錯視図形呈示用のコンピュータブログラムの作成

奈良教育大学紀要 第32巻 第1号(人文・社会)昭和と追年
Bull. Nara Univ. Educ, Vol.32, No.1 (cult. & soc), 1983
錯視図形呈示用のコンピュータプログラムの作成
瀧 野 千 春
(奈良教育大学心理学教室)
(昭和58年4月30日受理)
I
最近のパーソナルコンピュータの普及に伴なって、その利用形態も、単なる計算の実施にとど
まらず、図形の呈示に利用される傾向が強くなって来ている。これは、パーソナルコンピュータ
に使用されるプログラム言語が、 BASICであって、キーボードによって入力出来る対話型の利
用が出来るためと、 GRAPH命令を用いると、ドットパターンではあるが、図形の呈示が、容
易に行われるためであると思われる。
本論文では、パーソナルコンピュータの、上記の特徴を利用して、心理学の知覚実験で用いら
れる錯視(optical illusions)の図形を呈示するプログラム作成に関する考察を行なうと共に、筆
者によって作成された、錯視図形呈示用のプログラムを記述する。
錯視は幾何学的錯視とも言われ、多種多様の鎗視図形が紹介されている(COren and Girgus,
1978;今井, 1969)。今回の論文では、そのうちの垂直・水平把視、ミュラー・リヤーの培視、
ポッゲンドルフの鉛視をとりあげることにした。
錦視の測定に当っては、標準刺激の主観的等価値(PSE)を比較刺激を変化させて求める方法
が、一般的に用いられる。比較刺激を変化する方法は、精神物理的方汰(psychometic method)
と言われる3種の方法(Guilford. 1954)があるが、今回の論文では、極限法(method of limits)
によることにした。
I
IOO REM VHILEXP-2
110 GRAPH H,C,01
120 DIM P(7),Qく7)lKく7)
125 PRINT CHR*<占)
130
INPUT
"A
OR
D:"事R$
140 IF R*="Dn THEN 280
150 FOR I事O T0 6
1占O P<I)盲110-1事15
170 NEXT 工
180 FOR 1-0 TO 6
190 PRINT CHR書く占)
200 LINE 50,150,150,150
210 LINE 100,150,100,P<I>
220 INPUT "Y OR N:";M*
230
IF
M*事蝣Y"
THEN 245
240 NEXT I
245 BLINE 50,150,150,150
24占 BLINE 100,150,100,20
250 INPUT "C OR T:写N事
2ムO IF N事ォ"C" THEN 130
201
瀧 野 千 春
202
270 END
280 FOR l=O T0 6
290 Q<I)=0◆I事15
295 tく(I)畢Q<I)-15
300 NEXT I
310 FOR I巳O T0 6
320 PRINT CHR*(占)
330 LINE 50,150,150,150
340 LINE 100,150,100,20+GKI)
350 BL王NE 100,20+K<I),100,20+GK王)
3ムO INPUT "Y OR N:"!M*
370 IF M*="Y" THEN 385
380 NEXT I
385 BLINE 50,ISO,150,150
386 BLINE 100,20,100,150
390
INPUT
400 王F
"C
OR
N*="C"
T:葺N$
THEN
130
410 END
この項では、垂直・水平錯視(Vertical-horizontal illusion)を測定する、鍍視図形呈示用の
プログラム作成用の留意点を考察する。標準刺激は水平線分で、その中央に垂直線を立て、これ
を比較刺激とする、逆T字型の刺激布置である。プログラムを、少し変更することによって、 L
字型や逆L字型の刺激布置にすることも可能である。比較刺激を変化させる方向は、上昇系列と
下降系列の2種類が考えられ(Guilford, 1954)、どちらの系列の呈示であるかが、プログラムに
よって選択される。
以下に、筆者の作成したプログラムについて、心要な部分を、順次説明する。行番号110で、
GRAPHモードを指定し、行番号130と140で上昇系列か下降系列かを選択する。 RSにAを入
れると上昇系列、 Dを入れると下降系列であるO上昇系列は、行番号150から240まで、下降系列
は、行番号280から380までである。
行番号150から170までは、上昇系列で順次増加して行く7段階の増分(increments)が、配列
P(I)に入ることになり、行番号200で標準刺激が、行番号210で比較刺激が呈示される。そして、
7段階の比較刺激が、一定で変化しない標準刺激と共に呈示されるたびに、行番号220で示され
る、 INPUT命令によって、 YかNのいずれかをMSに入れることが求められる。標準刺激と
比較刺激とが等しければY、等しくなければNであるo 行番号230によって、 Yならば行番号
245に行く。行番号245と246は、標準刺激と比較刺激とを消去することを示している。 MSにN
を入れると、行番号240によって、上昇系列が継続され、比較刺激が前よりも長くなって呈示さ
れることになる。
行番号250では、 CかTのいずれかをNSに入れることによって、呈示を継続するならばCを、
終了するならばTを選択して、 Tを入れた場合にはEND、 Cを入れた場合には、行番号の130
へ戻ることになる。
行番号280から300までは、下降系列において、順次短くなって行く線分(比較刺激)の呈示に
関係したもので、実際には行番号340によって呈示した線分の1部を、行番号350によって消去し
て行くことによって比較刺激の呈示が行われる。
実際に、このプログラムをRUNさせた場合、先ずAかDのいずれかをinputすることに
よって、上昇系列か下降系列かを選択し、次にYかNのいずれかをinput L、更にCかTを
