らせんのかたち

らせんのかたち
このまとめは形の科学会などで発表した内容を元手に自然界での形の入り口を何にするか,それをど
う展開するから始まった。それらの“もやもや”を繋いで具体化するために二村らの開発した問題分析
図 PAD などを利用して下絵を描き,それに思いつきを継ぎ足す方法もとった。そこには,科学こそ次
時代を生き抜く指針という思い,誰でも科学の発展に寄与できるという思いがあり,そこにわかってい
ること,調べること,検討すること,それらを繋いで形にしていった。順番は,まとまりの論理の流れ
が変わったために途中で大きく変わった。
ヒマワリの連なりらせんから始まったこの「ひまわりの手紙」はパイナップルらせん,開度,らせん
葉序をたどってフィボナッチ数,エントロピーへと続き,そこから複雑さを測る,画像表示のモアレ縞
対策,任意サンプリング,視認性の改善,そして数値積分へと応用された。それらのなぞを明らかにす
る方法は事象からフィボナッチ数の本質に向かう科学的掘り下げであり,本質の結果が見えた段階から
からは具体的対象の応用に向かった。
“かたちにする”とは対象をまとめること,“らせんのかたちにする”ことは対象を数量化してらせ
んの概念でひとくくりにすることになる。その概念をひとくくりにするまとめの過程で不足している点,
解決すべき問題点が明確になる。その問題点の解決過程がなぞの解明であり,発見に繋がる。ここにま
とめの効用がある。ここでの一定の概念とは連なりらせんを通してフィボナッチ数へと横に繋がる,分
析的科学とは異なるかたちの科学としての調和の概念である。まとめるとは“かたちにする”ことであ
り,
“かたち” がまとまるであれば,その科学は“かたち学”とも言える。
人は体験や読書などを通して“わかる”を日々経験している。それらはどんなに小さくても人それぞ
れにとって大切なものであり,その経験が多い人ほど,その時間の濃い人ほど豊かな時間を持てるに違
いない。太田(2003)は渾身の自書の著書欄に宿屋飯盛の狂歌を引用して心境を語っている。「雪の結
晶は天から送られた手紙である」を好んで書いたのは中谷宇吉郎である。このひまわりの手紙を読者に
も経験してもらえれば幸いである。
ここではパインサンプリングの統計的な意味など残した問題も多くあるが,それらは次の機会に譲り
たい。
太田浩一(2007):「マクスウェル理論の基礎」,東京大学出版会,著者欄.
「歌よみは下手こそよけれ
あめつちの動き出してはたまるものかは」 宿屋飯盛
狂歌はその後の太田の「物理学者のいた街」シリーズの著書欄にも続いている.
二村良彦,川合敏雄(1980)
;日立評論,Vol.62,No.12,p25.
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