NPO団体の組織基盤強化事例集

NPO団体の
組織基盤強化
事例集
より質の高い活動を目指し、
人材、資金、活動場所の悩みを解決するために、
スタッフみんなでやってみたこと
2015 年 7 月
サントリー・SCJ フクシマ…ススム…プロジェクト「子どもの場所づくり支援」
「NPO 団体の組織基盤強化事例集」について
サントリー・SCJ フクシマ ススム プロジェクト「子どもの場所づくり支援」とは
サントリー・SCJ フクシマ ススム プロジェクト(以下、フクシマ ススム)は、サントリーホールディングス株式会
社と公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)とが取り組む福島の子ども支援事業です。この事業の一
環として2014年1月から12月まで実施した「子どもの場所づくり支援」は、福島県で活動する7つの子ども支援団体と
協働で進める取り組みです。子どもたちの発達に欠かすことのできない「日常的な遊び場、居場所」の活動の質の向
上と持続的な運営のための組織基盤強化を支援し、さらなる子どもたちの成長環境の改善を目指しています。
活動の質の向上と組織基盤強化を目指した取り組み
「子どもの場所づくり支援」は、①資金・技術支援による活動の質の向上、②技術支援による運営強化、という2つ
の柱から成り立っているのが大きな特徴です。参加団体は、施設整備、職員の確保・育成、活動の質の向上のための
研修参加などを通じて、プログラムの課題解決に取り組み、同時に、資金調達や財務管理、広報などの弱点を強化
することで、持続的な運営を可能とするだけの組織基盤を強化しました。なお、組織基盤強化に関する技術支援は、
公益財団法人パブリックリソース財団(以下、PRF)が行いました。
この事例集について
この事例集は、「子どもの場所づくり支援」の前述2種類の支援のうち、組織基盤強化の技術支援を受けた6団体
の取り組みのハイライトを紹介したものです。「財政の安定化」、「事業収入の開拓」、「ファンドレイジング」、
「事業の立ち上げ」、「情報発信」、「中期計画の策定」など、多くのNPOがぶつかる課題を取り上げています。
この事例集が各地で活動するNPOのみなさまのお役に立つことを願っています。
各団体の組織基盤強化のメインテーマ
1 財政の安定化…
(NPO 法人 みんなのひろば) …………………………… P3-4
2 事業収入の開拓…
(NPO 法人 ココネット・マム) ………………………… P5-6
3 ファンドレイジング… (NPO 法人 子育て支援コミュニティ プチママン)……… P7-8
4 認可事業の立ち上げ… (NPO 法人 ふよう土 2100)……………………………… P9-10
1
5 情報発信…
(NPO 法人 ふれあいサポート館アトリエ) ………… P11-12
6 中期計画の策定…
(NPO 法人 ビーンズふくしま) ……………………… P13-14
組織基盤強化について
ミッションの達成に不可欠な活動の質の向上と組織基盤強化の両輪
高い問題意識と専門能力を持って日々の活動に取り組んでいるNPOがそのミッション(目的)を達成するために
は、十分な基礎体力が必要です。しかし、スタッフの人数が足りない、事業収入が低迷している、一部のスタッフに
過度な負担がかかっている、認知度が低いなど、悩みを抱えている団体は少なくありません。
質の高い活動を支える安定した組織力は、NPOが効果的・効率的にミッションを達成するためには不可欠な要素
です。しかし、この力を伸ばす取り組みが後回しにされがちであるのも事実。目の前の活動が優先されて、組織運営
の改善に腰を据えて取り組む時間的余裕がないこともありますが、さらには、組織課題の解決をはかるためのノウハ
ウや資金が不足していることがボトルネックとなっているのです。
組織基盤強化により子どもたちの育ちを長期的に支える
そこで、「子どもの場所づくり支援」では、主役である子どもの育ちを長期的に支えるには、活動の質の向上と組
織基盤の強化が必須要素であると考え、これら2つの課題に取り組むことにしました。
活動の質の向上の取り組みは、各団体が抱える課題や改善策をSCJと話し合い、協働計画を作り、資金支援、技術
協力を得ながら実践していきました。
一方、技術支援による運営強化については、事業の開始と同時に、SCJとPRFが、各団体を訪問し、十分に話し合っ
た上で、それぞれが取り組むべき組織基盤強化のテーマを決めました。各団体には、PRFの担当アドバイザーが毎月
訪問して、助言をしたり、議論のファシリテーションを行い、それぞれの課題解決に向けて、個別に支援しました。
また、2回の集合研修は、共通の運営課題解決に必要な知識やヒントを得たり、お互いの取り組みから学び合ったり
する場となりました。
そして、1年間の活動の結果、参加団体は「自主財源が増えた」「体制が整い活動の質が高まった」「理念やビジョ
ンが明確になった」「ミッションを共有し、外に発信できるようになった」「組織が真に取り組むべき課題を見つけ
ることができた」など、大きな成果を実感しています。
「子どもの場所づくり支援」組織基盤強化のための技術支援の流れ
2014 3 月
年
【テーマ設定】
各団体が取り組むべき
テーマと技術支援の内
容、および目標を設定
4月
【技術支援の開始】
月 1 回のアドバイザー
派遣開始
9月
【集合研修】
テーマ:「理事会の運
営」「チームマネジメ
ントの手法」「子ども
にとって安心・安全な
組織・事業づくり」
12 月
【技術支援終了】
2015
年
2月
【報告会】
組織がどう変わった
か、「子どもの遊び場・
居場所」がどう変わっ
たか、等について各団
体より報告
アドバイザー:山崎富一、鷹野秀征、槇ひさ恵、田口由紀絵(いずれもPRF所属)
