居住用財産の3000万円特別控除

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3,000 万円控除
居住用財産(不動産)を譲渡して得た譲渡所得から
3,000 万円を控除する特例のことです。
居住用財産の保有期間を問わず適用できます。譲渡益が
3,000 万円に満たない場合は、その金額までの控除となり、
税額は 0 になります。譲渡益が 3,000 万円を超える場合
には、超える金額に対して、短期譲渡所得又は長期譲渡所
得などの税率を適用することになります。
なお、この特例は前年、前々年に 3,000 万円控除や居
住用の買換え特例、居住用財産の買換えの場合の譲渡損失
の損益通算・繰越控除の特例、特定居住用財産の譲渡損失
の損益通算・繰越控除の特例を受けていないことが適用の
前提条件になります。3,000 万円控除は 3 年に一度しか
適用できない仕組みです。
ただし、10 年超保有の居住用不動産に対する軽減税率
は、重複して適用が可能です。
〇 手続き
この特例は、マイホームを譲渡した翌年 2 月 16 日から
3 月 15 日までの確定申告時期に、この特例を受ける旨の
申告をする必要があります。
特に 3,000 万円控除を適用して計算した結果、税額が
0になったとしても申告することが適用を認めてもらえる
前提条件になっています。うっかり忘れたりして申告をし
ないと、この特例の適用は認めてくれませんので、十分注
意が必要です。申告に当たっては、売却した居住用不動産
を管轄する住民票の写し等が必要になります。
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注意点
①空き家にした後、
譲渡する場合
マイホームが実際に「居住用財産」かどうかは、実態で
③居住用財産の家屋を取り壊して
譲渡する場合
マイホームを取り壊した場合には、1 年以内に売買契約
判断されます。たとえば、これから入所する老人ホームが
をすることを条件に、住まなくなってから 3 年目の年末
ームの方は空き家ですが、いつでも帰ることができるよう
用の特例が利用できます。
終身利用できる契約で生活の場となっている一方、マイホ
にしてあったとしても、実態として生活していないのであ
れば、税務署は「居住用財産」と認めてくれません。
ただし、病気の転地療法などで一時的に空き家になって
おり、病気が治れば必ず戻ってくると認められるケースで
までに引渡しをすれば、マイホームの敷地の売却でも居住
ただし、空家の場合と異なり、この敷地は人に貸すと居
住用の特例が適用できなくなります。十分注意してくださ
い。
それから、買換え特例や軽減税率を適用する場合にはマ
は、マイホームを空けたとしても「居住用財産」と認めら
イホームを取り壊した年の 1 月 1 日時点で、保有期間が
なお、居住しなくなってから、3 年目の年末を経過して
繰越控除や特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越
れます。
から、マイホームを売却することになると、もはや 3,000
万円控除などの税務上、居住用の特例を利用することはで
きません。
したがって、マイホームを空き家にする場合には、先々
手放す場合を考えておくことが必要です。
②人に貸していた居住用財産を
譲渡する場合
マイホームは、人に貸したとしても所有者が住まなくな
ってから 3 年目の年末の経過後に譲渡すると、譲渡所得
税の特例である「3,000 万円特別控除」をはじめ、居住用
の不動産を売った場合の特例が利用できなくなります。逆
にそのときまでに売れば居住用の特例が適用できます。こ
のため、契約上立退き問題が起こらないようにするととも
10 年超であること、買換えの場合の譲渡損失の損益通算・
控除を適用する場合には、マイホームを取り壊した年の 1
月 1 日時点で保有期間が 5 年超であることが条件になり
ます。この点もご注意ください。
④相続で所有者になった
マイホームの譲渡
たとえば夫がなくなったため、妻が夫婦で以前に住んで
いた夫名義の住宅で、現在は空き屋になっている住宅を譲
渡する場合、「居住用財産」の特例は適用できません。「居
住用財産」かどうかは所有者として居住していることが前
提だからです。保有期間は相続により取得の日を引き継ぎ
