解析事例 電磁界解析を活用した基板と 筺体のEMI抑制設計 1 はじめに 昨今 、電 子 機 器 に 関 し て E M C ( E l e c t r o m a g netic Comp a t i b i l i t y )と 呼 ば れ る ノ イ ズ の 問 題 が 多 く 発 生 し て い ま す 。 E M C と は 電 磁 環 境 両 立 性 を 意 味 し、 電 子 機 器 が 発 す る ノ イ ズ に 対 す る 2 つ の 考 え 、 E MI と EMS か ら 成 り 立 ち ま す 。 EMI(Electro Magnetic Interference:エミッション) とは、対象となる電子機器から「放出されるノイズ」で、こ れを抑制する対策が必要となります。また、ノイズの伝搬形 態により、空間を不要電磁波として伝搬する放射エミッショ ンと、基板配線などを通じて信号と一緒に伝搬する伝導エ ミッションの2種類に分けられます。なお、伝導ノイズが要 因となり放射ノイズが発生するケースもあります。 EMS (Electro Magnetic Susceptibility:イミュニティ) とは、対象となる電子機器が「外部から受けるノイズ」で、 この耐性を高める対策が必要となります。EMIと同様にノ イズの伝搬形態により、放射イミュニティと伝導イミュニ ティに分けられます。EMSの中では、ESD(Electrostatic Discharge)と呼ばれる静電気放電が代表的です。 Mechanical CAE NEWS Vol.22 これらノイズは、電子機器の動作はもちろん人体にも影 響を及ぼします。そのためCISPRやVCCIといった国際規 膨大な工数を要するため、納期遅延になりかねません。 そこで、設計現場では実機の検討前にEMIを検証し、対策 格や各国の団体規格により許容されるノイズレベルが定め 案を盛り込むことが欠かせません。ANSYS社の電磁界解 られており、製品を市場に投入するためには、これらの規 析ツールであるHFSSは、電磁界の振る舞いを可視化する 格を満足する必要があります。 ことにより、設計段階におけるEMI抑制設計に貢献しま す。 2 EMI抑制設計の必要性 3 ANSYS HFSSによる電磁界解析 セットメーカーにとって特に課題となっているのが、対象 ●解析概要 の電子機器が放出するノイズ、つまりEMIの問題です。EMI 過去機種の経験等からノイズの発生源(励振源)、伝搬経 は基板、ケーブル、筐体とセット全体を駆動させて初めて問 路、放射箇所となり得る構造を精査し解析モデルを作成し 題が表面化することも多いため、実機での検証段階でその場 ます。具体的には、高速動作する基板配線、フレキシブル しのぎの対策が施されるケースも珍しくありません。 ケーブル、ヒートシンクや筺体、外部機器に接続するケー CISPR 、VCCI等のEMC規格を満たすためには多数の対 ブルなどがEMIが懸念される構造として挙げられます。こ 策部品が必要とな り、 コ ス ト ア ッ プ は も ち ろ ん、 回 路 天板(金属) フレキケーブル 動作や筐体デザイ ~ 基板1 ンに影響を及ぼす 可能性があります。 基板2 ~ 外部機器接続ケーブル 天板とシャーシ間 すきまあり シャーシ(金属) スリット ま た、 実 機 の カ ッ トアンドトライは 図1 セット概略図と解析モデル 29 http://www.cybernet.co.jp/mcae/ 解析事例 れらの構造に対し、対象となるEMC規格に準拠した周波数 2層化による、天板とフレキシブルケーブル間にシールド ブルのGNDラインを伝わる電流がセット内に戻る経路を 範囲や過去機種等で問題が発生した周波数範囲にて電磁界 を挿入することが有効な対策と考えられます(図6) 。 確保する対策が有効と考えられます(図7) 。 解析を実行します。 952MHzでは、天板とシャーシのすきまからノイズが 276MHzでは、コネクタ周辺のノイズレベルが高く、 放射している現象が見られます(図5) 。