浸透破壊問題における限界水頭差の無次元化に関する考え方 266

神戸大学都市安全研究センター
研究報告,第19号,平成27年 3 月
浸透破壊問題における限界水頭差の
無次元化に関する考え方
Non-dimensional formulization of hydraulic head difference
for seepage failure of soil
田中
勉 1)
Tsutomu Tanaka
永井
茂 2)
Shigeru Nagai
三木
昂史 3)
Takashi Miki
概要:河川近傍や地下水位の高い地点において締切り工事を行う場合, 矢板囲い内に上昇浸透流が生じ地盤が浸透
破壊を起こすことがある。設計理論に基づき入念に設計された地盤においても浸透破壊が起こることが報告され
ており, 浸透破壊理論にはいまだ解明されていない点が多々ある。ここでは, Terzaghi の方法に代表される慣用法
の一つでありそれを拡張した Prismatic failure concept に基づき, とくに二次元問題(2D flow)における浸透破壊に対
する限界水頭差の無次元化に関する考え方について考察する。まず, 実地盤とそれと幾何学的に相似なモデル地盤
を取り上げ, 限界水頭差 Hc に関する無次元化の可能性を示す。そして, 二次元地盤において, 半無限地盤の場合と
有限地盤の場合に分けて無次元化式を提案する。また, 二次元集中流(2DC flow)及び軸対称流(AXS flow)において
も, 2D flow の場合と同様に, 限界水頭差 Hc に関する無次元化が可能であることを示す。
キーワード:浸透破壊, 限界水頭差, 無次元化
1.序論
河川近傍や地下水位の高い地点において締切り工事を行う場合, 矢板囲い内に上昇浸透流が生じ地盤が浸透破
壊を起こすことがある。浸透破壊は古くから問題となっており, 研究が進められてきたが理論的にはいまだ解明さ
れていない点が多々ある。ここでは, Terzaghi の方法 (Terzaghi, 1943) に代表される慣用法の一つでありそれを拡張
した Prismatic failure concept (田中, 1996) を取り上げ, 浸透破壊問題における限界水頭差の無次元化に関する考え
方について考察する。適切な無次元化及びその定式化が可能になれば, 煩雑な解析を行わなくても流れの条件や掘
削形状などの諸元を用いて限界水頭差が求められることとなり, 実用上大変有用となる。
これまですでに, 例えば, 道路協会 (道路協会編, 1999) などの学協会において, 深さ方向に無限な地盤におけ
る無次元化式が提案されているところであるが, それらの式では, 深さ方向に有限な地盤や矢板の根入れ比など
が考慮されていない。著者らは, これらの影響も取り入れた無次元化式を提案することを目指している。ここでは,
著者らが提案した Prismatic failure の考え方による限界水頭差の無次元化が可能であるかどうか, その理論的根拠
を考察するものである。
― 266 ―
2.種々の流れ条件
浸透破壊に関する詳細な考察から, 浸透破壊現象は流れの条件によ
って大きく影響されることがわかった(Tanaka et al., 2009)。Fig.1 に示す
ように単列矢板における地盤の場合には浸透流は二次元流(2D flow)と
なり, Fig.2 に示すように複列矢板内の地盤の場合には浸透流は両側か
ら中央地盤底面に流れ込む状態となり二次元集中流(2DC flow)となる。
二次元集中流の状態になると, 地盤は二次元流の場合よりも浸透破壊
に対する安定性が低下することが予測される。さらに, 複列矢板で奥行
き方向の長さが短くなると三次元的な浸透流の集中がおこり, 浸透破
壊に対する安定性はさらに低下すると考えられる。三次元的な浸透流は
Fig.1
Fig.3 に示すような軸対称流(AXS flow)に置き換えて考察される(三浦ら,
二次元流 (2Dflow)
1992; Miura et al., 2000)。また, 地下水位の高い地点で,
