群馬県立産業技術センター研究報告(2013) FEM 弾塑性解析の精度向上のための材料物性値測定 坂田知昭・大槻洋三* Experiment of material property values for accuracy of FEM elastic-plastic analysis Tomoaki SAKATA, Yozo OHTSUKI 製造元の異なる鉄鋼材料について、材料物性値の測定と FEM 弾塑性解析を実施し比較した。その結果、 材料物性値の差異によって、プレス成形後の形状差が一部で顕著にあらわれることを確認した。 キーワード:鉄鋼材料、材料物性値、弾塑性解析 Experiment of material property values and FEM elastic-plastic analysis were carried out for steel materials with different manufacturer. As a result, it was verified that some of the difference of shape after press appeared prominently. Keywords:steel、material property values、elastic-plastic analysis 1 まえがき プレス加工の事前検討に FEM 弾塑性解析 を利用することは、金型作製や試作実験工数 2 2.1 研究方法 材料物性値の測定方法 2.1.1 加工硬化指数の測定 今回の実験で測定した鉄鋼材料を表 1 に示 などのコストや開発日程を短縮するのに有効 す。これらの材料を、JIS Z 2241 の 5 号試験 である。ただし、スプリングバックを見込ん 片に加工した(図 1)。 だ成形後の形状、板厚変化などの解析結果を 精度よく得るには、ヤング率や降伏応力、加 工硬化指数(n 値)等の材料物性値を正確に 与える必要がある。しかしながら、材料物性 表 1.使用した鉄鋼材料 材質 製造元 SPCC A 社 t2.6、t1.6、B 社 t2.3 SPCE A 社 t1.6、t2.0、t2.6 SAPH440P A 社 t2.0、C 社 t2.3 値の詳細は、あまり公開されておらず、実験 で測定しなければ得られないため手間を要す る。したがって、利用側は各 CAE のデータ ベースの物性値を用いるのが一般的である。 本研究では、材質や製造元の異なる鉄鋼材 料の物性値を測定し、FEM 弾塑性解析を実 施して、スプリングバックや板厚、ひずみの 結果を比較する。そして、物性値測定の解析 図 1.JIS Z 2241 5 号試験片 精度向上に対する有効性を評価し、企業の開 そして、JIS Z 2253 加工硬化指数試験(図 2) 発支援に資するか検証する事を目的とする。 を実施し、公称応力-ひずみ線図を測定した。 電子機械係 *応用機械係 そして、公称応力-ひずみ線図から真応力-ひ ずみ線図を計算で求め、ヤング率、降伏応力、 加工硬化指数、スイフト関数、引張強度、 破断ひずみを算出した(図 3)。同時に二軸 ひずみゲージによりポアソン比を測定した。 図 4.JIS Z 2254 塑性ひずみ比試験 2.2 FEM 弾塑性解析方法 解析は、図 5 に示す平板モデルをハット形 状にプレス成形する条件で行った。材料物性 図 2.JIS Z 2253 加工硬化指数試験 値以外の解析条件は同一とした。 図 3.真応力-ひずみ線図とスイフト関数 2.1.2 図 5.解析モデル 塑性ひずみ比の測定 解析結果から、スプリングバック量、最小 圧延方向に対して、0°、45°、90°方向 板厚、最大ひずみを材質毎に比較した。また、 で 5 号試験片を作製し、JIS Z 2254 塑性ひ プレス時に成形工具に作用する反力から、プ ずみ比試験(図 4)を実施して、各方向の r レス時に要するプレス最大荷重を比較した。 値を測定した。その結果からランクフォー ド値(平均塑性ひずみ比)、面内異方性を算 3 結果と考察 出した。 3.1 材料物性値の測定結果 表 2 に結果を示す。 表 2.