ST協会 H27 第 1 回全国研修会 抄録 演題 発語失行=失構音ではない

ST協会 H27 第 1 回全国研修会 抄録
演題
発語失行=失構音ではない? -日米のちがい-
帝京平成大学 健康メディカル学部 言語聴覚学科
永井知代子
発語失行(apraxia of speech, AOS)とは,単語や文の音声符号化の障害と定義され,
臨床的には音の連結不良や構音の歪みを特徴とする.内言語の障害である失語や,
構音器官の運動障害による構音障害とは違い,発語運動のプログラミングレベルの障
害であると考えられている.
この発語失行ということばは,欧米では標準的な用語として使われているが,日本で
は,同じ状態を指す用語として失構音(anarthria),純粋語唖(aphemia)などが混在し
ている.これには,Broca の報告以降の研究の系譜が関係していると思われるが,問題
は,欧米とは異なる状態を指していることである.日本では発語失行≒失構音≒純粋
語唖で,単独の発話障害を指す場合も Broca 失語の発話面の特徴を指す場合もある
が,構音障害とは異なる.一方欧米の専門書などでは,失構音は無言症(mutism)の
章で扱われ,構音障害の最重症の状態を指すと説明されているのである.ちなみに純
粋語唖は発語失行と同義でよい.
用語の問題以外にも,発語失行をめぐる考え方に,日本と欧米ではいくつかの違い
がみられる.第一に責任病巣がある.日本では中心前回中下部ということでほぼ異論
がないが,欧米では,中心前回の働きは基本的に運動実行であって,むしろ運動前
野,島,Broca 野などが重視されている.また,責任病巣というより,発話のコントロール
を行うネットワークの破綻として捉え,発話全体を説明するモデルから発語失行を説明
しようとしている.第二に小児発語失行(childhood apraxia of speech(CAS)または
developmental verbal dyspraxia(DVD))の存在がある.これは日本ではほとんど知ら
れていない.成人の発語失行のように明瞭な病巣がないため,機能性構音障害などと
診断されているかもしれないが,臨床像は成人 AOS に類似している.欧米の専門書
では,AOS といえばこの CAS も記載されている.CAS はまた,言語関連遺伝子
FOXP2 が障害される家系にみられ,発話面以外の症状も呈して,特異的言語障害の
形をとることもある.本講演では,これら日米の違いについて考える.