十勝で叶えた、夢の物語

十勝 で 叶 え た 、夢 の 物 語
努力を重ね、期待に胸膨らませながら追いかけてきた「夢」。
その夢を叶える場所は、ここ、十勝がいい。
の。そんな吉川さんの情熱に呼ばれるように
してやって来たのが、本間さんだった。
本間さんが初めてありがとう牧場を訪れた
のは2007年の夏。「搾りたての生乳でチー
ズを造らせてほしい」と、車に道具を積み込
んでの訪問。後に「親方 」と 呼び 慕う こと に
なる吉川さんとの出会いであり、「ここでなら
自分の理想とするチーズを造れる」と思える
場所との出会いでもあった。
高校生のときからチーズ職人になることを
目 指 し て き た と い う 本 間 さ ん。 地 元 長 野 県
( 偶 然 に も、 吉 川 さ ん と 出 身 地 が 同 じ だ っ
た)の農業大学で学んだ後は、乳製品会社や
ありがとう牧場代表の吉川友二さん、千枝
さん夫妻と、ここで搾られる生乳でチーズを
さんはチーズの原料になる生乳、牛そのもの
してくれたフランス人の助言もあって、本間
けど、自分の求める味ではない」。技術指導を
チ ー ズ 工 房 で 働 い て い た。 し か し、 い く ら
造る、しあわせチーズ工房の本間幸雄さん。
を知る必要があると考えるようになる。そし
やら不思議な縁を感じてしまう。
て、北海道で放牧酪農を行っている牧場を訪
ン拍子で話が進みましたね」。吉川さんが追求
ングよく離農する農家がいたために、「トント
を追求することで生まれるのではないか。し
めてきた「個性」は、「その土地」にあるもの
「 同 じ 放 牧 酪 農 で も、 牧 場 に よ っ て 面 白 い
く ら い チ ー ズ の 味 が 違 う ん で す 」。 自 分 が 求
ね歩くことにした。あ りが とう 牧場 も、そ の
中のひとつだった。
するのは、人にも牛にも環境にも優しい放牧
ばらく後、本間さんは
年間、ありがとう牧
酪農だ。牛本来の生き方を手助けし、そこか
後に足寄町茂喜登牛で新規就農した。タイミ
も き と う し
長野県出身の吉川さんは、大学進学を機に
北海道へ。ニュージーランドで酪農を学んだ
造ってもぶつかるのは同じ壁。「おいしいんだ
全員が道外出身で、自身の夢を追いかける中
〒 080-3737 足寄町茂喜登牛98-4
TEL 0156-26-2082
http://www.arifarm.sakura.ne.jp
でこの場所に辿り着いたというのだから、何
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わかってきた。自然と人間とが心地よく同居
ものが豊かになっていくことも、経験の中で
が本来食べるべき草を食べることで土地その
う 考 え 方 が、 根 底 に あ る。 穀 物 は 与 え ず、 牛
ら恵みを分けてもらうのが酪農家であるとい
本間さん、
ナチュラルーチーズ。そこには、吉川さんと
ある生乳と土地に根づく菌の力を借りて造る
トさせた。草を食べて生きる牛、その恵みで
に工房を建て、本格的にチーズ造りをスター
る。 そ の 翌 年、2013年 に 牧 場 の す ぐ 近 く
場のスタッフとして住み込みで働くことにな
人の夢と情熱が込められている。
する中から生み出されるもの。それは新鮮な
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牛乳であり、調和の取れた美しい景観そのも
写真右/右から吉川友二さん、千枝さん、本間幸雄さん、スタッフの佐藤直樹さん。夢に向かっ
て共に進む、心強い仲間たち。
写真中・左/広々とした足寄の丘陵地を、ゆったりと移動しながら草を食む牛たち。育つ環境が
違えば、牛乳の味もそこから造られるチーズの味も、まったく異なるものになる。
ありがとう牧場
しあわせチーズ工房
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ありがとう牧場の生乳から生み出される、しあわせチーズ
工房のチーズとヨーグルト。チーズにはソフトタイプの茂
喜登牛(もきとうし)とハードタイプの幸(さち)があり、
季節によって異なる味わいと牧草の香りを楽しめる。
ところで、まったく縁もゆかりもなかった
町での暮らしに不安はなかったのだろうか?