inputすることによって、継続か終了かの意志表示をすることになる。測定結果(PSE)を記録
に留めたい場合は、 Yをinputする直前にBREAKキーによって、プログラムを中断し、プリ
鋳視図形呈示用のコンピュータプログラムの作成
203
ンタを動かす命令の、 COPY/P2をinput L、その後CONTキーを押してからYをinputす
ればよい。
なお、このプログラムは、逆T字型の刺激布置のためのものであるが、行番号210、 246、 340、
350、 386の数値を変更することによって、逆L字型やL字型の刺激布置を呈示することが可能
である。
Ⅱ
-L<_>t.二> REM MLILEXP
ll(二) PRINT CHR*(ム)
]:王O
DEF
FNA(D)=D*ir/iBO
130 INPUT "D=";D
14(:> y=コ(:>*sin<fnflくD) )
1.50 X=30♯COS(FNA<D) )
1.60 BRAPH ll,C.ロ1
170 DIM P(8),ロ(8),K(8)
190 INPUT "A 口R D:"SR*
コ(二)(:) IF R事="D" THEN 480
210 FOR l=O T0 8
220 P(I)=180+1暮10
230 NEXT I
240 FOR l=O T0 8
250 PRINT CHR*<6)
2占O LINE 20,iOO,P(I) 100
270 LINE 20サ100i20+X,100-Y
280 LINE 20,100,20◆X,100+Y
290 LINE 120,100,120-X,100-Y
300 LINE 120, 100,120-X,100+Y
コ1(-) LINE Pくn.ioo.pm+x.ioo-v
320 LINE P(l),100,P(I)+X.100◆Y
330 INPUT "Y OR Ns";M*
340 IF M*=HY" THEN 3占0
345 BLINE
PくI),100,P<I)+X,100-V
34占 BLINE P(I),100,P<I)+X,100◆Y
350 NEXT I
.3ムO BLINE 20,100,PくI),100
370 BLINE 20, 100,20◆X, 100-Y
390 BLINE 20,100,20◆X.100◆Y
410 BLINE 120, 100,120-X,100-Y
420 BLINE 120,100,120-X,100*Y
430 bline pm,ioo5pm◆X,100-Y
440 BL王NE P(I>,100,P<I)+X,100◆Y
450 INPUT "C OR T:"!N*
4占O IF N*="CH THEN 190
470 END
480 FOR l=O T0 8
490 GUI)=0+1*10
500 KくI)=GKI)-10
510 NEXT I
520 FOR I耳O T0 8
53;0 PRINT CHR*(ム)
540 LINE 20,100,2も0-GUI),100
550 LINE 20,100,20+X,100-Y
560 LINE 20,100,20+X, 100+Y
570 LINE 120,100!.120-X,100-Y
580 LINE 120,100, 120-X,100+Y
590 LINE 2占0-GKI),100,2占0-QU)+X,100-Y
占00 LINE 2占0-日(I),100,2占0-良(I)+X.100+Y
も05 INPUT "Y OR N:"事M専
占0ム IF M事="Y" THEN 占71)
引.0 BL.INE 2占0-G!<I>,100,260-K<I),100
瀧 野 千 春
620 BLINE 2占0-Q( I) ,100,2ム0-QくI)+X, 100-Y
も30 BLINE 2ム0-Q(I) , 100,2占0-GKI)+X. 100◆Y
ム40 BLINE 20,100,260-GKI) 100
ももO NEXT I
も70 BLINE 20,100,2も0-Q(I) 100
占80 BLINE 20, 100,20◆X. 100-Y
b9(3 BLINE 20, 100,20+X, 100+Y
700 BLINE 120, 100,120-X,100-Y
71くO
BLINE
120,
100,120-X,100+Y
72く:・ BLINE 260-Q(I). 100,2占0-GUI)+X,100-Y
730 BLINE 2ム0-Q(I),100,2占0-Q<I)+X.100+Y
7こ35 BLINE 2ム0-Q(I),100,2も0-K(I),100
740
INPUT
HC
OR
T呈";N*
750 IF N*="C" THEN 190
7占O END
この項では、ミュラー・リヤーの賠視(M凸Iler-Lyer illusion)を測定するための、錯視図形呈
示用のプログラム作成について考察する。標準刺激は内向図形、比較刺激は外向図形で、内向図
形と外向図形の連接した刺激布置とする。この錯視図形は、内向図形や外向図形の矢羽根(fins)
のなす角度(鈍角)の大小によって、図柄もかなり異なり、錯視量も影響を受けるので、プログ
ラム作成に当っては、この点を配慮した。
筆者の作成したプログラムを説明すると、矢羽根を呈示する場合に、三角関数を必要とするの
で、行番号120から150までに示すプログラムがそれである。行番号120は度(o)を、ラディアン
に変換するプログラムで、このDは錬角の半分の角度を度(○)で表わしたもので、行番号130
によってinputされる。行番号140と150は、矢羽根の長さ(直角3角形の斜辺で表現される)
を、それぞれY方向の長さⅩ方向の長さに変換したものである。
行番号260は主線を呈示するプログラムで、上昇系列ではこの長さが、一定のstepで長くな
って行く。行番号270から320までは、 3か所で主線に付けられた矢羽根(延べ6本)の呈示用の
ものである。
行番号480以下は、下降系列における鎗視図呈示用のプログラムで、行番号540は、一定のstep
