(科学の扉)太陽を再現!レーザー核融合 日本発の手 法、効率化に挑む

(科学の扉)太陽を再現!レーザー核融合 日本発の手法、効...
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http://digital.asahi.com/articles/DA3S11938674.html
(科学の扉)太陽を再現!レーザー核融合 日本発の手
法、効率化に挑む
2015年8月30日05時00分
直径1ミリほどの小さな燃料に強力な
レーザー光をあてて核融合反応を起こす基
礎研究を、大学や企業が進めている。日本
の研究者が提唱した「高速点火」と呼ばれ
太陽を再現!レーザー核融合<グラフィック・竹
田明日香>
る方法を使い、将来、小型で効率のよい
レーザー核融合炉を実現するのが目標だ。
大阪大の研究チームは7月、大阪府吹田
市の設備で、出力2千兆ワットと世界最大出力のレーザー光を照射することに成功した。瞬間
的とはいえ、世界の消費電力の約1千倍にあたる膨大な出力だ。
元は電子レンジを2秒動かす程度のエネルギーを1兆分の1秒間に集中させて、高い強度を
実現した。
増幅装置を使って強いレーザー光を出すが、これほど光が強力だと装置内の部品を壊してし
まう。それを避けるため、長さ0・3ミリのレーザー光を特殊な板(回折格子)で60センチ
まで引き伸ばし、4本に分けて強度を抑え、増幅を繰り返した。
こんなに強力なレーザー光を研究するのは核融合のためだ。原子力発電所はウランなどの原
子核が分裂するときにエネルギーが生じる核分裂を利用する。これに対し、核融合は通常は電
気的に反発して融合しない原子核同士を、超高圧、高温状態で無理やり融合させる。別の原子
核に変わるとともに膨大なエネルギーが生まれる。太陽内部で起きている現象で、この状態の
再現に使うのがレーザーだ。
将来の核融合炉では、重水素や三重水素(トリチウム)でつくった燃料に多方向からレー
ザー光をあてて「爆縮」という現象を起こす。温度は約5千万度に上昇、密度は約1千倍にな
り、1立方センチメートルあたり約250グラムと、金の10倍以上のとても重い状態にな
る。
■2千万度に到達
レーザー核融合は複数の方法があり、米国ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設
(NIF)では、「中心点火」という方法で核融合を研究中だ。192本のレーザー光を使う
が、周りから均一に燃料にあてるのが難しいため、レーザー光を燃料を包む金属の筒に照射
し、そこで発生するX線を燃料にあてている。そのため、レーザーのエネルギーは効率的に使
われていない。
これに対し、大阪大などは効率よく核融合を起こせる「高速点火」方式に取り組む。中心点
火に比べ、燃料の大きさを数分の1、投入エネルギーを10分の1程度に抑えることが出来る
という。故・山中龍彦大阪大名誉教授が1983年に提唱した方法で、爆縮用、加熱用と2段
階のレーザーを使うのが特徴だ。
「燃料を圧縮したところで点火装置を使って一気に燃やす、車のガソリンエンジンのような
もの」。大阪大レーザーエネルギー学研究センターの疇地(あぜち)宏センター長はそう話
す。
大阪大や浜松ホトニクス、トヨタ自動車など11機関のチームは大阪大の設備で、高速点火
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方式で燃料を太陽の中心温度(約1500万度)を超える約2千万度まで上げることに成功し
た。緑色の爆縮用レーザー光2本を直接、直径0・5ミリの燃料にあてて圧縮したうえで、赤
色の加熱用レーザー光1本をあてることで実現した。今年5月に米物理学会誌に発表した。
■産業利用も視野
浜松ホトニクスなどの研究チームは2月に稼働した浜松市の施設で高速点火の研究を近く始
める。最終的にレーザー光9本を燃料にあてる。菅博文・大出力レーザー開発部長は「我々は
少ないレーザーで、繰り返し均一に燃料を圧縮できる」と話す。
将来のレーザー核融合炉では1秒に10回程度の繰り返し照射が必要だ。米国のNIFのよ
うな大型施設では消費電力がかさむことや装置冷却のため、1日に数回程度しか実験ができな
いが、浜松の装置は小型だが1日数百回も実験できるという。
菅さんによると、小型で大出力のレーザー技術は、核融合発電や、レーザーによる材料加工
の研究などにつながる。
光産業創成大学院大の北川米喜特任教授によると、電源を切ってレーザー照射や燃料投入を
止めれば反応がすぐに止まる安全性などが利点だ。ただ、将来のレーザー核融合で燃料に用い
るトリチウムは福島第一原発でも問題になっている放射性物質。また、核融合で生じる中性子
で装置が放射能を帯びるなど難点もある。
それでも北川さんは高速点火による出力100ワットの小型レーザー核融合炉
「CANDY」を提唱する。発生する中性子を工業や医療研究に利用することも視野に入れ
る。「高速点火は米国や中国でも研究され、競争が激しい。研究資金があれば5年をめどに炉
をつくりたい」
(小堀龍之)
<プラズマ> 物質をつくる原子核と電子がバラバラに動き回っている状態。高温・高密度
になった核融合燃料はプラズマになる。原子核が秒速1千キロ以上で飛び回る状態になり、通
常は正の電荷を持つため反発しあう原子核同士が、核融合しやすくなる。
<国際熱核融合実験炉> プラズマ状態となった燃料を電磁石を使って閉じ込める「磁場閉
じ込め式」という核融合の実験炉で、日、米、ロ、EU、中、韓、印が協力して仏カダラッ
シュで建設中。出力50万キロワットが目標。総事業費は約2兆円。2020年に運転開始予
定。
<将来の核融合発電> 計画では、核融合炉内の壁に液体金属を流し、核融合で生じた中性
子をあてる。そして生じる熱で水を温め、水蒸気を作って発電機のタービンを回す。高熱や中
性子に耐える炉の材料開発やかかるコストなどが課題となっている。
◇「科学の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「外来生物法の10年」の予定です。ご
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