H26 年度文部科学省科学技術人材育成補助事業 女性研究者研究活動支援事業(連携型) 祭祀植物の利用と地域景観形成に関する研究 氏名 大野 朋子 所属 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 キーワード 生物文化多様性,環境共生,植物利用,地域景観 研究内容 地域・集落固有の人文景観を形成する重要な要素の一つである植物は、食物や生活材を供給 するだけでなく、地域、民族文化活動にも必要不可欠な資源として古来より利用されてきた。 人と植物利用の関係は、生活様式の変化や物流の発達によって大きく変わりつつあるが、祭祀 活動のような地域・民族のアイデンティティを強く示すものに利用される植物(祭祀植物)は、 現在も特別な植物として栽培、維持されている場合が多い。このことに着目し、地域・民族文 化に伴う植物利用の違いが、人間生活や住居周辺における植物の植栽配置や種の選択を規定 し、地域固有の景観が形成されていることを多目的資源植物であるタケ類をモデルとして民族 植物学的フィールド調査によって考察、実証してきた。 タイ北部の4つの少数民族(アカ族、リス族、ラフ族、モン族)はタケ製の伝統楽器(笙) を持っており、モン族だけが温帯性のタケを使用する。この温帯性のタケは、タイ北部には自 生せず、人の手によって居住地周辺に栽培されていた。他の民族と違い、モン族にとって笙と は、単なる楽器ではなく、葬儀に不可欠なものであり、材料となる温帯性のタケも特別重要な ものとして、栽培行為にともなって供給を安定的にしていた。このように葬儀や祭祀にかかわ る植物は、利用する種が厳密に選択され、欠かすことのできない存在として、維持されている とともに、民族移動のような人間活動の広がりとともに伝播されていることをタケ類を通して 確認した。これらは、信仰と植物がむすびついた事象であり、これらの植物の種や植栽位置を 確認し、祭祀活動との関係さらに詳細に明らかにする必要がある。 研究の応用分野・アピールポイント 本研究によって、人間の文化的活動が植物の維持機構に果たす役割が明らかになるため、地 域固有の景観の成り立ちが実証できる。さらに世界中で問題となっている外来種の導入や定着 についても論考できるようになり、地域の植生景観のコントロールに重要な情報を提供できる ようになるため、戦略的な都市計画や地域景観資源の保全にも貢献できる。
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