円筒形の立坑などを構築する場合には, まさに軸対
称流の条件となる。
ここでは, 2D flow における浸透破壊問題の無次元
B
化について議論することにする。まず, 安定解析の方
法に関して Prismatic failure concept について述べ, 次
に, 限界水頭差の無次元化理論に関する考え方につ
いて述べる。ここで, 2DC flow 及び AXS flow におけ
る安定解析及び無次元化理論は 2D flow の場合と同
様であるので省略するが, これらの条件における無
次元化の妥当性に関しての考察は 2D flow, 2DC flow,
AXS flow について行う。
Fig.2
二次元集中流 (2DCflow)
3.Prismatic failure の考え方
Prismatic failure の 考 え 方 ( 田 中 , 1996; Tanaka and Verruijt, 1999) は ,
Terzaghi の考え方を拡張したものである。Prismatic failure の考え方では, 矢板
壁に接した任意の幅, 任意の深さのプリズムを考えそのプリズムの力の釣合
いについて考える。Fig.4 に示すような均質地盤において, 例えば矢板に接し
たプリズム OABC を考える。このプリズムには, Fig.5 のように, プリズム自
体の水中重量 W’のほか, プリズムの左右側面において摩擦力 FL, FR, 及び,
下端面において過剰間隙水圧の合力 Ue が作用する。このとき, プリズムの上
昇に対する安全率 Fs は,
Fs 
W ' FL  FR
Ue
(1)
Fig.3
軸対称集中流 (AXSCflow)
と定義することができる。ここで, (1)式右辺の諸量は,
W '   ' bl
(2)
Ue  
x0  b
FL  
z0  l
FR  
z0  l
x0
z0
z0
ue
z  z0
(3)
dx
x'
x  x0
tan  1 dz
x'
x  x0  b
(4)
tan  2 dz
(5)
である。ここに,
':砂の水中単位体積重量
― 267 ―
b:プリズムの幅
l:プリズムの長さ
x0,z0:プリズムの左下点 O の座標 (Fig.5 参照)
ue:z 地点における過剰間隙水圧
1:プリズム(砂)と左側面(矢板)の摩擦角
2:プリズム(砂)と右側面(砂)の摩擦角
である。
矢板の前後にかかる水頭差を徐々に増加させて
いったときに, すべてのプリズムについて上昇破
壊に対する安全率 Fs を計算し, その最小値 Fs min が
ちょうど 1.0 になったときのプリズムを限界プリ
ズムと呼ぶ。ここでは, 安全率の考え方について,
Fig.4
Kälin (1977) に よ る 最 小 基 準 の 原 理 (Minimum
Prismatic failure の考え方
criterion)を用いている。そして, 水頭差が限界水頭
差を越えて増加したとき限界プリズムがまず最初
に上昇し地盤が破壊するものと考える。側面の摩
擦を考える場合と考えない場合に分けられる。限
界プリズムは, 摩擦を考慮しない場合矢板に接し
た幅のないプリズムとなるが , 摩擦を考慮した場
合ある幅をもってくる。ここでは, 二次元版 pfc-2D
について述べたが, 軸対称版 pfc-AXS (Tanaka et al.,
2000)及び三次元版 pfc-3D (田中他, 2012) について
も同様である。
4.限界水頭差の無次元化
浸透破壊問題における限界水頭差の無次元化に
ついて考える。二次元問題における実地盤と実験
地盤について , 材料が , 同一で同じ状態にある場
合を考える。以下の議論において, 実地盤は原型地
盤(prototype), 実験地盤はモデル地盤(model)を表す
ものとする。
Fig.5
4.1 pfc-2D の考え方に基づく無次元化理論
プリズムに作用する力
ここで, x-z 座標系について考える。異方透水性地
盤における浸透流の基礎方程式は, x-z 座標系について, (6)式のように表される。
k xx
2h
 2h
2h
 2k xz