千枝さんに水を向けてみると、
「結局は気持ち
次第かなって」とニッコリ。富山県出身で、偶
然目にした農業担い手募集のハガキをきっかけ
にやって来た足寄で吉川さんと出会い、結婚。
人の子どもたちは毎朝スクールバスで元気に
学校(小学校の全校生徒は 名ほど)に通って
れが、幸せへの近道なのだと、 人の温かな笑
みを見ながら思う。 しょうとしべつ
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う客たちの憩いの場でもある喫茶店という在
自身の世界観を表現する場であり、そこに集
根っからのカフェ好きという坂井さんは、
新潟県出身。行き着けの喫茶店のママに憧れ、
した場所だ。
さんがずっと抱いていた夢を、そのまま形に
という名前のこのカフェは、店主の坂井友子
と姿を変えたのは2013年のこと。
陸別町の市街地から少し離れた 小利別。旧
駅舎前にあった廃屋が、可愛らしいカフェへ
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ひっそりとある、
「豊かさ」に気づくこと。そ
だなぁ』って感じるんですよ」
。誰の足元にも
んてひとつもない。日々、
『幸せだなぁ、豊か
になってしまうけれど、人生にいらないことな
話してくれた。
「人は悪いことに目がいきがち
さん。視線を向けられた吉川さんも笑ってこう
いっぱいいますしね(笑)
」と続いたのは本間
しが「楽しい」からここにいる。
「面白い人も
不便ではあるけれど、それでもここでの暮ら
き な い で す 」 と 話 す。 唯 一、 病 院 が 遠 い の は
いるし、
「やりたいことがたくさんあって、飽
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り方に興味を持ったという。長年続けてきた
全国さまざまな場所で暮らした経験を持つ
坂井さんがカフェを開く場所として選んだの
楽しみ方を知っていった。
返しながら、料理と器、食そのものや生活の
すごくおいしいんですよ」。そんな経験を繰り
「窯元の方にご飯をご馳走になると、もうね、
書道の道を中退。窯元を巡り、技術を磨いた。
ことを決意し、当時大学院に進み学んでいた
温めてきた陶芸とカフェの夢に向かって進む
しさ、面白さに気づいた坂井さんは、ずっと
て く れ た ん で す 」。 実 用 さ れ て こ そ の 器 の 美
頃、喫茶店のママが私の作った器に花を生け
いう夢があってのものだった。「陶芸を始めた
陶芸家としての手仕事も、「カフェで使う」と
写真上/「朝早くコーヒーを淹れるのが好き」と坂井さん。カフェの営業は朝 8 時頃から始まる。
写真下/古民家を改装したという tomono。古いものが上手に活かされた内装になっている。
「長
居大歓迎!」。
は、ここ、陸別町。その理由は「十勝の食材
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tomono 【トモノ】
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〒 089-4355 陸別町小利別本通東1-9-1
TEL 080-5581-1155
営業時間/ 8:15 ~ 17:00
営業日/木・金曜のみ営業
席数/ 20 席
http://tomonoutuwa0115.blog.fc2.com
器はすべて坂井さんの手づくりのものを使う。
ルブレンドのコーヒーなどを提供。もちろん、
うが、「今とっても楽しいですよ! 夢が叶っ
て!」。そう話す坂井さんの瞳は、眩しいくら
坂井さん。さぞ目まぐるしい日々だろうと思
では、
帯広市に店舗を構える美容室
面貸しという独特のシステムを導入してい
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「 特 に な い で す! 住 め ば 都!」 と、 気 持 ち
の良い答え。十勝でも大好きなカフェ巡りを
る。面貸しとは、場所や設備は共有するもの
来られるような環境をつくりたい。帯広にも、
離れないといけないけれど、安心して戻って
る こ と が 目 標。「 学 校 に 通 う に は 一 度 十 勝 を
持って、若い人たちが働きやすい環境を整え
もうれしいんです」。将来的には自身の店舗を
う。「身近な人たちに喜んでもらえるのがとて
然と親しめる環境も大きなポイントだったそ
トドア好きの横山さんにとっては、気軽に自
産を考えても、十勝で生活したかった」。アウ
を十勝のために使いたいと思って。結婚や出
横山さんは札幌の専門学校を卒業後、東京
で経験を積み、再び故郷帯広へ。「学んだ技術
九里陽介さん、椎名章さん。
関わった仕事で誰かに喜んでもらえることの
けではなかったというが、自分が心を込めて
くうれしい」。帯広にこだわりがあって来たわ
お客さんが来てくれるということが、とにか
けれど、今は逆。収入面の理由もあるけれど、
人 目 の 椎 名 さ ん は、 釧 路 町 か ら。「 勤 め
ていた頃は仕事を休みたくて仕方がなかった
なことを起こしていきたいと語る。
んで、お互いのレベルアップにつながるよう
ちろん、帯広で」。札幌の美容師仲間も巻き込
ないとね。いずれは自分の店を持ちたい。も
タートさせたのだそう。「頑張るときは頑張ら
店が閉店したのを機に、現在の形で営業をス
ん入ってきてくれるのが楽しくて。今思えば、
ろう。「お客さんと話しているのが、一番楽し
写真右/横山千恵子さん。「十勝はプライ
ベートも仕事も充実して過ごせる場所です」。
写真中/九里陽介さん。「お客さんに『あな
たが一番だよ』って思ってもらえるような
美容師になりたい」。
写真左/椎名章さん。「お客さんが求めてい
るものを探って叶えてあげたいと思ってい
ます」。
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に興味があって」。カフェでは、故郷の米と十
カフェに陶芸、さらには書道教室の先生に
人の子どもたちの母親としての顔まで持つ
陸別の人は優しい、と坂井さん。人と人との
いにキラキラとしていた。
勝の食材で作るカレーやスイーツ、オリジナ
距離感もちょうど良く、暮らしを営むうえで
も「移住して良かった」と話してくれた。大
したり、ちょっとした興味を見つけてはチャ
の、スタッフはそれぞれに独立した事業主と
変なことはあるか? という問いに対しては、
レンジするのが、日々の楽しみになっている。
のが最初だった。「当初は札幌に帰りたかった
最新の技術を取り入れたサロンがあるんだ
幸せを、椎名さんはこの場所で見つけたのだ
ですよ。でも、新しいお店で新規客がどんど
よって、伝えられるようになりたいですね」
いですね」。仕事が楽しくて仕方がないと笑み
人。横山千恵子さん、
して経営を行うというもの。現在ここで営業
を行っている美容師は
と、これからの夢を話してくれた。
を浮かべる。椎名さんもやはり、将来は自分
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仕事に集中できる環境があったのかも」。その
人目は、札幌出身の九里さん。札幌の美
容室でアシスタントを経てスタイリストとし
の店を持ちたいという目標があるそうだ。
り
〒 080-0015 帯広市西5条南1丁目12-1
TEL 0155-27-3510
営業時間/ 10:00 ~ 20:00
定休日/不定休
てデビューした頃、帯広で新店舗を立ち上げ
く
CASE 03
Door's 【ドアーズ】
る話があり、そのスタッフとしてやって来た
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美容室
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