SMGレポート 2704 有事のルール-:「マイナンバーの終着点」 [迫りくる法改正の荒波-14] ●身近な処でマイナンバーの旗振り役を買って出ているのは、政府の諮問会議に も名を連ねる、件の業界関係者です。講演は、何れも実務的な課題-情報漏洩に 絡む法的リスクやその防御策=つまり彼らの得意分野・専門分野の話=と、導入 後の社会システムの変化予測、他国の事例等を軸に組み立てられ、細部にわた る解説が行われる一方、制度設計の背景や経緯、国の目指すゴール地点につい て質問が及ぶと、話を逸らして幕引きを図ろうという気配が強くなります。●専門 家である以上、個人・法人を含めた情報の一元的電子化が行き着く先に、何が待 ち受けているか=未来図=は、恐らく察している筈ですが、先の大戦の折、殺人 兵器に使われるかも知れないと薄々感じながら、良心に蓋を被せた科学者達同 様、それを口に出来ないもどかしさと忸怩たる思いが、彼等にもきっとあるのかも 知れません。●処で、彼らが触れようとしない「未来図」とはどんなものなのでしょ うか?電子政府先進国の先例として持ち出される、次の諸国のモデルが、多分そ の答えではないかと思います。ロシアやナチス等、幾度かの侵略や占領を経て、9 1年に旧ソ連圏から独立を果たした、人口僅か134万人ながら徴兵制を持つ、北 欧の小国エストニア。同じ北欧にあって、仏露等との戦争でフィンランドやノル ウェーを失い、今の形となった世界的重火器メーカーの本拠地=そもそもがノーベ ル(ダイナマイトの発明)の出身地=で、昔はヴァイキング、今は福祉国家としての 印象が強い、陸海空3軍(徴兵制は5年前に廃止)を有する人口約1000万人の、 その3分の1が公務員というスウェーデン。そして、38度線を境に北朝鮮と睨み合 いを続ける、政府と財閥が一体化した民主国家、韓国。●何れも周辺国との間 で、常に緊張関係にあるか又はその状態を強いられてきた経緯があり、軍事面で のリスクや防衛機能の強化-徴兵制、3軍制等-が必須とされている事、国土が 狭く人口(韓国はやや例外)もかなり少ない為、統治が行き届き易い点、特に旧共 産圏のエストニアは、ソ連抑圧下にあったハンガリーや対米戦争でインフラの破壊 が激しかったベトナム同様、近代化の遅れを奇貨として、一気に超近代(ex固定電 話を飛越えいきなり携帯電話の時代)へと変貌した点、等の共通項が見られま す。●政府が終着点モデルとして視野に入れているに違いない、IT先進国エスト ニアと韓国、更には、ベトナムの実態について、少し触れてみます。ソ連崩壊以 後、近代化のプロセスを経ないまま、いきなり電子化時代に突入したエストニアの ケースは、ソ連占領下で近代国家構築が遅れていたハンガリーや、戦禍で社会資 本が破壊され、近代化の手前で立ち止まらざるを得なかったベトナムにも当て嵌り ます。旧共産圏という、共通の土壌を背景に持つこれらの国は、統制と管理を実 施しやすい電子化を一斉に採用。ベトナムでは、国民個々にIDナンバーがいち早 く割り振られ、情報が当局に一元的に管理された結果、鉄道等を利用して県境を 越える事すら制限され、エストニアでも旅客チケット購入の際、マイナンバーが要 求されるとの事。民主国家において、最も尊重されるべき「自由」が、いとも簡単に 骨抜きにされている様子が伺えます。韓国も、似たり寄ったりの状況です。韓国で は、カード決済が盛んに奨励されているそうですが、その狙いは、購買を通した国 民一人一人のデータ収集を円滑に行う事にある、とみてほぼ間違いありません。 そして、データ収集と情報管理を請け負うのは一体誰なのか-最早、云うまでもな いでしょう。●私達を待ち受けている未来図が、もしこのようなものだとするなら、 かのジョージオーウェルが描いた「1984年」の世界と、どこが違うというのでしょう か?私達にとって、決して蔑ろに出来ない問題だと思われます。 <次号>
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