 k zz 2  0
2
xz
x
z
(6)
ここに, kxx, kxy, kzz は透水係数のテンソル成分, h は全水頭である。モデル地盤は, 実地盤を縦横同じ割合で縮尺する
ものとする。モデル地盤と実地盤の物理的な縮尺を lr として,
Lmod=lr Lpro
(7a)
とする。L は両地盤について対応するある長さを表す。下添え字の mod はモデル地盤, pro は実地盤を表す(以下同
様である)。例えば, 実験地盤における鉛直座標 zmod と対応する実地盤における鉛直座標 zpro には,
zmod=lr zpro
(7b)
の関係がある。考えている浸透領域において, 地盤は透水係数について均質であるとすると, 支配方程式としての
偏微分方程式(6)は水頭値 h について線形であるので, プリズムの下端面における過剰間隙水頭 he について考える
と,
he mod=lr he pro
(8)
と表される。ここで, 浸透流が正味引き起こされる間隙水圧を過剰間隙水圧 ue と定義し, その水頭表示 he = ue/w =
ue/(wg) を過剰間隙水頭と呼ぶ。また, 過剰間隙水圧 ue は重力場において,
― 268 ―
ue=w he =w g he
(9)
と表されるので, ue についても, (8)式と同様に,
ue mod=lr ue pro
(10)
と表される。ここに, w は水の単位体積重量, w は水の密度, g は重力の加速度である。圧力は面(積)に作用するの
で, モデル地盤と実地盤で圧力は長さの 2 乗 lr2 倍となるところであるが, 二次元問題の場合, 単位奥行き長さ当た
りを考えており, 一辺が単位奥行き長さとなるので, (10)式において lr となっている。後出の応力についても同様で
ある((12), (17)式参照)。z 地点における鉛直有効応力z’は,
z’=’z ue
(11)
として算出されるので, (11)式から, (7b), (10)式を用いて, 対応する地点において,
z’mod= ’mod z mod  ue mod = lr (’pro z pro  ue pro) = lr z’pro
(12)
となる。ここで, 実地盤と実験地盤について, 材料が同一で同じ状態にあり重力下にある場合を考えているので,
’=’mod=’pro
’=’g, ’mod=’mod g, ’pro=’pro g
’=’mod=’pro
が成立する。ここに, ’, ’は地盤の水中単位体積重量, 及び, 水中密度, g は重力の加速度である。
さて, 水平有効応力x’は, 側方土圧係数 K を用いて,
x’=Kz’
(13a)
(13b)
(13c)
(14)
と与えられる。K の値は, 考えている地盤の状態に応じて, 受働土圧係数 Kp, または, 静止土圧係数 K0 で与えられ
る。これらの値は, Rankin と Jáky によって, それぞれ,
Kp=(1sin’)/(1sin’)
(15a)
K0= 1sin’
(15b)
と与えられている (山口柏樹, 1976 など)。ここに, ’は有効応力表示における土の内部摩擦角である。したがって,
地盤材料が同一で同じ状態であるとすると (実地盤と実験地盤で’ の値が同一であるとすると),
Kmod=Kpro
(16)
となり, (14)式から, (12), (16)式を用いて, 対応する地点において,
x’mod= lr x’pro
(17)
となる。
次に, 実地盤とモデル地盤について, 安全率の算定式(1)を考える。まず, 対応するプリズムについて, プリズム
の水中重量 W’mod は,
W’mod= lr2 W’pro
(18)
3
と表される。プリズムの水中重量は, 体積に関係するので, モデル地盤と実地盤で体積は長さの 3 乗 lr 倍となると
ころであるが, 二次元問題の場合, 単位奥行き長さ当たりを考えており, 一辺が単位奥行き長さとなるので, (18)
式において lr2 となる。次に, 左右側面における摩擦抵抗力 FL, FR は, 考えるプリズムの側壁面に沿って tan  x’
