原発と大津波 警告を葬った人々

原発と大津波
警告を葬った人々
添田孝史
2015年1月16日
原発と大津波 資料と補足のページ
http://soeda221.wix.com/tsunam
i
本日話すこと
• 貞観津波への備え
• 日本海溝で起きる「津波地震」への備え
• 津波への安全率と津波アクシデントマネジメ
ント(津波AM)
1966年7月1日(設置許可申請日)
津波の想定 3.1m
●既往最大+安全余裕で設計していた。
●どこで大きな津波が起きるかわかっていな
かった
●
設計当初の津波想定
不可思議な「既往最大」
福島第一
13m
距離12キロ
福島第二
9m
小名浜港
4.2m
60キロ
12年分
東京電力株式会社 福島第一原子力発電所 原子炉設置許可申請 第27部会参考資料
昭和41年12月
津波予測が進化した
• プレートテクトニクスの確立 1967年~1968
年
• 断層運動のパラメーターから津波数値計算
するMensinha-Smylieの方法 1970年代から
• 津波堆積物の研究 1986年から
• コンピューターの能力向上
貞観津波 唯一の記述
そして激しい波と高潮がやってきてさかのぼ
り、また漲り進んで、たちまち多賀城の直下ま
で到来した。海を離れること数十百里の距離ま
で冠水した様子は、広々としてその果てを区別
することができない。原野や道路はすべて青海
原のようになってしまった。船に乗る余裕もな
く、山に登る時間もなく、その中で、溺死するも
のが千余人にも及んだ。
869年(貞観11年)7月 『日本三代実録』 保立道久訳
吉田調書から
貞観津波の波源で考えたときにも、うちの敷
地は3mか4mぐらしか来ないから、これは今の
基準で十分持つという判断を1回しているわけ
です。貞観津波の波源のところに、マグニ
チュード9が来ると言った人は、今回の地震が
来るまではだれもいないわけですから、それを
なんで考慮しなかったんだというのは無礼千万
だと思っています。
吉田昌郎 政府事故調調書 2011年8月8日、9日その3 P.21
1994年報告書
福島第一・第二原子力発電所 津波の検討について 平成6年3月 東京電力株式会社
①
1994年津波再評
価の欺瞞
②
① 東電(1994) M8.3
② 宇佐美(1987) M8.3±1/4
③
④
③ 箕浦氏ら(2001) M8.3
④ 佐竹氏ら(2008) M8.4
福島第一で9.2m
1994年以降の進展
• 津波堆積物調査
1986年仙台平野 福島第一から90キロ
(長い空白期)
2001年福島県相馬市 同40キロ
2007年福島県浪江町請戸 同4キロ地点
中央防災会議での指摘
議論の中で一つイベントがあるとおもうのです
が、それはやはり869年の貞観だと思うので
す。これは一応史実としてはあるわけなのです
が、その規模とかメカニズムがわからない。た
だし、被害が大きいということは事実なのです
ね。最近また堆積学的な、科学的な根拠が出
つつありますので、それはぜひ切り捨てないで
いただきたい。これが今話しに出た福島県沖に
対して非常に大きな影響は与えるわけですね。
中央防災会議 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会 第2回 2004年2月19日
2008年11月
• 2008年10月 佐竹健治・東大教授が東電に
最新の論文を渡す
• 2008年11月 東電の担当者は、貞観津波の
計算水位が8.6m~9.2m(土木学会手法では
+3割程度、すなわち敷地高さ超え)になるこ
とを知る
• 2009年9月 東電が上記の試算結果を保安
院に説明
2009年6月24日
「(東電の想定とは)全く比べものにならない非
常にでかいもの(津波)が来ているということは
もうわかっている」
岡村行信・産業技術総合研究所活断層・地震研究セ
ンター長
総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会 耐震・構
造設計小委員会 地震・津波、地質・地盤 合同WG第32回
プルサーマル推進の陰で
• 2010年2月 佐藤雄平・福島県知事が「耐震
安全性の確認」を条件の一つとしてプルサー
マル受け入れ
• 2010年3月 保安院・森山善範審議官がメー
ル「貞観の地震は敷地高を大きく超える恐
れ」「対策が必要になる可能性も十二分に」
「評価をやれと言われても何がおこるかわか
りませんよ」
「津波にかかわるとクビ」
小林勝・原子力規制庁安全規制管理官(事故
当時、保安院耐震安全審査室長)の政府事故
調調査より
小林「ちゃんと議論しないとまずい」
