「地域キャラクター」創作のプロジェクトワーク

「地域キャラクター」創作のプロジェクトワーク
佐伯真代
1.はじめに
日本各地では、地域活性化や観光振興のために、「ゆるキャラ」や「ご当
地キャラ」などと呼ばれるマスコット・キャラクターが、広く活用されてい
ます。全国で作られたキャラクターの総数は、約 3000 にも上ると言われ、
このうち、熊本県の「くまモン」などは、今年 7 月にも来台し、台湾でも知
名度の高い存在です。
このような地域のマスコット・キャラクターを日本語教育に利用する試み
として、筆者は、勤務校で 103 学年度に実施した創意学習計画を含め、中級
前期程度の会話科目で、台湾の各地を代表するキャラクターを作成しプレゼ
ンテーションを行うプロジェクト・ワークを度々実施し、いずれも学習者か
ら好評を得ました。
地域のマスコット・キャラクターを活動の素材として選んだのは、以下の
ような理由によります。
(1)マスコット・キャラクターは若い世代にとって身近なものであるた
めに、学習者が興味を持ちやすい。
(2)キャラクターの創作は、テーマソングや寸劇、マンガあるいはグッ
ズやダンスなどへと発展しやすく、学習者の表現意欲を引き出すために、
発話動機を高める。
(3)キャラクターの創作は、多くの学習者が日常的に、映像メディアや
出版物、電子ゲームなどのサブカルチャーを通して学んでいる日本語表現
のアウトプットに結びつく。
以下では、活動の流れと学習者の作品を紹介し、地域キャラクター創作によ
る学習の効果的な方法について考えます。
2.「地域キャラクター」とは
「ゆるキャラ」は、本来は「ゆるいマスコットキャラクター」の略で、こ
のことばを造った漫画家のみうらじゅんによれば、以下のような 3 条件を持
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つキャラクターです。
①
郷土愛に満ち溢れた強いメッセージ性があること。
②
立ち居振る舞いが不安定かつユニークであること。
③
愛すべき、ゆるさ、を持ち合わせていること。
これを見ると、「ゆるキャラ」とは、「メッセージ性」を持つものであると
されることが注目されます。
地方自治体による「ゆるキャラ」の作成は、2000 年頃から盛んになりまし
たが、商標登録等の問題から、現在では、「ご当地キャラ」等の名称を使用
する団体もあります。ここでは、このように地域活性化のために作られるマ
スコット・キャラクターを「地域キャラクター」と呼ぶことにします。
ところで、近藤(2006)では、よいキャラクターの条件として、「どんな
にうまいイラストでも、世界観やコンセプトといった個性がなければキャラ
クターでははない」として、「コンセプト」「テーマ」「ネーミング」「個
性」「世界観」などの要素が必要であると述べています。つまり、イラスト
などによるキャラクターの視覚的デザインだけではなく、キャラクターの持
つストーリーや世界観の設定こそが、よいキャラクターを作るための重要な
条件なのです。そこで、キャラクターの創作にあたっては、外見のデザイン
だけではなく、「設定」「ネーミング」「テーマ」などについても学習者が
十分にアイディアを練るように配慮しました。
3.実施方法
以下は、プロジェクト・ワークの手順です。103 学年度は 3 年生 36 人のク
ラスを 4 人グループに分け、プレゼンテーションの時間は 1 グループ 8 分程
度でした。
(1)地域キャラクターとは何かを理解する(2 コマ)
①資料読解と内容理解のためのタスクを事前課題として行い、教室でその
結果をチェックし、関連する映像を視聴します。その後、内容について討論
します。
②日本各地の地域キャラクターについて、ペアで調べてワークシートに記
入した後に、会話形式で発表します。
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(2)キャラクター説明に必要な言語表現を学ぶ(1 コマ)
ワークシート記入によりキャラクターの形状や設定地域の特色を説明す
るための言語表現を学びます。
(3)キャラクターのデザイン(1 コマ+課外)
グループに分かれて担当地域を決め、ネーミング、モチーフ、設定、個性、
テーマ、関連グッズなどについて話し合い、企画書とデザイン画を提出しま
す。
