『株主制度(ふるさと納税)』から見るクラウドファンディングの可能性

研究論文(ドラフト、コメント歓迎)
クラウドファンディングの金額ときっかけに関する分析
~ふるさと納税の納税金額データと納税者へのアンケート調査結果からの接近~
昭和女子大学
保田 隆明
Showa Women's University, Takaaki Hoda
連絡先
研究室:
東京都世田谷区太子堂1-7-57
昭和女子大学1号館9T39研究室
03-3411-0852(研究室電話&FAX番号)
[email protected]
【謝辞】
本稿の作成に当たり、北海道上士幌町、北海道東川町(50 音順)には、各町長はじめ多く
の職員の方々に大変なるご助力をいただいた。ここに記して深く感謝申し上げる。また、
本研究は科研費 24530368 より助成を受けた。なお、本稿における誤りはすべて筆者の責に
帰するものである。
1
研究論文(ドラフト、コメント歓迎)
クラウドファンディングのきっかけと動機に関する分析
~ふるさと納税の参加者へのアンケート調査結果からの接近~
昭和女子大学
保田 隆明
[email protected]
要旨
本論文では、自治体版クラウドファンディングであるふるさと納税のデータをもとに、
主にふるさと納税での納税金額に影響を与える要因と資金提供者のきっかけや動機に接近
した。以下、主に 3 つの発見があった。1 点目は、ふるさと納税での平均納税金額は、自
治体への訪問歴や居住歴あるいは友人知人がいるなど、何らかの関係がある人たちの方が、
全く接点のない人たちよりも高くなる。したがって、ふるさと納税以外の施策で事前に潜
在資金提供者と接点を持つことが重要である。2 点目は、案件を告知する上では、20~40
代の比較的若い年代にはインターネットメディア、それ以上の年代ではテレビ・ラジオ、
クチコミが重要となる。特に、調達金額や知名度がまだ低い場合は、関係者や近隣の人た
ちへのクチコミがより重要となる。3 点目は、リピーターの確保には、事後のリアルな交
流の機会の創出が有効である。以上の発見は、クラウドファンディングにも適用可能だと
考えられる。
キーワード:クラウドファンディング、ふるさと納税、上士幌町、東川町、アンケート調
査
1.
はじめに
本論文では、わが国で近年存在感を増しつつあるクラウドファンディングの参加者の動
機やきっかけを分析することを通じて、今後のクラウドファンディングの発展のために必
要な要素を浮き彫りにしようとするものである。クラウドファンディングに関してはその
世界的な市場規模は 2013 年には 50 億ドルを超えたと見られている1。
従来、企業による資金調達手法としては、金融機関から融資を受けるあるいは株式を発
行するという大きく 2 つの手段しかなかったが、第三の手段として、クラウドファンディ
ングを通じて多数の個人から資金を提供してもらうということが可能になりつつある。特
に、株式発行を伴うエクイティファイナンスによる資金調達は、株式を上場している企業
あるいは今後株式上場を目指す企業のみに実質的に限定されているものである。現在わが
国において上場している企業は 4,000 に満たず、年間新規上場件数が 100 件程度であるこ
とを勘案しても、エクイティファイナンスは非常に限られた企業群にのみ実行可能な手法
であることがわかる。一方、金融機関からの融資の場合は、元本の回収可能性が非常に高
いことが求められるため、成長資金には向かないという欠点がある。したがって、現実問
題としては、エクイティファイナンスでも金融機関の融資でも対応できない資金調達ニー
1
massolution(2013).
2
ズが多数存在することが考えられる。そこに登場したのがクラウドファンディングである。
この新たな資金調達手法の拡大は、わが国における成長資金の厚みを増すという意味で非
常に重要である。そのためには、どのような案件が資金調達に成功しやすいのか、あるい
はどういう人たちが資金を提供しているのか、なにが彼らのきっかけや動機となっている
のかなどに関して分析を行うことが必要となる。しかし、現在、国内では各クラウドファ
ンディング事業者同士が激しい競争を繰り広げており、分析を行うために必要なデータを
提供してもらえる状況にはない。
一方、わが国においては、ふるさと納税制度という自治体によるクラウドファンディン
グが広まりつつある。ふるさと納税は、わが国特有のユニークな形態があるが、資金提供
者が得られるメリットや動機という観点では、企業が実施するクラウドファンディングと
共通する事項も多い。そのため、ふるさと納税の分析を行うことを通じて、クラウドファ
ンディングへの示唆も得る事は十分に可能だと思われる。そこで本稿では、北海道上士幌
町と北海道東川町からデータの提供を受け、自治体のふるさと納税のデータをもとに、主
にふるさと納税での納税金額に影響を与える要因と資金提供者のきっかけや動機に接近し
た。分析の結果は、以下 4 点に要約できる。1 点目は、ふるさと納税での平均納税金額は、
自治体と何らかの関係がある人たちの方が、全く接点のない人たちよりも高くなるため、
資金調達者は潜在資金提供者と事前に接点を持つことが重要である。2 点目は、お礼の品
の特産品を目当てとしてふるさと納税を実施したと考えられる層の平均納税金額が、相対
的に高くなることである。ゆえに、お礼の品の魅力度合いは資金調達額の多寡に直結する。
3 点目は、案件を告知する上では、20~40 代の比較的若い年代にはインターネットメディ
ア、それ以上の年代ではテレビ・ラジオ、クチコミが重要となる。特に、調達金額や知名
度がまだ低い場合は、関係者や近隣の人たちへのクチコミがより重要となる。4 点目は、
リピーターの確保にはなんらかの交流の機会の創出が必要となる。以上の発見はクラウド
ファンディングにもおおむね適用可能だと考えられる。
本研究の貢献は、以下の 2 点である。まず本稿は、著者の知る限り日本で初めて自治体
によるクラウドファンディングであるふるさと納税における参加者のきっかけと動機に接
近した研究である。これによりクラウドファンディングを通じて資金調達をしようとする
各機関(自治体、企業)は、より効率的にマーケティングを行うことが可能であり、同市
場の発展に繋がりうるものである。2 つ目は、ふるさと納税の納税金額の分析を多面的に
タイプ別に行ったことである。これにより納税金額に影響を与える要因がより明らかにな
った。また、それらをクラウドファンディングのコンテクストに置き換えて検討した。以
下、2 章にてふるさと納税におけるクラウドファンディング的要素を整理し、3 章で先行研
究と本稿での分析内容、4 章でふるさと納税の納税額のタイプ別分析、5 章でふるさと納税
者のきっかけ分析、6 章でふるさと納税者の株式投資経験の把握、7 章でふるさと納税の地
域交流に与える影響、8 章で結論をまとめる。また、補論でふるさと納税による経済効果
を試算した。
2.
ふるさと納税におけるクラウドファンディング的要素
山本(2014)、松尾(2014)が指摘している通り、クラウドファンディングという言葉が指す
範囲や定義は、研究者によってまちまちである。山本(2014)は「すべてに共通している重
3
要な要素は、
『銀行、投資家など金融の専門家ではない「クラウド」から「ファンディング」
する』ということ」と述べている。また、松尾(2014)は、
「通常、ネットを通じた不特定多
数からの資金調達をこの名称で呼んでいる場合が多く、その資金調達には、寄付、物品・
サービス購入、投資などが含まれる」としている。ただし、ネットに関しては山本(2014)
は、クラウドファンディング事業者が仲介としてウェブ上に介在することは必須要件では
なく、資金調達者と資金提供者は基本的には直接的な関係が結ばれると述べている。これ
らが観点からは、資金調達主体が企業、自治体、あるいは個人であるなどは関係なく、ク
ラウドファンディングが成立するということになる。そこで、ふるさと納税は、自治体が
実施するクラウドファンディングと定義づけることが可能であると考える。なお、以下で
は、混乱を避けるために企業が資金調達のために実施するクラウドファンディングをクラ
ウドサンディングと呼ぶ。
クラウドファンディングの概要、現況および類型については山本(2014)および松尾(2014)
に詳しいが、ここでは、本稿で対象となるふるさと納税との比較をしやすくするために、
類型についてのみ概括しておく。山本(2014)、松尾(2014)ともに指摘するように、クラウド
ファンディングには寄付型、購入型、投資型の主に 3 つの類型が存在する。山本(2014)の
定義を引用すると、寄付型は「資金提供者へのリワードはなし」、購入型は「資金提供者は
金銭以外のリワード(モノ、サービス)を受け取る」というものである。なお、寄付型の場
合は、資金提供対象が寄付金控除の対象となっていれば、税金面でのメリットが受けられ
る。具体的には、寄付金の金額から 2,000 円控除した金額、またはその年の総所得金額と
退職所得金額と山林所得金額の合計の 40%の金額の少ない方が控除対象となる2。
一方、ふるさと納税は、自分の支払う所得税・個人住民税の一部を自らが希望する都道
府県や市区町村に対して納税できる制度である3。自治体へ寄付を行い、その大半(2,000
円を超える部分)を上の寄付型のクラウドファンディング同様、税金の控除や還付という
形で受け取る。ただし、ふるさと納税の場合は、この実質的なキャッシュバック金額は住
民税の 10%が上限とされている。上限を超える分の寄付金は自己負担となる。住民税の金
額は所得、家族構成、居住地によって異なるが、北海道上士幌町では、ふるさと納税で支
払う金額のうち 2,000 円を超える分が全額控除される寄付額の目安、という参考資料をウ
ェブサイトに掲載している4。それによると、夫婦または共働きで子一人(高校生)の家族
構成で、給与収入が年間 400 万円のケースだと 2 万円、同じ家族構成で年間 500 万円だと
3 万円、600 万円だと 3.9 万円、700 万円だと 5.5 万円となっている。これらのケースでは、
いずれもそれら金額の範囲内の寄付額であれば、実質自己負担金額は 2,000 円で済むとい
うことになる。なお、この上限金額は、平成 27 年 4 月以降は住民税の 2 割まで引き上げら
れる予定である5。
総務省が 2013 年に実施した調査によると、約半数の都道府県・市区町村はふるさと納税
2
多くの人にとっては前者となるため、例えば 1 万円を寄付した場合は 8,000 円が税金からの控除額とな
り、この場合の実質的な自己負担額は 2,000 円となる。
3
ふるさと納税という名称から誤解を生みがちであるが、自分の生まれ故郷に限定されず全国どこの自治
体へも寄付をすることが可能である。
4
つまり、自己負担を 2,000 円に抑えて、いくらまでふるさと納税が可能かという金額。
5
平成 27 年度税制改正大綱。
4
をしてくれた人に対して、お礼の品として地元の特産品等の送付を行っている。納税者側
もこの特産品を目当てとしてふるさと納税を行う場合が少なからず存在し、ふるさと納税
で受け取ることのできる特産品を紹介するポータルサイトなども存在する6。この場合、ふ
るさと納税は単なる寄付行為ではなく、実質的に一般消費者が 2,000 円の負担で各地の特
産品を購入しているのと同じ経済メカニズムになり、類型としては購入型クラウドファン
ディングと同じということになる。このように考えると、ふるさと納税は特産品が送付さ
れない場合は自治体による寄付型のクラウドファンディング、特産品が送付される場合は
購入型のクラウドファンディングと考えることができる。実態は、同じ一つの自治体が実
施するふるさと納税でも、寄付型と購入型の両方を実施している(納税者が選択できる)
場合もある。
なお、ふるさと納税で特産品を受け取る場合は、資金提供者が 1 人でも成立する一方、
実際の購入型クラウドファンディングの場合は、複数の資金提供者が登場して調達目標金
額に達して初めて案件が成立するケースが多い7という違いがある。また、ふるさと納税と
クラウドファンディングでは、資金調達側の信用力が異なることに留意する必要がある。
寄付型のクラウドファンディングであれば心配する必要はないが、企業が実施する購入型
のクラウドファンディングにおいては、商品開発の失敗や、提供される商品のクオリティ
が担保されないというリスクがある。一方、ふるさと納税では北海道夕張市のように財政
破綻となる自治体も存在するが、基本的には信用力には問題はなく、お礼の品の特産品は
確実に届けられる。これら信用力の問題も勘案すると、お礼の品を伴うふるさと納税は、
むしろ寄付型と購入型のハイブリッドのクラウドファンディングであると言えよう。よっ
て、お礼の品を有するふるさと納税の分析を通じての、企業が実施するクラウドファンデ
ィングへの接近は、寄付型と購入型のハイブリッド形態からの接近にならざるを得ない。
3.
