雑誌 『家事と衛生』 と大正 ・ 昭和前期の大阪

家政学原論・家庭経営・家庭経済・家族関係
第48回大会〕
6月2日(日)第T会場 午後1 :30∼3 :36
2TP-1 明治初期の家政書にみる欧米家政理念の受容過程と現代的意義
−『経済小学 家政要旨』を中心にしてー
○谷口彩子゛、亀高京子**(*尚綱短大、**東京家政学院大)
(目的) 明治初期の翻訳家政書の1つである『経済小学 家政要旨』は、わが国の家政
教育、家政学研究に多大の影響を及ぼした。すでに筆者らは、同書の原典を解明し、原書
と訳書との比較考察を行った。今回の研究では、翻訳者永峯秀樹が日米の生活文化の違い
を考慮し、取捨選択しながら訳出した家政理念や内容が、当時の社会背景や生活文化のな
かで、わが国の家政書にどのように受容されたのかを検討し、わが国の家政学成立史上に
おいて『家政要旨』が果たした役割とその現代的意義を考察することを目的とする。
(方法) 資料として、ハスケル原著、永峯秀樹抄訳『経済小学 家政要旨』明治9年
刊)、他に小林義則編輯『男女普通 家政小学』(明治13年刊)、青木輔清編述『家事経
済訓』(明治14年刊)など明治10年代に刊行された家政書をあわせて用いた。
(結果)『家政要旨』に訳出された「家族の健康と爽快と幸福」を目標とする家政理念、
科学的・合理的な家庭管理のあり方は、当時の家政書に影響を及ぼし、受容されていった。
それはこの家政理念を受容可能とする本質的・文化り下地がすでにあったためと考えられ
る。一方『家政要旨』の中の食品成分表は、食品の科学的分析手法が未発達であったこの
時期の家政書に受容されていない。日本的家政書は、翻訳家政書の家政理念と伝統的なわ
が国の生活文化とを折衷する役割を果たした。この日本的家政書にみられる生活規範のな
かには、資源保全を目的とした生産と消費の仕方、天災に備えた自衛手段、後世への配慮
と責任など、今日の高齢者問題・環境問題に関して学ぶべき点がみられる。
2Tp− 2
雑誌『家事と衛生』と大正・昭和前期の大阪
目的:大正・昭和前期の時イ七背景の中で、雑誌「家事と衛生」の住mに関する諭文を検討
し、社会の動きと家庭生活I-関する研究の関連を考察する。
方法:雑誌「家事と衛生」の掲載論文ノ
聞jなどに掲載された論文・記事などの分析をおこなう。
成果:雑e.
r家事と衛生jは、大阪市立衛生試験所の中に設立された家事衛生研究会を母
体に, 1925年(大正14)
7月に創刊された。当時大阪は、日本最大の工業都市であり、第
一次世界大戦後の工業発展に伴い、急速に都市問題を顕在化させていた。特に乳児死亡率
は全国一の高さを示しており、密集過住の非衛生的な生活がその原因と考えられていた。
市民の過密生気の改善即ち環境の改良,住宅問題が,
当時の大阪の緊急課題だったのであ
る。大阪市立衛生試験所は、衛生上からこの問題を解決すべく調査をおこない、都市改善
計画に寄与した。雑誌r家事と衛生」では、これらの社会情勢に応える形で、創刊当初4
年間にわたって住宅衛生の項を設け、論文を掲載していった。一方、雑誌「大大阪」は、
大阪市政の諸問題についての調査・研究をおとなう大阪都市協会の機関誌であった。この
なかでも住宅問題,
m.境問題は大きなテーマであり、大阪市立衛生試験所の調査報告を掲
載していったのである。このように、雑誌「家事と衛生」で研究対象となった住宅衛生は、
大正・昭和前期の社会の勣きと関連していたのである。この視点に改めて注目しておく必
要があると思われる。
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