伊 藤 塾 1-2 解法ノート~解析編~ 1 問題の分析 □ 問題となる条文の抽出 → 94条2項 ↓ 第94条2項 前項の規定による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない。 解法ノートには技術編と解析編があり、 ⑴ 形式的根拠(条文) 思考プロセスが明確化し、苦手意識が払 解釈が必要となる民法94条2項は,「善意」という各人の主観を保護要件としている。 拭できる。 ☞ 各人に94条2項を当てはめて,保護に値するかを個別に(相対的に)判断するのが条文の文言には 素直といえる〔相対的構成〕。 vs. 民法94条2項の趣旨は,帰責性のある本人の犠牲のもと,善意者を保護する点にある。 ☞ 善意者になんらかの不都合が生じる解釈は,趣旨に反し,妥当ではない〔絶対的構成〕。 ⑵ 実質的根拠 ⒜ 価値判断 絶対的構成説(判例・通説)は,『法律関係の早期確定と簡明』という価値判断に立脚している。 具体的には,善意のCが登場した段階で,以後のAの無効主張を封じ,その反射としてCに虚偽表示 の対象となった財産につきかかる権利を確定的に取得させ,法律関係を早期に確定させる。 その結果,CがAから所有権を承継取得した場合と同じように考えればいいので,Cによる虚偽表示 の対象となった財産の処分につき,なんら制約はなく(記述アエ),取引の安全に資することになる。 また,「Aとの関係で,Cの所有権取得は有効だが,悪意の転得者Dによる抵当権設定は無効であ る」といった法律関係の複雑化を回避することができる(記述ウ)<絶対的構成説の根拠>。 ⒝ 結論の妥当性 絶対的構成説によれば,悪意者が故意に善意の第三者を介在させれば,当該悪意者も有効に権利を 取得することができるという不都合が生じます(記述イ)<絶対的構成説への批判>。 ↓他方 この批判に対し,絶対的構成説は,Cが“わら人形”に過ぎない等の不都合が生じる場合には,信 義則(1条2項)などの一般条項を適用して妥当な結論を導けばよいと反論します<絶対的構成説の 根拠>。 ↓もっとも 信義則(1条2項)などの一般条項を持ち出すことは,それに違反するかどうかの基準が曖昧であ って,紛争解決基準である民法の解釈論として不安定さがあることは否めません(記述オ)<絶対的 構成説への批判>。 -1- 第1回~基本編~ 司法書士試験 論点のまとめ表を使用している ◆ 留意点 ので、学習効率が上がる。 信義則を用いるとは,具体的には“わら人形”に過ぎないCとDを一体とみて悪意者と扱う法律構 成を意味します。 ①94Ⅰ ②譲渡 C D A B 善意 悪意 悪意者 3 各説の主張の整理 相対的構成説(設問見解) ❶【主張】 転得者Dの善意の場合は保護し,悪意の場合は保 護しない 絶対的構成説(大判昭6.10.24,通説) ❷【批判】(記述アエ) 転得者Dが悪意の場合,DはAからの返還請求を 拒めず,善意者Cが追奪担保責任(561条)を追及 されることになる ↓その結果 Cは,善意者としか取引をすることができず,C の財産処分権が事実上制約され,Cを保護した意 味がなくなる ❸【批判】(記述ウ) Aとの関係で,相対的にDの権利取得の効果を決 すると,法律関係が複雑になる ❺【批判】(記述イ) ❹【主張】 善意者Cを“わら人形”として介在させれば,悪 ひとたび善意者Cが現れれば,転得者Dは,たと 意者Dも保護されることになるが,この結論は妥 え悪意であっても保護されるべきである 当ではない ❼【批判】(記述オ) ❻【反論】 信義則などの一般条項に違反するかどうかの基準 Cが“わら人形”に過ぎない等の不都合が生じる が曖昧であって,紛争解決基準である民法の解釈 場合には,信義則(1条2項)などの一般条項を 論として妥当ではない 適用して,Dの権利取得を否定すればよい 最後の結びで、ポイントをまとめ、知識 問題にも対応できるように講義で補足 を行う。 4 結 び ⑴ 本問のポイント 本問を通じて学んで欲しい考え方は2点あります。 第一に,判例・通説が絶対的構成説を採用する理由は,「法律関係の早期確定と簡明」という点にあ ることです。法律関係を早期に確定しないと,取引の安全を害する結果となります。民法の解釈論の基 本的な志向として,押さえておきましょう。 第二に,信義則(1条2項)などの一般条項に依る紛争の解決は,可能な限り排斥すべきという考え 方です。極論を言えば,信義則と権利濫用(1条3項)の二か条があれば,民法の他の条文が不要とな り兼ねないからです。 推論対策講座 -2-
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