を積分したものであるので, 実地盤と実験地盤で壁面と砂の間の摩擦角 1 (Fig.5 におけるプリズム左側面), およ
び, 砂と砂の間の摩擦角 2 (Fig.5 におけるプリズム右側面)が, それぞれ同一であるとすると, (16)式が成立し, (4),
(5)式から, (14), (12)式を順に用いて,
FL mod=lr 2FL pro
(19)
FR mod=lr 2FR pro
(20)
となる。ここに,  1=2’/3,  2=’とした(山口柏樹, 1976, 土質工学ライブラリー, 1975)。次に, プリズム底面に働く
過剰間隙水圧の合力 Ue について考える。Ue は過剰間隙水圧 ue をプリズム底面に沿って積分した値であり, (3)式か
ら, (10), (7a)式を順に用いて,
Ue mod= lr2 Ue pro
(21)
となる。したがって, 対応するプリズムについて, 浸透破壊に対する安全率 Fs は,
Fs mod 
W ' mod  FL mod  FR mod
U e mod
2


l r W ' pro  FL pro  FR pro
2
l r U e pro
F
s pro
(22)
となる。このように, 対応するプリズムの安全率は, 実地盤と実験地盤について同一となる。したがって, 両地盤
について Fs が最小となるプリズム(限界プリズム)は同一となり, 算出される限界水頭差 Hc についても,
Hc mod=lr Hc pro
(23)
となる。地盤層厚 T, 矢板の根入れ深さ D についても, (7a)式から,
― 269 ―
Tmod=lr Tpro, Dmod=lr Dpro
(24)
であるので, (23), (24)式から, Dmod/Tmod=Dpro/Tpro, Hc mod/Tmod=Hc pro/Tpro となり, D/T 及び Hc /T は両地盤で同一の値を
示す無次元量となる。さらに, 「無次元量 D/T」と「無次元量 Hc/T をさらに無次元量'/w で割って基準化した値
Hcw/T'」の関係を表す式, すなわち, D/T~Hcw/T' 曲線は実地盤とモデル地盤について理論的に同一のものとな
る。ここに, (13a)式より, ’mod/w =’pro/w であることに注意すべきである。これは, 実地盤と実験地盤で同一かつ同
じ状態の材料を考え, 浸透流の基礎方程式(6)が h に関して線形であり, また, (9)式からわかるように, 応力の算定
式(11)が h に関して線形となっていることによる。
4.2 水中単位体積重量’の値に関する考察
前節の考察では, 地盤の水中単位体積重量 ’ について, 実地盤 pro とモデル地盤 mod で同じものであると考え
た。しかしながら, 実際には, ’ の値が両者で異なっていても無次元化が可能であることがわかっている。この事
柄について, 理論的な説明は省略し, 結論のみ述べると次の通りである。
ここでは, 水中単位体積重量として’ と異なる2’ をもつ地盤を考え,
2’=r’ ’
(25)
とする。ここに, r’ はモデル地盤と実地盤の水中単位体積重量に関する比である。ここで, 便宜上, 水中単位体積
重量 ’ をもつ地盤を実地盤 pro とし, これと異なる水中単位体積重量 2’=r’ ’をもつ地盤をモデル地盤 mod とす
る。ここでは, 実地盤とモデル地盤は, 水中単位体積重量のみが異なる場合を考える。(2)式及び(11)式から, モデ
ル地盤について,
Wmod=2’ b l = r’ ’ b l = r’ Wpro
(26)
z’mod =2’ z ue = r’ ’ z ue mod
(27)
となる。(1)式による安全率の計算(限界水頭差の計算)が進んでゆく中で, 最小安全率を示す水理条件は,
ue mod= r’ ue pro
(28)
に収束してゆき, 限界プリズムも’ の値をもつ実地盤と同一のものとなる。したがって, (27)式は, 限界状態のと
き,
z’mod =2’ z ue mod = r’ ’ z r’ ue pro = r’ (’ z ue pro)