2
1
財政の安定化
個人のがんばりから、組織的な運営へ
●…伊達市初のフリースクール
ススム)の支援により女性スタッフを1名雇用しました。
NPO法人みんなのひろばは、学校に行っていない子ど
その結果、人員数の増加というだけでなく、男性スタッ
もを主な対象とした学びの場です。不登校に悩む子ども
フだけでは難しい、女子への対応が可能になりました。
や保護者と一緒に悩み、考え、寄り添うサポートをする
さらに、スタッフを1名増員できたおかげで、それまで
フリースクールとして、2006年にスタートしました。
活動に掛かりきりであった理事長が、組織運営に時間を
みんなのひろばは、開設以来、スタッフも兼ねた理事
割くことができるようになりました。さっそくアドバイ
長が一人で日々の運営を担っていました。平日は10人前
ザーの助言により、赤字体質を見直し、助成が終わって
後の子どもたちと過ごすのに加えて、自家用車で1日200
もスタッフを雇い続けられるだけの組織体制をつくるこ
キロにも及ぶ送迎も毎日一人で行っていました。発達
とを目標に、「①事業収入の拡大」「②助成金の獲得」
障がいのある子どもたちもおり、もし一人の子どもにつ
を2つの柱として取り組むことを決めました。
きっきりになっている時に、緊急対応しなければならな
事業収入の拡大については、まず、フリースクールの
いような事態が発生したら…。もしスタッフが倒れるよ
利用料の改定から始めました。他のフリースクールの料
うなことにでもなったら…。ひろばそのものが立ち行か
金を調査したところ、ひろばの価格設定はほかと比べて
なくなります。まさに孤軍奮闘。志は高いものの、実態
非常に低いことが分かり、提供サービスを検証して価格
は個人のがんばりに頼る脆弱な組織体制でした。
を設定しなおしました。値上げについては、利用者の理
●…価格を見直し、助成金を獲得
解を得るため、組織の収支決算の開示を含む丁寧な説
明と、3カ月という猶予期間をもって取り組み、最終的に
毎日の活動を乗り切るのに精一杯の状況では、組織運
は全員の理解を得ることができました。おかげで収入が
営の改善にはとても手が回りません。
5割ほどアップすることに。ほかにも施設の有効活用と
団体基本情報
団体名称…………NPO法人 みんなのひろば
URL… ……………http://www.minnanohiroba.org
所在地……………福島県伊達市
代表者……………理事長 齋藤 大介
設立年月…………2004年11月
財政規模…………2013年度総収入:9,852,054円 総支出:9,064,351円
主な財源…………事業収入50%、助成金等36%、会費収入8%
3
そこで、フクシマ ススム プロジェクト(以下、フクシマ
ミッション:
自然体験・ものづくり・職業体験などさまざまな活動を通して、
主に学校に行っていない子どもとその保護者を支援し、また、子
どもをとりまく地域の方々がネットワークをつくり、よりよい連
携を図れるようなまちづくりと、地域の方々がその地域の子ども
たちと真剣に向き合い、共に学び、共に遊べる、思いやりがあり
温かい人のつながりがある社会づくりに寄与する。
活動内容:
・ 子どもが主体となるフリースクール運営事業
・ ひきこもり等若年求職者への就職サポート事業
・ 保護者・関係機関・行政・市民・学生の学習と交流を図る活動
・ 教育や不登校についての相談・情報提供活動 等
●基盤強化で取り組んだこと
●課題
・一人で全てを担う運営体制は脆弱
で、限界があった
・スタッフを増員できたが、長期的に
固定費を賄うための財政基盤が弱
い
・2名体制による運営面の安定化
・事業収入の拡大と助成金獲得
・組織運営体制を確立
●成果
・スタッフが1名から3名体制になり、組織的
な運営にステップアップできた
・質の向上だけでなく、活動の幅が広がった
・財政が安定してきた
みんなのひろば
兆しも見えてきました。子どもたち一人ひとりの学習の
進行具合にあわせたきめ細かな対応や、安心できる環境
づくりに注力できるようになり、結果として質の向上に
もつながっています。将来は、放課後等デイサービス事
業など、活動の幅を広げていくことを目指しています。
!」
「ここがポイント
アドバイザーの
・利用料金は安すぎないか?事業が継続できる価格
設定を
して塾に不向きな子どもたちのための「夜の学習サポー
ト」を開設するなど、新たな収入源の開拓も始まってい
・利用者にすべてをさらけ出して、誠心誠意、丁寧な
説明をすることで、値上げも納得してもらえる
ます。
・自分たちがやりたいことに合致した助成金を探そう
もう1つの柱である助成金の獲得については、これま
助成申請書は専門用語を避けてわかりやすく
で助成金情報の収集にも手が回らず、必要な物品の購入
・強みを活かした収益事業で財源の多様化を
やイベント開催費用も自己財源で賄ってきたことを見直
し、アドバイザーと共に、「積極申請」という方針を掲
声
アドバイザーの
げてフクシマ ススムの支援期間中に6件の助成申請を行
理事長の齋藤大介さん、アドバイスを率直に受け
いました。備品、キャンプ、研修など、「何のために必要
入れ、即実践されたことにより、安定した収入につ
か」を「第三者に分かる言葉」で書くことを意識して申
ながっていると思います。子どもたちがいつでも安
請書を作成した結果、実に5件が採択と大健闘、送迎車
心して利用できる「みんなのひろば」として持続可
両まで獲得しました。使途目的や費用対効果が具体的で
能な組織運営を期待しています。
明快なことが、功を奏したといえます。
●…基盤が安定して職員を増員
(PRF 山崎富一)
団体担当者の声
目の前の活動から安定した長期的運営へと視野を広げ
「みんなのひろば」にとってこの一年は、多くのこ
たことで、みんなのひろばは持続的な活動を行うために
