文部科学省 橋渡し研究加速ネットワークプログラム B21:抗アレルギー炎症性脂質メディエーターを用いた アレルギー治療法の開発 プロジェクト責任者:東京大学医科学研究所 國澤 純 プロジェクト概要 現在、日本国民の多くが何らかのアレルギー炎症性疾患に罹患しており、長期にわたりQOLが低下することが問題と なっている。特に給食時の事故などで社会問題ともなっている食物アレルギーにおいては、原因物質を同定した後、 患者への食事制限が行われるだけが対処法となっており有効な治療法が存在しない。またその他の主要アレルギー 炎症性疾患であるアトピー性皮膚炎や鼻炎・花粉症においても、より安全でかつ有効な治療法の確立が待望されてい る。本課題においては、アレルギー炎症応答を抑制する食用油に着目した研究を基盤に独自に同定した抗アレル ギー炎症性脂質メディエーター(Allergy Inhibitory Lipid 1、AILip1)を用いた創薬研究を展開している。 シーズの概要 研究グループではアレルギー炎症性疾患の発症に おける食用油の影響に着目した研究を遂行し、食物 アレルギーマウスモデルを用いた解析から、亜麻仁 油がアレルギー抑制効果を示すことを見いだした(図 1)。さらにリピドミクス技術を駆使した解析から、亜麻 仁油で飼育したマウスにおいて内因性に高産生され る抗アレルギー炎症性脂質メディエーターを同定し、 Allergy Inhibitory Lipid 1 (AILip1)と命名した(図2)。 これまでの検討から、AILip1は食物アレルギーだけ ではなく鼻炎や皮膚炎モデルにおいても有効である ことを確認している(図3)。 現在の進捗 上記のデータをもとにPMDAにて薬事戦略相談(事前 面談)を行ったところ、「GMP製造を見据えたAILip1原 薬の規格と投与経路を含めた有効性と安全性の検証 が必要である」とのコメントをいただいた。H26年度はこ れらのコメントをもとに以下の研究を遂行した。 ① 原薬の規格を決定するための製造の最適化(GMP 製造のための原材料、反応条件、光学異性体など) ② 投与経路の検証(腹腔内投与だけではなく、経口投 与や皮膚塗布でも有効、有効量は5-50 μg/kg) ③ 予防だけではなく、治療効果も有り ④ 現在はサルを用い有効性POCの取得中 ⑤ 齧歯類(ラット)を用いたPK試験 これまでの成果 (抗アレルギー炎症性脂質メディエーターAILip1の同定) 図1. 大豆油もしくは亜麻仁油を4%含む餌で2ヶ月 間飼育したマウスに、アレルゲンであるニワトリ 卵白アルブミン(OVA)をアジュバントと共に背部 皮下に免疫した。1週間後から週3回の頻度で OVAを経口投与し、投与30~60分後に観察され る下痢の発症を測定した。 図2. 亜麻仁油を含む餌で飼育した正常マ ウスの大腸組織に存在する脂質メディ エーターを網羅的に解析した結果、亜麻 仁油群で増加している脂質を同定し、そ の一つをAllergy Inhibitory Lipid 1 (AILip1) と命名した(理化学研究所・有田誠先生と の共同研究)。 図3. 大豆油を含む通常餌で飼育したマウスへのアレルゲン(左、OVA)もしくは起炎剤(右、 DNFB)の感作時と投与時に100 ngのAILip1を腹腔内投与した。その結果、AILip1投与群では アレルギー性下痢(左)と皮膚の腫れ(右)の抑制が認められた。 現在の進捗と今後の計画 今後の研究計画 現在の研究を引き続き継続し、以下の目標のもと研究を推進する ① GMP規格の決定 ② 動物モデル(サル、マウス)における有効性POCの取得 ③ 安定性試験、分析・測定バリデーション試験 ④ 血中動態確認試験 ⑤ 毒性試験、変異原性試験、安全性薬理試験 GMPを見据えた 製造方法の確立 動物モデル(サル、 マウスを用いた 有効性POCの取得 GLPでの毒性、安全 性薬理、安定性試験
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