(29)
となる。(26), (28), (29)式から, (1)式で表される浸透破壊安全率 Fs は,
Fs mod 
W ' mod  FL mod  FR mod
U e mod

 ' r W ' pro  FL pro  FR pro 
 Fs pro
 ' r U e pro
(30)
となる。したがって, ’ が異なる場合にも対応するプリズムの安全率は, 実地盤とモデル地盤について同一となる。
このように, 両地盤について Fs が最小となるプリズム(限界プリズム)は同一となり, 算出される限界水頭差 Hc に
ついては,
Hc mod=r Hc pro
(31)
となる。無次元化量 Hcw/T' 及び Hcw/D' は, モデル地盤に関して,
H c mod  w
Dmod  ' 2
H c mod  w
Tmod  ' 2

 ' r H c pro  w H c pro  w

Dpro  ' r  '
Dpro  '
(32)

 ' r H c pro  w H c pro  w

Tpro  ' r  '
Tpro  '
(33)
となり, それぞれ, 実験地盤と同一の値をとる。したがって, これらの値は無次元量として妥当であるといえる。
ここで, Dmod = Dpro, Tmod = Tpro の関係を用いている。
4.3 Terzaghi の方法に基づく無次元化の方法
ここで, D/T~Hcw/T' 曲線を用いる根拠について述べる。まず, 実験結果をよく表すと言われている Terzaghi の
方法について考える。Terzaghi (1943)は, モデル実験などから, Fig.6 のように破壊は矢板壁に接した幅 D/2, 深さ
D0 の角柱土塊が力の釣合いを失って持ち上がるときに破壊が起こると考えた。この角柱土塊の持ち上がりに抵抗
する力は, 角柱土塊の重量と鉛直な両側面に働くせん断抵抗力(摩擦力と粘着力)である。しかし, 浸透破壊が問題
となる砂地盤やシルト地盤の場合, 粘着力は 0 であり, かつ, 崩壊の瞬間には角柱に水平方向に働く有効応力はほ
ぼ 0 とみなすことができるので, 結局, この場合には, 角柱の底面に働く過剰間隙水圧の合力が角柱の水中重量よ
― 270 ―
り大きくなったときに角柱土塊の上昇(浸透破壊)が
起こることになる。土塊の上昇に対する安全率 Fs は,
考える土塊の深さ D0 によって変化するが, その最小
値がその地盤の浸透破壊に対する安全率となる
(Terzaghi, 1943)。Fig.6 に示すような均質な地盤の場
合には, 浸透破壊に対する安全率はプリズムの下端
が矢板の下端と一致したときに最小値となる
(Fig.7)(Terzaghi and Peck, 1948)。このとき, 浸透破壊
に対する安全率 Fs は,
Fs 
W '  'D
 'D


U e ha w C0 H w
(34)
となる。ここに,
W': 角柱土塊の水中重量
Ue: 角柱の底面(幅 D/2)に働く過剰間隙水圧の合力
': 土の水中単位体積重量
w: 水の単位体積重量
ha (=C0H): 角柱底面に働く平均過剰間隙水圧(水頭
表示)
Fig.6 Terzaghi の方法
C0: 水理・地盤条件によって決まる定数
である。Terzaghi による限界水頭差 Hc は, Fs=1.0 とお
いたときの H の値として与えられ,
Hc 
1  'D
 'D


C0 w C0  w
(35)
となる。(35)式は実験結果をよく表わすことが知られ
ている (田中, 1996; Tanaka and Verruijt, 1999)。したが
って, ここでは, (35)式に基づいて, 浸透破壊に関す
る無次元化量について考察を行う。
(1) 半無限地盤の場合
下方の不透水性境界が大変
深く無限深さにあると仮定できる場合を考える。こ
のとき, 地盤厚さは浸透破壊現象に影響を及ぼさな
いことを意味する。この場合, (35)式の両辺を, まず
D で割って無次元化し, 次に'/w で割って基準化す
ることによって,
H c w
1

 const.