とを学び、経験し、経営基盤の安定化に向けた、大
必要な組織の運営体制確立への第一歩を踏み出すことが
きな変化の年となりました。子どもたちがさらに安
できました。
心して過ごせる居場所となるよう努力してまいりま
また、財源が安定したことで、さらにもう1名を増員
す。 ……… (理事長 齋藤大介)
し、3人体制に。基盤の安定によって、好循環を生み出す
4
2
事業収入の開拓
拠点と人材の有効活用を考える
●…安定した財源確保が必要
●…収益事業を試験的に実施
NPO法人ココネット・マムは、放課後児童クラブ (学童
まず、新規の収益事業のアイデアを出すため、ワーク
保育:以下、児童クラブ)の運営と、母親の通院・用事な
ショップを実施。スタッフ12名が3グループに分かれ「コ
どにより子どもを一時的に預かる育児サポートを主な事
コネット・マムでやってみたいこと」について自由にアイ
業としています。児童クラブは、子どもがのびのびと遊
デアを出し合い、収益事業になりそうな候補を絞り出し
ぶことを大切に考え、障がいのある子どもを受け入れて
ました。アドバイザーがファシリテーターとして関わるこ
いるのも特徴で、これまでは毎日7~8名が利用していま
とで、話が拡散しすぎてしまうことなく、安心して意見を
した。
言える環境で、多様なアイデアが引き出されました。
フクシマ ススム プロジェクト(以下、フクシマ スス
収益事業の候補として挙がったのが、子育て中の母
ム)の支援により、念願であった、事務所も兼ねた新し
親の癒しの場となるようなサロンの開催、不要になった
い児童クラブの拠点を得て、安定した職員雇用も実現し
グッズの寄付により販売収入を得るリユースコーナーの
た結果、児童クラブの定員を30名に増やすことができま
設置、得意分野を生かしたオリジナル商品の制作・販売
した。しかし、助成金なしでもこの新しい拠点で安定し
などです。これらの提案がアイデアだけで終わらないよ
た事業を運営していくために、事業収入の拡大が次の課
う、アドバイザーの助言の下、収支を具体的に検討し、
題となっていました。
担当者を決め、スケジュールをしっかりと管理しました。
そこでアドバイザーの助言により、固定費を賄うため
試験的に実施した収益事業の1つがサロンの開催で
に、児童クラブ運営を含めた事業収入を月額45万円得る
す。サロンは、お菓子づくりや、手作りバック教室など、
ことを目標に定め、収益事業の拡大に取り組むことにし
メンバーの特技を活かしたテーマを決め、不特定多数に
ました。
呼びかけて実施しました。ココネット・マムにとっては初
団体基本情報
団体名称…………NPO法人 ココネット・マム
ミッション:
子どもたちが安全に健やかに育つことができる環境づくり、子
育て中の親が安心して働ける環境づくり、核家族が安心して住
めるまちづくり
URL… ……………http://www.facebook.com/coconetmamu
所在地……………福島県郡山市
代表者……………代表理事 首藤 亜希子
設立年月…………2003年9月
財政規模…………2013年度総収入:18,048,836円 総支出:16,010,642円
主な財源…………助成金等78.83%、 事業収入20.15%、寄付金0.62%
5
活動内容:
・ 放課後児童クラブ事業
・ 育児サポート(一時預かり、託児)事業
・ 親子向けイベントの実施 など
●基盤強化で取り組んだこと
●課題
・放課後児童クラブの新拠点を中・長
期的に運営していくための安定した
財源の確保
・認知度が低い
・新規収益事業の企画・実施
・Facebook作成、定期的な更新
●成果
・スタッフの活動への理解が深まり、積極的
に活動に参加するようになった
・新企画とFacebookの相乗効果で、認知度が
上がった
・団体の強みに改めて気づくことで、中・長
期的な戦略を考える素地ができた
ワークショップでアイデア出し
めての試みでした
ながら持続的な運営を目指す計画です。
が、実際に行動に
今回、フクシマ ススムの支援で拠点が確保できたこ
移すことで改めて
とで、「事業収入拡大」という発想が生まれました。そ
気づいたことがあ
して、育児サービスと児童クラブという団体の強みに改
ります。
めて気づき、組織基盤強化の支援を通じて、中・長期的
そ れ は 、コ コ
な戦略を考える素地ができました。様々な取り組みを行
ネット・マムの強みは児童クラブ運営と育児サービス
いながら、これから中期計画の策定に向けて、さらに一
で、この2つのサービスの利用者拡大によって事業収入
歩、踏み出す予定です。
を得ることこそが得策ではないかということです。そこ
で収益目的として開始したサロンを、児童クラブや育児
サービスの利用につなげる集客手段と位置付けて実施す
る方針ができました。
サロン実施にいたるまでの過程では大きな収穫があり
ました。スタッフ間の協力体制が強化され、今までより
多くのスタッフが積極的に企画運営に携わるようになっ
たことです。
●…Facebookで認知度向上へ
児童クラブや育児サービスの認知度向上という課題の
!」
「ここがポイント
アドバイザーの
・事業を安定運営するには収入がいくら必要か、目
標金額を明確に
・収益事業として何ができるか、できるだけ大勢で、
自由なアイデア出しから始めよう
・アイデアを実行に移すプロセスでは、多様なメン
バーを巻き込み、団体の担い手を拡大しよう
声
アドバイザーの
解決のために新たに取り組んだのが、Facebookです。IT
いつも元気なココマムの皆さんに圧倒されていま
を得意とするメンバーが特にいるわけではないため投稿
した。スタッフ全員が母親というまさに当事者の強
が途絶えがちにならないよう、毎日1回投稿という目標を
みを最大限に活かして、ココマムにしか出来ない親