で短くなって行く主線が呈示されるのを示している。
実際にこのプログラムをRUNさせた場合の手順は、垂直水平錯視の場合のプログラムに準
じたやり方でよい。
Ⅳ
100 REM PILEXP
110 DIM llく7)
115 PRINT CHR*(占.7
120 GRAPH Il,C,01
13O DEF FNA(D)=D柵′180
140 INPUT "D="?D
150 Xl=50事SIN(FNA(D))
1占O Yl=50*COS(FNA(DH
170 D=90-D
IBO
Y2=こ30*TAN(FNA<DH
190 S=INT(Y2/ム)
200 FOR l=O T0 8
210 PRINT CHR*(占)
220 LINE 100,200,100,20
230 LINE i;写0,200,130,20
240 LINE 100, 110-Y2/2, 100-Xl, 110-Y2/2-Yl
錬視図形呈示用のコンピュータプログラムの作成
205
250 A<I)=0+I*S
260 LINE 130,110+4*Y2/5-A<I> ,13<:)+Xl,110+朋Y2/5+Y卜A(I)
270 INPUT "Y OR N:";R*
2BO
IF
R*= ‖ THEN こ540
290 BLINE 100,200,100,コ0
300 BL王NE 130,200,130,20
310 BLINE 100,110-Y2/2,100-Xl,110-Y;≡/2-Y1
320 BLINE 130, 110+4事Y2/5-A<I> , i:50+Xl, 110+朋Y2/5+Y1-AU)
330 NEXT I
340 LINE 100, 110-Y2/2, 130,り0+Y2/軍
350 END
この項では、ポッゲンドルフの錯視(Poggendorffillusion)の測定に用いる、錯視図形呈示
のためのプログラムについて記述する。この錯視図形の構成要素は、 2本の垂直線分が一定の間
隔を持つ平行線を構成し、左側の垂直部分からは或る角度に傾いた線分が左上の方向に伸び、右
側の垂直線分からは同じ角度に傾いた線分が右下の方向に伸びていると考えられる。鉛視の測定
に当っては、右側の斜線を、下から上-と平行移動し、固定されている、左側の斜線の延長線に
見えるように、調節する方法が用いられる。
筆者の作成したプログラムを説明すると、行番号220と230では、一定の間隔を持つ平行した2
本の垂直部分を呈示し、行番号240では、左側の斜線を呈示する。更に行番号260では、一定の
stepで、下から上へと平行移動して行く、右側の斜線の呈示が順次行われる。斜線の傾きは、
行番号140で、度(o)で表現される角皮(D)をinputすることによって、変化させることが
可能である。
そして、行番号270で、 RSにYとinputすると、行番号340のプログラムで、左側の斜線の
「呉の(物理的な)」延長線が呈示されて、このプログラムは終了する。記録をとる必要のある
場合には、 COPY/P2とinputすると、プリンタに記録される。
(附記) 本論文に記述したプログラムの作成に当っては、S杜(国内)のMZ-80B2と
MZ-80P6 (プリンタ)を用い、作成されたプログラムの格納には、 MZ-80BF (ミニフロッピ
ーディスク用)を用いた。
引 用 文 献
Coren, S. and Girgus, J. S. 1978 Seeing is deceiving: The psychology of visual illusions. New Jersey:
Lawrence Erlbaum Associates.
Guilford, J. P. 1954 Psychometric methods. 2nd ed. New York : McGraw-Hill.
今井省吾1969 幾何学的錯視 和田陽平・大山正・今井省吾(編) 感覚知覚心理学ハンドブック 誠信書
房 pp. 537-576.
206
Preparation of Computer Programs for the Representation
of Optical Illusion Figures
Chiharu Takino
Department of Psychology, Nara University of Education, Nara, Japan
(Received April 30, 1983)
The author has prepared the three computer programs for the representation of optical
illusion figures. These programs are written by BASIC language and are applied to personal
computer Model MZ-80B2 with MZ-80P6 (printer) and MZ-80BF (floppy disc drive).
The first program is applied to the representation of stimulus figures of Verticaレ
horizontal illusion, when the comparison stimuli change in either ascending or descending
order. The second program is used for the representation of stimulus figures of MiillerLyer illusion.
AIld the third program is used when the Poggendorff illusion figures are represented
in the situation that the lower oblique lines as comparison stimuli move upwards.