少なかったからである。
しかし、原告が署名権以外の著作権を享有することは、本事件の不正競争が成り立った基
礎になる。仮に原告が係争様式のネックレスペンダントに対して著作権を享有しない場合、
当該美術作品をアクセサリー製品に複製し、かつ、利益を得るような権利を有しない。す
なわち、当該特有様式により得られる競争優勢に対して影響をもたらし、又は関連公衆に
原告のアクセサリー製品が被告の様式を摸倣したとの誤認をもたらすことにより、原告の
合法的な利益を損害し、原告に対する不正競争を構成するとのことは主張することができ
175
ない。したがって、先ず関連製品について、合法的な知的財産権を有することは非常に必
要なことである。
6. 企 業 へ の メ ッ セ ー ジ
広告社と映画・ドラマ作品の関連責任者は、最大限で挿入広告の合法性を確認し、当該
広告が第三者の合法的権利を侵害したか否か、消費者に誤認をもたらすか否か、市場の競
争秩序を乱すか否かを判断することにより、侵害紛争の中に陥ることを回避すべきである。
権利者も自己の権利保護を強化し、一旦、映画・ドラマ作品の挿入広告が自己の合法的
権利を侵害したことを見付けた際には、早期に迅速に自己の権利を保護すべきである。証
拠収集においても合理的な期間内に、関連ネットページ等に対する公証保全を含む公証手
段を通じて電子証拠を確保することに注意を払うべきである
(9)オンラインゲーム「ドラゴンネスト」のプラグに関する著作権侵害
事件
(判決書未公開)
(10)「茅台」「芙蓉王」登録商標標章の不法印刷事件
(判決書未公開)
176
司法解釈
1.信用失墜被執行者の名簿情報の公布に関する最高人民法院
の若干規定
信用失墜被執行者の名簿情報の公布に関する最高人民法院の若干規定
法釈〔2013〕17 号
「信用喪失被執行者の名簿情報の公表に関する最高人民法院の若干規定」はすでに 2013
年 7 月 1 日に最高人民法院審判委員会第 1582 回会議において採択されたことから、ここ
にそれを公表し、2013 年 10 月 1 日から施行する。
最高人民法院
2013 年 7 月 16 日
信用喪失被執行者の名簿情報の公表に関する
最高人民法院の若干規定
(2013 年 7 月 1 日最高人民法院審判委員会第 1582 回会議で採択)
被執行者が、発効した法律文書に決められた義務を自ら履行するよう促し、社会信用シ
ステムの確立を促進するために、
「中華人民共和国民事訴訟法」の規定に基づき、人民法院
の実務と結びつけて、本規定を定める。
第一条 被執行者が履行能力を有しながら発効した法律文書に決められた義務を履行せず、かつ
下記状況のいずれかに該当する場合、人民法院はそれを信用喪失被執行者の名簿に載せ、
それに対し法により信用懲戒を加えなければならない。
(一)証拠偽造、暴力、威嚇などの方法で執行を妨害・拒否した場合
(二)虚偽訴訟、虚偽仲裁又は財産の隠匿、移転などの方法で執行を回避した場合
(三)財産報告制度に違反した場合
(四)高消費制限令に違反した場合
(五)被執行者が正当な理由なく和解協議を履行・執行しなかった場合
(六)履行能力を有しながら発効した法律文書に決められた義務を履行しないその他の
場合
177
第二条 人民法院から被執行者に出した「執行通知書」には、信用喪失被執行者の名簿に掲載さ
れるリスクを注意する内容を明記しなければならない。
執行請求者は、被執行者に本規定第一条に列挙される信用喪失行為のいずれかがあると
認める場合、人民法院に対して当該被執行者を信用喪失被執行者の名簿に載せるよう請求
することができ、人民法院は、審査を経て決定する。人民法院は、被執行者に本規定第一
条に列挙される信用喪失行為のいずれかがあると認める場合、職権により、当該被執行者
を信用喪失被執行者の名簿に載せる旨の決定を下すことができる。
人民法院は、当該被執行者を信用喪失被執行者の名簿に載せる旨の決定を下した場合、
決定書を作成しなければならず、決定書は作成日より発効するものとする。決定書は、民
事訴訟法に規定される法律文書送達方法に従って、当事者に送達しなければならない。
第三条 被執行者は、自分を信用喪失被執行者の名簿に載せることが間違っていると認める場合、
人民法院に是正するよう請求することができる。被執行者が自然人の場合、通常、被執行
者本人が人民法院に出頭して請求しかつ理由を説明しなければならない。被執行者が法人
又はその他の組織の場合、通常、被執行者の法定代表者又は責任者本人が人民法院に出頭
して請求しかつ理由を説明しなければならない。人民法院は審査を経て、理由が成立する
と認める場合、是正する旨の決定を下さなければならない。
第四条 掲載・公表した信用喪失被執行者の名簿情報には次のような内容を含まなければならな
い。
(一) 被執行者である法人又はその他の組織の名称、組織機構コード、法定代表者若し
くは責任者の氏名
(二) 被執行者である自然人の氏名、性別、年齢、身分証明書番号
(三) 発効した法律文書に規定される義務と被執行者の履行状況
(四) 被執行者による信用喪失行為の詳細
(五) 執行根拠の作成単位と文書番号、執行事案番号、立件時間、執行法院
(六) 人民法院が記載・公表すべきと認める、国家秘密・営業秘密・個人プライバシー
に関わらないその他の事項
第五条
各級人民法院は、信用喪失被執行者の名簿情報を最高人民法院信用喪失被執行者の名簿
データベースに登録し、かつ当該名簿データベースを通して統一的に社会に公表しなけれ
ばならない。
各級人民法院は、各地の実情に基づき、信用喪失被執行者の名簿を新聞、ラジオ放送、
178
テレビ、インターネット、法院公告欄などその他の方法で公表することができ、また記者
会見又はその他の方法で定期的に、本法院及び管轄区内の法院による「信用喪失被執行者
の名簿」という制度の実施状況を社会に公表することもできる。
第六条
関係単位が法律、法規と関係規定に基づき、政府による買い付け、入札募集・応募、行
政審査許可、政府による扶助、融資貸付、市場参入許可、資格認定などの面で、信用喪失
被執行者に対して信用懲戒を加えるように、人民法院は信用喪失被執行者の名簿情報を政
府関係部門、金融監督管理機関、金融機関、行政職能を負う事業単位及び業界協会などに
通告しなければならない。
人民法院は信用喪失被執行者の名簿を信用格付け機関に報告しなければならず、信用格
付け機関はその信用格付けシステムに記録しなければならない。
信用喪失被執行者が国家業務要員である場合には、人民法院はその信用喪失状況をその
所属する単位に通告しなければならない。
信用喪失被執行者が国家機関、国有企業である場合には、人民法院はその信用喪失状況
をその上級単位又は主管部門に通告しなければならない。
第七条
信用喪失被執行者が下記の状況のいずれかに該当する場合、人民法院はその関係情報を
信用喪失被執行者の名簿データベースから削除しなければならない。
(一) 発効した法律文書に決められた義務をすべて履行した場合
(二) 執行請求者と執行和解協議に合意し、かつ履行が完了したと執行請求者から確認
された場合
(三) 人民法院が法により執行終結を裁定した場合
上記司法解釈第 5 条において規定され、最高人民法院による「全国法院信用喪失被執行
者個人情報の公開と検索」というデータベースの関連情報について、下記のとおり紹介す
る。
179
最高人民法院关于公布失信被执行人名单信息的若干规定
《最高人民法院关于公布失信被执行人名单信息的若干规定》已于 2013 年 7 月 1 日由最高
人民法院审判委员会第 1582 次会议通过,现予公布,自 2013 年 10 月 1 日起施行。
最高人民法院
2013 年 7 月 16 日
法释〔2013〕17 号
最高人民法院
关于公布失信被执行人名单信息的若干规定
(2013 年 7 月 1 日最高人民法院审判委员会第 1582 次会议通过)
为促使被执行人自觉履行生效法律文书确定的义务,推进社会信用体系建设,根据《中华人
民共和国民事诉讼法》的规定,结合人民法院工作实际,制定本规定。
第一条 被执行人具有履行能力而不履行生效法律文书确定的义务,并具有下列情形之一的,
人民法院应当将其纳入失信被执行人名单,依法对其进行信用惩戒:
(一)以伪造证据、暴力、威胁等方法妨碍、抗拒执行的;
(二)以虚假诉讼、虚假仲裁或者以隐匿、转移财产等方法规避执行的;
(三)违反财产报告制度的;
(四)违反限制高消费令的;
(五)被执行人无正当理由拒不履行执行和解协议的;
(六)其他有履行能力而拒不履行生效法律文书确定义务的。
第二条 人民法院向被执行人发出的《执行通知书》中,应当载明有关纳入失信被执行人名单
的风险提示内容。
申请执行人认为被执行人存在本规定第一条所列失信行为之一的,可以向人民法院提出申
请将该被执行人纳入失信被执行人名单,人民法院经审查后作出决定。人民法院认为被执行
人存在本规定第一条所列失信行为之一的,也可以依职权作出将该被执行人纳入失信被执行
人名单的决定。
人民法院决定将被执行人纳入失信被执行人名单的,应当制作决定书,决定书自作出之日
起生效。决定书应当按照民事诉讼法规定的法律文书送达方式送达当事人。
第三条 被执行人认为将其纳入失信被执行人名单错误的,可以向人民法院申请纠正。被执行
人是自然人的,一般应由被执行人本人到人民法院提出并说明理由;被执行人是法人或者其
180
它组织的,一般应由被执行人的法定代表人或者负责人本人到人民法院提出并说明理由。人
民法院经审查认为理由成立的,应当作出决定予以纠正。
第四条 记载和公布的失信被执行人名单信息应当包括:
(一)作为被执行人的法人或者其他组织的名称、组织机构代码、法定代表人或者负责人姓
名;
(二)作为被执行人的自然人的姓名、性别、年龄、身份证号码;
(三)生效法律文书确定的义务和被执行人的履行情况;
(四)被执行人失信行为的具体情形;
(五)执行依据的制作单位和文号、执行案号、立案时间、执行法院;
(六)人民法院认为应当记载和公布的不涉及国家秘密、商业秘密、个人隐私的其他事项。
第五条 各级人民法院应当将失信被执行人名单信息录入最高人民法院失信被执行人名单库,
并通过该名单库统一向社会公布。
各级人民法院可以根据各地实际情况,将失信被执行人名单通过报纸、广播、电视、网络、
法院公告栏等其他方式予以公布,并可以采取新闻发布会或者其它方式对本院及辖区法院实
施失信被执行人名单制度的情况定期向社会公布。
第六条
人民法院应当将失信被执行人名单信息,向政府相关部门、金融监管机构、金融机