3.1
先行研究と本稿での分析内容
クラウドファンディングに関する先行研究
クラウドファンディングの現況や概要については、massolution(2013)や山本(2014)、松尾
(2014)に詳しい。また、どのようなクラウドファンディングが資金調達において成功する
かという視点で分析をしたものには、Mollick(2014)、Agrawal et al.(2013)、Belleflamme et
al.(2014)が存在する。Mollick(2014)は、Kickstarter という米国のクラウドファンディングサ
イトのデータを分析し、資金調達者の個人的なネットワーク網(Facebook の友達数)、案
件の質(案件内容の紹介ビデオがあるかどうか)、事業と地域との親和性8、資金調達案件
の地域の人口の多さが資金調達の成否に影響していることを明らかにした。また、
Mollick(2014)によると、資金提供者は案件の質をきちんと見極めている可能性が高く、質
のいい案件は資金提供者を呼び込み、当初資金提供者が次の資金提供者を呼び込むという
循環が起こっている可能性を指摘している。Agrawal et al.(2013)は、オランダの Sellaband
6
「ふるさとチョイス」や「さとふる」など。
massolution(2013)によると、調達目標額に届かなくとも集まった資金を資金調達者に提供するクラウド
ファンディングプラットフォームが、世界で 2 割ほど存在することが報告されている。その場合、クラウ
ドファンディングとふるさと納税は、その点においては違いはないということになる。
8
ロサンゼルスなら映画、サンフランシスコならゲームやデザインというように、クラウドファンディン
グで資金調達を行って実施する事業と、その地域との親和性が高いと資金が集まりやすい。
7
5
というミュージシャン用のクラウドファンディングのデータをもとに分析し、資金調達者
と資金提供者の地理的な距離の近さ、人間関係の近さが資金調達に影響すると報告してい
る。Belleflamme et al.(2014)では、商品開発を伴うクラウドファンディングにおいて、資金
を調達する起業家が、どういう状況で購入型のクラウドファンディングを好み、どういう
状況では開発した商品からの利益配分を好むのかを分析している。
一方、クラウドファンディングにおける資金提供者の属性や、動機、きっかけに関する
研究は、国内外いずれにおいても筆者の知る限り存在しない。
3.2
ふるさと納税に関する先行研究
ふるさと納税をクラウドファンディングと捉えて、その資金提供者の属性や納税金額に
影響する要因を分析したものには保田(2014)が存在する。それによると年代では 40 歳前後
及び 60 歳前後が多く、地域別では北海道在住者および関東圏在住者の割合が高いことを示
している。また納税金額の分析では、東川町に対して初めてふるさと納税を実施する人よ
りも、同町へのふるさと納税が 2 回目以降の人たちの方が、そして地域では北海道在住者
のほうが他の地域の在住者よりもふるさと納税での金額が大きくなっている。また、東川
町ではふるさと納税に対するお礼の品は希望者のみに送られており、特産品を受け取る人
と受け取らない人で納税金額を比べると、特産品を受け取らない人のほうが納税金額が高
いという結果が出ている。これら分析結果を受けて、保田(2014)では、モノではなく町づ
くりの思想や理念に共感する人の方がより多い金額を拠出する可能性があると主張してい
る。
これら資金提供者の属性や金額の分析結果は、企業または自治体が効率的にクラウドフ
ァンディングを実施する際にアプローチすべきターゲット層を浮き彫りにしている。ただ
し、あくまでも 1 自治体の事例であるため、一般化して考えるには注意が必要である。ま
た、資金提供者の動機やきっかけを分析するには、より直接的に資金提供者に対してヒア
リングを行うなどの分析が必要となる。
3.3
本稿での分析内容
本稿では、主に二つの分析を実施する。1 つは北海道上士幌町のふるさと納税のデータ
分析である。保田(2014)では、北海道東川町のデータを分析したが、他の自治体のデータ
も分析することで、より、ふるさと納税の金額の決定要因が見えてくる。特に、北海道上
士幌町は、ふるさと納税による資金調達額が平成 25 年度、平成 26 年度ともに日本でトッ
プクラスになっており9、ひとつの代表的な事例として扱うことが可能だと考えられる。2
つ目は、ふるさと納税の資金提供者に対するアンケート調査をもとにした分析である。北
海道上士幌町および北海道東川町が独自に実施したアンケート調査結果を提供してもらい
分析した。アンケートの目的、内容(項目)、時期は 2 つの自治体で異なるため、単純比較
はできないが、資金提供者の動機やきっかけの全体像を掴むには非常に有益な分析だと考
える。これらを通じてクラウドファンディングの資金提供者に関しての示唆を得たい。
9
上士幌町による平成 26 年度のふるさと納税による資金調達額は平戸市、玄海町についで、日本で3位
の見通し(著者推定)。
6
4.
ふるさと納税の納税額のタイプ別分析
4.1
北海道上士幌町のふるさと納税の概要
上士幌町は人口 5,000 人弱の町であり、人口 17 万人弱を有する帯広市から北へ 38km(車
で約 50 分)、とかち帯広空港からは 70km(車で約 80 分)に位置する。同町はふるさと納
税制度には、制度が開始された 2008 年から取り組んでいる。熱気球が有名であり、町では
1974 年から毎年熱気球フェスティバルを開催している10。上士幌町のふるさと納税による
調達額および件数は表 1 のとおりであるが、上士幌町でお礼の品の特産品の提供を開始し
たのは、平成 23 年 8 月のことであり、それを機にふるさと納税の件数が増えていることが
見て取れる。
表 1:上士幌町のふるさと納税による資金調達額推移
件数
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
平成24年度
平成25年度
平成26年度
1
26
17
372
969
13,278
51,090
調達総額(円)
50,000
10,523,956
10,896,100
9,841,011
15,959,020
243,503,104
909,568,507
1件当たり
平均額(円)
50,000
404,768
640,947
26,454
16,470
18,339
17,803
出所:上士幌町のウェブサイト掲載データをもとに著者作成。
注:各年度 4 月〜3 月(以下同様)
。ただし、平成 26 年度は平成 27 年 3 月 1 日現在までの数値。
上士幌町がお礼の品として提供する特産品のうち、十勝ナイタイ和牛というブランド牛
肉が特に人気である11。この和牛はふるさと納税が始まる前から上士幌町がブランド化に
取り組んできたものであり、A4、A5 ランクの和牛だけが十勝ナイタイ和牛となれる。そ
のような高級和牛がお礼の品で提供されるということで、各メディアに取り上げられるよ
うになった12。また、平成 25 年 12 月にはクレジットカードによる支払いを導入した。こ
れはインパクトが大きく、同じタイミングでふるさと納税のポータルサイトに対してバナ
ー広告を掲載したこともあり、平成 25 年 12 月の 1 ヶ月間だけで 1.1 億円弱のふるさと納
税を調達した13。
お礼の品で提供される特産品の価値は、寄付金額の半分程度(返礼率 50%程度)という
のが業界の慣行になっている14。この返礼率の数値を引き上げると、より多くのふるさと
10
1982 年からはそれまでの夏開催に加え、冬開催のフェスティバルも開催し、それ以降は年に 2 回開催
している。
11
ふるさと納税のポータルサイトの国内最大手である「ふるさとチョイス」によると、同サイトにおい
て最も検索件数の多い特産品は肉とのことである。
12
代表的なものでは、平成 25 年 10 月には TBS の朝の情報番組「朝ズバッ」で取り上げられ、平成 26
年 8 月には SMAP の仲居正広が MC を務める「仲居正広の金曜日のスマたちへ」で紹介された。平成 26
年度だけでも、テレビ、新聞、雑誌、ウェブなど合計で 150 ほどのメディアに取り上げられている。
13
ふるさと納税は、毎年 12 月に確定申告締切日直前の駆け込み需要が大きく、同月の申し込みが金額、
件数ともに突出するという特色を持っている。
14
送料込みで返礼率 50%の自治体と、送料は別枠で返礼率 50%の自治体とがあり、返礼率の換算におい
て送料の扱いが自治体間でまちまちであるが、業界関係者へのヒアリングによると 50%という数値が大体
7
納税を調達することができると予想できる。実際、宮崎県都城市では、平成 26 年 10 月に、
納税金額に対して 8 割の価値のお礼の品を提供すると発表したところ、たった 2 日間で
2,500 万円を超えるふるさと納税を調達した。また、換金性の高いものをお礼の品として提
供する場合も人気を集める。毎日新聞平成 27 年 3 月 6 日の記事によると、石川県加賀市で
は平成 27 年 2 月より DMM.com とタイアップし、ふるさと納税のお礼の品として、納税金
額の半額相当の電子マネー(DMM マネー)を特典として付与するという取り組みを始め
たところ、平年実績の約 200 倍となる約 2,000 件、約 6,500 万円の寄付が約 3 週間で集まっ
た。このようなお礼の品の返礼率競争、および、換金性の高いものを提供する事に関して
は批判が多い。返礼率があまりに高いと実質的に自治体に残る税金の金額が少なくなって
しまい、ふるさと納税は特産品を提供する限られた企業への補助金と同じような位置づけ
になってしまう。また、換金制が高いものをお礼の品として提供する場合は、当該自治体
の産業振興につながらない可能性が高いという問題がある。これら問題を受け、総務省で
は平成 27 年 1 月に、返礼品の価格や返礼品の価格の割合(寄付額の何パーセント相当など)
の表記の自粛と、換金性の高いプリペイドカードや、高額または寄付額に対し返礼割合の
高い返礼品の提供の自粛を自治体に求めた15。実際、上の加賀市の事例では、上の記事に
よると約 100 件の意見が殺到し、批判的な声が多かったということで電子マネーの提供は
中止に追い込まれている。したがって、今後は返礼率を表記することは実質的にできなく
なるのと、他に比べて明らかに突出して高い返礼率であろうものは批判の対象となり、実
