ITS 産業の発展に向けて <概要> 平成17年7月 経済産業省自動車課 ITS 推進室 (財)日本自動車研究所 ITS センター ○ITS 関連産業の振興を通じ、望ましい社会の実現に資する方策を幅広く検討するため、 製造産業局次長の私的勉強会として、産・学の委員からなる ITS 産業振興研究会(委員 長:池内克史東京大学教授)を設置。 ○ITS 産業振興の観点から、現状の課題および今後5年間程度の間に実施が期待される方 策等を提言としてとりまとめ。 ○報告書のポイントは以下のとおり。 ・ 新しいステージに入った ITS の現状と課題を整理。 ・ ITS 産業振興の観点から、今後の5年間程度に取り組まれるべき方策を提言。 ・ 具体的には、 ◎ 今後期待される産学官上げて取り組むべき研究開発の方向性を提示 ◎ 標準化・規格化の重点化(システム間連携のための情報通信に関する規格等) ◎ ICタグ活用実証など、ITS導入による物流分野の効率化等を加速 ◎ 地方商業地域活性化などの地域振興の必要性を指摘 ◎ アジア、BRICS等への海外展開支援の必要性を指摘 1.ITS 産業の現状と期待 1.1 ITS 産業の現状 (1)裾野が広い ITS 産業 ○ITS 産業は、自動車産業を中心として、車載・車両関連製品、サービスまで広がる裾野 の広い産業分野。関連産業が各々の事業分野を広げつつ、これらが連携・融合した新た な事業機会を創出していくものと期待。 ○ユビキタス社会において、自動車の機能も含めて家電や家庭のカメラが外部とネットワ ーク化されるようになれば、さらに新たな事業機会が創生。 ○海外市場展開の観点からは、自動車そのものの付加価値を上げつつ競争力を維持してい く有力な武器として ITS 機器が重要な役割を果たす可能性。 (2)着実に進展している ITS ○第 11 回 ITS 世界会議においては、市民参加のコンセプトを打ち出し、ITS への理解促進 に貢献するとともに、愛・地球博においても我が国の先進的な ITS の認知度向上に貢献 する取り組みを展開。 ○ITS 産業の着実な進展は、 ①ドライバーなどへの情報提供サービス、 ②ETC および DSRC 応用サービス、③運転支援サービス、④運行管理・物流サービスとしてみることができ る。これらの着実な進展を礎として、産学官協力の下、ITS 産業の一層の成長に期待。 1.2 ITS 産業振興に向けた期待と課題 (1)安全分野における我が国の総合的な取り組み 1 ○2013 年までに交通事故死者数を5千人以下とする政府目標を達成するため、路車協調シ ステムや車車協調システムにより車両単独では対応できない事象に対応し、ドライバー の認知を支援し、判断ミスやルール違反を防止する取り組み、いわゆる予防安全機能の 広範な実現が期待される。 (2)環境問題への対応および利便性向上に向けた取り組み ○ITS の活用により、CO2 排出量の2割を占める運輸分野における排出量の削減に期待。 交通需要の適正化、交通情報提供の高度化及びこれらに資するプラットフォーム構築に 向けた取り組みが必要。 ○ITS サービスの普及は、シームレスな通信ネットワーク技術の確立や、大容量の情報流 通を可能とするモバイルブロードバンド環境の整備によって、さらなる発展に期待。そ の際、位置特定機能と通信機能を作動させるカーナビの有効活用に期待。 (3)分野横断的な事項 ○各分野で得られた情報やデータを有効活用するための連携・標準化が必要。また企業間 の調整・アライアンスが必要。 ○実用化が見えている技術やサービスについては、ユーザーの受容性やビジネスモデル成 立性の確認を行う実証実験が必要。 ○地域振興や海外展開を想定した取り組みが必要。地域振興に関しては、地域のベンチャ ー企業等の育成を含め、ビジネス市場拡大へ向けた取り組みが必要。 ○我が国の優れた ITS 技術を国内にとどまらず海外にも普及させ、グローバル展開を通じ て我が国の ITS 産業振興につなげるため、国際標準化が重要。 2.ITS 産業振興に向けた方策提言 2.1 目指すべき方向性 (1)安全問題の解決へ向けて ○路側施設あるいは他の車両と通信することなどによって、自動車単体では実現できない レベルの安全対策を強化していくことが必要。 ○高齢者の自由なモビリティと安全性を考慮したユニバーサルデザインという視点での安 全対策の検討が必要。 (2)環境問題の解決へ向けて ○交通流の改善など交通の円滑化に向けて、今後は CO2 排出量削減、すなわち省エネルギ ーを明確に打ち出した展開が必要。 (3)利便性の向上に向けて ○正確な渋滞情報や事故、工事等のインシデント情報あるいはその影響としての遅れ時間 等、交通情報収集機能の一層の充実が望まれる。また、自動車交通にふさわしいユビキ タス環境を積極的に検討していくことが必要。 2 2.2 方策提言 ○新たな技術から始まる産業振興を考えるにあたっては、研究開発から実用化、普及に至 る各段階における方策が考えられる。 ○政府として取り組むべき課題については、関係省庁との役割分担の下連携し、着実に進 めることが望まれる。 (1)先導的な研究開発 ○ITS サービスにおける最も共通的な基本機能としての位置特定機能と通信機能を今まで にないレベルで高度化させていくことが必要。 ○複合的なサービスを発展させていく上では、ユーザーの視点で見た時に解決すべき課題 への対応が重要。 ○今後ますます進む自動車の知能化・情報化を、高齢者を含むドライバーが円滑に受け入 れられるよう、人と車との関係において検討し解決しておくべき課題も多い。 ○具体的には、今後期待される産学官挙げて取り組むべき研究開発分野の方向は以下のと おり。 ①位置特定の高精度化に関する研究開発 ②安全走行のための通信技術に関する研究開発 ③プローブ情報システムの高度化に関する研究開発 ④運転行動に関するヒューマンファクターの研究開発 (2)国際標準の獲得を目的とする標準化・規格化 ○システム間連携のための情報通信に関する規格、および関連システムが共有すべき情報 の収集・活用を促進するための規格の策定を重点的に推進することが必要。 ○安全やプライバシーなどの観点から新サービスの社会導入条件を十分検討・整備してお くことが重要。 ○国際規格化活動の推進にあたっては、常に外国の技術開発・標準化動向を把握し、早い 段階で情報を入手して検討を開始できる体制をとっておくことが必要。 (3)新規産業創造のための実証実験 ○実用化が見えてきた技術やサービスについて、 実用化段階から普及段階の後押しとして、 ユーザーの受容性やビジネスモデルの検証という視点での実施に期待。 ○DSRC や IC タグを利用したサービスは技術的な面では、ほぼ完成しており、実証実験 を通じて、ITS の効果・魅力を提示しつつ、実用化・普及の契機とすることが望まれる。 ○また、国による先導研究等に取り組んできたインターネット ITS については、実証実験 の実施等につき、引き続き検討する。 (4)地域振興・普及促進の支援 ○在来の商業地域の利便性や魅力度の向上を図るというような振興策に期待。 ○ベンチャー企業が積極的に参加できるような仕組みづくり、地域における ITS 事業につ いてのマネージメントを行う人材や地域のコーディネーターの育成も望まれる。 ○安全や環境に関する社会的課題を軽減するためのサービスの普及に関しては、他事例も 3 参考にしつつ、引き続きその普及策を検討していくことが望まれる。 (5)海外展開の支援 ○相手国ニーズにあった ITS 技術を提供する際、国際標準化が進められている、日米欧が 持つ ITS 導入のための標準的な手順が参考となる。 ○アジア・BRICS 諸国などへの ITS の海外展開には、必要に応じ政府による支援が望まれ る。 ○我が国 ITS 産業の海外展開に資する情報の収集・提供を継続的に行うとともに、海外へ 向けた我が国 ITS 産業技術の紹介、アジア・BRICS 諸国への技術協力支援事業等が望ま れる。 3.ITS 産業振興方策を進めるにあたっての重要事項 ○ITS 産業振興に向けた方策を実施するにあたり、引き続き、4省庁および産学官の密接 な連携のもと進めるとともに、以下の事項にも取り組むことが期待される。 3.1 交流の推進と人材育成 ○引き続き、ITS 世界会議、アジア太平洋地域 ITS フォーラム等を通じた交流支援が望ま れる。さらに、ITS シンポジウム等を通じ、最先端の情報共有の観点から、既存の各学 会の ITS 部会のネットワーク構築などが望まれる。 ○ITS に係わる人材には、それぞれの専門分野とともに ITS という複合的な領域に関する 専門知識も必要とされるため、大学での ITS 講座の拡充支援による ITS の専門家、技術 者等の育成を図ることが望まれる。 3.2 非技術的課題への対応 ○実現性が高まったサービスから先行的に、非技術的な課題に対する考え方が明らかにさ れていくことが望まれる。 ○そのためには、幅広に議論できる場を設定することが望まれる。 3.3 総合的な ITS サービスの評価 ○ITS サービスの普及に向けては、ITS の目指す姿や現状について、分かり易い指標を用 いて国民へ説明していくことが望まれる。 ○生活に役立つサービスを評価し、研究開発および継続的な社会的受容性確認、並びに実 空間による評価の場の設定については、引き続き関係者と検討することが望まれる。 おわりに ○一層 ITS の寄与が期待される安全運転支援分野において、今後は、車両単独の枠を超え た協調システムの実用化に期待。 ○関係各方面においては、現状の取り組みに加え、ITS に関わる産業振興という観点から の各種方策についても、その実現に向けた取り組みに期待。 ○適切な役割分担の下、4省庁の連携とともに、産学官一体的な取り組みが必要。 4
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