欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向

欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向 
社会動向レポート
欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向
環境エネルギー第1部
コンサルタント 貴志 孝洋
2013年9月、欧州においてこれまで施行されていたバイオサイド製品指令に替わり、バイオ
サイド製品規制の施行が開始された。規制対象が拡大するなど、影響力が大きい一方で構成が複
雑であり理解が難しい。本稿ではバイオサイド製品規制の概要及び特徴について述べる。
はじめに
欧州では2007年に化学物質の登録・評価・
認可に関する規制(REACH 規則)が施行され
が生じており、その動向が注目されている。
本稿では、BPR の概要を述べるとともに「処
理された成形品」を取り巻く状況などについて
最新情報を整理する。
た後、2009年には、分類・ラベル・包装に関
なお、バイオサイド製品とは、活性物質(有
す る 規 則(CLP 規 則 )が 施 行 さ れ た。 さ ら に
害生物に対して作用、または反する作用を有す
2013年 に は バ イ オ サ イ ド 製 品 指 令(Biocidal
る物質または微生物)の働きによって、害虫や
Product Directive, BPD)が 廃 止 さ れ、 新 た
細菌などの有害生物(人間やその活動もしくは
に バ イ オ サ イ ド 製 品 規 則(Biocidal Product
人間が利用、生産する製品などによって望まし
Regulation, BPR)が2013年に施行されるなど、
くない存在など)から人体、材料、成形品を保
化学物質対策制度が近年急速に整備されてい
護するために使われる製品を指し、活性物質ま
る。これは、2002年に開催された持続可能な
たは活性物質をひとつ以上含む調剤などの形で
開発に関する世界首脳会議において合意され
提供される。
た「予防的取組方法に留意しつつ、透明性のあ
る科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学
1. バイオサイド製品規制の制定経緯
的根拠に基づくリスク管理手順を用いて、化
バイオサイドに対する規制は、米国で1972年
学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい
に施行された連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法
悪影響を最小化する方法で使用、生産される
(Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide
ことを2020年までに達成する」との国際目標
Act, FIFRA)をきっかけに先進国を中心に広が
(WSSD2020年目標)が掲げられたことを受け
り、その流れを受けて、欧州では1998年にバ
たアクションのひとつである。
特に BPR は、構成が複雑であり、かつ「
(バ
イオサイド製品で)処理された成形品(treated
イオサイドの統一管理を目的として BPD(98 / 8 /
EC)が制定され、バイオサイドの分野におい
ても農薬と同様な審査制度を導入した。
article)
」が新たに規制対象となるなど、BPD
既存の活性物質については BPD において再
では対象外であった業界まで影響が広がる懸念
審査規則が制定され、既存活性物質の再審査
1
vol.10 2015
が行われて来たが、遅々として進まないでいる
と述べており、バイオサイド製品の上市のため
間に、中国から輸入されたソファーなどに含ま
には、バイオサイド製品の類型ごとに承認され
れていたフマル酸ジメチル(DMF)により、多
た活性物質を用いる必要がある。
数の健康被害がイギリス、フランス、ポーラン
ド、フィンランド、スウェーデンで確認されて
いることなどを受けて、2009年3月17日に欧州
委員会は、COMMISION DECISION を公表し、
2. バイオサイド製品規制の概要
(1)関係省庁及び関連組織
BPR は前述のとおり、ECHA が所管してい
DMF が革製品(ソファー、靴等)に防腐剤とし
る。また、各加盟国から任命された委員(各