ビスの間隔により 外部接続ケーブルからノイズが放射していることがわかり 共振が発生していると推測されるため、基板とシャーシ、 解析結果から遠方界の電界強度スペクトラム(図2)を確 ます(図4)。コネクタと天板の間にある、開口部の電位差 シャーシと基板のビス接続を追加し共振周波数をシフトさ 認しノイズレベルが特に高い周波数(ピーク周波数)を選定 が高いことが要因と推測されます。コネクタと天板、コネ せる対策が有効と考えられます。(図8) します。各ピーク周波数の近傍界分布よりノイズの広がる様 クタと基板、基板とシャーシ間のGND接続を追加し、ケー ●解析結果と対策案検討 子を確認し、ノイズレベルを低減する対策案を検討します。 772MHzでは、励振源の基板配線ともう一方の基板に 伝送するフレキシブルケーブルから天板にノイズが伝搬し ている現象が見られ(図3)、天板との容量結合が推測され ます。従って基板配線の内層化とフレキシブルケーブルの 772MHz 952MHz 276MHz 図3 電界分布@772MHz 図4 電界分布@276MHz 外部機器接続ケーブル 天板 図5 電界分布@952MHz 天板 天板 距離確保 基板1 基板2 コネクタ 基板1 フレキケーブル 図2 3m遠方界電界強度スペクトラム Mechanical CAE NEWS Vol.22 図6 フレキシブルケーブル周辺の対策案 30 シャーシ 基板2 基板2 シャーシ 図7 外部接続コネクタ周辺の対策案 図8 筺体の対策案 http://www.cybernet.co.jp/mcae/ 解析事例 ない方法に具現化します。例えば下記の案が考えらます。 4 対策案の効果確認 上記の対策を盛り込んだモデルの電磁界解析を実行しま す。遠方界の電界強度スペクトラム(図9)を確認すると、 ピーク周波数だけでなく全周波数帯のフロアレベルが低減 ● ● 分布もノイズレベルが大幅に改善されています(図10 ~ 12) 。よって、初期の解析結果から導いた対策案はEMIの 抑制に非常に有効と言えます。なお772MHzのピーク周 波数が残りますが、これはフレキシブルケーブル長による 共振と考えらます。 高速動作する基板配線の内層化やフィルタ等の受動部 質の向上はもちろんのこと、実機検討の工数削減と対策部 品の挿入。 品のコスト削減、開発期間の短縮に大きく貢献します。 シールド構造のフレキシブルケーブルに変更。 または、フレキシブルケーブルの配線経路を天板に近 しています。各ピーク周波数におけるセット近傍の電界 ● 策案を導くことができます。これらは、電子機器の設計品 お問い合わせ 接しないように変更。 メカニカルCAE事業部 営業部 基板とシャーシ、シャーシと天板間の接続をビスやコ http://www.cybernet.co.jp/ansys/ E-mail: [email protected] お問い合わせ ンタクト部品等により追加。 ● シャーシに固定するタイプのコネクタに変更。 5 おわりに ANSYS HFSSによる電磁界解析は、EMCサイトで測 ●回路・基板・筺体設計へのフィードバック EMIの抑制効果が得られた対策案を回路・基板・筐体設 計にフィードバックし、回路動作や筐体デザインに影響が 772MHz 定するような遠方界の電界強度スペクトラムを確認するこ とができ、実機で問題となる周波数を予測することができ ます。また、ノイズの広がりを可視化することにより、対 952MHz 276MHz 図9 対策盛り込み後の3m遠方界電界強度スペクトラム Mechanical CAE NEWS Vol.22 図10 対策盛り込み後の電界分布@276MHz 図11 対策盛り込み後の電界分布@772MHz 31 図12 対策盛り込み後の電界分布@952MHz http://www.cybernet.co.jp/mcae/
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