D '
C0
(36)
が得られる。二次元の半無限地盤については, 一つ
の無次元量 Hcw/D' が得られることがわかる。
(2) 有限地盤の場合
Fig.7 Terzaghi の破壊土塊(均質地盤の場合)
下方の不透水性境界が有限な
位置, すなわち, 地盤表面から T の深さにある場合を考える。この場合, 地盤の厚さ T は浸透破壊現象に大きな影
響を及ぼすことが知られている(Tanaka and Verruijt, 1999)。したがって, 式を無次元化するのに T を用いるのが妥当
である。(35)式の両辺を, まず T で割って無次元化し, 次に'/w で割って基準化することによって,
1 D
H c w


T '
C0 T
(37)
が得られる。この場合, D/T~Hcw/T' の無次元化式が得られることがわかる。1/C0 は D/T の値によって異なる値
をとるので, 二次元地盤について, 一つの無次元化表示の関係式 D/T~Hcw/T' が得られる。
上述の3で述べた Prismatic failure の考え方は Terzaghi の方法を拡張したものであり, Prismatic failure の考え方か
ら得られる関係式の無次元化式についても, 本質的に同じ関係式, すなわち, D/T~Hcw/T' の関係式を用いること
が妥当であると言える。
ここで, 物理的な意味として考えると, 無次元量 D/T は矢板の根入れ比, Hcw/D', Hcw/T' は限界水頭差の無次
元量 Hc/D, Hc/T をもう一つの無次元量'/w で基準化した値である。'/w は一次元地盤の浸透破壊に対する限界動
― 271 ―
L
L
D
T
Fig.8
2D flow
B
L
L
D
T
Fig.9
2DC flow
L
R
L
R
D
T
Fig.10
AXS flow
水勾配(無次元量)である。
以上の議論は, 掘削なし地盤(d=0)の場合である。掘削あり地盤の場合には, 掘削比 d/(D+d)がパラメータに加わ
る。ここに, d は下流側地盤の掘削深さである。
また, 2DC flow, AXS flow の場合, 掘削なし地盤については, 複列矢板の半幅・根入れ比 b/D, 円筒壁の半径・根
入れ比 R/D が, それぞれ, パラメータに加わる。さらに, その掘削あり地盤の場合については, 掘削比 d/(D+d)がパ
ラメータに加わる。ここに, b (=B/2)は複列矢板の半幅である。
3D flow の場合についても同様である。この場合には, b/D のほか, さらに平面形状比 W/B がパラメータとして追
― 272 ―
加される。ここに, 平面形状(四角形)について B/2 は小さい方の辺の半幅, W/2 は大きい方の辺の半幅である(W  B)。
4.4 無次元化式の妥当性
前節 4.1~4.3 で述べた限界水頭差の無次元化の考え方が妥当であるかどうかを示すために, 二次元地盤 (Fig.8),
二次元集中流地盤 (Fig.9), 軸対称地盤 (Fig.10)に関して, 実地盤, 1/50 モデル, 1/100 モデルについて, FEM 浸透流
解析及び浸透破壊に対する安定解析を行った。モデル地盤は, 実際の実験地盤に対応しており, 1/50 モデルは二次
元浸透破壊実験 2D Model, 二次元集中流浸透破壊実験 2DC Model, 軸対称浸透破壊実験 AXS Model であり, 1/100
モデルは小型二次元浸透破壊実験 H2D Model, 小型二次元集中流浸透破壊実験 H2DC Model, 小型軸対称浸透破壊
実験 HAXS Model である。著者らは, 2D Model, 2DC Model, AXS Model, 及び, H2D Model について, すでに実際に
実験を行っている。
二次元地盤に関して, 実地盤 2D Real, 1/50 モデル 2D Model, 1/100 モデル H2D Model について, 限界水頭差の値
Hc 及び限界水頭差の無次元量 Hcw/T' を示すと Table 1(a)となる。Table 1(a)から, 二次元地盤に関して, 実地盤 2D
Real, 1/50 モデル 2D Model, 1/100 モデル H2D Model について, 限界水頭差の値 Hc 及び限界水頭差の無次元量
Hcw/T' が同一の D/T に対して小数点以下ほぼ 5 桁まで一致している。このように, 二次元地盤についてこの無次
元化が妥当であることがわかる。同様にして, 二次元集中流地盤に関して, 実地盤 2DC Real, 1/50 モデル 2DC Model,
1/100 モデル H2DC Model について, また, 軸対称地盤に関して, 実地盤 AXS Real, 1/50 モデル AXS Model, 1/100 モ