質的に現在の業界の暗黙の了解値である寄付金額に対して半額程度というのがお礼の品の
価値の落ち着きどころになると推測される。なお、上士幌町のふるさと納税の調達金額は
日本有数であるが、それはお礼の品の返礼率の高さや換金性の高さによるものではない。
4.2
一回当たり納税金額の分布
今回、本研究分析のために、上士幌町から平成 25 年 12 月 2 日以降平成 27 年 2 月 15 日
までのふるさと納税のデータを、個人情報などは特定できない形式で提供いただいた。デ
ータには、納税データ 1 件ごとの金額、日付、支払方法、居住都道府県、選んだ特産品、
資金使途、動機が含まれている。上士幌町では平成 25 年 12 月 2 日よりクレジットカード
支払いへの対応を開始したため、この日以降のデータを分析の対象とした16。
まず、表 2 は、1 回当たりふるさと納税金額の分布データである。上士幌町では、納税
に対してお礼の品が提供されるのは、1 回当たりの納税金額が 1 万円以上となっているが、
今回の分析対象となった 6 万 2,246 件中 1 万円未満のものは 21 件しかない。したがって、
上士幌町では、ほとんどの納税者は何らかの特典を求めてふるさと納税をしていると想像
の目安になっているとのこと。
15
「平成 27 年度の地方税制改正・地方税務行政の運営に当たっての留意事項等」(平成 27 年 1 月 23 日
発表報道資料)。
16
上士幌町のふるさと納税のうち、クレジットカード支払いは件数ベースで 7 割を超えており、納税者
属性はクレジットカード支払いの導入の前と後で大きく変更していることが想像されるため、クレジット
カード支払い導入以降を分析対象とした。また、保田(2014)では、北海道東川町の事例でふるさと納税者
の支払い手段別の納税金額の分析をしており、それによると、クレジットカード支払いを選択する納税者
は、他の支払手段の納税者よりも有意に納税金額が低いことが報告されている。このことからも、クレジ
ットカード支払いの対応が、ふるさと納税では重要な要素であることが想像される。
8
できる。また、77 割弱の人た
たちのふるさ
さと納税の金
金額は 1 万円
円ちょうどで
である。北海
海道東
川町の
のデータを分
分析した保田
田(2014)との
の対比では17、東川町は納
納税額 1 万円
円未満でも町
町のコ
テージ
ジの利用料が
が半額になる
るなどの特典
典があるため
め、1 万円未満
満の納税者は
は 8%強存在
在した
が、11 万円ちょう
うどの納税者
者は 65%弱で
であり、ほぼ
ぼ上士幌町と
と同様の状況
況である。両
両町と
もに 1 万円が分布
布の中央値と
となっている
る。両町での
のこの 1 万円
円の層は、お
お試し的にまずは
1 万円でふるさと
と納税を実施
施した、ある
るいは、日本
本各地の様々
々なふるさと 納税の特産
産品を
求める人たちが、
、1 万円ずつ
つ異なる自治 体に寄付していると考え
えられる。1 万円以上の分布
に関しては、概ね
ね保田(2014)の東川町同
同様の分布と
となっており、キリのい
いい万円単位のと
ころで
で小さな山が
がいくつか存
存在している
る。
町のふるさと
と納税の 1 回
回あたり納税
税金額の分布
表 2:上士幌町
出所
所:上士幌町のデ
データをもとに著
著者作成。
注:平成 25 年 12 月 2 日〜平成 27 年 2 月 15 日まで
でのデータ。単
単位:円。
なお、
、平均値で見
見てみると、東川町では
東
222,835 円と報
報告されてい
いたが、上士
士幌町では 18
8,064
円とな
なっている。
。東川町では
はお礼の品の
の特産品は、納税額が 1 万円、3 万
万円、5 万円
円の 3
つの金
金額に対応し
して存在する
るが、上士幌
幌町ではより高額の 10 万円、20
万
万円
円、50 万円、
、100
万円の
の納税額に対
対してもお礼
礼の品を用意
意しており188、その意味
味では上士幌
幌町の方が高額納
17
保田(2014)での分
分析対象となっ
っている東川町
町のデータは平
平成 20 年から平成 25 年 9 月
月までのもので
であり、
本分析
析での上士幌町
町のデータとは
は期間の重なり
りはない。
18
20 万円以上のもの(羊一頭や
や熱気球搭乗) は常時用意し
しているもので
ではなく、期間
間限定あるいは
は先着
順。な
なお、東川町の
の場合は納税額
額が 5 万円を超
超えた場合に、特産品を上乗
乗せしていくこ
ことはできない
いが、
上士幌
幌町の場合は上
上乗せが可能で
である。例えば
ば東川町の場合
合、30 万円の納
納税でも納税額
額が 5 万円と同じ
特産品
品となるが、上士幌町の場合
上
合は 30 万円納税
税すれば 10 万円の納税額で
万
での特産品を 3 つ受け取るこ
ことが
できる
る。
9
税者を誘引できうると考えられる19。しかし、実際は東川町の方が納税額の平均は高くな
っている。この要因として考えられるのは、先の保田(2014)の結果と照らすと、東川町の
方が上士幌町に比べてリピーターや特産品を受け取らない人の割合が高い可能性が考えら
れる。今回の上士幌町より提供いただいたデータではリピーターは把握できないが20、東
川町でのリピーター率は 37.5%であった。上士幌町はメディア登場回数が非常に多いこと
から、初めて上士幌町にふるさと納税をする人の割合が相対的に高いのではないかと想像
される。また、上士幌町では、お礼の品を受け取ることができる 1 万円以上の寄付のうち、
お礼の品を希望しないのは 32 件でしかなく、割合にすると 0.05%である。一方、東川町で
はお礼の品を希望しない割合が 17.6%存在する。東川町では、納税額が高い傾向にあるリ
ピーターや、特産品以外の目的でふるさと納税を実施する人を一定割合掴んでいることが、
1 回あたりのふるさと納税の金額が相対的に高くなっているのかもしれない。なお、上士
幌町で特産品を受け取らない 32 件の平均納税金額は 73,187 円、上限を 20 万円にした場合
は 29,034 円(29 件)であり、サンプル数が極めて限られてはいるが、東川町同様、特産品
を受け取らないグループの方が納税金額は高いという結果になる。モノ目的よりも、想い
のある納税の方が金額が大きくなることを示唆する。
4.3
動機別一回当たり納税金額
次に、北海道上士幌町のふるさと納税の納税金額のデータを、動機別や使途別に分析し、
納税金額に影響を与える要因を解明していく。上士幌町の場合、ふるさと納税を受け入れ
るに際し、納税者が記入する申し込み用紙にて上士幌町への寄付の動機をチェック項目と
して確認している。選択項目は、
「上士幌町に住んでいたことがある」、
「上士幌町に訪れた
ことがある」
、「上士幌町在住の知人友人がいる」
、「その他」の 4 つである。表 3 は、サン
プルのうちお礼の品の対象とならない 1 万円未満のデータと、20 万円を超えるデータを除
外したサンプルでの、動機別 1 回あたりふるさと納税金額である。全体(パネル A)で見
ると、
「その他」の動機のグループにおいて、他よりも有意に平均額が低くなっていること
がわかる。町との接点のなかった人たちは町への共感度が低く、ふるさと納税の金額が低
くなるという可能性を示唆する。
表 3:寄付への動機別 1 回あたりふるさと納税金額
居住歴
訪問歴
知人友人
その他
全体
パネルA
全体
平均値
観測数
19,445
1,118
18,137
10,134
18,536
1,168
17,472 ***
49,753
17,636
62,173
パネルB
北海道在住者
本州在住者
平均値
観測数
平均値
観測数
19,470
71
19,443
1,047
18,316
1,198
18,113
8,936
19,330
112
18,452
1,056
18,107
1,052
17,458 ***
48,701
18,306
2,433
17,608
59,740
19
ふるさとチョイスへのヒアリングによると、高額所得者は高額な納税額に対するお礼の品を用意して
いる自治体を好む傾向があるとのこと。例えば 100 万円をふるさと納税する場合、1 万円のふるさと納税
を 100 の自治体に行うよりも、100 万円を 1 つの自治体に納税する方が、手間が省ける。
20
町としてはリピーターのデータは保有している。
10
出所:上士幌町のデータをもとに著者作成。
注:平成 25 年 12 月 2 日〜平成 27 年 2 月 15 日までのデータ。金額の単位は円。1 回あたりふるさと納税が 1 万円未
満のデータおよび、20 万円超のデータはサンプルから除外。居住歴は、ふるさと納税時に上士幌町への寄付の動機
のチェック欄で「上士幌町に住んでいたことがある」にチェックをした人、訪問歴は「上士幌町に訪れたことがある」
、
知人友人は「上士幌町在住の知人友人がいる」
、その他は「その他」にチェックをした納税者グループ。***は、他の
グループとの有意差水準を表しており、***は有意水準 1%。
ただし、ここで注意が必要なのは、保田(2014)によると北海道東川町では北海道在住者
の方が本州在住者に比べて1回あたりのふるさと納税の金額が有意に高いと報告している
ことである。実際、上士幌町のデータでも確認してみると、同様に北海道在住者の方が他
の都道府県在住者より、1 回あたりふるさと納税の平均額は有意に高くなっている(5%有
意水準)。北海道在住者の場合は、居住歴、訪問歴、知人友人の有無に関係なく、地域的な
親近感や地元愛で納税金額が高くなっている可能性があるため、北海道在住者と本州在住
者に分けて、この動機別分析を行う必要がある。それがパネル B である。これを見ると、
本州在住者においても、
「その他」グループは他よりも有意にふるさと納税額の平均値は低
くなっている。一方、北海道在住者の場合は、他のグループに比べて有意に差のあるグル
ープは確認できない。資金調達をする町にしてみると近隣の自治体居住者(今回では北海
道在住者)、そして、本州在住者のうち町と何らかのつながりがある層を中心に顧客開拓を
していくのが、より多くの資金を集めるという意味では効率的であることが分かる。物理
的な近さと、事前の潜在納税者との接点の有無が調達金額の大きさに影響するということ
になる。クラウドファンディングを実施しようと考えるベンチャー企業に当てはめて考え
てみると、本社所在地周辺の人たちにアプローチすべきであり、また、資金調達の前に何
らかの形で資金提供者となりうる一般消費者と接点を持っておくべき、ということになる。