定め、スタッフが分担して投稿することで徐々に軌道に
子のきめ細かいニーズに応え続けて欲しいと思い
乗せていきました。Facebookでは見た人から反応が得
ます。 (PRF 鷹野秀征)
られるため、スタッフのモチベーションも上がり、最初
はためらっていたスタッフも積極的に投稿するようにな
団体担当者の声
りました。児童クラブの子どもたちや育児サービスの様
拠点を確保したことで自主事業に力を入れられる
子、イベントのお知らせや報告など親しみやすい投稿で
体制が整いました。また、ワークショップを通し
団体のことをより多くの人に知ってもらうことができ、
て、当団体の目的、目標をスタッフ間で確認、共有
スタッフ間での情報共有にも役立っています。
することができ、より充実した活動をしていく力と
2014年度の児童クラブの常時利用者は約17名。今後は
なりました。 (代表理事 首藤亜希子)
目標を最大30名に高め、引き続き他の収益事業も模索し
6
3
ファンドレイジング
ファンを増やし、支援者を増やす
●…固定費を賄う安定財源が必要
●…戦略を立ててから広報ツールを作成
NPO法人子育て支援コミュニティ プチママン(以下、
ファンドレイジングの基本は、自分たちが取り組む
プチママン)は、「共に支えあう子育て環境」を目指し
社会的な「課題」を説明して共感を得ること、それに対
て、いつでも親子が遊びに来られる「ひろば」の運営を
する解決策を提示することにあります。その実現には、
中心に活動する団体です。建物を借りて一般開放すると
ファンドレイジングの戦略を立て、準備することが必要
ともに、リトミックや親子英語などの親子向けプログラ
でした。
ムの充実も図っており、保育士や英会話講師など、いろ
まず、活動のビジョンや理念について、コアスタッフ
いろな資格や技能を持つ運営スタッフの層が厚いことが
で意思確認し、さらに全スタッフで確認しました。これ
強みです。フクシマ ススム プロジェクトの支援により、
により広報ツールで、キャッチコピーや団体の紹介、目
半屋外の砂場を作り、一般に開放したり、「砂場講座」
的などを積極的に発信できるようになりました。スタッ
を開いたりしました。これにより、外の砂場は心配とい
フのコミュニケーションも深まりました(次頁表1)。
う親子も安心して遊べるようになりました。
次にアドバイザーがコアスタッフを対象に研修を行
東日本大震災以降は、行政からの委託事業や、県外
からの寄付金などによる事業で規模を拡大してきまし
たが、それに伴い業務が増え、運営スタッフの増員が急
務になっていました。また、今後も家賃などの固定費を
継続的に賄い、運営スタッフに適正な日当を支払うため
に、財源確保の必要性も高まっていました。そこで、こ
れまであまり行ってこなかったファンドレイジング、特
完成したリーフレット
に自由度の高い資金となる会費・寄付の拡大を、若いス
タッフが中心となって取り組むことにしました。
団体基本情報
団体名称…………NPO法人 子育て支援コミュニティ プチママン
URL… ……………http://www.petitmaman.jp/
所在地……………福島県郡山市
代表者……………理事長 佐藤 広美
設立年月…………2005年6月
財政規模…………2013年度総収入:18,723,473円 総支出:16,601,545円
主な財源…………助成金等50%、事業収入41%、寄付金8%
7
砂場遊び
ミッション:
子育て中の親が抱える不安や閉塞感を解消するために、地域の
活力を生かした多角的な子育て支援を行い、親子が生き生きと
心豊かに暮らせる地域社会を実現する。
活動内容:
・ 子育てひろばの運営(親子を対象に無料開放)
・ 子育て講座の実施
・ 子育てサークル支援(出張支援)
・ カルチャースクール(託児付)
・ 発達に不安のある幼児児童の支援
●成果
●基盤強化で取り組んだこと
●課題
・事業を担うスタッフに恵まれている
が、運営業務の役割分担ができて
おらず、業務が集中していた
・自由度の高い資金(会費や寄付な
ど)の調達が課題
・担当を決め、職務を明確化
・ミッション・ビジョンを全体で確認
・ファンドレイジング計画を策定し、
準備
・寄付の呼びかけの開始
・運営業務を複数の職員に分散することで、
運営がスムーズに
・スタッフ間のコミュニケーションが深まった
・リーフレットやホームページで積極的に
キャッチコピーを発信できるようになった
・賛助会員・応援寄付などへのお願いの重要
性を実感できた
い、8つの項目について決めていきました(表1)。
アドバイザーの助言により、プチママンの利用者や元利
例えば、ファンドレイジングの目標額を決める際に
用者、取引のある地元企業を洗い出して、まずリストを作
は、「ひろば」の運営に年間500万円の固定費が必要で
りました。クラウドファンディングでの支援者もリストに
あることを念頭に置きました。初年度は到達可能と思わ
加え、寄付者データベースを構築中です。
れる60万円を目標寄付金額とし、そのほかを会費・寄付
活動の様子や参加者の感想を伝えるニュースレターも
金・事業収入で賄うことにしました。
新たに発行し、支援者とのつながりをより深めていく予
「寄付者に伝えるべき内容を決める」段階では、プチ
定です。
ママンとは何か、大切にしている価値は何か、強み・弱
み・ユニークさは何か、支援があると何ができるのか、
等について話し合いました。また、無料で利用できる
「ひろば」の運営を応援してもらうための「ひろば応援
団」という、新たな賛助会員制度を新設しました。
!」
「ここがポイント
アドバイザーの
・定期的に、活動のビジョンや理念を全体で確認・共
有する機会を持とう
これらを盛り込んだリーフレットやホームページの準
・ファンドレイジングの目的は、お金だけではなく