(4)プレゼンテーションの方法を学ぶ(2 コマ)
①プレゼンテーションの構成例と必要な言語表現を学びます。
②プレゼンテーションの音声及び非言語表現、スライド作成の注意点など
について、教師が説明します。
(5)プレゼンテーション準備(課外)
各グループで発表原稿及びスライドやグッズなどを創作し、プレゼンテー
ションの練習を行います。
(6)プレゼンテーション実施・振り返りと評価 (2 コマ)
以上の手順を通して、特に(1)-②、(3)の段階で、ワークシートにキ
ャラクターの「ネーミングの由来」「設定」(居住地・年齢・性別・家族・
友人・生い立ち・職業・日常生活など)「外観」(キャラクターの姿形・地
域の動植物や特産物など外観を特徴づけるモチーフ)「個性」(性格・趣味・
好みなど)「テーマ」「関連グッズ」などについての質問項目を設け、学習
者がこれらを手掛かりに想像力を膨らませてキャラクターの世界を構築で
きるようにしました。
4.学習者の作品例
以下は、学習者が作ったキャラクターです。
①「シャイニー丸と塩二」[高雄市鹽埕区]
シャイニー丸と塩二は、高雄市鹽埕区のキャラク
ターです。シャイニー丸は愛河を走る船の形をして
おり、背泳ぎが得意で、ウサギの耳のカチューシャ
をつけています。船内で飲食をする人を嫌います。塩二は、その友人で、名
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前はこの地区の伝統的な産業である製塩業に由来します。船大工兼デザイナ
ーを職業とし、川にポイ捨てする人間を憎みます。2つのキャラクターのテ
ーマは愛河の環境保護と鹽埕区の観光推進です。日本語の漫画や布製のぬい
ぐるみがあります。
②「モクモクちゃん」[雲林県]
モクモクちゃんは、雲林県の「雲」に「黙々とする」
という言葉を合わせたネーミングで、頭は雲の形をし、服
に雲林特産のラッカセイのボタンをつけた女の子です。斗
六に住み、性格は優しく物静かで、誰にでも敬語で話し、
趣味は自分で育てた野菜と話すことです。キャラクターのテーマは、自然に
恵まれのんびり散歩するのに適した純朴な雲林県の生活と、その農産物のア
ピールです。
③「キロロロン」[基隆市]
台湾語の地名「鶏龍」に由来する鶏のキャラクターで、
友人の龍が体に巻き付き、木製の傘にランタンのストラッ
プを下げ、豪華な遊覧船の冠をつけています。清朝に生ま
れ、基隆夜市の食べ物を愛します。夜市や寺廟など基隆の
伝統的風物を守り伝えることがテーマです。
④「タカサちゃん」[高雄市]
タカサちゃんは、高雄の「タカ」と美濃の紙傘の「サ」を
合わせたネーミングです。アフロヘアで、髪には市花のトッ
クリキワタをさし、暑さのため常に紙傘をさしています。高
雄市立動物園に住む台湾ツキノワグマの両親から生まれたの
で、胸にはV字の模様がついています。希少動物のニホンジカとタイワンマ
スを友人とするこのキャラクターのテーマは、高雄市周辺の自然環境と野生
動物の保護です。テーマソングとダンスがあります。
4.まとめ
103 学年度活動終了後のアンケートでは、多くの学習者が「この活動は面
白かった」「創造性を引き出す」と述べました。このプロジェクト・ワーク
では、キャラクターの「テーマ」「ネーミング」「設定」「個性」などを詳し
4
くデザインし、キャラクターの世界を膨らませることで、より豊かな言語的
アウトプットが生まれます。そして、キャラクター作成が歌、マンガ、ダン
ス、グッズ製作などに発展しやすいことが、さらに学習者の創造意欲を高め、
言語表現に結びつくと思われます。
参考文献:
大倉真人(2014)
「「社会人基礎力」育成のための教育プログラム…「ゆるキ
ャラ創作」を題材として」『経営と経済』,94(1-2),pp.41-56
越川靖子(2013)「キャラクターとブランドに関する一考察―地域振興
とゆるキャラ発展のために」『湘北紀要』34 号,pp161-176
近藤健佑(2006)『100 年愛されるキャラクターのつくり方』ゴマブックス
みうらじゅん(2004)『ゆるキャラ大図鑑』扶桑社
佐伯真代老師
學歷:中國文化大學日本研究所碩士、東吳大學日本語文學系博士
現職:致理科技大學應用日語系專任助理教授
專長:日本語學、日語複句
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