合併を契機に、JAの真価発揮へ(PDF)

JAトップインタビュー
合併を契機に、
JAの真価発揮へ
小川英雄
三重県JAみえきた 代表理事組合長
農業を含め、それぞれ特徴のある地域の 4JAが合併
して2年。6次産業化やJA出資型法人設立など、規模
のメリットを生かした新たな事業に挑戦しています。
◆「かぶせ茶」は全国一
域と多様です。
――地域の農業には、どのような特徴があり
従って農業も、それぞれの地域に合った、
ますか。
さまざまな農産物が生産されています。特に
三重県の四日市コンビナートを含むこの地
トマトは県内生産量の 8 割を占める特産です。
域は工業地帯のイメージがあるかもしれませ
また米も約20万俵を集荷する県内有数の米ど
んが、鈴鹿山脈の山間部から伊勢湾の沿岸部
ころです。お茶の栽培も800ha。
「かぶせ茶」
にわたっており、工業・商業・農業・山間地
は全国一の生産量を誇り、
「伊勢本かぶせ茶」
として県のブランド認定を受けています。ナ
バナ、タケノコ、ハクサイなども県内有数の
産地になっています。
またこの地域は、中京圏の大消費地に隣接
しているとともに、東日本と西日本の商圏が
ぶつかり合うところで、人口の割に商業施設
の割合が高いという特徴があります。それだ
けにJAも厳しい競争にさらされているので
すが、その中でJAは13か所の直売所を持ち、
年間17億円の取り扱い実績を挙げています。
安全で安心できる地域の農畜産物を消費者
に提供することは、JAの重要な役割です。
それは地域への貢献にもなります。今後も直
売所を充実させていきたいと思っています。
JAみえきた本店(写真は全てJAみえきた提供)
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月刊 JA
2015/07
おがわ・ひでお
昭和38年神前農協入組、同41年
四日市市農協勤務。平成 3 年三重
四日市農協参事、同10年常務理
事、21年代表理事組合長。23年
JA三重中央会副会長に就任。
25年 4月1日JA三重北代表理事
組合長に就任。
◆合併前の特性を生かす
立した活動を行っています。その上で、定期
――合併してまだ日の浅いJAですが、どの
的な本部会議や年 1回の統一大会を開き、意
ような方針で運営していきますか。
思の共有を図っています。
合併して2 年経過し、人の一生に例えると、
合併までと同じようにそれぞれの支部で前
よちよち歩きというところでしょうか。いま
向きの活発な活動が展開されており、頭の下
大事なことは、合併の成果を挙げるとともに、
がる思いです。生産部会など、ほかの組合員
これまでそれぞれのJAが培ってきた伝統、
組織も同じやり方で進めています。
やり方を尊重した運営を行うことだと考えて
います。事業の管理や目標などは統一しなけ
◆ 6 次化と販路拡大へ
ればなりませんが、組織活動などは急いで画
――県内トップクラスの農産物が多くありま
一化するよりも、よいところは残し、修正す
す。営農指導で力を入れていることは何で
るところは修正する。多少は回り道になるか
しょうか。
もしれませんが、地域を基盤とするJAのあ
営農指導では 9 か所の営農センターと、女
るべき姿だと思います。
性1人を含む5 人の経済渉外(TAC)が頑張っ
例えば女性部の活動です。合併で組織が一
ています。
本化し、3,000人規模の大所帯になりましたが、
また、昨年 8 月には多度営農センターでJ
支部は合併前と同じように支部長を選び、独
A出資型法人の「(株) JAみえきたアグリ」
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月刊 JA
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JAトップインタビュー
今年4月発売の「は~と麦茶」
。右はJAイメージキャラ
クターの「みえきたん」
ほ じょう
管内は、県下でも一番のトマトの生産地。木曽岬トマト
選果場
を立ち上げました。30ha の圃場で、水稲の農
です。
作業受委託、新規就農者育成などに取り組ん
6 次産業化では昨年、地元産「かぶせ茶」
でいますが、農業者の高齢化が進む中で、耕
のペットボトルを発売し、好評を得ています。
作放棄地を解消し、農業を継続させるために
また今年の 4 月に発売した、ハトムギ茶「は
も、なんとか成功させ、他の地区にも広げた
~と麦茶」も順調です。こうした商品開発と、
いと思っています。
JAみえきたブランドを確立するために、昨
農業を持続させるためには農地の相続税対
年、マーケティングのコンサルタントを入れ、
策も欠かせません。JAでは次世代サポート
