「住民活動で地域を救えるか」

テーマ
「住民活動で地域を救えるか」
今西・西田ゼミ F クラス A 班 阿部南美 井上翔太 進藤翔平 高居里緒
▷ 問題意識
『地方消滅』では行政の視点から地方創生の対策について考えられていたが、その地域の
問題を解決していくのは行政だけではなく、その地域に住む住民の活動が大切であると考
える。会津美里町でのフィールドワークを通して、行政が行う地方創生の取り組みだけで
はなく、住民の積極的な活動がその地域にもたらす影響は大きいように感じた。住民によ
る活動が例え地方創生を意図していないものであっても、その活動が結果として地方創生
や地域おこしにつながることがあるのではないだろうか。
地方創生を行う上では行政と住民の協力が必要不可欠であるが、行政側の情報提供の不
足と住民側の関心・理解の不足などの理由から、現状としては行政と住民の間には溝があ
ると言える。この溝を埋めていくことも地方創生のカギとなるだろう。
▷ フィールドワークのまとめ
まずはフィールドワークを通して学んだ住民の活動について紹介する。
会津美里町役場での聞き取りまとめ
今回、会津美里町役場での聞き取り調査で得られた回答の中で、行政が地域活動を支え
ている例や行政と住民の関わりについてまとめた。
○行政として自治区単位の振興に行える手立てについて
→地域おこし協力隊や集落支援員などの制度の導入の検討
<課題>人口の減尐や高齢化に伴い地域活動が成り立たない自治区が多くなってきてい
るなかで、複数の自治区が連携できる仕組みを作らなければならない
○会津美里町が行う「みんなの声をまちづくりにいかす条例」による町民参加の取り組み
について
<課題>参加条例の町民への浸透がうすいこと、それに伴って町民の参加率が低いこと。
そして若い世代の参加がほとんど見られないことが課題。
会津美里町役場での聞き取り調査のなかで、行政が住民参加型の取り組みを提案しても住
民の行政への関心が低いことから効果を得られていないことがわかった。
1
特定非営利活動法人
あいづ関山倶楽部
・概要
あいづ関山倶楽部は平成 12 年に鈴木昭一さん
が中心となってつくられた関山村づくり実行委
員会が、平成 21 年に NPO 法人化したことにより
誕生した。発足理由は「関山の看板をつくる補助
金を得るため」であって、関山の発展など当初
↑古民家を再利用した宿泊施設
は考えていなかった現在の会員数は16名で様々な職種の人が加入している。しかし、主
に活動を企画・運営している人は限られていて全員が積極的に参加しているわけではない
現状がある。
・活動内容
あいづ関山倶楽部では多くの活動を行っており、主な活動として以下などがあげられる。
○田んぼオーナー制度
○ホタル観賞会
○ワークショップの開催
○講演会の実施
○古民家再生事業
○大内宿との交流
○下野街道案内
○他地域視察
その他にも多くの活動を行っており、1つの地区でこ
れだけの取り組みをしているの。しかし、聞き取りを行
った鈴木氏は「地域活性化はどうにもならない」と述べ
ている。すべての地域を救えるかというテーマで学習し
ている我々にとってそれは衝撃的ともいえる言葉であ
った。
・課題
これだけの活動をして、なぜ「地域活性化はどうにもならない」と言い切れるのか。そ
の課題には何があげられるだろうか。
まず鈴木氏があげていた課題としては、資金不足、施設備不足、常勤人員不足、パソコン
技術の未熟さ、NPO の人以外の地域住民との協力不足、関山への受け入れ窓口がないこと
などがあげられた。
我々の感じた関山の発展に向けてのその他の課題としては、他地域との協力や宣伝活動
の充実があげられる。
2
町民活動支援センター準備室サポートみさと
・概要
行政と地域の間に立って様々な活動を支援する中間支援組織。
町民に活動する場を提
