Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 アンケート調査に基づく家庭エネルギー需要モデル Residential Energy Demand Modeling based on Questionnaire Surveys 小 澤 暁 人 *・ 吉 田 好 邦 Akito Ozawa * Yoshikuni Yoshida (原稿受付日 2015 年 4 月 10 日,受理日 2015 年 8 月 21 日) This paper presents an estimation model of residential energy demand, based on questionnaire surveys. The questionnaire surveys, which were performed in 2014 winter and summer, asked over 1200 people, male over 20 years old and housewives over 30 years old, about their life activities on a day, (1) where you were, (2) what you were doing there, and (3) whether you were using home appliances and hot water, in every 15 minutes. In this estimation model, family life activities are made from the questionnaire results to estimate their electricity and hot water load profiles. The questionnaire focuses on life activity relationship between family members and actual home appliances and hot water use. With this model, we estimated 420 patterns of electricity and hot water demand profiles of various seasons, family structures and lifestyles. The result suggests that family structure influences the shape of energy demand profile and daily energy consumption. Estimated energy demands are similar to the secondary energy consumption in residential sector. We also compare the electricity and hot water demand profiles estimated by this model and those estimated by a prior study’s model, which doesn’t life activity relationship between family members. 複数人が入浴をしない」などの条件を当てはめるにとどま 1.はじめに 日本では地球温暖化問題や東日本大震災を背景として, り,家族間の生活行動の関連性の実態を調査してエネルギ ー需要の推計に反映するような研究は行われていない. 電力を中心としたエネルギーシステムの転換が進められて いる.なかでも家庭向け電力・ガスの自由化にともなって, 国内における家庭エネルギー需要のボトムアップ推計に 様々な事業者が家庭部門エネルギー供給への参入を検討し 関する研究 5)6)では,生活時間の入力データとして NHK 放 ている.また需要家サイドでも,エネルギーの見える化や 送文化研究所の国民生活時間調査 デマンドレスポンスを活用した新サービスに期待が注がれ ながら,国民生活時間調査では炊事・掃除・洗濯が 1 つの ている.このようにエネルギー需要と供給の双方から,家 行動分類として集計されているが,エネルギー消費の観点 庭エネルギー需要に対する関心は高まっている. から見るとこれらの行動の違いは大きい.さらに炊事 1 つ 9)を用いている.しかし 家庭エネルギー需要のモデル化に際しては,生活者の行 をとっても使用される家電製品の種類は多様で消費電力に 動に着目して需要を推計するというボトムアップ型の手法 幅があるが,国民生活時間調査はあくまで行動ベースの調 1)がよく取られる. 近年ではコンピュータシミュレーション 査であり個々の家電製品の使用状況に関しては不明である. 技術が向上したことにより,生活時間調査(time use survey) 以上のように,国民生活時間調査はエネルギー需要推計に から居住者の生活行動を仮想的に再現し,それに基づいて 適したデータとは必ずしもいえない. 時間帯ごとの照明・空調・家電製品・給湯などの使用状況 を特定,エネルギー需要を推計する研究 そこで,著者らは家庭における生活行動と家電製品・給 2)3)4)5)6)がなされて 湯の使用状況に関するアンケート調査を独自に実施して, いる.これらの研究では,個人別に再現された生活行動を そこから得られた情報を用いた家庭の電力・給湯需要の推 足し合わせることで家族全体の生活行動を再現する手法が 計手法を開発した.本研究の流れを図 1 に示す.アンケー 取られる.ここでは, 「家族一緒に食事をとる」や「順番に ト調査は,既往研究では考慮されてこなかった「家族間の お風呂に入る」というような,家族間の生活行動の関連性 生活行動の関連性」 「個々の家電製品・給湯の使用実態」を をいかに考慮するかが重要である.家族間の生活行動の関 把握することに重点を置いて設計し,とある 1 日における 連性は,ライフステージの進行(子どもの成長や勤め人の 15 分ごとの居場所・生活行動や家電・給湯の使用などを質 退職など)によって変化することが知られていて,例えば 問している(第 2 章) .次に,開発した手法を用いて電力・ 同じ子持ち世帯でも子どもが未就学児の場合と高校生の場 給湯需要の推計を行なった(第 3 章) .