て使用されていたことで多数の皮膚障害が発生
国1名 )か ら 構 成 さ れ る バ イ オ サ イ ド 製 品 委
していることを指摘した。さらにイギリスでは
員 会(Biocidal Products Committee, BPC)が、
1,000万ユーロを超える訴訟に発展した。その
ECHA に設置されており、欧州化学物質生態
後も靴、乗馬用ヘルメット等、被害が止まらず、
毒性および毒性センター(European Center for
規制を強化せざるを得ない状況となった。
Ecotoxicology and Toxicology of Chemicals,
そこで、事故を踏まえ、図表1の目的で BPD
ECETOC)、 欧 州 化 学 工 業 連 盟(European
を強化し、BPR(
(EU)528 / 2012)が BPD に置
Chemical Industrial Council, CEFIC)などの
き換わるものとして、2012年に欧州委員会に
業界団体を含めた会合が定期的に開催されてい
て採択され、これまで BPD を所管していた EU
る。BPC は、図表2に示す ECHA の意見作成に
環境総局及びバイオサイドの管理を進めていた
対して責任を負っている。
欧州委員会協同研究センター(Joint Research
Centre, JRC)から、REACH、CLP の推進で実
(2)バイオサイドの定義
績がある欧州化学品庁(ECHA)に所管が移され
BPR におけるバイオサイド製品は、図表3の
ることになり、ウェブサイト情報のシフトも行
とおり定義されており、その適用範囲は BPD
われた。ECHA は40数名の人員と手数料収入を
よりも拡大されており、新たにバイオサイド機
基に、再審査期間も2024年まで大幅延長して体
能を主とする「処理された成形品」などが対象
制を整えた。欧州委員会環境総局ピエール氏は、
となった。具体的な対象範囲は図表4のとおり
化学工業日報のインタビュー(2013年11月14
である。
日「EU バイオサイド製品規制(BPR)発効」
)に
対し、BPR の原則は、
「承認なくして上市なし」
図表1 BPR の目的
● EUのバイオサイド市場の機能の改善
● 人の健康及び環境の高水準の保護を確保
● プロセスの簡略化及び効率化
● 動物試験の削減(強制的なデータ共有/
費用分担、試験へのより柔軟かつ賢明な取
り組みの奨励)
* BPR 第1条「目的及び主題」は文末(1)参照
(資料)ECHA ホームページ「Understanding BPR」よ
り抜粋
2
(3)バイオサイド製品の製品類型
BPR 附属書 V において、22に分類されたバ
イオサイド製品の類型が掲載されており、バイ
オサイド製品の上市のためには製品類型ごとに
承認された活性物質を用いる必要がある。その
ため、活性物質そのものが承認されていても、
バイオサイド製品の製品類型との組み合わせが
一致していない場合、上市は出来ない。具体的
な製品類型を図表5に示す。
欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向 
(4)バイオサイド製品の上市
バイオサイド製品の上市は、BPR17条「バイ
BPRと同様、2段階の認証手続き(活性物質の承
認とバイオサイド製品認可)を採用しており、各
オサイド製品の市場における利用及び使用」
(文
段階でリスク評価を実施しているが、BPRでは、
末(5)参照)に基づき厳しく規制が課されており、
活性物質の承認やバイオサイド製品認可にあたっ
ECHAのWebサイトにも、BPR は、
「人、動物、
て、図表6に示すような活性物質の除外要件など
財産あるいは物品を有害な生物から守るために
を導入するなどして、簡素化が図られている。
使 用され るバイオサイド 製 品の上市(place on
the market)と使用に関する規制である」として
①活性物質の承認
おり、バイオサイド製品の上市には、活性物質
前述のとおり、BPR は、バイオサイド製品
の承認(Approval)及びバイオサイド製品の認可
の上市のため、活性物質の承認と、承認された
(Authorisation)が必要である。また、処理され
活性物質を用いたバイオサイド製品の認可とい
た成形品についても、活性物質が承認された製
う2段階の認証システムを採用しており、各段
品類型及び使用方法で用いられ、かつ承認にあ
階でリスク評価を実施している。リスク評価は
