第1章 スイッチング電源の基礎 1.1 はじめに 第 1 章では、スイッチング電源の基礎を学習する。スイッチング電源では PWM 動作によりトランジスタを ON-OFF 制御して出力電圧や出力電流を安定化する。ここでは、最も基本的な降圧コンバータを取り上げ、 PWM パルスの発生方法や回路の動作と制御方法の概要を理解する。また、回路を構成する部品の役割も 理解する。最後に、本書で使用する回路記号及び回路の電圧や電流とその記号を示し、記号の意味合い を理解する。尚、本章は電源に関して既に知識を持っている読者は飛ばして、第 2 章から始めて差し支え ない。また、回路記号の意味合いがわからなくなったときは、本章を参照されたい。 1.2 降圧コンバータ回路 図 1.1 は、スイッチング電源で基本となる降圧コンバータ回路である。この回路は入力コンデンサ Ci、トラ ンジスタ Q、ダイオード D、チョークコイル L、出力コンデンサ Co の 5 点の部で構成する。 図 1.1 降圧コンバータ回路 1.3 降圧コンバータの基本動作 図 1.2 PWM パルスの作り方 13 図 1.1 の回路では、トランジスタは一定周期で ON-OFF を繰り返す。そこで、トランジスタの ON 時間を ton、 トランジスタの OFF 時間を toff とする。スイッチング周期 Ts はトランジスタの ON 時間と OFF 時間の和であ るから式(1.1)となる。また、スイッチング周波数 fs はスイッチング周期の逆数であるので、式(1.2)である。一 般的にこのスイッチング周波数は人間の耳に聞こえな 20kHz 以上の周波数に設定する。 Ts = ton + toff (1.1) fs = 1 Ts (1.2) トランジスタの ON 時間は図 1.2 で示すように、制御回路において、電圧信号と三角波またはノコギリ波を コンパレータに入力し、電圧レベル比較によりパルスに変換する。この ton のパルスをトランジスタに与えて コンバータを動作させる。 図 1.3 に降圧コンバータ各部の電圧と電流を示す。トランジスタが ON したときは、入力電源と入力コンデ ンサ Ci からトランジスタ Q を介してチョークコイル L に電流が流れ、更に出力コンデンサ Co と負荷 R に電 流が流れる。トランジスタが OFF したとき、チョークコイルは電流を流し続けようとする性質があるため、トラン ジスタからダイオードに転流して、電流を流し続ける。その結果、チョークコイルにはトランジスタが ON した ときの電流とトランジスタが OFF しダイオードに転流したダイオード電流の両方の電流が交互に流れる。 また、トランジスタが ON すると、チョークコイルには増加する電流が流れ、トランジスタが OFF すると減少 する電流が流れる。この電流変化をチョークコイルのリプル電流という。このリプル電流の大きさを ∆IL とす る。 図 1.3 降圧コンバータの各部の電圧・電流波形 14 出力には負荷が接続されており、負荷抵抗を R とすると Io = Vo / R の負荷電流が流れる。チョークコイル 電流 iL には、負荷電流 Io とトランジスタが ON-OFF したことにより発生したリプル電流を合成した電流が流 れる。従って、式(1.3)のように出力コンデンサにはチョークコイル電流から負荷電流を引き算したリプル電 流 ico が流れるので、チョークコイルを流れるリプル電流が出力コンデンサに流れることになる。 (1.3) ico = i − Io L その結果、出力コンデンサに内部インピーダンスがあると、リプル電流と内部インピーダンスを掛け算した リプル電圧 ∆Vo が発生する。また、リプル電流により出力コンデンサは充放電されるので、充放電によりコン デンサの電圧が変化しリプル電圧が発生する。 降圧コンバータでは、トランジスタが ON-OFF を繰り返すと、チョークコイル L の入力(ダイオード D の両 端)にスイッチング電圧が発生する。図 1.4 のようにトランジスタが ON したとき入力電圧 Vi が印加し、トラン ジスタが OFF するとダイオードが導通して 0V になる。その結果、LC フィルタに入力した電圧は平均化され て出力電圧 Vo が得られる。トランジスタの ON 時間が大きくなると出力電圧も大きくなり、トランジスタの ON 時間を小さくすると出力電圧も小さくなる。このように、トランジスタの ON 時間に比例して出力電圧は変わる。 従って、トランジスタの ON 時間を変化させることで出力電圧の調整ができる。 図 1.4 コンバータ回路のスイッチングによる電圧変化と出力電圧 次に、トランジスタの ON 時間と周期との比をトランジスタ ON の時比率 Ds とし、トランジスタの OFF 時間 と周期の比をトランジスタ OFF の時比率 Ds’とする。このように、時比率 Ds と Ds’を使用して表すと、スイッチ ング時間を含めないで電圧・電流を表すことができ、動作解析がやりやすくなる。以上の結果、トランジスタ ON の時間 ton と時比率 Ds の関係は式(1.3)で、トランジスタ OFF の時間 toff と時比率 Ds’の関係は式(1.4) で表すことができる。ここで、式(1.1)に式(1.3)と式(1.4)を代入すると式(1.5)の関係が成り立つ。 (1.3) ton = D sT s toff = Ds'Ts (1.4) (1.5) D s + D s' = 1 時比率 Ds を適用すると、入力電圧 Vi と出力電圧 Vo の関係は式(1.6)で示される。尚、この関係は第 4 章の降圧コンバータの回路設計法で詳細に解説する。この式により、降圧コンバータの出力電圧は確定す る。 (1.6) V o = D sV i 15
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