備を進めるさなか、とあるクラウドファンディングのサ
「共感」を集めること。いっしょに寄付のお願いを
イトから声がかかり、特集企画に参加する機会を得ま
してくれる「協力者」も見い出そう
した。キッチン整備の資金90万円を2カ月で集めるプロ
・寄付をしてくれた人には、継続的な連絡を。メルマ
ジェクトです。
ガ、ニュースレター、イベントのお知らせなど、意
最初はなかなか支援が集まりませんでしたが、アドバ
識的に機会をつくろう
イザーやサイト運営者から、オンラインに特化した支援
の呼びかけ方の提案を受け実行に移したところ、見事目
標額を達成することができました。
●…コミュニケーションで支援継続
声
アドバイザーの
「やる」と決めたら必ず実現する、強い意志とチー
ムワーク、そしてそれぞれが持つ機動力が、プチマ
マンを特別な存在にしています。郡山の親子に寄り
ファンドレイズのための新たなリーフレットとホーム
添った活動をさらに広げられることに期待します。
ページが完成し、次の課題は支援者との継続的なコミュ
(PRF 田口由紀絵)
ニケーションです。
表1 ファンドレイジングのステップ
1.目標を決める(何のためのファンドレイジングか、総額いく
ら集めるのか)
2.チームをつくる
3.寄付者に伝えるべき内容を決める
4.コミュニケーションの方法を決める
5.スケジュールを決める
6.実行
7.支援者データの管理、支援者とのつながり強化
8.評価
団体担当者の声
今回の助成を受け、ファンドレイジングの意味や
手法を知ることができました。今後もコミュニケー
ションツールを活用し、プチママンの活動に共感し
賛同してくれる人や企業とつながっていきたいと
思っています。 (スタッフ 蓮沼晃代)
8
4
認可事業の立ち上げ
「放課後等デイサービス事業」認可で安心のサービスを
●…助成金での運営から認可事業へ
●…拠点の確保、スタッフの確保
NPO法人ふよう土2100は、震災後、環境の変化に戸惑
認可を得るには、国の様々な基準を満たす必要があ
う障がいのある子どもたちの姿をきっかけに生まれた団
ります。これまでの活動場所では設置基準を満たさない
体です。2012年5月、福島県郡山市内に「交流サロンひか
ことが分かり、新しい場所を探すことになりました。申
り」を開設し、被災地の障がいがある子どもたちが遊ん
請のための各種書類も整えなければならず、越えるべき
で過ごせる場や、その家族同士の交流スペースとして、
ハードルはいくつもありました。
これまで主に助成金を財源として運営してきました。学
その中で、フクシマ ススム プロジェクトの支援によ
校や家庭とは別の居場所として重要な役割を果たしてい
り、交流サロンひかりの維持費の財源確保に加え、有資
るふよう土2100の事業は、国が2012年の法改正で児童福
格者や、実務経験豊かなスタッフを雇用できたことは、
祉法に定めた「放課後等デイサービス事業」に近い形の
大きな力になりました。交流サロンの子どもたちにとっ
ものでした。これに認可されれば、原則として利用料の9
て大きな安心につながっただけでなく、放課後等デイ
割は国と都道府県が負担することになります。
サービス事業の開始に向けて強力な存在となったからで
しかし一方で、0~6歳の未就学児はこの対象にはなり
す。障がいのある人やその家族が、日常生活や就労につ
ません。そのため、ふよう土2100ではこれまで申請に二
いて相談する場である「交流サロンひかり相談室」の業
の足を踏んでいましたが、「国の認可事業として行うの
務を新たに開始することができたのも、新たなスタッフ
で、事業の持続性が確保でき、サービスの質も上がる。
が加わったおかげです。
利用者のためになることなので、認可を目指すべきなの
これらの取り組みを効率的に進めるにあたっては、ア
では」というアドバイザーの助言に背中を押され、認可
ドバイザーの助言と協力により、東京都内で放課後等デ
取得を目指すことを決断しました。認可の対象とならな
イサービス事業を実施している団体等の先行事例の視
い利用者向けの支援は、自主事業として継続することも
察を行いました。30年以上の活動歴がある世田谷の団体
決めました。
は、利用者を第一に考える価値観が、ふよう土2100と通
団体基本情報
団体名称…………NPO法人 ふよう土2100
ミッション:
西暦2100年、未来の子どもたちのためにいまできること、それ
は私たちが有機腐葉土になることによって、100年後の未来が
地域を愛する人であふれかえるような地域にすること
URL… ……………http://npo-fuyodo2100.org/
所在地……………福島県いわき市
活動内容:
代表者……………理事長 里見 喜生 ・「交流サロンひかり」:自閉症や聴覚障がい児など、障がい
がある子どもたちが安心して過ごせる居場所
・「ひかり相談室」:障がい者の余暇活動支援や就労支援、小
中学生を対象とした学習支援等を実施
・「放課後等デイサービスがっこ」:主に6歳から18歳の障がい
のある児童を対象に、放課後や夏休み等長期休業日に、生活
能力向上のための訓練や社会との交流促進などを行う
設立年月…………2011年8月
財政規模…………2013年度総収入:30,036,189円 総支出:25,451,737円
主な財源…………助成金等71%、事業収入22%、寄付金7%
9
●成果
●基盤強化で取り組んだこと
●課題
・自主事業で行うか、認可をとるか、
組織が岐路に立っていた
・専門人材の確保と、助成金以外の
財源が必要だった
・「放課後等デイサービス事業」等の
指定認可を得るための準備
・有資格者や実務経験豊かな人材の
獲得
・福島県から「放課後等デイサービスがっ
こ」の指定認可を受けることができた
・郡山市から「相談支援事業所ひかり相談