たり指定された条件及び制限を満たさない限り上
申請者が実施し、加盟国の所管当局がリスク評
市は禁止されている。
価結果について審査を行う。ECHA は、リス
バイオサイド製品の認可には、BPDにおいても
ク評価は行わず、ドシエ(技術書類一式、登録
図表2 BPC が責任を負う ECHA の意見作成事項
● 活性物質の承認及び承認の更新の申請
● 活性物質の承認の再審査
● 第28条既定の条件(文末(2)参照)を満たす活性物質の付属書 I への収載の申請及び収載の再審査
● 代替の候補となる活性物質の特定
● バイオサイド製品の欧州連合認可及びその更新、取消、修正の申請(ただし、管理上の変更申請
を除く)
● 相互承認に関する科学的、技術的内容
● 技術的手引きまたは人の健康/環境リスクに関する、本規則の運用から生じる疑問
(資料)BPR 第75条「バイオサイド製品専門委員会」1項より抜粋
図表3 バイオサイド製品の定義(ECHA ホームページ「Understanding BPR」より抜粋)
① 物理的・機械的以外の効力で有害な有機体を無力化する、もしくは被害を発生させないように
コントロールする目的で、使用者に提供する形態において、1つもしくはそれ以上の活性物質を
構成、含有、生成する物質、または混合
② 物理的・機械的以外の効力で有害な有機体を無力化する、もしくは被害を発生させないように
コントロールする目的で、そのものとしては①に属さない物質・混合物から生み出された物質
もしくは混合物(その場で(in-situ)で生成する活性物質、バイオサイド製品を指す)
③ 処理された成形品(treated article)
:処理された成形品とはひとつもしくはそれ以上のバイオ
サイド製品を処理するかもしくは意図的に組み入れた物質・混合物もしくは成形品(BPRにて追
加された定義)
*BPR 第3条「定義」1項(a)
(バイオサイド製品)は、文末
(3)
参照
(資料)ECHAホームページ「Understanding BPR」より抜粋
3
vol.10 2015
や評価に必要な物質情報などが記載された文書
代替候補物質(代替物質で置き換えられるべき
やデータなど)に関するバイオサイド委員会の
活性物質を指す)である場合、ECHA が承認の
議論をコーディネートすることで認証システム
意見を作成する前に公開協議を行う。
に参加している。なお、申請された活性物質が、
承認された活性物質は、BPR 第9条「活性物
図表4 BPD 及び BPR の適用範囲の比較
*非 承認の活性物質(DMF)に処理され、EU 内に輸入された家具(ソファー)によって引き起こされた健康被害の事故を反
映している。
(資料)JETOC「欧州バイオサイド規則の概要」より一部みずほ情報総研加筆
図表5 バイオサイド製品の製品類型
(資料)ECHA「Overview of new Biocidal Product Regulation – Impacts on biocides & biocide-treated articles imported
into the EU」より抜粋
4
欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向 
図表6 除外要件
図表8 活性物質の認証期間と更新
● CMR(発がん性、変異原性、生殖毒性に分
類される)1Aまたは1Bの物質
● 内分泌かく乱物質
● PBT(難分解性、生体蓄積性、毒性)または
vP vB(極めて難分解性で高い生体蓄積
性)の物質
(資料)BPR 第5条「除外クライテリア」1項より抜粋
図表7 活性物質の承認フロー
(資料)BPR 第4条「承認のための条件」及び第10条「代
替物の検討を要する活性物質」より抜粋
c.代替物の検討を要する活性物質
活性物質が BPR 第10条「代替の候補である
活性物質」(図表11)に示されるような毒性等
を有する場合、公開協議となり、第三者が利用
可能な代替候補の情報等を ECHA に提出する
ことで、意見の作成時に考慮され、当該活性物
(資料)JETOC「欧州バイオサイド規則の概要」より一
部みずほ情報総研加筆
質の承認及び更新は7年以内、当該活性物質を
含むバイオサイド製品の認可及び更新は5年以
内などの一定の条件のもと承認される。
質の承認」で規定されている「Union List」へ
掲載され、図表8のとおり、活性物質の種類ご
とに承認期間や更新が定められている。活性物
質の分類は図表9のとおり。
