木杭の支持力機構について(その 11.実大試験杭の耐久

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E - 03
第 50 回地盤工学研究発表会
(札幌) 2015 年 9 月
木杭の支持力機構について(その 11.実大試験杭の耐久性)
木杭
支持力
載荷試験
兼松日産農林
正会員
同上
○水谷
同上
中村
羊介
博
1.はじめに
筆者らはこれまで木材の利用拡大に向け木材の地中利用に関する研究を行ってきた
1)。木材を支持力対策のための杭
材として地中利用するためには解決しなければならない課題がいくつか考えられる。特に木材の耐久性や杭材としての
支持力性能を解明することが大きな課題である。そこで、その 122)では古くより木材を杭材として利用している佐賀県
有明地区における載荷試験結果を報告する。また、本報では、2007 年より実施している実大杭の耐久性試験による経過
観測結果について報告する。
2.試験概要
一般的に木材の耐久性試験としては JIS K 1571 で規定されている方法により行われる JIS K 1571 では木材供試体に対
して吸水及び乾燥を複数回繰り返した状態で培養された菌の中に投入し一定時間存知後の質量低減の状態により防腐防
蟻剤の効果を検証する室内試験や実際に木材片を暴露してその耐久性を評価する野外試験が示されている。JIS K 1571
の野外試験方法に従って愛知県知多郡で実施した試験状況を写真-1 に示す。防腐防蟻処理を施すことにより飛躍的に耐
久性が向上することがわかる
1)。しかしながら、この暴露試験は試験片を用いたものであり、実大杭としての評価は実
施されていなかったため 2007 年より福島県郡山市及び鹿児島県日置市において実大杭を用いた暴露試験を実施中である。
実大杭は杭長を 2m としており、地中に 1m 程度貫入させ、1m 程度を地上に暴露された状態である。一般的に木杭は地
上に暴露されている状況は考え難いので、通常の使用方法よりも厳しい環境での評価と考えられる。試験杭の形状は直
径 140mm の円柱状に成形加工したものを用いている。試験杭については未処理の試験杭と処理済みの試験杭を 1 対と
して考え、樹種についてはベイマツ及びスギを用いている。また、処理済みの薬剤としては、銅系と AAC 系の 2 種類
を用いている。また鹿児島県日置市の試験地においては銅系の薬剤を一種類追加して試験を継続している。表-1 中の記
号冒頭の N と D は薬剤の種類を示している。N が銅系、D が AAC 系である。また二文字目の M と S は樹種を示してい
る。M はベイマツ、S がスギである。さらに末尾の数字は薬剤の注入量を示しており、「-1」は 1.3kg/m3、「-2」は
2.6kg/m3、「-3」は 5.2kg/m3 となっている。薬剤注入量の数字の前に「0」とあるのは未処理材料であることを示してい
る。それぞれの試験地の試験杭設置状況を写真-2 に示す。
鹿児島県日置市の試験地では、暴露試験に合わせてピロディン試験を実施している。ピロディン試験とは、ピンの貫
入量により木材の健全度を調査する方法である。ピロディン試験においてはその貫入量が少ないほど健全な状態である
と評価できる。
未処理(試験前) 未処理(1 年後)
処理(試験前) 処理(5 年後)
未処理(4 年後)
写真-1 JIS K 1571 による試験状況
表-1 実大試験杭の経過観測状況(設置 2007 年)
NS-01
NS-1
NM -01
NM -1
NS-02
NS-2
NM -02
NM -2
個体名称
スギ
スギ
マツ
マツ
スギ
スギ
マツ
マツ
樹種
無処理 処理(N) 無処理 処理(N) 無処理 処理(N) 無処理 処理(N)
防腐加工の有無
B
A
A
A
A
A
B
A
評価(2013.2)
B
A
A
A
A
A
D
A
評価(2014.1)
B
A
C
A
D
A
A
評価(2015.1)
2015倒木
2014倒木
腐朽範囲(GL+)
15
20
20
(cm)
DS-01
DS-1
DM -01
DM -1
DS-02
DS-2
DM -02
DM -2
個体名称
スギ
スギ
マツ
マツ
スギ
スギ
マツ
マツ
樹種
無処理 処理(D) 無処理 処理(D) 無処理 処理(D) 無処理 処理(D)
防腐加工の有無
B
A
D
A
B
A
D
A
2013.2
評価(
)
B
A
A
B
A
A
評価(2014.1)
D
A
A
B
A
A
評価(2015.1)
2013倒木