室」の指定認可を受けることができ、利用
者が安心して通ってもらえる組織体制に
なった
祉法に基づく「児童発達支援事業」も視野に入れていま
す。この地域には約850人の対象者がいると推定されて
おり、ふよう土2100がさらに新たな事業を展開すること
が期待されています。
世田谷の団体の理事長が
ふよう土2100を訪問
!」
「ここがポイント
アドバイザーの
・認可を受けて安定した事業運営をすることが利用
者のためになる
・先進事例から大いに学ぼう。認可を受けるための
膨大な書類も、ゼロから作る必要はない
放課後等デイサービスがっこ
・認可事業でカバーされない事業は、自主事業で行
う覚悟を
じるものがありました。現場を見せてもらうことで様々
なノウハウを得ることができたほか、認可申請書類にか
声
アドバイザーの
かわる膨大な資料も見せてもらい、申請に向けての準備
単年度の短期間で公的な2事業の開始・運営はすご
にかかる時間が短縮されました。さらにその団体の理事
いと思います。社会のニーズを的確に捉え、自主事
長が交流サロンひかりを訪問し、必要な遊具や教材、事
業として「交流サロン」の運営は独自性があり大切
故や苦情への対応等のリスク管理などについて、スタッ
な事業です。情熱を持ったスタッフのもと、新たな
フ全体に具体的なアドバイスも提供してくれました。
事業展開を期待しています。 ……(PRF 山崎富一)
●…さらに地域のニーズに応える
こうした取り組みの結果、2014年12月に放課後等デイ
団体担当者の声
サービスとしての認可を得て、合わせて「交流サロンひ
本事業のおかげで、「放課後等デイサービスがっ
かり相談室」は相談支援事業所としての指定を受けるこ
こ」と「相談支援事業所ひかり相談室」を2015年
とができました。そして、2015年2月4日に「放課後等デ
1月からスタートできました。県や市への申請書類
イサービスがっこ」と「相談支援事業所ひかり相談室」
は、世田谷の団体の皆さんのご協力がなければ、こ
の開所式を行いました。
こまでスムーズに進められなかったと思います。
「交流サロンひかり」も自主事業として継続させ、
(副理事長 大澤康泰)
2015年は余暇活動を中心に行う予定にしています。将
来的には、障がいがある未就学児を対象とする、児童福
10
5
情報発信
自由来館者を増やすためにホームページを開設
●…自由来館者を増やしたい
●…情報発信にホームページを開設
NPO法人ふれあいサポート館アトリエ(以下、アトリエ)
一方で情報発信を強化する必要も大いにありました。
は、福島県相馬市の指定管理を受けて相馬市中央児童セ
アトリエはこれまでホームページで、児童センターの情
ンターを運営しています。このセンターは放課後児童ク
報を全く発信できておらず、児童センターに行けば何が
ラブ(学童保育:以下、児童クラブ)の機能も担っていま
できるのか、地域に十分伝わっていませんでした。今回
す。
アドバイザーから、ウェブサイトやちらし等による情報
児童センターは、すべての子どもたちに開かれた場所
発信が必要であるとの助言を受け、児童センターの様子
ですが、児童クラブの子ども以外の来館者が少ないとい
を広く伝えていく専用のホームページを開設し、リーフ
う課題がありました。その理由として考えられるのが、
レットやパンフレットを作成することになりました。
スタッフが不足し、自由来館者に十分に対応できないこ
また、特にアドバイザーが強調したのは、ウェブには
と、認知度が低いことでした。そこで今回、フクシマ ス
常に最新の会計報告と理事会の役員名を載せること、つ
スム プロジェクト(以下、フクシマ ススム)の組織基盤強
まり情報公開の重要性です。例えば助成金の申請をした
化事業として、この2つの課題に取り組みました。
とき、審査する側はたいていホームページを見て、決算
スタッフの不足については、フクシマ ススムの支援に
書や役員名をチェックします。それらの情報がないと、
より常勤スタッフを1名雇用することで対応しました。こ
団体に対する信頼が得られません。
れまで発達障がいのある子どもを含めて、大勢の児童ク
もう1つ大切なことは、コンテンツの充実と更新です。
ラブの子どもたちへの対応に追われていましたが、人員
スタッフが情報を随時アップできるよう、初心者でも更
に余裕ができたことで、自由来館者の受け入れが可能に
新が比較的容易で維持コストが廉価なソフトを使うこと
なり、本来の児童センターの役割が機能するようになり
にしました。
ました。
団体基本情報
団体名称…………NPO法人 ふれあいサポート館アトリエ
URL… ……………http://www.souma-jidou.ciao.jp/wp/ (相馬市中央児童センター)
ミッション:
幼児、児童から青少年、そして成人高齢者にいたる方々に対し
て、生涯におけるライフサイクルの中で、一人ひとりの持つ能力
を出し切れる場の提供と、お互いの能力や資源を利活用できる
ようあらゆる角度からサポートし、生きがいを創造し感性豊かな
人間性を高め健やかに人間らしく暮らせる地域社会を造ること
に貢献する。
所在地……………福島県相馬市
代表者……………理事長 倉本 信之
活動内容:
設立年月…………1967年4月
・ 相馬市中央児童センターの指定管理(子どもたちがいつでも
自由に立ち寄れる場所)
・ 放課後児童クラブの委託運営(小学校1〜3年生が対象)
・ おやこ教室の実施
・ 別拠点で、デイサービス、絵画造形教室を実施
財政規模…………2013年度総収入:59,793,186円、総支出:54,608,000円
主な財源…………助成金等6.4%、 事業収入93.6%、寄付金0%
11
●成果
●基盤強化で取り組んだこと
●課題
・児童センターがすべての子どもたち
に開かれた場であることが、地域で