②バイオサイド製品の認可
BPR では、バイオサイド製品認可にあたっ
ても明確な基準(図表12)を導入するなどして、
簡素化・効率化が図られている。これは、ヒト
a.通常承認された活性物質
健康及び環境に低懸念またはより優れた水準
図表8のとおり、通常承認された活性物質の
の製品の市場での取引を促進することを目的
場合、先ずは10年を超えない期間が承認され、
としている。基準を満たす場合、簡素化され
承認の更新は、承認が適用される全ての製品類
た認可手続きに従い認可を申請する(BPR 第27
型に対して15年間とされている。
条)。しかし、基準を満たさない場合、所定の
手続きに従い国の認可(BPR 第29-31条)、相互
b.除外要件に該当し、特定の条件(BPR 第5条
2項)を満たした活性物質
BPR では、除外要件を満たす活性物質は承
認されないが、BPR 第5条「除外クライテリア」
2項(図表10)に示されるような特定の条件を満
認証(BPR 第32-34条)、欧州連合認可(BPR 第
41-46条)を申請する。図表13に各認可の概要
を、図表14にバイオサイド製品の認可までの
流れをそれぞれ示す。
欧州委員会では、バイオサイド製品の認可の
たす場合、承認される可能性がある。ただし、
簡素化・効率化により、EU 域内市場の重要な
承認期間は5年を超えない最初の期間のみ承認
進展や、10年で約27億ユーロの経費削減など
され、更新はできない。
に繋がると指摘している。
5
vol.10 2015
図表9 活性物質の分類
(資料)(EU)No528/2012をもとにみずほ情報総研作成
事業者に、CLP 規則と同じく、ラベルに「低リ
(5)バイオサイド製品の表示
BPR 第69条「バイオサイド製品の分類、包
載してリスクや当該バイオサイド製品の効力に
装及び表示」では、バイオサイド製品の認可を
関して間違った解釈を防ぐことを課している。
取得した事業者は、上市にあたり、危険な混
さらに、CLP 規則と同じく、BPR 第69条で
合物の分類、包装、表示に関する理事会指令
は、特に飲食品と誤解を与える可能性がある
(Dangerous Preparations Directive(1999 / 45 /
バイオサイド製品については、誤解の可能性を
EC), DPD)及び適用可能であれば CLP 規則に
最小化するような包装を施すよう求めている。
基づき、分類・包装・ラベル貼り付けを行うこ
ラベルに記載される項目は図表15のとおり。
とを義務付けている。
CLP 規則に基づいた分類・表示に加えて、BPR
加えて、バイオサイド製品の認可を取得した
図表10 除外要件を満たす活性物質の承認のための条件
● 曝露がごくわずか
● 人もしくは動物の健康または環境に対
する深刻な危険を管理するために不可
欠な物質
● 承認しないことで、社会に過度の悪影
響をもたらすことになる物質
(資料)BPR 第5条「除外クライテリア」2項より抜粋
6
スク」
、
「無害」
、
「環境に優しい」等の文字を記
独自の項目の表示が求められている。
3. バイオサイド製品規則の Focal Point
これまで、BPR の概要について述べてきた
が、本項では、BPR の大きな特徴である、以
下の4つに着目し、その詳細を述べる。
(1)対象の拡大(「処理された成形品」が新た
に対象となる等)
(2)ナノマテリアルの明記
欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向 
図表11 代替候補物質の定義
● 少なくとも 1 つ以上の除外要件(CMR、PBT、vPvB、内分泌かく乱作用)に該当するが、第 5 条 2
項に従って承認される可能性がある。
● 呼吸器感作性物質として分類されるクライテリア(判定条件)を満たす。
● 一日許容摂取量(ADI)、許容作業者曝露量(AOEL)等の毒性学的な許容量 / 参照量が、同じ製
品類型及び使用シナリオにおける他の承認された活性物質と比較して許容量が著しく低い。
● PBT クライテリアのうち 2 つを満たす。
● 非常に厳しいリスク管理の下であっても、使用パターン及び使用量によっては重大な懸念が残
る恐れがある。(例:地下水への高い潜在的リスク)
● 不活性異性体や不純物を多く含んでいる。
(資料)BPR 第10条「代替物の検討を要する活性物質」より抜粋
(3)バイオサイド製品の認可の簡素化
イオサイド製品だけではなく、抗菌や防腐など