さまざまな部署の職員からなるプロジェクト
として、
「わかば会」という組織をつくり、相
を立ち上げました。本年度中には、なんとか
続税セミナーを定期的に開催。昨年 4 月から
商品の発表ができそうです。
は遺言信託代理業務の取り扱いを始めました。
また、今年の2月には「東海四県JAグルー
こうした営農・農地対策と同時にJAにとっ
プ食の大商談会」に、当JAとして初めて出
て大切なことは農家所得確保のための安定し
展しました。他のJAの積極的な取り組みを
た販路の確保、市場の開拓にあると思います。
見て大いに刺激されました。これからも機会
全農等を通じた共販以外には、地元の消費者
を見て、JAみえきた産の農産物や加工品を
を対象とした直接販売、あるいは直売所での
PRしていく方針です。農業の現場と消費者を
販売である程度成果を挙げていますが、これ
結ぶパイプ、それもなるべく太くて短いパイ
からはさらに全国の市場に、JAみえきた産の
プになることが、これからのJAのあるべき姿
農産物を発信し、PRしていく必要があると考
だと思います。
えています。
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この点で、消費地に近く比較的販売しやす
◆安全・安心な食品普及を
いということもあり、JAとしての取り組み
――准組合員を含めた地域への働きかけはど
が遅れていたように感じています。管内には、
のようにしていますか。
まだまだ伸びる可能性のある農産物がたくさ
行政とタイアップした「くわな農業まつり」
んあります。今後は加工などによる 6 次産業
や、各地域で定期的なJAまつりなど、さま
化やネットショップ、商談会への出展など、
ざまなイベントに積極的に参加しています。
販路の拡大に積極的に取り組んでいくつもり
13店舗の直売所には、スーパーなどとの競争
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農産物直売所「いなべっこ」店内。ほか「四季菜」 9 店
舗、米ひろば 2 店舗、農産物直売所 1 店舗がある
の激しい中、年間で延べ120万人の来店客が
難にさらされるでしょう。そのとき、組織全
あります。
体を見渡す広い視野とオーナーシップによる
また毎年、食農教育のひとつとして、
「親子
責任感があると、厳しい局面を切り開いてく
ふれあい収穫体験」を行っています。さらに、
れると思います。
JAの「ふれあい課」では、女性部活動や新
合併の結果、パートを含めて、JAで働く
予約共同購入運動の普及、さらに安全・安心
人は1,000人余りとなり、研修などで、職員
な食生活に関する学習会、小学校などに出向
の一体感を育てるよう努めています。また職
いての豆腐やみそ造りの出前授業などを行っ
員が増えることで人材が豊かになります。適
ています。この回数を増やすなど、これから
材適所が可能になり、職員の仕事への意欲と
も積極的に提案していきます。
自信へつながります。
新予約共同購入運動は、安全で安心できる
若い職員が「JAで働いてよかった。将来
食品の共同購入を通じて、学び、助け合う協
さらによくするぞ」と思うようなJAにしたい
同活動です。当JA管内では約1,400人の会
と思っています。
員がいますが、無添加・低添加で県産、国産
JAトップインタビュー
昨年 6 月17日には、「みえきたん」が、鈴木英敬・三重
県知事を表敬訪問し、管内の農産物を PR
(撮影・JAみえきた企画部広報課)
にこだわった食品の普及に努めています。
◆広い視野を持つ職員に
――将来を担う若い人たちに、どのような職
◎JAみえきたの概況
平成25年三重県北部のJAくわな、
JAながしま、
JAいなべ、
員に育ってほしいとお考えですか。
JA三重四日市の4JAが合併して現在のJAが誕生。
目前の仕事を精いっぱいやることはもちろ
三重県
んですが、それだけでなく組織全体を見るこ
とのできる広い視野を持ってほしいと思って
います。そして「自分のため」ではなく「組
織のため」という意識、いわゆる「オーナー
シップ」を持って仕事のできる役職員であっ
ていただきたい。
JAみえきた
▽組合員数
5万1,981人
(うち正組合員2万3,114人)
▽貯金残高
6,229億4,856万円
▽長期共済保有高
1兆5,419億3,108万円
▽購買品取扱高
68億4,661万円
▽販売品取扱高
54億9,168万円
▽職員数
1,024人(うち正職員723人)
(平成26年度末現在)
JA組織はこれから、さまざまな逆風や困
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