1 【Ⅰ.事前勉強】 1. 親子関係 1.1. 実子 (ア) 推定される嫡出子 <親子

【Ⅰ.事前勉強】
文責:中嶋
1.
親子関係
推定される嫡出子
<親子関係>
生来嫡出子
推定されない嫡出子
準正嫡出子
二重の推定が及ぶ場合
嫡出子
実子
認知された非嫡出子
非嫡出子
子
認知されない非嫡出子
普通養子(実方とも親族関係継続)
養子
特別養子(実方との親族関係終了)
1.1.
ア
実子
嫡出子
嫡出子:婚姻関係にある女性が夫によって懐胎1し、生まれた子のこと。しかし、左記の定義に当てはまらな
くても嫡出子となることある。
「推定されない嫡出子」
(後述)や準正嫡出子2である。
(ア) 推定される嫡出子
第772条(嫡出の推定)
Ⅰ
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
Ⅱ
婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた
子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
~意義~
①一項は婚姻中にできた子供が、妻と夫との子であることを推定することを定めている。
②二項は具体的に婚姻成立から二百日後、また婚姻の解消もしくは取消しの日から三百日以内に生まれた子に
関して、婚姻中に懐胎したものと推定している。
まず、①は妻が婚姻中に懐胎した場合、それは夫による懐胎だと推定するものである。懐胎した女性が母
であることは懐胎という事実から推定されるが、だれが父であるのかについては明らかでない。そこで、婚姻
1
2
子をみごもること。
簡単にいえば、非嫡出子ではあるが、認知+婚姻によって嫡出子として扱われる子のことである。(後述)
1
関係にある夫を父と推定する規定を定めたのである。
もっとも、懐胎という事実はある段階ではっきりするとしても、どの時点で懐胎したのかがはっきりしない。
そこで、②において懐胎時期のについて一定の推定規定を置いたのである。
<嫡出推定の期間の意味>
300 日
200 日
婚姻
解消
懐胎
出生
夫の子と推定(①)
婚姻期間中に懐胎と推定(②)→①
Ex)❶A と B が婚姻中に C を懐胎した。→C は A と B の嫡出子
...
❷D は E と離婚後 200 日目に F を出産した。→婚姻期間中に懐胎と推定(②)→F は嫡出子と推定
❸G と H は婚姻後 3 ヶ月で離婚した。G はこの離婚から 2 ヶ月後に I を出産した。
→さてさて、I は、嫡出子となれるのでしょうか?(考えてみてね。
)
(イ) 推定が及ばない嫡出子
妻が婚姻中に懐胎した子であっても、妻が夫の子を懐胎すること(性交渉をもつこと)が事実上不可能場合
には、嫡出推定(772 条)が及ばないと解すべきです(後述‐最判昭 44.5.29)。このような場合、規定、推定
自体は及ぶため、親子関係不存在確認の訴え(後述)を提起することで、その子は非嫡出子として扱われるこ
とになります。
Ex)夫が長期間刑務所で服役していた間に妻が懐胎した場合や、長期間海外出張中で日本に帰ってきていなか
った場合など。
(ウ) 推定されない嫡出子
ここにいう、
「推定されない嫡出子」とは 772 条の規定によって嫡出推定がされないが、嫡出子として扱わ
れる子である。
嫡出推定が推定にすぎないとすれば、そうした推定を受けない嫡出子が存在するということも十分考えうる。
しかし、推定のされない嫡出子について、民法は特に規定しておらず、民法が当然に予定していたとは考え
られない。このような「推定されない嫡出子」という概念は、判例によって確立されてきたものである。
Ex)A 女が内縁関係中に懐胎し、婚姻成立後すぐ出生した場合。
(後掲-大連判昭 15.1.23 参照)
2
⇒いわゆる「できちゃった婚」の場合、判例に即して考えると嫡出子とできないかのように思われるが、実
務(戸籍実務)によって、そのような場合にも嫡出子とすることが可能になっている、といえる。
Ex)付き合ってはいたが婚姻しておらず、A 女に子供ができたことを期に婚姻し、婚姻成立後 100 日で主
