FP_2015-02-01.docx 欧州のフレームワーク・プログラム

FP_2015-02-01.docx
欧州のフレームワーク・プログラム FP7・Horizon 2020 と日欧連携
市岡
利康
日欧産業協力センター
〒108-0072 東京都港区白金 1-27-6 白金高輪ステーションビル 4F
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以下の文章は、この書類が書かれた時点での FP7、Horizon 2020 に関する情報をまとめたも
のであり、ヘッダーに書かれている FP_yyyy-mm-dd.docx の書式に従って作成日が示されて
いる。なお、データや記述の正確性には注意を払っているが、欧州委員会や日本政府の正式見
解を示したものではなく、むしろ日欧連携促進のJ-BILAT/JEUPISTEプロジェクトの活動を通じ
て収集したものを広く知って頂くため、形式にはあまりこだわらずに記述したものとして理解
していただきたい。
1.
第7次研究・技術開発とその成果のデモのためのフレームワークプログラム(FP7)
欧州では、1984年からフレームワーク・プログラム(Framework Programme; FP)その他
の仕組みを通じ、分野や努力の分裂や重複を避け、欧州全体として研究開発を支援し、競争力
強 化 を 行 っ て き た 。 2013年 ま で 7年 間 に 渡 っ て 実 施 さ れ た 第 7次 フ レ ー ム ワ ー ク ・ プ ロ グ ラ ム
(FP7)は、その間、長引く経済危機から欧州連合加盟各国が科学・技術予算を減らす等の逆風
1
にも見舞われたが、FP7そのものの年次予算は反対に増加を続け 、最終的に558億ユーロ、2014
年9月時点の為替レートで約8兆円弱が投入され(2012年、2013年あたりの公募に基づくプロジ
ェクトの何割かは2017-2018まで活動する)、科学・技術振興に於ける存在感を増してきた。
FP7 には、EU 加盟国及び、FP7 に関して資金拠出他により EU 加盟国と同等の扱いを受け
2
た関連国・地域(2012年1月時点で14 、その後クロアチアはEUに加盟)の機関が無条件に参加
できた上、最低条件さえ充たされれば加えてEUの経済制裁を受けていない全世界の国や地域に
参加を開放しており、地理的にみても包括的なものであった。得られる知見は国や地域を問わ
ず歓迎する姿勢を見せると共に、また小国がひしめく欧州で培われたバランス感覚と戦略立案
能力を武器に、標準化その他での強みを保ちたいという意図も窺える。
FP7 は以下に述べる5つの独立したプログラムから成っており、対象領域は非常に多岐に渡
ったが、特に競争化段階前の高いリスクを分け合いながら共同で研究開発を行い、将来の商品
化・産業化につなげる事、一国で解決のできない気候変動のような課題に取り組む事が目標で
ある。全体の管轄は欧州委員会の研究・イノベーション総局であり、分野により企業産業総局
や通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局(前 情報社会・メディア総局)も関わっていた。
1
2
http://ec.europa.eu/research/fp7/index_en.cfm?pg=budget
アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン、クロアチア、トルコ、アルバニア、マケド
ニア、モンテネグロ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、イスラエル、フェロー諸島、モルドバ
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1.1. 「協力(Cooperation)」プログラム
次に挙げる10の重点領域及び学際・分野間研究へのトップダウン方式による助成を行い、研
究開発やコーディネーション、ネットワーキング他を支援した。予算規模 324.13 億ユーロの、
最大のプログラムであった。
1. 保健
2. 食料・農業・漁業・バイオテクノロジー (KBBE)
3. 情報通信技術 (ICT)
4. ナノ科学及びナノテクノロジー・材料及び新生産技術 (NMP)
5. エネルギー(原子力を除く)
6. 環境(気候変動を含む)
7. 運輸(航空を含む)
8. 社会経済科学及び人文 (SSH)
9. 宇宙
10. 安全
このプログラム中で支援されている大半の仕組は産学連携を念頭に置いたものと考えて良い。
FP7 では実際の産業化・商品化までは支援をされていないため、知的財産の扱いその他でのシ
ビアな競争や利害関係の対立が起こることは比較的少ないが、欧州各国の納税者の税金により
賄われている研究開発の枠組として域内産業の競争力強化や雇用創出は当然重視されており、
知的財産の創出や保護も当然重要である。FP7 プロジェクトに於いては、例えば特許の申請な
ども必要経費として計上することが出来る。
この他に、産業界が主導して独自の助成を行う Joint Technology Initiative (JTI) やJTI に
比べて柔軟な仕組を持ち、JTI に組み込むほど成熟していないテーマに関し、産業界を有効に
取り組める機構として注目される官民協力の仕組 PPP (公募が Cooperation プログラム中の
重点領域を横断するものとして出された)などが存在した。
1.2. 「基盤整備・競争力強化(Capacity)」プログラム
知識集約型経済の実現を目指し、ヨーロッパの研究能力及び知識基盤の整備を支援した。以
下の7つの領域があり、やはりトップダウン方式による助成がなされた。予算40.97億ユーロ。
1.