(4)データの共有
の目的で、活性物質で処理された成形品も管
特に、
「処理された成形品」については、前
理の対象とするなど、BPD よりも対象が拡大
述のとおり、BPD では対象外であった業界ま
している。BPR 第3条では、処理された成形品
で影響が広がる懸念が生じており、動向が注目
(treated article)を、「1つ以上のバイオサイド
されている。
製品で処理するかもしくは意図的に組み込まれ
た物質・混合物もしくは成形品」と定義し、ま
(1)対象の拡大
BPR では、BPD で管理の対象としていたバ
た BPR 第17条(文末(5)参照)において、成形
品を処理するバイオサイド製品中の活性物質が
承認され、かつ指定された条件を満たしていな
図表12 簡素化された認可手続きで申請可能な基準
い限り、上市されてはならないとしている。
英国安全衛生庁(Health and safety executive,
● 附属書 I に記載されている
(文末(4)参照)
● バイオサイド製品に懸念物質またはナノ
マテリアルを含まない
● 十分に効果的である
● PPE(個人用保護具)
の着用が不要
(資料)BPR 第25条「簡素化された認可手続きに対する
適格性」より抜粋
HSE)は、
「Treated Article と は 何 か 」 と い う
質問に対し、ホームページ上で図表16のよう
に回答しており、Type 1と Type 2の成形品が
「Treated article」と見なされ、BPR 第58条「処
理された成形品の上市」に記載されている要
図表13 認可の種類とその概要
(資料)JETOC「欧州バイオサイド規則の概要」より一部みずほ情報総研加筆
7
vol.10 2015
求事項を満たさなければならないとしている。
これに対し、欧州委員会は処理された成形品
Type 3の成形品は主要な機能が抗菌機能であ
に関する FAQ において、処理された成形品の
り、バイオサイド製品と見なされて従来通り当
判定ツリーを公表した(図表17)。
局の認可が必要としている。
さらに、処理された成形品についてもラベル
図表14 バイオサイド製品の認可フロー
(資料)
(EU)No528 / 2012をもとにみずほ情報総研作成
図表15 BPR と CLP の表示要求項目
*BPD から新たに追加された項目
(資料)中小企業基盤整備機構 J-Net21「Q.359 改正バイオサイド規制で要求される表示とCLP 規則とはどのような関係があるの
でしょうか?」より抜粋
8
欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向 
表示は要求されており、成形品の殺生物特性に
(2)ナノマテリアルの明記
関して請求が行われている場合や、物質承認の
BPD では、ナノマテリアルについての明示的
条件にそのように要求されている場合では、ラ
な記載はなかったが、BPR 第3条においてナノ
ベル表示が必要となる。
マテリアルについて図表19のように定義されて
ここで、ラベルにおいて記載(国の公用語で
提供すること)が求められている項目は、図表
18のとおり。これは、CLP 規則に基づかない。
いる。
また、ナノマテリアルの取り扱いについては、
BPR第4条「承認のための条件」において、
「明示
的に言及される場合を除き、活性物質の承認はナ
図表16 「処理された成形品とは何か?」に対する HSE の回答
上記(BPR第 3 条を指す)定義の他に、HSEの独自の視点という注釈は入っているが、「Treated
article」に該当するか否かについて下記事例を使って紹介する。
● Type 1:バイオサイド製品で処理された部材を使用した成形品(例:防腐剤を塗布した木材を使
用したベンチ)
● Type 2:バイオサイド製品で処理され、その主要な機能がバイオサイドではない成形品(例:抗
菌靴下)
● Type 3:バイオサイド製品で処理され、その主要な機能がバイオサイドである成形品(例:抗菌
機能付布巾)
(資料)英国 HSE「Placing treated articles on the UK market」より抜粋
図表17 処理された成形品の判定フロー
(資料)ECHA(CA-Sept13-Doc.5.1.e)よりみずほ情報総研作成
9
vol.10 2015
ノマテリアルをカバーしない」と記載されている。
さらに、BPR 第25条「単純化された認可手