供し、生きがい(幸福感)の実現の支援を行う。
“B⁺な町、会津美里”の実現を目指す。こ
の“B⁺”とは、A 級ではないけれど、B 級でもない。そんなちょっと良い町の意味である。
町民支援として重視しているのは住民どうしの繋がりの強化であり、インターネット会議
という町民の座談会の定期的に催し地域活性化に貢献している。
・これまでの主な活動内容
活動
効果・成果
支援内容
活動支援獲得
12 団体を支援
目的に合致した助成金の検
申請金額 342.6 万円
索と助成金申請書の作成
獲得金額 185,2 万円
避難者と町民のネットワー
仮設住宅や避難所のイベン
・おたがいさま新聞の発行
ク構築
トに多くの町民の参加をコ
・にこまるプロジェクトの
ーディネート
参加
・
「さろんならは」で開催す
るイベントのコーディネ
ート
育成事業
・
「市民活動の発展と中間支
研修会と講座の実施
援組織の役割」講座
・
「W・S で解決する自分た
ちの課題」講座
・
「チラシ作成」講座
・映画上映
・
「NPO の作り方」講座
・講演会
・Facebook 講座 「情報発
信力の向上」(全 4 回)
・ネットワーク会議
まちづくり学習会
町の良いところをどう産業
に結び付けるかを考える場
・避難所運営イベント HUG
の体験会
・まちを再生する 99 のアイ
を提供
デア(2 回開催)
他に、広報紙「びーぷらす」を 2 か月おきに発行。
3
八木沢菜の花会
・概要
八木沢地区に菜の花を植えるようになったのは、八木沢地区保全会が遊休農地や耕作
放棄地を利用して、土壌改良や地域の美化運動として菜の花を広範に作ったことがきっ
かけである。はじめは景観を良くしようと菜の花を植えはじめたが、景観だけではもっ
たいないので菜種油を絞ってみてはどうかということから興味のある女性が集まり、平
成 21 年に会が発足した。現在、会員 7 名で活動している。
・活動内容
○菜の花の栽培→遊休農地、耕作放棄地の活用
Point
①無償で土地を借りている。地権者がご高齢であり、地権者側としては何か作ってもらえる
だけでありがたいとのこと。地権者は約 10 名程度。
②農業普及所の指導協力、地元の認定農家の協力があって成り立っている。
③会としての作付け面積は 1ha、全体では 4ha 位の菜の花畑。
○菜種油の販売→搾油(平出油屋委託)
、イベントにて販売、
町内販売所委託(じげんの館、本郷観光物産館、八反町)
Point
①搾油が可能な業者は近郊では会津若松市に 2 件のみ。
②平成 26 年 1,120Kg 搾油
平成 27 年 1,200Kg 搾油予定。
③よくできたものを必要な分だけ収穫している。
④良質なものを作りたいが天候に左右される。
(刈り取り、乾燥等)
⑤ラベル、瓶等デザインにこだわる。結果、コストがかかり原価が高くなってしまう。
⑥販売はイベントでの直売がいちばん良い方法。福島県や会津美里町のアンテナショップ、
観光客の多い販売店 4 店舗に委託しているが販売手数料がかかる。道の駅でも販売したい
⑦利益は現在の段階で運営費にまわっているためなし。
○イベント→菜の花まつり(5 月第 2 日曜日・場所:八木沢公園)
第 1 回 平成 23 年 5 月 原発事故による楢葉町の避難者へ炊き出し
第 2 回 平成 24 年 八木沢地区、自治会、改善組合、安全協会の協力によって開催
第 3 回 平成 25 年 300 人来場
第 4 回 平成 26 年 800 人来場
Point
①菜の花畑が高台にあるので、遠くからも見えるため見学者が大勢くるようになった。
②菜の花会が主催者となり、地区の各種団体の役員が協力。今年はボランティアを募る。
○加工部事業→加工部 3 名により加工所『菜の花工房』設立(平成 26 年 4 月)
凍み餅、シフォンケーキ、クッキー、漬物類、芋餅等を販売