2013倒木
腐朽範囲(GL+) 2015倒木
20
30
25
20
(cm)
NS-03
スギ
無処理
B
B
C
15
DS-03
スギ
無処理
B
B
C
28
処理(12 年後)
NS-3
NM -03
NM -3
スギ
マツ
マツ
処理(N) 無処理 処理(N)
A
B
A
A
B
A
A
D
A
2015倒木
20
DS-3
DM -03
DM -3
スギ
マツ
マツ
処理(D) 無処理 処理(D)
A
D
A
A
A
A
A
2013倒木
28
防腐加工; D: AAC系 N:銅系 樹種; S:スギ M:マツ
評価; A:腐朽なし健全 B:腐朽あり C:重度な腐朽 D:倒木
Bearing capacity of wood pile
YOSUKE Mizutani Kanematsu-NNK
HIROSHI Nakamura Kanematsu-NNK
1223
倒木
郡山試験地
郡山-ベイマツ-未処理
地際
鹿児島試験地
頭部
郡山-ベイマツ-処理
写真-2
倒木
試験地状況
写真-5
ベイマツ
ピロディン試験状況
40cm over
40cm over
15cm
16cm
18cm
20cm
16cm
16cm
20cm
25cm
16cm
16cm
鹿児島-ベイマツ-未処理
スギ
8 年後
設置時
写真-3
小口面状況
写真-4
処理
未処理
鹿児島-ベイマツ-処理
実大試験杭の評価状況
貫入量(cm)
図-1
貫入量(cm)
ピロディン試験結果
3.経過観測結果
表-1 には鹿児島試験地における 2007 年から 2015 年の経過観測結果を示す。試験杭の設置から 6 年が経過した 2013
年では一部の未処理試験杭の地際部に大きな腐朽状況が確認され、3 本の未処理試験杭については倒木に至っていた。
翌年の 2014 年になると未処理試験杭の内さらに 1 本の試験杭について倒木が確認された。また、この倒木した試験杭は
いずれもベイマツであった。さらに 2015 年になると、倒木に至った未処理試験杭は合計で 7 本に達した。倒木に至った
7 本の内 5 本がベイマツとなっていた。写真-3 は試験前のベイマツとスギの小口面である。ベイマツの年輪を見てみる
と辺材部分であることがわかる。一方スギに関しては、芯が存在している芯持ち材であることが確認できる。木材は芯
材部と辺材部により構成されるが、芯材部と辺材部ではその特性が大きく異なる。辺材部は強度的に芯材部よりも優れ
る反面で耐久性に関しては芯材部の方が優れる。本暴露試験においてベイマツの倒木が多くなっているのはこのような
特性を反映したものではないかと考察できる。写真-4 には代表的な試験杭を示すが、防腐防蟻処理を行った試験杭につ
いては銅系、AAC 系のいずれの薬剤を添加した試験杭においても引き続き健全な状態が保たれていることが確認できた。
写真-5 にはヒロディン試験の実施状況を示す。ピロディン試験はスギ材で銅系の処理杭及び未処理杭に対して実施し、
暴露した部分の頭部、中間部及び地際部において 2 回ずつ実施した。図-1 はピロディン試験による貫入量の平均値を示
したものである。未処理試験杭の頭部については 40cm を上回っており、耐久性が確保できていない状況であると考え
られる。頭部、中間部、地際部ともに未処理試験杭の貫入量は処理試験杭の貫入量を上回っていることがわかり、未処
理試験杭は処理試験杭に対して相対的に耐久性が劣っている結果となった。また、処理試験杭については、頭部、中部、
地際部ともに同程度の貫入量を示しており、暴露部においては健全な状態が保たれていると考えられる。
4.まとめ
今回の経過観測結果をまとめると以下のようになる。
1) 設置後 8 年を経過し、未処理試験杭の倒木は 7 本となった。
2) 倒木した未処理試験杭の多くはベイマツであり、ベイマツは辺材部分で構成されているため芯持ち材でスギよりも
倒木が多くなったと予測できる。
3) 処理試験杭については引き続き健全な状態が確認できた。
4) ピロディン試験によるピン貫入量からも未処理試験杭よりも処理試験杭の方が健全な状態であることが確認できた
今後も継続的に耐久性の評価を続けていくつもりである。
<参考文献>
1)水谷他:木杭の支持力機構について(その 8)、日本建築学会学術講演梗概集、2014 年 9 月
2)中村他:木杭の支持力機構について(その 12)、第 50 回地盤工学研究発表会(北海道)、2015 年 9 月(投稿中)
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