4.4
使途別一回当たり納税金額
次に、寄付金の使い道の指定の有無での納税金額の違いを見ていく。保田(2014)では、
東川町においてふるさと納税の金額が、リピーターや特産品を受け取らない人たちのほう
が大きいという状況に対して、納税者の町の発展への思い入れや共感度が納税金額に影響
すると議論している。今回の上士幌町のデータではリピーターの特定ができないのと、特
産品を受け取らない人がごくわずかなので、同様の分析はできない。そこで、今回は、資
金使途の指定の有無が1回あたり納税金額にどのように影響するかを確認する。総務省
(2013)によると、ふるさと納税を実施している自治体のうち、8 割の自治体が同様にふるさ
と納税において資金使途を指定できるとしている。東川町でも上士幌町でも、納税者は資
金使途を選ぶことになっているが、2 つの町での大きな違いは、東川町の場合は一般寄付
という項目がないため、納税者は何かひとつ具体的な資金使途を選ぶ必要がある。一方、
上士幌町のふるさと納税制度では、ふるさと納税者は資金使途を町に一任するか(一般寄
付)、自身で指定する(指定寄付)。指定する場合の使途は、福祉、教育、子育て、農林業、
観光、第三音更川橋梁補修21から選択することになっている。また、町に一任する場合は、
町はそれを全て「上士幌町ふるさと納税・子育て少子化対策夢基金」に活用すると明示し
21
タウシュベツ川橋梁と呼ばれており、上士幌町管内の観光スポット。かつての国鉄士幌線で使われた
コンクリート造りのアーチ橋。
11
ている(平成 26 年 4 月以降)。一般寄付よりも、具体的な資金使途を指定する指定寄付を
選ぶ人のほうが、町や納税への思い入れが強いのではないかと推察する。そこで、指定寄
付と一般寄付の間で納税金額に差があるかを確認する。なお、先ほど見たように、ふるさ
と納税の動機が納税金額に影響を与えていたので、全体での分析結果と、動機別にグルー
プを分けた分析結果の両方を確認しておく。なお、動機のグループ分けは、
「上士幌町に住
んでいたことがある」、
「上士幌町に訪れたことがある」、
「上士幌町在住の知人友人がいる」
の 3 つを一つのグループ「関係者」とし、
「その他」をもう一つのグループとした。結果は
表 4 の通りである。
表 4: 寄付金使途別 1 回あたりふるさと納税金額
福祉
教育
子育て
農林業
観光
橋梁
一般
全体
平均金額
15,922
17,389
16,495
16,056
16,142
15,516
17,825
17,635
全体
観測数 割合
1,058
1.7%
1,152
1.9%
2,781
4.5%
1,837
3.0%
776
1.2%
455
0.7%
*** 54,112 87.0%
62,171 100.0%
平均金額
16,817
15,947
17,216
16,321
15,308
15,530
18,622
18,290
動機別
「関係者」
「その他」
観測数 割合
平均金額
観測数 割合
208
1.7%
15,710
849
1.7%
227
1.8%
17,708
924
1.9%
513
4.1%
16,332
2,268
4.6%
383
3.1%
15,986
1,454
2.9%
263
2.1%
16,569
513
1.0%
217
1.7%
15,504
238
0.5%
*** 10,602 85.4%
17,632 *** 43,504 87.4%
12,413 100.0%
17,472
49,750 100.0%
出所:上士幌町のデータをもとに著者作成。
注:平成 25 年 12 月 2 日〜平成 27 年 2 月 15 日までのデータ。単位:円。1 回あたりふるさと納税が 1 万円未満のデ
ータおよび、20 万円超のデータはサンプルから除外。
「関係者は、ふるさと納税時に上士幌町への寄付の動機のチェ
ック欄で「上士幌町に住んでいたことがある」、「上士幌町に訪れたことがある」、「上士幌町在住の知人友人がいる」
のどれかを選択したグループ。その他は「その他」にチェックをしたグループ。***は、他のグループとの有意差水
準を表しており、***は有意差 1%。
これによると、予想に反し、資金使途で一般財源を選ぶ人たちのほうが、他のグループ
に比べて1回あたりのふるさと納税の金額が大きくなっていることが見てとれる。これは、
納税者グループを、動機別で「関係者」と「その他」に区分けした場合も同様の結果とな
っている。業界関係者へのヒアリングによると、特産品を目当てとする納税者は一般寄付
を選ぶ傾向があるということで、今回の上士幌町に当てはめると、特産品目的の納税者の
方がより高い金額を納税している可能性があるということになる。特産品で提供されるモ
ノの魅力度合の方が、町への共感や理解よりも納税金額の引き上げ効果は高いことになる。
同じ議論がもしクラウドファンディングでも通用するのならば、購入型や投資型のクラウ
ドファンディングの場合、理念の遡及は重要であるものの、提供されるモノやリターンの
魅力度合いがより金額には効くということになる。なお、上士幌町の場合、平成 26 年 4
月以降は一般寄付を「子育て少子化対策夢基金」に充当しているため、そのコンセプトに
同意、共感した人が積極的に一般財源を選んでいる可能性はある。その場合は、上でのモ
ノ目当ての議論は通用しなくなる。それらを確認するためには、使途に完全なる一般寄付
を含んでいる自治体で同様の分析を行う必要がある。
なお、一般寄付の群を除外して分析してみると、全体及び「その他」のグループでは、
教育使途の平均金額が他の使途の平均金額よりも有意に高いという結果が出た。一方、
「関
係者」のグループでは、使途間で有意な差は存在しなかったが、福祉と子育ての平均金額
12
が「その他」のグループに比べると高くなっていること、逆に教育の平均金額が低くなっ
ていることは興味深い。
また、使途の割合を確認しておくと、
「その他」グループのほうが一般寄付の割合は高く
なる傾向が見られる。町を知らない人たちが、特産品のみを目的としてふるさと納税をし
ている可能性を示唆するが、
「関係者」グループとの差はあまり大きくない。上述の通り上
士幌町の場合は、ふるさと納税の一般寄付は子育て少子化対策夢基金に充てられることも
影響している可能性がある。実際、指定寄付として子育てを選択する割合が、
「関係者」グ
ループよりも「その他」グループのほうが高いという結果になっており、一般寄付でも「そ
の他」グループにおいて子育て少子化夢基金の概念に賛同する割合がより高かったという
可能性も考えられる。いずれにせよ、指定寄付で子育て指定の割合が「その他」グループ
で高いというのは興味深く、これは子育て支援に力を入れる町の政策22が、町を訪問した
ことのない納税者にも共感されている可能性を示唆する。
他方、観光、橋梁(第三音更川橋梁補修)に関しては、
「その他」グループのほうが低く
なり、やはり、現地を訪問したことがないと観光や橋梁への共感が湧きにくいものと考え
られる。
4.5
支払い手段別一回当たり納税金額
ふるさと納税を実施している自治体へのヒアリングでよく聞かれることは、衝動的に申
し込みおよび支払いをする人が少なからず存在するということである。夜、インターネッ
トでふるさと納税のページを見つけて、その場で申し込みからクレジットカードで支払い
まで済ませてしまうのだが、衝動的だったがゆえに本人がふるさと納税で支払ったことを
記憶しておらず、クレジットカードで引き落としがあった段階で自治体に対して、支払っ
た覚えはないと問い合わせてくるケースがままあるとのことである23。納付書による支払
いの場合は、申し込みと支払いでタイムラグがあるため、衝動的に申し込んでも支払いは
しないということが可能であり、そういうことは起こらない。このようにカードは手軽さ
が 1 つの特徴だと考えられ、カード支払いの方が他の支払い手段よりも納税金額が低いこ
とが考えられる24。そこで、支払い手段別に 1 回あたりのふるさと納税の金額を見たのが
表 5 である。なお、上士幌町のふるさと納税の申し込みウェブサイトでは、支払い手段は
クレジットカードか納付書しか選択することはできず、口座振替と現金は問い合わせがあ
った時のみ対応しているとのことである。結果は、カード払いの方が金額が低くなるとい
22
上士幌町は子育ての町ナンバーワンを目指すことを掲げており、住宅を建設する場合は中学生以下の
子供 1 人につき一定金額を支援することや、平成 27 年度からは高校生まで医療費無料、幼稚園教育費の
無料化、認定こども園の開業などが行われる。これら手厚い子育て支援策により、都市部と地方での給与
格差を実質的に手当てし移住促進につなげようとしている。北海道の自治体が窓口となり、北海道での生
活を体験する制度「ちょっと暮らし」の利用者数では、上士幌町は平成 25 年度最も利用人数が多かった
(十勝毎日新聞平成 26 年 5 月 13 日記事)。
23
寄付型のクラウドファンディングサイトのジャパンギビングへのヒアリングでも同様であった。ふる
さと納税の場合、通販と違い、お礼の品の特産品が送られてくるまで比較的長いタイムラグがあり、品物
の到着よりもカード引き落としの方が早いというケースが少なくないため、カード引き落とし時に初めて
自らの衝動的な行為に気付くケースが多いとのこと。
24
保田(2014)でも、東川町においてクレジットカード支払いの方が他の支払い手段に比べると平均納税金
額が有意に低いことが報告されている。
13
う結果にはならなかった。一方、口座振替において、他の支払い手段より有意に金額が高
くなっている。この要因については、上士幌町にも問い合わせてみたが、理由は分からな
い。
表 5:支払い手段別 1 回あたりふるさと納税金額
カード
口座振替
郵便局納付書
現金
全体
平均値
17,633
20,606 ***
17,539
16,000
17,635
観測数
44,400
635
17,046
100
62,181
出所:上士幌町のデータをもとに著者作成。
注:平成 25 年 12 月 2 日〜平成 27 年 2 月 15 日までのデータ。金額の単位は円。1 回あたりふるさと納税が 1 万円未
満のデータおよび、20 万円超のデータはサンプルから除外。***は、他のグループとの有意差水準を表しており、***
は有意差 1%水準。
以上、一回あたり納税金額の分析からは、居住地(地元)、潜在資金提供者との事前の接
点の有無、そして、特産品の魅力度合いがその金額に影響を与える可能性が見て取れた。
5.