4
Point
①加工所は探していた時に見つかった町の建物を借りた。
②地産地消。
③今後も商品を開発する予定。
④菜の花まつりでの販売を行っている。
⑤料理教室を開催(有名な菓子職人を招いている)
。
・その他
○住民との関わり→自治会事業に協力、ボランティア活動
(健康ウォーキング時お茶等おもてなし、夏祭り、防災訓練等)
婦人会が 10 年以上前に消滅したため、菜の花会が自治区のボランティアを担っている。
町からの要請で、自主防災組織の中で炊き出しの係を担当。訓練も行う。
○活動の PR→町の行事に参加
まだ、自分たちから PR 活動まではできていない。担当課との連携、町のサポート事業、ネットワークの
中で連携し、補助事業など利用しながら進めていきたい。
○今後の課題
①良質の菜種油を地元の人たちにもっと使ってもらえるような手立てを考えていく。
→特に、子どもたちや若者に興味を持ってもらい、良質な油なのでぜひ使ってもらいたい。
②会員増を図り、後継者を育てる。
(人材育成)今の倍の 15 名が目標。
→後継者となるような人が会員になってくれると嬉しい。
③販売ルートの開拓、菜の花畑をもっと広げたい。
→収穫量、経費の問題。
高齢化が進む中で遊休農地を活用し地域おこし、地区住民が協力し合いイベントを行うこ
とで絆が深まり、また地域の農産物等の販売などにもつながり活性化しつつある。菜の花
会の活動が起爆剤となり、地区にある廃校、廃園になった公共施設の利活用で、コミュニ
ケーションの場づくりや観光、新たな事業が生まれることを願っている。
5
▷地域活性化における住民活動の成功例
鹿屋市串良町柳谷集落
・概要
住民活動が地域活性化に結び付いている成功例として鹿屋市串良町柳谷集落を例としてあ
げたい。この集落は 120 世帯 300 人が住む、高齢化が進む典型的な中山間地域の集落で「や
ねだん」の愛称で呼ばれている。このやねだんでは、行政に頼らない「むら」おこしのを
理念として活動を行っている。幼児から高齢者まで活動に自主参加してもらうことを目指
し様々な活動を行っている。自主財源を稼ぎ、それを地域に還元する活動体系であり、余
剰金は1世帯に1万円ずつ配るなど今までには類を見ないような取り組みで全国的に注目
を集めている。
・活動内容
やねだんでの活動は自主財源を稼ぐための活動と、稼いだ財源を地域に還元する福祉・
環境整備・教育・社会貢献など暮らしやすい地域にするための活動に分けられる。
自主財源を稼ぐ活
福祉・環境整備・
動
教育・社会貢献活動
○さつまいもの栽培
○公園の建設
○とうがらしの栽培
○おはよう声かけ運動
○プライベートブランドの芋焼酎の作成
○緊急警報器の設置
○レストランや食品会社との提携
○ウォーキング大会の開催
○地元の主婦たちによる手打ちそば屋の運営
○防犯ベルの配布
○韓国での居酒屋展開
○寺子屋の運営
○東日本大震災への支援活動
行政からの補助金に頼らず、自主財源を得るため
にこれほど多くの活動をしていて、なおかつそれを
成功させ、住民に還元までしている地区はなかなか
ないだろう。また、地域住民が集まる場としての公
園の建設や、おはよう声かけ運動など地域の人々が
触れ合うよい機会になり、住みやすさというものも
↑プライベートブランドの芋焼酎
以前より増しているのだと思う。現実としてこの
集落では人口が増加していて住民活動の成功例であるといえる。
6
▷ 住民活動を活発にするための提案
○地域コミュニティが希薄化しているので、住民どうしが集まる場所を提供する。
○住民と行政との間には温度差がある。行政が住民に人口減尐社会に対する危機意識を持
ってもらうために、情報を広く発信すべきである。
○住民に地方創生に興味関心を持ってもらうため、講演会等の住民参加型のイベントを積
極的に開催する。