研究インフラストラクチャー
2.
中小企業が恩恵を受けられるような研究
3.
地域における知識集約
4.
収束地域の研究潜在能力開発
5.
社会の中の科学
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6.
地域の研究政策の一貫した開発支援
7.
国際協力
たとえば、この中の「中小企業が恩恵を受けられるような研究」では、欧州の中小企業のイ
ノベーション能力を高め、研究委託もしくは自身の研究開発の補助をしたり、ネットワークを
広たり、欧州レベルの協同研究開発により研究とイノベーションの間のギャップを縮めたりす
る支援を通じ、新たな技術に基づいた製品開発に寄与する事が目的とされている。特に、中小
企業に研究委託の場を提供するタイプの公募は競争率も高く、関心の高さを示したようである。
また、「地域における知識集約(Regions of knowledge)」の基では、欧州の各地域の研究
開発能力の強化、特に研究開発に重点を置いたクラスター(research-driven clusters)への支
援[4]を行っている。この仕組を用い、研究開発機関、企業、政策決定者らが実際のユーザー、
実際の街の中で緊密に連携を取り研究開発を進める Living Labs 形成の支援も行われている。
1.3. 「アイディア・構想(Ideas)」プログラム
欧州研究評議会(European Research Council; ERC)が所管、フロンティア研究に対しボト
ムアップ方式で助成。国籍・分野(但し原子力以外)を問わずハイリスク・ハイリターンの基
礎研究を欧州で行う第一級の研究者を支援している。予算は 75.10 億ユーロが当てられた。
このプログラムはFP7で初めて導入され、これまで汎欧州レベルでは余り助成のされて来なか
った基礎・先端研究に関した支援を行っており、研究機関同士の優秀な頭脳獲得競争を誘発し
て現場の活性化に非常な寄与をしたものである。この中には2011年3月に導入された新たな仕組
としてProof of Concept (PoC) というものもあり、ERC の助成受給者を対象に、アイディアの
実証(実験、試作機製作、知財戦略の策定)により、そのアイディアが近い将来市場に出しう
る物かどうかを見極め、今後の研究開発方針を策定する機会も用意されている。ベンチャー起
業家や新たな技術に投資をしようと考えている企業に対し、アイディアをパッケージ化して提
示し、商品化の初期過程を担ってもらえるようにするのが狙いであり、このプログラムでも遠
い将来の実用化が念頭に置かれている事が窺える。この20-30年で欧州が打ち出した科学・技術
プログラムでも最も成功したものというのが専らの評価である。
1.4. 「人材(People)」プログラム
主にポストドクター以上の研究者を対象とし、マリー・キュリーアクションを中心とした人
材交流とキャリア形成の支援。分野は問われないが原子力は除く。個人むけフェローシップ、
研究開発機関のコンソーシアム向けのプログラム、産学連携支援、助成機関向けの共同助成タ
イプなどいろいろな仕組が存在し、また狙いもキャリア形成や生涯学習から知識移転・人材交
流、ネットワークの形成まで様々であった。予算は 47.50 億ユーロ。
上記の4つのプログラムに加え、公募等によらず欧州委員会が直接出資をする Joint Research
Centre (JRC) の非原子力分野が存在し、17.51億ユーロの予算が割り当てられていた。
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1.5. 「欧州原子力共同体(EURATOM)」プログラム
核エネルギーの平和的利用のため、原子核科学やトレーニング、放射性廃棄物の管理や国際
熱核融合実験炉(ITER)を支援。欧州原子力共同体条約に基づくという法的根拠の違いにより、
他より短い2011年までの5年間のプログラムであったが、その後2013年まで延長された。JRC
の原子力分野を含む。2011年までの予算は 27.51 億ユーロであった。
なお、これらの下に公募されるプロジェクトの殆どに、日本の民間を含む研究開発機関も直