需要推計はアンケー 合とでは家族の生活リズムの関連性は異なってくる 8).こ トの回答結果に基づいて行ない,様々な季節・家族構成・ れまでの研究では,家族間の生活行動の関連性は「同時に 生活スタイルを想定している.そして推計した需要を比較 して,家族構成・生活スタイルの違いが需要カーブや 1 日 *東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻 の需要量に与える影響を調べた.また,推計結果から家庭 〒277-8563 千葉県柏市柏の葉 5-1-5 環境棟 461 号室 E-mail : [email protected] 12 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 の年間二次エネルギー消費量を求め,統計値と比較して推 行動,家電製品・給湯の使用の有無を質問した. 計の妥当性評価をした.最後に,今回の推計結果と,家族 質問の流れを図 2 に示す.質問は,居場所→行動→家電 間の生活行動の関連性を考慮しない場合の家庭の電力・給 製品・給湯の使用の順に行なった.まず居場所について, 湯需要の推計結果とを比較して,家族間の生活行動の関連 それぞれの時間帯で外出していたか在宅していたか,在宅 性によるエネルギー需要への影響を調べた(第 4 章) . の場合はどの部屋にいたか(寝室,子供部屋,居間・食堂, 台所,和室,洗面室,浴室,廊下・階段・玄関,その他の 部屋,屋外・ベランダ)を質問した.つづいて在宅してい た時間帯については,そこで何をしていたかを質問した. 最後にそれぞれの行動をしていた時間帯について,そのと きに家電製品や給湯を使用したかを質問した.行動類型と 対応する家電製品・給湯の種類を表 2 に示す.さらに専業 主婦の回答者には,夫と子ども(長子)が睡眠・食事・入 浴・外出していた時間帯を分かる範囲で答えてもらった.1 2.3 回答者の個人属性の構成 回答者の個人属性の構成を確認する.今回のアンケート 調査では専業主婦の回答者に自分だけでなく家族の行動に 図1 ついても回答してもらうため,女性の比率を高く設定した 研究の流れ (男女比は 4:6).今回の調査では女性の回答者が自宅で 2.アンケート調査の実施 の家族の行動を把握していることが重要となるため,女性 2.1 概要 の回答者を在宅時間が長いと思われる専業主婦に限定した. インターネット調査会社マクロミルに依頼して行なった さらに幅広い世代のエネルギー需要を推計するため女性 ウェブアンケートの形式で,家庭における生活行動や家電 (専業主婦)は年齢が 30 代・40 代・50 代・60 代以上で回 製品・給湯の使用に関するアンケート調査を実施した.調 答者数が均等になるようにした.様々な年代の子持ち世帯 査は 2014 年の冬・夏の 2 回に分けて実施し,調査対象者は の回答を多くするために,20 代女性は調査対象から外し, (1)20 歳以上の学生以外の男性と(2)30 歳以上の専業 より年長の回答者にサンプル数を割り当てた. 主婦とした.調査対象者は冬と夏で別々に募った.調査の 世帯類型の構成を図 3 に示す.夫婦 2 人世帯と回答者夫 対象時期・回収数・有効回答数を表 1 に示す. 婦+子どもの世帯が全体の 8 割弱を占めている.一方で単 調査内容は以下のとおりである.調査対象者は 2 グルー 身世帯は 5%程度と少ないが,これは「家族間の生活行動 プに分け,片方のグループには直近の平日を,もう片方の の関連性」を把握するために回答者を調整したためである. グループには直近の休日を対象日として,1 日の居場所, 表1 行動,家電製品・給湯の使用について回答してもらった. ここでいう「直近」の日には回答している当日は含まず, 前日以前の日について回答してもらった. 【調査内容】 1. 個人属性 アンケート調査の対象時期・回収数・有効回答数 冬 夏 対象時期 2014/1/16~1/23 2014/8/18~8/25 回収数 612 615 有効回答数 531 442 2. 対象日における 15 分ごとの居場所,行動,家電製品・ 給湯の使用 3. 夫・子どもの個人属性,対象日における 15 分ごとの おおまかな行動(主婦のみ回答) 4. 所有している給湯器・空調機器の種類 2.2 質問の設計 家庭エネルギー消費の用途は,照明・空調・家電(動力 +厨房) ・給湯の 4 種類に分類することとした.照明・空調 はどの部屋にいたかによって推測できる.また家電・給湯 図2 質問の流れ は家電製品・給湯の使用状況で決まり,これらは家庭内で の行動に影響される.そこで回答者に 15 分ごとの居場所, 子ども全員分の行動を質問するのは回答者の負担が大きいと判 断し,長子の行動のみを質問した. 1 13 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 表2 行動類型と対応する家電製品・給湯の種類 行動類型 具体例 睡眠 30 分以上連続した睡眠,仮眠,昼寝 食事 朝食,昼食,夕食 身の回りの用事 入浴,洗顔,整髪,歯磨き,トイレ,着替え,化粧 家電製品 給湯 ドライヤー シャワー, 蛇口 炊事 食事の支度・後片付けをする,台所まわりの機器を 電子レンジ,コンロ*(IH・ガス), 蛇口 使用する 電気ポット,炊飯器**,食洗機** 掃除 掃除用具を使用する,部屋の片付けをする 掃除機 その他の家事 洗濯,子供の世話など, 「炊事」 「掃除」に該当しな 洗濯機**,乾燥機**,アイロン い家事 テレビ テレビを見る.ビデオ・DVD・HDD レコーダーの 視聴も含む その他の行動 以上の行動に該当しない行動 * コンロは最初に自宅の台所コンロが IH かガスかを質問し,その後で使用した時間帯を質問した. ** 炊飯器・食洗機・洗濯機・乾燥機は予約運転を考慮して,それぞれ「炊事」や「その他の家事」をした時間帯に関係 なく,1 日すべての時間について使用状況を質問した. 家族人数の構成を図 4 に示す.回答者の 8 割以上が 2 人 単身世帯を除いた親族のみ世帯の平均家族人数(3.11 人) ~4 人家族である.一人暮らしの回答者が少ないのも,前 に近い. 述の世帯類型における単身世帯と同じように,専業主婦の その他,回答者集団の居住地・住宅建て方および世帯所 回答者が多いためと考えられる.