野口・審査課長「保安院と原子力安全委の上層
部が手を握っているから余計なことするな」
原・広報課長「あまり関わるとクビになるよ」
経産大臣「まぁそうしとくか」
福島県がプルサーマルに際して耐震安全チェッ
クを求めたことについて
石田徹・資源エネ庁長官「今、知事まで上げる
のは得策ではない」
直嶋正行・経産大臣「‥‥まぁそうしとくか」
2010年4月28日 16:10 直嶋大臣レク概要
石田氏は、2011年1月に東京電力の顧問に就任 年
収1860万円とも言われた
遅れた最終報告
岡村行信・産総研センター長
「中間報告から、半年~1年後と保安院は言っ
ていたと思う」
→2008年3月に福島第一の中間報告は提出さ
れたが、最終報告は事故時までい提出されず。
東電は最終報告提出を2009年6月(2006年10
月段階)としていたが、先延ばし。社内文書では
2016年1月に勝手に先送りしていた。
長期評価を書き換えさせる
2011年3月3日に、文科省が長期評価を公表前
に東電に見せる
東電「貞観地震が繰り返して発生しているよう
にも読めるので、表現を工夫していただきたい」
文科省は地震調査委員会に諮らず勝手に修正
案「繰り返し発生しているかについては、これら
を判断するのに適切なデータが十分でないた
め、さらなる調査研究が必要である」と挿入
津波地震とは
プレート境界の一部では、断層面でのずれがゆっくり
と起こり、それによる海底での地殻変動(隆起や沈降)
で津波が発生することがあります。この場合、ずれが
ゆっくりと起こるため、生じる地震波は比較的小さく、
我々は弱い揺れしか感じません。しかし、津波を引き
起こす海底での地殻変動の大きさは、ずれの速さでは
なく、むしろ断層運動の規模(ずれの量と広さ)などに
依存すします。したがって、感じた地震の揺れが比較
的弱くても、断層運動が大規模であれば大きな津波が
発生します。このように、体感する地震動が弱くても大
きな津波を生じさせるような地震を「津波地震」といい
ます。
『日本の地震活動 第2版 地震本部』 2009
津波地震「発見」の歴史
• 1928 和達清夫 深海地震(低周波で継続時
間が長い)提唱
• 1980 深尾良夫ら 日本海溝に沿う低周波地
震発生域発見
• 1997 七省庁手引き
• 2002 地震本部長期評価
電事連はどう考えたのか?
●
●
●
7省庁津波の考え方を適用すると、一部原発
で津波高さが敷地高さや屋外ポンプ高さを
超えてしまう。(電事連1997年6月)
おまけに数値予測は開発途上で、専門家は
精度は「倍半分」と言ってる(電事連1997年6月)
数値予測の精度を決める「波源のばらつき」
を「考慮しなくてよいとのロジックを組み立て
る」(電事連1997年6月)
七省庁手引きの
津波地震予測
七省庁手引きが
予測した波源域
(1997)
地震本部が予測
した波源域
(2002)
地震本部長期評価2002年7月
三陸沖から房総
沖にかけての長
期評価を公表
→日本海溝沿
いの津波地震を
予測
朝日新聞2002年8月1日
朝刊第二社会面
東電社員「困惑」メール
地震本部発表の1週間後(2002年8月)
東電社員「《土木学会と》異なる見解が示された
ことから若干困惑しております」
地震本部委員の研究者「1611年、1677年の津
波地震の波源がはっきりしないため、長期評価
では海溝沿いのどこで起きるかわからないとし
た」
東電社員「今後の研究の進展を待ちたい」
握りつぶした吉田所長
• 「基本的に私は地震だとか津波に余り教養が
ない」
• 「推本《地震本部》は波源を勝手に移動して、
こんなところで起きたらどうだと言っているだ
けの話ですから、それを本当にいろいろな先
生の支持を得られるかというと、いろいろ聞い
ても、荒唐無稽と言ったらおかしいんですけ
れども、そうおっしゃる人もたくさんいて…」
吉田調書 2011年8月8日、9日 事故時の対応とその状況について3
4日前の「お打ち合わせ」
1997年7省庁手引きの方針そのもの
揺れと津波、余裕の違い
「想定2倍の対策を」
1997年7月 電事連資料
「通産省はその指針《7省庁手引き》及び顧問
の先生の意見を考慮し、仮に今の数値解析の
2倍で津波高さを評価した場合、その津波によ
り原発がどうなるか、さらにその対策として何が
考えられるかを提示するよう電力に要請してい
る。
電事連第287回原子力開発対策会議総合部会「7省庁による太平洋沿岸部
地震津波防災計画手法調査について」1997年6月
余裕が最小
福島第一
○:影響なし
×:影響あり
※1:津波水位評価
に用いる活断層は、
設置許可申請ベー
スと文献断層のもの
とした(かっこ内は文
献断層)