构、承担行政职能的事业单位及行业协会等通报,供相关单位依照法律、法规和有关规定,
在政府采购、招标投标、行政审批、政府扶持、融资信贷、市场准入、资质认定等方面,对
失信被执行人予以信用惩戒。
人民法院应当将失信被执行人名单向征信机构通报,并由征信机构在其征信系统中记录。
失信被执行人是国家工作人员的,人民法院应当将其失信情况通报其所在单位。
失信被执行人是国家机关、国有企业的,人民法院应当将其失信情况通报其上级单位或者
主管部门。
第七条
失信被执行人符合下列情形之一的,人民法院应当将其有关信息从失信被执行人名
单库中删除:
(一)全部履行了生效法律文书确定义务的;
(二)与申请执行人达成执行和解协议并经申请执行人确认履行完毕的;
(三)人民法院依法裁定终结执行的。
出所:
2013 年 7 月 24 日付け最高人民法院ホームページ http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201307/t20130724_186661.htm 181
URL
「全国法院信用喪失被執行者個人情報の公開と検索」というデータベース
http://shixin.court.gov.cn/
プリントスクリーン画面
182
運用内容の確認
上記データベースは、2013 年 10 月 24 日にオンラインされ、2014 年 2 月 24 日まで信
用喪失被執行者(自然人)が 67,211 件掲載されているが、信用喪失被執行者(法人又は
その他組織)に関する統計データはまだない。
同データベースを運用すれば、信用喪失被執行者の関連情報が閲覧できる。
183
データベースの使い方
まずは、上記の URL(http://shixin.court.gov.cn/)にアクセスし、下記指定の空欄(実
線標記)に被執行者の名前または名称(せめて 2 つの文字)を入力し、
「査詢」
(破線標記)
というボタンをクリックすると、当該被執行者に関する情報リストが現れる。
184
次に、同リストの右端における「査看」という文字をクリックすると、当該被執行者に
関する情報が閲覧できる。同被執行者の名前・名称、性別、年齢、ID 番号・組織番号、執
行人民法院、所在省、執行書類番号、立件時間、事件番号、裁判文書作成の人民法院、賠
償内容、履行状況等の具体的な信用喪失行為、掲載時間、クリック次数などの情報が把握
できる。
何人も類似な名前・名称を持つ場合について、被執行者の名前または名称を入力の上、
上記点線標記の空欄に身分証明書番号・組織機構コードを入力し、若しくは上記ドロップ
185
ダウンリスト(赤い丸形標記)にて被執行者の所在省を選択して検索すると、もっと正確
な結果が入手できる。
データベースに関する報道
最高人民法院公式サイトに掲載された報道
① http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201311/t20131106_189456.htm
最高人民法院は各大手銀行などの金融機構と協力して、信用喪失被執行者の資金調達
を制限し、中国人民銀行、SFC、CBFC、公安部と協力し、信用喪失被執行者の情報を
共有することを実施した。更に、監察グループを成立し、見逃さないように情報を管理
する。
② http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201312/t20131224_190496.htm
データベースが立ち上げた十日間内、千人以上の信用喪失被執行者が自発的に判決を
履行したが、当該法令の成果は顕著である。最高人民法院は、今後も公安、国土、金融、
税務、証券などの部署と共に、信用体制を推進していく。
③ http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201401/t20140117_191681.htm
最高人民法院は、
「中央文明弁」をはじめ、7 部署と連携して、信用喪失被執行者の下
記の飛行機に乗るか列車ソフト席につくこと、金融機構への融資、クレジットカードを
申請すること、企業の法定代表者、取締役、監事、シニア管理者を担任することなどの
行為を制限する。
④ http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201402/t20140201_192301.htm
最高人民法院は、各部署と共に、信用喪失被執行者を懲戒する体制を構築する。
⑤ http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201402/t20140207_192361.htm
最高人民法院は、各大手銀行及び中国人民銀行クレジットセンターと信用懲戒契約を
協議して、信用喪失被執行者による金融業務を万件以上拒絶された。
⑥ http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201402/t20140224_192855.htm
2014 年 2 月 13 日の時点で、全国における信用喪失被執行者が 75,505 件掲載され、
同データベースのクリック次数は 300 万以上超えていた。データベースにおける信用喪
失被執行者が自発的に履行する割合は 20%になった。
国務院公式サイトに掲載された報道
① http://www.gov.cn/jrzg/2013-11/14/content_2527638.htm
最高人民法院執行局と中国人民銀行クレジットセンターとは覚書において、信用喪失
被執行者の情報をクレジットシステムに記入することを明確に規定した。
② http://www.gov.cn/jrzg/2014-01/16/content_2568688.htm
最高人民法院及び各政府部門が「構建誠信懲戒失信」という旨の会議を招集し、信用
喪失被執行者の高消費行為を制限することを明確した。
186
2.人民法院の裁判文書のウェブサイトでの公開に関する規定
最高人民法院「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規定」
法釈〔2013〕26 号
最高人民法院の「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規定」は、
2013 年 11 月 13 日、最高人民法院審判委員会第 1595 回会議にて可決され、ここに公布す
る。2014 年 1 月 1 日から施行する。
最高人民法院
2013 年 11 月 21 日
最高人民法院
「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規定」
(2013 年 11 月 13 日、最高人民法院審判委員会第 1595 回会議にて可決)
審判公開の原則を徹底し、人民法院のインターネット上での裁判文書の公開を規範化し、
司法の公正を促進し、司法の公信力を高めるため、
「中華人民共和国刑事訴訟法」、
「中華人
民共和国民事訴訟法」、「中華人民共和国行政訴訟法」などの関連規定に基づき、人民法院
の活動の実情を踏まえ、本規定を制定する。
第一条
人民法院は、インターネット上に裁判文書を公開するに当たって、法に従い、速やかに、
適正に、真実に基づいて行わなければならない。
第二条
最高人民法院は、インターネット上に中国裁判文書網を開設し、各級人民法院の発効済
裁判文書を統一的に公開する。各級人民法院は、中国裁判文書網において公開した裁判文
書の品質に対して責任を負う。
第三条
各級人民法院は、インターネット上に公開した裁判文書の管理を行う専門機関を指定し
なければならない。当該機関は、以下の職責を果たす。
(一)裁判文書の公開を手配し、裁判文書をアップロードする。
(二)公開された裁判文書に書き間違い、又は技術的な処理の不具合などの問題が存在
した場合、関係官庁に協力して速やかに処理する。
187
(三)その他の関連する指導、監督、評価を行う。
第四条
人民法院の発効済裁判文書は、インターネット上に公開されなければならない。ただし、
次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合を除く。
(一)国家機密、個人のプライバシーに関わる場合
(二)未成年者の違法行為や犯罪行為に関わる場合
(三)調停によって事件を解決する場合
(四)インターネット上で公開すべきでない場合
第五条
人民法院は、案件受理通知書、応訴通知書において、インターネット上で公開する裁判
文書の範囲を当事者に通知し、政務ウェブサイト、タッチスクリーン、訴訟の手引きなど
複数の方法を通じて、人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規定を公
衆に告知しなければならない。
第六条
人民法院は、インターネット上で裁判文書を公開するとき、当事者の氏名又は名称など
の真実の情報を公開しなければならない。ただし、符号に置き換える形で、次に掲げる当
事者及び訴訟参加者の氏名について匿名化処理を必ず行わなければならない。
(一)家事、相続をめぐる紛争事件における当事者及びその法定代理人
(二)刑事事件における被害者及びその法定代理人、証人、鑑定人
(三)3 年間の有期懲役以下の刑罰を言い渡され、刑事処罰を免れ、かつ累犯又は常習
犯に属さない被告人
第七条
人民法院は、インターネット上で裁判文書を公開するとき、次に掲げる情報を削除しな
ければならない。
(一)自然人の自宅住所、連絡方法、身分証明書の番号、銀行の口座番号、健康状況な
どの個人情報
(二)未成年者の関連情報
(三)法人及びその他の組織の銀行の口座番号
(四)営業秘密
(五)公開すべきでないその他の内容
第八条
担当裁判官又は人民法院が指定する専任者は、裁判文書の発効から 7 日以内に本規定の
188
第六条、第七条の要求に従って技術的な処理を完了した上で、当該裁判文書を、当該法院
でインターネットによる裁判文書の公開を担当する専門機関に提出し、中国裁判文書網に
公開しなければならない。
第九条
単独裁判官又は合議体は、本規定第四条第四号のインターネット上で公開すべきでない
事由が裁判文書にあると考える場合、意見及び理由を書面で部署責任者に提起しなければ
ならない。部署責任者は当該意見及び理由を審査した後で、主管副院長に報告し、査定を