家族人数の平均は 2.92 人 得の分布が全国平均と比較して偏りがないことを確認した. (冬)と 3.02 人(夏)であり,平成 22 年度国勢調査 の 10) 3.家庭エネルギー需要の推計手法 3.1 概要 つづいて,アンケート調査の結果から家庭エネルギー需 要を推計する手法を紹介する.手順を図 5 に示す.今回の アンケート調査では,生活行動データ(15 分ごとの居場所, 行動,家電製品・給湯の使用状況)を個人別に収集した. 最初にこの個人別のデータを統合して,家族の生活行動デ ータを生成した.3.2 に生成手法を記す. つづいて家電・給湯について消費エネルギー単位を設定 し,家電製品・給湯の使用状況に応じて合算することで家 図3 電電力・給湯需要を推計した.ここで消費エネルギー単位 世帯類型の構成 *「回答者」は未婚・離婚・死別の場合は回答者本人の とは,家電製品・蛇口・シャワーなどを間欠的に使用する み,それ以外の場合は回答者夫婦を意味する. (15 分のうち数分使用する)場合も想定したときの,15 分間平均での消費電力[W]・給湯の流量[L/15 分]を表す. 図4 図5 家族人数の構成 14 家庭エネルギー需要の推計手順 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 同様に,15 分ごとの居場所から照明の使用状況を求め,各 表3 家電の消費電力・使用時間・消費エネルギー単位 消費 部屋の照明の消費電力を設定することで照明電力を推計し た.3.3 に消費エネルギー単位の設定値を記す. 最後にシミュレーションモデルを用いた空調負荷計算に 行動 エネル 消費 使用時間 電力 𝑇𝑒 𝑃𝑒 [W] [分/15 分] ドライヤー 775 5 258 温水便座 35 常時 35 電子レンジ 1141 5 380 IH コンロ 511 15 511 電気ポット 1201 15 1201 炊飯器 1200 15 1200 65 15 65 1100 15 1100 冷蔵庫 80 常時 80 776 15 776 家電種類 よって空調電力を推計した.住宅熱負荷計算では,住宅の 間取りや気象条件だけでなく,居住者の在室状況(居場所) ギー 単位 𝑈𝐸𝑒 [W] や照明・家電製品の使用状況を内部発熱として入力した. 身の回り 空調は部分間欠運転(家全体ではなく,必要な部屋だけ空 の用事 調を運転させること)とし,居場所は空調の運転停止にも 炊事 影響すると想定した.3.4 に住宅の空調負荷計算の詳細を 記す. 3.2 家族の生活行動データ生成 食洗機 専業主婦の回答者には本人の生活行動だけでなく,夫と (洗浄) 子どものおおまかな行動(睡眠・食事・入浴・外出してい 食洗機 た時間帯)についても質問した.空白となっている夫・子 (乾燥) どもの居場所と家電製品・給湯の使用状況,および回答さ れていない時間帯の行動を補完することで,家族全体の生 掃除 掃除機 活行動データを生成した2 .まず夫については,睡眠・食 その他の 洗濯機 320 15 320 事・入浴・外出の時間帯が近い人を男性の回答者の中から 家事 乾燥機 1100 15 1100 アイロン 1068 15 1068 テレビ テレビ 107 15 107 その他 待機電力 居住者 1 人につき など 常時 探し,彼の情報を用いて居場所,家電製品・給湯の使用状 況,空白の行動を補完した.子どもについては未成年のア ンケート回答者がいないため,2010 年 10 月に実施された NHK 放送文化研究所の国民生活時間調査 9)の時間帯別行動 さらに,待機電力やアンケートで質問していない家電製 割合に従って確率的に補完を行なった.仮に 2010 年と現在 品による消費電力として,居住者 1 人あたり 50[W]を常時 で子どもの生活行動が変容しているとしても,子どもは学 加えた.消費電力・使用時間・消費エネルギー単位の設定 校にいる時間がほとんどであり,家庭への影響は限定的で 値を表 3 に示す.台所コンロは IH コンロを使用している家 あると考えられる.なお夏の調査対象時期が夏休み期間と 庭については電力需要に計上し,ガスコンロを使用してい 重なったため,平日における子どもの外出時間が実際より も短くなっている.そこで国民生活時間調査 る家庭についてはガス需要に計上した3. 9)の外出割合 (2) 給湯 に従って外出時間を補正した.次子以降の子どもの行動に ついては,国民生活時間調査 基本的な流れは家電の時と同様である.一般的な蛇口や 9)にもとづいて長子について シャワーの流量は 1 分あたり 10 リットル程度なので,蛇口 の回答結果の睡眠・入浴・外出の時間帯を補正することで やシャワーを 15 分間出しっぱなしにしたときに消費する 再現した. 湯量𝑃ℎ𝑤 は 150[L/15 分]とした.用途に応じて使用時間 3.3 消費エネルギー単位の設定 𝑇ℎ𝑤 [分/15 分]を設定し,消費湯量𝑃ℎ𝑤 ・使用時間𝑇ℎ𝑤 から, (1) 家電 まず,先行研究 それぞれの用途で給湯を使用した時の消費エネルギー単位 11)12)やカタログから家電製品の消費電力 𝑈𝐸ℎ𝑤 [L/15 分]を求めた(式(2)) . 𝑃𝑒 [W]を得た.次に,それぞれの家電製品について使用時間 𝑈𝐸ℎ𝑤 = 𝑃ℎ𝑤 × 𝑇ℎ𝑤 ⁄15 𝑇𝑒 [分/15 分](15 分のうち何分間その家電製品を使用してい (2) 湯はりは一般的な浴槽の容量を考慮して 180[L]とした. るか)を設定した.そして,消費電力𝑃𝑒・使用時間𝑇𝑒 から, なお給湯需要を湯量からエネルギー量に変換する際には, 使用時間を設定したときの家電製品の消費エネルギー単位 湯温を 42℃, 上水温度を季節別に設定(冬 9.2℃, 夏 23.0℃, 𝑈𝐸𝑒 [W]を求め(式(1)) ,家電電力の推計値とした. 𝑈𝐸𝑒 = 𝑃𝑒 × 𝑇𝑒 ⁄15 50 中間期 16.8℃)し,温度差分の熱量として求める.消費湯 (1) 3 ガスコンロを使用したときの消費エネルギー単位(15 分間での ガス消費量)は 0.0336m3/15 分と設定した.このガス需要は電力・ 給湯需要推計に影響しないが,4.4 で後述する推計結果の妥当性評 価において家電による二次エネルギー消費量として計上される (ガス発熱量は 45MJ/m3 とする) . 本来であれば家族全員に 1 日の居場所,行動,家電製品・お湯の 使用状況を質問するほうがよいが,このようなアンケート調査は 困難である.