接もしくは欧州の拠点を通じて参加が可能であった。日本の機関が助成金を取得することは難
しいのだが、共同研究開発や共同シンポジウム等を通じて一度に多数の最先端の研究者や学生
等とのネットワークが形成できる、日本ではアクセスの出来ないデータベースやデバイスが利
用出来る場合がある、汎欧州の大規模研究インフラや制度での協力が可能、国際標準・ルール
の創出につながりやすいなどの利点があり、また日本側のマッチングファンドも徐々に得られ
るようになってきている。
日本からの FP7 への参加状況は以下の通りである。
n
共同研究開発や支援プロジェクトへの述べ参加数が 99 プロジェクト、コンソーシアムで
の人材育成や交流(マリーキュリーアクション)への参加が34あった(2014年12月時点の
データ)。また、日EU共同公募や CONCERT-Japan プロジェクトによる多極間助成に基
づくプロジェクトが26程存在する。
n
Six FP7 Monitoring Report 2012
によると、2007年から2012年までの日本機関が加わ
った応募案件の採択率(契約交渉に進んだ案件数に基づく)は 138 プロジェクトで 30.3%。
これは、EU加盟国の平均 21.7% に比べて有為に高く、ニュージーランドの 39.1% に次
いで EUと科学技術協力協定を結ぶ第三国の中で2番目であった。
n
日本は FP7 において自動的な助成対象ではなかったが、同報告書によると、上記のプロジ
ェクトで日本は欧州委員会から 670 万ユーロの助成を獲得。
n
この他に、個人向けグラントとして ERCによる優れた才能への助成を 14名が受けている
他、マリーキュリーフェローとして38名が欧州に滞在した。
2.
研究とイノベーションのためのフレームワークプログラム Horizon 2020 (2014-2020)
さて、経済危機からの脱却のために、欧州は2010年の6月に、2020年までの10年間になすべき
こ と を 明 記 し た 新 成 長 戦 略 Europe2020 を 発 表 し 、 賢 い 成 長 (Smart growth) ・ 持 続 的 成 長
(Sustainable growth)・包括的成長 (Inclusive growth)を遂げるとしてイノベーション連合・デ
3
ジタル基本方針・省資源の欧州等、7つのイニシアチブを打ち出した 。こうした戦略の内、特
にイノベーションに富む社会の構築とそれによる付加価値の高いビジネスの展開により賢い成
3
欧州委員会の書類の日本語訳として、NEDO 海外レポート NO.1061 を参照。
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長 を 遂 げ る 事 を 目 標 と す る イ ノ ベ ー シ ョ ン 連 合 を 実 施 す る 手 段 が 、 2014 年 か ら 開 始 さ れ た
4
Horizon 2020 である 。FP7、それに並行して実施されFP7での研究開発の成果を受けてその産業
化 を 支 援 し て き た イ ノ ベ ー シ ョ ン と 競 争 力 強 化 の た め の 枠 組 The Competitiveness and
Innovation Framework Programme (CIP) の内のイノベーション部分、及び高等教育・研究開
発・イノベーションの「知のトライアングル」の確立による知識集約型経済とイノベーション力の強
化を狙い、特に起業家教育に力を入れている European Institute of Innovation and Technology
(EIT) を一つの傘下に置き、研究開発からイノベーションまでを継ぎ目なく、教育の一部まで含めて
より包括的に支援するものである。
Horizon 2020 では次の 3 つの重点(+欧州委員会が直接管轄する Joint Research Centre;
JRC; 別プログラムとしての原子力)に沿ったプログラム作りがなされている。予算総額は約
700 億ユーロ、インフレの効果を入れた最終額は 800 億ユーロ近くを見込んでおり、EU の予
算規模がその歴史の中で(経済危機による各国拠出金の減少により)初めて縮小され、各分野
