パンフレット(1890KB)

第 320 回企画展示
「三色旗」表紙シリーズ企画
会期:平成 27 年 8 月 19 日(水) ~ 8 月 29 日(土)
会場:慶應義塾図書館 1 階展示室
展示にあたって
昨年に引き続き「三色旗」
(慶應義塾大学通信教育補助教材、隔月発行)表紙
シリーズ企画の第 2 弾「本の歴史 Part Ⅱ」と、昨秋に開催した第 26 回慶應
義塾図書館貴重書展示会ダイジェストの 2 部構成で図書館のお宝ともいえる貴
重書の数々をご紹介します。
「本の歴史 Part Ⅱ」では、
「三色旗」2014 年 4 月号より 2 年計画で連載中
の表紙シリーズ「本の歴史:死者の書からグーテンベルク聖書まで」で紹介し
ている資料を展示します。このシリーズは、人類の長い歴史の中で、文字を使
った記録が、古くは骨や石、粘土、木、金属、布、動物の皮といったものから、
現代でも使われている紙に至るまで、どのような媒体を経て現在の「本」の形
態につながっていったかを図書館が所蔵する資料を使って振り返る企画です。
今回は今年度掲載される 6 点をご紹介します。
「貴重書展示会ダイジェスト」では、昨年度の貴重書展示会「慶應義塾の王
朝物語:源氏物語を中心として」に出品した資料の一部を展示します。
『源氏物
語』を中心に王朝(平安)時代に成立した物語の絵入り本や注釈書、梗概書(物
語の概要を記した書)などの資料をご紹介します。平安時代の物語文学の多様
性や、これらの古典籍の形態、筆跡、挿絵の美しさをお楽しみください。
和書、漢籍、洋書と広く洋の東西にわたる資料が出品されるとともに、印刷
本や写本、形態も巻子本から大型本まで、実にバラエティに富んだ資料が展示
されます。慶應義塾図書館が所蔵する資料の幅の広さを知っていただくととも
に、貴重書原本が持つ本物の魅力を感じていただければ幸いです。
慶應義塾大学三田メディアセンター展示委員会
<展示ケース 1>
『妙法蓮華経』8 巻 存巻 1 方便品第 2 断簡 姚秦・釈鳩摩羅什訳 平安末刊 巻子装 1 軸
[132X@47@1]
『法華経』は大乗仏教を代表する経典で何度か漢訳されていますが、5 世紀初めに中国
西域出身の訳経僧・鳩摩羅什(344~413)が『妙法蓮華経』として訳出すると、以後それに
よって伝播しました。日本にも仏教伝来とともにもたらされ、平安初期には最澄が天台宗
を伝えて『法華経』への信仰も強まりました。平安中期には貴族が先祖や自らの滅罪供養
のために経典を大量に印刷して供養する「摺り経供養」を写経に代わって行うようになり、
藤原道長の日記『御堂関白記』にも中宮出産のために 1,000 部の『妙法蓮華経』を印刷し
たとあります。平安末期の版本には写経さながらの文字と淡い墨付きに特徴があります。
(「三色旗」2015 年 4 月号表紙掲載)
『論語』 10 巻 泉南 阿佐井野 天文 2 年跋刊(1533) 集解本
1冊
[132X@160@1]
2
3 世紀に渡来した『論語』は、一部の知識階級の秘伝的存在でしたが、学問機運が高ま
った鎌倉・室町期になると学僧や武士にも広く写本で浸透しました。出版の発達と時代の
要求により『論語』が初めて印刷されたのは南北朝期の正平年間の事です。2回目の印刷
は室町期の天文年間で、堺の阿佐井野氏が学者の清原宣賢から清原家の伝本を借り受けて
刊行しました。前者は「正平版」
、後者は「天文版」と呼ばれ、我が国『論語』出版物の双
璧をなします。大正期まで印刷を重ねた天文版の版木は戦禍で失われ、室町期の初印本は
現存を疑われたほど稀な存在です。今回表紙の天文版『論語』はこの幻の初印本であり、
当時の印刷技術や版様式などを知る上で大変貴重な資料です。
(「三色旗」2015 年 6 月号表紙掲載)
『小倉山百人一首』 [藤原定家]撰
[江戸時代前期]写
奈良絵本 1 冊
[132X@172@1]
「百人一首」は 100 人の歌人から一首ずつ秀歌を集めたもので、その成立には諸説あり
ますが、鎌倉時代前期の歌人として著名な藤原定家が、京都嵯峨小倉山にあった岳父・宇
都宮頼綱の別荘の障子に貼る色紙用に撰んだというのが定説となっています。