産した場合。→内縁関係は存在していないが、嫡出子として扱うことが可能である。
イ
非嫡出子
非嫡出子:法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のこと。3つまり、嫡出子概念の補集合である。し
かしながら、民法上「非嫡出子」という文言は使われておらず、条文上は「嫡出でない子」と表
記されている(779 条・790 条 2 項)
。
嫡出子と非嫡出子という区別は、平成 25 年 9 月 4 日までは、相続の法定相続分の違いという点において重
要な意味を持っていた。
900 条(改正前)
四
子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出で
ない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、
父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
⇒「法定相続分を定めた民法の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた部分
(900条4号ただし書前半部分)を削除し,嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等にしました」4
→手元の六法(27 年度版以降)と見比べてみてください‼
なお、先に述べたが、
「非嫡出子」は 779 条・790 条 2 項において「嫡出でない子」と表記されており、い
まだ、非嫡出子と嫡出子を区別することの意味は残されているように思われる。
・非嫡出子であると父又は母が認知することができる(779 条)。
・非嫡出子は、母の氏を称する(790 条 2 項)。
(ア) 認知
認知とは、嫡出でない子との間に法律上の親子関係(非嫡出子の関係)を発生させる制度のことである。
779 条は、嫡出でない子はその父または母が認知することができるとしている。
したがって、父子関係については認知がなければ、法律上の親子関係は発生しない。これに対して、母子関
係については、認知がなくても分娩の事実があれば、親子関係が発生するとされている(最判昭 37.4.27)。つ
まり、通常母は認知をする必要がない。
なお、認知には、①任意認知と②強制認知がある。(本事例との関連性は低いため、詳細については割愛。)
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00143.html
日閲覧)参照
4 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00143.html
日閲覧)
3
法務省 HP 「民法の一部が改正されました」
(平成 27 年 6 月 22
法務省 HP 「民法の一部が改正されました」
(平成 27 年 6 月 22
3
(イ) 準正(789 条)
準正とは、父母の婚姻を原因として、非嫡出子に嫡出子の身分を取得させる制度である。
なお、準正には、①婚姻準正(認知してから婚姻すること。認知→婚姻)と②認知準正(婚姻してから認知
すること。婚姻→認知)
❶認知
+
❷婚姻
=
嫡出子の身分取得
準正の時期については、通説と文言にズレがあるが、この点につては各自勉強してもらいたい。
1.2.
養子
養子とは、養子縁組により人為的に養子の子となったものをいう。
養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する(809 条)
。
養子縁組には、①普通養子縁組と②特別養子縁組の二つがある。この二つはそれぞれ、要件効果等が異なる
ため、個別に見ていく必要がる(が、本報告では割愛)。
①普通養子縁組
普通養子縁組とは、実の血族との親族関係を存続させたまま、養子関係を形成する場合をいう。
②特別養子縁組
特別養子縁組とは、実の血族との親族関係を終了させて、養子関係を形成する場合をいう。
2.
嫡出子とその訴訟類型
<嫡出子・非嫡出子の分類と各種の訴>
嫡出否認の訴え
推定が及ぶ場合
推定される嫡出子
?