○住民の主体性を尊重し、公共性を問わず住民による活動を重視し、行政や他団体がその
活動に協力する。
○住民の主体的な活動を他の地域にも広めていき、他の地域と協力できるような関係性を
つくる。
○子どもたちに自分の住んでいる地域に興味を持ってもらえるような取り組みをする。
▷ 班としての考察
住民活動にこそ地域を救うすべがあるのではないか。行政主体の地方創生に関する政策
は多数おこなわれてきたがその結果は思わしくない。原因は行政機関と住民の間に大きな
溝があることであろう。行政は住民の声を聞く機会をつくっているが住民に関心がないこ
とや無知であるためにその機会をいかせていない。住民がやりたいことを住民主体でやる
ことによって、それが地域の活性化につながるのと考えられる。そのためには、住民の主
体性を尊重し、行政はサポートすることが求められる。住民活動においては、いわゆる縄
張り意識や、観光客などによってごみなどにより環境が悪化される等の理由から活動に参
加していない住民に好意的に思われない場合もあるため、計画の段階から活動における利
点や欠点をすべての住民に理解してもらうことが大切である。また、住民活動だけでは不
足な部分を中間支援組織や行政で補うことが求められるだろう。
7
▷ 個人考察
○阿部南美
住民活動で地域を救えるかというテーマで考えてきたが、今回フィールドワークで訪れ
た八木沢菜の花会のような積極的な住民活動は、実際にイベントの来場者が年々増えてい
ることや、菜種油の出荷量が年々増えていることなどからその地域にもたらす影響は大き
いことがわかる。住民活動で地域は救えると私は感じた。また、一つのある地域の住民活
動を見本として他の地域でも行うことができるのではないかと考えられる。地域が活性化
するような住民活動を多くの地域で行うことができれば、すべての地域を救うことにつな
がるだろう。
○井上翔太
私たちのグループは住民活動に焦点を当てて地域を救えるか考えてきた。個人的には、
あいづ関山倶楽部の鈴木氏の話にあった「地域活性化はどうにもならない」という言葉が
とても印象に残っていた。関山という小さな地区で田んぼオーナー制度やホタル観賞会な
ど様々なイベントを行ってきた鈴木氏が言うのならとても説得力があると思った。
「地域活
性化はどうにもならない」といっていたが、私たちがフィールドワークに訪れたこと自体
成果の表れだと思う。他地区との連携などもっとやれることもあり、地域の衰退への悪あ
がきはできるのだと感じた。
○進藤翔平
地方創生の鍵は何か。行政機関と住民との連携に比べ軽視されがちな住民どうしの関わ
り合いこそが、それにあたるのではないかと考える。地方創生の主役はあくまで住民であ
るべきであり、住民どうしのつながりを強化し、彼らどうしがお互いを刺激し合い、また
協力し合うことこそが、地方創生につながるのではないか。我々は、地方創生というとス
ケールの大きな単位で改革を行おうと考えてしまいがちだが、実際はもっと小さな、一見
取るに足らないと思えることから、地方創生は始まるのではないか。物質的豊かさが重要
視されがちな現代社会において、新たな視点から暮らしやすさを見出しアピールすること
が肝要になるだろう。総じて、地方創生には住民の活性化が不可欠なのである。
○高居里緒
今回の会津美里町でおこなったフィールドワークを通して、行政主体で提示する地域創
生の取り組みだけでは効果があまりないのではないかと感じた。八木沢菜の花会の活動の
ように、住民たちによる活動が例え「地方創生」を意図していないものであっても、それ
が結果として地域おこしに関わっているのではないのだろうか。今、様々な地域で行政は
地方創生の取り組みを行っているが、その際は住民活動に視点を置いていき取り組みを検
討してみてはどうだろうか。住民の主体的な活動が地方創生のカギとなるのではないか。
8