最近の矯正歯科治療の発展と問題点から小児矯正・咬合誘導治療の今後を展望する 山城 隆 大阪大学大学院歯学研究科顎顔面口腔矯正学教室 教授 科学や医療技術は日進月歩で発展しており、矯正歯科や小児歯科臨床を取り巻く環境は 刻一刻と変化しています。矯正歯科と小児歯科は、共に小児の適切な口腔機能の育成を目 指しており、その密接かつ効率的な連携の重要性は疑いがありません。このような連携が 非常にうまく機能している例がある一方、小児の咬合誘導が、患者のトラブルを誘発する 例が少なからずあります。実際、医療訴訟は増加傾向にあるのが現状です。 最近では、これまでなされてきた診療行為を科学的な視点で再評価し、科学的根拠(エ ビデンス)に基づいた治療方法を選択するための行動指針の確立が注目されています。UK では、25 年前にコクラン共同計画が旗揚げされ、ランダム化比較試験(RCT)等を中心と した臨床研究が整備されました。このような試みの成果が、昨今爆発的な勢いで報告され ています。 最近の興味ある事例の一つが、セルフライゲーションブラケットの効能についての議論 です。商業媒体は、セルフライゲーションブラケットは、歯の移動時の抵抗が少ないため 歯の移動が速くなることを謳っていました。しかし、最近のエビデンスとしての信頼性が 担保される学術誌において、商業媒体が謳っている効能を完全する報告が次々と報告され ています。興味深いことに、このような情報は日本においてはほとんど取り上げられてお らず、周知されていません。 小児矯正や咬合誘導は、保険収載がなされておらず、様々な治療形態が存在します。こ のような治療を行う際には、適切なインフォームドコンセントを得ることが非常に重要で す。歯科医師は、常に自分が行う治療の根拠と合理性を十分に理解し、それを患者に適切 に説明しなければなりません。そして、その根拠と合理性は第三者が見ても公平かつ妥当 でなければなりません。 本講演では、これまで一般的に行われてきた小児矯正・咬合誘導治療に関わるエビデン スについて紹介します。そしてそれらに関連して実際に生じている問題とその対処方法に ついて検討し、今後の小児矯正・咬合誘導治療が矯正歯科治療とともに発展するための方 向について考えます。
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