○
推定が及ばない場合
嫡出子
推定されない嫡出子
親子関係不存在
確認の訴え
実子
子
二重の推定が及ぶ場合
父を定めることを
目的とする訴え
養子
ア
非嫡出子
嫡出否認の訴え
第774条(嫡出の否認)
第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
4
第775条(嫡出否認の訴え)
前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がな
いときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。
第776条(嫡出の承認)
夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。
第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。
民法上、772 条によって、嫡出としての推定の効力が当然に発生する。しかし、実際は、自分の子でない(妻
の不倫相手の子である。)等の事情が生じうる。そこで、嫡出子であることを否認することが規定されている
のである。
通常、「推定」とは反証によって覆せるものであり、その証明方法・立証方法等はさだめられていない。し
かしながら、民法上、「嫡出否認」の方法でしか、嫡出の推定を否定することができないとされている。つま
り、この「推定」は一般にいう推定とは異なるものでると思われる。
さらに、嫡出否認は、ただ「否認」といえばよいだけでなく、その方法は以下のように限定されている。
①否 認 権 者:夫に限定されている(774 条)。
②否 認 の 方 法:子または親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行わなければならない(775 条)
。
③否認権の消滅:否認権者である夫が、子の出生後、
「その嫡出であること」
(父子関係)を承認したときは、
否認権を失う(776 条)。
④行 使 期 間:夫が子の出生を知った時から 1 年以内に提起しなければならない(777 条)
。
イ
親子関係不存在確認の訴え
先に見たように、嫡出推定の及ぶ子については、嫡出否認の訴えによって嫡出についての否認ができる。し
かしながら、推定されない嫡出子については、嫡出子であるか否か、さらには、自分の子であるか否かについ
ては争えないこととなる(嫡出子となれば、必然的に親子関係が証明されるため)。
しかし、この様な場合であっても親子関係を否定したいという場合は存在する。〔Ex)772 条の期間には入
っていないが、母が勝手に夫の嫡出子として届出をしていた場合。〕このような場合について、民法上規定は
ない、そこで判例上確立してきたの、この親子(父子)関係不存在確認訴訟という訴訟類型である。この根拠
は、人事訴訟法 2 条 2 号に求められる。
一方で、この訴訟類型における制限は、嫡出否認の訴えほどの制限がなされておらず、比較的容易に訴訟で
いる要件となっている。
①訴 訟 権 者:確認の利益(訴えの利益)が認められれば訴訟を提起できる。
②期 間 制 限:民 777 条のような制限はない。つまり、いつでも出訴可能。ただし、権利濫用の可能性は残
されている(後掲‐最判平 18.7.7)。
③訴えの相手方:問題とされる親子関係の当事者。一方が提訴する場合は他方を被告、第三者が提訴する場合
は両当事者を被告とする。一方からの場合で、相手方が死亡している場合は検察官を被告と
する(人訴 12 条 3 項)
。第三者の場合、生存している当事者のみを相手方とすればよい(人
訴 12 条 2 項)
。
5
さらに、推定はされるが推定が及ばないような場合〔Ex)772 条の期間には入るが、服役中であった等の場
合〕に、嫡出否認の訴えの方法しかしないとなれば、提訴期間(1 年)が経過すると嫡出であるか否かを争え
なくなってしまう。そこで、判例により、推定が及ばない子に対しても親子関係不存在確認の訴えによって、
嫡出であるか否かを争えることとなっている。
なお、親子関係存在確認訴訟は、調停前置主義(家事 257 条 1 項)の適用を受けるため、まず、調停に付さ
れることが必要となる。ここで調停不成立となれば親子関係不存在確認訴訟となる。
親子関係不存在確認の訴えの適用範囲
⇒推定の及ばない嫡出子・推定されない嫡出子
→つまり、嫡出子が起こす訴訟ではある場合、実際には、推定が及ぶか否かの判断がこの親子関係不存在確
認訴訟によって行われることとなる。また、この推定が及ぶか否かの判断基準について学説の対立がある
ところである(後述)
。
ウ
父を定めることを目的とする訴え(773 条)
再婚禁止期間(733 条)に反して、婚姻し、それによって、子に二重の推定が及ぶこととなった場合に、用
いられるのが、この父を定めることを目的とする訴えである。
再婚禁止期間は 772 条の推定が複数生じることを目的として定められているものであるが、この合憲性等
については議論のあるところである。しかし、本事例とは関係が希薄であるため、各自勉強してもらいたい。
【MEMO】
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