(3)バイオサイド製品の認可の簡素化
前 述 し た が、BPR で は、 図 表14の と お り、
続きに対する適格性」において、簡易認可手続
BPR 附属書 I に記載されているなどの条件(図
きにおける適格性として、「(c)そのバイオサ
表12)が満たされている場合に、図表20に示す
イド製品は、いかなるナノマテリアルをも含ま
ような簡素化された認可手続きに基づきバイオ
ない」ことを簡易な認可手続きにより承認され
サイド製品の上市が認められる。ここでは、そ
る殺生物製品の条件の1つとして挙げている。
の詳細について述べる。
そのため、BPR においては、ナノマテリア
ルを含んだ活性物質及びバイオサイド製品は原
手続きにおける具体的な作業内容は図表21
のとおり。
則認可されない。しかし一方で、認可を与える
条件として BPR 第19条「認可付与のための条
(4)データの共有
件」1項において、
「
( f )当該製品中にナノマテ
BPR では、提出されたデータを強制的に共
リアルが使用されている場合、ヒトと動物への
有し、代替試験法や既存のデータを使うことを
健康および環境へのリスクがそれぞれ既に評価
推奨することによって動物試験をさらに削減
されている」を条件として挙げている。
させることも意図している。そこで ECHA は、
バイオサイド製品の登録サイト R4BP 3を立ち
上げ、申請者に当該サイトを通じた活性物質の
申請書の提出等を求めている。既存活性物質の
図表18 ラベル記載項目
● 処理された成形品が殺生物剤を包含し
ているという記述
● 処理された成形品の殺生物特性
● すべての活性物質及びナノマテリアル
の名称
● 人または環境を保護するために必要な
場合は使用説明
(資料)BPR 第58条「処理された成形品の上市」3項よ
り抜粋
すべての毒性及び生態毒性研究に関する脊椎動
物への試験からのデータ及び代替供給者に関す
るデータを共有化の対象とし、活性物質の動物
試験及び供給者の独占状態を最小限に抑える役
割を担っている。申請者は、動物実験を実施す
る前に、ECHA に問い合わせを行い、BPR に
基づいて同様の試験及び研究が既に実施・提出
状況を確認する必要がある。
図表19 ナノマテリアルの定義
● 「ナノマテリアル」とは、微粒子を含む天然あるいは人工の活性物質あるいは不活性物質で、非束縛状
態、凝集体あるいは塊として存在し、粒子個数濃度から見て粒径(1か所以上の最大外径)範囲が
1-100nmに入る割合が50%を超えるものをいう。
● 粒径が1nm未満のフラーレン、グラフェンフレークおよび単層カーボンナノチューブはナノマテリアルとみ
なすべきである。
● ナノマテリアルの定義付けの目的で「粒子」、
「塊」および「凝集体」は以下のように定義される。
ここでいう「粒子」とは、限定された物理的境界を有する物質の微小な塊を意味する。
ここでいう「塊」とは、弱い束縛状態にある粒子の集合あるいは凝集体であって結果として個体部
分の表面積の総和にほぼ等しい表面積を有するモノを意味する。
ここでいう「凝集体」とは、強い接合を有する粒子あるいは融合状態にある粒子を意味する。
(資料)BPR 第3条「定義」1項 (z)より抜粋
10
欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向 
図表20 バイオサイド製品の認可フロー(簡素化された手続き)
R4BP 3により、IUCLID 5ドシエを用いた
ECHA または各国担当部署にデータを提出す
ることが可能となった。そのため、申請者は、
活性物質及びバイオサイド製品に関する物性値
などの化学的データは、IUCLID 5に基づいた
収集、構成、保管が求められる。
4. バイオサイド製品規制のいま
(1)承認済み活性物質(2015年6月末現在)
(資料)BPR 第26条「申請手続」及び第27条「簡素化さ
れた認可手続きに従い認可されたバイオサイド
製品の市場における利用」よりみずほ情報総研
作成
BPR において承認された活性物質は、86物
質であるが、一部の物質で複数の製品類型が登
録されている。また、現在170物質が審査中で
ある。
R4BP 3は、申請書の授受以外に、取扱説明
書やテンプレートの提供、申請者と ECHA と
(2)処理された成形品
加盟国の所轄官庁と欧州委員会の間でのデータ
「処理された成形品」の概念による影響等に
と情報の交換や決定内容の公開などに使用さ
