次世代林業に向けた新たな架線集材その展望と課題

次世代林業に向けた新たな架線集材その展望と課題
高知大学教育研究部自然科学系農学部門
後藤純一
新たな架線集材システム検討会
和歌山県
2015/ 02/26
講演の流れ
• 林業活動を取り巻く状況の変化
• 架線か車両か,地形的特徴からみた分類
• 架線集材技術の変遷
1. 第一次タワーヤーダ導入期の課題
2. 最近導入されているタワーヤーダはどこが違うのか
3. 最新の開発動向
• 将来の展望は?
林業活動の変遷
皆伐・拡大造林
搬出間伐
木材価格の低迷
主伐・更新の先送り
or
大径化
路網活用
伐出コスト削減
サプライチェーンの改革
増産要請
都道府県別傾斜分布-森林地帯-
累
加
頻
度
傾斜区分
地形指数にもとづく分類( 和歌山県の場合 )
傾斜分布図
県全域
田辺市
地形指数:傾斜(%)に3/4の重みをおき,谷密度と起伏量を合成した指標に1/4の重みをおいた指数
集材作業方法の適否を判断するための指数で,広範囲な地形の分類に用いられる。
( 国土地理院5万分の1地形図を用い,半径500mの円内を対象に地形特性を測定する。 )
地域別分類 地形指数
北山村
有田川町
日高川町
新宮市
急峻地・本格架線
急傾斜・路網架線の併用
地域別分類 斜面傾斜
北山村
有田川町
日高川町
新宮市
急峻地・本格架線
急傾斜・路網架線の併用
傾斜分布-都道府県を傾斜タイプで分類-
頻
度
傾斜区分
傾斜タイプ別の主要な作業システム
車両系
40%
車両・短スパン
架線系
架線併用
39%
8%
13%
26%
39%
11%
24%
16%
34%
13%
37%
頻
度
傾斜区分
路網の発達と作業システム
 谷筋・尾根筋林道 ー 架線による長距離集材
集材機集材
固定式主索を用いた架線集材
 尾根筋・中腹林道 ー 100~500mの架線集材
タワーヤーダ
 循環作業道
スイングヤーダ
 高密路網
ウインチトラクタ
機動性の高い架線集材
ー 100m未満の架線集材
主索を用いない簡易架線集材
ー 車両系の短距離集材
ウインチとグラップルによる集材
高密な路網が整備されている地域
高知県香美市
高知県四万十町
地形が複雑でも頻繁に張り替えが効く
>>> スイングヤーダ+路網
集材機集材と中間サポート
作業システムと路網
(路網作業システム検討委員会報告書から引用)
架線系作業システムの変遷
昭和30年代~63年
平成元年~12年
平成13年~X年
X年~
大面積皆伐対応
利用間伐の始まり
低コスト間伐対応
小面積皆伐・間伐
固定式主索
多人数作業
簡易索張り
少人数作業
インターロック式
少人数作業
高機能型先進機械
単独連携作業
エンドレスタイラー式
小型集材機高性能化
ジグザグ集材
自走式搬器
国産タワーヤーダ
ラジコン導入
スイングヤーダ
全木集材
高機能タワーヤーダ
小規模民有林対応
高密路網の始まり
高性能林業機械導入
資源充実期大径化
高速・高出力・完全自動化
架線系システム発展の歴史①
皆伐・拡大造林期
 集材機の開発

単胴、2胴、3胴、小型集材機の導入
 エンドレス索の活用

皆伐の採算性の確保・横取り対応
20-25馬力用
2胴+1エンドレスドラム
67-80馬力用
3胴+1エンドレスドラム
 索張り方式の開発

大面積から小面積,皆伐から間伐対応へ
ダブルエンドレス用搬器
 係留搬器・ダブルエンドレス用搬器の開発

作業索の省略,架設時間の短縮
各種の係留搬器
上:丸研工業エンドレス式
左:四国索道工業
F-6型自動繋留搬器
ストッパを介して搬器を
主索に係留する
架線系システム発展の歴史②-1
利用間伐始動期
 簡易索張りの開発