の予算も減額されたのに比して科学・技術分野には大幅な増加を許した事は大きな注目に値す
る。また、引き続きプログラムを全世界に解放していることも重要であり、オープンサイエン
ス・オープンイノベーションの流れの中、いち早く世界中の知見・技術にアクセスすると共に、
標準化やプラットフォーム作りでの欧州の優位性を確率する狙いがあると思われる。
I 科学的卓越性
FP7のアイディア分野(欧州研究評議会ERCによる優れた才能への助成)やICT分野の未来科学
技術(FET)、研究インフラの整備等。予算 244.4 億ユーロ(非核分野全体の31.7%)。
II 産業に於けるリーダーシップ
中小企業によるイノベーション、ICT基盤の整備、ナノ・物質科学、産業技術、バイオテクノロ
ジー、宇宙等。予算 170.2 億ユーロ(非核分野全体の22.1%)。
III 社会的課題への取組
医療、エネルギー、環境、ICTアプリケーション、交通等。予算の3%程はEITに。予算 296.8 億
ユーロ(非核分野全体の38.5%)。なお、EUが社会的課題として挙げているのは以下の7つ。
a. 生涯に渡る健康と福祉の増進
b. 安全、健康的かつ高品質の食料及びその他の製品の十分な供給
c. 高信頼性かつ世間に受け入れられ、持続可能で競争力の高いエネルギーシステムへの移行
d. 環境に優しく、安全で継ぎ目のない欧州交通システムの達成
e. 資源及び水の効率的な利用と気候変動に対する回復力に富む経済及び社会の達成
f. 包括的、イノベーティブかつ思慮深い欧州社会に向けた解決法提供と欧州の相互理解促進
g. 安全な欧州社会の育成と自由と正義の気風の増進
原子力の平和利用(EURATOM)
4
http://ec.europa.eu/research/horizon2020/
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核融合や放射線防護等。法律根拠の違いから EURATOM は2018年までの5年プログラムとし
て立ち上げられ、予算 16.0 億ユーロが割り当てられている。
制度としては、Horizon 2020 では官民連携(PPP)のさらなる促進や中小企業向けのプログ
ラムの導入、また助成だけでなく、賞や融資、公共調達など、様々な支援の仕組みを導入して
いる一方、助成の割合の統一化や公募締切からプロジェクト成立までの期間を従来より 100 日
短縮して 8 ヶ月とするなど、プログラムの簡略化の努力が見て取れる。なお、プロジェクトの
成立を早めるために、FP7で存在した「契約交渉」という概念を無くしてしまったため、応募の
時点で(場合によってはビジネスプランも含めた)より詳細な案件提出が求められ、契約の時
点で書き換える事ができなくなったことには注意が必要である。
なお、Horizon 2020 に関し、日本での情報提供を行うものとして、以下があるので是非とも
ご活用頂きたい。
l
ナショナルコンタクトポイント(日欧産業協力センターが2013年11月に指名され、2014
年度より活動を本格化させている)
l
日欧連携強化に関する FP7 国際協力プロジェクト、Japan-EU Partnership in Innovation,
5
Science and TEchnology (JEUPISTE ; 情報提供セミナーやヘルプデスク運営等)
l
在日欧州研究者や欧州との研究開発協力に興味を持つ研究者向けのネットワーキングや助
成・雇用情報の提供を行っている EURAXESS Links Japan
l
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GALILEO 対応の受信機やアプリケーション開発に於ける欧州・アジア産業協力を促進する
7
GNSS.asia プロジェクト(2014年6月まで、その後、2015年1月より Horizon 2020 プロ
ジェクトとして第二期がスタートしている)
5
6
7
http://www.jeupiste.eu
http://ec.europa.eu/euraxess/index.cfm/links/eurRes/japan
http://www.gnss.asia