ついて、欧州の業界団体などに BPR の影響等
れ、公衆に対し広く情報を提供する。中小企業
に関するヒアリングを実施したところ、図表
のコスト負担が課題となっているが、特に申請
22のような課題等が挙げられており、BPR の
の過程におけるドシエの提出やデータの収集が
複雑な法体系に、事業者が対応に追われている
特にコストプレッシャーになっているため、中
状況にある。
小企業に対しては、手続きに伴う費用減額のメ
リットもある。
図表21 簡素化された手続きにおける作業内容
(資料)BPR 第26条「申請手続」及び第27条「簡素化された認可手続きに従い認可されたバイオサイド製品の市場における利用」
よりみずほ情報総研作成
11
vol.10 2015
5. バイオサイド製品規則の今後
6. おわりに
既存活性物質を用いたバイオサイド製品の欧
2013年に BPD から置き換わる形で BPR が施
州連合認可は、製品類型に応じて認証開始時期
行され、バイオサイド製品の市場機能改善、人
が異なる(図表23)
。現在、該当するバイオサ
や環境の保護、認可の簡素化・効率化などによ
イド製品を生産する事業者は現在対応に追われ
る経費削減が期待されている一方で、BPR の
ている。
複雑さや「処理された成形品」などの新たな概
また、2015年3月に欧州委員会は、加盟国間
での BPR の施行について各国で大きな隔たり
念の導入などによる特に中小企業への負担増加
の可能性などが懸念されている。
があることを踏まえ、「バイオサイド製品」及
現在も、欧州委員会などで議論がされている
び「処理された成形品」に対する規制について
一方で、特に既存活性物質を用いたバイオサイ
見直すことを公表しており、今後の動向が注目
ド製品の連合認可の開始時期が迫るなど、迅速
される。
な事業者の対応が求められており、その動向は
目が離せない。
図表22 「処理された成形品」に関する課題等
● 欧州委員会で、BPRの導入により大幅な経費削減が試算されているが、
「処理された成形品」という概
念が導入されたことにより、BPDでは対象にならなかった事業者への影響が懸念され、さらに事業者へ
の負担が大きくなると考えられる。現在、バイオサイド製品委員会(BPC)において事業者への影響や
負担の大きさなどについて議論が行われている。
● そもそも「処理された成形品」の定義はまだ固まっておらず、さらに定義について十分に議論する場が
あまりないことも問題である。
● 日本においては、自動車業界や電子・電機業界への影響が大きく、対応に追われている。
(例えば、車
の抗菌ハンドルも「処理された成形品」に該当する。)
● 「処理された成形品」の定義の幅が広い。例えば、当初、モノマーに防腐目的のバイオサイドが含まれ
ていた場合、そのモノマーを用いてポリマーを合成し、そのバイオサイドが完全に無くなっているもの
の、ポリマーは「処理された成形品」として扱うとされていた。
(現在は、
「やり過ぎではないか」の事業
者などからの意見を踏まえ、対象外とされている。)また、オゾンを利用した家庭用の除菌・消臭を目
的とした製品も、空気中の酸素を用いてオゾンを発生させている(活性物質を用いていない)ものの、
その製品は「処理された成形品」に該当する。
(資料)欧州の業界団体等へのヒアリング結果よりみずほ情報総研作成
図表23 欧州連合認可のスケジュール
(資料)ECHA「Overview of new Biocidal Product Regulation – Impacts on biocides & biocide-treated articles imported
into the EU」より抜粋
12
欧州バイオサイド(殺生物剤)製品規制の概要と動向 
注
BPR 第1条「目的及び主題」(抜粋)
1.この規則の目的は、人及び健康並びに環境の
両方の高水準の保護を確実にしつつ、バイオ
サイド製品の市場における利用及び使用につ
いての規則の調和化をとおして域内市場の機
能を改善することにある。この規則の規定は、
人の健康、動物の健康及び環境を保護する目
的である予防原則に裏打ちされている。特別
な注意が必要な脆弱なグループの保護に払わ
れなければならない。
(2) BPR 第28条
(抜粋)
(a)規則(EC)No 1272 / 2008に従う次の分類クライ
テリアを満たす
―爆発性/高引火性
―有機過酸化物
―急性毒性カテゴリー 1、2、3
―腐食性カテゴリー 1A、1B、1C