頻繁な張り替え,架設撤去時間の短縮
 ラジオコントロールの導入(自走式搬器)
 小面積・少人数でも対応可能へ
 国産小型タワーヤーダの開発

林内造材・短材集材から間伐材全木集材
スイングヤーダの開発,先行導入へ徐々に移行
 高密路網先行導入,ウインチ道端集材
 小型運材車,2tトラックの活用
架線系システム発展の歴史②-2
利用間伐始動期
 第一次タワーヤーダ導入期


中欧のタワーヤーダの導入を機会に
国産化の試みが興る
中欧からの輸入機、国内メーカによる架装
 ランニングスカイライン方式


インターロック機構を内蔵
荷掛けフックの強制降下
 主索を用いた方式

エンドレス索と主索用クランプの組合せ搬器
国産開発機
架線系システム発展の歴史③
路網活用期
 高性能林業機械の本格導入
 短材から全木集材へ,プロセッサの導入
木材価格の低迷に対応した伐出コスト削減
 エンドレス索からインターロックへ
 スイングヤーダの普及
 列状間伐か,点状間伐(定性間伐)か?
 生産性向上か,より架設時間の短縮か
ランニングスカイライン式,スラックライン式,単線地引き
 路網を活用した低コスト作業システム
 集材距離の短縮によるコスト削減
架線系システム発展の歴史④ 高機能機械導入期
 集材距離の克服
 高速ウインチ,速度調整機能,自動走行
 一荷あたりの材積の増加
 高い直引力,高張力対応ワイヤーロープ
資源の充実,単木材積の増加
 ラジオコントロール,制御機構の活用
 荷掛け,荷外しの独立 安全性の向上
オートチョーカーの導入
 垂下量を抑え,地形変化への対応
 中間支持金具の活用
徹底したメーカーサポート
架線系システムの挑戦、その課題
 定置式集材機による面集材(集材距離500m以上)





大起伏量の地形が対象(H型架線,コレクター集材)
専用搬器の開発
ラジコンヘリコプターの活用
索の張替え時間の短縮
技能の習熟
(株)とされいほく資料から引用
H型架線(エンドレスタイラーダブル式:丸金式)索張り図
コレクター集材用搬器
主索の使い方による分類
架線集材システム
スカイラインシステム
備
考
スタンディングスカイラインシステム
スカイラインは、常時張ったまま、
両端を固定して集材する
ライブスカイラインシステム
スカイラインの緊張、弛緩により
(集材サイクルの中で)搬器を
上下させる
ランニングスカイラインシステム
走行するスカイライン上に、搬
器を走行させて集材する
非スカイラインシステム ハイリードシステム
スカイラインも搬器も使わず、作
業索の結合部にフックを取り
付けて集材する
横取り方式による分類
1:動力引き込み型
荷上げ索を緩めながらホールバックライ
ンを集材機の動力により引込み荷掛け
フックを架線から離れた伐倒木に導く方式。
(エンドレスタイラー式,フォーリングブロック式)
2:空フック歩行型
搬器から鉛直下に降下する荷上げ索の
先端(空フック)を人の手で伐倒木まで
持って歩く方式。
(ダブルエンドレス式:ホイスティングキャレジ式
自走式搬器)
林業機械化協会 「集材機索張り図集」から引用
索張り方式によるタワーヤーダの分類
1:主索固定型
2:ランニングスカイライン型
上荷・下荷の特徴
 架設撤去の作業負担が少ない
上荷 > 下荷
 索張りが単純
自走式搬器
上荷 > 下荷
林道整備
上荷 < 下荷
 適用可能な現場
 少ない動力で作業が可能
上荷 < 下荷
 控索設置が容易
上荷 > 下荷
 荷卸し地点の安全性
上荷 > 下荷
搬器に求められる機能
 皆伐
大きい吊上げ能力
動滑車
幅広い横取り機能 動力引き込み
 間伐(非皆伐)
残存木の損傷回避
列状 vs 魚骨状
ランニングスカイライン方式
皆伐もしくは列状向き 主索なし
Norway
主索あり
Austria
 フック降下
強制降下機能
 吊上げ荷重
搬器の軽量化
林業機械化協会 「集材機索張り図集」から引用
フック降下
人力引き込み
少ない作業索>主索クランプ
係留・スラックプリング
or 荷上ドラム内蔵
単機能化
リフティングに特化
なぜ、タワーヤーダは定着しなかったのか
 高価な輸入機