あまり知られていない
・児童クラブの子どもの対応に追わ
れ、児童センターの本来の役割が
機能していない
・自由来館者を増やすため、専用の
ホームページを開設、リーフレッ
ト、パンフレットを作成
・スタッフ1名を雇用して自由来館者
への対応を強化
・自由来館者数が前年比で1,235名増
・ホームページを通じて、催し物のお知らせ
が事前に効率的にできるようになった
ホームページを更新するスタッフ
館やプレーパークを視察して児童館活動の進め方等を学
ぶなど、積極的に研修の機会を持ちました。
スタッフの雇用、情報発信、指導員の質の向上などの
取り組みによって児童センターの自由来館者数は、前年
比で1,235名増加するなど、成果が上がっています。
地域の子どもたちが気軽に立ち寄れる、遊び場・居場
所が、地域でより顔の見える存在になりつつあります。
●…自由来館が前年比で1,235名増加
ホームページを公開したのは、作成を始めてから2カ
月後です。地域住民に児童センターのことをよく知って
もらうために、事業内容や催し物のお知らせ、毎月の活
動報告を掲載しました。スタッフには更新に専門的な技
術が必要で難しいのではないかという不安がありまし
たが、アドバイザーに教えてもらいながら進めていくう
ちに自分たちで更新できるようになり、現在も毎月の活
動を写真入りで紹介しています。どんなイベントがある
のか、子どもたちがどんな活動をしているのかを見よう
と、地域の保護者や子どもたちを中心にアクセスも増え
ています。インターネットを通じて児童センターの情報
が伝わりやすくなり、子どもやおとなたちが興味をひく
!」
「ここがポイント
アドバイザーの
・地域への情報発信で、ウェブを積極的に使おう
・ウェブに最新の会計報告と役員名を載せることで、
団体の信頼度がアップ
・更新頻度を上げるために、初心者でも更新が簡単
にできるしくみを
声
アドバイザーの
毎回訪問する度に、子どもたちの活き活きとした
声が聞こえ、アトリエさんの存在の大きさを感じま
す。スタッフ研修を通して、子への対応や児童館機
能の大切さも学ぶことができてよかったです。情報
源としてホームページの活用を期待しています。
(PRF 山崎富一)
催し物の事前告知が効率的に行えるようになりました。
またリーフレットやパンフレットができたおかげで、様々
な機会を活用して活動を紹介することができるようにな
りました。
児童センターの機能を強化し、魅力ある児童館にする
ためには情報発信だけでは十分ではありません。フクシ
マ ススムの支援により、発達障がいのある子どもたちや
保護者への接し方を学ぶ研修会を実施。他の児童セン
ターや児童クラブにも参加を呼びかけたことで、相馬市
団体担当者の声
…スタッフの雇用や研修等により、本来あるべき児
童センターとしての機能について、全職員が共通
認識を持てるようになり、意識の向上につながりま
した。来館者と良い関係性を築いていけたこともこ
の取り組みの成果だと思います。
(主任児童厚生員 門馬美樹)
近辺の指導員の質も高まっています。さらに東京の児童
12
6
中期計画の策定
ビーンズの5年後のビジョンを描くために
●…フリースクールから組織が拡大
計結果をもとに、自団体の強み・弱み・チャンス・脅威を
客観的に捉えながらディスカッションしました。これに
1999年にフリースクールとしてスタートしたNPO法人
より、「リーダーシップの所在を明確にし、中期計画を
ビーンズふくしま(以下、ビーンズ)は、その後、厚生労働
策定する」「情報発信を強化する」といった、ビーンズ
省の委託事業「若者サポートステーション」を開所する
の優先課題が明らかになりました。
など、活動の幅を子ども・若者の支援全般へと広げ、組
これと並行して、フクシマ ススム プロジェクトの支援
織が急拡大しました。2011年の東日本大震災後は、被災
金を活用し、マネジメントを担う中堅スタッフ7名が他団
した子どもや子どもを支えるおとな支援への中心的な役
体で、それぞれ数日間のフィールドワーク(OJT)を行い
割を担っています。
ました。他団体の懐に入って組織運営や事業運営をつぶ
事業部門ごとに独立性を持って方針を掲げ、独自に人
さに見せてもらうことは得難い体験となり、ビーンズを動
材を育成するのがビーンズの特徴であり、それが事業の
かす人材の層が厚くなるという成果が生まれています。
質を高めることにもつながってきました。その一方で、
ビーンズ全体としての目標や戦略が見えにくくなってい
●…中期計画:まずはビジョンを明確に
ること、新しく加わるスタッフがビーンズのミッションや
中期計画の策定は8月にスタート。理事長や副理事
価値をしっかり共有できる体制が作りにくい、といった
長、部門長、事業長など7名のコアメンバーが、アドバイ
課題を抱えていました。
ザーのファシリテーションのもと、月に1回およそ3時間
●…組織診断で、課題を客観的に把握
ずつの議論を重ねていきました。
議論の最初のテーマは、「これからの3〜5年間で、
ビーンズではまず、アドバイザーの助言により組織診
ビーンズはどのようになっていたいか」。しかし主要事
断を行いました。組織の課題を客観的に把握し共有する
業ごとの哲学や方針が熱く語られる一方で、全体として
ためです。理事や部門長などのリーダー層だけでなく、
の方向性が見えてきません。
主要なスタッフにも診断シートに答えてもらい、その集
そこで将来像のイメージを共有するために、コアメン
団体基本情報
団体名称…………NPO法人 ビーンズふくしま
ミッション:
生きにくさを抱える子ども若者が自ら望む姿でつながることが
できる社会をつくる。子ども若者の教育・労働・福祉との接続機
会の喪失によって起こる「社会からの孤立問題」を解決する。