―急性毒性カテゴリー 1、2、3
―呼吸器感作性物質
―皮膚感作性物質
―生殖細胞変異原性カテゴリー 1、2
―発がん性カテゴリー 1、2
―ヒト生殖毒性カテゴリー 1、2または授乳を
介した影響
―単回または反復曝露による特定標的臓器毒
性物質
―水生生物毒性急性カテゴリー 1
(b)第10条(1)(図表11参照)に定められた全ての
代替クライテリアを満たす、または
(c)神経毒性または免疫毒性特を持つ
(3) BPR 第3条「定義」1項
(a)バイオサイド製品とは
―使用者に提供される形態において、単なる
物理的又は機械的作用以外のあらゆる手段
により、あらゆる有害生物に対して、破壊
する、阻止する、無害化する、その活動を
防ぐ、さもなければ制御効果を及ぼす意図
を持って、1つ以上の活性物質からなる、
含む又は生成するあらゆる物質又は混合物
を意味する。
―単なる物理的又は機械的作用以外のあらゆ
る手段により、あらゆる有害生物に対して、
破壊する、阻止する、無害化する、その活
動を防ぐ、さもなければ制御効果を及ぼす
意図を持って使用される、それ自体第1イ
ンデントに該当しない物質又は混合物から
生成されるあらゆる物質又は混合物を意味
する。
バイオサイド機能を主とする処理された成
形品は、バイオサイド製品とみなされるも
のとする。
(4) BPR 附属書 I は、BPD の附属書 IA に相当するリ
(1)
(5)
ストを指している。
BPR 第17条「バイオサイド製品の市場における利
用及び使用」
(抜粋)
◦ バイオサイド製品は、この規則に従って認可
されない限り、市場において利用/使用され
てはならない。
◦ 認可への申請者は、認可保有予定者/その代
理人である。国の認可への申請は、その加盟
国の所管当局に提出。連合認可への申請は庁
(ECHA)に提出。
◦ 認可期間は10年を最大とする。
参考文献
1. 欧州委員会「REGULATION(EU)No 528 / 2012
OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF
THE COUNCIL」
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/
PDF/?uri=CELEX:02012R0528-20140425&from=EN
2. 欧州委員会(2014)Frequently asked questions on
treated articles(CA-Sept13-Doc.5.1.e)
3. ECHA「Understanding BPR」
http://echa.europa.eu/regulations/biocidalproducts-regulation/understanding-bpr
4. ECHA「The Biocidal Products Committee」
http://echa.europa.eu/about-us/who-we-are/
biocidal-products-committee
5. ECHA「Overview of new Biocidal Product
Regulation – Impacts on biocides & biocidetreated articles imported into the EU」
http://www.chemical-net.info/pdf/20140124_
seminar3_eng.pdf
6. 英国安全衛生庁「Placing treated articles on the
UK market」
http://www.hse.gov.uk/biocides/treated-articles.
htm
7. 内閣府総合科学技術会議(2006)化学物質リスク総
合管理技術研究の現状
8. 製品評価技術基盤機構(2013)「平成24、25 年度
消費者製品含有化学物質のリスク評価および労働
現場における化学物質の管理に関わる法規制につ
いての調査」
9. JETOC(2014)欧州バイオサイド規則の概要
10. JETRO(2009)欧州の基準・認証制度の動向(2009
年1月/ 2月)
11. 化学工業日報(2013)2013年11月14日 EU バイオ
サイド製品規制(BPR)発効
http://www.kagakukogyonippo.com/headline/
2013/11/14-13586.html
13