メンテナンス対応に日数を要し、機械の稼働率が低下
資源が未熟、小径木では高い生産性は望めない
 パワー不足の国産機

搬器速度が遅く、直引力が弱く、生産性が向上しない
資源の成熟に伴って、パワーアップが必須
 ランニングスカイライン方式

専用搬器が揃わず、定性間伐時の搬器の制御が困難
列状間伐への導入は、スイングヤーダがとって替わる
 主索を用いた方式


機械の導入に留まり
道路整備やオペレータ
育成等トータルの理念
が伝えられなかった
高張力のワイヤーロープや中間支持金具の採用がない
地形に制約を受け、事業量の確保が困難
わずかな材のために
控索の設置に時間を
費やす
従来の主索固定式
に比べて非力で信頼
性が乏しい
タワーヤーダ導入を意識したトラック道が未整備
第1次タワーヤーダ導入期と何が違うのか
 高価な輸入機
 高機能機は制御機構を活かし、自動走行機能などを盛込み
少人数作業を実現している。
フォレスタ研修を通じた
道路整備やオペレータ
メールなどを活用し、瞬時のメンテナンス対応
育成等トータルの理念を
資源が成熟、単木材積が増え、高い生産性が望める
踏まえた取組
 国産機は開発されるのか

搬器速度を早く、直引力を強く、高機能を盛り込めるか
資源の成熟に伴って、パワーアップが必須
 ランニングスカイライン方式

列状間伐やより架設時間を短縮した方式は既に定着
スイングヤーダで対応可能
 主索を用いた方式



高張力のワイヤーロープや中間支持金具を活用
スイングヤーダと異なる線の張り方を意識
地形の制約を克服し、事業量を確保
一線でより多くの材
を収穫し、主索導入
の方式に特化
スイングヤーダでの
集材作業に比べ
安定・安心感がある
オーストリアの地形と路網
○
○
○
○
○
○
褶曲が少ない地形
帯状の伐区(伐採幅に基づいた伐採規制)
氷河の移動によって作られた地形
石灰岩を母岩とする硬い地表と土質
山土場での原木取引
森林周辺の牧草地とトラクタ市場
1992年当時のオーストリアでの機械展にて
タワーヤーダを構成する機械装置
いずれかを選択
Heinimann et al., 2001
コンビマシーンでの作業
作業システム
Heinimann et al., 2001
タワーヤーダ間伐搬出作業の標準的な生産性
(m3/PSH15)
生
産
性
Karl Stampfer 2004
トラック道から林地(面域)への対応
トラック道
タワー 元柱
タワー 元柱
トラック道
横取り
架設撤去
集材
160m以上
スパン長
合計
林内路網密度の諸外国との比較
架線系先進林業機械の可能性
 高機能タワーヤーダが求められる現場
 集材距離が160m以上
 大きい直引力が必要な大径材
 路網の整備が困難な林地
急峻な林地だけでなく、軟弱な林地も導入対象
 高機能タワーヤーダ導入に必要な条件
 車道幅員3.5m(全幅4.0m)以上の路網
 高機能タワーヤーダ導入の可能性は


トラック道の整備が進むか?
帯状皆伐更新,大径材生産志向が強まるか?
架線系システムの到達点と課題
 生産性向上は
 1サイクルの生産量の増加
パワーアップ(高出力エンジン)
 サイクルタイムの短縮
スピードアップ(高速走行)
 人員の削減
(荷掛け手による遠隔操縦、自動走行)
集材距離の短縮以外には?
 採算性は
 事業量の確保,高い稼働率




単木材積は大きく
高直引力,高速集材
トラブルロスの回避
架設・撤去時間の短縮
 連携作業を回避し

待ち時間を圧縮
 あらゆる地形で使えるか
 誰でも操作できるか
 路網は整備されているか
メーカとユーザが一体となった開発と作業研修>>>
架線系システム開発のポイント
 集材機あるいはタワーヤーダ本体の開発


