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特集
建築材料の最前線
建築材料としての遮熱塗料
田 端 伸 行(たばた・のぶゆき)
サイペイントジャパン㈱
代表取締役社長
は じ め に
建築材料としての遮熱塗料は,インフラ構築の
ための方法論の一つとして考える時期になりつつ
あるのか。
日本での遮熱塗料普及開始の時期は比較的古
を目的としたものであったはずだ。
①少しのエネルギーしか節約できないのなら,
あまり意味がない。そのためにわざわざコス
トをかける必要はない。
②イニシャルコストを短期間で回収できないの
なら,これを増やすのは無駄なことだ。
く,もうかれこれ 10 年を超えている。
という考え方がその根底に含まれている。
しかし,現実には普及と呼ぶにはまだまだその
インフラが発展している先進国にありがちな考
市場は狭く,発展過程も成長期に突入したとは言
え方である。
い難い。
また,高度成長の真只中で,少しでも早く先進
1. 遮熱塗料の現状
国に追いつきたいと考える中進国にも蔓延してい
る考え方とも言える。
遮熱塗料の歴史は 10 年を一昔とすれば,それ以
地球環境悪化の改善に少しでも協力的であり,
前から存在するものであり,本来ならば既に成長
心からのエコ精神がある人々にとっては恐ろしい
期に突入しているべきである。
発言にも聞こえる。
それよりも普及開始が明らかに遅いアジアや中
それを踏まえれば,前述の①,②の項目は次の,
近東,さらにはアフリカでさえ,充分にその存在
A.B . の項目に置き換えて発言できまいか。
が知られることとなっている現状を考えると,信
A.たとえ僅かでも節約できるエネルギーがあ
じがたいことである。
るのなら,多くの人がそれを行う事によ
確かに,アジア・中近東・アフリカに比べると
り,莫大なエネルギーの節約ができるはず
エアコンの必要な期間は,これらの諸国の半分に
だ。
も満たない日本では遮熱塗料を必要とする期間が
B.イ ニシャルコストの回収期間が,他国の 2
短く,やむを得ない面もあるだろう。
倍必要であっても,最終的にこれを回収
しかし,期間が短いから不要だ,と言うのはあ
し,かつ,二酸化炭素排出を少しでも抑制で
まりにも貧弱な発想である。
きるなら是非とも進めるべきだ。
費用対効果が確かに薄れる事も考えられるが,
世の中には,営利を追求する企業と,社会的イ
それは,少しなら地球環境のことなど考えなくて
ンフラを整備する立場にある公共事業団体とがあ
も良いという結論を導き出してしまうことであ
る。もちろん,それぞれに立場と目的の違いがあ
り,短絡的である。
るため一概には言えないが,いずれも私たちが地
そもそも,遮熱塗料が生まれた本来の理由は,
球と言う星の下に存在し,その中で未来永劫暮ら
地球環境悪化の原因である温室効果ガスの発生を
していかなければならない事を考えれば,環境に
減らすため,地球上で使われるエネルギーの節約
優しい経営論を進めるべきではないだろうか。
Vol.63,No.2(2015)
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前述のふたつの論点を深く掘り下げて考慮した
LED やソーラーシステムなどの投資回収計算
としても,遮熱塗料自体が,他の環境改善機器や
でこのように短期間で回収できるシミュレーショ
製品と比較し,その性能やコストパフォーマンス
ンは見た事がない。
が劣っているとは思えない。
以上のような,内在された問題に気づかず製品
いや,むしろあらゆる環境改善製品と比べて
の購入をする消費者にも若干の問題はある。
も,遮熱塗料の立場は最も上位に位置すべき製品
消費者が気づきにくい「からくり」を逆手にと
であるとさえ思っている。
り,さも,環境製品ですとばかりに自社の製品群
2. 遮熱塗料の優位性
をアピールする販売方法は,現代の世知辛い世の
中を生きなければならない悲しい世界観の広がり
第 1 に,僅かでもエネルギーを節約できる事な
を物語っているように思える。
らすべきである,との考え方だが,環境改善の為
消費者は何を基準に,
真実を見極めたらいいのか。
に,自然エネルギーを活用したとしても,最終的
少しでも社会に貢献したいと本当に思っている
にはアピールをするだけで,結果的にソーラーシ
奇特な人々にとって,真実を見極める方法は,実
ステムや風力発電が地球にやさしいと言う考えに
のところいくらでもある。
は疑問が浮かぶ。
第 1 に掲げた自然産製品は,その製品の技術レ
確かに,これらは風や太陽光といった自然エネ
ベルを調べてみると言う方法もあるが,実はそれ
ルギーを用いて作っているので,環境に優しいと
は簡単そうで,そうでもないと言える。それぞれ