仰がなければならない。
第十条
インターネット上に公開された裁判文書は、本規定に従って技術的な処理が行われる以
外に、当事者に送達した裁判文書と一致しなければならない。
人民法院は、当事者に送達する裁判文書を補正する場合、補正の裁決を速やかにインタ
ーネット上に公開しなければならない。
第十一条
人民法院がインターネット上に公開する裁判文書は、ネットワーク伝送の故障に起因し
て当事者に送達した裁判文書との不一致を招いた場合を除いて、修正又は差換えを行って
はならない。法定の理由又はその他の特別な原因により、確かに撤回する必要がある場合、
高級人民法院以上の法院でインターネットによる裁判文書の公開を担当する専門機関が、
撤回するかどうかを審査により決定し、中国裁判文書網にて撤回及び登記、届出の手続を
行わなければならない。
第十二条
中国裁判文書網は、公衆が裁判文書の検索、閲覧を行いやすいように、操作が簡便な検
索、閲覧システムを提供しなければならない。
第十三条
最高人民法院は、地方の各級人民法院のインターネットによる裁判文書の公開について、
監督と指導を担当する。
高級人民法院は、管轄区内の各級人民法院のインターネットによる裁判文書の公開につ
いて、手配、指導、監督、検査を担当する。
第十四条
各高級人民法院は、本規定の実施過程において、実情を踏まえて実施細則を制定するこ
とができる。中西部地域の基層人民法院のインターネットによる裁判文書公開スケジュー
189
ルは、高級人民法院が決定した上で、最高人民法院に報告し、届出を行う。
第十五条
本規定は、2014 年 1 月 1 日から実施する。最高人民法院が 2010 年 11 月 8 日に制定し
た「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する規定」
(法発〔2010〕48 号)
は、本規定の実施と同時に廃止する。最高人民法院が以前に公布した司法解釈と規範性文
書が本規定と一致しない場合、本規定に準ずる。
190
最高人民法院关于人民法院在互联网公布裁判文书的规定
《最高人民法院关于人民法院在互联网公布裁判文书的规定》已于 2013 年 11 月 13 日由
最高人民法院审判委员会第 1595 次会议通过,现予公布,自 2014 年 1 月 1 日起施行。
最高人民法院
2013 年 11 月 21 日
法释〔2013〕26 号
最高人民法院关于
人民法院在互联网公布裁判文书的规定
(2013 年 11 月 13 日最高人民法院审判委员会第 1595 次会议通过)
为贯彻落实审判公开原则,规范人民法院在互联网公布裁判文书工作,促进司法公正,
提升司法公信力,根据《中华人民共和国刑事诉讼法》《中华人民共和国民事诉讼法》《中
华人民共和国行政诉讼法》等相关规定,结合人民法院工作实际,制定本规定。
第一条 人民法院在互联网公布裁判文书,应当遵循依法、及时、规范、真实的原则。
第二条 最高人民法院在互联网设立中国裁判文书网,统一公布各级人民法院的生效
裁判文书。
各级人民法院对其在中国裁判文书网公布的裁判文书质量负责。
第三条 各级人民法院应当指定专门机构负责互联网公布裁判文书的管理工作。该机
构履行以下职责:
(一)组织、上传裁判文书;
(二)发现公布的裁判文书存在笔误或者技术处理不当等问题的,协调有关部门及时
处理;
(三)其他相关的指导、监督和考评工作。
第四条 人民法院的生效裁判文书应当在互联网公布,但有下列情形之一的除外:
(一)涉及国家秘密、个人隐私的;
(二)涉及未成年人违法犯罪的;
(三)以调解方式结案的;
(四)其他不宜在互联网公布的。
第五条 人民法院应当在受理案件通知书、应诉通知书中告知当事人在互联网公布裁
判文书的范围,并通过政务网站、电子触摸屏、诉讼指南等多种方式,向公众告知人民法院
在互联网公布裁判文书的相关规定。
第六条 人民法院在互联网公布裁判文书时,应当保留当事人的姓名或者名称等真实
信息,但必须采取符号替代方式对下列当事人及诉讼参与人的姓名进行匿名处理:
(一)婚姻家庭、继承纠纷案件中的当事人及其法定代理人;
(二)刑事案件中被害人及其法定代理人、证人、鉴定人;
(三)被判处三年有期徒刑以下刑罚以及免予刑事处罚,且不属于累犯或者惯犯的被
告人。
第七条 人民法院在互联网公布裁判文书时,应当删除下列信息:
(一)自然人的家庭住址、通讯方式、身份证号码、银行账号、健康状况等个人信息;
191
(二)未成年人的相关信息;
(三)法人以及其他组织的银行账号;
(四)商业秘密;
(五)其他不宜公开的内容。
第八条 承办法官或者人民法院指定的专门人员应当在裁判文书生效后七日内按照本
规定第六条、第七条的要求完成技术处理,并提交本院负责互联网公布裁判文书的专门机构
在中国裁判文书网公布。
第九条 独任法官或者合议庭认为裁判文书具有本规定第四条第四项不宜在互联网公
布情形的,应当提出书面意见及理由,由部门负责人审查后报主管副院长审定。
第十条 在互联网公布的裁判文书,除依照本规定的要求进行技术处理的以外,应当
与送达当事人的裁判文书一致。
人民法院对送达当事人的裁判文书进行补正的,应当及时在互联网公布补正裁定。
第十一条 人民法院在互联网公布的裁判文书,除因网络传输故障导致与送达当事人
的裁判文书不一致的以外,不得修改或者更换;确因法定理由或者其他特殊原因需要撤回的,
应当由高级人民法院以上负责互联网公布裁判文书的专门机构审查决定,并在中国裁判文书
网办理撤回及登记备案手续。
第十二条 中国裁判文书网应当提供操作便捷的检索、查阅系统,方便公众检索、查
阅裁判文书。
第十三条
工作。
最高人民法院负责监督和指导地方各级人民法院在互联网公布裁判文书的
高级人民法院负责组织、指导、监督和检查辖区内各级人民法院在互联网公布裁判文
书的工作。
第十四条 各高级人民法院在实施本规定的过程中,可以结合工作实际制定实施细则。
中西部地区基层人民法院在互联网公布裁判文书的时间进度由高级人民法院决定,并报最高
人民法院备案。
第十五条 本规定自 2014 年 1 月 1 日起实施。最高人民法院 2010 年 11 月 8 日制定的
《关于人民法院在互联网公布裁判文书的规定》(法发〔2010〕48 号)同时废止。最高人民
法院以前发布的司法解释和规范性文件与本规定不一致的,以本规定为准。
出所: 2013 年 11 月 29 日付け最高人民法院ホームページ http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201311/t20131129_189898.htm 上記司法解釈第 2 条に規定される「中国裁判文書網」の関連情報について、下記のとお
り紹介する。
192
URL
中国裁判文書網
http://www.court.gov.cn/zgcpwsw/
プリントスクリーン画面
193
運用内容の確認
中国裁判文書網は、2013 年 7 月 1 日にオンラインされてから 8 ヶ月以来、裁判文書を
数多く掲載されている。現在、北京、天津、遼寧、上海、江蘇、浙江、福建、山東、河南、
広東、広西、海南、陜西等の地方における各級人民法院及び最高人民法院による 2014 年
からの新たな有効判決文書は、当該サイトで検索できる。ほかの地方における各級人民法
院による 2014 年からの一部の有効裁判文書は、同サイトで検索できる。2014 年前の判決
文書については、続けて補充されている。
検索方法について、下記のとおりである。
まずは、上記の URL(http://www.court.gov.cn/zgcpwsw/)にアクセスし、下記指定の
空欄(実線標記)にキーワード(せめて 2 つの漢字)又は事件番号を入力し、「捜索」(赤
い丸標記)というボタンをクリックすると、当該事件に関する判決文書リストが新しいウ
ィンドウで現れる。同サイトにて、デフォルトの設定は 2013 年 7 月 1 日から検索するが、
適宜の裁判日付(点線標記)を選定すれば、その前の裁判文書が検索できる。
194
次に、新しいウィンドウにおいて、相応する裁判文書の名称をクリックして、当該裁判
文書が閲覧できる。
中国裁判文書網に関する報道
最高人民法院公式サイトに掲載された報道
① http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201311/t20131129_189894.htm
最高人民法院は「3 つの司法公開ウェブサイトの建設を推進に関する最高人民法院の
若干意見」及び「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する最高人民法
院の規定」を公表し、裁判文書のネットでの公開を改善し、公開ウェブサイトの建設を
推進する。
② http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201311/t20131129_189897.htm
最高人民法院は審判公開の原則を貫き、裁判文書のネットでの公開を促進するため、
「人民法院のインターネット上での裁判文書の公開に関する最高人民法院の規定」を公
表し、司法に対する公衆の知る権利及び監督権を保障する。
195
3.最高人民法院「被執行者貯金のインターネット調査、凍結
に関する規定」
最高人民法院「被執行者預金のインターネット照会、凍結に関する規定」
法釈〔2013〕20 号
最高人民法院「被執行者預金のインターネット照会、凍結に関する規定」は 2013 年 8
月 26 日、最高人民法院裁判委員会第 1587 回会議にて可決され、ここに公布し、2013 年
9 月 2 日から施行する。
最高人民法院
2013 年 8 月 29 日
最高人民法院
「被執行者預金のインターネット照会、凍結に関する規定」
(2013 年 8 月 26 日、最高人民法院裁判委員会第 1587 回会議にて可決)
人民法院が事件の処理、執行においてインターネットを通じて被執行者の預金及びその
他の財産を照会、凍結する行為を規範化し、執行効率をさらに引き上げるため、
「中華人民
共和国民事訴訟法」の規定に基づき、人民法院の実情を踏まえて、本規定を制定する。
第一条 人民法院と金融機構は、インターネットによる捜査取締執行体制を構築する場合、イン
ターネットを通じて被執行者の預金を照会、凍結するなどの措置を講じることができる。
インターネットによる捜査取締執行メカニズムの構築と運用にあたって、次の各号に掲
げる条件を備えなければならない。