デル HAXS Model について, 限界水頭差の値 Hc 及び限界水頭差の無次元量 Hcw/T' を示すと, それぞれ, Tables
1(b), (c)となる。Tables 1(b), (c)から二次元集中流地盤, 軸対称地盤についてもこの無次元化が妥当であることがわ
かる。すべての流れ条件について, Hc の無次元量 Hcw/T' は小数点以下 5 桁まで一致している。
また, 水中単位体積重量 ’ の値に関する無次元化の妥当性を示すために, 2D Model, 2DC Model, 及び, AXS
Model に関して, '/w = 0.86077 とおいたときの解析結果を, それぞれ, Tables 1(a), (b), 及び, (c)に同時に示している。
これらの結果の比較から ’ の値に関しても無次元化の妥当性が示される。
ここでは, 矢板の厚さ t が 0 で掘削のない地盤の一例についての解析結果を示したが, 矢板厚さを考慮した場合,
掘削のある地盤の場合についても, 浸透領域のスケールが相似であれば同様の結果が得られる。
Table 1 各種流れの条件における限界水頭差の値 Hc 及び限界水頭差の無次元量 Hcw/T'
Hc (m)
' (tf/m3)
w (tf/m3)
T (m)
D (m)
Hcw/T'
(a) 2D
2Dreal
29.6389900
1.00000
1.00000
20.000
10.000
1.4819495
2Dmodel
0.5927794
1.00000
1.00000
0.400
0.200
1.4819485
2Dmodel(B)
0.5102466
0.86077
1.00000
0.400
0.200
1.4819481
H2Dmodel
0.2963904
1.00000
1.00000
0.200
0.100
1.4819520
(b) 2DC
2DCreal
B (m)
22.2938600
1.00000
1.00000
20.000
10.000
10.000
1.1146930
2DCmodel
0.4458785
1.00000
1.00000
0.400
0.200
0.200
1.1146963
2DCmodel (B)
0.3837988
0.86077
1.00000
0.400
0.200
0.200
1.1146961
H2DCmodel
0.2229396
1.00000
1.00000
0.200
0.100
0.100
1.1146980
(c) AXS
AXSreal
R (m)
15.5067100
1.00000
1.00000
20.000
10.000
10.000
0.7753355
AXSmodel
0.3101349
1.00000
1.00000
0.400
0.200
0.200
0.7753373
AXSmodel (B)
0.2669548
0.86077
1.00000
0.400
0.200
0.200
0.7753372
HAXSmodel
0.1550672
1.00000
1.00000
0.200
0.100
0.100
0.7753360
(B): Biwa Lake Sand 3
5.結論
浸透破壊問題における限界水頭差の無次元化理論について考察した。ここでは, とくに 2D flow における浸透破
壊問題の無次元化について議論した。まず, 安定解析の方法に関して Prismatic failure の考え方について述べ, 次に,
― 273 ―
地盤浸透破壊に対する限界水頭差 Hc の無次元化に関する考え方について述べた。考察においては, 流れの条件を
二次元流 2D flow, 二次元集中流 2DC flow, 軸対称流 AXS flow に分類して考え, 限界水頭差の無次元化理論では
「実地盤」及び「それと幾何学的に相似なモデル地盤」について考えた。そして, 無次元化の妥当性について考察
し次の結論を得た。
(1)「無次元量 D/T」と「無次元量 Hc /T をさらに無次元量'/w で割って基準化した値 Hcw/T'」の関係を表す式, す
なわち, D/T~Hcw/T' 曲線は実地盤とモデル地盤について理論的に同一のものとなる。ここに, D は矢板の根入れ
深さ, T は地盤層厚, ', w は地盤の水中単位体積重量及び水の単位体積重量である。
(2) 地盤の水中単位体積重量 ’ の値が実地盤及びモデル地盤で異なっていても同一の無次元化が可能である。
(3) 二次元地盤における無次元化式は, Terzaghi の方法に基づいて, 深さ方向に無限な地盤と有限な地盤に関して,
次のように表されることを示した。
無限地盤の場合: Hcw/D' =1/C0=const.