※2:簡易評価結果
泊1、2号
東通1号
女川1~3号
志賀1,2号
福島第一1~6号
福島第二1~4号
柏崎刈羽1~7号
浜岡1~5号
美浜1~3号
高浜1~4号
大飯1~4号
島根1、2号
伊方1~3号
川内1、2号※1
玄海1~4号※2
東海第二
敦賀1,2号
大間
もんじゅ
水位上昇側
1.2倍
1.5倍
2.0倍
○
○
○
○
○
×
○
×
×
○
○
○
×
×
×
○
○
○
1~4:×
○
○
5~7:○
○
×
×
○
○
×
○
○
○
○
○
○
×
×
×
○
×
×
○(○) ○(○)
○(×)
1:×
○
○
その他:○
○
×
×
○
○
○
○
○
○
○
○
○
「保安院上層部は不安感」
2005年12月14日
保安院「津波によって施設内のポンプ等が浸水
した場合にどういう事態になるのか、何か対策
をしておくべきなのかに関する説明が出来ない
ことに対して、保安院上層部は不安感があり、
審査課に説明を求めてくる可能性がある。そこ
で、設計波高を超えた場合に施設がどうなるの
かを早急に検討したい、と考えている」
保安院、JNES、東電が2005年12月14日に開いた会合で、小野
審査班長
「想定の1.5倍の対策検討」
• 土木学会手法がどのくらい保守的か確認
• 土木学会手法の1.5倍程度を想定し、必要な
対策を検討し、順次措置を講じていくこととす
る(AM対策との位置づけ)
• 最低限、どの設備を死守するか
• 対策を講じる場合、耐震バックチェックに潜り
込ませれば、2年以内の対応となるのではな
いか
2006年6月29日 内部溢水及び外部溢水の今後の検討方針(案)
「不作為」の自覚
2006年9月13日第54回安全情報検討会資料
「安全余裕がない」
2006年10月6日
津波に余裕が少ないプラントは具体的、物理的
対応を取ってほしい。自然現象であり、設計想
定を超える津波が来る恐れがある。その場合、
非常用海水ポンプが機能喪失し、そのまま炉
心損傷になるため安全余裕がない。各社上層
部に伝えること。
耐震バックチェックについての全電気事業者一括ヒアリングで
2008年度中に津波影響評価
「対応安全情報」進捗状況一覧表 第105回安全情報検討会資料
2009年2月18日
2010年度完了予
定だったAM
内部溢水、外部溢水の対応状況に
関する打ち合わせ議事メモ
2006年1月17日
出席者 保安院審査課 小野班長
ら 現 規制庁安全規制調整官
東電の経営状態
4000
90
3000
80
2000
経
常 1000
損
0
益
(
億 -1000
円
) -2000
70
-3000
-4000
60
50
ト
ラ
ブ
ル
隠
し
発
覚
新
潟
県
中
越
沖
地
震
40
30
20
原
発
の
設
備
利
用
率
(
%
)
経常損益
10
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
東電の原発利用率と損益の推移
2008年3月期決算 28年ぶり赤字
柏崎刈羽の補修・補強に4000億円
原発の設備利用率
防潮堤でなくても
米原発の持ち運び出来る非常用
電源カート 原子炉計器類に8時
間電力を供給
ドキュメンタリーWAVE 世界から見た福
島原発事故 2012
米ディアブロ・キャニオン原発
海水ポンプのモーターが水没しても
動くようにシュノーケルが取り付けら
れている
THE TRIBUNE 2011年10月2日
http://www.sanluisobispo.com/2011/10/02/1780388
/diablo-has-fail-safe-nuclear.html
東海第二 標高22mに発電機
日本原子力発電 東海第二発電所の震災時の状況
http://www.japc.co.jp/tohoku/tokai/tsunami_to.html
原発と一般施設 想定する災害の違い
すべての自然災害
原発が想定するもの
隕石
1万年に1回
巨大噴火
一般施設
数百年に1回
揺れは「1万年に1回」を想定
原子力発電所耐震設計技術指針 JEAG4601・補ー1984 日本電気協会
津波は?
武藤栄副社長
「100年に1回以下といった、炉の寿命スパンよ
りも頻度が低いような自然災害への対応につ
いては、切迫性がないと判断していた」
国会事故調
p.500
4原発の備え比
較
原発
福島第一
福島第二
女川
東海第二
津波への備え
× 6.1m→13m
× 5.2m→9m
〇 14.8m→13m
△ 5.72m→5.3m
シビアアクシデ
ント対策
全電源喪失
×
外部電源1/4
×
外部電源1/5
×
非常用発電機〇
×
電源喪失