(一)インターネットによる捜査取締執行システムをすでに構築しており、インターネッ
トによる操作取締執行システムを通じて捜査取締情報を送信、転送、フィードバッ
クする機能を有する。
(二)インターネットによる捜査取締執行業務を行う権限を特定の要員に授与している。
(三)安全規則に適合する電子印鑑システムを有する。
(四)捜査取締システムと情報セキュリティを十分に保証する措置をすでに講じている。
第二条 人民法院は、インターネットによる捜査取締執行措置を講じるにあたって、事前に関連
金融機構に、インターネットを通じて捜査取締執行措置を講じる権利を有する特定の執行
196
担当者の関連公務証明書を一括して届け出なければならない。実際の業務を行うとき、関
連する金融機構に当該執行担当者の関連公務証明書を別途提供しない。
人民法院は、インターネット捜査取締執行業務を行う特定の執行担当者に変更が生じた
場合、関連金融機構の届出担当者にすみやかに情報変更と関連公務の証明書を届け出なけ
ればならない。
第三条
人民法院は、インターネットを通じて被執行者の預金を照会するとき、電子預金調査協
力通知書を金融機構に転送しなければならない。複数の事件を集中的に調査する場合、事
件調査対象をまとめたリストを添付することができる。
照会した被執行者預金を凍結し、又は継続して凍結する必要がある場合、人民法院は、
電子凍結裁定書と預金凍結協力通知書をすみやかに金融機構に転送しなければならない。
凍結した被執行者預金の凍結を解除する必要がある場合、人民法院は、電子凍結裁定書
と預金凍結協力通知書をすみやかに金融機構に転送しなければならない。
第四条 人民法院は、金融機構に転送する法律文書に電子印鑑を押捺しなければならない。
執行協力者である金融機構は、照会、凍結などの事項を遂行した後、インターネットを
通じて、電子印鑑が押捺された照会、凍結などの結果をすみやかに人民法院に返信しなけ
ればならない。
人民法院が発行した電子法律文書、金融機構が発行した電子照会、凍結などの結果は、
紙の法律文書及びフィードバック結果と同等の効力を有する。
第五条 人民法院がインターネットを通じて被執行者預金を照会、凍結、続凍、解凍することは、
執行担当者が金融機構の営業所に赴き、被執行者預金の調査、凍結、続凍、解凍を行うこ
とと同等の効力を有する。
第六条 金融機構は、人民法院がインターネット捜査取締執行システムを通じて執行した捜査取
締措置が、関連する法律、行政法規の定めに違反すると考える場合、人民法院に書面で異
議を唱えなければならない。人民法院は、15 日以内に審査を完了し、書面で回答を出さな
ければならない。
第七条 人民法院は、法律、行政法規の定め及び関連取扱規範に従って、インターネット捜査取
締執行システムと捜査取締情報を使用し、情報セキュリティを保証しなければならない。
197
人民法院は、事件の処理・執行の過程で、インターネット捜査取締執行システムを通じ
て取得した捜査取締情報を漏洩してはならず、それを事件執行以外の目的に使用してはな
らない。
人民法院は、事件の処理・執行の過程で、被執行者以外の非執行義務主体に対してイン
ターネット捜査取締措置を講じてはならない。
第八条 人民法院の職員が第七条の定めに違反した場合、
「人民法院職員処分条例」に従って懲戒
処分を科さなければならない。情状が深刻で犯罪を構成する場合、刑事責任を追及しなけ
ればならない。
第九条
人民法院は、インターネット口座振替技術を有し、金融機構と協議のうえで合意に達し
た場合、インターネット捜査取締執行システムを通じて被執行者預金の引き落とし措置を
講じることができる。
第十条 人民法院は、工商行政管理、証券管理監督、土地不動産管理などの執行協力機関とイン
ターネット捜査取締執行体制をすでに構築し、インターネット捜査取締執行システムを通
じて被執行者の株式、株券、証券口座資金、不動産などその他の財産に対して捜査取締措
置を講じる場合、本規定の趣旨を類推適用する。
当該司法解釈に提示される関連システムは、人民法院と金融機構の間の内部システムで
あるので、関連 URL とプリンスクリーン画面が入手できない。
198
最高人民法院关于网络查询、冻结被执行人存款的规定
《最高人民法院关于网络查询、冻结被执行人存款的规定》已于 2013 年 8 月 26 日由最
高人民法院审判委员会第 1587 次会议通过,现予公布,自 2013 年 9 月 2 日起施行。
最高人民法院
2013 年 8 月 29 日
法释〔2013〕20 号
最高人民法院
关于网络查询、冻结被执行人存款的规定
(2013 年 8 月 26 日最高人民法院审判委员会第 1587 次会议通过)
为规范人民法院办理执行案件过程中通过网络查询、冻结被执行人存款及其他财产的行
为,进一步提高执行效率,根据《中华人民共和国民事诉讼法》的规定,结合人民法院工作
实际,制定本规定。
第一条 人民法院与金融机构已建立网络执行查控机制的,可以通过网络实施查询、冻结
被执行人存款等措施。
网络执行查控机制的建立和运行应当具备以下条件:
(一)已建立网络执行查控系统,具有通过网络执行查控系统发送、传输、反馈查控信息的
功能;
(二)授权特定的人员办理网络执行查控业务;
(三)具有符合安全规范的电子印章系统;
(四)已采取足以保障查控系统和信息安全的措施。
第二条 人民法院实施网络执行查控措施,应当事前统一向相应金融机构报备有权通过网
络采取执行查控措施的特定执行人员的相关公务证件。办理具体业务时,不再另行向相应金
融机构提供执行人员的相关公务证件。
人民法院办理网络执行查控业务的特定执行人员发生变更的,应当及时向相应金融机构
报备人员变更信息及相关公务证件。
第三条 人民法院通过网络查询被执行人存款时,应当向金融机构传输电子协助查询存款
通知书。多案集中查询的,可以附汇总的案件查询清单。
对查询到的被执行人存款需要冻结或者续行冻结的,人民法院应当及时向金融机构传输
电子冻结裁定书和协助冻结存款通知书。
199
对冻结的被执行人存款需要解除冻结的,人民法院应当及时向金融机构传输电子解除冻
结裁定书和协助解除冻结存款通知书。
第四条 人民法院向金融机构传输的法律文书,应当加盖电子印章。
作为协助执行人的金融机构完成查询、冻结等事项后,应当及时通过网络向人民法院回
复加盖电子印章的查询、冻结等结果。
人民法院出具的电子法律文书、金融机构出具的电子查询、冻结等结果,与纸质法律文
书及反馈结果具有同等效力。
第五条 人民法院通过网络查询、冻结、续冻、解冻被执行人存款,与执行人员赴金融机
构营业场所查询、冻结、续冻、解冻被执行人存款具有同等效力。
第六条 金融机构认为人民法院通过网络执行查控系统采取的查控措施违反相关法律、行
政法规规定的,应当向人民法院书面提出异议。人民法院应当在 15 日内审查完毕并书面回
复。
第七条 人民法院应当依据法律、行政法规规定及相应操作规范使用网络执行查控系统和
查控信息,确保信息安全。
人民法院办理执行案件过程中,不得泄露通过网络执行查控系统取得的查控信息,也不
得用于执行案件以外的目的。
人民法院办理执行案件过程中,不得对被执行人以外的非执行义务主体采取网络查控措
施。
第八条 人民法院工作人员违反第七条规定的,应当按照《人民法院工作人员处分条例》
给予纪律处分;情节严重构成犯罪的,应当依法追究刑事责任。
第九条 人民法院具备相应网络扣划技术条件,并与金融机构协商一致的,可以通过网络
执行查控系统采取扣划被执行人存款措施。
第十条 人民法院与工商行政管理、证券监管、土地房产管理等协助执行单位已建立网络
执行查控机制,通过网络执行查控系统对被执行人股权、股票、证券账户资金、房地产等其
他财产采取查控措施的,参照本规定执行。
出所:
2013 年 9 月 2 日付け最高人民法院ホームページ http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201309/t20130902_187589.htm 200
当該規定に関する報道
最高人民法院公式サイトに掲載された報道
① http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201309/t20130902_187585.htm
最高人民法院は、北京において、強制執行の協力に関して、銀行業と、覚書の締結式・
検討会を開催した。最高人民法院は、多くの銀行と、インターネットを通じて被執行者
預金を照会、凍結、続凍、解凍するとの協力に関して、覚書を締結した。
当該規定は、「信用失墜被執行者の名簿情報の公布に関する最高人民法院の若干規定」
に密接な関連があるので、前述の信用喪失被執行者個人情報データベースに関する報道
をご参考いただきたい。
201
4.最高人民法院、最高人民検察院「食品安全危害刑事案件の
処理における法律適用の若干問題に関する司法解釈」
最高人民法院、最高人民検察院
「食の安全危害をめぐる刑事事件における法律適用の若干問題に関する解釈」
法釈〔2013〕12 号
最高人民法院、最高人民検察院「食の安全危害をめぐる刑事事件における法律適用の若
干問題に関する解釈」は 2013 年 4 月 28 日に最高人民法院裁判委員会第 1576 回会議、2013
年 4 月 28 日に最高人民検察院第 12 期検察委員会第 5 回会議で可決され、ここに公布し、
2013 年 5 月 4 日から施行する。
最高人民法院
最高人民検察院
2013 年 5 月 2 日
最高人民法院、最高人民検察院
「食の安全危害をめぐる刑事事件における法律適用の若干問題に関する解釈」
(2013 年 4 月 28 日、最高人民法院裁判委員会第 1576 回会議、2013 年 4 月 28 日に最高
人民検察院第 12 期検察委員会第 5 回会議にて可決)
食の安全をめぐる犯罪を懲罰し、人民の身体的健康、生命の安全を保証するため、刑法
の関連規定に基づき、この類の刑事事件の処理における法律適用の若干問題に対して、以
下のとおり解釈を行う。
第一条 食の安全基準に適合しない食品の生産、販売にあたって、次の各号に掲げる事由のいず
れかに該当する場合、刑法第 143 条の規定の「深刻な食物中毒事故又はその他の深刻な食
品媒介疾患を十分にもたらす」ものとみなさなければならない。
(一)基準の規制値を著しく超える発病性の微生物、農薬の残留物、農薬の残留物、獣薬
の残留物、重金属、汚染物質及び人体の健康に危害を及ぼすその他の物質が含まれ
る。