材料物性値測定結果 r値 ランクフォード値 面内異方 0° 45° 90° (板厚異方性) 性(⊿R) A社 A社 B社 A社 A社 A社 A社 B社 SPCC t2.6 SPCC t1.6 SPCC t2.3 SPCE t1.6 SPCE t2.0 SPCE t2.6 SAPH440P t2.0 SAPH440P t2.3 平均 1.40 1.10 0.97 2.03 2.37 1.47 0.88 0.83 平均 0.93 1.06 0.88 1.52 1.58 1.47 1.03 1.06 平均 0.98 1.39 1.28 1.58 1.86 1.94 0.96 0.92 1.06 1.15 1.00 1.66 1.85 1.59 0.97 0.97 0.13 0.09 0.12 0.14 0.27 0.12 -0.05 -0.09 降伏 引張 破断 応力 ポアソ 強度 ひずみ Mpa ン比 n値 e0 C GPa MPa % (0.2%) 0.31 425 38 0.18 0.00940 535 220 231 0.29 434 36 0.21 0.00900 565 219 210 0.19 0.00843 545 230 220 0.30 427 36 0.36 394 42 0.24 0.01060 515 180 173 0.36 390 43 0.23 0.01320 495 164 183 0.30 393 41 0.23 0.00843 510 180 170 0.15 0.00740 700 220 335 0.28 560 29 材質で比較すると、深絞り性の良好性を示 0.28 572 30 0.18 0.00963 745 180 323 スイフト関数 ヤング 率 深絞り加工の良好性を示す 1) ランクフォ ード値は、SPCE が高い値を示している。 また、破断ひずみも SPCE が最も大きく、 伸び性が良好であることを示している。 材質毎に比較すると、各因子は 10%以内 で差異がみられた。 3.2 FEM 弾塑性解析結果 3.2.1 スプリングバック量 スプリングバック量の測定位置を図 6 図 7.(c) SAPH440P の解析結果比較 に、材質毎の解析結果を図 7 に示す。 横軸は、各メーカと板厚、左の縦軸はスプ リングバック量、右の縦軸は各グラフの一 スプリングバック量 番左のスプリングバック量を基準とした比 率を示す。メーカーによって差異がみられ、 SPCC の場合、約 1°の大きな差異であっ た。 図 6.スプリングバック量 3.2.2 板厚、ひずみ、プレス荷重 SPCC の、最小板厚、最大ひずみ、最大 プレス加重の解析結果を、図 8~10 に示す。 いずれも差異が 5%未満で、顕著な差異は みられなかった。SPCE と SAPH440P の 結果は省略するが、同様であった。 図 7.(a) SPCC の解析結果比較 最小板厚部 図 8.(a) SPCC 板厚の解析結果 図 7.(b) SPCE の解析結果比較 図 8.(b) SPCC 最小板厚の解析結果比較 最大ひずみ部 図 9.(a) SPCC 最大ひずみの解析結果 図 11(b). r 値と板厚の関係 板厚に関しては、図 11 に示すように、n 値 と r 値各々と正の相関関係にあることがわ かる。このことは、n 値が大きいと、加工 硬化し易いので、局部的な板厚減少に伴う 応力集中・破断を生じづらくなるため板厚 が薄くなりづらい、 r 値が大きいと板厚よ りも幅方向に縮み易いので、板厚が薄くな 図 9.(b) SPCC 最大ひずみ解析結果比較 らずに良く伸びる、という理論に基づく。 最大ひずみは、n 値、r 値と負の相関が みられた。最大プレス荷重は、降伏応力と 正の相関がみられた。スプリングバック量 は、1 つの物性値では相関がみられなかっ た。このことから、スプリングバック量は、 複数の因子が影響していると考えられる。 4 まとめ 材料物性値は製造メーカ、板厚で差異があ 図 10. SPCC 最大プレス荷重解析比較 る。その差異によって、ハットモデルの曲げ 加工の場合、解析上ではスプリングバックに 板厚などの各目的値に対して、材料物 顕著な差がみられた。したがって、実測した 性値の中で、どの因子が影響しているの 物性値を使用して解析することは、解析結果 か分析した。 の精度向上に寄与すると考えられる。 また、各物性値の板厚やひずみ、プレス荷 重に対する影響度を確認した。 参考文献 1) 日本塑性加工学会:塑性加工入門 図 11(a). n 値と板厚の関係
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