アジアの衛星通信・衛星放送事業者が盛 り上げた「サテライト

アジアの衛星通信・衛星放送事業者が盛
り上げた「サテライト・インダストリー・
フォーラム 2015」
神谷 直亮 7 月号、8 月号、9 月号のイベント・フ
会社のニューサット社が、4 月 17 日に破
のテレビ視聴方法の変化」
「中継器の需要と
ォーカスでレポートした「ブロードキャス
産という最悪の事態に追い込まれた。衛星
供給のインバランス」
「衛星で使用してきた
トアジア 2015(BA2015)
」
「コミュニ
は、アメリカのロッキード・マーチン社で
周波数削減の危機」の 3 点と総括した。一
ッ ク ア ジ ア 2015(CA2015)
」に付随
50% 以上の製作が進んでおり、打ち上げ
方、今後の有望な市場として、旅客機向け
して、アジアケーブル&サテライト放送
ロケットはフランスのアリアン 5 を契約済
のブロードバンド接続(IFC)とウルトラ
協会(CASBAA)が主催する「サテライ
みであった。さらに輪をかけたように問題
HD(4K)の配信・放送ビジネスをあげた。
ト・インダストリー・フォーラム 2015
になったのは、アメリカの輸出入銀行とフ
IFC については、
「まだ総需要の 5% 位しか
(SIF2015)
」 が、6 月 1 日 に シ ン ガ ポ
ランスの COFACE(プロジェクトファイナ
賄えていないので、中期的な観点から大き
ール市内のグランド・ハイアット・ホテ
ンス会社)がニューサット社を資金面で支
なビジネスが期待できる」と述べた。また、
ルで開催された。6 月 1 日は、ちょうど
援しており、貸し倒れとなる可能性が大と
4K に関しては、
「今後 400 ∼ 600 チャ
なった。
ンネルが出現する見通しであり、これに応
前日で、日本、中国、韓国をはじめ世界各
2 つ目の理由は、フォーラム直前の 5 月
じて中継器の需要も増える」と予測した。
国から 200 名を超える衛星通信・衛星放
16 日に、ロシアのプロトン・ロケットが
開幕を飾る立場を意識してか、スペングラ
送業界の関係者が集った。
メキシコの Mexsat-1 衛星の打ち上げに失
ー CEO は、既述の暗雲には一言も触れな
敗してしまった。これで頼りになるのはフ
かった。
「BA2015」
「CA2015」がオープンする
第 20 回という節目を迎えたこともあり、
ランスのアリアンスペースとアメリカのス
CASBAA は、今回の会場設定に新機軸を
ペース X の 2 社ということになり、どちら
大きく取り上げられたのは、この後に続
打ち出していた。ダークスーツ姿の参加者
かに問題が発生すると、業界が行き詰まる
いた「アジアパシフィック地域のリーダー
がたむろするロビーに、LG 電子製の 4K
事態になった。
シップ・ラウンドテーブル」の場において
であった。このセッションには、アジア放
テレビをたくさん並べて、ルクセンブルグ
の SES 社が持ち込んだ最新の 4K コンテ
このように例年にない気が重い雰囲気で
送衛星、APT サテライト、アジアサット、
ンツを大々的に上映したのである。これを
の幕開けとなった「SIF2015」会議のプロ
スカパー JSAT の 4 社の代表が登壇した。
視聴した参加者からは、
「業界の新時代を予
グラムは、基調講演が 2 回、対談が 1 回、
アジア放送衛星のトム・チョイ CEO は、
感させる」との声が上がった。しかし、良
セッションが 10 回という構成であった。
「ライトスクエアド(LightSquared)とテ
く考えてみると、会場に敢えてこのような
開幕を飾る基調講演に登壇したのは、イ
ラスタ−(TerreStar)の失敗からやっと
明るい雰囲気を漂わす趣向を凝らしたのに
ンテルサット社のスティーブ・スペングラ
立ち直ったと思ったら、ニューサット社が
は、2 つの理由があったように思う。1 つ
ー CEO である。同 CEO は、衛星通信・衛
倒産して業界に取って大きな痛手となった。
は、オーストラリアで旗揚げした衛星通信
星放送業界が直面している現状を「視聴者
これで新興の事業者を積極的に支援してき
た米輸出入銀行とフランスの COFACE が
貸し出しに慎重になる。両機関のファイナ
ンスを視野に入れている ABS も被害者だ」
とかなりきつい口調で語った。一方、ビジ
ネス戦略面では、
「光ファイバーとの競争に
勝つためには、ビット当たりのコストをさ
らに安くする必要がある。衛星のコストダ
ウンを図る全電気推進システムの採用、大
容量ハイスループット技術の普及などを積
極的に推し進める必要がある」と強調した
写真 1 フォーラム会場には、LG 電子の 4K テレビ
がたくさん設置され、SES が提供したコンテンツ
が上映された。
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FDI・2015・10
写真 2 開幕基調講演には、インテルサット社のス
ティーブ・スペングラー CEO が招待された。
アジアサット社のビル・ウェード CEO は、