(二)病死、死因不明若しくは検査・検疫の結果が不合格の家畜、禽獣、水産動物及びそ
の肉類、肉類製品である。
(三)国が疾病防止などの特殊な必要性のために明文をもって生産、販売を禁止している。
(四)乳幼児食品の中で生長や発育に必要な栄養成分が食の安全基準に著しく適合しない。
202
(五)食中毒事故又は深刻な食品媒介疾患を十分にもたらしうるその他の事由。
第二条 食の安全基準に適合しない食品の生産、販売にあたって、次の各号に掲げる事由のいず
れかに該当する場合、刑法第 143 条が定める「人体の健康に深刻な危害をもたらす」とみ
なさなければならない。
(一)軽症以上の傷害をもたらした。
(二)軽度又は中程度の身体障害をもたらした。
(三)器官組織の損傷により、一般的な機能障害又は深刻な機能障害をもたらした。
(四)10 人以上の深刻な食中毒又はその他の深刻な食品媒介疾患をもたらした。
(五)人体の健康に深刻な危害をもたらすその他の事由。
第三条 食の安全基準に適合しない食品の生産、販売にあたって、次の各号に掲げる事由のいず
れかに該当する場合、「その他の深刻な事由」とみなさなければならない。
(一)生産、販売金額が 20 万元以上である。
(二)生産、販売金額が 10 万元以上 20 万元未満で、食の安全基準に適合しない食品数が
多く、又は生産、販売の持続期間が長い。
(三)生産、販売金額が 10 万元以上 20 万元未満で、乳幼児向け食品である。
(四)生産、販売金額が 10 万元以上 20 万元未満で、1 年以内に食の安全危害にかかる違
法・犯罪活動に起因して行政処罰又は刑事処罰を受けたことがある。
(五)情状が深刻なその他の事由。
第四条 食の安全基準に適合しない食品の生産、販売にあたって、次の各号に掲げる事由のいず
れかに該当する場合、刑法第 143 条が定める「悪影響が極めて深刻である」とみなさなけ
ればならない。
(一)死亡又は重度の身体障害をもたらした。
(二)3 人以上に重症、中程度の身体障害若しくは器官組織の損傷による深刻な機能障害
をもたらした。
(三)10 人以上に軽症、又は 5 人以上に軽度の身体障害若しくは器官組織の損傷による一
般的な機能障害をもたらした。
(四)30 人以上に深刻な食中毒又はその他の深刻な食品媒介疾患をもたらした。
(五)極めて深刻なその他の悪影響。
第五条 有毒、有害食品の生産、販売にあたって、本解釈第 2 条が定める事由のいずれかに該当
203
する場合、刑法第 144 条が定める「人体の健康に深刻な危害をもたらす」とみなさなけれ
ばならない。
第六条 有毒、有害食品の生産、販売にあたって、次の各号に掲げる事由のいずれかに該当する
場合、刑法第 144 条が定める「その他の深刻な事由」とみなさなければならない。
(一)生産、販売金額が 20 万元以上 50 万元未満である。
(二)生産、販売金額が 10 万元以上 20 万元未満であり、有毒、有害食品の数量が多く、
又は生産、販売の持続期間が長い場合。
(三)生産、販売金額が 10 万元以上 20 万元未満で、乳幼児向け食品である。
(四)生産、販売金額が 10 万元以上 20 万元未満で、1 年以内に食の安全危害にかかる違
法犯罪活動に起因して行政処罰又は刑事処罰を受けたことがある。
(五)有毒、有害な非食品原料の毒害性が強く、又は含有量が高い。
(六)情状が深刻なその他の事由。
第七条 有毒、有害食品の生産、販売にあたって、生産、販売金額が 50 万元以上であるか、又
は本解釈第 4 条が定める事由のいずれかに該当する場合、刑法第 144 条が定める「死亡を
もたらし、又はその他の極めて深刻な事由」とみなさなければならない。
第八条 食品の加工、販売、輸送、貯蔵のプロセスにおいて、食の安全基準に違反し、規制量を
超え、若しくは範囲を超えて食品添加剤を濫用し、深刻な食中毒事故又はその他の深刻な
食品媒介疾患を十分にもたらしうる場合、刑法第 143 条の規定に従い、安全基準不適合食
品生産販売罪として処罰を科す。
食用農産物の栽培、養殖、販売、輸送、貯蔵のプロセスにおいて、食の安全基準に違反
し、規制量を超え、若しくは範囲を超えて食品添加剤、農薬、獣薬を濫用し、深刻な食中
毒事故又はその他の深刻な食品媒介疾患を十分にもたらしうる場合、前款の規定を適用し
て罪状を確定し、処罰を科す。
第九条 食品の加工、販売、輸送、貯蔵のプロセスにおいて、有毒、有害な非食品原料を混入さ
せ、又は有毒、有害な非食品原料を使用して食品を加工した場合、刑法第 144 条の規定に
従い、有毒有害食品生産販売罪として罪状を確定し、処罰を科す。
食用農産物の栽培、養殖、販売、輸送、貯蔵のプロセスにおいて、使用禁止農薬、獣薬
などの使用禁止物質又はその他の有毒・有毒物質を使用した場合、前款の規定を適用して
罪状を確定し、処罰を科す。
204
保健食品又はその他の食品の中に、国が使用を禁止する薬物などの有毒、有害物質を不
法に添加した場合、第一款の規定を適用して罪状を確定し、処罰を科す。
第十条 食の安全基準に適合しない食品添加物、食品に用いる包装材料、容器、洗剤、消毒剤又
は食品の生産経営に用いる工具、設備などの生産、販売にあたって、犯罪を構成する場合、
刑法第 140 条の規定に従い、偽粗悪品生産販売罪として処罰を科す。
第十一条 他人に食品を生産、販売することを目的とし、国の規定に違反して国が使用を禁止する
食品の生産、販売に用いる非食品原料を生産、販売し、その情状が深刻である場合、刑法
第 225 条の規定に従い、不法経営罪として処罰を科す。
国の規定に違反して国が生産、販売、使用を禁止する農薬、獣約、飼料、飼料添加物若
しくは飼料の原料、飼料添加物の原料を生産、販売し、その情状が深刻である場合、前款
の規定に従って罪状を確定し、処罰を科す。
前 2 款が定める行為を実施すると同時に、偽粗悪品生産販売罪、偽粗悪農薬獣薬生産販
売罪など他の犯罪をも構成する場合、重い方の規定に従って罪状を確定し、処罰を科す。
第十二条 国の規定に違反して生きた豚の食肉処理工場(処理場)を無断で開設し、生きた豚の食
肉処理、販売などの経営活動に従事し、その経緯が重大である場合、刑法第 225 条の規定
に従い、不法経営罪として処罰を科す。
前款が定める行為を実施すると同時に、安全基準不適合食品生産販売罪、有毒有害食品
生産販売罪など他の犯罪をも構成する場合、重い方の規定に従って罪状を確定し、処罰を
科す。
第十三条 食の安全基準に適合しない食品、有毒、有害食品の生産、販売にあたって、刑法第 143
条、第 144 条の規定に適合する場合、安全基準不適合食品生産販売罪又は有毒有害食品生
産販売罪として処罰を科す。同時にその他の販売を構成する場合、重い方の規定に従って
罪状を確定し、処罰を科す。
食の安全基準に適合しない食品の生産、販売にあたって、食中毒事故又はその他の深刻
な食品媒介疾患を十分にもたらすことを証明する証拠がない場合、安全基準不適合食品生
産販売罪を構成しない。ただし、偽粗悪品生産販売罪などその他犯罪を構成する場合、そ
の他犯罪として罪状を確定し、処罰を科す。
第十四条
205
他人が食の安全基準に適合しない食品、有毒、有害食品を生産、販売したことを予め知
り得、次の各号のいずれかに該当する事由がある場合、安全基準不適合食品生産販売罪又
は有毒有害食品生産販売罪の共犯とみなし、処罰を科す。
(一)資金、貸付金、アカウント、発票、証明書、許可証を提供した。
(二)生産、営業場所又は輸送、貯蔵、保管、郵送、インターネット販売チャネルなどの
便利な条件を提供した。
(三)生産技術又は食品原料、食品添加物、食品関連製品を提供した。
(四)広告などの宣伝を提供した。
第十五条 広告主、広告の取扱者、掲出者が国の規定に違反し、広告を利用して、保健食品又はそ
の他の食品に対して虚偽宣伝を行い、その情状が深刻な場合、刑法第 222 条の規定に従い、
虚偽広告罪として処罰を科す。
第十六条
食品安全管理監督の責務を有する国家機関の職員は、職権を濫用し、又は責務を怠慢し
たために、食の安全に関する重大な事故を招き、又はその他の深刻な影響をもたらすと同
時に、食品管理監督背任罪、不正行為不移送刑事事件罪、商業検査不正行為、動植物検疫
不正行為罪、偽粗悪商品製販行為放任罪など他の背任犯罪がある場合、重い方の規定に従
って罪状を確定し、処罰を科す。
食品安全管理監督の責務を有する国家機関の職員は、職権を濫用し、又は責務を怠慢し、
食品管理監督背任罪を構成しないにもかかわらず、前款が定めるその他の背任犯罪を構成
する場合、その他の犯罪として罪状を確定し、処罰を科す。
食品安全管理監督の責務を有する国家機関の職員は、他人と共謀し、その職務行為を利
用して食の安全に危害を及ぼす他人の行為を幇助し、背任犯罪と食の安全危害犯罪の共犯
を構成する場合、処罰が重い方の規定に従って罪状を確定し、処罰を科す。
第十七条 安全基準不適合食品生産販売罪、有毒有害食品生産販売罪を犯した場合、通常は生産、
販売金額の 2 倍以上の罰金を科さなければならない。
第十八条 本解釈が定める犯罪を実施した犯罪者は、刑法が定める条件に従って執行猶予を厳格に
適用し、刑事処罰を免れなければならない。犯罪の事実、情状、悔改の度合いをもとに、
刑法が定める執行猶予の適用条件に適合する犯罪者について、執行猶予を適用することが
できる。ただし、同時に禁止令を宣告し、その執行猶予期間内に食品の生産、販売及び関
連活動に従事することを禁止しなければならない。
206
第十九条 法人が本解釈の定める犯罪を実施した場合、本解釈が定める有罪認定及び形の量定基準
に従って処罰を科す。
第二十条 次の各号に掲げる物質は、「有毒、有害な非食品原料」とみなさなければならない。
(一)法律、法規が食品の生産営業活動において添加、使用を禁止する物質。
(二)国務院の関連官庁が公布した「食品中に違法に添加された可能性のある非食用物質
リスト」、「健康食品中に不法に添加された可能性のある物質リスト」に列挙された
物質。
(三)国務院の関連官庁が公告をもって使用を禁止した農薬、獣薬及びその他の有毒、有
害物質。
(四)人体の健康に危害を及ぼすその他の物質。
第二十一条
「深刻な食中毒事故又はその他の深刻な食品媒介疾患を十分にもたらす」、
「有毒、有害な
非食品原料」と確定することが難しい場合、司法機関は検査報告書に基づき、専門家の意
見などの関連書類を踏まえて認定することができる。必要に応じて、人民法院は、関連専