そこで,今回は個人別に行なったアンケート調査を 紐づける手法を採用した. 2 15 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 量・使用時間・消費エネルギー単位の設定値を表 4 に示す. 間取りを図 7 に示す.塗りつぶされた部屋は空調範囲を意 (3) 照明 味する.すなわち 1 階の居間・食堂,2 階の寝室と 2 つの 照明は各部屋に在室者がいる時間帯に使用されると想定 した.消費電力は省エネ法の判断基準 13)の「レベル 子供部屋の計 4 部屋にエアコンが使用されると仮定して, これらの部屋における空調熱負荷を計算した. 0」に 基づいて部屋ごとに照明の消費電力を設定した.これは 住宅の断熱性能は Q 値が新省エネ基準相当になるように 2008 年時点における標準的照明プランを想定したもので, 建材の種類・厚みを設定した. 4 人家族の戸建住宅で「一室一灯」をベースに配置し蛍光 (3) 生活条件 灯と白熱電球が混在したプランである.現在は電球型蛍光 空調の運転スケジュールは,空調範囲となる部屋ごと(居 灯・LED 照明が生産の主流であるが,既築住宅では電気工 間・食堂,寝室,2 つの子供部屋)に設定し,居住者が起 事が必要な場合がある点,小型ダウンライトは白熱電球の 表4 給湯の消費湯量・使用時間・消費エネルギー単位 消費 利用が続いている点などから,現在においてもこの照明プ 消費 ランが省エネ法のベースラインと位置付けられている.ま た住宅の間取りは後述する日本建築学会住宅用標準問題の 行動 使用時間 湯量 用途 𝑇ℎ𝑤 𝑃ℎ𝑤 ものと一致しないが,部屋数と面積はほぼ等しく十分適合 [L/15 分] 可能であると判断した.消費電力の設定値を表 5 に示す. [分/15 分] エネル ギー 単位 𝑈𝐸ℎ𝑤 [L/15 分] 3.4 空調熱負荷計算 身の回り 空調電力を推定するための熱負荷計算の手順を図 6 に示 の用事 湯はり 180 追いだき 150 3 30 す.まずは BEST 専門版 14)(以降,BEST と略称する)を 蛇口 150 1.5 15 使用して住宅の熱負荷シミュレーションを行ない,空調熱 シャワー 150 3 30 蛇口 150 3 30 炊事 負荷を計算する.BEST は 4 種類の条件(地域条件・建物 表5 条件・生活条件・計算条件)を入力データとして,室内の 温湿度を一定範囲に保つために必要な熱負荷を算出するこ 部屋 とができる.他の熱負荷シミュレーションソフトが熱負荷 を 1 時間刻みで計算するのが一般的であるのに対して, BEST は 1 分刻みでのシミュレーションが可能である. 照明の消費電力 消費電力 [W] 部屋 寝室 186 洗面室 54 70 浴室 24 居間・食堂 168 廊下・階段・玄関 54 その他の部屋 70 台所 66 BEST で算出された空調熱負荷をエアコン COP で割って空 和室 100 調電力を算出する.COP は部屋面積に応じた定格 COP と 外気温変化による補正係数を乗じた値で表される. (1) 地域条件 外部環境の気象データ(外気温度・湿度,水平面全日射 量・天空日射量・夜間放射量,風向・風速)は,BEST 使 用上の制約により 2006 年の東京におけるデータを使用し た.東京が日本の平均的気象条件とよく一致する点,アン ケート調査と同じ 15 分間隔でシミュレーションをするこ とが重要である点を考慮して,本研究では BEST の利用が 適していると判断した. 冷暖房期間はそれぞれの期間中に冷房と暖房のいずれを 図6 空調熱負荷計算の手順 15)に基づいて冷房 期間を 5/23~10/4,暖房期間を 11/8~4/16 とした.ただし, 室内温湿度が空調設定温度(後述)の範囲を超えたときか ら空調が運転開始するのであり,冷暖房期間中であっても 空調は間欠運転であることに注意されたい. (2) 建物条件 住宅の間取りは日本建築学会住宅用標準問題(日本建築 図7 学会が提案した標準的な住宅モデル)16)のものを採用した. 16 [W] 子供部屋 そして空調がすべてエアコンで賄われると仮定して, 使用するかを表し,エアコンの JIS 規格 消費電力 住宅用標準問題 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 床在室(その部屋にいて,睡眠以外の行動をしている)の 4/28~5/22・10/5~10/27 を夏の推計結果から冷房電力を除 時間帯のときを 1,それ以外の時間帯を 0 とし,アンケー いたものとした.また回答者の個人属性の構成から,世帯 ト調査の回答に基づいて設定した.居住者が 1 人でも起床 類型は夫婦 2 人世帯と夫婦+子どもの世帯,家族人数は 2 在室でいるときは運転スケジュールが 1 になる.また設定 ~4 人とし,家族構成のバリエーションはライフステージ 温湿度は冷房時 27℃・60%,暖房時 20℃・50%とした.運 に応じて表 7 に示す 10 通りとした.さらにそれぞれの家族 転スケジュールが 1 であり,さらに室内温度が空調設定温 構成に対して平日 10 通り,休日 4 通りの計 14 通りの生活 度の範囲を超えた(例えば冷房期間中は,室内温湿度が設 スタイルのバリエーションを用意した.以上,3(季節)× 定温湿度を上回った)時間帯に空調が運転される. 10(家族構成)×14(生活スタイル)=420 通りの電力・ 内部発熱とは人体・家電製品・照明から発生する熱のこ 給湯需要を生成した.ここで,睡眠時間が極端に短かった とで,空調熱負荷に影響する.時々刻々の家電製品・照明 り,身の回りの用事の時間をしなかったりするような,偏 からの発熱は,そのときに機器が消費している電力とした った生活行動の回答者は選ばれない. 17).また人体による発熱は,人体の代謝量と季節別の着衣 生成した電力・給湯需要の一例(冬の平日における子社 量を考慮して,家族の在室状況から求めた. 会人 2 の需要)を図 9 に示す.電力需要は空調・照明・家 換気は窓からの自然換気と換気扇などによる強制換気の 電による消費電力を合算したものである.家電はさらに表 2 種類がある.自然換気は空調の運転スケジュールと同じ 3 に挙げた様々な種類に細分化できるが,この図では表 2 時間帯に行ない,強制換気は台所においてコンロ使用時に に挙げた行動類型ごとにまとめた消費電力を表している. 行なうとした.