2015/11/11 第7回:ゲノム創薬: 従来の創薬とゲノム創薬の違いを、科学的 背景、経済的背景および創出国の観点から 理解し、概説できるようになる。 【学習方法】 講義 2015.11.11(水) The Journal of Clinical Investigation | January 2000 | Volume 105 | Number 1 *遺伝子治療(DDS) *ペプチド製剤(DDS) ・安定化 ・ターゲッティング ■新薬開発の流れ 新規遺伝子 相対する蛋白 疾患との関連性 スクリーニング法 2~3年 阻害物質・活性物質の探索 化合物の最適化 製造方法 3~5年 非臨床試験 3~7年 製剤設計 ・経口(化合物→製剤) ・安定性が主体 ・スピードが優先される 臨床試験 申請 承認 1~2年 上市 米国研究製薬工業協会 「製薬産業を取り巻く諸問題」から抜粋 (9~17年、<1900億円 ) :特許出願 新薬のライフサイクルマネージメント 発現する蛋白 2015/11/11 これまでの創薬 3種類の創薬ターゲット分子 低分子とタンパク質との相互作用 酵素 高分子と高分子との相互作用 高分子 低分子 基質 受容体など 酵 素 高分子 米国研究製薬工業協会 「製薬産業を取り巻く諸問題」から抜粋 これまでの創薬 3種類の創薬ターゲット分子 低分子とタンパク質との相互作用 • G-タンパク質共役型受容体 • 核内受容体 • イオンチャンネル 酵素 • 低分子基質に対する酵素 • 高分子基質に対する酵素 高分子と高分子との相互作用 • 細胞分化・増殖因子 • 細胞接着分子 • シグナル伝達分子、転写因子 これまでの創薬 2015/11/11 薬が上市されるまでの過程 2~3年 これまでの医薬品が抱える弊害 新規物質の創製 物理化学的性状の研究 ①創薬ターゲットの探索においては・・・ ⇒網羅的なシーズの探索を行ってきた。 スクリーニング 3~5年 ①について 探索研究では、網羅的な創薬ターゲットの探索が必要で あり時間と労力が掛かる。 ゲノム創薬では・・・ 薬効薬理研究 薬物動態研究 一般薬理研究 G L P 3~7年 ゲノム創薬は、遺伝子情報を駆使することによって 既存の薬と比べ、より有効性が高く副作用が少ない薬 を生み出すことができる新しい医薬品開発の方向性を 有している。 特許出願 G C P 一般毒性研究 特殊毒性研究 第I相試験(Phase I) 第II相試験(Phase II) 承認申請 (2~3年) 第III相試験(Phase III) ゲノム創薬が有する利点 ① 病気に関連する新規創薬ターゲット分子の発見 ② 病気に関連する新規診断薬のターゲット分子の発見 ③ 治験段階でのゲノムデータの応用 薬効が予想される被験者だけを選択し治験を実施する • ヒトの全遺伝子の構造と機能、全タンパク質の 構造と機能の網羅的な解析、疾患関連遺伝子 の同定、遺伝子多型と疾患との相関性などの 膨大な情報を利用して合理的な創薬を行う。 ことにより他の薬剤との差別化を行うことが可能 ④ 化合物の毒性・安全性を遺伝子の発現パターンから 研究開発の早い段階で予測することが可能になる 2015/11/11 イマチニブメシル酸塩 (グリベック錠) 開発の経緯(1) 米国、日本で2001年承認 ノバルティスファーマ社 適応症 慢性骨髄性白血病 KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍 フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病 Bcr-Ablタンパク質には活性部位が 2か所ある。 Tyr 最初のターゲット部位 シグナル分子 基質結合部位 ATP 結合 結合 ① Bcr-Ablタンパク質 p210BCR-ABLタンパク質のようなチロシンキナーゼに は活性部位が二つあり、一つはリン酸化されるチロシン 残基を持ったシグナル分子が結合する基質結合部位で あり、もう一つはそのチロシン残基に結合するリン酸を 供給するためのATP結合部位である。ところで、生体内 では多数のチロシンキナーゼがシグナル伝達分子とし て働いており、その全てのチロシンキナーゼを阻害して しまった場合、重大な副作用が生じることが考えられる。 ATPは全てのチロシンキナーゼが必要とする共通の分 子であるが、基質結合部位はそれぞれが対象とする基 質によって異なるため各チロシンキナーゼに特異的であ り、選択的な阻害作用が期待された。そのため、当初は この基質結合部位をターゲットにした創薬研究が行われ たが、どれも世に出るまでにはいたらなかった。 開発の経緯(2) 1990年代の半ばから、ATPに拮抗的に働く阻害剤がチロシンキナー ゼに対する優れた選択性と強力な阻害活性を示すことが明らかにな り、ATP結合部位をターゲットとした創薬研究がスタートした。まず、 リード化合物Ⅰがセリン・スレオニンプロテインキナーゼであるプロテ インキナーゼCに対してATP拮抗型阻害形式を持つ化合物としてスク リーニングから見出された。次に、このリード化合物Ⅰに3‘-ピリジル 基を導入した化合物Ⅱは、短工程かつ効率よい合成経路で得られ阻 害活性も高まったが、p210Bcr-Ablタンパク質に対してだけでなくプロ テインキナーゼCに対しても強い阻害活性を示し、選択性が低かった。 ATP結合部位 H N N ② N 化合物I 化合物II N 2015/11/11 開発の経緯(3) 開発の経緯(4) 続いて化合物Ⅱにアミド基を導入するとp210BCR-ABLタ ンパク質に対する阻害活性をより強力にすることができ たが、プロテインキナーゼCに対する阻害活性を消失さ せることはできなかった。