門家に出廷して説明を行うよう通知することができる。
第二十二条 最高人民法院、最高人民検察院が以前に公布した司法解釈と本解釈が一致しない場合、
本解釈に準ずる。
207
最高人民法院、最高人民检察院关于办理危害食品安全刑事案件适用法律
若干问题的解释
《最高人民法院、最高人民检察院关于办理危害食品安全刑事案件适用法律若干问题的
解释》已于 2013 年 4 月 28 日由最高人民法院审判委员会第 1576 次会议、2013 年 4 月 28
日由最高人民检察院第十二届检察委员会第 5 次会议通过,现予公布,自 2013 年 5 月 4 日
起施行。
最高人民法院 最高人民检察院
2013 年 5 月 2 日
法释〔2013〕12 号
最高人民法院最高人民检察院关于办理危害食品安全刑事案件适用法律若
干问题的解释
(2013 年 4 月 28 日最高人民法院审判委员会第 1576 次会议、2013 年 4 月 28 日最高人民
检察院第十二届检察委员会第 5 次会议通过)
为依法惩治危害食品安全犯罪,保障人民群众身体健康、生命安全,根据刑法有关规定,
对办理此类刑事案件适用法律的若干问题解释如下:
第 一 条 生产、销售不符合食品安全标准的食品,具有下列情形之一的,应当认定为刑
法第一百四十三条规定的“足以造成严重食物中毒事故或者其他严重食源性疾病”:
(一)含有严重超出标准限量的致病性微生物、农药残留、兽药残留、重金属、污染物
质以及其他危害人体健康的物质的;
(二)属于病死、死因不明或者检验检疫不合格的畜、禽、兽、水产动物及其肉类、肉
类制品的;
(三)属于国家为防控疾病等特殊需要明令禁止生产、销售的;
(四)婴幼儿食品中生长发育所需营养成分严重不符合食品安全标准的;
(五)其他足以造成严重食物中毒事故或者严重食源性疾病的情形。
第 二 条 生产、销售不符合食品安全标准的食品,具有下列情形之一的,应当认定为刑
法第一百四十三条规定的“对人体健康造成严重危害”:
(一)造成轻伤以上伤害的;
(二)造成轻度残疾或者中度残疾的;
208
(三)造成器官组织损伤导致一般功能障碍或者严重功能障碍的;
(四)造成十人以上严重食物中毒或者其他严重食源性疾病的;
(五)其他对人体健康造成严重危害的情形。
第三条 生产、销售不符合食品安全标准的食品,具有下列情形之一的,应当认定为刑法
第一百四十三条规定的“其他严重情节”:
(一)生产、销售金额二十万元以上的;
(二)生产、销售金额十万元以上不满二十万元,不符合食品安全标准的食品数量较大
或者生产、销售持续时间较长的;
(三)生产、销售金额十万元以上不满二十万元,属于婴幼儿食品的;
(四)生产、销售金额十万元以上不满二十万元,一年内曾因危害食品安全违法犯罪活
动受过行政处罚或者刑事处罚的;
(五)其他情节严重的情形。
第四条 生产、销售不符合食品安全标准的食品,具有下列情形之一的,应当认定为刑法
第一百四十三条规定的“后果特别严重”:
(一)致人死亡或者重度残疾的;
(二)造成三人以上重伤、中度残疾或者器官组织损伤导致严重功能障碍的;
(三)造成十人以上轻伤、五人以上轻度残疾或者器官组织损伤导致一般功能障碍的;
(四)造成三十人以上严重食物中毒或者其他严重食源性疾病的;
(五)其他特别严重的后果。
第五条 生产、销售有毒、有害食品,具有本解释第二条规定情形之一的,应当认定为刑
法第一百四十四条规定的“对人体健康造成严重危害”。
第六条 生产、销售有毒、有害食品,具有下列情形之一的,应当认定为刑法第一百四十
四条规定的“其他严重情节”:
(一)生产、销售金额二十万元以上不满五十万元的;
(二)生产、销售金额十万元以上不满二十万元,有毒、有害食品的数量较大或者生产、
销售持续时间较长的;
(三)生产、销售金额十万元以上不满二十万元,属于婴幼儿食品的;
(四)生产、销售金额十万元以上不满二十万元,一年内曾因危害食品安全违法犯罪活
动受过行政处罚或者刑事处罚的;
(五)有毒、有害的非食品原料毒害性强或者含量高的;
(六)其他情节严重的情形。
第七条 生产、销售有毒、有害食品,生产、销售金额五十万元以上,或者具有本解释第
四条规定的情形之一的,应当认定为刑法第一百四十四条规定的“致人死亡或者有其他特别
严重情节”。
第八条 在食品加工、销售、运输、贮存等过程中,违反食品安全标准,超限量或者超范
围滥用食品添加剂,足以造成严重食物中毒事故或者其他严重食源性疾病的,依照刑法第一
百四十三条的规定以生产、销售不符合安全标准的食品罪定罪处罚。
209
在食用农产品种植、养殖、销售、运输、贮存等过程中,违反食品安全标准,超限量或
者超范围滥用添加剂、农药、兽药等,足以造成严重食物中毒事故或者其他严重食源性疾病
的,适用前款的规定定罪处罚。
第九条 在食品加工、销售、运输、贮存等过程中,掺入有毒、有害的非食品原料,或者
使用有毒、有害的非食品原料加工食品的,依照刑法第一百四十四条的规定以生产、销售有
毒、有害食品罪定罪处罚。
在食用农产品种植、养殖、销售、运输、贮存等过程中,使用禁用农药、兽药等禁用物
质或者其他有毒、有害物质的,适用前款的规定定罪处罚。
在保健食品或者其他食品中非法添加国家禁用药物等有毒、有害物质的,适用第一款的
规定定罪处罚。
第十条 生产、销售不符合食品安全标准的食品添加剂,用于食品的包装材料、容器、洗
涤剂、消毒剂,或者用于食品生产经营的工具、设备等,构成犯罪的,依照刑法第一百四十
条的规定以生产、销售伪劣产品罪定罪处罚。
第十一条 以提供给他人生产、销售食品为目的,违反国家规定,生产、销售国家禁止用
于食品生产、销售的非食品原料,情节严重的,依照刑法第二百二十五条的规定以非法经营
罪定罪处罚。
违反国家规定,生产、销售国家禁止生产、销售、使用的农药、兽药,饲料、饲料添加
剂,或者饲料原料、饲料添加剂原料,情节严重的,依照前款的规定定罪处罚。
实施前两款行为,同时又构成生产、销售伪劣产品罪,生产、销售伪劣农药、兽药罪等
其他犯罪的,依照处罚较重的规定定罪处罚。
第十二条 违反国家规定,私设生猪屠宰厂(场),从事生猪屠宰、销售等经营活动,情
节严重的,依照刑法第二百二十五条的规定以非法经营罪定罪处罚。
实施前款行为,同时又构成生产、销售不符合安全标准的食品罪,生产、销售有毒、有
害食品罪等其他犯罪的,依照处罚较重的规定定罪处罚。
第十三条 生产、销售不符合食品安全标准的食品,有毒、有害食品,符合刑法第一百四
十三条、第一百四十四条规定的,以生产、销售不符合安全标准的食品罪或者生产、销售有
毒、有害食品罪定罪处罚。同时构成其他犯罪的,依照处罚较重的规定定罪处罚。
生产、销售不符合食品安全标准的食品,无证据证明足以造成严重食物中毒事故或者其
他严重食源性疾病,不构成生产、销售不符合安全标准的食品罪,但是构成生产、销售伪劣
产品罪等其他犯罪的,依照该其他犯罪定罪处罚。
第十四条 明知他人生产、销售不符合食品安全标准的食品,有毒、有害食品,具有下列
情形之一的,以生产、销售不符合安全标准的食品罪或者生产、销售有毒、有害食品罪的共
犯论处:
(一)提供资金、贷款、账号、发票、证明、许可证件的;
(二)提供生产、经营场所或者运输、贮存、保管、邮寄、网络销售渠道等便利条件的;
(三)提供生产技术或者食品原料、食品添加剂、食品相关产品的;
210
(四)提供广告等宣传的。
第十五条 广告主、广告经营者、广告发布者违反国家规定,利用广告对保健食品或者其
他食品作虚假宣传,情节严重的,依照刑法第二百二十二条的规定以虚假广告罪定罪处罚。
第十六条 负有食品安全监督管理职责的国家机关工作人员,滥用职权或者玩忽职守,导
致发生重大食品安全事故或者造成其他严重后果,同时构成食品监管渎职罪和徇私舞弊不移
交刑事案件罪、商检徇私舞弊罪、动植物检疫徇私舞弊罪、放纵制售伪劣商品犯罪行为罪等
其他渎职犯罪的,依照处罚较重的规定定罪处罚。
负有食品安全监督管理职责的国家机关工作人员滥用职权或者玩忽职守,不构成食品监
管渎职罪,但构成前款规定的其他渎职犯罪的,依照该其他犯罪定罪处罚。
负有食品安全监督管理职责的国家机关工作人员与他人共谋,利用其职务行为帮助他人
实施危害食品安全犯罪行为,同时构成渎职犯罪和危害食品安全犯罪共犯的,依照处罚较重
的规定定罪处罚。
第十七条 犯生产、销售不符合安全标准的食品罪,生产、销售有毒、有害食品罪,一般
应当依法判处生产、销售金额二倍以上的罚金。
第十八条 对实施本解释规定之犯罪的犯罪分子,应当依照刑法规定的条件严格适用缓
刑、免予刑事处罚。根据犯罪事实、情节和悔罪表现,对于符合刑法规定的缓刑适用条件的
犯罪分子,可以适用缓刑,但是应当同时宣告禁止令,禁止其在缓刑考验期限内从事食品生
产、销售及相关活动。
第十九条 单位实施本解释规定的犯罪的,依照本解释规定的定罪量刑标准处罚。
第二十条 下列物质应当认定为“有毒、有害的非食品原料”:
(一)法律、法规禁止在食品生产经营活动中添加、使用的物质;
(二)国务院有关部门公布的《食品中可能违法添加的非食用物质名单》
《保健食品中可
能非法添加的物质名单》上的物质;
(三)国务院有关部门公告禁止使用的农药、兽药以及其他有毒、有害物质;
(四)其他危害人体健康的物质。
第二十一条 “足以造成严重食物中毒事故或者其他严重食源性疾病”
“有毒、有害非食品
原料”难以确定的,司法机关可以根据检验报告并结合专家意见等相关材料进行认定。必要
时,人民法院可以依法通知有关专家出庭作出说明。
第二十二条 最高人民法院、最高人民检察院此前发布的司法解释与本解释不一致的,以
本解释为准。 出所:
2013 年 5 月 6 日付け最高人民法院ホームページ http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201305/t20130506_183919.htm 211
当該司法解釈に関する報道
国務院公式サイトに掲載された報道
① http://www.gov.cn/jrzg/2013-05/04/content_2395591.htm
最高人民法院と最高人民検察院は、連合して、司法解釈を発表し、食の安全危害をめ
ぐる犯罪を厳しく懲罰する。最高人民法院は、
「偽造白酒」
「悪質豚肉」
「下水油」等の典
型的な悪質事件を公表した。
② http://www.gov.cn/jrzg/2013-06/02/content_2417335.htm
最高人民検察院捜査監督庁、公訴庁は通知を下し、安全標準に合致せず、有毒・有害
の食品、悪質の医療用具、農業関連資料等に関する犯罪をしっかりして取締り、上記行
為を存在した 325 件犯罪に対して、最高人民検察院により監督する。
