電磁界解析を活用した基板と 筺体のEMI抑制設計

解析事例
電磁界解析を活用した基板と
筺体のEMI抑制設計
1 はじめに
昨今 、電 子 機 器 に 関 し て E M C ( E l e c t r o m a g netic
Comp a t i b i l i t y )と 呼 ば れ る ノ イ ズ の 問 題 が 多 く 発
生 し て い ま す 。 E M C と は 電 磁 環 境 両 立 性 を 意 味 し、
電 子 機 器 が 発 す る ノ イ ズ に 対 す る 2 つ の 考 え 、 E MI と
EMS か ら 成 り 立 ち ま す 。
EMI(Electro Magnetic Interference:エミッション)
とは、対象となる電子機器から「放出されるノイズ」で、こ
れを抑制する対策が必要となります。また、ノイズの伝搬形
態により、空間を不要電磁波として伝搬する放射エミッショ
ンと、基板配線などを通じて信号と一緒に伝搬する伝導エ
ミッションの2種類に分けられます。なお、伝導ノイズが要
因となり放射ノイズが発生するケースもあります。
EMS
(Electro Magnetic Susceptibility:イミュニティ)
とは、対象となる電子機器が「外部から受けるノイズ」で、
この耐性を高める対策が必要となります。EMIと同様にノ
イズの伝搬形態により、放射イミュニティと伝導イミュニ
ティに分けられます。EMSの中では、ESD(Electrostatic
Discharge)と呼ばれる静電気放電が代表的です。
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これらノイズは、電子機器の動作はもちろん人体にも影
響を及ぼします。そのためCISPRやVCCIといった国際規
膨大な工数を要するため、納期遅延になりかねません。
そこで、設計現場では実機の検討前にEMIを検証し、対策
格や各国の団体規格により許容されるノイズレベルが定め
案を盛り込むことが欠かせません。ANSYS社の電磁界解
られており、製品を市場に投入するためには、これらの規
析ツールであるHFSSは、電磁界の振る舞いを可視化する
格を満足する必要があります。
ことにより、設計段階におけるEMI抑制設計に貢献しま
す。
2 EMI抑制設計の必要性
3 ANSYS HFSSによる電磁界解析
セットメーカーにとって特に課題となっているのが、対象
●解析概要
の電子機器が放出するノイズ、つまりEMIの問題です。EMI
過去機種の経験等からノイズの発生源(励振源)、伝搬経
は基板、ケーブル、筐体とセット全体を駆動させて初めて問
路、放射箇所となり得る構造を精査し解析モデルを作成し
題が表面化することも多いため、実機での検証段階でその場
ます。具体的には、高速動作する基板配線、フレキシブル
しのぎの対策が施されるケースも珍しくありません。
ケーブル、ヒートシンクや筺体、外部機器に接続するケー
CISPR 、VCCI等のEMC規格を満たすためには多数の対
ブルなどがEMIが懸念される構造として挙げられます。こ
策部品が必要とな
り、 コ ス ト ア ッ プ
は も ち ろ ん、 回 路
天板(金属)
フレキケーブル
動作や筐体デザイ
~
基板1
ンに影響を及ぼす
可能性があります。
基板2
~
外部機器接続ケーブル
天板とシャーシ間
すきまあり
シャーシ(金属)
スリット
ま た、 実 機 の カ ッ
トアンドトライは
図1 セット概略図と解析モデル
29
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解析事例
れらの構造に対し、対象となるEMC規格に準拠した周波数
2層化による、天板とフレキシブルケーブル間にシールド
ブルのGNDラインを伝わる電流がセット内に戻る経路を
範囲や過去機種等で問題が発生した周波数範囲にて電磁界
を挿入することが有効な対策と考えられます(図6)
。
確保する対策が有効と考えられます(図7)
。
解析を実行します。
952MHzでは、天板とシャーシのすきまからノイズが
276MHzでは、コネクタ周辺のノイズレベルが高く、
放射している現象が見られます(図5)
。ビスの間隔により
外部接続ケーブルからノイズが放射していることがわかり
共振が発生していると推測されるため、基板とシャーシ、
解析結果から遠方界の電界強度スペクトラム(図2)を確
ます(図4)。コネクタと天板の間にある、開口部の電位差
シャーシと基板のビス接続を追加し共振周波数をシフトさ
認しノイズレベルが特に高い周波数(ピーク周波数)を選定
が高いことが要因と推測されます。コネクタと天板、コネ
せる対策が有効と考えられます。(図8)
します。各ピーク周波数の近傍界分布よりノイズの広がる様
クタと基板、基板とシャーシ間のGND接続を追加し、ケー
●解析結果と対策案検討
子を確認し、ノイズレベルを低減する対策案を検討します。
772MHzでは、励振源の基板配線ともう一方の基板に
伝送するフレキシブルケーブルから天板にノイズが伝搬し
ている現象が見られ(図3)、天板との容量結合が推測され
ます。従って基板配線の内層化とフレキシブルケーブルの
772MHz 952MHz
276MHz
図3 電界分布@772MHz
図4 電界分布@276MHz
外部機器接続ケーブル
天板
図5 電界分布@952MHz
天板
天板
距離確保
基板1
基板2
コネクタ
基板1
フレキケーブル
図2 3m遠方界電界強度スペクトラム
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図6 フレキシブルケーブル周辺の対策案
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シャーシ
基板2
基板2
シャーシ
図7 外部接続コネクタ周辺の対策案
図8 筺体の対策案
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ない方法に具現化します。例えば下記の案が考えらます。
4 対策案の効果確認
上記の対策を盛り込んだモデルの電磁界解析を実行しま
す。遠方界の電界強度スペクトラム(図9)を確認すると、
ピーク周波数だけでなく全周波数帯のフロアレベルが低減
●
●
分布もノイズレベルが大幅に改善されています(図10 ~
12)
。よって、初期の解析結果から導いた対策案はEMIの
抑制に非常に有効と言えます。なお772MHzのピーク周
波数が残りますが、これはフレキシブルケーブル長による
共振と考えらます。
高速動作する基板配線の内層化やフィルタ等の受動部
質の向上はもちろんのこと、実機検討の工数削減と対策部
品の挿入。
品のコスト削減、開発期間の短縮に大きく貢献します。
シールド構造のフレキシブルケーブルに変更。
または、フレキシブルケーブルの配線経路を天板に近
しています。各ピーク周波数におけるセット近傍の電界
●
策案を導くことができます。これらは、電子機器の設計品
お問い合わせ
接しないように変更。
メカニカルCAE事業部 営業部
基板とシャーシ、シャーシと天板間の接続をビスやコ
http://www.cybernet.co.jp/ansys/
E-mail: [email protected]
お問い合わせ
ンタクト部品等により追加。
●
シャーシに固定するタイプのコネクタに変更。
5 おわりに
ANSYS HFSSによる電磁界解析は、EMCサイトで測
●回路・基板・筺体設計へのフィードバック
EMIの抑制効果が得られた対策案を回路・基板・筐体設
計にフィードバックし、回路動作や筐体デザインに影響が
772MHz
定するような遠方界の電界強度スペクトラムを確認するこ
とができ、実機で問題となる周波数を予測することができ
ます。また、ノイズの広がりを可視化することにより、対
952MHz
276MHz
図9 対策盛り込み後の3m遠方界電界強度スペクトラム
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図10 対策盛り込み後の電界分布@276MHz
図11 対策盛り込み後の電界分布@772MHz
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図12 対策盛り込み後の電界分布@952MHz
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