(化合物Ⅲ)しかし、さらに化合 物Ⅲにメチル基(flag methyl)を導入すると、チロシンキ ナーゼに対する阻害活性は変わらないままにプロテイン キナーゼCに対する阻害活性を消失させることができた。 H N N H N N N N N N H N (化合物Ⅳ)最後に、化合物ⅣのRがフェニルアミノ基 である化合物ⅤにN-メチルピペラジンを導入し溶解性 と経口のバイオアベイラビリティを向上させてイマチニ ブが完成した。 化合物V flag methyl R 化合物IV O flag methyl 化合物II イマチニブ 化合物III 化合物IV 消化管間質腫瘍(GIST)について 消化管間質腫瘍は、KITチロシンキナーゼの異常活性が 腫瘍の増殖に関与している。 すなわち、c-kit遺伝子が機能獲得性突然変異を起こし、 KITチロシンキナーゼ活性が亢進している。 グリベックインタビューフォーム 2015/11/11 慢性骨髄性白血病の原因遺伝子に関する研究 (1) 1960年にペンシルバニア大学癌研究所の David A. Hungerfordらは、慢性顆粒球性白血 病患者の末梢血由来細胞の染色体の中の4つ の常染色体に置換(転座)が起こっていることを 報告した。また、一方で急性の白血病患者には そのような遺伝子変異が認められないことも併 せて報告した。 慢性骨髄性白血病の原因遺伝子に関する研究 (2) 1973年にシカゴ大とフランクリンマクレーン記念研究 所のグループは、Natureに慢性骨髄性白血病と染色 体転座との相関について報告した。報告の中で研究 者らは、慢性骨髄性白血病の原因遺伝子の解析を 行った。 Nature, Vol.243, 290-293(1973) Science, Vol.132, 1497-1501(1960) 慢性骨髄性白血病の原因遺伝子に関する研究 (2) リード化合物の探索(スクリーニング実験) Case 1 9名の慢性骨髄性白血病患 者由来の末梢血を調べたと ころ、すべての染色体にお いて、フィラデルフィア染色 体が認められた(Fig.2)。 Fig.2の9番染色体の隣の 染色体には、下にさらに染 色体が付加している。 Case 2 Case 3 PMID:7892601 Nature, Vol.243, 290-293(1973) Science, Vol. 267, 1782-1788(1995) 2015/11/11 ② ① レセプターチロシンキナーゼについて ② タンパク質チロシンキナーゼは、細胞増殖や細胞分化、 免疫システムにおけるシグナル伝達を制御している。レ セプターチロシンキナーゼは、膜貫通型のシグナル伝 達に関与しており、このタンパク質が制御不能になると 炎症反応を誘導し、がんやアテローマ性動脈硬化症、 乾癬などを引き起こす可能性がある。 ② チロシンキナーゼインヒビターに 対して2つの考え方がある。 ① チロシンキナーゼインヒビ ターレセプターへの成長因子等 の結合を阻害する。 ex. ハーセプチン(HER2抗体)、 ATP ② 活性化されたレセプターチ ロシンキナーゼの相互作用を阻 害する。 天然物由来の阻害剤 OH OH Quercetin, Genistein, Lavendustin A, Erbstatin, Herbimycin Aなどが真菌抽出物からチロシンキナーゼ 阻害剤として単離された。そこで、これら化合物の分子 骨格をもとにして修飾を行い、より活性の高い薬物候補 物質を探索した。 HO H N O N H OH OH O Quercetin Genistein イマチニブメシル酸塩 2015/11/11 合成チロシンキナーゼ阻害剤 Quercetin, Genistein, Lavendustin A, Erbstatin, Herbimycin Aなどをもとに、より活性の高い、選択性の 高い化合物を探索した。 H N O NH O HN Lavendustin A analog EGFR、HER2 kinaseともに作用 Lavendustin A analog EGFRに作用。HER2 kinase不活性 プロテインキナーゼ活性阻害作用 グリベックインタビューフォーム PMID: 8616716 (1996) Nature Med., Vol.2(5), 561-566 チロシンキナーゼの自己リン酸化阻害作用 2015/11/11 イマチニブの細胞増殖抑制作用 Ablチロシンキナーゼファミリーについて Ablは核における独自の作用で細胞周期の進行と遺伝 毒性ストレスへの応答を制御している。Ablのキナーゼ 活性は、DNA損傷により誘導される。Ablの過剰発現は、 細胞周期がG1期で停止する。 Bcr-Abl融合蛋白質は、過剰なキナーゼ活性を示し、細 胞分裂や抗アポトーシス経路をアップレギュレートする。 さらに、白血病細胞上の接着レセプターの機能を変化さ せる。 海外における臨床試験結果 慢性骨髄性白血病(CML)について 骨髄造血幹細胞の増殖は、遺伝子情報のシグナル伝 達によって正常にコントロールされている。しかし、慢性 骨髄性白血病(CML)では、第9番染色体と第22番染色 体が相互転座し、Abl遺伝子とBcr遺伝子が融合した Bcr-Abl遺伝子を持つ異常染色体(Philadelphia染色体) が形成されている。
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