③ http://www.gov.cn/jrzg/2014-02/21/content_2617981.htm
最高人民検察院は、指導案例を公表し、「下水油」「偽造品製造工場」等、および食の
安全危害をめぐる犯罪及び食の安全に関する職務怠慢犯罪に対して厳しく懲罰する。
212
5.最高人民法院「最高人民による専利権侵害をめぐる紛争案
件の審理における法律適用の若干規定」の改正に関する決定
最高人民法院
「最高人民法院の専利権侵害をめぐる紛争事件の審理における法律適用問題に関
する若干規定」の修正に関する決定
法釈〔2013〕9 号
「最高人民法院『最高人民法院の専利権侵害をめぐる紛争事件の審理における法律適用問
題に関する若干規定』の修正に関する決定」は 2013 年 2 月 25 日、最高人民法院裁判委員
会第 1570 回会議にて可決され、ここに公布し、2013 年 4 月 15 日から施行する。
最高人民法院
2013 年 4 月 1 日
最高人民法院
「最高人民法院の専利権侵害をめぐる紛争事件の審理における法律適用問題に
関する若干規定」の修正に関する決定
(2013 年 2 月 25 日、最高人民法院裁判委員会第 1570 回会議にて可決)
最高人民法院裁判委員会第 1570 回会議の決定に基づき、最高人民法院「専利権侵害を
めぐる紛争事件の審理における法律適用に関する若干規定」に対し、以下の修正を行った。
第二条の規定に、
「最高人民法院は実情に基づき、第一審の専利をめぐる紛争事件を管轄
する基層人民法院を指定することができる」という一項を加えた。
当該司法解釈に関する報道
① http://www.chinanews.com/fz/2013/04-14/4728607.shtml
最高人民法院は「最高人民法院の専利権侵害をめぐる紛争事件の審理における法律適
用問題に関する若干規定」の修正に関する決定を公表し、専利民事紛争事件数が多く、
且つ専利民事紛争事件の審理能力を有する基層人民法院が関係事件を管轄することに対
して、明らかな法的根拠を提供した。
最 高 人 民 法 院 关 于 修 改《 最 高 人 民 法 院 关 于 审 理 专 利 纠 纷 案 件 适 用 法 律 问 题 的 若 干 规
213
定 》 的 决 定 《最高人民法院关于修改〈最高人民法院关于审理专利纠纷案件适用法律问题的若干规
定〉的决定》已于 2013 年 2 月 25 日由最高人民法院审判委员会第 1570 次会议通过,现予公
布,自 2013 年 4 月 15 日起施行。 最高人民法院 2013 年 4 月 1 日 法释〔2013〕9 号 最高人民法院关于修改 《 最 高 人 民 法 院 关 于 审 理 专 利 纠 纷 案 件 适 用 法 律 问 题 的 若 干 规 定 》 的 决 定 (2013 年 2 月 25 日最高人民法院审判委员会第 1570 次会议通过) 根据最高人民法院审判委员会第 1570 次会议决定,对《最高人民法院关于审理专利纠纷
案件适用法律问题的若干规定》作如下修改: 第二条规定增加一款:
“最高人民法院根据实际情况,可以指定基层人民法院管辖第一审
专利纠纷案件。” 出所:
2013 年 4 月 15 日付け中華人民共和国最高人民法院ホームページ http://www.court.gov.cn/qwfb/sfjs/201304/t20130415_183307.htm 214
Ⅳ その他
(附録)知財紛争に係る現行の法律、行政法規、部門規則及び司法解釈
法令
制定機関
制定・執行年
〔専利権(発明・実用新案・意匠)関連〕
専利法
全国人民代表大会
1984年制定・2008
年第三回改正
専利代理条例
国務院
1991 年制定
最高人民法院
1993 年制定
専利侵害訴訟で当事者の全てが実用
新案権を享有する場合の取扱問題に
関する回答
専利法実施細則
訴訟前の専利権侵害行為差止の法律
国務院
2001 年制定・2010
年改正
最高人民法院
2001 年制定
最高人民法院
2001 年制定
適用問題に関する若干規定
専利紛争案件審理の法律適用問題に
関する若干規定
2002 年制定・2012
国家知識産権局行政復議規定
国家知識産権局
専利実施強制許諾弁法
国家知識産権局
専利代理管理弁法
国家知識産権局
国防専利条例
国務院
2004 年制定
最高人民法院
2009 年制定
専利審査指南
国家知識産権局
2010 年制定
専利行政執法弁法
国家知識産権局
2010 年制定
専利権質権設定登録弁法
国家知識産権局
2010 年制定
年改正
2003 年制定・2012
年改正
2003 年施行・2011
年改正
専利権侵害をめぐる紛争案件の審理
における法律適用の若干の問題に関
する解釈
215
国家知識産権局
2011 年制定
国家知識産権局
2011 年制定
発明専利出願優先審査管理弁法
国家知識産権局
2012 年制定
専利の強制実施許諾弁法
国家知識産権局
2012 年制定
専利標識の表示弁法
国家知識産権局
2012 年制定
最高人民法院
2013 年制定
国家知識産権局
2013 年制定
国家知識産権局
2013 年制定
国務院
1997 年制定
専利実施許諾契約届出管理弁法
専利行政法執行業務の強化に関する
決定
「最高人民法院による専利権侵害を
めぐる紛争案件の審理における法律
適用の若干規定」の改正に関する決定
国家知識産権局の「専利審査指南」修
正に関する決定(第67号)
「職務発明者の合法的権益の保護を
一層強化し、知的財産権の運用・実施
を促進することに関する若干の意見」
の印刷公布に関する通知
〔植物新品種権関連〕
植物新品種保護条例
植物新品種保護条例実施細則(農業部
農業部
分)
植物新品種保護条例実施細則(林業部
1999 年制定・2007
年改正
国家林業局
1999 年制定
最高人民法院
2001 年制定
最高人民法院
2001 年制定
農業部
2002 年制定
最高人民法院
2007 年制定
分)
植物新品種紛争案件の若干の問題に
関する解釈
植物新品種紛争案件の審判作業の展
開の通知
農業植物新品種権侵害案件処理規定
植物新品種権侵害の紛争案件の法律
の具体的適用問題に関する若干規定
216
〔商標権関連〕
1982 年制定、2013
商標法
全国人民代表大会
商標評審規則
国家工商行政管理総局
特殊標識管理条例
国務院
商標代理管理弁法
国家工商行政管理総局
登録商標権の財産保全に関する解釈
最高人民法院
2001 年制定
最高人民法院
2001 年制定
国務院
2002 年制定
最高人民法院
2002 年制定
最高人民法院
2002 年制定
国務院
2002 年制定
国家工商行政管理総局
2003 年制定
マドリッド商標国際登録実施弁法
国家工商行政管理総局
2003 年制定
馳名商標の認定と保護規定
国家工商行政管理総局
2003 年制定
商標専用権侵害の違法犯罪取締作業
国家工商行政管理総局、
の関係協力の強化に関する暫定規定
公安部
年改正
1995 年制定、2005
年改正
1996 年制定
1999 年制定・2010
年改正
登録商標専用権侵害行為及び証拠保
全の提訴前停止の法律適用問題に関
する解釈
商標法実施条例
商標民事紛争案件審理の法律適用の
若干問題に関する解釈
商標案件の審理の管轄及び法律適用
範囲の問題に関する解釈
オリンピック標識保護条例
団体商標、証明商標の登録及び管理弁
法
2006 年制定
登録商標、企業名称と先行権利が衝突
する民事争議案件の審理に関する若
最高人民法院
2008 年制定
最高人民法院
2009 年制定
国家工商行政管理総局
2009年制定
干問題の規定
馳名商標保護に及ぶ民事紛争事件の
応用法律若干問題の解釈
馳名商標認定事業細則
217
登録商標専用権質権登記手続規定
国家工商行政管理総局
2009 年制定
最高人民法院
2009 年制定
最高人民法院
2010 年制定
国家工商行政管理総局
2012 年制定
国家工商行政管理総局
2012 年制定
馳名商標保護に関連する民事紛争案
件審査の法律適用の若干問題に関す
る解釈
商標の権利付与・権利確定に係わる行
政案件の審理における若干問題に関
する最高人民法院の意見
法律事務所の商標代理業務への従事
に関する管理弁法
新規小売または卸売役務の商標登録
出願関連事項にする通達
〔著作権関連〕
1990 年制定・2010
著作権法
全国人民代表大会
国際著作権条約の実施に関する規定
国務院
1992 年制定
作品自発登記試行弁法
国家版権局
1994 年制定
出版管理行政処罰実施弁法
ニュース出版総署
1997 年制定
文字作品出版報酬規定
国家版権局
1999 年制定
コンピューターネットワーク著作権
紛争案件の審理の法律適用の若干問
最高人民法院
年改正
2000 年制定・2006
年改正
題に関する解釈
コンピューターソフトウェア保護条
国務院
2001 年制定
例
2001 年制定・2011
出版管理条例
国務院
映画管理条例
国務院
2001 年制定
音楽映像製品管理条例
国務院
2001 年制定
著作権法実施条例
国務院
218
年改正
2002 年制定・2011
年改正
インターネット情報サービス管理弁
国務院
2002 年制定
法
ニュース出版総署、情報
インターネット出版暫定規定
産業部
2002 年制定
著作権民事紛争事件審理の法律適用
最高人民法院
2002 年制定
国家版権局
2002 年制定
著作権集団管理条例
国務院
2004 年制定
インターネット著作権行政保護弁法
国家版権局、情報産業部
2005 年制定
情報ネットワーク伝達権保護条例
国務院
2006 年制定
著作権行政処罰実施弁法
国家版権局
2009 年制定
著作権質権登記弁法
国家版権局
2010 年制定
集積回路配置設計保護条例
国務院
2001 年施行
集積回路配置設計保護条例実施細則
国家知識産権局
2001 年制定
集積回路配置設計行政執行法弁法
国家知識産権局
2001 年制定
最高人民法院
2001 年制定
不正競争防止法(反不正当競争法)
全国人民代表大会
1993 年制定
消費者権益保護法
全国人民代表大会
1993 年制定
製品品質法
全国人民代表大会
広告法
全国人民代表大会
の若干問題に関する最高裁判所の解
釈
コンピューターソフトウェア著作権
登録弁法
〔集積回路配置設計権関連〕
集積回路配置設計案件の審理作業の
展開に関する通知
〔不正競争関連〕
商業秘密侵害行為の禁止に関する若
国家工商行政管理総局
干規定
219