有限地盤の場合: Hcw/T' =1/C0  D/ T
ここに, C0 は水理・地盤条件によって決まる定数である。C0 は半無限地盤の場合には定数であり, 有限地盤の場合
には D/T の関数である。
(4) 二次元集中流(2DC flow)及び軸対称流(AXS flow)においても, 限界水頭差 Hc に関する無次元化は 2D flow の場
合と同様に可能である。ただし, 新しいパラメータとして, 2DC flow の場合 b/D, AXS flow の場合 R/D を考慮する
必要がある。ここに, D は矢板の根入れ深さ, b (=B/2)は複列矢板の半幅, R は円筒止水壁半径である。3D flow にお
ける浸透破壊問題に関する無次元化についても同様である。この場合, 複列矢板の半幅・根入れ比 b/D のほかに, 矢
板囲い内(四角形)の平面形状比 W/B を考慮する必要がある。ここに, 平面形状(四角形)は短い方の半幅を B/2, 長い
方の半幅を W/2 とする(B  W)。
(5) 2D flow, 2DC flow, AXS flow について, 実際に解析を行うことによって上で述べた無次元化の妥当性を示した。
ここでは, 矢板の厚さ t が 0 で掘削のない地盤の一例についての解析結果を示したが, 矢板厚さを考慮した場合,
掘削のある地盤についても, 浸透領域のスケールが相似であれば同様の結果が得られる。
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著者
1) 田中 勉, 神戸大学大学院農学研究科, 教授
2) 永井 茂, 神戸大学大学院農学研究科博士課程後期課程, 学生
3) 三木昂史, 神戸大学大学院農学研究科博士課程前期過程, 学生
― 275 ―
Non-dimensional formulization of hydraulic head
difference for seepage failure of soil
Tsutomu Tanaka
Shigeru Nagai
Takashi Miki
Abstract
For the excavation of soil with a high ground water level within a cofferdam, seepage water flows
through soil under a hydraulic head difference, H, between up- and downstream sides of a sheet pile wall,
and seepage failure is often a problem. Seepage failure sometimes occurs even when a cofferdam has been
expertly constructed based on a current design method. There still remain various shortfalls in the theory
of seepage failure of soil. In this paper, the prismatic failure concept is presented, which is one of the
conventional methods for designing against seepage failure, and non-dimensional formulization of the
critical hydraulic head difference against seepage failure, Hc, is discussed especially in two dimensions.
The Prismatic failure concept 2D (pfc-2D) is initially presented. When the prototype (real soil) and model
(test soil) are geometrically similar, we discuss whether or not the non-dimensional formulization for the
Hc value is possible. The following results are obtained:
(1) Non-dimensional values of D/T, Hc/T, and Hcw/T', and the non-dimensional relationship between D/T
and Hcw/T' are the same for real and model soils that are geometrically similar, where D is the depth of
the sheet pile wall, T is the total depth of soil, and ' and w are the buoyant unit weight of soil and unit
weight of water, respectively.
(2) Even if the buoyant unit weights of real and model soils are different, the same non-dimensional
relationship between D/T and Hcw/T' is applied.
(3) The non-dimensional equations of Hc for the infinite and finite depths of 2D soils are as follows, based
on Terzaghi's method:
Hcw/D' = 1/C0 = const.,
for the soil of an infinite depth, and
Hcw/T' = (1/C0) (D/T),
for soil of a finite depth in two dimensions,
where C0 is a value depending on hydraulic, geometric, and soil conditions. C0 is constant for soil of an
infinite depth, and is a function of D/T for soil of a finite depth.
(4) Similar relationships are true for 2DC- and AXS flow conditions. Some non-dimensional parameters
showing the shape of a cofferdam should be added to describe the excavation cross-sectional shapes.
Key words: Seepage failure, Critical hydraulic head difference, Non-dimensional formulization
― 276 ―