ますので、長期保有となる可能性があるので、税率は長期
の税率となる可能性があります。
に、居住用の不動産を売った場合の譲渡所得税の特例が利
用できるように借家契約を 2 年から 3 年の「定期借家契約」
で締結するなど工夫が必要でしょう。
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〇 10年超保有の場合の軽減税率との併用
10 年超保有の場合の軽減税率は、売却した年の 1 月 1
日時点の保有期間が 10 年を超えるマイホームの譲渡益の
うち 6,000 万円までについては所得税 10%、住民税 4%
の合計 14%の税率が適用できるというものです。6,000
万円を超える譲渡益に対しては所得税・住民税合わせて
20%の税率が適用されます。(復興特別所得税もかかりま
す。)
3,000 万円控除はこの軽減税率と重複して適用できる
ため、売却時の収入金額から、取得費と譲渡費用を控除し
て求めた譲渡所得から 3,000 万円を控除でき、課税対象
となる譲渡益自体を少なくすることができます。
C
B
}
9,000万円超
所得税15%
20%
住民税 5%
6,000万円
所得税10%
14%
住民税 4%
(※20.315%)
}
6,000万円まで
A
3,000万円
非課税
A. 譲渡益3,000万円まで
非課税
所得税10%
14%
住民税 4%
(※14.21%)
3,000万円
非課税
B.譲渡益9,000万円まで
3,000万円を超える部分に
計14%課税
(※14.21%)
(※)平成25年から平成49年まで2.1%の復興特別所得税(国税)がかかります。
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}
(※14.21%)
3,000万円
非課税
C.譲渡益9,000万円超
Bに加え、さらに 9,00 0万 円を
超える部分に
計20%課税
(※20.315%)
3,000 万円控除
10年を超えて所有する自宅の売却の税額計算例
30年前に3, 00 0万円で買った自宅を1億8, 00 0万円で売却
したときの、譲渡所得税・住民税を計算してみましょう。
●所有期間=30 年
所有期間30 年
●取得費=3,000 万円(※1)
●売却代金=1億8,000
●譲渡益=1億5,000
万円(※2)
万円
自宅
(※ 1):取得費には購入代金のほか、仲介手数料、改良費などを含みますが、ここでは
計算を簡略化するために省いて考えます。また、建物の減価償却も考えに入れ
ないことにします。
(※ 2):譲渡に要した仲介手数 料なども譲渡費用として売却代金から差し引けますが、
取得費と同じくここでは考えに入れません。
1 まず、譲渡益から3, 00 0万円特別控除を差し引いて課税 譲渡所得を出します。
(譲渡益)
(特別控除額)
課税譲渡所得=1億5 ,00 0万円−3, 00 0万円=1億2, 00 0万円
2 課税譲渡所得のうち、6, 00 0 万円以下の部分についての税額を計算します。
●この部分に対する税率は、所得税10%(復興特別所得税込みで10.21%)、住民税4%です。
6, 00 0万円に対する所得税 =6, 00 0万円×10.21% =612.6万円…①
6, 00 0万円に対する住民税 =6, 00 0万円×4%
= 240万円 ……②
3 課税譲渡所得のうち、6, 00 0万円を超え る部分についての税額を計算します。
●課税譲渡所得のうち6, 00 0万円を超える部 分の額は…
(課税譲渡所得)
1億 2, 00 0万円−6, 00 0万円=6, 00 0万円
●この部分に対する税率は、所得税15%(復興特別所得税込みで1 5. 315%)、住民税5%です。
6, 00 0万円に対する所得税 =6, 00 0万円×1 5. 315%=918.9万円…③
6, 00 0万円に対する住民税 =6, 00 0万円×5%
= 300万円 ……④
4 合計税額を出します。
①
③
所得税=6 12.6万 円+9 18.9万 円=1,531.5万円…⑤
②
住民税= 2 40万円+
④
3 00万 円=54 0万円 ………⑥
⑤
譲渡に際しての税額合計=1 ,531.5万円+540
⑥
万円=2,071.5万円
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