1993 年制定・2000
年改正
1994 年制定
1995 年制定・1998
年改正
知名商品特有の名称、包装、装飾の模
国家工商行政管理総局
1995 年制定
原産地表記管理規程
国家輸出入検索検疫局
2001 年制定
輸出入貨物原産地条例
国務院
2004 年制定
地理標識製品保護規定
国家品質技術監督局
2005 年制定
最高人民法院
2007 年施行
全国人民代表大会
2007 年制定
工商行政管理機関
2007 年制定
工商行政管理機関
2011 年制定
工商行政管理機関
2011 年制定
工商行政管理機関
2014 年制定
最高人民法院
2001 年制定
情報産業部
2004 年制定
倣の不正競争行為の禁止に関する若
干規定
不正競争民事案件の審理の法律適用
の若干問題に関する解釈
中華人民共和国独占禁止法
「傍名牌」の不正競争行為を打撃する
特別法執行行動の展開に関する通達
独占協議行為の禁止についての規定
市場の支配的地位の濫用行為の禁止
についての規定
インターネット商品取引管理弁法
〔 ド メ イ ン ネ ―ム 関 連 〕
コンピュータネットワークドメイン
ネーム民事紛争案件の審理の法律適
用の若干問題に関する解釈
インターネットドメインネーム管理
弁法
中国インターネット情報センタード
中国インターネット情
メインネーム紛争解決弁法
報センター
2006 年制定
〔科学技術契約関連〕
1993 年制定・2007
科学技術進歩法
全国人民代表大会
契約法
全国人民代表大会
1999 年制定
高等学校知的財産権保護管理規定
教育部
1999 年制定
国家科学技術奨励条例
国務院
技術契約認定登録管理弁法
科学技術部・財政部・国
220
年改正
1999 年制定・2003
年改正
2000 年制定
家税務総局
衛生部
2000 年制定
最高人民法院
2001 年制定
科学技術部
2001 年制定
科学技術部・財政部
2002 年制定
科学技術普及法
全国人民代表大会
2002 年制定
中小企業促進法
全国人民代表大会
2002 年制定
最高人民法院
2004 年制定
科学技術部
2006 年制定
衛生知的財産権保護管理規定
全国法院知的財産権審判作業会議の
技術契約紛争案件の審理の若干問題
に関する要約
技術契約認定規則
国家科学研究計画プロジェクト研究
成果の知的財産権管理の若干問題の
規定に関する通知
技術契約紛争事件審理の法律適用に
おける若干問題に関する解釈
国際科技協力事業の知的財産権管理
に関する暫定規定
国家科技重大特定知的財産権管理の
暫定規定
科学技術部、財政部、国
家知識産権局、国家発展
2010 年制定
と改革委員会
〔技術輸出入関連〕
1994 年制定・2004
対外貿易法
全国人民代表大会
技術輸出入管理条例
国務院
2001 年制定
輸出入貨物原産地条例
国務院
2004 年制定
輸出入商品検査法実施条例
国務院
2005 年制定
技術輸出入契約登録管理弁法
対外経済貿易合作部
2009 年制定
対外経済貿易合作部・科
輸出禁止輸出制限技術管理弁法
学技術部
年改正
2009 年制定
〔企業名称関連〕
企業名称登記管理規定
国家工商行政管理総局
221
1991 年制定・2012
年改正
1994 年制定・2005
会社登記管理条例
国務院
企業名称登記管理実施弁法
国家工商行政管理総局
企業登記手続き規定
国家工商行政管理総局
2004 年制定
国家工商行政管理総局
1999 年制定
商標と企業名称における若干の問題
年改正
1999 年制定・2005
年改正
解決に関する意見
〔税関保護〕
1994 年制定・2004
中国対外貿易法
全国人民代表大会
知的財産権税関保護条例
国務院
税関行政処罰実施条例
国務院
2004 年制定
公安部・税関総署
2006 年制定
税関総署
2007 年制定
中華人民共和国税関行政再審弁法
税関総署
2007 年制定
税関行政処罰案件処理手順規定
税関総署
2007 年制定
税関企業分類管理弁法
税関総署
2008 年制定
税関輸出入貨物集中申告管理規定
税関総署
2008 年制定
税関総署
2009 年制定
全国人民代表大会
1996 年制定
国務院
2001 年制定
最高人民法院
2004 年制定
知的財産権の法律執行の協力の強化
年改正
2003 年制定・2010
年改正
に関する暫定規定
権利侵害貨物の法による没収·競売に
関する公告についての解説
知的財産権税関保護条例に関する実
施弁法
〔行政法〕
行政処罰法
行政法執行機関の犯罪建議案件移送
の規定
〔知的財産権一般〕
知的財産権の司法保護事業を更に強
222
化に関する最高人民法院の通知
知的財産権の審判事業を全面強化さ
せ、革新的な国家の建設に司法保障を
最高人民法院
2007 年制定
最高人民法院
2009 年制定
最高人民法院
2009 年制定
最高人民法院
2009 年制定
最高人民法院
2010 年制定
最高人民法院
2010 年制定
最高人民法院
2011 年制定
国家知識産権局
2012 年制定
最高人民法院
2012年制定
提供に関する最高人民法院の意見
直前の経済形勢で知的財産権の審判
は整体局面に奉仕する若干問題に関
する意見
国家知的財産戦略の徹底実施におけ
る若干問題に関する意見
専利、商標等の権利付与、権利確定を
めぐる知的財産行政案件の審理業務
分担に関する規定
末端人民法院の第一審知的財産権民
事案件管轄標準の発行に関する通知
地方各級人民法院の第一審知的財産
権民事案件管轄標準の調整に関する
通知
「知的財産権裁判の機能を十分に発
揮させ、社会主義文化の大きな発展・
繁栄を推進し経済の自主的協調的発
展を促進する上での若干の問題に関
する意見」配布の通達
戦略的な新興産業の知的財産権事業
を強化に関する国家知識産権局の若
干意見
「裁判の機能を十分に発揮させ、科技
体制の深化改革及び国家創造体系の
加速建設のため司法保障を提供する
意見」の配布
223
知的財産権サービス業の育成と発展
国家知識産権局
2012年制定
最高人民法院
2013年制定
最高人民法院
2013年制定
相続法
全国人民代表大会
1985 年制定
民法通則
全国人民代表大会
1986 年制定
最高人民法院
1988 年制定
担保法
全国人民代表大会
1995 年制定
契約法
全国人民代表大会
1999 年制定
最高人民法院
1999 年制定
最高人民法院
2000 年制定
物権法
全国人民代表大会
2007 年制定
権利侵害責任法
全国人民代表大会
2010 年制定
の加速に関する指導的意見
最高人民法院による「人民法院のイン
ターネット上での裁判文書の公開に
関する規定」
最高人民法院による「信用喪失被執行
者の名簿情報の公表に関する最高人
民法院の若干規定」
〔一般民商法〕
民法通則の執行貫徹の関する若干問
題に関する意見(試行)
契約法の適用の若干問題に関する解
釈(一)
担保法の適用の若干問題に関する解
釈
〔訴訟法〕
1979 年制定・1996
刑事訴訟法
全国人民代表大会
年改正、2013 年改
正
行政訴訟法
全国人民代表大会
1989 年制定
1991 年制定・2007
民事訴訟法
全国人民代表大会
年改正・2012 年改
正
仲裁法
全国人民代表大会
224
1994 年制定
行政復議法
仲裁法の適用の若干の問題に関する
全国人民代表大会
1999 年制定
最高人民法院
2006 年制定
最高人民法院
2012 年制定
解釈
刑事訴訟法の適用に関する解釈
〔刑事法〕
刑法
違法出版物刑事案件審理の具体的法
全国人民代表大会
最高人民法院
1979 年制定・1997
年改正
1998 年制定
律適用の若干問題に関する解釈
知的財産権刑事案件の法律の具体的
最高人民法院・最高人民
適用の若干問題に関する解釈
検察院
知的財産権侵害の刑事案件の法律適
用の具体的適用の若干問題に関する
最高人民法院・最高人民
検察院
2004 年制定
2007 年制定
解釈(2)
公安機関の管轄する刑事案件の立件
最高人民検察院・公安部
2008 年制定
訴追基準に関する規定
模倣薬品及び不良薬品の生産、販売に
関わる刑事案件における法律の具体
最高人民法院・最高人民
検察院
2009 年制定
的な適用についての若干問題の解釈
公安機関の管轄する刑事案件の立件
最高人民検察院・公安部
2010 年制定
訴追基準に関する規定(2)
知的財産権侵害刑事事件の処理にお
ける法律適用の若干問題に関する意
最高人民法院・最高人民
検察院・公安部・司法部
2011 年制定
見
最高人民法院、最高人民検察院、公安
部、国家安全部、司法部、全国人民代
最高人民法院、最高人民
検察院、公安部、国家安
表 大 会 常 務 委 員 会 法 制 工 作 委 員 会 全部、司法部、全国人民
代表大会常務委員会法
刑事訴訟法の実施における若干の問
制工作委員会
題に関する規定
225
2012 年制定
〔その他〕
2007 年制定、2012
労働契約法
全国人民代表大会
労働契約法実施条例
国務院
2008 年制定
最高人民法院
2001 年制定
最高人民法院
2006 年制定
最高人民法院
2010 年制定
最高人民法院
2012 年制定
労働紛争調解仲裁法
全国人民代表大会
2007 年制定
無形文化遺産法
全国人民代表大会
2011 年制定
最高人民法院
2012年制定
最高人民法院
2012年制定
労働紛争事件の審理における法律適
年改正
用の若干問題に関する解釈
労働紛争事件の審理における法律適
用の若干問題に関する解釈(二)
労働紛争事件の審理における法律適
用の若干問題に関する解釈(三)
労働紛争事件の審理における法律適
用の若干問題に関する解釈(四)
独占行為に起因する民事紛争事件の
審理における応用法律の若干問題に
関する規定
情報ネットワークの伝播権を侵害す
る民事紛争事件の審理における適用
法律の若干問題に関する規定
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[著者] 北京林達劉知識産権代理事務所 [発行] ジェトロ北京事務所 知識産権部 TEL: +86-10-6528-2781 FAX: +86-10-6528-2782 2014 年 12 月発行 禁無断転載 【免責条項】 本レポートで提供している情報は、ご利用される方のご判断・責任においてご使用ください。
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