5.1
ふるさと納税を知ったきっかけ
北海道上士幌町のケース
北海道上士幌町では、ふるさと納税を実施してくれた人に対して、主にお礼の品の特産
品に対する満足度を確認することを目的として、定期的にアンケート葉書を送っている。
そこでの記入(選択)事項は、性別、年代、利用した感謝特典(お礼の品)、感謝特典を知
ったきっかけ25、感謝特典への満足度とその理由、今後の感謝特典で希望する品物、その
他自由記入欄となっている。アンケートは平成 26 年 6 月下旬より随時定期的に発送され、
平成 27 年 1 月末までに 1 万枚を発送し、1,536 枚の回答があった(回答率 15.36%)26。その
回収されたアンケート葉書の結果より、北海道上士幌町のふるさと納税を知ったきっかけ
を、性別や年代別にまとめたものが表 6 である。
表 6:上士幌町のふるさと納税を知ったきっかけ
25
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など書籍、インターネット、友人・知人、税理士・会計士、その他から
選択。複数回答可。
26
満足度を問うこの手のアンケートの場合、満足度の高い層、あるいは、満足度の低い層からの回答が
多くなりがちであるが、今回は、満足度を回答した人のうち 79.5%が「非常に満足」と回答しており、
「非
常に不満」と回答した人は 0.8%でしかなかった。また、上で分析した納税者のデータベースには性別や
年齢は含まれておらず(納税時の申込用紙にそれらを記入する欄がない)
、逆に回収したアンケートでは
回答者の居住地が分からないため、アンケート回答者の集団がおおむね母集団を代表するのかどうかの確
認はできていない。
14
インターネット
テレビ・ラジオ
雑誌など書籍
新聞
友人・知人
税理士・会計士
その他
回答者数
全体
69.3%
36.3%
11.6%
3.6%
4.6%
1.4%
1.6%
性別
男性
女性
71.1%
66.7%
32.6%
42.8%
14.6%
6.4%
3.5%
3.6%
4.1%
5.7%
1.4%
1.4%
1.3%
2.1%
1,536
946
20代
82.4%
8.8%
17.6%
0.0%
5.9%
0.0%
0.0%
30代
77.1%
29.3%
10.7%
2.0%
5.4%
1.5%
2.0%
34
205
559
年代別
40代
50代
74.8%
73.9%
28.2%
37.4%
13.1%
12.2%
4.7%
2.5%
2.7%
3.0%
0.6%
1.8%
0.3%
0.7%
337
436
60代
70代以上
64.7%
41.8%
44.2%
49.4%
8.9%
12.7%
3.1%
8.2%
5.6%
10.1%
1.4%
1.9%
3.1%
3.8%
360
158
出所:上士幌町のデータをもとに著者作成。
注:平成 26 年 6 月下旬より上士幌町が順次定期的にふるさと納税者に対して発送しているアンケート集計結果(平
成 27 年 1 月末までの回収分)。各割合の数値は、それぞれのカテゴリーにおける回答者の割合。複数回答可であるた
め、合計値は 100%を超える。
これによると、全体の 7 割の人たちはインターネットを通じて、4 割弱の人たちはテレ
ビ・ラジオを通じて知ったことになる27。性別では、男性の方がネット割合と雑誌の割合
が相対的に高く、女性は逆にテレビ・ラジオの割合が高く、雑誌の割合は低くなる。年代
別では、若い世代はネット中心、年代が上がるほどテレビ・ラジオ、新聞、そして知人友
人が占めるが割合が高まる。これらは、各性別、各年代の日々の行動様式と照らし合わせ
ると違和感のない結果であろう。
なお、複数回答が可能であるので、複数回答をした人のみを抽出し、それらを年代別に
分けて、各年代の全体に占める割合を確認したものが表 7 である。
表 7:上士幌町のふるさと納税を知ったきっかけに複数を選択した人の割合(年代別)
20代
14.7%
30代
22.9%
40代
21.1%
50代
27.1%
60代
28.1%
70代
27.2%
全体
25.2%
出所:上士幌町のデータをもとに著者作成。
これを見ると、あまり大きな差ではないものの、高い年代ほど 2 つ以上のきっかけを選
択している率が高くなっており、これらの層は、複数のきっかけがあってから初めて上士
幌町へのふるさと納税に踏み切ったことと考えられる。逆に若い層では一つのきっかけだ
けで、ふるさと納税を実施しうる割合が高い。なお、男女別でも見てみたが、男性 25.4%、
女性 24.9%とほぼ差はなかった。
では、きっかけを複数選択する人たちは、どれらを選択したかのマトリクスが表 8 であ
る。これによると、インターネットとテレビ・ラジオを見て知ったという層が多いことが
分かる。インターネットに関してはほぼすべての回答でチェックされており、既存メディ
アで取り上げられたのを見て、インターネットで検索してから申し込んだという行動と、
インターネットで見知っていたものが既存メディアで取り上げられたので、後押しされて
申し込んだという行動が想像される。いずれにせよ、今の時代においてインターネットで
の情報発信の重要性を裏付ける結果となっている。
27
なお、インターネットに関しては、上士幌町の Facebook ページも存在するが、
「いいね!」の数は平
成 27 年 2 月時点で 1,200 強である。年間のふるさと納税件数が 5 万を超える同町の状況を勘案するに、
この Facebook ページをきっかけとしてという数値はほとんど含まれていないと考えられる。
15
表 8:上士幌町のふるさと納税を知ったきっかけ:複数回答のマトリクス
テレビ・ラジオ
雑誌など書籍
新聞
友人・知人
税理士・会計士
インターネット テレビ・ラジオ 雑誌など書籍
60.5%
21.8%
13.2%
5.7%
6.5%
1.3%
6.5%
6.5%
2.1%
2.1%
1.6%
0.3%
新聞
1.0%
0.3%
友人・知人
0.5%
出所:上士幌町のデータをもとに著者作成。
クラウドファンディングに置き換えると、案件はインターネットで告知されるものがほ
とんどなのでインターネットでの露出は問題ないが、二つ以上のきっかけを選択した人た
ちが 1/4 存在することから、ネット以外の媒体で紹介されることが特に重要となる。しか
し、クラウドファンディングの場合はふるさと納税と違って、通年で資金調達をしている
わけではない。通常は期間限定で行われる。テレビや紙媒体の場合、取材から実際にメデ
ィアに登場するまでタイムラグがあり、クラウドファンディングの案件が期間限定である
点は不利に働く。せっかく取材しても、メディアに登場する頃には当該クラウドファンデ
ィン案件の資金調達期間が終了している可能性がある。したがって、この点はクラウドフ
ァンディング以外の話題で、既存メディアで取り上げてもらうことも含めて、広報戦略を
考える必要があろう。
5.2
北海道東川町のケース
北海道東川町では平成 25 年 9 月にふるさと納税者に対してのアンケート調査を実施して
いる。平成 25 年 9 月 13 日に 1,850 人に発送し、回答期限を 2013 年 9 月末とした。同年 10
月 7 日にアンケートの回答を取りまとめ、合計で 823 人から回答があった(回収率は 44.5%)。
今回の分析のために、同町よりアンケート結果のデータを提供していただいた28。以下、
アンケートの分析結果を順次見ていくが、先の上士幌町のアンケートでは居住地情報がな
かったが、東川町のアンケートでは回答者の居住地域(都道府県)を把握することが可能
である。上でも議論したように、北海道在住者と本州在住者は異なるきっかけや動機を持
つ可能性が考えられる。したがって、分析は、回答者すべてを対象とする場合と、本州在
住者と北海道在住者を分けたグループでも実施した。うち、本州在住者については東川町
での居住歴や訪問歴の有無に分けて、北海道在住者については、現在の町民と東川町以外
の北海道民に分けて分析を実施した。その理由は、上の上士幌町のケースでも見た通り、
居住歴、訪問歴、知人友人がいるなど、広い意味での町の関係者には、郷土愛や町への理
解度が高いことが考えられることである。また、同じ北海道民でも、東川町民はふるさと
納税を納めても特産品を受け取ることができないという経済的な取り扱いの違いが存在す
ることから、このようなグループ分けとした。
また、上士幌町では、納税者データベースでは地域別の情報は有している。それによる
と、上士幌町へふるさと納税を実施する人のうち、北海道在住者が占める割合は 4.7%(平
成 27 年 3 月 1 日現在)であり、北海道の総人口が日本の総人口に占める割合に近い。一方、
東川町の場合は、ふるさと納税者のうち北海道民の割合が 44.1%となっており(保田 2014)、
28
個人情報が特定されるような情報は含まれていない。
16
その割合が相対的に高くなっている。東川町と上士幌町とを対比する際に、そのような納
税者の地域属性の偏りの違いによる影響を排除する上でも、東川町のアンケート調査デー
タを本州在住者に限定することは重要である。なお、東川町のアンケートデータでの居住
地域、居住歴、訪問歴の有無はすべてアンケートの質問項目として含まれている。
アンケート回答者の属性は、地域、年代ともにおおむね母集団を代表するサンプルとな
っている。ただし、年代に関しては、表 9 で確認できるように本州在住者は比較的 30 代〜
50 代の比率が高く、一方、北海道在住者は 50 代、60 代の割合が高くなっている。
表 9:東川町のアンケート回答者の属性
全回答者
20代
30代
40代
50代
60代
70代
不明
(回答者数)
2.3%
15.1%
22.4%
20.3%
30.2%
9.7%
0.7%
823
居住歴無
訪問歴無
3.4%
24.7%
27.8%
17.9%
18.6%
7.6%
0.0%
263
本州在住者
居住歴無
訪問歴有
3.7%
17.4%
29.2%
19.9%
23.0%
6.8%
0.0%
161
北海道在住
居住歴有
東川町外
現町民
2.6%
2.6%
18.4%
52.6%
21.1%
2.6%
0.0%
38
0.6%
8.4%
15.9%
18.5%
44.5%
12.0%
1.9%
314
2.1%
6.4%
14.9%
21.3%
34.0%
21.3%
0.0%
47
出所:東川町のデータをもとに著者作成。
表 10:東川町のふるさと納税制度を知ったきっかけ(一つのみ選択可)
全回答者
町民からのクチコミ
東川町のウェブサイト
町民以外からのクチコミ
TV・ラジオ
ウェブ記事
新聞、雑誌
ふるさと納税特集サイト
その他
計
(回答者数)
28.2%
13.9%
13.5%
6.3%
9.7%
7.2%
18.7%
2.6%
100.0%
823
居住歴無
訪問歴無
10.3%
7.2%
12.2%
10.6%
19.0%
4.2%
34.2%
2.3%
100.0%
263
本州在住者
居住歴無
居住歴有
訪問歴有
31.7%
60.5%
20.5%
10.5%
12.4%
2.6%
1.9%
0.0%
10.6%
0.0%
3.7%
2.6%
18.6%
21.1%
0.6%
2.6%
100.0%
100.0%
161
38
北海道在住
東川町外
現町民
34.4%
18.5%
13.7%
6.7%
3.8%
12.1%
8.3%
2.5%
100.0%
314
48.9%
0.0%
31.9%
0.0%
2.1%
6.4%
0.0%
10.6%
100.0%
47
出所:東川町のデータをもとに著者作成。
注:「その他」のうち、記載コメントからいずれかの理由に分別させることができるものはその処理を著者にて行っ
ており、どの理由にも属さないものは「その他」のまま残している。
東川町のふるさと納税者が同町のふるさと納税制度を知ったきっかけに関しては表 10
の通りである。これを見ると、全回答者のうち 3 割弱は町民からのクチコミとなっている。
なお、この町民からのクチコミの中には、町の公共施設や宿泊施設でパンフレットを見た
などの回答も含まれている。その次に大きなカテゴリーとしては、ふるさと納税の特集サ