ここで自然換気とは,例えば夏の場合は, 給湯も同様に表 2 の行動類型で分類した.これらはアンケ 室内温度が冷房設定温度よりも高く,外気温度が設定温度 ート調査から得られた実際の居場所や家電製品・給湯の使 よりも低いとき(深夜・早朝など) ,窓を開けて外気を取り 表6 標準エアコンの定格 COP(設定値) 込むことで室内温度を下げるという,エアコンを使用しな 冷房 暖房 居間・食堂 2.91 3.48 寝室・子供部屋 5.09 5.47 い温度調節方法を意味する. (4) 計算条件 空調熱負荷の計算時間間隔は,居場所や行動などの時間 間隔と同じく 15 分とした. (5) エアコン COP の設定 定格 COP は定格空調能力の大きさによって異なり,一般 的に能力が高く広い部屋に設置されるようなエアコンほど COP は小さくなる.そこで床面積の大きい居間・寝室と小 さい寝室・子供部屋とで異なる能力のエアコンが設置され るとし,省エネ法の判断基準 13)に従って標準エアコンの定 格 COP を設定した.設定値を表 6 に示す. またエアコン COP は外気温に依存し,真冬・真夏の極端 図8 な気温時に COP は低下する.そこで,省エネ法の判断基準 13)における空調電力の計算式から定格運転時の外気温によ 外気温の変化による COP 補正係数 表7 る COP 変化の部分を取り出して,図 8 のように外気温の変 家族構成のバリエーション 家族人数 化による COP 補正係数を設定した.この補正係数は外気温 構成 若年夫婦 2 50 代以下の夫婦 老年夫婦 2 60 代以上の夫婦 子未就学 1 3 夫婦+未就学児 1 人 4.推計結果 子小中学 1 3 夫婦+小中学生 1 人 4.1 属性のバリエーション 子高大生 1 3 夫婦+高大学生 1 人 以上の手法にしたがって,異なる季節・家族構成・生活 子社会人 1 3 夫婦+社会人の子ども 1 人 スタイルにおける 1 日の電力・給湯需要カーブを 15 分間隔 子未就学 2 4 夫婦+未就学児 2 人 で推計した.季節のバリエーションは冬(暖房期) ・夏(冷 子小中学 2 4 夫婦+小中学生 2 人 房期) ・中間期の 3 通りである.中間期の需要は 4/17~4/27・ 子高大生 2 4 夫婦+高大学生 2 人 10/28~11/7 を冬の推計結果から暖房電力を除いたもの, 子社会人 2 4 夫婦+社会人の子ども 2 人 が定格条件(暖房時 7℃,冷房時 35℃)のときに 1 となり, COP は定格 COP×補正係数として与えられる. 17 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 示している.給湯を見ると子社会人 2 が平日の夜遅くまで 需要が大きく推移しており,子どもの帰宅時間が遅くなっ て深夜に入浴する割合が増えていることを反映している. 一方で休日は 16 時~21 時にかけて給湯需要が集中してお り,入浴のタイミングが平日/休日で大きく異なることを 示している. つづいて変動係数から同じ家族構成の場合の生活スタイ ルの違いによる需要のばらつきを確認すると,全体的な傾 向としては朝(5 時~8 時) ・夕方(16 時~19 時) ・夜(23 時~2 時)に電力需要の変動係数が大きくなっている.こ れは,朝の起床と外出,夕方の帰宅,夜の就寝のタイミン グの違いによって電力需要のばらつきが大きくなっている と考えられる.給湯は電力よりも変動係数が大きい値を取 りやすく,給湯需要が短時間に集中的に発生するため湯は りや入浴のタイミングによってばらつきやすいことを示し ている.平日/休日による違いを確認すると,電力需要で 図9 は平均と同様に平日朝のピークの立ち上がりが早い.一方 生成した電力・給湯需要の例 で給湯では,平日のほうが変動係数の値が大きくなる傾向 用状況から生成しているので,より実態に即した需要とい にある.家族構成による違いを確認すると,4 人家族の電 える.また,消費電力の大きい家電製品の使用や湯はりに 力需要は 2 人家族よりも変動係数が小さい. よって発生する需要のスパイクも表現できている. (2) 夏の電力・給湯需要 4.2 需要カーブ 標準的な夏の気象条件であった日における電力・給湯需 (1) 冬の電力・給湯需要 要カーブを図 11 に示す. つづいて図 9 で示した行動類型別の電力・給湯需要を合算 まず全体的な傾向を確認すると,電力需要は朝方から昼 して,トータルの電力・給湯需要カーブを生成した.標準 にかけてゆるやかに増加し,夕方にも増加してピークを発 的な冬の気象条件であった日における電力・給湯需要カー 生する.それ以降はゆるやかに減少していく.冬の電力需 ブを図 10 に示す.家族構成は上から順に若年夫婦,老年夫 要との違いは,冬は朝方のピークが大きいのに対して夏は 婦,子小中学 2,子社会人 2 となっている.平日の需要は 日中の需要が大きくなっている点である.これは空調需要 黒線(サンプル数 n=10),休日の需要は赤線(サンプル数 による影響が大きく,冬は夜間の冷え込みの後に居住者が n=4)で表し,実線は平日・休日の平均,破線は変動係数を 起床して暖房を入れることで電力需要が増加するのに対し, 表す.変動係数とは標本の標準偏差を平均で割ったもので, 夏は日中の気温上昇に伴って冷房による電力需要が増加す 平均に対する相対的なばらつきを示す指標である. るためである.加えて,冬は加熱調理器(コンロ・電子レ まず需要の平均に関して全体的な傾向を確認すると,電 ンジ)の使用頻度が高く,朝の炊事も電力需要を押し上げ 力需要は朝方にピークが発生し,日中はなだらかに推移し る要因となっている.給湯需要に関して,タイミングは冬 ながら夕方からふたたび逓増していって夜のピークが発生 と同じで朝・昼・夜に需要が発生しているが,ピークの大 する.給湯需要は朝と昼にわずかながら発生し,夕方から きさは冬よりも小さくなっている.これは夏に炊事で常温 夜にかけてより大きな需要が存在する.朝・昼の需要は主 の水を使用したり,湯はりを行なわなかったりするためで に炊事によって生じ,夜にはさらに身の回りの用事(湯は ある.平日/休日による違いを確認すると,冬の同様の傾 りやシャワーなど)による給湯需要が追加されるため需要 向がみられる.電力需要は平日のほうが朝の立ち上がりが が増加する.平日/休日による違いを確認すると,電力需 早く,休日は日中の需要が大きくなる.