架設撤去時間の短縮
インターロック機構
 エンドレス索を使わないで
作業索の本数を少なく
 安定した自動走行
連
動
 より少なくするには
 搬器の開発
 係留機能
 エンジンを搭載し、荷上げ索を内蔵
 荷上げ索内蔵+自走機能
 タワーヤーダ用係留搬器
 動力付ドラム内蔵(リフトライナー)
 自走式搬器(ウッドライナー)
 高出力、高速搬器
主索
主索用クランプ
主索
主索用クランプ
引寄索
主索
引寄索
強制降下索
引寄索用クランプ
引寄索用クランプ
主索用クランプ
主索
引戻索
引寄索
引寄索用クランプ
主索用クランプ
Koller SKA-1.5
Koller SKA-2.5
引寄索
主索
引寄索用クランプ
主索用クランプ
主索
強制降下索
引寄索
引寄索用クランプ
主索用クランプ
引戻索
引寄索用クランプ
強制降下索
引寄索
Woodliner
タワーヤーダセットの標準的な諸元
装置 と型式
全セット
質量
トラック
エンジン出力
ブーム V-Kran20.88
長さ
タワーヤーダ Wanderfalke
型式
荷重
主索径
搬器質量
集材方向
SHERPA (SBA?)
1.5t
14-20mm
190kg
自重
SHERPA-U1.5
1.5t
14-20mm
280kg
SHERPA-U3
3.0t
14-24mm
SHERPA-U4
4.0t
SHERPA-Mot II
243kW(330PS)
9m
最大モーメント
19.2t・m
最大索張力
1.5t
最大索速度
6m/秒
タワー高さ
9m
ドラム径
508mm
主索径
16mm
引寄索径
10mm
強制降下用索径
プロセッサ Woody 50
24t
6mm
ローテータを含む質量
750kg
全地形対応
最大鋸断径
55cm
410kg
全地形対応
グラップル最大開口幅
95cm
18-26mm
520kg
全地形対応
送材速度
4.0t
18-26mm
610kg
自重
最大送り力
2.8t
Koller SKA-1.5
1.5t
12-22mm
150kg
自重
設計荷重
1.5t
Koller SKA-2.5
2.5t
18-28mm
290kg
自重
搬器質量
250kg
搬器 Sherpa U-1.5t
0-3m/秒
荷の荷重変動が大きくなる状況
Visser 1999
タワーヤーダ設置における課題
如何に地形に対応するか
中間支持
M型
中間支持金具
片吊型
ノルウェー集材作業マニュアルから引用
架線系システムの今後、その課題
 短距離2胴スイングヤーダ(集材距離100m未満)
 大径材対応の大型化
 ラジコン機能の強化、安全性向上
 中・長距離高機能タワーヤーダ(集材距離200m以上)
 日本の道路事情に適合したコンビマシーンの導入
 より長距離対応機の導入
 高性能搬器の導入
 起伏が大きい地形での既存機械との組合せ
 架設補助機器の開発とオペレータの育成
 従来の架線技術の活用と継承
 定置式集材機による面集材(集材距離500m以上)
 起伏が大きい地形が対象(H型架線,コレクター集材)
 専用搬器の開発
 集材機の製造を継続
新技術の動向と伐出機械への導入
• 画像認識技術
電子学会セミナ資料から(2015)
– デジタルカメラ、スマートフォン
技術:顔オートフォーカス、露光補正、カラーバランス
用途:表情の認識、年齢推定、眠気推定
– 車両
技術:ステレオカメラ
用途:物体認識、自律走行
• GPS
コンピュータの処理速度の向上
– 位置精度の向上、電波受信感度の向上
• 油圧機器用センサー
– エンジンのコンピュータ制御
• 伐出機械への応用
– 油圧式集材機
– 搬器の走行制御
– フォワーダの自動走行
センサーの小型化
次世代の集材機械の姿
• 材が見える人が運転する機械
– 荷掛け手と荷外し要員による連携・遠隔操縦
土場作業の改善 ― 線下作業を排除 ― 労働災害の大幅減少
伊藤崇之 「自走式搬器の自動化に関する研究」
• 材を見ることなく運転する機械
– 荷掛け手と荷卸し地点を追尾しながら走行する搬器
• 林地情報を蓄積しながら作業する機械
– 施業履歴の蓄積、単木管理、精密林業へ