「小倉百人一
首」
「小倉山庄色紙和歌」という名で呼ばれるのもそのためです。本書は、繊細な筆致と鮮
やかな彩色で描かれた歌人の肖像(歌仙絵)が挿絵となっている写本で、室町時代末期か
ら江戸時代前期に作成された絵入りの写本「奈良絵本」の系統に属するものです。書体は
寛永の三筆と称される昭乗を祖とし、流麗な仮名が特徴の松花堂流、金糸で文様を織り出
した金襴表紙、金色の見返しなど、装丁も美しい資料です。
(「三色旗」2015 年 8 月号表紙掲載)
3
Cicero, Marcus Tullius. De finibus bonorum et malorum. [Florence], ca. 1450-1460
(キケロ『善と悪の究極について』 フィレンツェ 1450-60 年頃写)
[120X@1149@2]
キケロの『善と悪の究極について』という哲学的対話篇の写本です。写本は、それが写
された地域や時代によって様式が異なります。写真の冒頭ページの装飾は、15 世紀後半に
フィレンツェで活躍し、メディチ家のために多くの写本の装飾を手がけたフランチェス
コ・ダントーニオ・デル・ケリコの様式とされています。本文にあるたくさんの書き込み
は、当時のフィレンツェの古典学者の自筆です。ルネサンス期には、散逸していた古典文
学の写本を系統的に整理し、それをもとに可能なかぎり原典どおりにテキストを復元する
原典研究が行われ、キケロはそうした原典研究の中心的な素材でした。本書はまさにイタ
リア・ルネサンスの古典研究の姿を今に伝える資料です。
(「三色旗」2015 年 10 月号表紙掲載予定)
4
[Book of Hours]. Langres, ca. 1480
([『ラテン語時祷書』] ラングル[フランス]、1480 年頃写)
[120X@1338@1]
時祷書とは、修道院で行われる複雑な祈祷を簡略化した、一般キリスト教徒向けの毎日・
毎年のお祈りの手引書です。教会の暦と福音書の抜粋・詩篇などで構成されますが、注文
主がお気に入りの聖人を選んだりするため、時祷書の内容は様々です。上流階級の人々は
豪華な装飾の時祷書を持ち歩き、富や権力を誇示しました。本書はフランス中東部の都市
ラングルで作られたローマ式典礼の時祷書で、注文主は装飾の帯に書かれた Anthoine
Bruillat と考えられます。竜退治の聖ゲオルギウス、モンマルトルで打ち落とされた自分
の首を持って説教に歩いた聖ディオニシウス、キリストを背負う聖クリストポルス、鷲を
連れた福音史家聖ヨハネが細密に描かれた美しい写本です。
(「三色旗」2015 年 12 月号表紙掲載予定)
5
Pelplińskiego egzemplarza Biblii Gutenberga. Pelplin, 2004. 2 v.
Full-color facsimile of the Gutenberg Bible printed in Mainz ca. 1454-1455.
(グーテンベルク聖書 ペルプリン神学校図書館所蔵本 ファクシミリ ポーランド)
[142X@106@2@1~2]
「さまよえるグーテンベルク聖書」として知られる
ペルプリン本聖書のファクシミリです。第二次世界大
戦においてもドイツ・ナチスの手を逃れ、この貴重な
書物を守ろうとした人々の決死の努力によってパリ、
ロンドン、グラスゴー、さらには大西洋を越えて遠く
カナダ・オタワまで渡り、戦後ソ連の後押しで樹立さ
れたポーランド共産党政府の追跡をもかいくぐって
1959 年ようやく 20 年ぶりにペルプリン神学校に里
帰りしたのでした。
(富田修二著『さまよえるグーテン
ベルク聖書』慶應義塾大学出版会 2002 年刊より)こうした経緯から、ポーランドではペ
ルプリン本『グーテンベルク聖書』は厚い信仰の対象になっています。2003 年、この聖
書の完全ファクシミリ版がペルプリン司教座印刷局《Bernardinum》によって企画され、
慶應義塾大学 HUMI プロジェクトが技術協力を行いました。
<参考>
Gutenberg 42 –line Bible. Mainz : Gutenberg, ca. 1455.