給湯では,平日/ 要は平日朝のピークの立ち上がりが早く,休日は日中の需 休日による差異が小さい.家族構成による違いを確認する 要が相対的に大きくなる傾向がある.一方で給湯では平日 と,これも冬と同様に 4 人家族のほうが夕方から夜にかけ /休日による需要の差異は小さい.家族構成による違いを て電力需要が大きい.一方で給湯に関しては,冬と比べて 確認すると,電力需要では 4 人家族のほうが夕方から夜に 需要量が小さくなっていて,需要カーブからでは家族構成 かけての増加幅が大きい.また若年夫婦・子小中学 2 のほ による影響の読み取りが難しい. うが平日朝のピークの立ち上がりが早く,早起きの傾向を 18 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 図 10 冬における電力・給湯需要の平均と変動係数(サンプル数:平日 n=10,休日 n=4) 図 11 夏における電力・給湯需要の平均と変動係数(サンプル数:平日 n=10,休日 n=4) 19 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 図 12 1 日の電力・給湯需要量 つづいて変動係数から生活スタイルの違いによる需要の り,行動変容の影響は小さいと考えられる.ただし空調熱 ばらつきを確認すると,全体的な傾向としては朝(5 時~8 負荷計算では 2006 年の東京における気象データを想定し 時) ・夕方(16 時~19 時)に電力需要の変動係数が大きく ており,今回推計した空調の二次エネルギー消費量は 2006 なっている.冬と比べて夏は電力需要の変動係数がさほど 年の気象的特徴によって影響を受けることが考えられる. 大きくならない.平日/休日による違いを確認すると,電 ただし東京は日本の平均的な気象条件を示すので,空間的 力需要では平日朝のピークの立ち上がりが早く,給湯では な影響は小さいと考えられる. 平日のほうが変動係数の値が大きくなる傾向にある.これ 本研究での推計結果から,用途別に 5 種類(照明・家電・ らも冬と同じ傾向を示している.家族構成による変動係数 給湯・暖房・冷房)の二次エネルギー消費量を求めた.照 の違いは,電力・給湯ともに差異は小さい. 明の二次エネルギー消費量は,推計結果の照明電力とした. 4.3 世帯類型別の 1 日の需要量 家電の二次エネルギー消費量は,推計結果の家電電力に加 平日 10 通り・休日 4 通りの平均から求めた 1 日の電力・ え,ガスコンロによるガス消費量も考慮した.給湯の二次 給湯需要量を図 12 に示す.電力需要について,世帯の人数 エネルギー消費量は,上水(温度は冬 9.2℃,夏 23.0℃,中 が多くなるほど需要量が増えていく傾向が読み取れる.同 間期 16.8℃とする)を 42℃まで加熱すると想定し,給湯機 じ世帯人数の結果を比較すると,夫婦 2 人世帯では若年夫 器の効率は 90%として求めた.空調(暖房・冷房)の二次 婦と老年夫婦の差は小さい.夫婦+子どもの世帯では子未 エネルギー消費量は,BEST で算出した空調負荷を補正す 就学の電力需要量が小さい.これは未就学児の子どもが自 ることで求めた.空調は住宅の断熱性能や使用される空調 発的に家電製品や照明を使うことが少ないためである. 機器の種類によってエネルギー消費が大きく変化するが, 給湯需要についても,世帯の人数が多くなるほど需要量 3.4 の空調熱負荷計算では新省エネ基準相当の住宅でエア が増えていく.同じ世帯人数の結果を比較すると,夫婦 2 コンを使用した場合のみを考慮している.そこで,まず 人世帯では老年夫婦のほうが夏の給湯需要量が大きい.こ BEST で算出した新省エネ基準住宅における空調負荷を補 れは若年夫婦が夏場シャワーのみで済ませてしまうのに対 正して平均的な断熱性能の住宅における空調負荷を求めた. し,老年夫婦は湯はりして入浴する傾向があるためと考え つづいてエアコン以外も含めた空調機器も考慮し,空調負 られる.一方,夫婦+子どもの世帯では子どもが社会人の 荷を二次エネルギー消費量に換算した. 家庭における給湯需要が突出して大きい.これは子どもが (1) 住宅断熱性能に関する補正 成人して入浴時間が長くなるためと推察される. まず国交省資料 19)から,2014 年の全国における断熱性能 4.4 推計結果の妥当性評価 別の住宅ストック比率(断熱なし 39%・旧省エネ基準相当 家庭エネルギー需要の推計結果の妥当性を評価するため に,民生部門エネルギー消費実態調査 37%・新省エネ基準相当 19%・次世代省エネ基準相当 5%) 18)(以降,エネルギ を得た.つづいて齊藤による研究 20)から,新省エネ基準相 ー消費実態調査と略称する)の戸建住宅における家族人数 当の断熱性能の住宅における空調負荷を 1 としたときの, 別の用途別二次エネルギー消費量と比較した.エネルギー 他の断熱性能の住宅における空調負荷の比率を暖房・冷房 消費実態調査は,資源エネルギー庁が三菱総合研究所に委 それぞれ個別に求めた.この研究は住宅用標準問題を想定 託して行われた調査である.エネルギー消費実態調査では した熱負荷計算によって,全国の異なる断熱性能の住宅に 2012 年度に全国の世帯を対象にアンケート調査を実施し おける空調負荷を推計したもので,本研究では東京につい ており,本研究でのアンケート調査は 2014 年に全国を対象 ての推計結果を用いた.以上の数値から住宅ストックの平 として行なっている.アンケート調査時期の差は 2 年であ 均的な断熱性能を想定して,本研究で推計した空調負荷(新 20 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 省エネ基準相当の断熱性能を想定) を暖房について 1.84 倍, 在室時には照明を利用する仮定をおいているためである. 冷房について 1.02 倍した4.一般的に暖房よりも冷房の方 また,家電が少ないのは考慮した家電製品の種類が限られ が,断熱性能の違いによる空調負荷への影響が小さい.こ ているためであり,暖房が少ないのは空調熱負荷シミュレ れは,高断熱住宅では夏に住宅外部からの熱の流入が減る ーションの気象データに用いた 2006 年が暖冬であったこ 一方で,住宅内部発熱の外への放出も防がれるため断熱に とが影響していると考えられる. よる節電効果が打ち消されるためである. 