「スペース X のファルコン 9 ロケットの登
場で、衛星の打ち上げ環境が好転したと思
った局面で、プロトンの打ち上げ失敗が続
いておりショックを受けている。世界的に
見て、ニューサット社の失敗による貸し渋
りの影響も無視できない」と、やや苦渋に
満ちた表情で語った。一方、同 CEO は、
「 アジアは、まだ全般的には SDTV から
HDTV への移行期間にあたるが、ウルトラ
写真 3 「アジアパシフィック地域のリーダーシッ
プ・ラウンドテーブル」には、
4 社の代表が出席した。
向かって右端が、スカパー JSAT の赤尾執行役員。
写真 4 対談には、ミャンマーのウ・タウン・ティ
ン通信省副大臣が登壇し、5 年以内に衛星を調達し
て打ち上げる同国の方針を表明した。
アジアサットとしての戦略を決める」と、
の例として取り上げたのがインドネシアに
ライト(Kacific Satellite)とレオサット
話題をテレビに変えてやや前向きな姿勢を
おける ATM で、
「現在、約 10,000 局の
(Leo Sat)
、衛星メーカーの SS/Loral が
示した。
VSAT が、C バンドで稼働している」と語
出席した。カシフィック・サテライトもレ
APT サテライト社のファン・バオゾン副
った。この他、
「ベトナムやタイでは、災害
オサットもベンチャー企業で、どのような
社長は、
「ニューサットとプロトンの問題に
対策、遠隔教育、遠隔診断などにも C バン
発言が飛び出すのか期待された。 冒頭で
加えて、アジアとアフリカでは、中継器の
ドが使われており社会インフラの生命線を
触れたファイナンスに関しては、両社の意
リース価格が下落傾向にあり心配だ」と述
形成している」と付け加えていた。
見が大きく分かれ、カシフィック・サテラ
べて 3 重苦の到来を示唆した。これに対す
この後、ミャンマーのウ・タウン・ティ
イトは「米輸出入銀行の今後の出方を非常
る対応策として、同副社長は、
「単なる中継
ン(U Thaung Tin)通信省副大臣を招い
に心配している」と語った。一方、レオサ
器のリースではなく、トータル・マネージ
て対談が行われた。この席で同副大臣は、
ットは、
「貸し渋りが起こるとしても一時的
メントまで踏み込んだ付加価値付きのビジ
衛星を自国で運用していない国にミャンマ
なもので、中長期的には引き続き支援が行
ネスをやる必要がある」と訴えた。具体的
ーが入っていることに触れ「5 年以内に衛
われるだろう」という楽観的な見通しを述
には、同社の中継器を借りているフィリピ
星を調達して打ち上げる方針である」と宣
べていた。なお、カシフィック・サテライ
ンの放送局と総括的な管理・運用契約を結
言した。さらに、具体的な一歩を踏み出す
トは、現在、南太平洋諸国の住人向けに Ka
んだことを公表した。
ために、
「フランスのサテル・コンシェー
バンドによる大容量ハイスループットサテ
スカパー JSAT の赤尾光敏執行役員は、
ル・インターナショナル(Satel Conseil
ライトのサービスを目論んでおり、レオサ
予想通り「3 月 1 日から 2 チャンネルの
International)社をコンサルタントとして
ットは、5 カ所の低周回軌道に 80 機の小
4K 放送を開始した」と口火を切り「4K テ
雇った」と公表した。ミャンマーにおける
型 Ka バンド衛星を打ち上げる構想を発表
レビの価格低下による視聴者増と中継器の
特殊な事情としては、全世帯の 70% が遠
している。
需要増を期待している」と続けた。また、
隔地に住んでおり、約 6 万の村々を衛星で
コンテンツの輸出に関して、
「インドネシア
ネットワークする必要があるという。この
とミャンマーに続いて、シンガポールとカ
ため同国として、最も効率的な衛星技術を
ンボジャ市場を開拓中」と語った。
開発する意欲を表明していた。また、衛星
HD の登場による中継器の需要増にも注目
している。まず、日本、韓国、香港での普
及がどのようなペースで進むかを見極めて、
Naoakira Kamiya
衛星システム総研 代表
メディア・ジャーナリスト
テレビについて
午後に行われた 2 回目の基調講演には、
は、 現 在 ス カ イ
ユーテルサット社のミシェル・デュ・ロー
ネットが海外の衛
ゼン CEO が登壇した。同 CEO は、スペ
星を使って放送を
ングラー CEO があまり触れなかった衛星
行っているのが現
に割り当てられている貴重な周波数の削減
状とのことであっ
危機について熱弁をふるった。具体的には、
た。
今 年 の 世 界 無 線 通 信 会 議(WRC-2015)
で携帯電話業界とせめぎ合いが予想される
引き続いて行わ
C バンド周波数帯域を取り上げ、
「世界的に
れた「ゲーム・チ
見て、1 億 5000 万人に影響を及ぼす超
ェンジャー」のセ
重要な帯域であり、衛星通信業界として絶
ッションには、カ
対に譲歩できない」と強調した。その一つ
シフィック・サテ
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FDI・2015・10