(グーテンベルク印行『42 行聖書』上巻 マインツ 1455 年頃)
グーテンベルク聖書は 1455 年頃にドイツ・
マインツのヨハネス・グーテンベルクが活版印
刷技術を用いて印刷した世界初の印刷聖書です。
ほとんどのページが 42 行の行組みであること
から「42 行聖書」とも呼ばれています。羊皮
紙に印刷されたものと紙に印刷されたものの 2
種類があり、当時約 180 部印刷されたと考えら
れていますが、現時点で確認されているものは
不完全なものも含めて 48 部です。慶應義塾図
書館はアジアで唯一、紙に印刷された上巻 1 冊
を所蔵しています。グーテンベルク聖書は印刷
後、ヨーロッパ各地で装飾師によって朱書きや
彩飾が施されました。それゆえ個々の作品は個
性豊かで、現存の聖書いずれをとっても一つと
して同じ物がありません。
(「三色旗」
2016 年 2 月号表紙掲載予定)
6
「ローマ帝国軍人の退役証明書」
ローマ
紀元 160 年頃
青銅
エジプト象形文字による「死者の書」
紀元前 600 年頃 木製
「大理石ラテン語碑文」
ローマ
紀元 100~200 年頃
ホワイ
ト・マーブル「大理石ラテン語碑文」
「ギリシャ語個人書簡」
紀元 2 世紀半ば
エジプト
パピルス
貝多羅葉本(ばいたらようほん)
[年代不明]
[製作地不明]
『無垢浄光大陀羅尼経』1 巻
塔
(百万塔陀羅尼)
附法隆寺百萬
唐釈彌陀山訳
7
第 320 回企画展示 「三色旗」表紙シリーズ企画 同時開催
第 26 回慶應義塾図書館貴重書展示会ダイジェスト
「 慶應義塾の王朝物語~源氏物語を中心として~ 」出品リスト
※個々の資料についている番号は、第 26 回慶應義塾図書館貴重書展示会(会期:2014 年 10 月
22 日~28 日、会場:丸善・日本橋店 3 階ギャラリー)において展示した時の展示番号です。
<展示ケース2>
1. 風葉和哥集 20 巻 存巻 11 伝池田綱政筆 [江戸前期]写 1 冊
4. 伊勢物語
伝飛鳥井雅康筆 [室町中期]写 綴葉装 1 帖
6. 伊勢物語小絵巻断簡 [江戸前期]写 84 紙
<展示ケース3>
7. 伊勢物語画帖
9. 大和物語 2 巻
[江戸前期]写 文政 4 年(1821)識語 袋綴改装折帖 1 帖
[近世初]写 2 冊
<展示ケース4>
13. 源氏物語 54 巻 [江戸初前期]写 綴葉装
54 帖
<展示ケース5>
16. 源氏物語「末摘花」 伝後京極良経筆 [鎌倉中期]写 綴葉装 1 帖
18. 源氏物語「宿木」断簡
伝藤原俊成筆 [鎌倉前期]写 掛軸 1 幅
35. 絵源氏 6 巻 欠巻 5 [江戸前期]写 巻子装 5 軸
36. 源氏物語[抄出] 2 巻 [江戸前期]写 [居初つな]筆画 特小奈良絵本 2 帖
<展示ケース6>
23. 源氏袖鏡
3 巻 〈源氏大鏡〉
26. 源氏ます鏡 3 巻
[宗祇]編
[江戸初期]写 3 冊
寛文 11 年(1671)刊 絵入 5 冊
<展示ケース7>
28. 紫明抄 10 巻 存巻 1 素寂著 [鎌倉末]写 綴葉装改装結び綴 1 帖
29. 源氏和秘抄 [室町後期]写
31. [源氏物語古注]
存末摘花
折紙綴葉装 有欠 1 帖
伝[浄弁]筆 [南北朝]写 綴葉装改装巻子装 1 軸
※貴重書展示会出品資料の詳細については、下記の図録をご参照ください。
『慶應義塾と王朝物語~源氏物語を中心として~』
(図書館 1 階メインカウンターにて 1 部 1,000 円で販売中です。展示室設置の見本も
ご覧いただけます。
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