4.5 先行研究による推計結果との比較 (2) エアコン以外の空調機器も考慮した場合の,空調負荷 最後に,家族間の生活行動の関連性が家庭エネルギー需 から二次エネルギー消費量への換算 要カーブに与える影響を確認するために,本研究の推計結 果と,著者らが以前に開発したモデル (1)で得られた空調負荷から二次エネルギー消費量を求 7)による推計結果を めるための換算係数は,どのような空調機器を使用するか 比較した.以前に開発したモデル によって異なる.今回のアンケート調査では部屋ごとに使 査 用した空調機器の種類を質問しているので,回答結果から しており,家族間の生活行動の関連性は考慮していない. 使用される空調機器の種類の割合を得た.つづいてそれぞ ただし 2 つの研究で空調負荷計算の手法が異なり,電力需 れの空調機器の効率を設定して,空調負荷から二次エネル 要をそのまま比較することは難しいため,ここでは給湯需 ギー消費量への換算係数を求めた5.部屋別に求めた冷房/ 要の推計結果の比較に限定した.子小中学 2(夫婦+小中 暖房の二次エネルギー消費量への換算係数は,居間・食堂 学生 2 人)の冬の平日における給湯需要の平均・変動係数 は暖房が 1.70,冷房が 5.83,寝室・子供部屋は暖房が 3.33, を図 14 に示す.サンプル数はいずれも n=10 である.平均 冷房が 9.20 となった.(1)の補正空調負荷をこの変換係数で で見ると,給湯需要の発生するタイミングと量は似通って 割った値が,空調の二次エネルギー消費量となる. いる.しかし変動係数を見ると,本研究による推計結果の 7)では,国民生活時間調 9)に従って居住者ひとりひとりの生活行動を別々に再現 空調に関して上記の手順を踏んだうえで,家庭における 方が大きい.これは,家族間の生活行動の関連性を考慮し 年間での用途別の二次エネルギー消費量を算出した.季節 たときの方が,給湯需要カーブを世帯間で比較するとばら の日数は,空調負荷計算時の設定と同様に冬を 160 日(11/8 つきが大きいことを示唆している.この結果は次のような ~4/16) ・夏を 135 日(5/23~10/4)とし,中間期について 理由によって説明できると考えられる.家族間の生活行動 は冬の調査に基づく推計が 22 日(4/17~4/27・10/28~11/7) の関連性を考慮した場合,「家族が次々に入浴する」「一緒 夏の調査に基づく推計が 48 日(4/28~5/22・10/5~10/27) に食事する」ことによって,居住者が入浴や炊事をする時 とした6.家族人数別の用途別二次エネルギー消費量の比較 間帯は集中する.そのため個々の世帯では給湯需要の発生 を図 13 に示す.それぞれの世帯人数において,推計値(本 するタイミングは,特定の時間帯に集中する.入浴・炊事 研究)と統計値(民生部門エネルギー消費実態調査)はお の時間帯は世帯ごとに固有なので,給湯需要カーブを世帯 おむね一致する.ただし用途別で見ると,推計値の方は照 間で比較するとばらつきが大きくなると思われる.このよ 明による消費が多く,家電・暖房による消費が少ない.照 うに本研究では,家庭エネルギー需要のタイミングのばら 明が多いのは,日中における窓からの採光考慮しておらず, つきを現実に即して再現することができている.本研究に よる需要推計は,例えばコジェネレーションシステムなど, 性能が需要のタイミングに影響される機器のシミュレーシ 4 例えば新省エネ基準での暖房負荷を 1 とすると,他の断熱性能で の暖房負荷比率は断熱なし 2.73・旧省エネ 1.46・次世代 0.96 であ るので,2.73×39%+1.46×37%+1.00×19%+0.96×5%=1.84 となる. 5 例えば,居間・食堂で使用される暖房機器の種類はエアコン(COP 3.48)が 32%,それ以外(石油ストーブを想定して効率 0.85 とし た)が 68%である.ここから居間・食堂における暖房の換算係数 は 3.48×32%+0.85×68%=1.70 と求めることができる. またアンケート調査の回答結果によると,居間・食堂で使用され る冷房機器の種類はエアコン(COP2.91)が 50%,扇風機が 50% である.冷房による二次エネルギー消費量𝑆𝐸𝑐𝑜𝑜𝑙 [MJ/年]にはエアコ ンを使用した場合の消費電力量のみ計上し,冷房負荷を𝐿𝑐𝑜𝑜𝑙 [MJ/ 年]とすると𝑆𝐸𝑐𝑜𝑜𝑙 = 50% × 𝐿𝑐𝑜𝑜𝑙 ⁄2.91となる.よって居間・食堂に おける冷房の換算係数は𝐿𝑐𝑜𝑜𝑙 ⁄𝑆𝐸𝑐𝑜𝑜𝑙 = 2.91 ÷ 50% = 5.83となる. 扇風機の消費電力量は,家電による二次エネルギー消費量に計上 した.扇風機の消費エネルギー単位は 25W とし,使用時間は空調 運転スケジュールから求めた. 外気温による COP 変化は年間で通算すると相殺されるため,エア コンの効率は表 6 に示した標準エアコンの定格 COP を採用した. 6 冬の調査に基づく推計日数を 182 日(160+22 日),夏の調査に 基づく推計日数を 183 日(135+48 日)とすることにより,冬と夏 の家電・給湯使用の違いを平均化している. ョンへの適用時に有効と考えられる. 図 13 21 家族人数別の用途別二次エネルギー消費量 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 今後は東京以外のエネルギー需要についても推計を行な っていくとともに,モデルで生成されたエネルギー需要を 応用したシミュレーションへの活用が考えられる. 参考文献 1) C. F. Walker and J. L. Pokoski; Residential Load Shape Modelling Based on Customer Behavior, IEEE Transactions on Power Apparatus and Systems, PAS-104-7 (1985), 1703-1711. 2) A. Capasso, W. Grattieri, R. Lamedica and A. Prudenzi; A bottom-up approach to residential load modeling, IEEE Transactions on Power Systems, 9-2 (1994), 957-964. 