思いこませやすい。
の知識にもより,交流する人脈にもよる。
しかし,現実にはこれらを行うための装置が必
要である。
3. 経済産業省の取組み
その装置の製造にどれほどのエネルギーが使用
しかし,最近では日本国家も頼りになる事業を
されているかはあまり触れられていない。
行っている。
第2に,遮熱塗料を実際に導入した事例とし
経済産業省では,「CFP を活用したカーボンオ
て,1 年中エアコンを使う東南アジアの暑い国の
フセット」という制度を立ち上げ,一般の方々に
スーパーマーケットチェーン店では導入後,エア
もわかりやすい「どんぐりマーク」を表示し,CFP
コン電力料金の減額分でイニシャルコストをわず
認定を行っているのである。
か 1.7 年で回収できると算出したデータがある
これは,特定した製品の材料調達から生産過程
( 第 1 図グラフ参照 )。
までをつぶさに調査し,ひとつの製品になるまで
これを,年間で 4 カ月しかエアコンを使わない
にどれだけのエネルギーを消費し,CO2 を排出し
日本に当てはめてみても,5.1 年で回収できる計算
てきたかを計算する。そして,算出された CO2 排
になる。
出量は二酸化炭素排出権というクレジットを取得
し,相殺して実質全く二酸化炭素を出していない
製品として認識され,当該製品を告知しているの
である。
つまり,製品の製造工程を国が調査し,どのく
らいのエネルギーを使ったか集計して,これと同
等の価値のある植林事業や環境改善事業に投資し
て,環境負荷を実質 0 にした製品を公示してくれ
ているのである。
逆を言えば,環境製品・自然エネルギーを標榜
しているにもかかわらず,この制度に認定されて
いない製品は,製造にどれほどの二酸化炭素を排
出しているのかを公表できない,あるいは,した
第1図
2 JETI
くない,ということになる。
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消費者は,経済産業省の「どんぐりマーク付与
然であり,かつ,地球環境改善への貢献度として
製品」の中から製品を選ぶだけで,本当の地球環
も採用者の裁量に関わってくるものである。
境製品を利用することができ,実際に地球環境に
建築物や公共施設の発注者やオーナーの方々
貢献している生活を送る事になるわけである。
は,現場のことは建設業者に任せると言う無関心
な行動を取っていると,選定業者の不純な利益を
※ CFP を活用したカーボン・オフセット制度とは…
確保してあげたお人よしになるだけで,自らが支
製品等のライフサイクルにお
出した資金が社会や地球環境に何ら貢献すること
ける温室効果ガス排出量 (CFP)
なく実行されてしまうリスクを真剣に考えなけれ
を算定した事業者が,別途取得し
ばならない。
た同量のクレジットにより埋め
公共事業や資金力のある社会インフラ建設に携
合わせ ( カーボン・オフセット )
わるオーナーは,最後まで,当該支出の中で行え
を行ったことを事務局が認証
る価値ある指導を怠らないでほしい。
し,製品に認証マークを添付する
問題点の把握は,以前から指摘してきたとお
事業である。
り,本来の省エネ製品を見極めた報道がなされ
ず,見せかけの広告宣伝や新聞記事で世の中全体
4. 遮熱塗料のスタンダード化
に知識のゆがみが見られる事にある。
しかし,現在は経済産業省という公の機関が,
結論としては,世界中の中進国・後進国でさえす
その問題点を解決すべく,材料の調達段階から調
でに遮熱塗料のスタンダード化が生じ始めている。
査することによって,本当の環境製品の実態を告
遮熱塗料立国であったはずの日本では未だその
知する制度を立ち上げてくれた。
採用に積極的でない建設業者や公共施設設計者が
各機関の設計者やオーナーの方々は,是非この
多い。
制度を活用して,遮熱塗料のスタンダード化の有
遮熱塗料にも,本当に性能が良く,限りなくトッ
用点を見いだしてもらいたい。
プオブベストとして社会環境改善に貢献できる製
品もあれば,ブームに則った名ばかりの劣悪品も
多数存在する。
中には,優良品と劣悪品を混同して,価格の安い
方を購入するという驚くべき建設業者も存在する。
価格は,同等製品を比較して初めて高いのか安
いのかを判断するべきであるのに,実態は自社の
利益拡大の為,単に安価の方を選んでしまう業者
が蔓延している。
万が一,価格が高くてもそのイニシャルコスト
を 2 年以内で回収できてしまう製品と,例え購入
時の価格が安価であっても,永久にその製品のイ
ニシャルコストが回収されることがない製品を購
入したと考えると,どちらが得をしたかは一目瞭
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