小児頭部CT検査時の寝台位置による水晶体被ばく低減効果の検討

○平成26年度奨励研究
「小児頭部CT検査時の寝台位置による水晶体被ばく低減効果の検討」
放射線技術科学科
助教
五反田
留見
1.研究目的
国際放射線防護委員会(ICRP)は2011年4月に、水晶体の組織等価線量に関する線量限度を年間150 mSv
から5年平均20 mSv・単一年度に50 mSvを超えないようにするべきとの声明を発表した。さらに、疫学
調査の結果より水晶体の閾線量を5 Gyから0.5 Gyへと引き下げている。現在、医療被曝による水晶体へ
の被曝を低減する事が重要な課題となっている。
水晶体への被曝線量が最も危惧されている検査の1つに頭部X線CT検査がある。特に、小児に対し
ては、放射線感受性が高い、検査後の余命年数が長い事などから被曝線量を可能な限り低減する(ALARA
の原則)事が求められる。X線CT検査は人体に360度方向からX線を照射するため、人体のサイズ・形
状・撮影条件(管電圧・管電流・pitchなど)・寝台高さ位置などにより被ばく線量が複雑に変化する。
前実験において、寝台高さ位置を変更するだけで、水晶体被曝線量が低減可能であることが示唆され
た。しかし、寝台高さ位置の変更は被写体内の線量分布を変化させるため、逆にその他の部分で被曝線
量が増加することが問題となる。
本研究では、CT被曝線量分布を詳細に測定するために開発し特許取得(特許第4701353号)した模擬人
体(ファントム)とフィルム型線量計を用いて、ファントムサイズと寝台高さ位置を変更した際の水晶体
と小脳部の被曝線量変化を測定し、寝台高さ位置による水晶体被曝低減効果の検討をおこなう。
2.研究方法
本研究で用いたファントム(SRCT-P)は軟性アクリルシートを巻いて作成するため、ファントム中心部
の形状により任意の形状に設定でき、また巻き込むシートの長さを調節することでサイズも任意に設定
可能である。SRCT-Pの大きさは、未熟児頭部(φ6cm)、新生児頭部(φ8 cm)、乳幼児頭部(φ10 cm)、小
児頭部(φ12 cm)の円柱型とした。撮影条件は、管電圧120 kV、管電流250 mA、撮影時間1.0 sec/rot、ス
ライス厚10 mm、照射範囲90 mm一定とし、寝台高さ位置をガントリ中心から上昇させた時(表1)の左右
水晶体と線量が増加すると考えられる小脳部のZ軸方向吸収線量分布を、フィルム型線量計
(GAFCHROMIC XR-QA2 film; XR-QA2 film) を用いて測定した。
Fig.2. Schematic arrangement of the CT dose dosimetry.
Fig. 1. The CT dose measurement position
3.研究結果
表1
SRCT-P
Size [cm]
6
寝台高さ移動距離
Rising Distance [cm]
0
1.5
3.0
4.5
6.0
全てのファントムサイズにおいて、寝台高さを上昇
8
0
2.0
4.0
6.0
7.0
させるほど水晶体の吸収線量は低下した。小脳部の吸
10
0
2.5
5.0
6.0
6.7
収線量はファントムサイズによって様々に変化した
が、全てのファントムサイズで最も線量が増加したの
12
0
3.0
4.0
5.0
6.0
は、小脳部がガントリ中心に位置する時であった。フ
ァントムがガントリ中心に位置した時の各測定位置での最大吸収線量を100%とした時の、
φ6 cm(a)とφ
8 cm(b)ファントムの寝台高さ移動による吸収線量比の変化を図3に示す。
Fig. 3. Absorbed dose ratio. [a] φ6 cm SRCT-P, [b] φ8 cm SRCT-P,
4.考察(結論)
本研究結果より、小児頭部CT検査において寝台の高さを上げることにより水晶体被曝低減効果がある
ことが示唆された。単純に水晶体被曝低減のみを目的とするならば可能な限り寝台高さを上昇させるべ
きである。しかし、小脳部の被曝線量は小脳部がガントリ中心に位置する際に最も増加するため、その
ことを考慮して寝台高さを設定する必要がある。さらに、小脳部の被曝線量増加量については、ファン
トムサイズ、直接線量、透過線量、ガントリ内の線量分布など様々な要因が関与しているため、より最
適な寝台高さ位置を検討するにはこれらの関係性を明らかにする必要がある。またCT装置の画像再構成
方法によっては画質への影響も考慮する必要がある。
5.成果の発表(学会・論文等,予定を含む)
1. 五反田留見、太田晃輔、佐藤斉、田淵昭彦、五反田龍宏、勝田稔三、「小児頭部CT検査時の寝台位
置による被ばく線量評価」、第70回日本放射線技術学会総会学術大会(横浜):2014年4月
2. Gotanda R, Takeda Y, Gotanda T, Ota K, Akagawa T, Tabuchi A, KuwanoT, Yatake H, Yabunaka K, Sato H,
Katsuda T, ” Evaluation of dose distribution according to patient setup errors in pediatric head CT examination:
a phantom study”, 6th European Conference of the International Federation for Medical and Biological
Engineering(ドブロブニク):2014年9月,IFMBE Vol. 45: 224-227, 2015.
3. 野口和希、五反田留見、佐藤斉、佐藤慧一、白山敬洋、中島絵梨華、勝田稔三、「小児頭部CT検査
時の寝台位置による水晶体被ばく低減効果の検討」、第42回日本放射線技術学会秋季学術大会(札幌):
2014年10月
4. 五反田留見、佐藤斉、野口和希、中島絵梨華、佐藤慧一、白山敬洋、勝田稔三、「小児頭部CT検査
時の寝台高さによる水晶体被ばく低減効果の検討」、第33回茨城県診療放射線技師学術大会(阿見):2015
年3月
5. 野口和希、五反田留見、佐藤斉、佐藤慧一、白山敬洋、中島絵梨華、勝田稔三、「小児頭部CT検査
時の寝台位置による水晶体被ばく低減効果の検討」、第71回日本放射線技術学会総会学術大会(横浜):
2015年4月
6. Gotanda R, Katsuda T, Gotanda T, Noguchi K, Nakajima E, Akagawa T, Tanki N, Tabuchi A, KuwanoT,
Shimono T, Kawaji Y, Sato H, Takeda Y,” Evaluation of the eye lens dose according to patient setup errors in
pediatric head CT examination”, World Congress on Medical Physics and Biomedical Engineering(トロント):
2015年6月
6.参考文献
1. FDA Public Health Notification. Reducing Radiation Risk from Computed Tomography for Pediatric and Small
Adult Patients. at
http://www.fda.gov/medicaldevices/safety/alertsandnotices/publichealthnotifications/ucm062185.htm
2. Gotanda, R., Takeda, Y, Gotanda, T., Ota, K., Akagawa, T., Tabuchi, A., Kuwano, T., Yatake, H., Yabunaka,
K., Sato, H. and Katsuda, T., Evaluation of the dose distribution according to patient setup errors in pediatric head
CT examination: phantomstudy, International Fedration Medical and Biological Engineering Proceeding,
45:224-227, 2015.
3. Gotanda, R., Katsuda, T., Gotanda, T., Eguchi, M., Takewa, S., Tabuchi, A. and Yatake, H., Dose distribution
in pediatric CT head examination using a new phantom with radiochromic film, Australas Phys Eng Sci Med.,
31:339-344, 2008.
4. ASHLAND web site. Gafchromic™ radiology films. at
http://www.ashland.com/products/gafchromic-radiology-films