図 14 3) 冬の平日における給湯需要の平均・変動係数 Ian Richardson, Murray Thomson, David Infield and Conor Clifford; Domestic electricity use: A high-resolution energy (サンプル数:n=10) demand model, Energy and Buildings, 42-10 (2010), 5.おわりに 1878-1887. 家庭における生活行動と家電製品・給湯の使用状況に関 4) するアンケート調査を独自に実施して,そこから得られた Joakim Widén and Ewa Wäckelgård; A high-resolution stochastic model of domestic activity patterns and 情報を用いた家庭の電力・給湯需要の推計手法を開発した. electricity 冬と夏に実施したアンケート調査の情報をもとに,異なる demand, Applied Energy, 87-6 (2010), 1880-1892. 季節・家族構成・生活スタイルの電力・給湯需要 420 セッ 5) トを生成した.推計されたエネルギー需要のカーブや 1 日 Yoshiyuki Shimoda, Takahiro Asahi, Ayako Taniguchi and Minoru Mizuno; Evaluation of city-scale impact of の需要量を家族構成別に比較して,家族構成が家庭エネル residential energy conservation measures using the detailed ギー需要に影響することを確認した.さらに推計結果と統 end-use simulation model, Energy, 32-9 (2007), 1617-1633. 計値を比較して結果の妥当性を評価した.最後に先行研究 6) と比較して,家族間の生活行動の関連性が家庭エネルギー Jun Tanimoto , Aya Hagishima and Hiroki Sagara; Validation of methodology for utility demand prediction 需要カーブに与える影響を確認した. considering actual variations in inhabitant behaviour 本研究は,既往研究では十分に考慮されてこなかった「家 schedules, Journal of Building Performance Simulation, 1-1 族間の生活行動の関連性」 「個々の家電製品・給湯の使用実 (2008), 31-42. 態」をアンケート調査によって明確にし,それに基づいて 7) 家庭エネルギー需要を推計した.その結果,給湯需要カー 再現による家庭エネルギー需要の推定,環境情報科学 ブを世帯間で比較するとばらつきが大きいことを示唆され, 家庭エネルギー需要のタイミングのばらつきをアンケート 学術研究論文集,27 (2013),97-102. 8) 調査に基づいて現実に即して再現することができた. 小澤暁人,吉田好邦;マルコフ連鎖を用いた生活行動 旭化成ホームズ 住生活総合研究所;家族の生活時間 そのバランスとリズム,(2009),5. 本研究では「同居する家族間の生活行動の関連性を考慮 9) すること」に主眼をおいて,専業主婦のいる 2~4 人家族の NHK 放送文化研究所;データブック国民生活時間調査 2010,(2011),640,NHK 出版. 家庭におけるエネルギー需要推計を対象とした.日本で増 10) 総 務 省 統 計 局 ; 平 成 22 年 度 国 勢 調 査 , 加傾向にある単身世帯や共働き世帯におけるエネルギー需 http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/ , ア ク セ ス 日 : 要推計は,今後検討すべき課題である. 2015 年 3 月 26 日. また,アンケート調査は全国を対象として実施したが, 11) 山口容平,佐藤大樹,田中マルコス,下田吉之;家庭 空調電力推計のための住宅熱負荷シミュレーションにおい における世帯構成員生活時間行動モデルの開発,エネ て東京の気象条件を想定した場合しか検討できなかった. ルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文 BEST は今後のアップデートによって 2006 年の東京以外に 集,28 (2012),361-364. ついても 1 分刻みでのシミュレーションが可能になる予定 12) 空気調和・衛生工学会 住宅設備委員会住宅のエネルギ であり,異なる地域や年を想定した需要も同様の手法によ ーシミュレーション小委員会;住宅における生活スケ って推計が可能となる. ジュールとエネルギー消費,空気調和・衛生工学会シ 22 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol.36, No.5 ンポジウム,(2000). 17) 野池政宏;省エネ・エコ住宅設計究極マニュアル 増補 13) 建築環境・省エネルギー機構;住宅事業建築主の判断 改訂版,(2014),30,エクスナレッジ. の基準におけるエネルギー消費量計算方法の解説, 18) 三菱総合研究所;平成24年度エネルギー消費状況調 査(民生部門エネルギー消費実態調査),(2013),53. (2009). 14) 建築環境・省エネルギー機構;The BEST Program, 19) 宮森剛;住宅・建築物の省エネルギー施策について, http://www.ibec.or.jp/best/index.html,アクセス日:2015 くらしからの省エネを進める政策デザイン研究国際ワ 年 3 月 26 日. ークショップ発表資料,(2014). 20) 齊藤周;消費者選好を考慮した民生家庭部門における 15) JIS C 9612,(2013). 16) 宇田川光弘;標準問題の提案 住宅用標準問題,日本建 エネルギー需要予測と省エネ政策の評価,東京大学修 築学会環境工学委員会熱分科会 第 15 回熱シンポジウ 士論文,(2006). ム,(1985),23-33. 23
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