イトを通じて知ったというものである。回答者を本州在住者と北海道在住者に分けてみて
みると、本州在住者のうち東川町に住んだことも訪問したこともない人たちは、約 3 割が
17
クチコミ経由で、約 7 割がなんらかのメディアを通じて知ったという状況である。中でも、
ウェブ記事29とふるさと納税特集サイトを通じた割合が高くなっている。一方、本州在住
者でも、町への訪問歴がある場合は 6 割を超える人が、また居住歴がある場合は 7 割を超
える人がクチコミを通じて同町のふるさと納税を知ったことになる。同様に、北海道在住
者においてもクチコミの割合が高くなっている。その他の点では、全体では 13.9%の回答
者が東川町のウェブサイトでふるさと納税の存在を知ったということであり、他の用事で
町のウェブサイトを訪問した人が、偶然ついでにふるさと納税のことを知ったということ
になる。同町への訪問歴がある本州在住者の場合、その数値は 20 パーセントを超えてくる
ため、ふるさと納税以外のイベントや告知をすることが、潜在的にふるさと納税の顧客を
開拓することにつながることを意味する。つまり、町や企業がウェブを通じて資金調達を
したい場合は、他の施策で人々を町や企業のサイトに誘引することが重要となる。これは
クラウドファンディングでも同様であろう。
なお、本州在住者においてウェブの記事やふるさと納税特集サイトの割合が高いことの
理由は、本州在住者の年齢層が北海道在住者よりも若いという表 9 の回答者の分布状況が
影響している可能性もある。これを検証するために、対象を本州在住者のみに絞って年代
別に同じ分析を行ったものが表 11 である。これによると、20 代から 40 代の比較的若い層
はウェブの記事、あるいはふるさと納税特集サイトを通じて、50 代以上においては町民か
らのクチコミの割合が高まっていることがわかる。したがって、住んでいる地域が本州で
あっても 50 代以上、特に 60 代以上においてはクチコミがきっかけの源泉となる可能性が
高いことがわかる。
表 11:東川町のふるさと納税制度を知ったきっかけ(年代別、本州在住者のみ)
町民からのクチコミ
町民以外からのクチコミ
東川町のウェブサイト
TV・ラジオ
ウェブ記事
新聞、雑誌
ふるさと納税特集サイト
その他
(回答数)
20代
26.7%
6.7%
0.0%
6.7%
26.7%
0.0%
33.3%
0.0%
15
30代
5.3%
12.8%
12.8%
2.1%
28.7%
1.1%
36.2%
1.1%
94
40代
14.0%
10.7%
12.4%
3.3%
14.9%
6.6%
35.5%
2.5%
121
50代
19.8%
8.1%
16.3%
4.7%
15.1%
3.5%
32.6%
0.0%
86
60代
35.8%
14.2%
10.4%
15.1%
4.7%
1.9%
15.1%
2.8%
106
70代
50.0%
12.5%
10.0%
10.0%
0.0%
10.0%
5.0%
2.5%
40
計
21.9%
11.5%
12.1%
6.7%
14.5%
3.9%
27.7%
1.7%
462
出所:東川町のデータをもとに著者作成。
注:表 10 同様。
以上の東川町のアンケートと、先に見た上士幌町のそれとは選択項目の作り方や選び方
(複数回答かひとつのみ選択)が異なるため一概に比較することはできないが、少なくと
29
同町は 2012 年 5 月より Facebook ページを活用しており、
「いいね!」の数は 2013 年 9 月時点で約 1,700
であった。しかし、Facebook ページから町のウェブサイトへのリンクは存在せず(逆に、町のウェブサイ
トから Facebook ページへのリンクは存在する)
、役場の担当者の方へのヒアリングも含めて、当時は
Facebook ページをきっかけとしてふるさと納税制度を知ったという人は少ないと思われる。むしろ、
Facebook ページはふるさと納税者の獲得ツールというよりも、既存のふるさと納税者に対するリピート獲
得のための広報的な意味合いの方が大きいであろう。
18
も、知ったきっかけの割合が両町で大きく異なることは指摘できる。上士幌町はインター
ネット、テレビ・ラジオの割合が大きい一方、東川町ではクチコミの割合も非常に高くな
っている点である。上士幌町では、知人友人をきっかけとするものがクチコミに相当する
と考えられるが、複数回答可の状況でも全体の 4.6%しか存在しない。一方、東川町のアン
ケート調査からは、居住歴、訪問歴のない本州在住者に対象を限定しても、クチコミの割
合は 22.5%(町民からのクチコミと町民以外からのクチコミの合計)となる。この違いの
要因として考えられることは、上士幌町のテレビでの報道回数の多さである。上士幌町、
東川町共に NHK の「クローズアップ現代」の同じ番組内で取り上げられるなど、東川町
の取り組みも全国区であるが、上士幌町のテレビでの登場回数に比べると東川町のそれは
限定的である。また、東川町ではふるさと納税のお礼の品について、納税者が選ぶ方式は
取っておらず、季節の旬なものを特産品として提供している。また、資金使途についての
違いは先に述べた通りである。これらの違いから、上士幌町の方が東川町に比べると、テ
レビメディアを通じて全国から広く納税者を確保しうる状況にあり、したがって、特産品
目当ての納税者の割合も相対的に高いと考えられる。
これは、ある一定規模を超えるまでは、クチコミの影響力が高く、メディアに頻繁に取
り上げられるようになると、その後はスパイラルが形成されるためメディアをきっかけと
する割合が大きくなるという、ふるさと納税における調達金額の拡大曲線に応じてきっか
けが変わっていくことを意味する。
これをクラウドファンディングのコンテクストに置き換えてみる。日本のクラウドファ
ンディング市場での 1 案件当たりの資金調達額は数百万円レベルである。1 年間で 10 億円
を集める上士幌町よりは、1 年間で数千万円単位の調達を行っている東川町(それでも全
国的には上位である)にまだ近い。したがって、クラウドファンディングでの資金調達時
にはクチコミが非常に重要となると考えられる。特に、東川町での北海道在住者や、居住
歴や訪問歴がある本州在住者でよりクチコミの度合いが高かった現状からは、クラウドフ
ァンディングの場合も本社の存在する地域や関係者によるクチコミ度合いが非常に重要と
なることが想定される。これは、資金調達の成否を分析した Mollick(2014)において、資金
調達者の個人的ネットワーク(Facebook での友達数の多さ)が影響しているという分析結
果と整合的だと考えられる。次に、東川町の事例からは、東川町のウェブサイトに他の用
事で訪問した人が最終的にふるさと納税をしている姿も確認できることから、クラウドフ
ァンディングを実施する企業は資金調達の事案以外でもウェブを充実させる、あるいは、
潜在的な資金提供者と接点をマルチに持つことが重要であると思われる。
次に、東川町のアンケートでは、ふるさと納税を行った理由についても納税者に聞いて
いる。上の上士幌町での動機とは、項目が異なるので比較はできないが、ふるさと納税を
した最大の理由を一つだけ選択してもらう質問と、最大の理由を含めて複数回答ですべて
の理由を挙げてもらう質問の二つあり、結果は表 12 の通りである。
表 12:東川町にふるさと納税をした動機
19
最大の理由
全回答者
東川町民だから
北海道民(東川町以外)だから
東川町のファンだから
支援事業内容に惹かれて
東川町土産や株主優待制度
税制優遇
その他
計
(回答者数)
3.9%
2.7%
31.1%
20.7%
36.3%
3.6%
1.7%
100.0%
823
居住歴無
訪問歴無
0.0%
0.0%
9.1%
20.2%
62.4%
6.8%
1.5%
100.0%
263
本州在住者
居住歴無
居住歴有
訪問歴有
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
40.4%
81.6%
23.6%
7.9%
32.9%
7.9%
2.5%
2.6%
0.6%
0.0%
100.0%
100.0%
161
38
居住歴無
訪問歴無
0.0%
0.0%
21.3%
44.5%
77.2%
34.2%
1.9%
263
本州在住者
居住歴無
居住歴有
訪問歴有
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
64.6%
86.8%
47.8%
34.2%
63.4%
31.6%
24.8%
13.2%
1.9%
0.0%
161
38
理由(複数回答可)
全回答者
東川町民だから
北海道民(東川町以外)だから
東川町のファンだから
支援事業内容に惹かれて
東川町土産や株主優待制度
税制優遇
その他
(回答者数)
5.3%
10.3%
49.0%
45.0%
56.6%
23.0%
2.3%
823
北海道在住
東川町外
現町民
0.0%
7.0%
41.7%
22.3%
24.2%
1.9%
2.9%
100.0%
314
68.1%
0.0%
10.6%
12.8%
6.4%
2.1%
0.0%
100.0%
47
北海道在住
東川町外
現町民
0.0%
26.8%
65.0%
47.8%
44.3%
15.3%
3.2%
314
93.6%
2.1%
12.8%
27.7%
21.3%
12.8%
2.1%
47
出所:東川町のデータをもとに著者作成。
注:複数回答の回答数には最大の理由の回答数を含む。「支援事業内容に惹かれて」の支援事業内容とは、ふるさと
納税の調達資金で実施するプロジェクトのことを意味しており、資金使途に共感して、という意味となる。「東川町
土産や株主優待制度」は、通常のふるさと納税におけるお礼の品のことである。「その他」のうち、記載コメントか
らいずれかの理由に分別させることができるものはその処理を行っており、どの理由にも属さないものは「その他」
のまま残している。
これを見ると、東川町にふるさと納税をした最大の理由の 36.3%、複数回答可からは
56.6%の納税者が特産品を動機に挙げていることが分かる。これはモノに惹かれている人
たちであり、ふるさと納税においてもクラウドファンディングにおいても、経済的メリッ
トやモノの価値を上げることでより多くの人を惹きつけうる可能性を意味しよう。一方、
最大の理由の 31.1%の人たちは東川町のファン、他の 20.7%は資金使途の事業内容に惹か
れており、合わせると 5 割を超える。これらは何らかの理由で東川町に対しての思い入れ
がある、あるいはプロジェクトを支援したいという気持ちがある人たちということになる。
それら思い入れや支援の気持ちは、同町と回答者との関係性に多いに依存すると想像され
るが、最大の理由で見てみると、同町への訪問歴も居住歴もない本州在住者の場合は、
「東
川町のファンだから」の数値は 9.1%に低下する。一方、その数値は、訪問歴のある本州在
住者の場合で 40 パーセントを超え、居住歴がある本州在住者の場合は 8 割を超える。また
東川町以外の北海道在住者も 4 割を超える。何らかの形で町と関わりがある、あるいは近
隣の町に住んでいる人たちは、経済的なメリットのみならず心理的なつながりでふるさと
納税を実施したと見ることができよう。その意味では、ふるさと納税を実施しようとする
自治体あるいはクラウドファンディングで資金調達をしようとする企業は、やはり事前に
多面的に潜在的な資金提供者と接し、心理的なつながりを構築しておくことが有効であろ
う。
20
なお、寄付金控除に関しては、最大の理由として挙げる人は少ないが、複数回答可の方
では 23.0%の人たちが理由にしている。この制度はクラウドファンディングには存在せず、
ふるさと納税制度にしか存在しないが、実質的には経済的負担を減少させる制度であり経
済的メリットの範疇で考えることができよう。よって、クラウドファンディングを通じて
企業が資金調達をする場合は、ふるさと納税の時よりも資金提供者にとっての経済的メリ
ットの動機付けがやや弱まる可能性がある。その分、提供するモノの価値を向上させる、
お得度を高めるなど別の形で資金提供者のモチベーションを上げるような取り組みが必要
となる。
6.
