(3)内視鏡手術時の注意点

(3)内視鏡手術時の注意点
腹腔鏡や胸腔鏡におる内視鏡手術は従来の開腹、開胸手術に比べて、創が小さく術後早期の
痛みが少なく創感染が少なく結果的に入院期間も短縮できるなど低侵襲性が期待でき、また
モニターによる拡大視効果や内視鏡手術専用の手術器具を使用することで、より精緻な手術
操作を行えるなどの利点があり、各科において多様な疾患に対する標準あるいは先進的手術
法として急速に普及しているのが現状である。
一方で内視鏡手術には下記にあげる特有の問題点があることから、それに伴うリスクを十分
に理解し、できうるかぎりの対策を講じてリスクを最小化し、患者の十分なICを得たうえで
行われなければならない。
①内視鏡手術に伴う問題点
1)用手操作ができない:手術野の展開、病変の触診、適度な臓器把持、カウンタートラク
ションや出血時の圧迫やクランプなど迅速な処置については、鉗子操作が用手操作に劣
るのは明らかである。
2)モニター視野:手術視野が共有できるという利点はあるが、モニター視野外での鉗子類
の状況などはだれも把握できず、視野範囲(近景遠景含む)、視野角度(特に斜視鏡、
軟性鏡使用時)など直接手術操作に影響する因子がスコピストの技量に依存する。
3)内視鏡手術専用デバイス:光学機器、気腹装置、ポート、鉗子類、エネルギーデバイス
(電気メス、超音波凝固切開装置、シーリングデバイス等)、自動縫合器など多くの専用
機器を使用するが、それらの機器の進歩は目覚ましく、多種類の機器に精通しなければ
ならない。
②内視鏡手術の適応
1)各科において積極的に適応が広げられてきているが、内視鏡手術の主目的は低侵襲性で
あり、安全性は最大限担保されなければならない。基本的には保険収載され標準手術と
して普及している術式の範囲で、疾患病態、進行度、癒着などの状況を考慮し、各科で
十分なカンファレンスを行ったうえで、対応を決定する。
2)関係学会の内視鏡手術ガイドラインを参考にする。
内視鏡外科診療ガイドライン2014年版
(日本内視鏡外科学会編)
産婦人科内視鏡手術ガイドライン2013年版
泌尿器腹腔鏡手術ガイドライン2014年版
(日本産婦人科内視鏡学会編)
(日本泌尿器内視鏡学会編)
③内視鏡手術を行うにあたって必要なこと
1) 当該手術を開胸・開腹・後腹膜腔で用手的に行う手技、周術期管理、合併症管理の習
得。
2) 内視鏡手術に使用する各種デバイスの適正使用法、危険性の十分な理解と術前のシミ
ュレーション。
a)スコープ、モニター視野の特性の理解と操作法の習得。
b)2次元であるモニター視野下での深度感覚の習得。
c)鉗子を介した臓器触知感覚の習得。
d)エネルギーデバイスの特性、危険性の十分な理解と適正使用法の習得。
e)体腔内結紮や縫合などの手技習得。
④内視鏡手術時の注意点
1)内視鏡手術を勧める際の十分な説明
従来の手術法と比較し、低侵襲性などの利点と内視鏡手術に伴う特有の危険性ならびに
各科での手術実績などを十分に説明したうえで手術担当チーム医師名を明記した手術
承諾書をお渡しする。
2)内視鏡手術専門医
手術担当チームには内視鏡手術専門のトレーニングを受けた医師、内視鏡外科技術認定
医が少なくとも一名、担当医として手術に参加することが望ましい。
3)内視鏡手術中止の判断
術中出血量や手術時間などが想定を超えた場合、手術担当チーム医と麻酔科医が相談し
内視鏡手術の継続が困難と判断した場合には、速やかに従来の開胸・開腹手術に移行す
る。
4)モニター視野外での臓器損傷
剥離や切離操作は必ずモニター視野内で行うのはもちろんであるが、視野外での把持鉗
子による臓器損傷に十分な注意を払う。
5)デバイスの適正使用
新しい手術機器を使用する際には、適正使用法について事前に十分に習熟し、使用シミ
ュレーションをおこなっておく。特にエネルギーデバイスは、機器により周囲臓器への
影響が異なるため、個々の特性を理解しておかなければならない。自動縫合器について
も、不適切使用は重篤な合併症を招くため、適正使用と十分な操作法習熟が必要である。
6)内視鏡手術の適応拡大
当院で施行実績のない内視鏡手術を新たに予定する場合は、実績のある施設で一定期間
の手術研修を行うか、あるいは当該手術に精通した医師を招聘し、数例の手術指導を受
けた後に当院単独で行うこととする。
7)内視鏡手術チーム
特有の危険性を伴う内視鏡手術では、従来の手術以上に術者、助手、スコピストの手術
担当医チーム力、および麻酔医、看護師、臨床工学技士を含めた手術室総合チーム力が
必要であることを各自が認識し、それぞれの分野で学会、講習会等に参加し、常にスキ
ルアップを図らねばならない。
⑤将来的な内視鏡手術支援ロボット手術導入に備えて
(参考)日本内視鏡外科学会(JSES)の内視鏡手術支援ロボット手術導入に関する提言
(2011年7月)
内視鏡手術支援ロボットの導入が急速に進みつつある現状を鑑み,日本内視鏡外科学会は
内視鏡手術支援ロボットを安全に導入・普及させるためには,その導入においては,原則とし
て下記の7条件を満たすことが望ましいと判断し、以下の要件を提言する。ただし、各領域
( 泌尿器科領域など)における内視鏡手術支援ロボット導入に関するガイドラインがある場
合は,それを遵守する。
1)
術者および助手は da Vinci Surgical System 製造販売業者および販売会社主導のトレーニ
ングコースを受講し内視鏡手術支援ロボット使用に関する certification を取得してい
ること。
2)
術者は施行予定手術の関連専門学会が定める専門医(消化器外科学会専門医,泌尿器科学会
専門医,産婦人科学会専門医,呼吸器外科専門医など)を取得していること。
3)
術者は日本内視鏡外科学会が統括する技術認定取得医(消化器一般外科領域,産科婦人科領
域,泌尿器科領域,整形外科領域,小児外科領域)であること。(ただし,ロボット支援前立腺
全摘術はこの限りではない)
4)
第1例目施行以前に,術者,助手,手術室看護師を含めた医療チームとして,十分な手術の臨
床見学を行うこと。
5)
内視鏡手術支援ロボット手術導入において,その当初は,同手術の経験豊富な指導者を招聘
しその指導下に行うこと。
6)
内視鏡手術支援ロボットを使用した手術は臨床研究段階であり、実施に当たっては患者お
よび関係者にその利点および起こりうる偶発症・合併症について具体的に説�し、十分な理
解の上で同意を得ること。
7)
上記1)–6)の条件を満たした上で,各診療科依存型ではなく,各施設全体としての独自の導
入ガイドラインを作成し,各施設の倫理委員会(あるいは臨床研究審査委員会)の 承認を得
て,安全な導入に努めること。