URL… ……………http://www.k5.dion.ne.jp/~beans-f/
所在地……………福島県福島市
活動内容:
代表者……………理事長 若月 ちよ
・ フリースクール事業
・ 青少年自立支援事業(若者サポートステーション等、ニート
やひきこもりの若者と社会の接点をつくるための事業)
・ 相談事業(ビーンズこころの相談室)
・ 被災子ども支援(ふくしま子ども支援センター、うつくしま
ふくしま子ども未来応援プロジェクト)
・ 多世代のコミュニティハウス「みんなの家」の運営
設立年月…………1999年9月
財政規模…………2013年度総収入:173,921,560円 総支出:164,903,725円
主な財源…………事業収入87%、助成金等9%、寄付金4%
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●成果
●基盤強化で取り組んだこと
●課題
・震災後、組織が急激に大きくなり、
ビーンズの理念や全体の方向性が
共有できていなかった
・復興支援事業が急拡大し、新規ス
タッフを管理するマネージャー層が
不足していた
・組織の課題を把握するための組織
診断
・診断結果を踏まえての中期計画策
定をスタート
・他団体でのOJTを通じて、マネー
ジャー候補スタッフの能力強化
箱庭ワークショップ
・リーダーシップの所在が明確になり、部門
間のつながりが深まった
・「ひとつのビーンズふくしま」として進むた
めの体制と方針をつくることができた
・組織の中での議論と、その積み重ねの大切
さについて共通認識を持てるようになった
・他団体の好事例を、団体で共有できた
バー7名が「箱庭」
題に正面から向き合い、リーダーシップを担うべきメン
を使って、ひとつ
バーが「チームとして」ビーンズ全体のことを議論する
の将来像を、こと
体制に変わりつつあります。
ばではなく視覚的
表に現れる変化は少なくても、ビーンズの将来を支え
に表現することを
るための「地殻変動」が起きた一年であったといえるで
試みました。
しょう。
漠然とした共通
の将来像を共有
したところで、さ
図……1(重点方針を整理)
!」
「ここがポイント
アドバイザーの
らに論点を絞って
・組織運営の本当の課題がどこにあるのか、…「組織
ビーンズ全体の方
診断」で根本原因をつきとめ、スタッフみんなで共
向性を議論してい
有しよう
きました。
・中期計画は、組織のミッションやありたい姿を実現
①子ども・若者が安心していられる場、育ちの場をど
するためのもの。3〜5年後のイメージを組織で統
う実現するのか、②子ども・若者の『自立』のために何
一しよう
をするのか、③何のためのアドボカシーを行うのか、③
・どのチームが中期計画を立て、進捗を管理し評価す
子育て支援事業をどう位置づけるのか等々について、数
るのか。組織の「リーダーシップ」の所在を明確に
回に分けたていねいな議論が続けられました。
その議論の結果をまとめたものが、重点方針を整理し
た図(図1)です。
●…リーダーシップの所在を明確に
声
アドバイザーの
ビーンズふくしまは、5人がチームとしてリーダー
シップを担うことを決めました。それぞれが、担当
事業だけでなくビーンズ全体を考えるという視点
現在は「中期計画策定」プロセスの第1フェーズが終
を持ち続けるために、どんな工夫をしていくのか。
わったところです。これからさらに具体的な目標と戦略
他の団体の参考になるような取り組みが始まるこ
を立てていくにあたって、ビーンズのリーダーシップの
とに期待します。(PRF 田口由紀絵)
体制を考え直す必要がありました。
ビーンズはこれまで、各部門の自律性を重視し、フ
団体担当者の声
ラットな組織であることに価値を置いてきたがゆえに、
物事を決めていける組織体制作りをしなければな
理事長や副理事長、事務局長であっても担当しない部門
らない自覚と、大事にしたいスタッフ間の関係や議
には口出ししないという暗黙の了解がありました。それ
論の必要性も感じ、気持ちが揺れながらの取り組
がかえって組織全体のリーダーシップの所在を不明確に
みでしたが、アドバイザーのおかげで取り組み続け
していたのです。
ることができました。(事務局長 七海圭子)
組織診断と中期計画の策定に取り組むことで、この問
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この事例集は、サントリーホールディングス株式会社と公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが取り組む、
福島の子ども支援事業「フクシマ ススム プロジェクト 子どもの場所づくり支援」の一環として作成したものです。
NPO団体の組織基盤強化事例集
より質の高い活動を目指し、
人材、資金、活動場所の悩みを解決するために、
スタッフみんなでやってみたこと
発行:公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
お問い合わせ先:
制作:公益財団法人パブリックリソース財団
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
発行:2015 年 7 月
〒 101-0047 東京都千代田区内神田 2-8-4 山田ビル 4 階
TEL:03-6859-6869
FAX:03-6859-0069
E-mail:[email protected]
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技術支援・内容についてのお問い合わせ先:
公益社団法人パブリックリソース財団
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