資金提供者の株式投資経験
東川町のアンケートでは、その他、他の地域へのふるさと納税の経験の有無、経験があ
る場合はどの地域あるいはいくつの地域に実施したか、株式投資を実施しているかについ
ても質問している。これは、ふるさと納税の資金提供者にどういう特徴があるかを把握し、
今後のマーケティング活動に結び付けようという目的である。結果はそれぞれ、表 13~表
15 にまとめられているとおりである。
表 13:他の地域へのふるさと納税経験の有無:東川町のふるさと納税者の場合
本州在住者
居住歴無
居住歴無
訪問歴無
訪問歴有
32.9%
60.8%
39.8%
ある
67.0%
39.2%
60.2%
ない
823
263
161
(回答者数)
出所:東川町のデータをもとに著者作成。
全回答者
北海道在住
居住歴有
13.2%
86.8%
38
東川町外
現町民
12.7%
87.3%
314
4.3%
95.7%
47
まず、他の地域へのふるさと納税の経験者は全体では 32.9%(3 人に 1 人)存在してお
り、特に東川町への居住歴も訪問歴もない本州在住者では 6 割を超える。町とのかかわり
のない本州在住者の多くは、ふるさと納税経験者ということが分かる。このアンケートの
回答時期は平成 25 年 9 月であり、その後ふるさと納税がメディアで登場する頻度が大きく
上昇したことから、これら数値は現時点ではより上昇していると想像される。効果的に潜
在的資金提供者にアプローチをしようとすれば、ふるさと納税経験者が集まる場を探すべ
きだということになる。具体的には、ふるさと納税のポータルサイトへの広告出稿が有効
になろう。ただ、他の自治体との差別化がカギとなる。クラウドファンディングに当ては
めて考えてみると、おそらくクラウドファンディングも同様で、経験者が他の案件への資
金提供をすることが予測される。そして同様に、他のクラウドファンディング案件よりも
資金提供者を惹きつける何かが必要になる。
一方で、町への訪問歴や居住歴のある本州在住者や北海道在住者では、他の地域へのふ
るさと納税はあまり実施していないことが分かる。これは、町に何らかのつながりがある、
あるいは、親近感を感じられる物理的な近さがある場合は、未経験でもふるさと納税を実
施してくれるということである。したがって、この層の開拓もマーケティング上は重要で
ある。マスマーケティングに頼らない、地道なクチコミベースでの資金提供者の開拓が必
要となる。クラウドファンディングでもこれは同じことであろうと思われるが、特にクラ
21
ウドファンディングの場合は、ウェブで告知、集金をするというイメージが強く、ウェブ
のみに頼りがちになりそうなので、この地道な知り合いベースの資金提供者の開拓はより
重要となろう。
表 14:ふるさと納税者の納税地域(複数回答可)と納税地域数
回答数
割合
北海道 東北
関東 北信越 中部・東海 近畿
中国
四国
九州 沖縄
67
41
26
15
28
40
60
36
37
6
24.7% 15.1% 9.6%
5.5%
10.3% 14.8% 22.1% 13.3% 13.7% 2.2%
1
回答数
割合
2
3
37
38
36
13.7% 14.0% 13.3%
4
13
4.8%
5以上
151
55.7%
計
271
計
271
出所:東川町のデータをもとに著者作成。
表 15 は、ふるさと納税経験者がどの地域に、そしていくつの地域にこれまでふるさと納
税を実施したかを表している30。まず地域から見ると、北海道の割合がやや髙いが、他の
地域にも万遍なくふるさと納税を実施している様子が分かる。北海道の自治体にふるさと
納税をしているからと言って、北海道の自治体ばかりにふるさと納税を実施しているわけ
ではないということになる。地域により、ふるさと納税の取り組みやお礼の品は多様であ
ると考えられ、納税者はむしろさまざまな地域へふるさと納税を行うことで、その多様性
を楽しんでいるのかもしれない。クラウドファンディングの場合、一部クラウドファンデ
ィングサイトは、音楽が中心、テクノロジー系の新商品開発が中心など、カテゴリーに特
化したタイプのものも存在する。コアな資金提供者の開拓にはその方が向いていると思う
が、表 13,14 からは、資金提供者は経験者である一方、多様性を好む可能性もあることか
ら、クラウドファンディングで資金調達をする場合、特化型のサイトに掲載すべきかどう
かは案件の特性との兼ね合いで判断したほうがよさそうである。
次に納税地域の数であるが、半分以上が 5 地域以上となっている。この層はふるさと納
税のコアなファンであり、ふるさと納税の経験が多いことからもおそらく目も肥えている
と思われる。その意味では、自治体側は目の肥えた資金提供者と対峙することになるため、
他の自治体の取り組みを研究し、差別化を図っていく必要がある。クラウドファンディン
グでもおそらく同様ではないかと思われる。
最後に、株式投資を行っているかを聞いた結果が表 15 である。ふるさと納税は投資では
ないが、お金を出してモノを受け取るという行為は、株式投資での株主優待にも近い側面
があるのではないか、ということで確認をした31。実際、東川町の場合は、ふるさと納税
を株式投資に見立て、株主制度と呼んでおり、資金提供者は株主と呼ばれ株主優待制度も
30
これまでの分析同様、東川町への居住歴や訪問歴、北海道在住者などグループに分けても数値を確認
したが、特に大きな違いが見られなかったので、全体のデータのみ示している。
31
また、資金使途を確認した上でお金を提供するという意味では、企業がエクイティファイナンスを実
施する際に似た側面もある。新株発行による資金調達の際、企業は投資家に向けた IR 活動を行うが、そ
の際に投資家が重視するのが資金使途である。ふるさと納税の場合は使途を指定しない一般寄付のケース
が多いとは言え、唯一納税者が使い道を指定できる税金ゆえに、使途での共通項があるということも指摘
しておきたい。
22
存在する32。結果は、全体の半数弱が株主投資を行っており、東川町への訪問歴、居住歴
のない本州在住者に限定すると 3 人に 2 人が株式投資を行っている。東川町では株主制度
という呼称を用いているがゆえに、他の自治体の場合に比べると数値が高くなっている可
能性はあるが、潜在的な資金提供者の開拓を行う際、個人投資家を狙うのも一つの手であ
ろう33。クラウドファンディングの場合も、この層へのアプローチと開拓は有効かもしれ
ない。
表 15:ふるさと納税者の株式投資経験
全回答者
やっている
やっていない
(回答者数)
46.4%
53.6%
823
居住歴無
訪問歴無
66.5%
33.5%
263
本州在住者
居住歴無
訪問歴有
54.7%
45.3%
161
北海道在住
居住歴有
東川町外
現町民
39.5%
60.5%
38
29.9%
70.1%
314
21.3%
78.7%
47
出所:東川町のデータをもとに著者作成。
なお、アンケートでは、株式投資をやっていると答えた層に、株式投資の目的を 3 つ(値
上がり益、配当利回り、株主優待)より一つだけ選んでもらうという設問もあった。結果
は、半分弱が値上がり益、約 1/4 が配当、約 1/4 が株主優待であった。株主優待でのモノ
目当ての投資家ばかりではなかった。また、株式投資をやっていないと答えた層に、今後
株式投資への興味があるかと確認したところ、36.4%の人が興味ありと答え、東川町への
訪問歴、居住歴のない本州在住者に限定すると、46.6%が興味ありとの回答であった。
東川町を除くと、ふるさと納税が株式投資のコンテクストで語られることはほとんどな
いが、資金提供者の多くが株式投資に対して興味を持っているという状況からは、ふるさ
と納税の見せ方として、東川町のようなアプローチも一つの有効な策であると考えられる。
クラウドファンディングでは、投資型のクラウドファンディングが平成 27 年に解禁される
が、投資型の解禁でクラウドファンディング市場に参入する個人投資家が、購入型や寄付
型へも一部流れ、市場がさらに拡大する可能性があるかもしれない。
7.
ふるさと納税による地域交流の効果とクラウドファンディングへの示唆
継続的に安定的に資金調達を行うために、自治体はふるさと納税者にリピーターとなっ
てもらい、今後の町の発展を支えてもらいたいと考えているはずである。また、上士幌町、
東川町ともに、町長はこのふるさと納税をきっかけとして、交流人口を増やしたい、納税
者に町を訪問してほしいと口をそろえる。そこで、ふるさと納税が地域交流に与えうる可
能性を見ておく。
東川町でのアンケートには、今後町に訪問したいかどうかも含まれている。本州在住者
をサンプルとした結果は表 16 のとおりである。東川町への居住歴、訪問歴のない本州在住
者でも、12.6%は納税後町を訪問しており、63.0%は今後町を訪問したいと考えている。ふ
32
保田(2014)に詳しい。
個人向けの株式投資雑誌やメディアでも、ふるさと納税が取り上げられるケースがあるため、その影
響もあると考えられる。
33
23
るさと納税者は、お金の提供だけでなくリアルな交流を求めていることがうかがえる。し
たがって、自治体による交流施策の有無がリピーターの確保につながると考えられる。こ
れは、企業であれば株主総会や IR 活動、あるいは自社工場見学等に代替できるであろう。
クラウドファンディングを実施する多くの中堅中小企業、ベンチャー企業にそれらを行う
ことはリソース的に容易ではないだろうが、今後も継続してクラウドファンディングで資
金調達をしたいと考える場合は、取り組みに値するかもしれない。
表 16:ふるさと納税を納めて以降の東川町への訪問歴、あるいは訪問希望
訪問した
今後5年以内に訪問したい
当面訪問する予定はない
不明
(回答者数)
本州在住者
居住歴無
居住歴無
訪問歴無
訪問歴有
12.6%
52.8%
63.0%
41.6%
24.4%
5.6%
0.4%
0.0%
263
161
出所:上士幌町のデータをもとに著者作成。
また、上士幌町では、平成 27 年 1 月末に「ふるさと納税大感謝祭 in 東京」というイベ
ントを開催し、首都圏在住の上士幌町へのふるさと納税者との交流の機会を設けた34。上
士幌町では、このイベントの開催案内を、平成 26 年 12 月に東京、神奈川、埼玉、千葉在
住のふるさと納税者に郵送し、参加希望者は同封された申し込み葉書を上士幌町に返送す
るというプロセスをとった。5,255 人へのイベント案内の郵送に対し、1,824 名からの参加
申込の回答があった。これは、町が想定していた 1,000 人の定員を大きく上回り、この申
し込み人数の多さからも、納税者の交流意欲を垣間見ることができる。そして、その参加
申込葉書には、上士幌町についてどのようなことに関心があるかというアンケート欄があ
り、その結果が表 17 である。これを見ると、7 割の人が上士幌町での観光に、そして、2
割弱の人が暮らしに興味があると答えている。アンケート回答者はすべて感謝祭への参加
希望者であったため、もともと上士幌町への関心度合いの高い人たちに偏ったアンケート
結果ではあるが、今後の交流人口の増加に期待が持てる結果である。
表 17:上士幌町へのふるさと納税者が上士幌町に関して関心を持っていること(複数回
答可)
人数
割合
暮らし
332
18.2%
子育て・教育 医療・福祉
98
5.4%
73
4.0%
観光
生活体験 仕事・求人
1,274
262
44
69.8%
14.4%
2.4%
特産品
1,351
74.1%
ふるさと納税
1,036
56.8%
出所:上士幌町のデータをもとに著者作成。
注:割合は、回答人数 1,824 名に占める割合。
北海道東川町も上士幌町も有名な観光名所を抱える町ではない。にもかかわらず、町を
訪問したい、観光に行きたいと思う人たちが少なからず存在するということは、納税をし
34
参加費は無料で、内容としては、町の PR、説明、お礼の品で提供される特産品の試食会、その他町の
特産品の販売会などであった。
24
てお礼の品を受け取れば関係はおしまいというのではなく、むしろふるさと納税は納税者
と自治体との関係を開始するポイントであり、関係が深まればそれら納税者がクチコミで
次の納税者を呼んでくるというスパイラルが形成されよう。クラウドファンディングの場
合、継続的にクラウドファンディングで資金調達をする事例は多くないと思われるが、購
入型の場合は商品の顧客となるため、ファンディングをきっかけとしてそれら顧客をロイ
ヤルカスタマーにしていくことは、その後の企業の発展にとって非常に重要だと思われる。
よって、ふるさと納税同様に、交流の機会を提供することはやはり重要であろう。
8.
まとめ
本稿では、北海道上士幌町および北海道東川町のデータをもとに、ふるさと納税の納税
者のきっかけ、動機、目的を把握し、資金提供者の姿への接近を試みた。また、それら要
因が納税金額に与える影響も分析し、より効果的に資金調達をする際のアプローチ戦略も
提示した。そして、それら結果からクラウドファンディングへの示唆を得ようと試みた。
分析の結果からは、ふるさと納税においては、資金調達者(自治体)は事前に潜在資金
提供者と接点を持つことが有効であること、お礼の品目的と思われる層は納税金額が高く
なる傾向にあること、マーケティングではウェブとリアルなクチコミでは開拓しうる層が
異なり、特に規模が小さいうちはクチコミが重要であること、そして、交流政策の有無が
リピーター育成に重要となることが分かった。ふるさと納税と企業が実施するクラウドフ
ァンディングでは、いくつかの違いが存在するが、多数の個人から広く資金を提供しても
らうという点では共通しており、今回の分析結果はクラウドファンディングにも適用して
みる価値があると思われる。
今後の研究の発展の方向性としては二つある。一つはふるさと納税の更なる実態解明に
つなげることである。これはふるさと納税を実施している他の自治体に対して同様の調査
を行い、横断的にふるさと納税の成功要因や資金提供者の姿をとらえるための分析をする
ことである。上士幌町と東川町の違いでも見られたように、各自治体が保有しているデー
タにはバラつきがある。納税者番号制度が導入されるとより分析は発展していくと考えら
れる。もう一つは、今回と同様の分析を、クラウドファンディングを実施している事業者
のデータをもとに実施することである。それによってより具体的、そしてリアルなクラウ
ドファンディングの姿が浮き彫りになる。クラウドファンディングが、個人が保有する金
融資産を貯蓄から投資へ振り向ける一つのツールとなり、また、資金調達者にとっての有
益なプラットフォームとなるには、その研究、分析は欠かせず、今後の課題である。
参考文献
総務省自治税務局(2013) 「ふるさと納税に関する調査結果」。
保田隆明 (2014)「地方自治体のふるさと納税を通じたクラウドファンディングの成功要因」、『商学討究
(小樽商科大学)』64(4)、257-272 ページ。
松尾順介 (2014)「クラウドファンディングと地域再生」、『証券経済研究』88、17-39 ページ。
山本純子 (2014)『入門クラウドファンディング』、日本実業出版社。
25
Agrawal,A., Catalini.C., and Goldfarb,A. (2013), “Crowdfunding: Social Frictions in the Flat World?,” Working
Paper.
Belleflamme,P., Lambert.T., and Schwienbacher,A. (2014), “Crowdfunding: Tapping the Right Crowd,” Journal of
Business Venturing, 29, pp.585-609.
massolution (2013), “2013CF The Crowdfunding Industry Report”.
Mollick.E. (2014), “The Dynamics of Crowdfunding: An Exploratory Study,” Journal of Business Venturing, 29,
pp.1-16.
補論:ふるさと納税による経済波及効果の試算
ふるさと納税に関しては、調達金額の半分程度はお礼の品の特産品の購入に充てる自治
体が多く、実質的には自治体にとって半分程度しか純税にならないことから、お礼の品の
あり方について様々な意見が存在する。ただ、お礼の品のほとんどは、各自治体において
自給率の高い特産品が用いられているため、自治体によるお礼の品の購入は地域の産業振
興につながっており、経済波及効果をもたらしていると考えられる。また、ふるさと納税
は自治体にとっては使い勝手のよい税金となるため、町の発展のためにより戦略的に使用
することが可能である。それらの地域経済への経済波及効果を試算することで、ふるさと
納税に関してより正確な姿を把握することを試みる。
試算は、北海道上士幌町より関連データを提供いただき行った35。北海道経済部経済企
画室が提供している経済波及効果分析支援ツールの十勝圏版を用いて経済波及効果を推計
した。同ツールは、北海道開発局「平成 17 年北海道内地域経済間産業連関表」65 部門表
を用いている36。試算は、平成 26 年度に上士幌町がふるさと納税で調達することが見込ま
れている 10 億円を、上士幌町へのヒアリングをもとに、それら 65 部門に振り分け、同ツ
ールの十勝圏における前提条件をそのまま上士幌町に適用して計算した。町による 10 億円
の支出による直接効果、1 次生産誘発効果、2 次生産誘発効果を計算し、その合計値を経済
波及効果(生産誘発額)とした37。結果、10 億円の調達金額に対して、経済波及効果は 12.2
億円、域内 GDP を 6.6 億円押し上げ、雇用者誘発人数は 82 人と試算された。ただし、一
つ留意が必要な点は、計算に必要な各産業での自給率(域内調達率)
、投入係数表38、逆行
列係数表39の数値は十勝圏のものを、また、消費性向の数値は北海道のもの40を用いている
ことである。上士幌町は十勝圏内に属するものの、それら数値は十勝圏全体あるいは北海
道全体の数値とは異なることが予想される。特に自給率に関しては、経済圏の規模の小さ
さゆえにより全体的に低い数値になることが想像される。したがって、今回試算した経済
35
最低限必要なデータを概算値で提供いただいたものであり、実際の数値とは異なる可能性がある。ま
た、個人情報などは特定されない形でデータを提供いただいた。
36
詳しい計算モデルや前提などは経済波及効果分析支援ツール解説書(平成 24 年北海道総合政策部計画
推進局参事(経済調査))参照のこと。
37
たとえば、上士幌町がお礼の品として十勝ナイタイ和牛肉を 1 万円分購入する場合、1 万円は直接効果
だが、その肉を作るのに必要な飼料や肥料の生産も必要となり、1 次生産誘発効果が発生する。そして、
直接効果と 1 次生産誘発効果によって発生する雇用者所得の増加の一部が消費に回されることで、さらに
各産業の生産を誘発し、これが 2 次生産誘発効果となる。
38
ある産業で、生産物を 1 単位生産するのに必要な各産業からの原材料などの投入割合を示す係数。
39
ある産業に 1 単位の需要が生じる際に、直接・間接の波及効果により、各産業の生産が何単位誘発さ
れるかを示す係数。
40
総務省「家計調査」のデータ。
26
波及効果はあくまでも理論的な最大値、あるいは、経済波及効果を上士幌町に限定せず、
十勝圏全体への波及効果とした場合の数値として理解する必要がある。
加えて、雇用者誘発人数に関しては、分析支援ツールの注記にもあるが、実体経済にお
いては生産に増減があっても、それがそのまま直接雇用の増減に結びつくわけではない点
にも注意する必要がある。ただし、人口が 5,000 人に満たない町において、数十人規模で
雇用を創出しうることの効果は非常に大きい。
上士幌町のふるさと納税に関する取り組みは、これまでに数多くのメディアに取り上げ
られている。今後町を発展させていくためには、町の全国的な知名度向上は非常に重要で
あると考えられるため、今回、メディア露出効果の経済価値を試算した。具体的には、上
士幌町が把握している平成 26 年度にメディアに取り上げられた媒体の情報をリストとし
て提供してもらい、それら各媒体に広告出稿をしたならばかかる費用を推計し、その合計
値を経済価値とした。ただし、各媒体の広告出稿費用については、公表されているものが
非常に限定されているため、放送、新聞、広告業界の関係者に一般論としてヒアリングを
行い、概算として計算した。結果は、テレビ・ラジオで約 9.8 億円、新聞雑誌で約 6,300
万円、ウェブメディアで約 300 万円41、合計約 10.4 億円となった。テレビ・ラジオの金額
が大きくなっているが、全国ネットの人気テレビ番組42で長い尺分数をかけて何度か取り
上げられたことの影響が大きい。なお、メディア報道によってふるさと納税の金額が押し
上げられていると考えられることから、メディア報道の経済価値は、一部は上で試算した
ふるさと納税の経済波及効果に反映されていると考えられる。よって、経済波及効果とメ
ディア露出の経済価値には重複部分が存在する点は留意が必要である。
上士幌町が 2015 年 1 月に実施した「ふるさと納税感謝祭 in 東京」のアンケート結果に
よると、上で見た通り感謝祭への参加希望者のうち約 7 割の人たちが上士幌町への観光に
関心を持っていることが判明している。したがって、ふるさと納税は自治体への観光客の
押し上げ効果が期待される。そこで、ふるさと納税をきっかけとした観光客の増加による、
観光消費額を計算してみた。平成 26 年度の観光客入込数のデータはまだ発表されたものが
ないため、ふるさと納税でのメディア露出で取り上げられた町の店舗へのヒアリングなど
を通じて、著者が独自にふるさと納税をきっかけとした上士幌町への観光客の増加数を推
計した。年間 1,200 人の観光客の増加、うち、13.4%を道外客(1 泊宿泊と想定)
、残りを
日帰り道内客と想定した43。観光消費額の金額は、北海道観光産業経済効果調査委員会の
もの(平成 23 年 3 月)を使用したが、上士幌町の面積は北海道のそれに比べると非常に小
さいため、道外客の消費金額をそのまま適用すると大きくなりすぎると思われるため、道
外客の消費金額は道内客の宿泊客と同じ金額を適用した。計算結果は、ふるさと納税をき
っかけとして上士幌町で増加した観光客による観光消費額は約 1,800 万円であった。
ふるさと納税は、平成 27 年度からは寄付金控除の上限金額の倍増や、確定申告手続きの
41
ただし、ウェブメディアにはふるさと納税のポータルサイトでの紹介や掲載は含まず、報道ベースの
みとした。
42
TBS「中居正広の金曜日のスマたちへ」、NHK「クローズアップ現代」等。テレビでとりあげられた回
数は地方局の番組も合わせると 50 回を超えた。
43
上士幌町のデータによると、同町の観光客入込数は、平成 25 年度は 32.4 万人(うち日帰り客が 86.6%、
宿泊客が 13.4%。なお、道内外の内訳は、道内客が 72.6%、道外客が 27.4%)である。
27
簡素化が予定されており、ますますの利用の拡大が見込まれる。お金が都市部から地方へ
巡るという意味では、地方創生の大きな策としても期待されている。一方で、ふるさと納
税の寄付金のおよそ半分程度は、多くの自治体でお礼の品としての特産品の購入に充てあ
てられており、自治体が純粋に使える金額が減ってしまうことから様々な意見も存在する。
ふるさと納税がどの程度地域経済に役立つのかを試算することは、本制度の存在意義を確
認する上で非常に重要である。
一方、今後の課題は、このふるさと納税の制度が恒久的なものになるかどうかである。
今回の上士幌町や上士幌町でお礼の品の特産品を提供している事業者へのヒアリングでも、
雇用増あるいは新たな設備投資の潜在的需要は現場で確認できるものの、ふるさと納税の
制度の持続性に自信が持てず、新規雇用や設備投資に踏み切りにくいという実態も確認す
ることができた。よって、今回試算した経済効果は、あくまでも理論値であり、それを具
現化するには制度をある程度恒久的なものとして定着させる必要がある。
なお、国全体での効率的な税金の使い道としてふるさと納税が適切かどうかに関しては、
別途議論の余地があろう。今回の試算では、北海道上士幌町では 10 億円の徴税に対して
12.2 億円の経済波及効果と 82 人の雇用者誘発人数となったが、この 10 億円は、もともと
は別の自治体の住民税であり、それら自治体で住民税として納められていた場合の経済波
及効果と比較して、どちらがより高い経済効果をもたらすかを比較検討してみる必要も、
本来はある。ただ、ふるさと納税は、我が国で唯一納税者が納税先とその使途を指定でき
る税金であり、納税者の納税意識と納税先に対するモニタリング意識の高まりには貢献す
ることが考えられる。それらを通じて、税金を使う側の自治体もより効果的に税金を使お
うと意識を変えざるを得なくなると考えられ、その意味ではふるさと納税を通じて国全体
としてより効率的な税金の使用の意識が高まるという副次的効果は期待できよう。また、
寄付金控除において、2,000 円は控除対象外であるため、国全体としては納税金額が大きく
なるという効果もふるさと納税は持ち合わせている。それらをも勘案して、経済波及効果
等の観点も含め、ふるさと納税に関しては今後健全な議論がなされていくべきだと考える。
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